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白銀あくあ、ベリルとファンの48時間が始まる。

 やばい……このままじゃ間に合わない……。

 みんなもそれがわかっているのか、黙々と自分の作業に集中している。

 あの小雛先輩だってふざけてないし、楓ですら……うん、まぁ、できる範囲で頑張ってると思う。

 それに加えて最初の頃は不慣れだったカノンも、今やベテランプレイヤーのようにハイスピードで採取してる。

 って、あれ? カノン、なんか俺より操作が手慣れてない? 気のせいかな?


【こいつwww】

【猫被るのやめました】

【明らかに数千時間やってる奴の動きだよ】

【クラフトの迷いのなさも効率重視の採取のコース取りも全てが完璧すぎるw】

【カノン様! それ以上やるとあくあ様に本当は廃ゲーマーだってバレるぞ!!】

【さっきまで、あくあさまの後ろについて行くだけだったのにwww】

【明らかに間に合わないって気がついて急に必死になりやがったw】

【そもそもこの無理目の企画考えた奴www】

【企画はいいけど、目標を誤った気がする】

【ところでインコどこ行った?】

【あいつなら捗るに金を恵んでもらってから音沙汰がないな】

【捗るに金を恵んでもらうって言葉がやばいなw】

【常に金に困ってそうな捗るにたかってる時点でクソウケるwww】

【よりにもよってあいつに金を借りるとか……】


 あ、そういえばインコ先輩って、まだ帰ってこないかな?

 稼いで来ると言って出て行ったきり帰ってこないけど大丈夫だろうか……。

 そんな事を考えつつも俺は目の前の採掘に集中する。


「あくあ」

「どうしたとあ? それに慎太郎も」


 俺は一旦作業を止めて2人の方へと視線を向ける。


「とりあえず武器と防具は人数分揃えたよ。途中でカノンさん頑張ってくれたおかげでどうにかなった」

「食料と水も自分達だけで自給可能なところまできた。こっちも月街さんが手伝ってくれたおかげで思ったより早く整備できたと思う」


 カノンもアヤナも頑張ったんだな。後でありがとなって言っておこう。

 特にアヤナは小雛先輩の面倒を見るだけじゃなく、慎太郎の手伝いまでして畑や水場の整備をするなんて感心するよ。俺が小雛先輩と一緒に採掘してたら絶対に生き埋めになる予感しかないもの。


【はっきりと使えるやつと使えないやつの差が出てきてるな】

【使える→カノン様、アヤナちゃん、捗る 使えない→小雛ゆかり、ホゲ川、インコ】

【使える奴3人きても3人足手まといがきたから完全にプラマイ0じゃねーか!】

【あのさ、結局最初の3人だけでよかったんじゃ……】

【しっ!】

【草生えるwww】

【ぶっちゃけ最初の3人だけでよかった。あくあ君が採取、とあちゃんがクラフト、黛君が整備、バランスも完璧だったし】

【結局、とあちゃん、慎太郎君、そしてあくあ様という最初の3人が1番使えるという……】

【? なんか忘れてる気がする】

【あれ? なんか忘れてない?】

【お前らわざとだよね?】

【こーれわざとじゃないです。掲示板民の頭のレート帯なんてこんなもんだよ】


 みんなの頑張りもあって、やっとゴールが見えてきた。

 後、必要なのは、海上油田に行くための移動手段か……。これが1番厄介だな。

 陸続きじゃないから、煩悩あくあ号も役に立たないし、船か空から侵入できるヘリコプターでもないと厳しい。

 さて、どうするべきか。そんな事を考えていたら上空からプロペラが回転する音が聞こえてきた。


「なんだなんだ!?」


 みんなが一斉に空を見上げる。

 すると遠くから現れたヘリコプターが徐々にこちらへと近づいてきた。


「お前ら、待たせたな!!」

「インコさん!?」


 着陸したヘリコプターからインコさんが降りてくる。

 若干ドヤ顔に見えるのは俺の気のせいだろうか。


「どうしたんですかそれ!?」

「……当たったんや」

「当たった?」

「捗るさんから恵んでもらったあの屑鉄で、倍々の倍で連戦連勝よ!!」


 インコさんの話を聞くと、握りしめた屑鉄を持って街にギャンブルに行ったらしい。

 そこで持っていた屑鉄を全て溶かしてしまったけど、通りかかったラーメン捗るさんから屑鉄を恵んでもらってルーレットを回し続けたところ連勝に連勝を重ねたのだとか……。

 インコさんはラーメン捗るさんにお礼を述べると、恵んでもらった屑鉄の10倍の額を返済する。


【インコ、あの絶望状態からよくリカバリーできたな】

【ちょっと待って、これってもしかして実は捗るが豪運なだけじゃ……】

【あり得る。捗るって悪運も強そうだし】

【つまり捗るが強運と】

【一般リスナーとして、ここに参加してる時点で豪運だろ】

【確かにwwwww】

【私、捗るのいいところは、金がないからといって自暴自棄になったりせず、ちゃんと働いて稼ぎにいくところだと思うわ】

【それはある】

【根はいいやつなんだよ。ピュア】

【捗るがピュア……?】

【まさかの捗る、清純派説きました?】

【いや、ある意味で性欲に忠実なのはピュアだろw】

【ピュアとはwwwww】

【急にピュアという文字が汚いものに見えてきたぜ!】

【性じゅんジュワー派、了解】


 ともかくこれで移動手段が揃った。と言うことは……。


「みんな、準備は整っとるようやな! 海上油田、行くで!!」

「「「「「おおー!」」」」」

「よっしゃ! みんな30秒で準備し!」


 俺たちは一旦拠点の中に入ると用意された装備に着替える。

 ゴールが見えてきたことで、心なしかみんなの声も弾んでるような気がした。

 黙々と伐採と掘削してた時なんて、みんな虚な目をしてたもんな。

 再度集合場所に戻ると、なぜか運転席の側で小雛先輩のキャラクターが踏ん反り返っていた。


「運転は私に任せなさい!!」

「小雛先輩」

「何?」

「そういうのはもういいですから。ね? みんなもう疲れてるんだから、大人しくしましょう」

「ちょ! 押すなバカ。と言うかどこ押してんのよ!」


 小雛先輩の操縦なんて明らかに嫌な予感しかしない。後、押すときにおっぱいに触れたのは不可抗力です。

 ちなみに俺の隣では、アヤナも同じ事を思ったのか無言で小雛先輩のキャラを押して運転席から離そうとしていた。


「インコ先輩、今のうちに」

「あぁ、まかしとき!」

「ちょっと! もう! わかったわよ!」


 ふぅ……なんとか大人しく言う事を聞いてくれた。

 やるとは思っていたけど、本当にやるとは流石は小雛先輩である。


「慎太郎君、副操縦席に座り、レーダー頼むで!」

「わかりました」

「ちょ、楓先輩、押さないでくださいよ」

「ご、ごめん。でも狭いから」

「ちょっと! これ明らかに定員オーバーでしょ!!」

「小雛先輩、もっと詰めてください。端の森川さんが落ちますよ」

[ラーメン捗る:ぐへへ]


 ヘリが思ったより小さいな。

 現実世界なら明らかに過積載で法令違反で摘発されてもおかしくない案件だ。


【捗る、肌が触れたからって変な事を呟くな!】

【ちなみに触れたのはカノン様です】

【捗るとカノンが戯れたところで誰にも需要なんてないだろ】

【さっき、あー様のキャラの首の動きが異様に早かったぞ】

【良かったな。1人にはものすごく需要があったぞ】

【そんなゲーム上の偽物じゃなくて私のを見てください】

【なんかコメント削除が働いてないけど大丈夫か?】

【なんか捗る登場以降、運営が混乱してるっぽいな】

【本当ベリルって人材足りてないよな】

【みんな少しは自分達の方で自重しようぜ】

【OK!】

【後でアーカイブ見たい人もいるだろうし、他のファンの子達のためにもね】

【んだんだ】

【ベリルファンほどファン同士が仲良しなところもない】

【だって全員、あくあ君全肯定派しかいないもん】

【それはいえてる】

【やっぱり、あくあ様は神だった!? あーくあ!】

【ワーカーホリック:イテテ……お腹が……】

【ワーカーホリックさん大丈夫? 病院行った方がいいよ】

【ワーカーホリックネキ、いつも胃を痛めてるな】


 ぎゅうぎゅう詰めになったヘリの後部はカオス状態だ。


「とあ、こっちのスペース空いてるぞ」

「ありがとう、あくあ」


 俺は壁際のとあを守るように、みんなとの間に入る。

 とあは昔、女の子に襲われた事があるからな。

 いくらゲームの中とはいえ、その時の事を思い出したらいけないし、極力俺たちで守ってあげないといけないと思った。


【あっ、あっ、あっ……】

【猫好きさん:あっ……】

【ふぁ……】

【おい! みんな、しっかりしろ!!】

【今ので何人か持って行かれたな】

【唐突にされると困ります】

【事前に、嫌な予感がしてアクトア飲んでてよかった】

【今日だけでもう5−6回お薬飲んでるけど、もう一回行っておきます】

【あー、これは週明けの病院が、お薬切れ大量発生で大変な事になりそう】

【総理も言ってたけど、アクトアとトアクアはもう普通のドラッグストアで売るようにすべき】

【反対側にいるカノン様のキャラの表情がじわるw】

【カノン様、ざまぁw!】

【イチャテロどころじゃなかったな。ホゲりながら画面見てたら核ミサイルがすごいスピードで飛んできたわ】


 あれ? カノンも楓も小雛先輩もアヤナもラーメン捗るさんも、みんなこっちをジッと見つめてどうしたのかな?

 特にアヤナはどうした? ダメよダメそんなのダメって何がダメなんだろう? 後で本人に直接聞いてみるか。


「みんな、忘れ物はないかー?」

「「「「「はーい」」」」」

「よっしゃ! ほな、行くで!」


 ヘリコプターは空中に浮かぶと目的地に向かって前進する。

 おおおおお! 浮いてる! 速い! これなら目的地到着もそう時間が掛からなさそうだ。


「前方! レーダーに反応あり!!」

「あかん!! NPCのヘリや! 回避するで!!」


 インコさんは敵のヘリとぶつかる前に急速旋回して迂回するような進路を取った。

 その時である。

 1番端っこに立っていた楓のキャラと目があった気がした。


「あっ」


 全ての動きがスローモーションになる。

 ヘリの挙動が傾いた事で、位置がずれた楓が足を滑らせて落下していった。


「機長! 森川さんが落ちました!!」

「はぁ!? なんで落ちたんや!!」


 えっと……なんでと言われたら、なんでなんだろう。

 って、あれ? なんでよく見たら、後ろのハッチが閉まってないの?

 え? 誰も見てなかった?


【ほんまそれwwwww】

【森川、船降りろって言ってたら本当に船から降りたwww】

【×船から降りた ○船から落ちた】

【あいつ、何しにきたんだ?】

【さぁ?】

【森川「足だけ引っ張りにきました!」】

【くっそw】

【シンプルだけど、こういうの好きw】

【誰かはやらかすと思ってたw】

【というかやらかすならホゲ川しかいないと思ってたwww】

【流石は森川、みんなの期待を裏切らないなw】

【お笑いに体張ってるだけの事はある。若手の芸人も見習って欲しい】

【若手の芸人ってw あいつアナウンサーだぞw】

【森川、無茶しやがって!】

【ラーメン捗る:あいつはいいやつだったよ……ていうか、あいつ、本当に何しにきたんだ?】

【捗るwwwww】

【捗る、それ言っちゃダメwww】

【綺麗に落ちて行ってクソワロタw】

【目的地にたどり着く前にもう1人死んでて草www】


 俺は後ろのハッチを閉めると、インコさんに状況を説明する。


「後ろのハッチが開いてました!!」

「なんで誰も後ろのハッチを閉めとらんのや!! 10人もおって1人も後ろのハッチ閉めてないとか普通にあるか!?」


 いや、本当にその通りだと思います。


「機長! 後方からミサイルの発射を確認!!」

「なんやって!?」


 うわあああああああああ!

 インコさんがなんとか回避してくれたから助かったけど、窓の外に横切っていくミサイルが見えた。

 ふぅ、助かった。と思った瞬間、ヘリが大きく揺れる。


「着弾確認!」

「くっ! このまま全速力で振り切るで!!」


 インコさんがスピードを上げて前進する。

 ミサイルが着弾した箇所からは黒い煙が出ていた。


「あわあわわ、どうするのよこれ! あくぽんたん、早くなんとかして!」

「いや、そんなこと言われても……」

「私が修理します!!」


 カノンはトンカチのようなものを持つと、トンテンカン、トンテンカンと壁を板のようなもので補強する。

 そのおかげで黒い煙は収まったけど、修理した箇所を見るとえ? 本当にそれで大丈夫? と、すごく不安になった。


「ふぅ……とりあえずはこれで大丈夫」

「カノン、すごいじゃないか!」

「あ、うん……たまたま、そう、たまたまだから」


 カノン、謙遜しなくたっていいんだよ。

 もしカノンが修理してくれなかったら大変な事になってたかもしれないんだから。


【着弾する前からトンカチの準備してたな】

【もうお前、このゲームのプロだろ】

【悲報、カノン様、ただのプロゲーマーだった】

【こーれ、1000時間どころじゃないです。もっとやりこんでます】

【流石ソロでスターズの最大手クランの拠点を1人で破壊しただけの事はある】

【嘘だろw】

【もうこいつ1人でいいんじゃないかな?】

【いや、あの時はソロじゃなくて2人だったよ。確かもう1人って……あっ、なるほど、そういう事か】

【私も思い出した。なるほどね。多分これもう1人助っ人くるぞ】

【当時、このゲームに居たカノンとメアリーって絶対に偽者だと思ってたよ。まさかメアリー様も……】

【いや流石にそれはないでしょw】

【ロケラン担いでたメアリーがあのメアリー様なら、うちの羽生って名前の総理と同じ事してるじゃねーかw】

【ロケランのメアリーに丸太で喧嘩を売った佐藤の事を思い出したわ】

【どうやったらロケランに丸太で勝てるんだよw】

【それが丸太が勝っちゃったんだよなぁ】

【嘘だろw】

【メアリー元女王VS佐藤外務大臣は熱すぎ。まさか両方とも本物はないよな】


 コメント欄が騒がしいけど、さっきから見る余裕が全くない。

 おまけに、なんとか敵のヘリを振り切って目的地へと向かう俺達に、さらなるトラブルが降りかかる。


「機長! 燃料がありません!!」

「はぁ!? なんでや! 満タンにしとったんちゃうんか!?」


 俺達は顔を見合わせると首を左右に振る。

 なるほど、つまり誰も給油の事なんて忘れてたと……そういう事ですね。


「なんでこんなにおって、1人も燃料の事をチェックしてないんや!! あかん。みんないらん荷物投げ捨てろ! 重量が減ればギリギリ持つかもしれん。帰りは油田やから幾らでも燃料あるやろ!」


 インコさんの言う通り、こうなったら航続距離を伸ばすために荷物を減らすしかない。

 俺達はハッチを開けていらない荷物を海上へと放り捨てる。

 とはいえ減らせる荷物なんてそうない。つまり、残された方法はたった一つだけだ。


「小雛先輩……」

「ん? 何よ?」


 俺は小雛先輩に穏やかな表情で微笑みかける。


「お疲れ様でした」

「は?」


 よしっ、まだ気がついてないな。

 俺は小雛先輩のキャラをグイッと押す。


「ちょ、え、あっ」


 そしてそのまま海へと突き落とした。高度が下がっていたこともあり俺は目視で小雛先輩が無事である事を確認する。突き落とした時にほんの少しだけスカッとした気がしたが、きっと気のせいだろう。


「ちょっと何するのよ!」

「先輩、あとは俺達に任せて、泳いで帰ってください!!」

「ちょ! 後で覚えておきなさいよ! このあくぽんたん!!」


 ふぅ……我ながらいい仕事したぜ。


【NF】

【ナイスファイト】

【これはGG】

【素晴らしい判断と決断力に感服致しました】

【流石はあくあ様、スカッとしたwww】

【迷いなく突き落としたぞw】

【ひでぇw】

【全体チャットでホゲ川がシャァっ! って言っててくそワロタw】

【こればっかりは仕方がないw】

【あくあ様って女の子に優しいのに、小雛先輩だけ扱いが異様に雑だよなwww】

【それを言うなら、あー様にあくぽんたんなんて言えるの小雛ゆかりだけだよw】

【いいなぁ。私も突き落とされたい……】

【ドSなあくあ様にドキドキする】

【ぶっちゃけイチャついているようにしか見えない。これこそイチャテロだろ】

【アヤナちゃんの無言押し、相当溜まってたんやろうなw】

【だってホゲ川の次に余計なことばっかしてたし】

【1番迷惑かけると思ってた捗るが普通に役に立ってるのウケるw】


 おっ、やっと目的地が見えてきたぞ!

 終わりが見えてきたからかほんの一瞬だけ気が緩む。


「今からヘリポートに降りるけど、敵のNPCがすぐに襲ってくるからな。みんな戦闘準備はええか? 言っとくけど、これが最初で最後のチャンスやで」


 俺達は手に武器を取ると無言で頷く。

 そうだ。ここで死んだらまたやり直しになるから、気合を入れ直さなきゃな。


「よっしゃ! 行くで!」

「「「「「おおー!」」」」」


 ヘリポートに到着すると、俺たちは一斉に外に飛び出る。

 すぐに敵が向かってきたが、なんとか遮蔽物に隠れつつ応戦した。

 つっよ。こいつら強すぎでしょ!

 しかし俺達にもインコ先輩がいる。インコ先輩は流石というか、手慣れた手つきで敵を倒しつつ、俺たちのカバーをしたり指示を出してうまく誘導してくれた。

 さらには経験者のとあやラーメン捗るさんが的確な動きを見せ、ここでもカノンが大活躍を見せる。

 おおー! 俺の嫁がかっこいい!


【もう完全に猫被れてないです】

【流石はイレイサーの相棒、デストロイヤーと呼ばれただけの事はある】

【デストロイヤーwwwww】

【なんか急にかっこいい二つ名が出てきたぞw】

【カノン様、どんどん黒歴史出てきてるけど大丈夫?】

【あいつ、この配信のアーカイブ後で見れないだろw】

【イレイサーって何? そんなダサい名前のやついるの?】

【おい、やめとけ!】

【イレイサーの悪口だけはやめておいた方がいい】

【本気でイレイサーに消されるぞ】

【イレイサーにガチでビビってる奴らが多くて草w】

【イレイサー(笑)、デストロイヤー(笑)、きっと同じレート帯だろ】


 よしっ! 後もう一押しだ!!

 そう思った瞬間、空からパラパラとプロペラの音が聞こえてくる。

 もしかして敵の援軍かと思って空を見上げると、ハンググライダーにプロペラがついたものが飛んできた。


「ふはははははは! みんな、待たせたな!! 我が来た!!」


 せっ、先輩!?


【うおおおおおおおおおおおおお!】

【熱い展開きちゃ!】

【くっそ、ドライバーきた!】

【ここで登場するとか天我先輩は流石だよ】

【ていうか天我先輩の事を忘れてた】

【しっ!】

【みんなすごく喜んでるけど、絶対に忘れてたよなw】

【少なくともあくあ君は完全に忘れてた。そういう顔してた】

【ぶっちゃけ最後まで放置される展開かと思いきや】

【ここで助っ人はあちち】


 うおー! いけるぞ!

 予想外だった天我先輩の登場にみんなの士気が高揚する。

 もちろんこの場にいた誰しもが忘れてたなんて、そんな野暮な事は言わない。

 しかし次の瞬間、天我先輩の乗っていたハンググライダーがケーブルのようなものに触れて、制御ができなくなったのか錐揉み回転しながら近くにあったバルブに激突した。


「ふはーはっは! は……」


 ハンググライダーは激突の衝撃か、そのまま空中で爆散する。あぁ、うん……なんとなくそんな気がしてたよ。

 ふぅ……俺達は何も見なかったことにして、それぞれの戦闘に集中する。


【完全に出落ちじゃねーか!】

【何しに来た、今日3人目です】

【くっそ、天我先輩くっそwww】

【綺麗に引っかかって、綺麗に錐揉み回転して、綺麗に爆発してた】

【綺麗な花火だったな】

【花火って儚いよね】

【天我先輩、よく1人で小型とはいえハンググライダー手に入れてここまできたよ】

【天我先輩、また1人であの森の中に復活戻りしてて草www】

【どうしてこうなったw】

【無茶しやがって!!】

【みんな、天我先輩の弔い合戦だ!!】


 その後は順調に戦闘が進み、俺たちは油田を制圧する事に成功した。

 これで終わりかと思ったが、大型のヘリが飛んでくるプロペラの音が聞こえてくる。


「敵の援軍や!」


 嘘だろ……はっきり言って、もう弾もほとんど使い切ったし、こっちはだいぶ疲弊してる。


「みんな、倒した敵から武器とか弾を拾って応戦するんや! とにかく死なずに耐える事だけを考えればええ!」


 インコさんの指示で一箇所に固まった俺たちは、狭い通路を利用して敵を迎え撃つ。

 でもこのままじゃ弾が切れるし明らかにジリ貧だ。

 そんな中、また小さなプロペラの音が聞こえてくる。

 もしかして天我先輩がまた来てくれたのかと思ったが、意外な人の声が聞こえてきて俺たちは驚く。


「みなさん。お待たせしました。あとは私にお任せください」

「こ……桐花マネージャー!?」


 ハンググライダーから飛び降りた琴乃は、近くにいた敵を簡単に屠っていく。

 明らかに持っている武器が違うし、何? その全身びたびたのレザースーツ。エッ……すぎない!?


【イレイザー92キター!】

【92とカノンのコンビで気がつくべきだった】

【嘘だろw】

【悲報、姐さんもガチ勢だった】

【え? イレイザー(笑)って姐さんの事だったの?】

【ちょっとさっきのコメント消してきます】

【すみません。さっきちょっとミスタイプしてたのでコメント消してきます】

【さっきのコメントを慌ててイレイザーしてる奴らがたくさんいて草www】

【運営が削除する前に、自発的にコメント削除とか最高だなw】

【運営のコメント削除が鈍かったのはこのせいか】

【姐さん、これもしかして近くのネカフェからログインしてるのかwww】

【本当お疲れ様です】

【イレイサー92、デストロイヤーカノン、ロケランのメアリー、コマンドー羽生、丸太の佐藤、今思い出すとなかなか香ばしかったな】

【丸太の佐藤だけちょっと様子がおかしくて草w】

【丸太の佐藤が1番狂気染みてるのがウケるw】

【佐藤、外務大臣やめるらしいから、またゲームに戻ってきてよw】


 琴乃はカノンと一緒にあっという間に敵を全部倒す。

 すげぇ……って言うか、これ、最初から琴乃を助っ人で呼んでおけばよかった話な気がした。

 いや、気のせい気のせい、そういう事にしておこう。


「ほんもんや……これがイレイサーとデストロイヤー……」

「イレイサー? デストロイヤー?」

「ンンッ、何でもないで! うちの独り言やから気にせんといて!」


 無事に油田を制圧した俺たちは物資を漁って戦利品をゲットする。

 ふぅ、これであとは帰るだけだ。そう……誰しもがそう思っていたし、無事に時間内に終わる事ができる。そう確信していた。


[ラーメン捗る:ミンナ タイヘン ヘリポート キテ]


 ん? どうしたんだろう。

 俺はラーメン捗るさんのコメントが気になって、慌ててヘリポートへと向かう。

 するとそこにはぺっしゃんこになったヘリの変わり果てた姿があった。


「え? あ? 俺達の乗ってきたヘリは?」

[ラーメン捗る:コレ デス]

「え? なんでこんな事になってるの?」


 ラーメン捗るさんは近くにあった小さな塊の近くでぴょんぴょんと跳ねる。

 何これ?


[ラーメン捗る:テンガ センパイ ハンググライダー ザンガイ]


 あっ……うん、なるほどね。

 つまりあの爆発霧散した後の残骸がこの上に落ちてきてペッシャンコになったと。

 ただでさえボロいのに、ミサイル当てられたりしてボロボロになってたからなぁ。

 仕方ないといえば仕方ない。で……これ、どうやって帰るの?


「私の乗ってきたハンググライダーは海に落ちて、そのまま流されてしまったみたいですね」

「敵の乗ってきたヘリは?」

「あれなら乗組員を降下させた後、またどこかにとんで行ったぞ」

「え? 何? つまりここから帰る手段がないってこと?」


 みんなで顔を見合わせる。


「仕方ない泳ぐか」

「いや、無謀すぎるでしょ」


 とあの言う通りだ。流石にここから泳ぐのは無謀だろうな。


[hogekawa_kaede:小雛ゆかりさんと船を作って、そっちに向かってます]

[小雛ゆかり:あくぽんたんだけは後で覚えてなさいよ!!]


 何の事かな? 俺は素知らぬ振りをして、プラントの1番下に降りて船が乗り降りできる場所へと向かう。


【おい、嘘だろ!?】

【ここにきて小雛先輩とホゲ川が役に立つだって?】

【あいつらの死に意味があっただなんて、この展開は胸熱】

【無駄死にしたのは天我先輩だけだったか……】

【いや、天我先輩のあの事故がなかったら、この2人が役に立つ事はなかったから役に立ったんじゃね?】

【いや、それ纏めて役に立ってないんじゃ?】

【あれ?】

【悲報、アホの連鎖にコメント欄も混乱するwww】

【コメント欄ならいつも混乱してるが?】

【草w】

【最後まで締まらないなぁ】


 しばらく待っていたら、遠くから小さな影がこちらへと近づいてくる。

 おっ、あれじゃないか!? おーい! こっちだぞー!!

 俺はキャラを何度もジャンプさせて、自分達が待っている場所をアピールする。


【ん? なんか様子がおかしくないか?】

【船にしてはやたらと影が小さいような】

【こーれ、嫌な予感がしますwww】


 最初はみんな救援に喜んでいたが、影が近づくにつれ、みんなのキャラの表情が引き攣る。

 え? 船……?


【ホゲ川、それ船ちゃう! ただのイカダや!!】

【只の板切れ2枚きたー!】

【草wwwww】

【そんな気はしてたわw】

【船って聞いて、できるの早いなーと思ってたら納得です】

【船、とは?】

【よりにもよってイカダてw】

【せめてボートは来るだろうと思ってたら斜め下に裏切られた】

【手漕ぎじゃねーか!】

【これ救助しにきたんじゃなくて、救助されにきた方だろwww】

【しかもこれ2人くらいしか乗れないんじゃない?】

【2枚のイカダで最大で4人まで……あれ? 10人いるけど、残りの6人どうするの?】


 2枚のイカダが接岸すると、ドヤ顔の小雛先輩がイカダから降りてきた。


「どうよ! クイーンゆかり号よ!」


 うん、俺は生暖かい目をしながら小雛先輩のキャラの頭を撫でる。

 この時ほど穏やかな感情で小雛先輩に接した時はなかったと思う。

 この人って、本当は残念な人だったんだなと再確認させられた。


【もうなんか色々とひどいwww】

【小雛ゆかりって、すごく幸せそう】

【私も小雛ゆかりさんみたいなメンタルになりたい】

【クイーンゆかり号はすごいわwww】

【イカダでこんなドヤ顔できる人を、私はこの人しか知らない】

【この弟子にして、この師匠ありって見せつけられた気分だわ】

【アヤナちゃんは間違っても、小雛ゆかりみたいにならないでほしい】

【アヤナちゃん、口ポカンになってて可愛い】

【小雛ゆかりのおかげで、アヤナちゃんの可愛さに気がつけた事には感謝してる】


 とりあえず俺達は、なんとか10人でイカダに乗ってみる。

 うーん、やっぱ難しいな。何人かは溢れて落ちていった。


「あかん。とりあえず荷物を数人に集めて、何人かは強制リスポーンした方がええな」

「うん、そうした方がいいかも」


 という事で厳選した4人だけがイカダで帰る事になった。

 最初にゲームを始めた時の3人と、じゃんけんで勝った楓を残してみんなとはここでお別れである。

 え? 本当にこのメンバーで大丈夫?

 インコ先輩や、琴乃、カノンの誰かは一緒の方がいい気がするけど、まぁ、帰るだけだしどうにかなるか。


「ちょっと、私のクイーンゆかり号よ!」

「はいはい。その話は後で聞くから」


 そう言ってインコ先輩は小雛先輩を道連れに拠点へとリスポーンした。

 俺と楓、とあと慎太郎は、2つのグループに分かれてイカダを漕ぐ。

 うん……行く時と違って、帰りはすごく地味だった。

 ひたすら何もない海を漕ぎ、陸地に着いたら徒歩で拠点へと向かう。

 途中、楓が崖から転落して骨折したりと色んな事がありつつも、なんとか拠点の近くへと戻ってきた。


【現実でも骨折して、ゲームでも骨折するホゲ川とかいうやつw】

【ホゲ川、さぁwww】

【もはやここまで来ると笑いしかないよ】

【ニヤけるわw】

【森川ソムリエ:そんな気はしてました】

【ちゃんと最後まで役に立たなかったな】

【いや、森川は役に立ってたよ】

【森川の役目は体を張って笑わせる事で、周囲を退屈から吹き飛ばす事だからちゃんと役に立ってる】

【それでいいのか国営放送www】

【あかん、たまにこいつがアナウンサーだって事を忘れそうになるw】


 目の前に拠点が見えてきた。

 やっと無事に帰れる。誰しもがそう思った瞬間、ずっと周囲に気を張っていた慎太郎が何かに気がつく。


「武装した奴が東方向からこちらに近づいてくるぞ」


 咄嗟だった。ここで死んだら意味がないと、俺は手に持った銃をNPCの方に向かって撃つ。

 そう、俺はNPCの敵キャラが襲ってきたと思ったんだよ。


「あ」

「あ」

「あ……」


 俺が倒したNPCの名前を見てみんなが絶句する。


 天我アキラ……。


 すぅ……俺は軽く息を吸い込むと、何事もなかったかのように前を向く。


「やったー、帰ってきたぞー! みんな無事だー」

「やったー!」

「え? あくあ? 天我先輩、え?」

「やったー!」


 慎太郎……細かい事は気にしちゃダメだ!

 ここはゲームなんだから、もっと気楽な気持ちで行こう。


【天我先輩wwwww】

【必死に合流しようと自力で戻ってきたのにw】

【ひでぇwww】

【あくあ君って、小雛先輩にしろ、天我先輩にしろ、先輩に対してだけ甘えるところあるよね】

【というと?】

【インコ先輩もワンチャンスある?】

【天我先輩、よりにもよってNPCみたいな格好してるから】

【最後までグダグダで笑ったw】

【何事もなかったかのように誤魔化そうとしてて草w】

【綺麗な落ちだったな】


 あとは拠点でみんなで写真を撮って終わりだけど、流石に天我先輩に申し訳ないと思った俺は謝罪も兼ねて、煩悩あくあ号に乗って森の中に天我先輩を迎えに行く。

 先輩は気にしてないよと言ってたけど、すごくしょんぼりした顔をしていてめちゃくちゃ心にズキズキきた。

 本当ごめん。ぶっちゃけ今更だけど、先輩が来るまでみんなガチで忘れてましたなんて言えるわけがない。

 俺はこの痛みを墓の中まで抱えようと決心した。


「そういうわけで、ラストサバイバーの配信終わります。みんな、またねー!!」


 俺はカメラに向かって手を振る。


【おつー!】

【明日、楽しみにしてます】

【さてと、今から頑張ってねるか!】

【良かった、日付越えたらどうしようかと】

【みんなもゆっくり休んでねー!】

【明日、楽しみにしてます!!】

【カノン様GG、姐さんGG、捗るGG、ホゲ川は……うん】

【アヤナちゃーん、今日はありがとねー!】

【インコ先輩、リーダーお疲れ様でした!】

【マユシン君、最後までちゃんとしっかりしててすごかったよー!】

【とあちゃーん! 今日も1番可愛かった、ううん、かっこかわいかったよー!】

【天我先輩、このリベンジ期待してます!】

【捗るが問題起こさなくてホッとしてるw】

【ホゲ川はゲームやってる場合じゃねぇぞ。病院に行け】

【イレイサー乙、デストロイヤー乙wwwww】

【小雛ゆかりに最後まで笑わせてもらった。ありがとうw】

【みんな、また明日ねー!!】


 すごいコメントの量だ。

 俺はギリギリまでカメラに向かって声を出して手を振る。

 しばらくして、配信が途切れると、阿古さんの声が聞こえてきた。


「みなさん、お疲れ様でした」

「「「「お疲れ様でした!」」」」


 俺は慌ててイヤフォンを外すと、ベリル本社内の配信部屋の外に出てダウンジャケットを羽織る。

 とあ、慎太郎、天我先輩も俺と同じようにそれぞれの配信部屋から出てくると風邪をひかないように厚着をした。


「それじゃあ、みんな大変だけど、今からリハだから、それぞれ休める時に休んで」

「了解。みんな無理せず頑張ろう!」

「うん!」

「ああ!」

「わかった!」


 俺達は外にいた阿古さんやスタッフの人達を交えて円陣を組む。

 途中、慌てて戻ってきた琴乃や他のマネージャー達も含めてみんなで気合を入れ直す。


「12月24日をファンのみんなに楽しんでもらうために! 頑張るぞ!!」

「「「「「おお!!」」」」」


 こうして、俺達とファンの長い48時間が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやあこれスケジューリングとか最初の計画に無理ありすぎたんじゃねーかなwwwwwww
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