白銀カノン、あくあパッパ!?
「お姉ちゃん、行くところがないから泊めて?」
「は?」
ある日突然、家に妹のハーがやってきた。
それもキャリーケース一つ持ってって、どこの家出少女よ!
おまけにその隣には……。
「カノンお姉ちゃん久しぶりなのじゃ!」
「へ?」
なんで、フィーちゃんがここにいるのよ!
どういうこと!?
私はまたペゴニアがお婆ちゃんと結託して、何か余計な事をしたんじゃないかと思った。
「私じゃないですよ。お嬢様、むしろ原因は旦那様にあるかと」
「あくあが?」
どういう事だろうと私は首を傾ける。
というかペゴニアは、私の思考を先読みしないでよね。
「ほら、旦那様が募集したアイドルオーディションの……お嬢様が魔法少女みたいなアイドル服着て、いつもの馬鹿4人で応募しようとしたアレです」
ペゴニアは検証班4人がノリで撮ってしまった、黒歴史の写真をピラピラと見せつける。
私は2人に見られてはダメだと、慌てて奪い取るとポケットの中に突っ込んだ。
「ちょ!? あ、ああああアレは私じゃなくって、みんなで悪ノリして……って、今、バカって言った!?」
「気のせいですお嬢様。ああ、もしかしたらお耳がご病気なのかもしれません。後で耳鼻科に行きましょう。そのついでに産婦人科に行って色々と診てもらいましょうか、ね?」
「いっ、いかないわよ! もう!!」
アイドルオーディションに応募しようとした時の事を思い出して顔が赤くなる。
本当にあれは大惨事だった。おまけに調子に乗ってみんなで学生服とか着ちゃうし……。
でも、4人でメアリーの制服を着て、一緒に記念撮影できたのは良かったと思う。
だって、みんなと年の差とか関係なく同級生になれたみたいで、それがちょっと……ううん、結構、嬉しかった。
「と、とりあえず、玄関で立ち話もなんだから、2人とも家の中に入って」
「うん。お邪魔します」
「はい、なのじゃ! お邪魔しまーす!!」
あれ? 私は通路を歩いている途中で、ふと立ち止まった。
ちょっと待って! 普通に考えたら、この2人が護衛もなしにここまで来れるのはおかしくない?
それに、誰がマンションの外から玄関までこの2人を手引きしたの?
って、そんな事ができるのはお婆ちゃんかペゴニアしかいないじゃない!
ほらー、やっぱり2人も協力してたんじゃないの、も〜っ!
「お嬢様、こまけー事を気にする女はモテませんよ。えみり様もそう言ってました」
「私はもうあくあの奥さんだからモテなくていいの!」
って、自分で言って恥ずかしくなっちゃったじゃない。
「自爆乙」
ちょっと! 絶対に乙の後に草生えてたでしょ!
全く、あくあと会うまでのペゴニアはこうじゃなかったのに……。
でも、今のペゴニアの方が笑顔が増えたし、まぁ、いっか!
「で、2人とも、本当にアイドルオーディション受けるの?」
「うん。ていうか、さっき受けてきた。3日前に来日して、試験が終わるまではベリルの宿舎でお世話になったから」
なるほど。そういう事なら、あくあは2人が来ていたのを知っていたのかなと思った。
私の表情を見て、フィーちゃんが眉尻を下げて申し訳なさそうな顔を見せる。
「カノンお姉ちゃん。この事であんまりあくあお兄ちゃんを怒らないでいてあげて欲しいのじゃ。妾達がびっくりさせたいから黙っておいてってお願いしたから……」
「ふふ、大丈夫よ。あくあに対してそんな事で怒ってたら身が持たないわ」
そもそも2人とも、普通の女の子は男の子に怒ったりしないからね?
でも、あくあは姐さんか阿古さんに何かしらの罪状で叱られて欲しい。
「お姉ちゃん……苦労してるんだね」
「カノンお姉ちゃん……どんまいなのじゃ」
あれー? なんか年下の女の子2人から哀れみの視線を向けられてるのは、私の気のせいかな?
「お嬢様……苦労されてるんですね」
ちょっと! ペゴニアはこっち側でしょ!
なんで主人の私だけが苦労しなきゃいけないのよ! もーっ!
「そういうわけだからお姉ちゃん、合宿が始まるまでの間だけでもいいから泊めてほしいの」
「うん、それは別に構わないんだけど……」
普通の男の子なら、奥さんの親戚でも他の女の子が泊まるとか言ったら拒否反応を示すけど、あくあはえみり先輩が泊まる時ですら完全に無警戒だからそこは大丈夫だと思う。
「2人とも、オーディションに合格したら、日本で活動しなきゃいけなくなるけど、そこは大丈夫なの?」
普通に考えて王族の2人、それもまだ中学生にもなってない2人が護衛もつけずにこの国に拠点を置くというのはあり得ない話だ。
「その事なんだけど、私もお姉ちゃんと同じ様に王家を離脱しようと思ってるの」
「へ?」
「あ、一応お母さんにも、ヴィクトリアお姉ちゃんにもその事は言ってあるし、メアリーお婆ちゃんやキテラとも……あ、あと、えみりお姉ちゃんにも相談してるから大丈夫」
大丈夫って、私、知らないんだけど?
え、待って? そのラインナップなら、普通、私にも相談して良くない?
ていうか、えみり先輩、完全に他人じゃん!!
も、もももももしかして、ハーの中じゃ私ってえみり先輩より下なんじゃ………
あ……なんか、すごく悲しくなってきた。
「お嬢様、どんまい」
なんでペゴニアはちょっと嬉しそうなのよ!
私達のやりとりを見たハーは、申し訳なさそうな顔をする。
「だって、お婆ちゃんが……新婚さんは色々とヤル事が多いから、お姉ちゃんに子供ができるまではあんまり電話かけちゃダメよって言ってたから」
おばーちゃーーーーーん!
ハーはまだ10歳なのに、あの人は一体、何を言ってるのよ、もう!!
「それと、えみりお姉ちゃんが、お姉ちゃんは毎晩運動会とかレスリングとか柔道してるからって……お姉ちゃん、スポーツ選手になるの?」
よし、えみり先輩は明日から出入り禁止ね。決定。
「それで合格した後は、お婆ちゃんと一緒に住むの?」
「それも考えたけど、ベリルが家を手配してくれるし、そっちでフィーちゃんと一緒に住んでもいいかなって、担当マネージャーさんと同居って話もしてくれたし、あとはキテラもこっちに来てるから。一緒に住むかもしれないって話はしてる」
え? 今、なんて……?
キテラもこっちに来てるってどういうこと?
私、それも知らないんだけど……。
「お嬢様、何も知らないって案外、幸せな事なんですよ」
だから、ペゴニアは私の心を読んで一々煽ってくるの何なの!?
もー、絶対にえみり先輩かえみり先輩かえみり先輩の悪影響でしょ!
「ただいま〜」
あ、この呑気な声は、間違いない。あくあが帰ってきた。
「おっ、2人とももうきてたのか」
「お邪魔してます」
「お邪魔してるのじゃ!」
やっぱり、あくあは知ってたんだ。
むーっ、私は何も知らなかったんだけどと、わざとらしく頬を膨らます。
「はいはい、かわいいかわいい」
あくあ……頭を撫でてくれるのは嬉しいけど、なんかちょっと私への対応が雑になってない?
「お嬢様はとても面倒臭いですから仕方ありません。むしろ構ってくれるだけ旦那様はお優しいですよ。私ならスルーです。面倒臭いお嬢様に対して常に構ってくれるのなんて、この広い世界中を探しても旦那様とえみり様だけしかいませんよ。むしろお2人には感謝するべきかと……」
あれー? なんか私が悪いみたいになってない? 気のせいだよね?
「まぁ、カノンは一旦横に置いておくとして、2人とも俺は合宿が始まるまでは、公平性を保つために一切アドバイスはしないから、そのつもりでいるように。もちろん個人で練習がしたい時は俺が使ってる部屋を使ってもいいからね」
「はい!」
「はいなのじゃ!」
やっぱりあくあって、アイドルに関しては一切忖度しないっていうか、そういうところはちゃんとしてるんだね。
そう思ってたのに、数十秒後に自然とフィーちゃんを膝の上に乗せているのを見ると、その思いも疑わしくなる。え? 本当に身内贔屓とかそういうのじゃないよね?
というか、普通に膝の上に乗ってるフィーちゃんがうらやま……って、小さい子を相手に何を言ってるのよ私!
「じーっ……」
はっ!? この視線は……ハーの方を見ると、フィーちゃんの事を羨ましそうに見つめていた。
「ん? ハーちゃんも抱っこして欲しいのかな? ほら、こっちにおいで」
「はい、パパ」
パッパァッ!?
「パッパァッ!?」
あ、あくあと同じ反応しちゃった。えへへ……。
「あ、ごめんなさい。間違えちゃいました。そ、その、男の人に甘えた事がなくって……」
「ふぅ……許します。今日からお兄ちゃんがパパです」
あくあ? なんかすごくキリッとした顔してるけど、表情が緩んで見えるのは私の気のせいだよね?
「じゃあ、フィーも今日はパパって呼んじゃうのじゃ!」
「うんうん、こんなかわいい娘が2人も居て、パパは幸せだぞ〜」
うん……なんか、2人と戯れあってるあくあを見てるとすごく微笑ましい気持ちになった。
やっぱり、あくあって子供ができてもすごく構ってくれそう。
この人となら子供を作っても絶対に幸せになるだろうなと思ったら、すごく心の奥がポカポカした。
「お嬢様、覚悟を決めましょう。私もお嬢様と旦那様の子供をドロドロに甘やかしたいです。私も頑張りますから、みんなで深夜の大運動会を開催しましょう」
「にゃにを言ってるのよ、ペゴニアのバカ!」
もー! 相変わらず変な事ばっかり言うんだから。
こんな小さい子を2人も家で預かってるのに、そんな事できるわけないでしょ!
「2人ともお腹空いてないか?」
「はい。実はまだ食べてません……」
「実はもうペコペコなのじゃ……」
「よーし、それならパパが今から2人のためにお子様ランチを作っちゃうぞ〜」
「ふおおおお〜! お子様ランチ! なんて素敵な響きなのじゃ!」
「お子様ランチ……そんな食べ物があるのですね。楽しみです」
ふふ、本当の親子みたい。
微笑ましい気持ちになる一方で、さっきのペゴニアの発言のせいで、私はほんの少しだけ頬を赤らめる。
もう、もう! 本当に赤ちゃんが欲しくなっちゃうじゃない。ばか……。
「めちゃくちゃ美味しかったのじゃ……」
「ご馳走様でした。パパ、すごく美味しかったです」
「3人とも残さずに食べたのは偉いぞ!」
あくあはそう言って、私達3人の頭を順番に撫でる。
あれ? いつの間にか、私もあくあの娘ポジになってない?
「もう、お嬢様ったら、お口の周りにソースがついてますよ」
ペゴニアは珍しく優しい笑みを見せると、まるでお母さんが子供をあやすように持っていたティッシュで私の口の周りについたソースを拭き取ってくれた。
あれー? なんかさりげなくペゴニアがお嫁さんポジにいる様な気がするんだけど、私の気のせいかな?
「ペゴニアさん、それとってくれる?」
「はい、旦那様。あ、こちら洗っておきますね」
「うん。ありがとう」
ほげ〜……あ、ダメ、今、料理配信の時の楓先輩みたいになってた。
ぼーっとしてたせいで私はポケットに入れていた写真を落としてしまう。
「ん? なんだこれ?」
写真を拾ったあくあは目を見開く。
「こっ、これは……!」
あくあは、まるで何かのドラマが始まったみたいに、膝から崩れ落ちていった。
ううう、恥ずかしい写真を見られちゃったよぉ……。
「くっ、俺もここに混ざりたかった……」
「え?」
あくあの言ってる事が理解できなくて私は固まる。
「カノン……この写真は……?」
「えっと、その……」
私がしどろもどろになっていると、隣からペゴニアが出てきて包み隠さず全てを説明する。
それを聞いたあくあが倒れ込むように、床にへばりついた。だ、大丈夫?
「ごめんね。魔法少女のコスプレとか、こんなの小学生までだよね……」
「カノンは何もわかってない」
「えっ……?」
あくあは立ち上がると、真剣な表情で私の両肩に手を置く。
「いいかい? こういうのは確かに年相応の女の子が着ると可愛いよ。この制服の写真だって、カノンは高校生だからちゃんと可愛いだろ」
「う、うん……」
可愛いって言われて嬉しくなる。
「でもな。高校生の制服を高校生じゃない人が着る事にもとても価値があるんだ。それもできれば恥じらいながら着てほしい!! 特にこの、琴乃の姿を見てくれ! 下手したら人妻が高校生の制服とか、魔法少女の格好をしているようにみえないか?」
「う、うん……」
「それがいいんだよ!!」
え? 今の説明じゃ、何がいいのかさっぱりわからないんだけど……?
「こっちは必死に、どうやったら合法的に琴乃と結に学生服を着せるか悩んでるというのに、カノン、お前ってやつは……うらやましい……ぐす、ぐす……」
「あーあ、お姉ちゃんがパパの事を泣かしちゃったのじゃ」
「パパ、元気出して。ハーがギュッてしてあげる」
え、あ、ちょっと待って、今の私が悪いの……?
「仕方ありません。ここはお嬢様の魔法少女姿で我慢してもらいましょう」
「ええ? ま、待って、何、その羞恥プレイ!? あくあもそんなの今更、見たくないよね?」
「最高です!」
「え?」
「最高でぇす!!」
「いや、まだするとは……」
「最高でーす!!」
はい、そういうわけでなぜかあくあの前で同じ格好をする事になりました。
あと、ハーとフィーちゃんもやりたいっていうから、子供が生まれた時のために一緒にやろうと思って買ってあった子供用の衣装を着せる。まさか、これがここで役に立つとは……。
「むむ……お嬢様のでは、少しサイズがきついですね。特に胸の辺りが……」
「って、なんでペゴニアが着てるのよ!」
色々とはみ出しすぎでしょ!
全体的にムチムチしてて、えみり先輩と同じチジョーじゃない!!
「最高でーす……」
壁際から顔を出したあくあが、キラキラした子供のような純真な目でこちらを見ていた。
もう、そんな遠くから見なくても、早くこっちに来たらいいじゃない。
「最高でした……」
なんかよくわからない事になったけど、あくあが満足そうだからいっか……。
でも、私よりペゴニアの方をチラチラ見てたのはちゃんとわかってるから、ね?
「ふぁ〜っ、フィーはもうおねむなのじゃ……」
「ああ、ごめんねみんな」
そっか、もうそんな時間か。
私も眠いと思ってたらもう寝る時間だ……。
「ハー、パパと一緒に寝たい」
「フィーもパパと一緒に寝るのじゃ」
「ん? じゃあ3人で寝よっか」
「はい!」
「うんなのじゃ」
っとぉ、一瞬普通に見過ごしそうになったけど、ハーにはお風呂の前科があった。
「私も一緒に寝る」
「え?」
「私も一緒に寝るから!」
フィーちゃんは大丈夫として、ハーの監視のために私はあくあと挟み込むようにして、ハーの背中をじっと見つめていた。そうしているうちに、自分でも気がつかないうちに眠ってしまったみたい。
気がついた時には朝だった。
「ん……」
とりあえず何もなくて良かった
「んん」
あ、あくあが起きた。
いつもなら、あくあのほうが早起きなのに珍しい。
ふふ、でも、今日は私の方が先だったから、あくあの寝顔が見れてラッキーだと思った。
「お? みんな早いな。おはよう、カノン、フィーちゃん」
「おはよう、あくあ」
「おはようなのじゃ!」
「んん……」
どうやら私たちのおはようの声でハーも目が覚めたみたい。
「おはよう、ハーちゃん」
「おはようです……パパ」
ふふ、頭がぐらぐらしてるところを見ると、まだおねむなんだろうなと思って微笑ましくなる。
こういうとこはちゃんと子供なんだよね。
「それじゃあ、行ってくるのじゃ!」
「行ってきます!」
「うん、2人とも頑張ってね」
私は玄関前で出発直前の2人の衣服を整える。
「それじゃあ、俺も一緒に行くから」
「うん、あくあも頑張ってね」
あくあは2人の手を引いて外に出る。
ふふ、結婚して、子供ができたらこんな感じになるのかな。
いいなぁと思った一方で、なんだかあくあと2人きりの時間が少なくなって、ちょっぴり寂しいな、とも思ってしまった。
そんな事を考えてたら、玄関が開いて、あくあが1人だけお家に戻ってくる。
「どうしたの? あっ、もしかして忘れ物とか?」
「うん、そう」
「大変、何を忘れたの? 取ってくるから」
私がそう言うと、あくあは私の腕を掴んで抱き寄せるようにハグしてくれた。
「これが忘れ物」
「……もう。……好き」
もう一回あくあとハグした。
「それじゃあ、いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
私はハグの余韻を味わうように、仕事へと向かうあくあの後ろ姿を見つめた。
やっぱり、この人と結婚してよかったなって思う。それと同時に、子供ができても、きっとあくあは変わらず私に構ってくれるんだろうなと思ったら、すごく嬉しくなった。
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