黒蝶揚羽、黒蝶の罪と私の罰。
この日本という国を古くから牛耳る華族六家の一つ、黒蝶家。
黒蝶は雪白と並んで、六家のトップに君臨する皇家の次に影響力が強いとされています。
その黒蝶家に生まれた私は、幼い時から次期当主になる事が運命付けられて育ってきました。
元より意思表示が苦手で引っ込み思案だった私にとって、決められたレールの上に乗って用意されたゴール地点に向かって歩んでいくだけの人生は楽だったと思います。でも……その結果がもたらしたものは、必ずしも良かったとは言えません。
「おはようございます。御当主様」
「おはよう」
朝起きると直ぐに家の者が出てきて、朝の支度を手伝ってくれます。
生まれてからのこの32年間、毎日やってきた事ですが、他人にあられもない姿を見せる事は今でも恥ずかしくて仕方がありません。
かといって私がいらないなんて言ってしまうと、彼女達はみんな職を失ってしまいます。そうなると、次の仕事への移行や生活環境の変化に慣れるのも大変だろうし、彼女達の事を思えばそんなワガママは言えません。
「おはようございます。本日はお昼に藤堂紫苑様と羽生総理との会食が入っておりますので、朝食は軽めのものをご用意させていただきました」
「ありがとう」
朝の支度を終えた私は、朝食を食べるために大きなダイニングへと入る。
すると食事を終えたばかりの孔雀君と偶然にも遭遇してしまいました。
「おはよう」
「……ああ、おはよう」
孔雀君は、そっけない素振りで自分の部屋へと戻って行きました。
多感な時期には嫌悪感を滲ませたり、汚いものを見るような軽蔑した視線を向けられましたが、最近はそんな事も無くなってきた気がします。でも嫌われている事には変わりませんね。
でもそれは仕方のない事だとも言えるでしょう。
『揚羽様、よかったら私達と良いところに行きませんか?』
あれはちょうど、私が高校生の時でした。
当時から取り巻きの多かった私は、そのうちの1人から遊びのお誘いを受けたのです。
あ、遊びの誘いを受けるなんて、生まれて初めてかもしれません。
私は意気揚々とその人のお家に遊びに行きました。
でも案内されたそのお家の地下では、今でも思い出すだけで吐き気がする様な出来事が行われていたのです。
『揚羽様は、どの男の子がいいですか?』
首輪や足枷をつけられた何人もの幼い少年達、彼らの虚な目を見た時、私は彼らが何をされてきたのか一瞬で理解しました。
私を今日誘った彼女の母は黒蝶の幹部の1人です。つまりこれは黒蝶がやっているビジネスの一つなのだと理解しました。私が、黒蝶という家がどれだけクソなのかを知った瞬間でもあります。
『揚羽様、申し訳ありません。もう少し早ければ新入荷の男子がいたのですが……』
そう言って私に媚び諂う女性は、小さな男の子を抱えた女性の方へと視線を向ける。
『ふふ、今からお姉さんといいことしようね』
女性に抱き抱えられた幼い男の子と目が合う。男の子はとても不安そうな表情をしていました。
どうにかしてあの男の子を救いたい。そう思った私は、ここを運営している担当者に自分の立場を利用して交渉しました。しかし、ここでは揉め事をなくすために、黒蝶家当主以外はたとえどういう立場であっても関与できないという厳格なルールが敷かれていたのです。
その時点で私は察しました。黒蝶のトップにでもならない限り、ここをどうにかする事なんてできないと……。
私は気分が悪いと1人そこから逃げ出しました。その日はこういう施設に来るという事もあって、護衛などもいませんでしたから、私は1人無力感に苛まれながらトボトボと道を歩いていたのです。
『そうか……そうよね……』
おそらく警察に通報したところでもみ消されるか立ち入る事すらできないでしょう。それが華族六家なのです。
今までレールの上に乗った生き方しかしてこなかった私が、急に何かをやろうとしたところでできるわけがないと気付かされました。そういうのができるのは、もっと小さい時から自分で考えて、自分で行動して、ちゃんとこの世界に地に足をつけて生きている人だけです。
結局何もできなくて立ち尽くす私の目の前を、一台の三輪車が猛スピードで横切っていった。
『あ、揚羽おねーちゃん!』
私の目の前を横切った小さな三輪車がピタリと停車する。
最初はそれが誰かわかりませんでした。
『え、あ……もしかして、えみりちゃん?』
三輪車に乗った美幼女は、黒蝶家と並ぶ雪白家の次期当主と目される雪白えみりちゃんでした。
『揚羽おねーちゃんはどうしたの?』
えみりちゃんは大股で三輪車から降りると、小指で鼻くそをほじくりながら私に近づいてきました。
んん……えみりちゃんはせっかくの美人さんなのに、なんかこうちょっと残念なところがあります。
『えみりちゃんこそ、こんなところでどうしたの?』
『えっとね。えみりセンサーがこっちの河川敷からエ……ゲフンゲフン、何でもないよ。ただ三輪車に乗って襲われてる男の子がいないかなーって街をパトロールしてただけ。それより揚羽おねーちゃんは元気ないけど大丈夫?』
『えみりちゃん……』
私は何を思ったのでしょう。えみりちゃんに全てを打ち明けました。
こんな小さな子供を巻き込むなんてって思うけど、えみりちゃんは幼い時から自然と何かを話したくなってしまうタイプなのです。懺悔したくなるというか、子供ながらにちょっと神々しい雰囲気がありました。
『ふむふむ。なるほどね。それはうらやまけしからん』
『え?』
『ううん。何でもないよ〜。つまり悪い事をしているお姉さん達を止めたいけど、自分より強い立場の人だからどうにもできないってことだよね?』
『え、ええ、そうね』
えみりちゃんは、得意げな顔でふふんと鼻息を荒げた。
『えみり知ってるよ! そういう時は、もーっと権力を持ってる人に頼ればいいんだよ! さ、行こ!』
えみりちゃんは近くを通ったタクシーを停めると、私を乗せてこの国1番の権力を持ったお家へと向かいました。
『え、えみりちゃん、アポイントメントとか』
『え? そんなのないよ?』
私は空いた口が塞がりませんでした。
例え黒蝶や雪白の当主であろうと、そう気軽に皇家の人間には会えません。
それなのにえみりちゃんは、そんな事など関係ないと言わんばかりに大きな声を出す。
『たのもー!』
うん、もちろん誰も出てこないよね。
警備員の人たちも、どうしようかとすごく困った顔をしている。
ごめんなさいごめんなさい。仕事中なのに本当にすみません。
『仕方ない。あの手を使うか……』
『あの手……?』
『うん! 揚羽おねーちゃん。大人のおねーちゃんには、知られたくない事がいっぱいあるんだよ!』
どういう事なんでしょう? えみりちゃんは子供なのに時たま難しい事を言います。
えみりちゃんは再び深く空気を吸い込むと、大きな声を張り上げる。
『キクリおばちゃんの男の趣味はー』
『はいはいはいはいーーーーー! ストーップ! えみりちゃんストーップ!!』
家の中から猛ダッシュで出てきた皇家の御当主、皇キクリ様はヘッドスライディングを決めながらえみりちゃんの口元をすかさず手で押さえた。
あぁ……お召し物の着物が悲惨な事に、後から出てきた侍女さんも青褪めてます。
『もごもご……』
『えみりちゃーん、それはキクリおばちゃんと、えみりちゃんだけの内緒話って言ったでしょ……? ね?』
キクリ様……怖いです。とてもじゃないけど、子供に見せていい顔じゃないですよ。
えみりちゃんもその迫力に圧されたのか、少し青褪めた表情でコクコクと頷いた。
『う……キクリおねーちゃんのお顔が怖くて、ちょっとちびっちゃったかも……』
えみりちゃんの下着を新しいのに替えた後に、私は改めてキクリ様に事情を説明する。
『なるほどね。事情は理解しました。というか、黒蝶がそういうビジネスをやっているのは知っていましたが、場所までは把握してなかったんですよね』
『だったら……!』
『とはいえ、私には動くだけの理由か対価が必要なんですよ。何もないのに貴女達のお願いだけで動いたら、皇家当主の皇キクリは、何の力も持ってない黒蝶と雪白の子供の言う事を聞くのかって話になるでしょ。そうなると、六家のパワーバランスに大きな歪みを作ってしまうわ』
私は何も言い返せなかった。
『さぁ、その上でもう一度問うわ。えみりちゃん、揚羽ちゃん、貴女達は対価として私に何を差し出せる?』
『私は……私には何もありません』
今の私が持っている物は全て黒蝶のものだ。黒蝶の揚羽だから持っているものしか私には何もない。だから1人の揚羽として差し出せるものなんて何もありません。黒蝶としても、私は次期当主の可能性が高いだけで黒蝶でどうにかできる権力なんて持ち得てないのです。
つくづく自分1人では何もできないんだと知らしめられる。
落ち込む私の隣で、えみりちゃんは大きく胸を張った。
『じゃあ、キクリおねーちゃんに子供ができた時、私が全力で助けてあげるわ!!』
『……それは、雪白家の次期当主としての約束かしら?』
キクリ様は優しいトーンでえみりちゃんに問いかける。
えみりちゃんはその問いかけに対して、首を左右にブンブンと振った。
『ううん、違うよ! だって皇家が助けを求めるって事は、皇じゃあどうしようもないって事なんでしょ? だったら皇より弱い雪白じゃあどうしようもないよね? そもそも、うちの家はそんな金持ちでもないから、雪白に頼られても困るよ。だから只のえみりが全力で助けてあげる! だって、只のえみりにはそういうの関係ないもんね!』
私とキクリ様は思わず顔を見合わせた。
堂々とそう言い放ったえみりちゃんを見ていると、私と立場はそう変わらないはずなのに、その事にすら価値があると思うのですから不思議です。
『ふふ、ふふふ……なるほど。只のえみりちゃんが、そう……華族のしがらみなんて関係なく、1人の人間として私の娘を助けてくれるって言うのね。悪くないわ……』
『じゃあ、これで揚羽おねーちゃんのお願い聞いてくれる?』
『ええ、もちろんよ。どの道、私は貴女達を試しただけだから、何もなくても助けるつもりだったわ。ごめんね。試すような真似をして……』
『そっかー。じゃあ、奥の手は使わなくても大丈夫なんだね!』
奥の手!? ま、まだ何かあると言うのでしょうか?
キクリ様は、えみりちゃんに優しく問いかける。
『ちなみに念の為に聞くけど、えみりちゃん、奥の手ってなあに?』
『えっと、藤堂のおばーちゃんの妹さんがテレビ局の偉い人だって言ってたから、そっちに情報を流せばマスコミの人がワラワラ出てきて当面は悪い事できないかなーって思ったの。だって、藤堂のおばーちゃんと黒蝶のおばちゃんって仲悪いし、警察に行くより良いんじゃないかなー?』
その話を聞いたキクリ様が頬を引き攣らせる。
キクリ様のこんな表情を見るのは初めてかもしれない。
『え、えっとぉ……それをしたら、最悪、六家自体が……というか華族自体がなくなっちゃう気がするけど、えみりちゃんはそれでもいいのかな?』
『うん! 私のお父さんもお母さんもそういうの気にしないだろうし……それに、キクリおねーちゃんも、揚羽おねーちゃんも、皇と黒蝶の名前を出した時って、あんまり楽しそうじゃないもん!』
えみりちゃんの言葉が胸の奥にズキリと突き刺さった気がしました。
キクリ様はびっくりしたような顔で、私の方へと視線を向ける。
『揚羽ちゃん、一つだけお願いがあるわ』
『な、何でしょうか?』
『この子……えみりちゃんの事をしっかり見ててね。なんとなくだけど……なんか将来、この子は華族なんてちっぽけで閉鎖的な空間なんかじゃ囚われない、とんでもない事をしでかしそうな気がするのよ』
『わ……わかりました!』
当主の勘ってやつなのでしょうか?
私達はキクリ様が用意した車に乗り込んで、さっきの施設があった黒蝶上層部のお家へと向かう。
そこからは全てが早かったです。キクリ様も準備していたのか知らないけど、あっという間に現場を取り押さえ、それを証拠として突き出して、その場に呼び出した私の母を一気に退陣へと追い込んだ。
お願い! 間に合って……!
私はすぐに地下施設へと行き、あの幼い男の子が入って行った部屋へと向かう。
そして私はまたしても自分が無力であったと思い知らされたのです。
端っこで毛布にくるまっていた男の子は、私を見てとても怯えた顔をしていました。
『放しなさいよ! 私を誰だと思っているの!!』
男の子を抱き抱えていた女性は、そのまま皇家の者達に引き摺られていきました。
『ごめんね。私が無能なばかりに……ごめんなさい』
私は意識を失った男の子を抱き止め、必死に謝りました。
謝罪したところで何にもならないけど、私にはそれくらいの事しかできません。
『さて、予想以上の結果が得られたわけだけど、2人は何か欲しいものはある』
全てが終わった後、キクリ様は私達に向かってそう言いました。
こんな私が何かを望むなんて烏滸がましい。できれば罪を与えてほしいと思ったくらいです。
そんな私が口を開くより先に、えみりちゃんが口を開く。
『何もないわ! だって事件を解決してくれたのは、キクリおねーちゃんだもん。あ、でも……こういうのが2度とないようにして欲しいかな』
『わかったわ。でもそれだとえみりちゃんには、何の見返りもないけどいいの?』
キクリ様の問いかけに、えみりちゃんは鼻で笑い返す。
『だって、ミシュおばちゃんが言ってたんだもん』
あの時のえみりちゃんの姿は今でも私の目に焼き付いている。
その場にいた誰よりも華族らしく、堂々と、優雅な所作でこう言い放ったのだ。
『本当に良い女は、見返りなんて求めないのよ!』
華族なんてどうでも良いと言い放った幼い彼女の中に、本来の華族としての矜持を見た気がした。でもそれは彼女が華族だからじゃない。只のえみりちゃんとして地に足をつけて生きてきたから育んできたからだと思います。
その場には、藤堂の当主や現場の制圧に協力してくれた議員さん達がいたけど、全員がえみりちゃんの事を見ていた。中には自然と敬意を込めて膝をついていた人もいたくらいです。
このままじゃいけない……!
私も変わらなきゃいけないと思った。
キクリ様に視線を向けた私は、強く拳を握り締める。
『私からのお願いは二つあります』
『……どうぞ』
キクリ様は、私の事を確かめるように問いかける。
『まず、この子は……この子達は私が責任をとってどうにかします!』
きっとこの子達に帰る場所なんてない。
だからと言って施設に送り返すくらいなら、自分で責任を取ろうと思った。
黒蝶の責任が自分に無関係だとは思わなかったからです。
『そして、そのために、私に黒蝶を預けてくれませんか?』
『貴女に黒蝶を御しきれると……?』
私はキクリ様の問いかけに、はいと力強く頷いた。
本当は不安だけど、そんな事は見せない。
『きっと、黒蝶の闇は……いえ、この国の闇はこれだけじゃない。だから、全てを黒蝶に集めます』
これは私への罰です。今まで何もしようとしてこなかった私が償うべき事なのだと思いました。
『その上でどうするというの?』
『機を見て私ごと全てを滅ぼせばいい。その権利を、ここにいるすべての人に託します』
私はそこにいた華族や議員さんたちへと視線を向ける。
その中の1人、今回の事で多大なる貢献をしてくれた羽生議員と視線が合った気がしました。
『……揚羽ちゃん、それは茨の道よ』
『例えそうだとしても、私はそれを成さなければいけないと思いました。黒蝶のせいで不幸になってしまった人達のために……私のこの命を捧げます』
こうして私は、少し期間を空けてから黒蝶家を引き継ぐ事になりました。
子供たちに関しては、私がまだ子供だからという理由で1人のあの幼い少年を残してキクリ様の方で預かるという事になりました。
『ひっ……!』
私が引き取った幼い少年は、あまりの恐怖にそれまでの記憶を全て失っていました。
ただ、体にこびりついた女性への嫌悪感だけを残して……。
「ご当主様、やはり私の方から孔雀ぼっちゃまに説明を」
「それは絶対にダメよ!」
朝食が終わった後、私は侍女長に対して声を荒げてしまった。
「もし……もし、孔雀君が辛い事を全部思い出しちゃったらどうするの!!」
何かがきっかけで、自分の過去を事を思い出すかもしれない。
それなら私が悪者になっている方がいいと思った。
「ご当主様……」
私はリビングから出ると、車に乗って会談へと向かいました。
「揚羽ちゃん、少しは肩の力を抜いたらどう?」
「うんうん、私もそう思うよ」
私は気を遣ってくれた2人に対して首を左右に振る。
「ダメよ。近いうちに親戚筋の慎太郎君が帰ってくるわ。気を抜くわけにはいかないの」
親戚筋の黛慎太郎君を狙って悪い事を考えている連中がいると知りました。
だから私は自分の名前を使い、総理を通じて理人君から慎太郎君を保護する方向へと持って行ったのです。
黒蝶揚羽が黛慎太郎を狙っている。そう言えば理人君としきみちゃんは絶対に守ってくれると思ったからです。
その思惑はうまく行きました。
「例えそうだとしても、少しくらいは息抜きしないと、ただでさえ怖い顔が余計に怖くなるわよ」
「うんうん、孔雀君にこれ以上嫌われちゃったらどうするのさ?」
ずるいわ。孔雀君の名前を出されたら言う事を聞くしかないじゃない。
私は普通のOLさんが着るようなスーツを着て、変装用のウィッグを被り、秘書やボディーガードを残して1人で外へと繰り出しました。でも、外に出た所で私にしたい事なんて何もありません。
「あれ……?」
時間を潰そうと街中をぶらぶらしていると、周囲がざわついている事に気が付きました。
「わっ、あの男の子かっこいい!」
「高校生かな? 休日出勤だったけど、今日はいいことあるかも!」
「一人かな? それとも誰かと待ち合わせ?」
「あの子の彼女羨ましすぎるよー。私だってあんな若くてイケメンの子と休日デートしたいぃい!」
どうしたんだろう?
私はみんなが見つめている方向へと視線を向ける。
するとそこにはまるで絵に描いたような王子様が立っていたのです。
ぼーっとした私はその男性の事をずっと見つめていました。
すると、その時です。偶然にも王子様と私の視線が合いました。
「危ない!」
王子様は、私の二の腕を掴むと自分の方へと抱き寄せました。
ああ……今でもあの時の事は良く覚えています。
男性に抱き寄せられた経験なんて一切ない私はとてもびっくりしました。
「大丈夫ですか、お姉さん?」
王子様は、密着した私の体……それも大きな胸の谷間を見て頬をピンク色に染められたのです。
最初は気のせいかと思いましたが、私からわざとらしく視線を逸らした事で確信へと至りました。
「怪我はないですか? どこか痛いところとか」
「今まさに心臓がすごく痛いです……」
孔雀君や男性達から毎日のように恐れられていた私には全てが初めての事でした。
「はっ、もしかしてこれが恋……?」
恋なんてした事がないからわかりません。
だってそんな事、一度たりとして考えた事なんてなかったんだから。
ま、待って、私なんかがそんな事を考えちゃダメよ。
そもそもこの子、明らかに孔雀君より年下じゃない! 私なんかが恋したら犯罪よ……。
「それと危険だからよそ見してちゃダメだよ」
「はい……もう貴方の事しか見ません」
あ……だめ。その笑顔は反則すぎます。
その笑顔を見て、私はあの話の続き思い出しました。
『私、えみりちゃんが将来どういう人と結婚するのか楽しみだわ』
何気なく呟いたキクリ様の言葉に、えみりちゃんは真剣に考え始める。
『んーとね。私は、かっこいい男の子と結婚するの! もちろん見た目じゃないよ。ドライバーみたいに熱くて、常に前を向いているような男の子がいいな!! あ、あと笑顔が素敵なのもえみり的には重要かな〜』
私はなんとなく、えみりさんが結婚するのは、彼のような男の子じゃないかなって思ったの。
だからびっくりしたわ。お見合いパーティーの時、飛び込んできたえみりちゃんの顔を見て嬉しくなった。
あぁ、やっぱり最高にかっこいい女の子が恋をするのは、最高にかっこいい男の子なんだってね。
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