白銀らぴす、決意を新たに。
「それじゃあ、午後からは私と一緒ね」
「よろしくお願いします!」
午後からは愛華さんじゃなくて、姉様が担当してくれる事になりました。
姉様は、阿古さん、琴乃義姐様に次ぐ兄様の3番目のマネージャーですが、純粋なマネージャーではなく法務部に所属しているそうです。
でも今は人手が足りない事もあって、法務部としての仕事よりも、外国語が堪能な事から海外との取引を担当したり、空いてる時間はお客様相談室などの対応が多いと聞きました。
「あ、電話」
どうやら姉様の元にコロールの人から電話がかかってきたようです。
『来年の3月に行われる秋冬のランウェイショーですね。大丈夫です。ちゃんとスケジュールは押さえてますよ。それと弊社がエージェント契約を結んでる白銀カノンさんの方にも了承をとっているので、4月からのアレもいけると思います。はい。あ、大丈夫です』
あわわ、職場体験とはいえ、部外者の私が先のお仕事のお話なんて聞いていいのでしょうか……。あ、だから垣内さんは身内だから安全ってニュアンスの事を言ってたのかもしれないと納得しました。
ファッションショーは決まって年に2回あるから、兄様が出るのはなんとなくわかってましたけど、カノン義姉様は一体何のお仕事なんでしょう? ショーは3月からなので、4月となるとまた話が違ってきます。
1人のベリルファンとして楽しみだなぁと思いました。
コロールへの電話対応が終わると、すぐに次の電話がかかってきます。
『あ、もしもし、スターズウォーに使うビームセイバーなんですけど……はい! 既に本人の手元の方に届いております。撮影の方も……はい、わかりました。そのようにお伝えしておきます』
スターズウォーの名前を聞いて私は目を輝かせる。
しかもあのビームセイバーが兄様の手に……見たい! 見たいなんて言って普通は見れるわけないけど、本物のビームセイバー、それも兄様のを見たいと思いました。
カノン義姉様みたいに可愛くお願いしたら見せてくれるかな……?
『え? ステイツの連続ドラマですか? 脱獄と医療どっちがいいって? ちょっと待ってください。男性が脱獄ってそんな事あり得るんですか? え? 多くの女性を魅了しすぎた無実の罪で逮捕されて、そこから脱獄と……なるほどなるほど、ネタドラマですね』
兄様はそんな悪い事なんてしません! って言おうとしたけど、多くの女性を魅了した罪と聞いて姉様と一緒になって何度も頷いてしまいました。
「ごめんね。ちょっと海外からの依頼も立て込んでて、それじゃあお客様相談室に行きましょうか」
「はい」
私と姉様は電車に揺られて、コールセンターのある八王子へと向かう。
姉様曰く移動だけで1時間以上もかかるので、コールセンターも来年には品川あたりに移動するかもしれないと言っていました。
「それじゃあ、らぴすはこの席ね。私が隣にいるから、困った時はすぐに聞いてね」
「はい!」
電話対応なんてすごくドキドキします。
お客様の音声で自動判断したAIが、画面に応対の模範解答を示してくれるそうですが、それでも中学生の私が対応していいんでしょうか? 不安ですが、やれるだけの事はやってみます。
あっ、すぐに電話がかかってきました。
「もしもし、こちらはベリルエンターテイメント、お客様相談室の白銀らぴすです」
「あ、えっと……って、らぴすちゅわん!?」
電話の向こうでお客様が驚いた声を出していました。
うーん、それにしてもどこかで聞いたことがある声のような気がします。
というか毎日聞いている声のような気がしました。
「えっと、今は職場体験の一環でお客様相談室を対応させて貰ってます。もし、私が不安でしたら他の方に代わる事もできるのですぐにおっしゃってくださいね」
「だ、大丈夫です」
電話の向こうのお客様は軽く咳払いする。
「ええっと……あくあちゃ、ゲフンゲフン、白銀あくあさんの仕事の量が多くて不安です。体調とか崩してないでしょうか?」
イヤフォンから聞こえてきた声がノータイムで目の前のパソコンの画面に表示されると、すぐ下に模範回答が表示されます。私はそれを見て自分なりの言葉に直してお客様に対応する。
「そうですね。弊社と致しましては、できる限り仕事をセーブしようと善処してはいるのですが、気がついたら仕事を入れている事も多く制御ができないというのが現状なんです。アルティメットハイパフォーマンスサーバーを使った国立赤門大学の研究でも、白銀あくあは制御不能という結論にたどり着いたと聞きました。そういうわけなので、その……諦めてください」
「はい……ありがとうございます。あと職場体験、頑張ってください」
「はい!」
ふぅ……なんとか1人目の対応が終わりました。
最初はどうなるかと思ったけど、普段聞き慣れてる声だったおかげで緊張せずに対応できたと思います。
っと、すぐに次の電話がかかってきました。
「こちらはベリルエンターテイメントお客様相談室の白銀らぴすです。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「え? らぴす……ちゃん!?」
あ、声だけでもう綺麗な人だってわかります。
って、この声もどこかで聞いた事があるような……。
うーん、なんでしょう。そこはかとなく高貴な香りがするような、しないような……。
「あくあが……じゃなくって、白銀あくあさんの帰りが遅くて心配になります。年末年始はイベントが多いのですが大丈夫でしょうか?」
「それ、さっきやりました」
「え?」
「あ、すみません。えーっとですね。それは、弊社のアルティメットハイパフォーマンスサーバーと赤門大学の共同研究によると……」
私はさっきと同じような事を言って納得してもらいました。
隣でお嬢様、会社の人に迷惑をかけるのはやめましょうって声が聞こえてきたから、きっと世間知らずなお嬢様なのでしょう。
「はい、ベリルエンターテイメント、お客様相談室の白銀らぴすです」
「え、あ……えっと、先日放送された森川楓の部屋の放送についてなんですが」
「はい」
「次回からも森川楓の部屋のままですよね!? 何かの間違いで小雛ゆかりの部屋とか、白銀あくあの部屋とかに名前が変わったりとか……」
「えーっと、その事に関しては、放送局のお客様相談室に問い合わせた方が……」
「そっちに問い合わせたら検討中って返答が来て、慌ててこっちに電話してるんですよ!! あわわわわ!」
だいぶ焦ってるみたいだけど、この人、大丈夫でしょうか?
「次はちゃんと森川楓さんも出ますよね!? 森川楓さんのアナウンス能力が必要だって言ってください!!」
「はぁ……その、これはベリルに関係なく私個人の発言として受け取ってほしいのですが、森川さんはこの前の掛け合いも面白かったし、出たら出たで面白くなるとは思いますよ」
AIの回答では、出なくても成立してるから問題なしと書かれていましたが、それはなんだかかわいそうな気がしたので私なりの対応をしてみました。大丈夫かな?
「最高かよ……」
「え?」
「やっぱりらぴすちゃんは天使!! たしなんとかさんとか、はかなんとかさんみたいな薄情者とは違いますわ!!」
お客様は満足したのか喜んでくれました。
私の対応で少しでもご満足いただけたのならよかったです。
それにしても聞き覚えのある声でした。国営放送のニュース番組で聞いたことがあるような、ないような……。
あ、そんな事を考えていたら次の電話がかかってきました。
「あー、もしもし」
「はい。ベリルエンターテイメントお客様相談室です」
「この前の白銀あくあの部屋なんですけど、次も途中でお着替えコーナーとかポロリとかありますか? ぐへへ……」
あ、なんかパソコンの画面に警告文が出ました。
えーと、なになに、音声データを分析したAIさん曰く、要注意人物だという事です。
なんでも過去にも兄様に対してセクハラまがいの発言が多かったとか。だ、大丈夫かな?
「そういった事は、番組が放送されている放送局さんのお客様相談室にご相談いただければと思います」
「いやあ、あっちはお堅い人が多くってどうにもね。こっちの軽いジョークも通じないんですよ。全く、テレビ業界はホゲ川みたいな冗談のようなアナウンサー雇っておいてそれはないでしょ。ねぇ、ところでお姉さんもあくあ様で……」
あ、ダメですねこの人。完全に超えてはいけないボーダーを超えてます。
確かに私も兄様が居ない時に、兄様のベッドの上で匂いを嗅いだ日はありましたけど、それをおおっぴらに話すのはダメなんですよ。
「すみません。当社としてはこれ以上の対応はできかねます。お姉さんの気持ちはわかりますが、そこを抑えてこその真の淑女ではないでしょうか? それでもしつこく問い合わせをされるようでしたら、当社としても検討を重ねて警察の方に相談させていただきたいと思います」
「す、すみませんでしたー!」
まるで三下が言うような捨て台詞を吐いてプツリと電話が切れる。
うーん、声はあんなにも美しいのに、どうして言っている事がこんなにも下品なんでしょうか。
私が電話対応を終えると、周囲から拍手が巻き起こった。
「らぴすちゃんすごい!」
「あのチジョーには困ってたのよ」
「そうそうつい話が弾んじゃって」
「わかる。全女子の願望だもんね」
「迷惑っていうよりもむしろ盛り上がっちゃうんだよね」
「そのせいでね、ついつい話し込んじゃうんだよね」
「わかる。あのお姉さんのトーク楽しいもんね」
え、そっち?
まぁ、普通に迷惑なだけの人じゃなくてよかったです。
っと、また電話がかかってきました。
すごい電話の量です。
「もしもし、ベリルエンターテイメントお客様相談室です」
「もしもし!」
なんかそこはかとなくツンツンした声です。
「おたくの白銀あくあって奴の事なんですけど!」
え? 兄様を呼び捨て? それも、怒った様子なんて只事ではありません。
パソコンの画面には、超危険人物と警告文がずっと出てます。大丈夫でしょうか?
「自分のところのタレントには、私からのメールと電話を無視するなって言っておきなさいよ!!」
「はい。えっと……お客様はその、弊社の白銀あくあとはお知り合いでしょうか?」
兄様は誠実な人です。女性からのメールや電話に応えないなんて事、普通に信じられません。
それにしてもこの高圧的な喋り方にも関わらず、遠くから子犬がキャンキャン吠えてるだけのような印象を感じるのは私だけでしょうか?
「私よ私!」
私よ私? もしかして新手の詐欺の電話でしょうか。
最近では、兄様を装ってお金を振り込んでくれという自称白銀あくあ詐欺という事件がありましたが、あっという間に犯人が逮捕されてました。
「もう、察しが悪いわね! 越プロダクション、コシプロの小雛ゆかりよ!!」
あっ……なんか聞いたことある声だなって思ったら、小雛さんだったんですね。
流石に芸能界の先輩でもある小雛ゆかりさんからのメールや電話に応えないのは不味いのではと思った私は、それとなくどういう内容の事を送ったのか聞いてみる事にしました。
「えーっと……ちなみに、どういった内容を無視されたのでしょうか? お手数ですが確認のために、こちらのメールアドレスに送ってみてはもらえないでしょうか?」
「わかったわよ」
結論から言うと、全てにおいてほんとーーーーーーーーーーーに、どうでも良い内容ばかりでした。
こればかりは仕方ない気がします。それに小雛ゆかりさんに話を聞くと、一応既読はついてるみたいですし、ちゃんと必要な連絡に対してはすぐに応えてるみたいなので問題なしと判断しました。
「そのくせあいつったら、共演した胸が大きなタレントとのツーショット写真を送ったらすぐに反応するのよ! 信じられる!?」
「それは本当ですか!?」
Jだって!? 送られてきた画像をみて唖然としました。
「どう!? ありえないでしょ!」
「ありえませんし、許せません!!」
兄様はもっと小さのいがいいって事も知るべきなのです!
こうなったら偶然を装って、兄様のお顔にダイブしてみましょうか。
そうすれば小さい魅力にも気がついてくれるかもしれません。
「あら、貴女、中々話がわかるじゃない。ふふん、今日は機嫌がいいからこのくらいにしておいてあげるわ!」
あ……小雛ゆかりさんは満足したのか、自分の言いたい事だけを言って電話を切りました。
そしてまた拍手が巻き起こります。
「いよ! さすがはらぴすちゃん!!」
「お願い。らぴすちゃん職場体験じゃなくて、このままお客様相談室に来て」
「らぴすちゃんなら即戦力」
「超問題児、小雛ゆかりに対応できるのはらぴすちゃんだけ!」
なんでしょう。皆さんとても苦労されてるんですね。
私はいつも兄様がお世話になってます。本当にありがとうございましたと感謝の気持ちを伝えました。
そんなこんなで私の職場体験は順調に終わりを迎える。
「それじゃあ、これで最後ね。あとはみんな、気をつけて学校に戻るように」
「「「はい」」」
「今日はありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
本社に戻った私は、スバルちゃんやみやこちゃんと一緒に聖クラリスへと帰りました。
兄様のお仕事を間近に見られなかったのは少し残念でしたが、これはこれで貴重な経験をさせて頂いたのではないでしょうか。
学校の体育館に集められた2年生は、それぞれが職場体験したところの話で盛り上がって、私やスバルちゃん、みやこちゃんも質問責めに合いました。
「2年生の皆さんは正面中央にあるステージへと視線を向けてください」
私達は会話を止めると体育座りをしたままでステージへと視線を向ける。
最後に学年主任か校長先生がお話をして、帰宅をする流れではないでしょうか。
ええ、誰しもがそう思っていたはずです。
ステージの上に吹奏楽部の部員さんが出てきました。
「私達は今日、国営放送交響楽団へと職場体験に行ってきました。そこで実際に練習をさせていただいて、今から国営放送の皆さんと一緒に演奏を披露したいと思います。みんなも知ってる歌だと思うので、よかったらみんなで立って歌ってください!」
わっ! わっ! 兄様が歌う四季折々です!
うわー、すごいです。さすがプロだけあって演奏が素敵です。
『春夏秋冬、めぐる季節を君と一緒に重ねて行けたらいいな。さぁ、休みの日は何をしようか。君と計画を立てる休み時間。今日は帰り道にどこに寄ろうか、明日は朝から遊べるよね。週明けの憂鬱な学校も君と友達になってからは楽しくなった。何気ない日々の日常、こんなにも色鮮やかに彩られているのはきっと君のおかげだよ。春夏秋冬、この先もずっと君と過ごせたらどれだけ楽しいだろうか?』
みんなで立ち上がって一緒になって歌います。
あの文化祭の前夜祭の映像が流れた後、この曲はどこの学校でも歌われるようになりました。
中には学校全体で練習してyourtubeとかで動画を上げたりするところもあって、そこに兄様達のコメントがあったりして、それでまた盛り上がったりしたんですよね。
『秋は近くの公園で君と紅葉を見よう。
冬はみんなでクリスマスを祝おう。
1年の終わりを君と過ごしたい、みんなで祝いたい。
来年の春にはみんなで花見をしよう。
その後の夏休みはみんなで海に行こう。
新しい季節も君と一緒に学校に通いたい、みんなで過ごしたい』
この曲は、みんなが笑顔になる曲です。
1番を歌い終わる頃にはみんなが笑っていました。
学校の先生達や校長先生達もニコニコしてて楽しくなります。
そんな時でした。聞き覚えのある歌声が体育館中に響き渡ります。
『季節がめぐる度に、君との楽しい思い出がまたひとつできる。たまには喧嘩したりする事もあるかもしれない。それもまた青春の1ページ』
「ぎゃああああああああああああ!」
「きゃーーーーーーーっ!」
体育館の中が騒然となりました。
最初は至る所から悲鳴が聞こえて来ましたが、最初の歌詞を歌い終える頃にはみんなが静かになる。
舞台袖から現れるのかと思いきや、横の扉を開いて外から兄様が現れました。
『そうやってみんな仲良くなっていくんだ。だからずっと俺のそばにいてくれよ。君をもっと楽しませるって約束するから、俺から離れていかないで』
「きゃーっ!」
なに!? 今度はなに!?
後ろから大きな歓声が聞こえてきて振り向いたら、体育館の二階席に天我先輩が現れました。
『辛いことはいっぱいあるかもしれない。涙を流した夜だって昨日だけじゃない』
「わー!!」
次は前からです!
舞台袖から現れた黛さんが少し照れ臭そうにみんなに手を振っている。
『ごめんな。本当は寂しがり屋の君を1人にして。だけど、ほら、もっと周りをよく見て。俺だけじゃない。君の周りにはこんなにも多くの人がいる』
「きゃあ!」
兄様が現れたのと反対側からとあちゃんが出てきました!
って、聖クラリスの制服がすごく似合ってます! 可愛いー!
『ねぇ、今、君の隣には誰がいる? 春夏秋冬、新しい季節をみんなと過ごそう。君は1人じゃない!』
中央で4人が揃うと兄様は私達の気持ちを煽るように手を振る。
「みんなも一緒に歌おう!!」
ここで再び体育館の中は大歓声に包まれました。
『来年の今頃は紅葉に彩られた場所でピクニックしよう。
冬はまたみんなでクリスマスを過ごそう。
初日の出を君と祝いたい、みんなでおみくじを見せ合いたい。
春にはみんなで新入生たちを迎えよう。
夏の暑い日にはみんなでプールに行こう。
ずっと君と同じクラスで居たいな、みんなで一緒に学校を卒業しようよ!』
サビはみんなで立ち上がって一緒になって歌いました。
聖クラリスは大人しい女の子が多いのに、今日はいつもよりみんなぴょんぴょんと跳ねててびっくりしました。
『何気ない日々の日常、たまには誰かの家で勉強会をしたり、結局みんなで遊んじゃったりして。そんなだらけた日々もきっと楽しい思い出になる。さぁ、明日はどこに行く? これからの楽しい日々を想像して。こうやって、何をしようかと考えるだけで楽しいよね。そして卒業した後もみんなで歳を重ねていって、何度だってみんなでまた集まって、くだらない話で馬鹿騒ぎするんだ』
あ、感動で何人かの女の子が泣き出してしまいました。
それを見た兄様達がステージから降りると、それぞれ女の子の元へと向かう。
『さぁ、今日は何して遊ぶ?
明日はどこに遊びに行こうか?
今日も明日も、その次の日も、君と一緒なら楽しいだろうな』
とあちゃんは女の子の顔を覗き込むと、笑ってと小さな声で囁いてました。
それを見たスバルちゃんが少し嬉しそうにしていたのが、とっても印象的だったと思います。
『週明けはちょっとだけ勉強しよう。
でもテストが終わった後はまた遊ぼう。
少し退屈な授業も君と一緒なら楽しい。苦手なテスト勉強も君と一緒なら乗り切れる』
黛さんも女子のところに行くと、泣かないでと優しく声をかけてました。
その柔らかな笑顔に、話しかけられてた女の子がキュンとしていたのに気がつきます。
『今月はすごく楽しかったね。
来月はもっと楽しいといいな。
毎日がワクワクした気持ちになる。それはきっと隣に君がいるからだろう』
天我先輩は泣いていた女の子の頭を優しく撫でてあげた。
わわ、頭を撫でられた女の子が一瞬で茹蛸さんになってしまったのです。
『今年はいい年だったねって君と笑い合いたい。
来年もいい年にしようねって君と笑い合うんだ。
だから君は1人じゃない。俺が居る。俺達が居る!』
兄様は泣いていた女の子に近づくと、そっと抱き寄せました。
ぴー! 兄様、それは、ぴーです!
どことは言わないけどおっきい女の子だからって、すぐそういうサービスして! もう!!
後でカノン義姉様にコソ電しておこっと。
『不安な日は泣いたっていいし、辛くてどうしようもない時は周りに我儘言ったっていいんだ。
傍に居る事しかできないけど、話を聞いて、手を握って、励ます事くらいはできる。
だから知って欲しいんだ。君は1人じゃない。俺が居る。俺達が居る!』
兄様がした事で、全員で肩を組んで歌う流れになります。
天我先輩や黛さん、とあちゃんも肩を組んでみんなで歌った瞬間は最高でした。
やっぱり兄様はすごいです!!
ほんの一瞬で、こんなに多くの人を笑顔にできる人なんて兄様しかいません。
私も、私も兄様みたいに誰かを笑顔にできたらいいなとそう思いました。
自然と握っていた拳に力が入る。
『巡る季節を君と一緒に過ごしたい。だってこれは君のストーリーなんだから』
歌い終わった後は、体育館の中に割れんばかりの拍手が送られました。
兄様は拍手が落ち着いたのを見て、マイクにスイッチを入れる。
「皆さん。どうもこんにちは」
「「「「「こんにちは!」」」」」
「今日は聖クラリスの2年生の皆さんが職業体験という事で、お邪魔させてもらいました。理由? そんなの決まってるじゃないですか! 妹のらぴすと推しのスバルたんがいるからです!」
「あくあ、少しは隠そうよ」
とあちゃんのツッコミにみんながクスクスと笑う。ほら、黛さんも苦笑いしてるじゃないですか。
あと、さっき、推しのスバルたんって言ってませんでした? 私の聞き間違いですよね?
兄様の推しは私に決まってるって信じてますから。
「皆さん、職場体験はどうでしたか? 楽しかったでしょうか? それとも大変でしたか? その仕事を将来やって見たいと思いましたか? きっと、今日のこの経験は皆さんの糧になってくれると思います。どうか今日のこの体験が、みんなの輝かしい未来に繋がりますように! それではベリルエンターテイメントでした!!」
兄様の締めの言葉に対して、みんなが拍手を返す。
あ、あ、兄様がこちらに近づいてきました。
「らぴす、今日はよく頑張ったな。愛華ちゃんや、しとりお姉ちゃんからも聞いてるよ」
「兄様!」
兄様は私の事をぎゅっと抱きしめると、もみくちゃに撫でてくれました。
「またな」
「はい」
兄様は私の周りに居た人達360度にお辞儀してらぴすをよろしくお願いしますと言ってから、天我先輩や黛さんが向かった出口の方へと歩いていく。
あ、帰る途中でスバルちゃんの頭を撫でました! むむ、なんか兄様、スバルちゃんのことが好きすぎませんか?
「みやこちゃん、スバルちゃん」
帰り道、私は決意を新たに2人に声をかけた。
「私、ベリルの最終合宿オーディションに参加しようと思います」
私達3人はオーディションのための書類提出はしてないけど、ノブさんとモジャさん、琴乃義姐様にオーディションを受けてみないかと誘われてました。
事務所スタッフの推薦組は書類審査はパスされていたので、私達は記念でと思って一次審査を受けたらなんと3人とも合格したのです。でも、その時はぼんやりとした気持ちで、本当にアイドルになるとかそういう事は考えていませんでした。
でも、さっきの兄様のライブのステージを見て、いつもは大人しいクラリスの女の子達があんなにも喜んだ姿を見たら、私も同じ事がしたいと思ったのです。
「私は元からそのつもり。eau de Cologneのアヤナさんに憧れてたし、いつかは私もって思ってたから」
「スバルちゃん……!」
「わ、私はまだそこまで覚悟は決まってないのですが、2人がやるっていうなら……行けるところまで頑張ってみようと思います」
「みやこちゃん!」
私達は3人で肩を組んで頑張ろーと拳を突き上げました。
ベリルのアイドルオーディション最終合宿まで後少し。
一体、どんな人が来るのか今からすごく楽しみです!
おまけ
後日、私は兄様にビームセイバーを見せて貰う事になりました。
「ほら、これが兄様のビームセイバーだよ」
兄様は自分のビームセイバーをぽろんと放り出す。
「こ、これが兄様の……凄く、硬くて……お茄子のように黒光りしていて、とっても大きいです」
こんなにカチカチに固いなんて思ってもいませんでした。
しかも思っていたよりも大きくて、私の顔幅なんかよりも全然広いです。
私はその大きさに興奮して息を荒げる。
「ほら、しっかりと両手で握ってみて」
「はい、兄様」
私は大事なものに触れるように優しく兄様の物を握り締める。
しゅごい……らぴすの手じゃ小さすぎて片手では収まりきりません。
私は両手でしっかりと握りしめると、感触を確かめるように指先を上下に扱くような形で滑らせる。
「らぴす、すごくいいよ」
「は、はい」
そんな私達の様子を、頬杖をついたカノン義姉様がジトっとした目つきで眺めていました。
「なんか、いかがわしい事をしているように見えるのは私だけなんでしょうか?」
「さすがはお嬢様、今日も今日とてムッツリ・スケベーでございます。きっと欲求ご不満なのですね。これは旦那様に発散させてもらわないといけません。ええ、そうしましょう」
「な、にゃにを言うのよ! もう!!」
何を言っているのかはよく聞こえませんが、今日も今日とてカノン義姉様とペゴニアさんは仲が良さそうでした。
おまけ2
「お-721番、早くしろ!」
私の名前は雪白えみり、掲示板に卑猥な事を書きすぎて世界に悪影響を及ぼすと実刑判決を受け、この国の凶悪犯ばかりが集められた女性刑務所に収監されてしまった。
「脱獄するなら協力するわよ。私にはやらなきゃいけない事があるから」
そしてそんな私と同室になったのがこの女、受刑者番号た-473のカノン・スターズ・ゴッシェナイトだ。
確かこいつの罪状は、この国のスーパーアイドルの自称嫁を詐称して詐欺容疑で逮捕されたと聞いている。
やべーな、きっと心が病んでて、頭がメンヘラってるんだろう。顔を見ただけでわかるぜ。
「ここでは、ここのルールに従ってもらうわ。勝手なことは許されないと思ってちょうだい」
刑務所の中にも序列はある。この凶悪犯ばかりが収監された刑務所でトップを張っている女は桐花琴乃だ。
大きな体と鋭い目つき。間違いねぇ。ありゃ確実に人を殺してる目だ。
きっとショタを誘拐したとかそんなんだろう。なんてひでー女だ。
「へっへっへっ、脱獄しようとしてる馬鹿がいるんだって、ちょっと私にも噛ませろよ」
こいつの名前は森川楓。只のバカだ。
なんでバカなのかって言うと、なぜ逮捕されたのか自分でも分かってないからである。
ただしぱわ〜だけはあるので、何かに使えるだろ。受刑者のみんなからはゴリさんと呼ばれてる。
他にも、風呂好きの受刑者、藤百貨店の元店員だった受刑者、読唇術が得意な受刑者など、個性的な奴らがここにはたくさん収監されていた。
「掲示板民はこの世界から隔離よ!!」
小さな刑務所長、小雛ゆかりだ。
その低い身長を隠すために、ヒールの高いニーハイブーツを履き、いつもムチを振るっている。
それにしてもレザーで作られた編み上げビスチェの食い込みがヤベェな。こいつこそ逮捕だろ!
「所長、落ち着いてください」
隣にいた副所長の月街アヤナは、この狂人しかいない刑務所の中で唯一の常識人である。
なんで常識人かっていうと、刑務官の格好がやべーってちゃんと認識しているからだ。
私でもそのハイレグは着れないわ。
さらにその隣には普通に水着みたいな格好をした女が立っていた。
深雪・ヘリオドール・結という名前の国家機密局の女性指導課から派遣されてきた女だそうが、あの体は間違いなく犯罪級である。私の体がアウトなら、あの女もアウトだろうと悪態を吐く。
ああ、もうこのメスくさい刑務所は限界だ!
私は、私達は、この地獄みたいな刑務所から脱獄して、あくあ様のライブにみんなで行く!!
主人公の周辺で暗躍する謎の宗教団体。
全ての元凶になった男。
忍び寄るスターズ王家と華族六家の影。
製作費実費!
全日本が呆れた問題作!
感動して泣いた人0%、腹が捩れるほど笑って泣いた人100%!!
連続テレビドラマ、ケイジバンプリズン、シーズン1! 2023年公開……するかもしれない!!
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