白銀あくあ、優しい嘘。
それにしてもすごい量だな……。
俺はプレゼントの山を前にして、どうしようかなと悩む。
とりあえず無意識に掴んでしまったこの程よい掌サイズの箱からいくか。
「ええっと、誰だこれ……あ、メアリーお婆ちゃんか。ありがとうございます!」
一体何が入ってるんだろう。
俺はそこらへんの小学生男子のようなワクワクした気持ちでプレゼントの箱を開封する。
そう、俺はこの時まで、純粋にプレゼントの中身が楽しみだったのだ。
【トップバッターにメアリー様きたー!】
【婆なみ:きゃあ!】
【あくあ様、呑気な顔してるけど大丈夫か!?】
【こーれ、嫌な予感がします】
【嗜みのお婆ちゃんって時点でヤバさがぷんぷんしてるぜ。(この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人TOOOKAの判断によって削除しました)】
【のっけからヤバげなもん引いててクソワロタw】
箱の中から出てきたのは指輪のケースだった。
「ん……指輪のケース?」
俺は開けた瞬間に蓋を閉じた。
はい……はいはいはい。ええっと、指輪についてる宝石ってあんなにデカかったっけ?
「あかん、これは、あかんやつや……」
俺は頭を抱える。
【あー様!?】
【ほらね】
【指輪のケースが出てきた時点で怪しいなと思ってたw】
【あの器の大きいあくあ様ですら瞬時にダメだと判断する指輪wwwww】
【一体何が入っていたんです?】
【これは間違いなく秘宝クラス】
俺はもう一度蓋を開けて中を確認すると、カメラに向けてその中身を見せる。
【ちょwwwww】
【でっっっっ】
【あかん、これ国宝やwww】
【見たことがないくらい宝石がでかいw】
【こんなでかい宝石ある?】
【リングの部分がおまけやん】
【乙女の嗜み:待って……これ王冠に使われてる宝石じゃ……】
【あっ……】
【あっ】
【あ】
ん? さっき王冠に使われてた宝石とか言ってなかった!?
マジかよ……。気のせい、とにかく気のせいだこれは……。
「えっと……メアリーお婆ちゃんありがとう! これはとりあえずその、大事に大事に保管しておくね」
これ、後でカノンや総理に相談しよ。
明らかに個人で保管するレベルの問題じゃない。
厳重に警備された博物館とか美術館とかで保管しておかなきゃいけない奴だ。
俺は気を取り直して新しいプレゼントを選ぶ。
「それじゃあ次はと……」
頼む! 次のはもっとこう普通の奴でと願う。
あ、この紙袋ならいいんじゃないのか。
「えーっと、次は誰だこれ……あ、森川アナか」
そういえばもう帰国してるんだっけ。
めちゃくちゃ怒られたって聞いたけど大丈夫かな?
【よりにもよってティ……森川かよw】
【またひどいのがくるぞw】
【ホゲ川、帰国できたんかwww】
【次に引いたのがよりにもよって森川wwwww】
【個人的には1番ヤバいやつのキター】
【あいつ変なオモチャなんて贈ってないだろうなw (この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人シトリンの判断によって削除しました)】
ブランドっぽい紙袋の中を開けると中に入っていたのはレザーのショルダーバッグだった。
おお、普通にかっこいいし、軽くて何にでも合いそうなシンプルなデザインが使いやすそうだと思う。
俺は中に入っていた小さなメモ書きを手に取る。
「えーっと、あくあ君へ。バイクに乗っても邪魔にならないものを選びました。良かったら普段使いしてください。だってさ。うわぁ! マジか。ありがとう!」
俺は近くにあった鏡でつけた感じなどを確認する。
【嘘だろwww】
【悲報、森川まさかのまともだった】
【森川ソムリエ:みんな忘れてるけど、森川さんは腐っても国営放送のアナウンサー、普通に考えたらセンスが悪いわけがない】
【そういえばあいつちゃんとしたアナウンサーだもんな。そりゃ変なもの贈ったりするわけがないもんな】
【上司の人か、国営放送のクレーム対応室改め森川相談窓口の人が1番喜んでそう】
【期待値がめちゃくちゃ低かった分、すごくいいように見える不思議】
【まさかの森川株急騰ワロタw】
【ちゃんとバイクの事とかも考えてくれてるの嬉しいだろうなあ】
【森川は意外とセンスは悪くないよ。ムカつくけど着てる服とかヘアセットとかもちゃんと可愛いもん】
俺は森川さんがプレゼントしてくれたバッグをテーブルの上に置くと、次のプレゼントを選ぶ。
さっき紙袋がよかったから、また紙袋にするか。さっきより小さめの紙袋を選択した俺は誰からのプレゼントか確認する。
「えーと……あ、これ、慎太郎です」
俺は紙袋についたタグをカメラにみせる。
【マユシン君きたーーーーー!】
【個人的に1番楽しみ!!】
【これは安心して見れる】
【黛君なら大丈夫】
【とあちゃんならトロールしてたかもしれないけど、黛君は大丈夫】
【良い流れが来てる!】
紙袋の中に入っていたのは長細い箱だった。
ははーん、これはわかったぞ。
俺はカメラに向かって笑顔を見せると、箱を開けて中をみんなに見せる。
「サインペンです。ここのメーカーさんの前にサイン書いた時に使った事あるけど、めちゃくちゃ良かったんだよね。キャップレスっていうのも使いやすくていいんですよ」
俺は近くにあった紙で書き心地を確かめる。
【流石だよ黛君】
【マユシン君はマユシン君である事を裏切らないね】
【いかにも黛君が贈りそうなプレゼントを贈ってくれるのがファンとしては嬉しい】
【さっきのバッグは意外とお高いけど、こっちは買いやすいから馬鹿売れしそう】
【値段が6000円前後っていうのがいいね。高校生らしいし、キュンってした】
【ここのメーカーで働いている営業です。黛君が選んでくれた喜びと、あくあ君が使ってくれる嬉しさと、明日からどうなるんだろうっていう恐怖が入り混じって震えてます】
【草wwwww】
【そっか、これ何を贈るかによってその企業は明日から忙しくなるわけか……】
【メーカー側の私、他人事じゃないと気がついて急に身構える】
【呑気にこたつ入ってみかん食べながら見てたけど、上司から電話きていつでも来れる準備しておけよと言われた。あれ? プレゼント開封ですよね? 私達のデスゲームが知らないうちに始まっちゃってるのは気のせいですか?】
【今思うとメアリー様がプレゼントした確実に世界に一点しかないものって逆にありがたいんじゃ……】
【ここにきてメアリー様のプレゼントが再評価】
俺は試しに書いたサインをカメラに映す。
【相変わらず、字は綺麗なんだよな】
【字だけは本当に綺麗】
【で、隣のソレ何?】
【また、例のマークですか!?(この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人3510の判断によって削除しました)】
【謎マークが酷すぎるw】
【あくあ君、サインだけでいいんだよ?】
【むしろこの謎サインのおかげで本物証明になっているとも言える】
【黛君、画伯にペンを与えちゃいけない】
【とあにゃん:これ何?】
【丸に線が出てるから、これってアレじゃね?(この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人3510の判断によって削除しました)】
【ソムリエール:これはアレです。ソムリエの私がいうから間違いありません!(この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人TOOOKAの判断によって削除しました)】
【神絵師:これは間違いなく芸術だ。力強く迷いのないタッチからは爆発的なエネルギーを感じます。おそらくは生命の鼓動、人体の神秘を表現したのではないでしょうか?】
【敬虔なる信徒:素晴らしい……。近年の複雑な宗教画とは違って、ヒエログリフの時代に原点回帰するようなシンプル且つ大胆な表現方法で我々に対して解釈の造詣を深めろという啓示なのですね】
【バタフライ:まるでモンドリアンやドローネーの抽象画を見ているようだ。excellent!】
【血迷ってる奴らが一定数いてクソワロタw】
【たまにいるよな。白銀あくあ芸術家説を唱える人】
【何人かは多分救えそうにないな】
【ゆかりご飯:これどっからどう見てもメガネじゃん。みんな何言ってんの?】
【おい、あー様と同じレート帯の奴がいるぞ!】
【あくあ君の芸術性が理解できるとか嘘だろ!?】
うん。自分でもなかなか良い感じに書けたんじゃないかと思う。
特にこの隣に書いた慎太郎のチャームポイントでもあるメガネのマークがいいね。
「慎太郎、見てるか? ありがとな!! これで明日からサイン書きまくるぜ!」
最初に国宝が来た時はどうなるかと思ったけど、楓と慎太郎のおかげでなんとか持ち直したぞ。
俺はサインペンをハンガーにかけてあったコートのポケットの中に入れると、次のプレゼントを選ぶ。
さーて、どれにしようかなあ……と、これだ!
「次はあえて誰か見ません」
俺は手に取ったプレゼントボックスを開封する。
「なんだこれ……? 香水か?」
おしゃれなデザインの瓶の中には液体のようなものが入っているのが見えた。
俺はプレゼントボックスの中に入っていた香水らしきものを取り出して、みんなに見せる。
【あ……】
【あ……】
【あ……】
【乙女の嗜み:ナニコレ……?】
【ラピスラズリ:おしゃれなボトルです】
【ラーメン捗るさん出てきなさい】
【捗るはすぐに自首しろ】
【捗るならさっき規制くらってたぞ】
【3510(管理人):あっ】
俺は瓶の蓋を開けて匂いを嗅ぐ。
うっ……濃厚な匂いに一瞬で鼻がやられた。
ゲホッ、ゴホッ、俺はカメラから後ろを向くとしばらくの間、咽せる。
「なんだこれ!?」
俺はもう一度だけ匂いを嗅ぐと、すぐに顔を背ける。
【鞘無インコ:あかん! あくあ君、すぐに蓋を閉めるんや!!】
【ドキドキしてきた】
【ぱっと見、何も知らない人だと香水にしか見えないけど、察しのいい奴多すぎだろw】
【この容器を一瞬見ただけで察してる連中は裏掲示板の住民だろw (この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人TOOOKAの判断によって削除しました)】
【ここから先は大人の時間ですか!?】
【あー様はまだ未成年ですよ】
【これにはドン引き】
【おい。捗るか誰か知らんけど、これはやりすぎだぞ!!】
【捗る……素直に謝ったら許してあげるから、大人しく罪を認めなさい】
【ラーメン捗る:私じゃないぞ!】
なんだこれ!?
過去に嗅いだ事のある匂いの嫌な部分だけを煮詰めたような甘ったるさがある。
俺は箱の中にメモ書きが残っている事に気がつく。
「なになに……? これは実際の諜報部隊でも使われる秘伝の媚薬です? どんなに清純ぶったお嬢様やお姫様でも、これを一振りするだけで淫らなメスの出来上がり……って、え!? 誰? これ贈ってきたの!?」
俺は紙袋についたタグに書かれた名前を見て納得した。
「……はい、そういうわけでね。次のプレゼントを開封したいと思います」
俺はペゴニアさんが贈ってきた謎の媚薬をなかった事にして、次のプレゼントを選ぶ。
ただ、心の中でガッツポーズしたのはみんなには内緒だ。カノンで入念に使用感を確かめて、ペゴニアさんにお礼を言っておかないとな。今月は特別ボーナスあります。
【やっぱ媚薬じゃねーかw】
【今のプレゼントでチャット欄にいる奴らの中身が透けたなw】
【媚薬への反応がやたらと早い掲示板民(この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人TOOOKAの判断によって削除しました)】
【なかった事にされたwww】
【おいおい、誰が贈ったのか知らないけど攻めすぎだろw】
【ラーメン捗るさんは早くベリルに自首しなさい】
【嗜みと妹さんがピュアっピュアでなんか安心した】
【嗜みを見て心が癒される日が来るなんてな】
【嗜み、お前はそのまんまでええんやで】
【なるほど、あくあさまの正妻になるような女性はあれに気がついちゃいけないと……いやあ、参考になります】
【知らなかった勢は今頃になって媚薬だって知って、みんな顔が赤くなってそうw】
【ゆかりご飯:こいつこんな澄ました顔してるけど、心の中では万歳しながら喜んでるわよ】
管理人さん、お仕事お疲れ様です。
お手数ですが、さっきのゆかりご飯さんの発言はちゃんと削除しておいてくださいね。
俺は気を取り直して、別の紙袋を手に取った。
「次はなんだろうな……っと、服か?」
テープを剥がして中の包みを開けると出てきたのは、羊のキャラクターがデカデカとプリントされたパーカーだった。
【あかん】
【これはアウトやろ!】
【クソダセェw】
【高校生の男の子が着るものじゃない】
【いかにもオカンが買ってきたやつ】
【誰だよこんな子供っぽいの選んだ奴】
【嗜みか?】
【ゆかりご飯:よし、お前ら全員、表にでろ】
【ちゃちゃ丸:やったー! お揃いだー!】
【メリーさん:ありがとうございます。ありがとうございます】
俺は上のセーターを脱ぐと、羊のパーカーを上から被る。
【は?】
【お着替えきたああああああ!】
【横で見ていたJCの妹が死んだ……】
【私達が見ていていいんですか!?】
【←セーターの下が裸じゃないかと一瞬期待した奴】
【3510(管理人):ここクリップします!】
【さっきの反応で誰が贈ったのかバレたなw】
あったけぇ!
生地も厚めだし、少しオーバーサイズ気味なのも俺好みだ。
「うんうん、悪くないんじゃないか、これ」
俺は姿見の前で自分の姿を何度も再確認する。
【は? 可愛いかよ!】
【あー様の可愛さがここに全部詰まってる】
【あくあ様ファンのママ勢とお姉ちゃん勢は全員が刺さってそう】
【歳上には可愛いあくたんは刺さる】
【ゆかりご飯さんごめんなさい】
【実はかっこいいあくあ君より、子供っぽいあくあ君の方が好き……! 男の子にはいつまでも少年のままで居て欲しい】
【アクアマリン:誰か知らないけど、あくあちゃんの事がわかってる】
【シトリン(管理人):きゃー! あーちゃん、こっち向いてー! 後でお姉ちゃんと一緒にお写真撮ろうね】
【TOOOKA(管理人):私、こういうのすごく弱いかも……】
【ゆいにゃん:あー様かわわ……】
【とあにゃん:ふーん】
【とあちゃんちょっと嫉妬しててかわよ!】
【心配しなくても、とあちゃんも可愛いよ】
【むしろ、とあちゃんもお揃いの着よ?】
【猫好きさん:それは素晴らしい提案だ!!】
【……できればマユシン君にもおなしゃす!】
【先輩も見たいなんて言ったら贅沢かしら。ぼそっ】
【男の子を愛でたい族にとってはたまりませんねえ!! ベリル4人で是非!!】
【アニマルパーカーを着たベリルの男の子達の保母さんになりたい……!】
【保育士の私にめちゃくそ刺さるから止めて!】
【蝶々婦人:あらあらまぁまぁ、想像するだけでなんて素敵な空間なのかしら! それを実現するために、どこの幼稚園に投資すればよろしいのか、誰かご存知の方はおられませんか?】
俺はせっかくなので、これを着たまま配信を続ける事にした。
「これは誰が贈ってきたか直ぐにわかったよ。小雛先輩でしょ? 俺の周りでこれをセレクトするのは多分先輩しかいない……はず!」
俺は紙袋についたタグを見てガッツポーズを決める。
前にカノンと一緒にルームウェアを買った時、羊のを買って気に入ってたけど、外じゃ着れないんだよなって話していたのを覚えてくれたんだろうと思う。
「やったー、当たった! 小雛先輩、ありがとう!!」
俺はカメラに向かってピースした。
【は? もうやってる事が全部かわよなんだけど?】
【小雛ゆかり先輩、すみませんでしたあああああああ!】
【普通ならダサいはずなのに、どうしてこうなった】
【莉奈派だけど、小雛ゆかりとあくあ君の関係だけはガチ】
【るーな:モコモコあくあ君……抱き枕にしたい……Zzz】
【ゆかりご飯さんの反応ないけど死んだ?】
【あいつもしかしたら照れてるんじゃね?】
【まさかあんな満面の笑みで感謝されるなんて思ってもいなかったんだろうなw】
【男嫌いと言われていた小雛ゆかりさんでも一瞬で籠絡させるあくあ様のスマイルよ】
【朗報、小雛ゆかり、ちゃんと人の心があった】
【ふーん、小雛ゆかりにもちゃんと卑しかメスの部分が残ってるじゃん】
さてと、次はどれにしようかな。
今度はこのやたらと大きな箱にするか。
「お、次は天我先輩と本郷監督からのプレゼントだそうです」
今回は普通にタグを見て贈り主の名前を確認した。
っていうかおっも! どう考えてもここから動かせそうにない。
これ搬入した人は大変だったろうな。
【天我先輩きたー!】
【パイセンきたぞ!】
【本郷監督と一緒? これは嫌な予感がしますねぇ】
【でっかw】
【一体何を入れたらこんなでかい箱になるんだw】
俺はリボンを解いたはいいものの、どうして開けようかと悩む。
【通りすがりのポイズンチャリス:ちゃんと箱の横が観音開きになってる】
あっ、本当だ。
蓋を開けて中を見た俺はびっくりする。
「えっ……え?」
俺はカメラと箱の中を交互に見つめる。
【何が入ってたんだろ】
【若干引いてるw】
【2人は何をやらかしたんだw】
一旦蓋を閉じた俺は、カメラを持って箱の前に立つ。
そしてゆっくりと扉を開いてみんなに箱の中を見せた。
【は?】
【等身大ヘブンズソードきたー!】
【ヘブンズソードマジかよw】
【そんな気はしてた】
【うわあああああ、いいなー!】
【これ、ガチで発売してください】
【私も欲しい】
【ちょっと待って、手に持ってるギター、カブトムシじゃん!】
【カブトムシのギター、マジかよw】
【最高かよ!!】
俺は中に入っていたメモ書きを読む。
「えーっと、俺のサイズに作ったマネキンに実際のスーツを着せてるガチの人形らしいです。マジかよ。すげえ……! スーツは着脱可能で、本郷監督とヘブンズソードのスタッフからだそうです。ありがとう!! それとこっちのカブトムシギターは天我先輩からと、こっちもすげぇ。先輩ありがとう! うわ……本当にカブトムシのデザインじゃん。いいなこれ。ギターは俺の部屋に置いておいて、この等身大人形は玄関に置いておくか。広いし何置こうか悩んでたんだよな」
俺は改めて贈ってくれた本郷監督達と天我先輩にお礼を述べる。
【あくあ君のお家に行くとあれがあるのか】
【あー様の家なんてお宝しかなさそう】
【いいなー。実際に使用したやつじゃなくていいから、これのレプリカ作って売ってください!!】
【ドライバーファンの1人:ははは、喜んでくれたようで何より。ちなみにこれのレプリカ、受注販売するから楽しみにしててね。ただこれと違って、ここまでクオリティは高くないけどね】
【うわあああああああああ!】
【うおおおおおおおおおおお!】
【マジか、それは楽しみだ!】
【通りすがりのポイズンチャリス:これで剣崎もいつだってヘブンズソードに変身できるな!】
【先輩が嬉しそうで私もニッコリ】
【アキラくん、よかったね!】
次はどれにしようかな。
慎太郎、先輩と来たから、とあのにするか。
「とあのどれ?」
俺はタブレットのチャット欄を見つめる。
【とあにゃん:そこのラッピングした袋に入ってるやつ】
これか!
俺はキラキラの包装紙でラッピングされた袋を手に取ると、丁寧に剥がして中身を取り出す。
おお……これは!
「キーホルダーじゃん! それもこれ、とあが持ってるやつとお揃いだよな。ありがとう!」
前にとあが持っていた家の鍵につけていたキーホルダーを見て、バイクの鍵をつけるのにちょうどいいなって思ってたんだよ。
【猫好きさん:あっ……】
【お揃い……だと?】
【あかん。動悸きた】
【TOOOKA(管理人):動悸が激しくなってきた方は、一旦視聴をストップして、心を落ち着けてから再度視聴を再開してください。それでも落ち着かない場合は、本日の視聴を諦めて最寄りの病院で診断を受けてから視聴される事をおすすめします】
【嫁なみとかいう置き物は息してるか?】
【とあにゃん:ちゃんと新品だから安心してね】
【てぇてぇ!】
【ありがとうございますありがとうございます】
【急に反応が鈍くなったと思ったら、動悸で一旦離席したやつが多いのかw】
俺は再度画面に向かってお礼を述べる。
ん? そろそろ配信終了時間が迫ってきたな。
流石に全部は開けられないから後、2つくらい開けて終わりにするか。
「これは……カノンか!」
最初は普通に嬉しかったが、俺はとある事を思い出してリボンを解く手を踏み留まらせる。
これ……中を開けても大丈夫だよな? 今の所、ペゴニアさんといいメアリーおばあちゃんといい、カノンの周りの人からのプレゼントは、どれも反応に困るものばっかりだったから、すごく不安になってきた。
【あー様、躊躇しててウケるw】
【わかる】
【今の所スターズ組からのプレゼントはひでえのしかないからなw】
【二度あることは三度ある】
【三度目の正直を見せてくれ!】
【ラーメン捗る:キタキタキタキタ!】
【あくあ君の手つきと顔つきが、急に爆弾処理班みたいに冷静になってきた件について】
【あれ? これプレゼント開封ですよね?】
俺はそーっとプレゼントの袋を開けると中を確認する。
「なんだこれ……?」
俺は中に入っていた布地を袋から出すとそっと広げる。
【あ……】
【あ……】
【あ……】
【って、画面が真っ黒になったんだが!?】
【3510(管理人):ただいま、不適切な画像が映ったためにもうしばらくの間お待ちください】
【完全に下着じゃねえか!】
【大人な下着きた!!】
【ラーメン捗る:見たか日本! これがスターズの元王女ことえっろなみさんですw (この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人TOOOKAの判断によって削除しました)】
【乙女の嗜み:え……? これ、私が入れたやつじゃないんだけど!?(この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人TOOOKAの判断によって削除しました)】
【ペゴ丸:お嬢様の選んだプレゼントがあまりにもお子様だったので、私の方で判断して中身をすり替えておきました。ちゃんとお嬢様がご用意したプレゼントは後で旦那様にお渡ししておくので安心してください】
【乙女の嗜み:ちょっと離席します】
【嗜み、これは怒っていいぞw】
【いらないお節介きたw】
【でも、あー様、心なしか嬉しそうな顔してたような気がするんだけど、私の気のせい?】
【お子様ね。嗜みは一体何をプレゼントしたんだろう】
【TOOOKA(管理人):カノンさんの名誉のために言っておくと、普通に学校とかお仕事の時に持って行くお弁当箱と水筒でしたよ。今使ってるお弁当箱の蓋が壊れちゃったそうなので買い替えたそうです。水筒はミニが欲しかったと聞いております】
【嫁のプレゼント普通にええやんけ】
【高校生らしくて私はいいと思う】
【ペゴニアさんってメイドだよね? 案外ポンコツなんじゃ……】
【あくあ君ならどっちでも喜んでくれそう】
【あー様ならカノン様の誕生日プレゼントならゴミでも喜んでくれそう】
【ゆかりご飯:あいつならどっちかというと大人っぽいのより、純白とかパステルとかリボンやレースがついてる清楚っぽいかわいい下着の方が好きなんじゃないの?】
【ゆかりご飯さん!?】
【ゆかりご飯……いえ、今日からゆかりご飯パイセンと呼ばせてください!】
【ラーメン捗る:貴重な情報あざっす!!】
【ソムリエール:マジか、メモっとこ】
【TOOOKA(管理人):へー、そうなんですね】
【3510(管理人):メモメモ】
【シトリン(管理人):管理人のみなさんは、お仕事を忘れてませんか? 少し遅れましたが、ゆかりご飯さんの発言が規約に抵触したために削除させていただきました】
これはあれか……。少し大人になった俺とエッチしたいのサインか!?
なるほどなるほど、ふぅ〜! 体があったかくなってきたぜ。
恥ずかしがり屋だからこういうやり方でこっそり俺にアピールしてきたわけね。了解!!
って思ったら、ペゴニアさんの悪戯かよ!! くっそ、期待したじゃねぇか!
んで、こっちが本当のプレゼントね。
【あ、画面復活したw】
【お弁当箱かわいいデザインだけど、今の服を喜ぶあー様にはぴったりかも】
【あくあ様って、結構かわいいもの好きだよね】
【え? かわいい女の子が好きだって?】
【それはお前の願望だ】
【ラーメン捗る:はぁ? かわいい女の子が好きなら、姐さんと結婚するわけねぇだろ!!(この発言には不適切な表現が見受けられたために、管理人TOOOKAの判断によって削除しました。現在、このアカウントは管理人TOOOKAの権限で永久凍結処分になっております。処分にご不満がある場合はお問い合わせより管理者に直接申し開きをしてください)】
【ソムリエール:ラーメン噴いたwww 無茶しやがって……】
【捗るが死んだぞw】
【あいつ何言ったんだよw】
【どうせまたアウトな事を言ったんだろw】
俺は両手に弁当箱と水筒を持って、カメラにニコッと笑う。
「カノン、ありがとな。すごく嬉しいよ。これから毎日使わせてもらうから!」
あれ……? チャット欄がすごく加速してたけど、どうしたんだろ? 何かありました?
って、もう時間ないから、最後に一つ何か開けたい。えーとえーと……これだ!
「最後のプレゼント開封になります。というわけで最後は……誰だろ? あ、阿古さんと……母さん?」
2人からのプレゼントか。一体なんだろうな。
プレゼントの袋を開けると、中には一冊のアルバムが入っていた。
【はい。この時点で私が泣いた】
【野暮だけど、アルバムの中が見たい】
【あくあ君、嬉しそうな顔してる】
中を開くと、これまでのいろんな写真が時系列に合わせて並んでいた。
喫茶トマリギでバイトしてる写真だったり、ランウェイのためにウォーキングを練習してるシーンだったり、初めてのドラマ出演だったはなあたの撮影前だったり、藤百貨店とのコラボで局移動でバックヤードを走ってる姿だったり、ドライバーの撮影現場でみんなとBBQしてたり、結婚式の写真だったり、病院で記憶を取り戻してからのいろんな写真が貼られている。
そして写真の一つ一つに対して、みんなからのコメントが書かれていた。
嬉しくて胸がいっぱいになる。
最後のページを捲ると、そこには母さんからのメッセージが書かれていた。
俺はそのメッセージを読み上げる。
「あくあちゃんへ。あくあちゃんが頭を打って病院に運ばれたと聞いた時、何度も嘘だと思いました。病院に行って、ベッドで眠ったままのあくあちゃんを見た時の絶望は今でも覚えています。その後はあくあちゃんも知っているとおり、奇跡的に目が覚めたあくあちゃんは、記憶を全て失っていました。それでもあくあちゃんが生きていてくれた事が何よりも私にとっては嬉しかったです。私ははっきり言って良い母親ではないのかもしれません。だから謝罪させてください。あくあちゃんが私達、家族に対してどう接して良いのかわからなくて悩んでいる事についても、私はうっすらと気がついていました。でも、どうしたら良いかなんてわからなくて、とにかく繋がりを持とうと話しかけるだけで必死だったのです。だから本当はアイドルになると言った時も不安でした。でも……あくあちゃんがやりたいと思う事を否定なんかできるはずがありません。幸いにも、あくあちゃんの周りには阿古さんを筆頭に、ファンの皆さんもみんないい人ばかりでした。それはこのアルバムの写真を見てもわかると思います。もう気がついてると思うけど、このアルバムには、あくあちゃんがあの日、目覚めた後の写真しかありません。だからこれから先のアルバムを、私達やカノンさん達、家族のみんなや、阿古さんを筆頭に会社の皆さん、そしてお友達のとあ君、慎太郎君、アキラ君、クラスメイトの皆さん、そしてファンの皆さんと一緒に作り上げていきましょう。どうか、あまり無理をせずに、たまにはちゃんと休んでね。これは阿古さんもそうよ。2人ともちゃんと休みなさい! そして、これからも楽しく毎日を過ごしましょうね。あくあちゃんの事が大好きなお母さんより」
まぁ……泣くよな……。
俺ってさ、結構泣き虫なんだよ。
母さん、俺が悩んでる事もちゃんとわかってたんだな。
でも母さんだって俺と同じだったと知って嬉しくなった。
【あかん。これは泣いた】
【婆なみ:あくあ様、泣かないで……】
【あくあ君のお母さん、私達、只のファンの事も一緒に入れてくれてありがとう!】
【もう誰がなんと言おうともあくあ様は国民的なアイドルだよ】
【あくあ君、記憶喪失だったんだ……】
【辛かったんだねぇ……大変だったんだねぇ……】
【とあにゃん:泣きたい時は、いっぱい泣けば良いと思うよ。んで、その分、後でいっぱい笑お!】
【黛慎太郎:あくあ、辛い時は頼りないかもしれないけど僕に言ってくれ。僕は、お前の親友だ!】
【通りすがりのポイズンチャリス:俺の心は常に後輩達と共にある】
【天鳥阿古(最高管理者):ちゃんと休みます。ご心配をおかけしてすみません】
【あー様ってカッケーだけじゃないんだよ! 私はそういうところが1番好きです!】
【山さん:自分……すごく勇気もらいました。そんな状況でも前に進もうとしたあくあさんは本当にかっこいいです】
【ゆかりご飯:母は強いっていうけど、なるほどね……。同じ1人の女として尊敬します】
【ソムリエール:私も泣いてるけど、捗ると姐さんも私の隣でガン泣きしてる。ただ、泣くのは良いけど、2人とも私の服をティッシュがわりにするな。そのフリルはティッシュじゃない】
【乙女の嗜み:もう無理……行きます】
袋の中を覗き込むと、まだなんか入ってた。
手を突っ込むと袋の中から大きな爆弾おにぎりが出てくる。
これは……仕事で夜遅かった時、母さんが用意してくれてた夜食だ。
「うめぇ……うめぇよ!」
俺は泣きながらおにぎりを食った。
味付けのりがしょっぱいのか、塩がしょっぱいのか、梅干しがしょっぱいのかわからない。
それくらいおにぎりはしょっぱくて美味しかった。
「あくあ!」
部屋の中に入ってきたカノンが俺に抱きついた。
ちょ……まだ配信は終わってないって……。
って、あれ? なんでここにカノンがいるの?
「ほら、いつまで泣いてんのよ!」
「小雛先輩!」
ドッキリ成功と書いた看板を持った小雛先輩が突っ込んできた。
その後ろから、とあや楓達も部屋の中に入ってくる。
「ったく、プラン全部狂ったけどまぁいいわ。改めて誕生日おめでとう!!」
「おめでとう、あくあ!」
「おめでとうございます!!」
タブレットへと視線を向けると、あらためて俺の誕生日を祝福する言葉で埋め尽くされていた。
「みんな。ありがとう。本当はこのまま配信してたいけど、顔出しできない人たちも部屋の外にいるみたいだから、今日はここでおしまいにするよ。また改めて配信するから! じゃあね! 今日はみんな、本当にありがとうございました!!」
俺はみんなに向かってお辞儀する。それに合わせて阿古さんやカノン、とあ達もカメラに向かって頭を下げてくれた。そして最後は顔を上げて、みんなでファンの人達に笑顔で手を振って配信を切る。
配信が終わると母さんが部屋の中に入ってきた。
「あくあちゃん!」
「母さん! ありがとう。本当に今まで、いっぱいありがとう。あの時、目が覚めてすぐに母さんがそばに居てくれたおかげで、俺は不安にならずに済んだんだよ。だからありがとうって言わせてほしい。今までいっぱい心配かけたし、これからもいっぱい心配かけるかもしれないけど、俺頑張るから」
「うん、うん!」
俺と母さんは抱き合って、お互いの想いを吐露し合う。
母さんにはこれ以上、余計なものは背負わせたくないなと思った俺は、前世の事は黙っておく事に決めた。
少し前に小雛先輩も言っていたけど、最後まで貫き通す優しさもあると思う。
これ以上、俺は母さんのこの小さな背中に負担をかけたくない。
それに前世のあくあが本当に死んだと知ったら、母さんはすごく悲しむかもしれないから。
だったら最後まで俺は嘘を貫き通すよ。それが俺なりの母さんにしてあげられる優しさだと思ったから。
「母さん、ほら乾杯しよ」
「うん、あくあちゃん。誕生日おめでとう」
「母さん。母さんこそ、俺を産んでくれてありがとう!」
その日、俺達は集まったみんなで遅くまで本社でどんちゃん騒いだ。
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