ラストサバイバー雪白えみり。
ホゲりながらあくあ様のゲーム配信を見ていたら何故か携帯が鳴った。
全く、こんな時間に誰だよ。私の憩いの時間を邪魔する空気を読めない奴は……。
最初は嗜みかホゲ川かと思ったが、空気の読めないあいつらもあくあ様が配信してる時は大人しいから、直ぐに違うだろうなと確信した。
あ……もしかしたら姐さんか? 私があまりにもコメントルールを違反しすぎるから本物の鬼電かけてきたのかもしれない。私は慌てて受話器のアイコンをスワイプする。
「ちょっと、あんた暇なら手伝いなさいよ!!」
「うぇっ!?」
え? 最初は誰って思ったけど、すぐに小雛ゆかりさんだと気がついた。
「え、あ、いやぁ……」
「私もこの後もリハなの!! だからさっさと来い! 以上!!」
いやいやいや、私、素人ですよ。なんて言い訳をする暇もない。
小雛ゆかりさんは、一方的に自分の言いたい事だけを言って電話を切った。
なるほど……月街アヤナさんの気持ちがちょっぴりとわかってきたぞ。
「そういや、前にカノンと遊んだ時のアカウントがあったな……」
私はPCがなかったからネカフェからプレーしたけど、カノンが4人でやりたいと言った時にみんなでこのゲームのIDを作った事を思い出した。
メイド室に常備されているPCを起動した私は、さっそくゲームをダウンロード……と思ったら、既にインストールされてあるな。
さすがは婆ちゃんだ。メアリー婆ちゃんはゲーマーだから、私も付き合わされてゲームする事が多い。だから、なんとなくだけどこのゲームもインストールされてる気がしてたんだよな。
「とりあえず行くか。行かなきゃなんか鬼電されそうだし……」
私はゲームを起動させると自分のアカウントでログインする。
【捗るキター!】
【嘘だろwwwwww】
【はぁ!?】
【おいおいおいおい】
【あくあ様、全力で逃げてー!】
【ワーカーホリック:は?】
【TOOOKA:は?】
はぁ!? なんで私が捗るって……あっ、そうだ。カノンと一緒にやった時に作ったアカウントだったから、ラーメン捗るになってたんだっけ……。
こうなったら一言も声を発するわけにはいかない。そうじゃないとオーディションの時にバレる可能性があるからな。
私は慌ててキーボードで文字を打つ。
[ラーメン捗る:ya yaa]
あ、間違った、慌てたせいか、文字が半角アルファベットになってる。
[ラーメン捗る:ド……ドウモ]
あ、なんかカタカナになってるけど、もうこれでいいか。
心なしか私を見つめる小雛先輩のキャラの視線が痛い。
黙っててくれるのは嬉しいけど小雛さんのキャラがニヤッとした顔をした気がした。
き、気のせいだよな? わ、私、もしかしたら1番やばい奴に、とてもやばい秘密を握られたんじゃ……。
ふぅ……ま、いっか! バレたものはもう仕方がない。こまけー事は気にしないのが雪白の流儀だ。
【なんでカタカナなんだよwww】
【最初から不審者全開でワロタw】
【あのさぁwwwww】
【挙動不審すぎるw】
【もう、お前もボイチャで喋れよ】
【運営さん、BANお願いします】
【あくあ君、襲われない? 大丈夫?】
【ホゲ川と捗るは檻にぶち込んだ方がいいよ】
【心なしかカタカナが片言っぽくてチジョーを思い出すw】
【チジョー参戦!】
【ドライバー! 早く来て!!】
【ワーカーホリック:問題だけは起こさないでください!!】
うがーっ! ウルセェ! 掲示板民は黙ってろ!!
[天我アキラ:コンニチワ]
天我先輩!?
【天我先輩wwwww】
【先輩、さっきまで全体チャット1人で独占してたからw】
【アキラ君、寂しかったんだろうなぁ……】
【なんとか他の人と少しでもコミュニケーションを取ろうとする、天我先輩ワロタw】
【早く迎えに行ってあげて……】
【先輩、後少しの辛抱だよ!!】
人間、あいさつは重要だ。
私はキーボードをカチャカチャと打つ。
[ラーメン捗る:ヨロシク オネガイシマス!]
[天我アキラ:ヨロシク オネガイシマス!]
[ラーメン捗る:キョウ ハ イイテンキ デスネ!]
[天我アキラ:コチラ キリ ガ デテテ ナニモ ミエナイ……]
[ラーメン捗る:……ッス]
[天我アキラ:……]
あれ? おかしいな……?
男女の会話って最初は天気が定番じゃないのか?
【会話が続かないwww】
【だから最初に天気の話はNGだって言っただろ!!】
【え? 天気の話って盛り上がるんじゃないの? 掲示板に書いてあったけど……】
【掲示板に書いていた情報なんてドブに捨てろ!!】
【掲示板を信用しちゃいけない】
【掲示板の情報なんてゴミしかないぞ】
【掲示板なんて男の子と会話どころか、目すら合った事もない女しかいないのに、信じる方がバカ】
【掲示板の乙女率が以前の調査で98.8%だった時の話する?】
【やめろ! 私の傷が抉れる!!】
【うぎゃあー】
【30超えて乙女だったら魔女になれるって本当ですか?】
【本当だよ。だから姐さんは相手を恐慌状態にするプレッシャーっていう魔法が使えるだろ】
【掲示板民、それ魔法ちゃう。元からや!!】
【TOOOKA:不適切な会話が続く場合、強制BANになります。ご注意ください】
【ヒィッ!】
【す、すみませんでしたぁ!!】
【それでBANしないところが姐さんの優しさなんだよなぁ】
いやいや、前にあくあ様がトマリギでバイトしてた時に、夜なのに間違って今日はいい天気ですねって言ったら、確かに今日は月が綺麗ですね。でも、えみりさんの方がもっと綺麗ですよ。って言ってくれたり、バイトを辞める前にも、今日はいい天気ですねって言ったら、確かに花見日和ですね。でも、俺は桜よりえみりさんの事を見ていたいなって言われた事があって……。あぁ、思い出したけど、あの時ってあくあ様の会話テクが凄すぎて、どう返していいのかわからなくて結局、会話が続かなかったんだよな。
そう考えると、やっぱり男性に天気の会話はNGなのかもしれない。
「とりあえず、まずは採取と素材集めや! 武器とか防具とか、移動用の乗り物とか必要なもんが多すぎる!! そのためにもみんなで手分けして効率的にいくで!!」
「「「「「おー!」」」」」
リーダーの鞘無インコさんの指示に従って、いくつかのグループに別れる事になった。
よりにもよって私は、嗜みとホゲ川とかいうお荷物と同じグループである。
くっそ、あくあ様と一緒のグループと聞いた時は画面の前でガッツポーズしたのに、なんでいらないおまけがついてくるんだよ!
「ここは危険な獣が多いから、カノンは俺の後ろにいて」
「うん!」
「ホゲ〜」
あくあ様、そいつ、このゲーム1000時間以上やり込んでます。
後ろに引っ込むようなタマじゃないんですよ!! 前にこのゲームやった時なんて、獣なんて素材としか思ってないのか無言で狩り続けてました! っていうか、お前も女ならあくあ様の前に出て戦え!!
私はなんとなくイラッとしたので、手に持っていた石を目の前にいた嗜みにぶつける。
「イタっ、何するんですか、え……ラーメン捗るさん」
[ラーメン捗る:ゴメンネ ソウサ ナレテナクッテ]
「もー、次からは気をつけてくださいね」
手に持っていた初期装備の石を嗜みに投げつけたのは勿論わざとである。
なんかちょっとイチャついた雰囲気を出してきたから、阻止しないといけないと自然と体が動いてしまった。
【Nice! 捗る】
【これはGG】
【ナイスファイト!】
【いいぞ〜!】
【イチャテロ阻止!】
【早速役立つ捗ると、全く役に立たないホゲ川www】
【流石は捗る。わかってるな】
【流石は掲示板代表、わかってる】
【視聴者の代わりに頼んだぞ!】
【まさかの捗る有能説出てきたな】
【ワクワクしてきたw】
【くっそ、カノン様の声がやっぱり普通に美少女でぐぬる】
【ワーカーホリック:カノンさんごめんなさい、ごめんなさい!】
目的地付近にたどり着いた私達は、インコさんに指定された材料を採取していく。
その最中に、私はとあるものを見つけてしまった。
[ラーメン捗る:ナンカ ミツケタ]
「なんかって何? って、あ、これキノコじゃん」
「おっ、きのこって確か食べられるんじゃないか?」
拾ったキノコのステータスを確認すると飲食用と書いてある。
まさか毒キノコとかないよな……あっ、ちょうどいい奴がいるじゃないか!
[ラーメン捗る:オイ ホゲカワ!]
「ほげ?」
[ラーメン捗る:クチ アケロ!]
「ほげ!」
私はホゲ川のキャラクターに向かってキノコを放り投げる。
するとそのキャラがむしゃむしゃとキノコを齧った。
【あ】
【こーれ、嫌な予感がします】
【ホゲ川、役に立ってよかったな】
【朗報、ホゲ川、役に立つ】
【毒味要員www】
【ホゲ川の扱いw】
【惜しい奴を亡くした】
【ホゲ川、無茶しやがって!】
【もう死んだ事になってて草w】
【ワーカーホリック:森川さんごめんなさいごめんなさい】
うーん、見た感じ変化はなさそうだな。大丈夫そうか?
そう私が油断しかけた矢先に、目の前にいたホゲ川のキャラが横に倒れる。
「うっ……」
あっ……。
おーい! 大丈夫かー!
私はキャラをしゃがませると、ホゲ川のステータスを確認する。
【あ……】
【し、死んでる!?】
【なむ〜】
【ホゲ川死んだwwwww】
【役割、果たしたな】
【ここまで完璧な流れw】
【ちゃんと毒で安心した】
【成仏しろよ】
【ホゲ川は一体、何しにこのゲームに来たんだろ】
ふぅ……。
[ラーメン捗る:ヨシッ!]
尊い……いや、そんなに尊くはないか。
ホゲ川、お前の分も頑張るからな! だから安らかに眠ってくれ!!
【あー様とおんなじやんけw】
【手を合わせてて草www】
【これが親友です】
【あくあ様の配信見にきたかと思ったら、まさかの掲示板勢の配信だったでござるwww】
【現在のトレンドランキング、1位が捗る、2位が掲示板、3位が検証班、4位はホゲ川は何しにきたんだ?、5位は姐さんも来い。なお、嗜み死ねは除外ワードにひっかかってランクインならずwwwww】
【あくあ様が配信してる時に、トレンドワードの上位ランキングを掲示板勢を占めるという。ベリルに勝つの、何げにすごいな。もうこいつら4人でアイドルデビューしたらいいんじゃないのかw人気者待った無しだよwww】
【普通なら荒れてもおかしくない展開だが荒れない。みんな優しすぎw】
【面白いから全てが許されてる】
【さりげなく捗る無双になってきてない?】
【捗るなら最初から無双してるが?】
【ワーカーホリック:よしじゃないですよね?】
素材を採取した私達は拠点へと帰路に着く。
来た時は4人だったのに、帰る時には3人しかいない。
この島で生活して行く事の過酷さが身に染みる。
「殺したのは捗るだけどね」
[ラーメン捗る:ヨケイナ コトヲ イウナ]
ゲームの中とはいえ人が、仲間が1人死んでるんだ。
みんなどこか神妙な顔をして……いるわけないよな〜。
だって、ホゲ川だもん。
【こいつwww】
【あかん。捗るが何考えてるのか喋らなくてもわかる】
【あれ? 私ってエスパー? 捗るの考えてる事が全部わかるんだけど】
【悲報、掲示板民、捗るソムリエだった】
【捗るソムリエwwwww】
【誰もホゲ川の事を心配してなくて草w】
【みんなもうホゲ川が出てこないと思ってるだろうけど、普通に死んで拠点にリスポーンしただけだからな】
拠点に帰る途中、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ちょっと、私の言う事を聞きなさいよ!!」
なんだなんだ!? 揉め事か?
私達は声の方へと向かう。
「小雛先輩……何やってんですか?」
声の方向に行くと、なぜか馬と格闘してる小雛先輩が居た。
え? 何この人、ゲームの中のNPCですらない動物にも喧嘩売ってるの?
ヤベェな……。
「見ればわかるでしょ? 馬に乗ろうとしてるのよ!」
あー、そういえばこのゲーム、馬に乗れるんだっけ。
「それって確か、鞍がないと乗れませんよ」
「それ、どこで手に入れるの?」
「えっと……多分だけど、街に行くと交換できたような」
ようなじゃねぇだろ!!
1000時間もこのゲームをやってる廃ゲーマーがしらねぇわけないんだからはっきり言え!
あくあ様の前でかわい子ぶるな!
やっぱ、石ぶつけとこ。
「イタっ、何するんですか、え……ラーメン捗るさん」
[ラーメン捗る:ゴメンネ ソウサ ナレテナクッテ]
「もー、またですか? 次からは気をつけてくださいね」
かーっ、よく言うぜ。さっき、私が投げた石を脅威のキャラコンで回避してた奴が言うセリフじゃない。
明らかにやってる奴の動きだろ! あくあ様、こいつ、嘘をついてます!!
【カノン様の動きが完璧にやってる奴のそれで草w】
【そういやあいつってちゃんと糞ヲタだったわ】
【しかも死角から投げられたのに回避してるって事は、あのタイミングで捗るが投げてくるってのを理解してたなw】
【採取の時も迷いなかったもん。明らかにやってる奴の動きしてた】
【この女……実は強かです】
【え? まさかの四天王最弱が本当は最強だった説出てきた?】
【私達を騙してたってこと?】
【みんな気を遣ってカノン様って言ってるのウケるw】
【よく考えなくても最初にあくあ様と結婚してる時点で最強な上に誰よりも強かだろ】
【あっ……】
【あ……】
【な、なんだってー!?】
【まさか、弄ばれてるのは私達の方だった件について】
【捗る、もっと石ぶつけていいぞ】
それがさっきからぶつけようとしてるんだけど、全く当たらないんだよ。
隣にいるのに全くそれに気がつかないあくあ様もある意味ですごいけど……。
「それじゃあ、今から街に行く」
「え? インコさんに怒られますよ」
「素材、あんたが持って帰って」
「ええ……」
小雛ゆかりさんは、持っていたアイテムを全部あくあ様に放り投げる。
すげぇ、世の中の女の子なんて男の子の荷物持ちでしかないのに、この世で最強で最高の男に荷物を持たせるとかどんだけだよ……。隣の嗜みと月街アヤナさんも顔が引き攣ってるじゃねぇか!
【小雛ゆかりは本を出してほしい。あくあ君に言う事を聞かせるテクを教えてほしい】
【言っておくけど、男の子にアプローチしようと思っても、小雛ゆかりのやり方だけは絶対に真似をするなよ。これが許されてるのはあくあ様だけだからな】
【最近気がついたけど、あくあ様が異質すぎるから、同じくらい異質な小雛ゆかりが通用してるだけなんだよね。だからなんの参考にもならない】
【対あくあ様専用最終決戦兵器、小雛ゆかり】
【兵器www】
心なしか月街アヤナさんがげっそりしているように見えたので、私も嗜みに必要な物資を放り投げて2人に同行する。
と言うか、アヤナさんも今からリハだろ……。今からこんなに疲弊してて大丈夫だろうか。
「それじゃあ行くわよ!」
私は嗜みにホゲ川と拠点で会ったら代わりに謝っといてと言って、2人と別れる。
あくあ様と別れるのは名残惜しいが、いちゃつく2人を後ろから見つめてるだけよりマシだろう。
しばらく歩いていると、目的となる街の手前で人影のようなものを発見する。
あ……! ヤベェ! NPCの敵キャラだ!!
こいつらは銃を携帯してて、こちらに気がつくと問答無用で発砲してくる。
「こういう時は、先制攻撃よ!!」
「「は!?」」
リアルの私が発した声とVCのアヤナさんの声が重なる。
小雛先輩は何を思ったのか、手に持っている岩を敵に投げつけた。
もちろんこの距離で当たるわけがない。
むしろ石に反応したNPCがこちらの存在に気がついてしまう。
[ラーメン捗る:ニゲロ! トンズラダ!]
「なんで当たらないのよ! このクソゲー!!」
「小雛先輩、早く逃げましょう!」
くっ、どうすればいい!?
私は過去にプレイした時の事を思い出す。
あっ……!
[ラーメン捗る:マチ ノ チカク セーフゾーン!]
私達は弧を描くようにして迂回して街の方へと逃げる。
セーフゾーンに入ればこちらのものだ。
NPCであれなんであれ、セーフゾーンで武器の使用は出来ない。
【早速なにかやらかしてて草www】
【捗る、また何かやったのか?】
【小雛ゆかりの可能性もあり】
【なんでこうなったw】
【捗るー! お前が居なくなったら、あの2人ずっといちゃついてるぞー!!】
【あれ? なんであくあ様じゃなくて捗る視点になってるの?】
【仕方ない。スタッフの人もイチャテロに耐えられなかったんだろ】
横にあるサブモニターで確認すると、あくあ様視点の映像から私視点の映像に切り替わっていた。
公式配信、お前、正気か!? って言おうとしたけど、そういえばサーバー管理人のAIも開発責任者もうちの信者だったわ……。うちの信者に正気の奴がいるわけがない。正気の奴は、まずあんな宗教には入らないからな。
「ヒィッ、なんで私ばっかり狙ってくるのよ! このおたんこなす!!」
いや、それはあんたが石投げてヘイト、つまりは敵のターゲットになったからでしょ。
ん? 待てよ。それなら……。
私はスッとスピードを落として小雛ゆかりさんに並走すると、ゆっくりと横に開いていく。
偶然その時に目があったアヤナさんも気がついたのか、私とは反対方向にキャラを展開させていった。
【息ぴったりやんけwww】
【2人が小雛ゆかりから距離取っててウケるwww】
【Q、3人の心の距離感を証明しなさい。A、これ】
【小雛ゆかりが見捨てられてて最高に草wwwww】
【小雛ゆかりさんって女優じゃなくてお笑い芸人の大御所だったんですね。今、知りました】
【2人とも、ちゃんと分かってるのが草w】
【もう小雛ゆかりが出てくるだけで歯茎出るw】
【どうせサイコパスの小雛ゆかりがNPCの敵キャラに石でも投げつけたんだろ。見てなくてもわかるわ】
【見てなくても、小雛ゆかりが何をやったのかをみんなが分かってるの草すぎるんだがwww】
ふぅ、これだけ離れたら大丈夫だろ。
街の近くに来るとセーフゾーンに入りましたと文字が出る。
私が街の入り口でぼーっと待っていると、少し遅れてアヤナさんがやってきた。
やったー! お互いの生存と再会を祝して2人でピョンピョンとジャンプする。
するとどこからともなく騒がしい声が近づいてきた。
「ちょっとぉ! なんで2人とも私を見捨てるのよ!!」
あ……生きてた。すげぇな。ホゲ川なら確実に死んでたぞ。
私もこのしぶとさを見習わなきゃなと思った。
[ラーメン捗る:キノセイ デスヨ]
「うんうん」
私とアヤナさんは小雛ゆかりさんからスッと視線を逸らす。
「そんなポンコツな演技が私に通用するか! 全くもう。次見捨てたら、あんた達が逃げてる方向に逃げてやるんだから!!」
はは……ははは……リアルで乾いた笑いがでた。
きっと冗談じゃなくて、この人なら本気でやりそうと思ったからである。
【すげぇwよく生身で生きてたなwww】
【小雛ゆかりの生存能力つええ】
【ホゲ川なら秒で死んでた】
【ポンなみならって思ったけど、あいつこのゲームなら回避しそう】
【で、なんでこいつらは街にいるんだ?】
【ゲーム経験者の私、嫌な予感がしてきました】
3人で何とか合流した私達は目的の鞍をゲットするために街の中に入る。
しかし肝心のショップに行ったところで、鞍を買うための屑鉄がない事に気がつく。
「ちょっとこれ、どうするのよ!」
[ラーメン捗る:フヨウナシザイ → リサイクル → クズテツ]
「ラーメン捗るさん、すごく詳しいんですね。助かります」
「詳しいなら、さっき私が攻撃する前に言いなさいよね!!」
いやぁ、敵が視界に入った瞬間に秒で石投げてた人は止められないっす。
私達はリサイクル用の機械を使って不要な資材を屑鉄に交換する。
よーし、これで鞍が買えるぞー。って思ってたら、さっきあくあ様と嗜みに資材を渡したせいで、手持ちの資材が少なくて屑鉄が足りなかった。
「ちょっと! どうするのよ! これじゃあ、鞍が買えないじゃない!!」
うーん仕方ない。これはアレをするしかないようだ。
できればアレだけは避けたかったが仕方ない。
中には中毒になる人がいるから、本当はアレしたくなかったんだけどなぁ。
でも資金を増やすためにはアレしかないので、アレしにいこう。
[ラーメン捗る:ツイテキテクダサイ]
私は2人を連れて、アレができる場所へと向かう。
すると何やら建物から聞き覚えのある関西弁が聞こえてきた。
「なんでや!! これ絶対に裏で遠隔操作してるやろ!! 店長出てこい!!」
うわぁ。もう帰ろうかなぁ。
【インコwwwww】
【はい、これアウト】
【インコ、お前さぁw】
【見てなくても持っていた資金を溶かしているのがわかる】
【一応、中の確認だけしよっか】
私たちが店の中に入ると、ルーレットに顔面をめり込ませるように熱狂しているインコさんのキャラクターがいた。
これ完全にアウトです。高校生のあくあ様に見せていい絵面ではない。
いや、逆に反面教師の教材として使うのにはいいかもしれないな。
【案の定、のめり込んでて笑ったw】
【あくあ君達に採取に行かせておいて自分はギャンブルですか?】
【これが本当のクズですwww】
【真面目に採取してるみんなが可哀想】
【このゲームやり込んでるやつは大抵ルーレットで狂うから仕方がない】
【ゲーム経験者ならわかる】
【このゲームのルーレットはね。人を狂わせるんだよ】
【つーか、早めにクリアするなら、割とマジでこれしかない】
【インコはちゃんとクリア考えてる】
【時間ないなら、ルーレットは仕方ないと思う】
【わかる。わかるけど絵面がなぁ……クズすぎるwww】
ふぅ……私達は何も見なかった事にして部屋を退出しようとする。
やっぱり真面目に稼ごう。それが解っただけでも、ここに来た意味はあった。
「ん? みんな、ええとこにきたなぁ!!」
[ラーメン捗る:いえ、邪魔する前に帰ります]
「邪魔するんなら帰ってなんて言わへんて! それよりみんなもルーレットか? それならええ話があるんやけど……」
[ラーメン捗る:いえ、私達はもう真っ当に稼ぐって決めたんで]
「あのなぁ! それで配信を見てるリスナーが本当に満足できると思うんか!!」
[ラーメン捗る:いえ、ゲームを早くクリアしたいんで……あの、もう行っていいですか?]
「頼む! いえ、頼んます! 30……いや20でいいんで! 絶対に10倍にして返しますから!!」
[ラーメン捗る:じゃあ、10だけ]
「あざっす!!」
私は少し遠くに屑鉄10を投げ捨てる。
よしっ、2人とも、今のうちに逃げよう!!
あー、こんな事なら嗜みを連れてくればよかったな。
あいつリアルの運のステータスが振り切れてるのか、全部当たるから人力チートできるの忘れてたわ。
それを見て、私は運命に愛された女、ゲームのシステムすら私を愛すのとかってめちゃくちゃ痛い事を言ってて、友達として一時期心配になったけど、ちゃんと厨二病を卒業してくれてお姉さんとしては満足です。
【捗るが急にカタコトやめてて草www】
【インコちゃんから距離を取ろうとしてて草w】
【これガチじゃんwwwww】
【やっぱ捗る面白いわ】
【あくあ様に勝てるのって、もしかして捗るだけじゃ……】
【捗るとあくあ様は、ボケとツッコミ、MCと雛壇、どっちもできるのが強い気がする】
【みんな、普通に忘れてるけど、こいつただの一般リスナーだからな】
【ホゲ川よかったな。捗るが芸能人だったら、秒で番組を乗っ取られてたぞwww】
【捗る、ガチで芸能界こいよw】
【いくつかの事務所が捗るに反応してて草生えるw】
【もう面倒臭いから、捗るも小雛先輩も、あとついでにアヤナちゃんもベリルにはいろ、もうベリルだけで全部回せるでしょ】
インコさんと別れて街から出た私達は、おとなしく周囲のゴミを集めてリサイクルに持っていく。
その甲斐もあって、3人で協力したらすぐに鞍を買う事ができた。
[ラーメン捗る:オカネ マジメニ カセグ イチバン]
私の言葉にアヤナさんがうんうんと頷いてくれた。
【おい、嘘だろ……】
【捗るがまともな事を言ってるだと!?】
【3年B組捗る先生始まっちゃいました?】
【これは間違いなく教育コンテンツ】
【お前どんだけ引き出しあるんだよwww】
【流石、リアルで金に苦労してる奴の言葉には重みがあるわ】
【だから言ったろ。捗るが1番有能だって】
【小雛ゆかり、ルーレットで稼ぐのもありだと思うけどなーとか言ってて草w】
【アヤナちゃん、面倒臭いけど小雛ゆかりの事見てあげて。あいつ一歩間違ったらやらかしそう】
【小雛ゆかりがギャンブラーになったら、あくあ様の金でギャンブルするクズになりそうだから。アヤナちゃんのところで止めておいてな】
【アヤナちゃんの負担が多くて草w】
【アヤナちゃん、ファンになるから許してw】
私達は再びさっきの馬が居たところへと向かう。
目的地にたどり着くとさっきの馬はもう居なくなってたけど、新しい馬が何匹が見つかった。
「よしっ! あんたにしたわ!!」
小雛ゆかりさんは、その中の一頭に近づく。
「あんたそこはかとなく、アイツっぽい雰囲気あるから私の言う事聞きそうだしね」
小雛ゆかりさんはそんな事を言ってるけど、お馬さんは踏ん反り返る小雛ゆかりさんのキャラクターの頭をずっとハミハミしてた。お馬さーん、それ食べ物じゃないからねー。赤っぽい服着てるけど、人参じゃないよー。そんなもの食ったらお腹壊すから吐き出そう。ね?
【小雛ゆかり、馬にかじられてて草w】
【悲報、小雛ゆかり、馬に舐められるwww】
【いいぞ。馬さん、もっとやれ】
【既になついてなくて草w】
【よりにもよって、1番癖強めな馬選んでやがるwww】
【この種の馬は気分屋だから止めておいた方がいいと思うけどなー】
【隣の森川みたいなホゲ面の馬にしておけばいいのに】
【ホゲ面の馬は人間が歩くより足が遅いから役に立たないよ。完全にハズレ個体】
私は屑鉄と交換した鞍を馬に装着する。
よしっ、これで乗れるはずだ。
「それじゃあいくわよ!!」
小雛ゆかりさんの合図で馬は走り……出さなかった。
完全にいう事を聞いてない。
「ちょっと! どうなってるのよこれ!! この鞍、欠陥品じゃないの!!」
いやいや、そんな事、普通にないでしょ。
しばらく待っていると、馬は仕方ないなぁという雰囲気でノソノソと前に歩き始める。
うーん、これじゃあお話にならない。他の馬に鞍を付け替えようかと考えていたけど、他の馬はどっかに走って行ってしまった。
[ラーメン捗る:ワタシガ ノッテミマス]
私が代わりに上に乗ると、馬は普通に走り出した。
おお〜、この馬結構速いじゃん! 普通に当たり個体じゃないか!
「はぁ! なんでそうなるのよ! ちょっと、私と代わりなさいよ!」
再び小雛先輩が馬に乗るが、相変わらず馬はノソノソとしか動かなかった。
【草wwwww】
【馬に舐められてるの本当に草www】
【いいぞ〜! もっとやれw】
【心なしか捗るが乗ってる時だけ馬が興奮してるように見えた】
【これ、小雛ゆかりのキャラが貧乳で、捗るのキャラが巨乳だからじゃ……】
【ソレダ!】
【嘘だろwww】
【この馬、あくあ様じゃんwww】
【馬wwwww】
【もう私、この馬でもいい……】
【このお馬さん最高!!】
嘘だろ? 再確認するために私がもう一度馬に乗ると、心なしか馬がチラチラとこちらに振り返るような仕草を見せる。こーれ、確定です。
「何よこのダメ馬!! 完全に駄馬じゃない!! こいつの名前は今日から煩悩あくあ号よ!!」
あ……小雛ゆかりさんが名前をつけたのか、馬の上に煩悩あくあ号という文字が表示される。
【嘘だろwww】
【煩悩あくあ号www】
【これはひどいwwwww】
【あかん、この女、BANしろwww】
【ダメだこいつwww】
【煩悩あくあ号はアウト寄りのアウトだろw】
【運営、ホゲってないで仕事しろw】
【煩悩あくあ号に乗ってみたい】
【心なしか馬がカッコよく見えてきた】
【もう私、この馬でいいです。煩悩あくあ号と結婚します】
【開発者:オスの馬が出るのって超レアなんですよ。なんなんですこの人達?】
【開発者wwwww】
【開発者イキロwww】
【諦めろ。もうこのメンツが揃った時点で私達には眺めてるしかないんだ】
【ワーカーホリック:はぁはぁ、なんとかここまでは無事に終わってよかった……うっ】
流石にこの名前はまずいだろうと思ったが、あくあ様ならなんとなく許してくれる気がする。
リーダーのインコさんがルーレットにのめり込んでたのは気になるが、私達は一路拠点へと向かって走り出した。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
現在、特別にはなあたの夕迅、聖女エミリー、月9のゆうおにのイメージ図を公開しています。
また黛、天我、とあ、カノン、あやなのイメージ図などを公開中です。
https://mobile.twitter.com/yuuritohoney
fantia、fanboxにて、本作品の短編を投稿しております。
最新話では、本編を少し先取りしてます。
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