白銀らぴす、合宿が始まる。
「オーディション参加者の皆様、そして報道陣の皆様、本日は東京テレビ系列で放送される予定のAQUARIUMの企画の一つ、白銀あくあプロデュースのアイドルオーディション、本戦進出メンバーによる合宿入所日の記者会見にようこそおいでくださいました」
合宿所に到着した私達は荷物を持ったままロビーに集められました。
そこで待っていたのは阿古さんや兄様をはじめとした審査員の皆さんです。
「今回のオーディションにおける審査委員長であり、ベリルエンターテイメントの社長を務めさせてもらっている天鳥阿古です。本日からよろしくお願いいたします!」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
今日までのほほんとしていた私は、多くの報道関係者と何度も光るカメラのフラッシュを見て急に不安になります。
だ、大丈夫かな? こんなうわついた気持ちで参加して……と、とりあえず今は、目の前の事に集中しよう。
「早速ですが、この合宿では、みなさんに仮のユニットを組んでもらいます」
阿古さんの言葉に、オーディション参加者や、後ろにいた報道陣の皆さんがざわめいた。
「えー、今回、男性として参加される黒蝶孔雀さん、山田丸男さんのデュオとは別に、女性18名を4つのユニットに分けました」
えっ? え?
男性って山田丸男さんだけじゃないんですか!?
これには報道陣、参加者からさらなるどよめきが巻き起こりました。
しかし、阿古さんや兄様、ベリルの人達は至って冷静に司会を進行していきます。
「それではユニットの最終決定を行なった特別審査委員の白銀あくあの方から、それぞれのチームのキャプテンとメンバーを発表したいと思います」
兄様は立ち上がると、手に持った紙へと視線を落とす。
オーディションに集中しないといけないのに、真剣な表情を見せるかっこいい兄様にドキドキしました。
「それではまず最初に各チームのキャプテンを発表したいと思います。チームA、藤林美園さん。チームB、天宮ことりさん。チームC、祈ヒスイさん。チームD、鯖兎みやこさん。以上の4名が仮ユニットのキャプテンとして、それぞれのユニットを率いて貰うことになります」
わ! わ! チームDはみやこちゃんがキャプテンなんだ!!
大人のお姉さんだっていっぱいいるのに、すごいすごい!!
私は思わず拍手しちゃいそうになったけど、オーディションメンバーは誰もそんな事をしてないので我慢して心の中で拍手する。
「それでは続きまして、それぞれのチームのメンバーを発表していきたいと思います」
周囲に緊張の糸が張り詰めます。
チームD、チームD、チームD!
初対面の人と一緒にするより、できれば知ってる人のところがいいと思った私は心の中で何度も祈りました。
理想は、チームDでスバルちゃんとか、くくりさん、フィーちゃんとかがいると嬉しいな。
「那月紗奈さん、ハーミー・スターズ・ゴッシェナイトさん、フィーヌースさん、そしてキャプテンの藤林美園さんを加えた4名がチームAとなります。名前を呼ばれた4人は前へどうぞ」
スタッフさん達から拍手の他に、頑張れという声が飛んだ。
それにしてもすごいスタッフの数です。どれだけの人が、このオーディションに関わっているのでしょうか。
「この4人を選んだ意図としては、まず誰よりも完成度が高い那月紗奈さんをチームのセンターとして想定しました。その上で那月紗奈さんの隣に並んでも大丈夫な人は誰かと考えた時、天真爛漫さで劣らないフィーヌースさんが最適ではないかと思ったんです。その反対側、つまりは那月紗奈さんの反対側の端には、バランスを考えてハーミーさんを配置しました。最後に、この個性的で高クオリティな3人をうまく調和できる人物は誰かと考えた時に、藤林美園さん以外はありえないという事で、スタッフ全員の意見が一致しました」
兄様の発言が途切れると、後ろにいた記者っぽいお姉さんがスッと手をあげる。
それを見た兄様は、ニコリと微笑むと、スッと手を前に伸ばして質問どうぞという仕草で応えました。
「なぜ、スタッフ全員が藤林美園さんがキャプテンに相応しいと思ったのか、その理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん」
兄様が後ろのスクリーンを見るように指差すと、会場が暗くなってオーディションの時の映像が映りました。
え? え? あの時の審査ってもしかして全部撮られてたんですか?
『実はこのグループで審査は最後となります。何か一言、言いたい事はありますか?』
藤林美園さんはそこでスッと手をあげる。
『実はパーテーションの仕切りが甘くて、ずっと隣の控室からここの様子を覗いていました。その上で言わせてください。もし、本戦でユニットオーディションがあるなら、那月紗奈さん、フィーヌース殿下、ハーミー殿下とユニットを組ませてくださいませんでしょうか?』
これには、画面の中も会場も両方が大きくどよめきました。
『ユニットオーディションの事は置いておくとして、何故、そのメンバーを選んだのか聞いても良いかな?』
『1番勝てそうなメンバーだからです。センターとして引っ張っていける人材を考えた時、他にも候補者はいましたが私が思い描くアイドルグループの理想のセンターは那月紗奈さんだったので、彼女を中心に考えてみました』
はっきりとした口調で語る藤林さんにみんながびっくりしてます。
その一方で本人は、画面に映った自分を見て意にも介さない素振りを見せていました。
『ちなみに他のセンター候補をお聞きしても?』
『巴せつなさん。正直なところ圧倒的でした。でもこの人は、私が手綱を握って調和が取れる人じゃないなと思ったんです。おそらくですが、審査員の方も彼女の扱いには悩ませられる事でしょう。同様に皇くくりさんも、私との相性の問題から省かせてもらいました。その次に白銀らぴすさんと、ラズリーさん。こちらに関して言えば、本人達の気力不足を感じました。彼女達は果たして本気でアイドルになりたいんですか? となると、残ったのは那月紗奈さんと猫山スバルさんと星川澪さんと天宮ことりさんですが、私はより完成度が高く周囲を引き上げてくれる那月紗奈さんを選択したまでです』
え、あ、わ、私?
気力不足と言われて、私は少し俯いてしまいました。
確かにどうしてもアイドルになりたいかと言われたら、私は他の皆さんほどの気持ちはないのかもしれません。
それにしても藤林さんはすごいなと普通に感心してしまいました。
だって、さっき名前を出した人、全員受かってるし……それって見る目があるって事だと思うんですよね。
『ところで、君も含めて彼女達が合格するとはまだ決まってないんだけど……』
『え? 私が落ちるんですか? ありえないですよね? それに、私が名前を挙げた子達を落とすような見る目がない会社なら普通に違うところにオーディションに行きます。ありがとうございました』
ここで映像が途切れると、暗転していた部屋の中に灯りがつく。
うわぁ……明るくなると、映像を見ていた報道陣の人達の表情が何人か引き攣っていました。
「はい。というわけで、そこまで言うなら彼女にやらせてみようと思いました。どのみち、この20人のメンバーの中でキャプテンとしてやっていけそうな人は5人もいなくて、そのうちの1人の那月紗奈さんをセンターとして集中させられるなら、この案は悪くなかったのかなと思います。それとチームを分ける段階で、1つは圧倒的に強いチームを作りたいという思惑は予選、本戦、両方の審査員の中で共通認識としてありました」
兄様は藤林さんにマイクを渡すようにスタッフに指示を出す。
「それでは、キャプテンの藤林さんから順番に自己紹介と意気込みをお願いします」
藤林さんはマイクにスイッチを入れると、さっきの映像が嘘みたいにニコッと微笑んだ。
「チームAキャプテンの藤林美園です。まさか自分が提案したチームをそのまま率いる事ができるなんて思ってもいませんでした。この素晴らしい機会を与えてくださった審査委員長の天鳥阿古さん、私の提案を支持してくださった白銀あくあ特別審査委員、そしてスタッフの皆さんに感謝いたします。そのお礼といたしまして、期待通り最初から最後までこのチームが1番のまま合格にまで辿り着くとお約束いたしましょう。チームB〜Dの方には申し訳ないのですが、他にも機会はいっぱいありますから、そちらの方で是非とも頑張ってくださいね!」
せ、宣戦布告だーっ!?
これは流石に鈍い私にでもわかります。
ベリルってそこはかとなくみんなが仲良しさんってイメージがあったから、急にこんなバチバチした感じの人が出てくるなんて思ってもいませんでした。
「チームA、センターの那月紗奈です! 先ほど少しキャプテンの藤林さんとも話したのですが、私は何も考えずに前だけ突っ走れば良いと言われたので、その通りにしたいと思います!! っと、こういう時はこう言った方がいいのかな? はははは! 諸君、私こそが1番、この20人の中で1番合格に近い女だ! 今の順位、自らへの評価が悔しければ、君達の全力を持ってこの私を倒してみたまえ!! 私はいつだって正々堂々と君達の挑戦を待ってるぞ!!」
うわあああああああああああ!
この人ノリノリです。ノリノリで好敵手を演じています!
うう……なんだか少し心の古傷が痛むというか、見ていて恥ずかしくなるのは気のせいでしょうか。
あ、何人かの人がそっと視線を外しました。きっと私と同じ古傷を持った仲間達です。
「チームAのフィーヌースなのじゃ! 妾の事は気軽にフィーちゃんと呼ぶといいのじゃ! ところで……」
フィーちゃんの眼光が鋭くなる。
10歳といえど一国の王女、その凄みにみんなが冷や汗を流す。
「お、おしっこしたいのじゃが……トイレ、どこ? さっきからずっと我慢してて、漏れそうなのじゃ……」
何人かがずっこけました。
というか私もずっこけました。
フィーちゃんは隣に居たハーちゃんにトイレの場所を教えてもらうと、自己紹介の途中でお花摘みに行ってしまう。
ふ、フリーダムがすぎるけど、藤林さんは嬉しそうにニコニコ笑っていた。あれは怒ってるのか、それとも本当に笑っているのか……深く考えるのはやめましょう。
「チームAに選ばれた、白銀ハーミーです」
白銀!? えっ?
兄様は慌ててマイクを手に取る。
「ハーちゃん!? ちょっと待って……」
「なんですかパパ?」
パパァ!? 私はこの前の料理配信に出た森川さんみたいに口をあんぐりと開けてしまう。
兄様もびっくりしたのか、森川さんみたいにマイクを落としそうになってあたふたする。
会場全体は驚きも通り越えて、阿古さんですら目を見開いたままフリーズしていました。
「ふぅ……許します」
許します!? 兄様、一体何を許すって言うんですか!?
ちょっと、兄様! 何もなかったかのようなお顔で、普通にスルーしようとするのはダメですよ!
「えっと、スターズには帰らないつもりでこの国に来ました。よろしくお願いします」
ハーちゃんはペコリと頭を下げると、マイクをスタッフのお姉さんに返す。
え? 終わり……?
周囲を見ると、最初の衝撃が大きすぎてみんなまだ固まっている。
そんな状況で兄様だけが至って普通な様子でマイクを手に取りました。
「はい、みなさんありがとうございました。チームAに期待するのは、先ほども言いましたが本番での圧倒的なパフォーマンスです。頑張ってください。それでは次にチームBの発表をしたいと思います」
チームBは確か天宮ことりさんのチームです。
さっきまでホゲった顔をしていた人達も、ピリッとした空気感を肌で感じて思考停止状態から復帰してきました。
「皇くくりさん、桐原カレンさん、七瀬二乃さん、そしてキャプテンの天宮ことりさんを加えた4人がチームBとなります」
拍手と共に名前を呼ばれた4人が前に出て来ました。
前の4人もそうだけど、みんな本戦に選ばれているだけあって、綺麗な人か可愛い人ばかりです。
「このチームのセンターは皇くくりさんです。その隣には雰囲気の近い星川澪さんを提案するスタッフさんが多かったんですが、私としては新しい化学反応がみたいと思い雰囲気の違う桐原カレンさんと七瀬二乃さんを考えました。チームのキャプテンもあえて皇くくりさんと同じセンター級でありながら毛色の違う天宮ことりさんを選択した事で、全体的にどういう化学反応を見せてくれるのかなというのが楽しみです」
スタッフの人からマイクを手渡された天宮ことりさんはにっこりと微笑む。
さすがはセンター級、ニコニコしたお顔がものすごくアイドルスマイルなんですよね。
「ニコニコハッピースマイル! チームBキャプテンの天宮ことりです! まさか秋田から来た自分がキャプテンに選ばれるなんて思っていなかったので、本当にびっくりしました! ファンのみんなを笑顔にできるように、チームBも笑顔の絶えないキラキラしたグループにしたいです!」
しゅ、しゅごい……。もうどっからどう見ても即戦力のアイドルさんです。
なんか、どの角度から見ても可愛いし、仕草とか声とかすごく可愛らしくて、完成度のクオリティがなんかこう……周りの人と比べても一回りも二回りも違う気がしました。
「チームBのセンター、皇くくりです。あくあ先輩にセンターに選んでいただいて、とーっても嬉しいです! 選んで頂いたあくあ先輩のためにも、一所懸命頑張ります!」
え? 誰? って、思ったけど、そういえばくくりさんは兄様がいる時は別人でしたね。思い出しました。
くくりさんは、猫被りの自己紹介を終えると、手に持っていたマイクを隣に回す。
「チームB、メアリーの桐原カレンだ! このオーディションを通して、地に落ちた我が学び舎の汚名を挽回させて貰う!! メアリーの名にかけて!!」
ん……汚名を挽回?
「カレンちゃん、カレンちゃん! 汚名を挽回したら意味ないよ! そういう時は名誉を返上って言うのよ」
「ん……? キャプテン天宮ことり殿、それは本当か……?」
いやいやいや、逆ですよ、それ!
私と同じ事を思ったのか、耐えかねた七瀬二乃さんが会話に乱入する。
「ちょ、ちょ、2人とも逆やそれ!! 汚名返上と名誉挽回や! ベタやなぁ。もう……」
「ほう……いい勉強になったぞ。感謝する七瀬二乃殿」
桐原カレンさんはうんうんと何度も頷く。
「あかん、これ本気で間違っとったやつの顔や……。メアリーって頭ええのとちゃうんか……?」
メアリーは、クラリスと並んで日本を代表する女子校の一つで、その証拠に、カノン義姉様やえみりさんのような知的なお姉さんがいっぱい通っていらっしゃいます。
「っと、そんなコントはどうでもええねん! チームBの七瀬二乃や、大阪生まれやけど今は千葉県にある高専に通っとる。意気込みはそうやな〜。油断したら……揉むで? そういうわけで、短い間やけどよろしくな!」
あれ? 斜め前にいたお姉さんが両手でお尻を押さえました。どうかしたのでしょうか?
チームB全員の紹介が終わると、再び兄様がマイクを手に取る。
「チームBの皆さんありがとうございました。ここは本当にね。ポテンシャルが高い子が多いので、お互いの魅力がプラスになるように作用し合えば面白いんじゃないかなと思ってます」
兄様は再び手元の資料へと視線を落とす。
「そして次はチームCの発表に移りたいと思います」
あー、ドキドキして来ました。
まだスバルちゃんも名前が呼ばれてないし、このままいけばみやこちゃんのチームで3人一緒にやれるかもしれません。最初は知らない人ばかりのところに入れられたら、どうしようって思ってたけど、きっと兄様の事だから、私達3人は同じグループにしてくれてる気がします。うん……そう考えると、少し気が楽になりました。
「巴せつなさん。星川澪さん。こうこお嬢……じゃなくって、津島香子さん。らぴす……白銀らぴすさん。これにキャプテンの祈ヒスイさんを含めた5人がチームCになります」
えっ……?
兄様の言葉に私は固まってしまいました。
自分がここで呼ばれるなんて思ってもいなかったから動揺してしまったのです。
「らぴすちゃん、前」
「あっ……」
みやこちゃんに言われて、私は慌てて前に行きました。
「えー、このチームに関してはプロデューサーでもある私の独断で最初から最後まで選ばせてもらっています。スタッフからはキャプテンは津島香子さんか星川澪さんで、センターも巴せつなさんと白銀らぴすさん、もしくはどちらかを星川澪さんに変えたWセンター方式がいいのではないかという提案を多く受けました。その上で、改めて全員の映像を見たときに、私個人として祈ヒスイさんの中に光る物を強く感じたんです」
兄様は手に持ったボードをひっくり返してみんなに見せる。
そこには、1位、祈ヒスイ、2位、天宮ことり、3位、星川澪と書かれていました。
「知っての通り実際の順番では、審査員全体の意見が反映されるので、那月紗奈さん、巴せつなさん、白銀らぴすさんの順番です。しかし、予選を突破した20人の中で、今、私が誰をプロデュースしたいかと問われたら、迷わずこの3人の名前を上げるでしょう。だからその直感を信じて、祈ヒスイさんにキャプテンだけではなく、この誰がセンターに入ってもおかしくないチームのセンターも託そうと思います」
兄様の発言で会場がどよめく。
2番の巴せつなさんでも、3番の私でもなく、9番の祈ヒスイさんにキャプテンだけではなくセンターも託すなんて、きっと誰も予想なんてしていませんでした。
そして兄様のその発言を受けて、隣に並んでいる星川澪さんと巴せつなさんから、ものすごい圧が発せられます。こわいこわいこわい! に、兄様!? なんか兄様の発言ですごく殺伐してるんですけど!?
「はっきり言って、このチームのコンセプトはチーム内の競争です。他のチームとの競争だけではなく、自チーム内の争いでまず勝たなければいけません。つまり、私としては全員でセンターを奪い合って欲しい。私はあくまでも祈ヒスイさんをセンターに指名しましたが、自分の方が上だと思うのなら圧倒的なパフォーマンスを見せてそのポジションを奪い取ればいい。これは、他のチームにも言える事です。私の方がキャプテンにふさわしい。私こそがセンターでエースだ。そう思うなら、私達審査員が指定したキャプテンやセンターを食えばいい」
あわあわあわ、私達Cチームだけではなく、他のチームの人達の空気感までもが一気に引き締まりました。
大丈夫……かな? 私、本当にやっていけるのでしょうか? とっても不安になってきました。
「すみません帝スポです。質問いいですか?」
兄様は手を挙げた報道陣の方に、ええどうぞと優しく返した。
「天鳥社長に質問です。先ほど白銀あくあさんが自らの審査順位を公開しましたが、天鳥社長がどういうメンバーを上位に選んだのか、その理由と合わせて教えていただく事は可能でしょうか?」
「はい」
阿古さんが選んだのは、1位、私、2位、スバルちゃん、そして3位には、ラズリーさんを記載していました。
ラズリーさんは、私とは腹違いの義理の姉妹です。
先日、母様と一緒に美洲義母様の独占インタビューをテレビで見ていた事もあって、母様が私に教えてくれました。
「私はアイドルとしての感覚で選んだ白銀あくあ特別審査員とは違って、ベリルの社長としてビジネスの観点から、売り易さ、確実にリターンが見込める3人を選択しました。知っての通り、白銀らぴすさん、猫山スバルさんは、弊社所属のアイドル、白銀あくあと猫山とあの実の妹です。そして、ラズリー・アウイン・ノーゼライトさんもまた、白銀あくあの腹違いの妹に当たりますので、白銀らぴすさんとのセット売り、2人ユニットができる事を考えました」
阿古さんのコメントに、会場は再びどよめきに包まれる。
でも、思ったよりどよめきが少ないのは、ラズリーさんが私にそっくりだったからでしょうか。
私も今日ここにきて初めてラズリーさんのお顔を拝見した時、すごくびっくりしました。
「それではチームCの皆さん。自己紹介をお願いします」
スタッフのお姉さんが私達のチームのキャプテン、祈ヒスイさんにマイクを手渡す。
「あ、え、えっと……ってアレ!?」
祈さんはマイクの電源が入ってなくて慌てる。
どうやらマイクが故障していたみたいです。スタッフのお姉さんが新しいマイクを持って来ました。
大丈夫かな? 私も緊張してるけど、祈さんは私より緊張しているように見えます。
「チチチ、チームCのキャプテンでセンターのいいいい祈ヒスイです。そ、その、鹿児島県の……奄美大島っていうところからやって来ました。はく、白銀あくあ審査員の期待に応えられるように、頑張りたいと思います。その……わ、私もチームBのような、笑顔の絶えないグループにできたらなって……ははっ、ははは……」
祈さんの笑顔は引き攣っていた。
それ以上に、巴さんも星川さんも一切笑ってないです。
私と津島さんだけは気を利かせてニコリと笑ったけど、このチーム……もしかしたら最初からピンチなのではないでしょうか?
なんというか最初からピリピリしてるというか、噛み合ってないというか、本当に一つに纏まる事ができるのか不安になります。
祈さんからマイクを受け取った巴さんは、すっと前を向く。
「チームC、センターの巴せつなだ」
ヒェッ、この人、今、自分でセンターだって言いました。
これってつまり、祈さんのセンターを認めてないって事ですよね……?
「ここにいる全員を倒して私がアイドルになる。以上です」
あわわわわわ……巴せつなさんの発言に、何人かがピクリと反応しました。
ううっ、なんですかこれ? ベリルってこうのほほんというか、もっとホゲってる感じじゃないんですか!?
「チームC、センターの星川澪です。アイドルになるためにここに来ました」
あわわわ、そんな売られた喧嘩を即買わなくてもいいじゃないですか。
星川澪さんと巴せつなさんの視線が合う。
睨み合ってるわけではないのに、2人の間の空気がひえっひえです……。
皆さーん、さっきの祈ヒスイキャプテンの言葉を忘れたんですかー? ほら、ほら、笑顔でニコニコニー!
「おほほほ! チームC、センターの津島香子です。じゃなかった。ですわ! 私の美貌で皆様を笑顔にしますのよ!!」
濃っ! 何が濃いってキャラ付けじゃなくて、なんかこうちょっと華美すぎるというか、セクシーすぎるというか……明らかに天然美少女系の祈ヒスイキャプテンとは正反対です。
あとお胸のサイズが1人だけ大爆発していらっしゃる……。
残りの4人の中じゃ1番ある祈ヒスイキャプテンと比べても大きいです。
「え、えっと、チームCの白銀らぴすです。わ、私も笑顔が絶えないグループにできたらいいなって思ってて、あの、その……精一杯頑張ります!」
私は自己紹介するだけで一杯一杯でした。
はぁ……こんなので大丈夫なのでしょうか。不安で仕方ありません。
兄様は再びマイクを手に取るとスイッチを入れました。
「スタッフからは、妹の……白銀らぴすさんを、鯖兎みやこさん、猫山スバルさんと一緒のチームにしてはどうかと提案されました。というか自分以外はそれを想定して動いてくれていたのですが、私としましては、今のまま白銀らぴすさんをアイドルにしても良くないと思ったんです。昔から、可愛い子には旅をさせろと言いますが、あえて、白銀らぴすさんにとっては1番居心地の悪いグループに放り込みました。チームCにとっても、センター候補が多く集まる事でもっとバチバチしてほしいというか、このグループがどういう結果になるのかは1番楽しみでもあります」
兄様……兄様はきっと、私の中にある甘えとか弱さとかを見透かしたんだと思います。
だからこそ私はすごく恥ずかしくなりました。
頑張らなきゃ……私はお客様じゃなくて、みんなと同じオーディションのメンバーなのだから。
「それでは、最後のチームDを発表したいと思います。ラズリー・アウイン・ノーゼライトさんと猫山スバルさん、それに瓜生あんこさん、茅野芹香さん。そしてチームキャプテンの鯖兎みやこさんです」
私たちが席に戻ると、入れ替わりでチームDの皆さんが前に出ました。
「本来であればラズリーさんと猫山スバルさんのWセンターですが、このチームは5人です。前に2人が出て、後の3人が後ろというフォーメーションも考えましたが……そうですね。あえて今、センターを決めましょうか」
兄様の発言に周りの審査員の人たちもびっくりする。
予定した事だけでは終わらない。それが兄様……いえ、みんなの白銀あくあです。
「ラズリーさんがセンターで行きましょう。その上でキャプテンである鯖兎みやこさんが、チームをどうするかを見たいですね。このチームに関しては特にアドバイスはしません。ただ、現時点でも普通にやれば2位にはなれますが、1位には確実になれないでしょう。そこをどうするかがこのチームの鍵ですね。もちろん私たち審査員陣、つまりはコーチ陣もサポートはしますが、何が足りないのか、それを自分たちで見つけ出してほしいです」
みやこちゃん。スバルちゃん……。
「チームD、キャプテンの鯖兎みやこです。あの……私なんかが本当にチームキャプテンでいいのかなって思うんですけど、や、やれるだけの事はやってみたいと思います」
みやこちゃんは隣に居たラズリーさんにマイクを手渡しました。
「チームD、センターのラズリー・アウイン・ノーゼライトです。私は……お義兄様に会うために、オーディションに応募しました」
ラズリーさんの言葉に会場の中がざわめく。
兄様に会うためにって事は、別にアイドルになるためにって事ではないのでしょうか?
「お義兄様……ずっと、ずっと、ラズリーはお義兄様に会いたかったです」
ラズリーさんはぽぅっとした顔で兄様の事を見つめる。
完全に恋する乙女です。確実にアイドルオーディションとかどうでもいいんだ……。
私に甘い兄様ならもしかしたらと思いましたが、兄様はあえてラズリーさんの言葉には反応しませんでした。
それを見た、隣に立っていたスバルちゃんがラズリーさんからマイクを奪い取る。
「チームD、猫山スバルです。私はアイドルになるためにここに来ました。だからそのために……隣にいるやる気のない人からセンターを奪いたいと思います! そして、白銀らぴすさん、那月紗奈さん、巴せつなさん、祈ヒスイさん、ここにいる全員に勝って、私がベリルの、あくあプロデューサーが思い描く最高のアイドルになります!!」
スバルちゃん……本気なんだね。
本気のスバルちゃんをみて、すごくかっこいいなと思いました。
「チームD、茅野芹香です。私にとってはこれがアイドルになるラストチャンスなので、悔いがないように頑張りたいです。そのために他人よりも自分が出し切れる全部を出せるように集中したいです」
茅野芹香さんもすごく真剣な表情をしています。
この人もスバルちゃんと一緒ですごく本気なんだ……。
「チームD、瓜生あんこです。皆さん、オーディションに受かる事ばかりを考えていますが、当日の最終審査には、多くの人達が私達のパフォーマンスを見に来てくれると聞きました。私は、その人達が来てよかったなと思うようなパフォーマンスをしたいです。受かる、受からない以前に、アイドルとしてステージに立つからには、ファンの事を、観客席を何より考えたいです」
瓜生あんこさんの発言に、兄様が優しいお顔で小さく頷く。
あぁ……。そっか、みんな自分の事やチームの事ばかりで、そこが見えてなかった気がします。
すごいな……。本当にすごいと思いました。
「それでは最後にチームEの2人を紹介します。黒蝶孔雀さんと、山田丸男さんです」
2人の登場に報道席から何度もカメラのシャッターを切る音が聞こえました。
1人はあまり緊張していなさそうですが、もう1人は手と足が同時に出てて誰が見ても明らかに緊張しているように見えます。
「この2人に関しては本当にスタッフの人達から色々な意見が出ましたが、身長も含めてバランスがいいし、歌声がうまく噛み合えばすごくいいハーモニーを奏でてくれるのではないかと考えました。それにダンスパフォーマンスも、レッスンの余地はありますが、2人で十分に迫力のあるダンスを見せられると思います」
2人のうちの1人、下まつ毛がすごく長い中性的で綺麗なお顔立ちの人がマイクを取りました。
バッジナンバー16番、黒蝶孔雀さんですね。
「チームEの黒蝶孔雀だ。成り行きでオーディションを受ける事になったが、ここに来てすごく面白そうだなと思っている。隣にいる山田に足を引っ張られないか少々心配だが、やれることはやってみるつもりだ」
お二人は知り合いなのでしょうか?
黒蝶孔雀さんの発言に、山田丸男さんがぐぬぬとしています。
でも心なしか、この発言のおかげで山田丸男さんの緊張が取れたように思えました。
「チームEの山田丸男です! 自分は白銀あくあさんのライブを見て、あくあさんのようになりたくてここにきました! 俺もみんなを笑顔にできるような、そんなアイドルになりたいです! でもその前に……隣にいるこいつにだけは絶対に負けません!!」
山田丸男さんが啖呵を切ると会場内が今日1番どよめきました。
何故なら山田さんの啖呵もすごかったけど、それを聞いた黒蝶孔雀さんが笑顔を見せたからです。
少なからず、今日ここにきていたみんなは、男性だから少し優遇されてるんじゃないかなって思ってたんじゃないでしょうか。私だってそう思ってなかったと言えば嘘になると思います。
でも、なんでしょう……さっきのあの雰囲気、なんかもう既に少しベリル感が出てるというか、ドライバー感があるというか、少なくともさっきのあのやりとりだけで報道陣の心はガッツリ掴んだと思いました。
だって、さっきまでのピリピリした雰囲気が嘘みたいに、報道陣の人達もみんなどことなくワクワクするような笑顔になってたからです。ふぅ……これは、どちらかというと私達、女性陣の方が勉強させられたのかもしれません。
「それでは以上でチーム分けの発表記者会見を終了します。今日はレッスンはないので、皆さんそれぞれの部屋に荷物を置いて、ゆっくりしてください。あ……でも自主トレや、チームディスカッションをするなとは言ってませんからね」
あ……もう戦いは始まってるんだ。ど、どうしよう?
チームAとチームBはすぐに集まってチームディスカッションを始めていました。
「あ、えっと、じゃあ、私達もチームディスカッションするから……らぴすちゃん、またね」
「あ、うん。みやこちゃんも頑張って」
みやこちゃん、キャプテンさんだなんて大変だろうなと思いました。
「らぴすちゃん……」
「スバルちゃん……」
スバルちゃんと目が合いました。
「私、本気だから……だから、らぴすちゃんも本気で来てほしい!」
スバルちゃんはそう言うと、手荷物を持ってみやこちゃん達、チームDのみんなが集まってるところへと向かいました。
「え、えっと、チームCもディスカッションしますよ〜」
「あ、はい!」
私は祈さんの所へと行きましたが、他の3人はもう荷物を持って会場から居なくなっていました。
なんでも皆さん、荷物をさっさと自分の部屋に置いた後、個人トレーニングに行ったのだとか……。
こっ、このチーム、本当に大丈夫かな……?
こうして不安な気持ちのまま、AQUARIUMのオーディション合宿が始まりました。
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