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月街アヤナ、放課後デート!?

「アヤナ、よかったらこの後少し付き合ってくれないか?」


 学校が終わって帰ろうとしたら、あくあが声をかけてきた。


「付き合うって?」

「いやあ、実はさっきまで忘れてたんだけど……ほら、17日って小雛先輩の誕生日だろ? やたらとメールを送ってくるから、なんでかなあと思ったら、そういえば小雛先輩の誕生日って俺と近かったなって思い出しちゃったんだよ」


 あっ……そういえばそうだった。

 私はしまったという表情で半開きになった自分の口に掌を当てる。


「もしかしてアヤナも忘れてたんじゃ……」

「そ、そんなことあるわけないじゃない! 私もちょうど小雛先輩の誕生日プレゼントを選ぼうと思っていた所なのよ! それじゃあ行きましょう!」

「え、あ……」


 私は誤魔化すようにあくあの背中をぐいぐいと押す。

 あくあの誕生日の事ばっかり考えてたから、小雛先輩の誕生日を忘れてたなんて言えるわけないじゃない……!


「で、どこ行くの?」

「とりあえず駅前の商店街に何軒かあった雑貨屋さんに行って、なかったらショッピングモールでいいんじゃない?」


 そういえば駅前に何軒か可愛い雑貨屋さんがあったわね。

 学校へ行く道すがら外から眺めてるだけだったけど、選択肢としては悪くないかもしれないと思った。


「ああ、うん。それでいいかも。ところで、カノンさんはいいの?」

「あっちはあっちでなんか用があるみたいだからさ」


 あぁ、そっか。あくあの誕生日に向けて、いろいろ準備しなきゃって言ってたような気がするわ。

 私も幾つかプレゼントに目星をつけているけど、これといって決め手がなくてまだ悩んでる最中だ。

 ま、私から誕生日プレゼントをもらったところで、そんなに嬉しくないかもしれないけど、い、一応、同業者だし、共演したし、クラスメイトだし、だから私がプレゼントを贈ったとしても、おかしくはないはずよね。


「あ、A組のあくあ君とアヤナさんだ……」

「え? 月9の撮影ですか?」

「ゆうおにはじまっちゃいました!?」

「莉奈派の私、大歓喜……!」

「小雛ゆかりざまあ!」


 学校を出て2人で歩いていると、同じ乙女咲の子達がこっちをチラチラ見ながらヒソヒソと話していた。

 うん、まぁ、そうなるわよね。近づいてくる気配はないけど、遠巻きにずっとジロジロと見られてると思うとあまり気分がいいものではない。

 私がそちらに向かって視線を向けると、みんな軽く会釈して後ろ向きでヒソヒソと話し始めた。

 うんうん、それなら大丈夫。やっぱりこっちを見ながらひそひそ話をされると、あくあだって気が散っちゃうと思うから、そうした方がいいよ。

 それにしても、さすがはベリルのファンね。

 私が視線を向けただけで言いたい事を察するなんて。この業界でもベリルのファンは質が高い、自治がちゃんとできてると言われてるだけの事はあるわ。

 その共通認識の根本には、とあちゃんのマネージャーでもある桐花琴乃さんの存在、彼女が怖いってのがあるのかもしれないけど、それ以上に無防備なあくあに対して、ずっとそのままのあくあでいて欲しいと願うファン心理の方が大きいんだと思う。

 この私ですらそう思うのだから、ファンなら尚更そうじゃないのかなと思った。

 とあちゃんやカノンさんどころか、天鳥社長や小雛先輩ですら、半分悟りを開いたような顔で、あくあはもうそのまんまでいい。その代わり周りの女の子たちが成長すればいいだけだからと言っていた。


「おっ、アレなんかいいんじゃないか!」


 あくあが走り出した方向へと視線を向ける。

 普段はかっこいいのに、こういう無邪気なところもファンの人は好きなんだろうなと思う。


「どうよこれ?」


 あくあは狸の置物の頭をぽんぽんと叩く。

 地方ロケに行った時に、地元のお土産屋さんでよく見るやつだ。


「こいつ……心なしか小雛先輩に顔が似てない?」

「ぷっ!」


 流石にそれはないでしょ! 思わず笑っちゃったじゃない!

 私は半信半疑で狸の顔を覗き込む。

 いやいや、流石に似てる要素なんてないと思うんだけど……。


「ほら、このつぶらな可愛い瞳とか、お気に入りのロケ弁が置いてある日に、目をキラキラさせた時の小雛先輩っぽくない?」


 え? そこ? ……確かに言われてみたらわかるような気がする。

 あくあはわかりやすいように、狸の置物の隣で小雛先輩の顔真似をしてみせた。


「ふふ、ふふふっ、ちょっと、もう! 笑わせないでよ」

「ほら、ほら、見て、見て!」

「あはは、だめ、その顔で近づかないで、おかしくって、ふふっ、もうってばもう!」


 あくあってば、人を笑わせようと思って、もう!

 それ以上したら、小雛先輩に言っちゃうんだからね!


「これいいな。自宅用に買おうかな」

「嘘でしょ!?」

「いや、なんかこう、見てるうちに愛着が湧いてきた。流石に玄関に飾ったらカノンにダサって言われるかもしれないから、事務所の休憩室にでも飾っとくか。いや、それか配信部屋の後ろに置いておくのもありだな」


 あくあはそう言って支払いを済ませると、お店の人に後で配送してもらうようにお願いしてた。

 ほら、店員のお姉さんもまさか売れるとは思ってなかったからびっくりしちゃってるじゃん。

 って、え……? お婆さんの代から売れ残ってる? それ買ったの……。


「いやあ、いい買い物したわ。あれは小雛先輩から名前をあやかって雛狸という名前にしておこう」

「それ、本人の前じゃ絶対に言わない方がいいわよ。もし、バレて怒られても知らないんだから」


 こういう突飛な行動をするところもファンには好かれる要素なのかしら……?

 突飛な行動といえばこの前、深夜番組でやってた白銀あくあは宇宙から来た説でネットがすごく盛り上がってたな。

 有名な大学教授の先生や、UFO研究家、超常現象研究家、雑誌ムゥの編集長などがすごくまじめな顔で討論してた。

 今になって思えば、なんであんな番組を見たのかわからない。完全に時間の無駄だったと思う。

 だって最後は白銀あくあさんを呼んでみましょうとか言って、マンションの上で手を繋いでぐるぐる回ってたもん。完全にネタ番組でしょ。出演者の人はみんなマジだったけど、スタッフの人の笑い声が普通に入ってたしね。


「あ、あれもいいんじゃないか!」


 はいはい、どれ? 流石にもう狸はないよね?

 私は呆れた顔であくあの向かった先へと視線を向ける。

 服屋さんか……。あ、あの可愛いブラウスかな?

 小雛先輩ちっこいからああいうフェミニンなの似合いそうだよね。

 と思ってたら、あくあは全く違うTシャツを手に取って、私の方に広げて見せた。


「どうよこれ!?」


 そこにはデカデカとお茶碗の中に盛った白米の上に紫蘇をふりかけたデザインがデフォルメされたものがプリントされてた。

 私はそれを見て思わず噴き出してしまう。

 待って、何そのTシャツ? え、嘘でしょ……こんなの買う人いるの……?

 お店の人には失礼だと思いつつ、私はじっくりとTシャツを眺める。

 え? これ明らかにネタですよね? 外でこんなの着て歩いてる人見たことないよ?

 よく見たら特価コーナーだし、まさかの100円だし、明らかな在庫処分品じゃん……。


「あのさ……あくあ、私の事を笑わせようとわざとやってるでしょ? もう! 少しくらいは真面目に選んであげなよ。小雛先輩だって泣いちゃうんだからね」

「アヤナ、何を言ってるんだ? 俺なら最初からこれでもかってくらい真面目に選んでるけど?」


 私はあくあと顔を見合わせる。


「え?」

「え?」


 マジ……?

 あくあって画伯なだけで、美的センスはそんなに悪くないよね……?

 そんな事を考えてると、私の困惑した表情を見たあくあは悪戯っぽく笑った。


「ちょっと! 騙したわね! もーっ!」

「あはは、ごめん、嘘、嘘、ちゃんとまじめにやるから」


 むぅ、私は頬を膨らませてプイッと顔を背ける。


「とはいえこれも何かの縁、せっかくだからこのTシャツ買ってくるわ。ついでにメンズサイズもあるから俺も自分用に買っておこうかな。ペゴニアさんに冷めた目で見られて、カノンにクソダサいって言われそうだけど部屋着にしよ」


 普通、そこまでわかってて買おうとする!?

 メンタルが強いのか、鈍感なのか……。とにかくカノンさんはご愁傷様です。

 貴女の旦那さん、今、私の隣でクソダサい部屋着買ってますよってメール送っとこうかな。

 全力で止めてって言われそうだけど、ごめんね。私ではあくあを止められそうにない。


「いやぁ、いい買い物したわ。満足満足」

「店員の人もまさか売れるとは思ってなかったから、びっくりしてたけどね」


 ちなみにその後、残ってたゆかりTシャツは周りで見ていた乙女咲の生徒達に爆速で売れていった。

 あぁ、そっか、お揃いの買えばペアルックになるもんね。この前、雑誌でもカノンさんとお揃いの買ってるって言ってたし……。あ、あれ……? そ、そそそそれなら、あくあと小雛先輩もペアルックになるんじゃ……?

 え? もしかしてあくあってゆかり先輩の事、え……?


「どうかした?」


 あくあの顔を見ても何も考えてないように見えるけど、きっと私の気のせいよね。


「ううん、なんでもない」


 まだ2軒くらいしか見てないけど、なんかすごく疲れた……。


「ちょっと休憩しようか」

「ええ、そうね。その方が私としては、とてもありがたいわ」


 2人で近くのハンバーガーショップに入る。

 もちろん周りにいるのは帰宅途中に立ち寄った乙女咲の女学生ばかりだ。


「あ……あくあ君? それにアヤナさんも……?」

「あれ? 津島さん?」


 私とあくあは顔を見合わせると、目の前でハンバーガーショップの制服を着た津島さんの方へと顔を向ける。


「あ……実は私、ここでバイトしてるんだ。今日は部活が休みだからさ」


 なるほど……でも津島さんって、津島電気っていう大きな会社のご令嬢じゃなかったっけ?

 私が首を傾けると津島さんがその疑問に答えてくれた。


「社会勉強のためにバイトしてるの。ここだと学校から近いし、夜遅くなっても大通りだから丁度よくってさ」

「そうなんだ」


 うちの学校は学力も高めだけど、全国から良い選手を推薦で取ってきてるから部活だって強豪が多い。

 チア部は人気のある部活の一つで、練習量もすごいって聞いてる。

 それなのに日々の勉強に加えて、社会勉強のためにバイトまでしてるなんてすごいなあと思った。


「というわけで、2人ともご注文は何にしますか?」


 私とあくあはメニューを覗き込む。

 どれにしようかしら?


「じゃあ……俺は照り焼きのセットでポテトとコーラね。あ、店内で食べるからよろしく」

「私はフィッシュバーガーのセットで、サラダとホットミルクティーでお願いします」


 津島さんは注文の内容を再確認する。

 あくあはその姿を見てニコニコと嬉しそうな顔をした。


「あ、あくあ君、どうかした?」

「あ……いや、ごめん。津島さんの働いてる姿を見てたら、ヘブンズソードでハンバーガー屋のバイトやってたの思い出して懐かしい気持ちになっちゃってさ」


 そういえば、天我さんと2人でハンバーガーショップのバイトやってたっけ。確か第8話だよね。


「あはは、私もその回見てびっくりしたよ。まさか、あくあ君が同じハンバーガーショップの店員やってるなんて思わなかったからさ」


 あの放送の時はすごかったなぁ。ここもすごい人だかりだった。

 乙女咲でもお昼にハンバーガー食べてた子が多かったのを覚えてる。


「あれ、ちゃんと指導してくれる人がいてさ。それもあってまだ結構覚えてるよ」

「へー! そうなんだ。先輩達もあくあ君ならすぐにバイト入れるよねって言ってたよ」

「じゃあさ……」


 あくあは軽く咳払いすると、津島さんと同じような接客のための立ち姿をする。


「津島さん、ご注文は何になさいますか?」

「え……あ……じゃあ、その、スマイルで!」

「はい。スマイルを一つですね。テイクアウトで構いませんか?」

「は、はい!」

「はい。スマイルのご注文、ありがとうございました」


 あくあのスマイルを見た若い店員さんがふらつく。

 それを隣にいたベテランの店員さんが、驚いた顔をしつつも無意識でキャッチした。

 周りのお客さん達は叫びそうになるのを我慢するように、口元を両手で押さえてなんとか耐える。


「あくあ君、スマイルは殺人兵器じゃないよ?」

「え? 津島さん、なんか言った?」

「ううん、何でもないよ。ご注文の品は後でテーブルに持って行くから、この番号札をテーブルの上に置いて待っててね」


 津島さん……さすがね。

 心の中ではきっと大変な事になっているのだろうけど、それを表に出す事もなく、ちゃんとお仕事をこなしている。

 半年以上クラスメイトだった私達にはある程度の耐性ができてるとはいえ、ピクリともしなかったのを見ると並大抵の精神力ではない。

 あ、あれ? そう思うとカノンさんって……うん、気がつかなかった事にしておこう。まだ結婚して2ヶ月くらいだしね。仕方ないと何度も自分に言い聞かせる。


「ハンバーガーを食べるのはヘブンズソードの撮影以来だけど、やっぱうまいな。今度、とあ達とも食べにこよっと」


 とあちゃんと!? あ……とあちゃん達とか……もう少しで慌てて桐花さんにメールで相談するところだった。


「ん、アヤナ。ほっぺたにタルタルソースがくっついてるぞ」

「え? ど、どこ?」


 とあちゃんとあくあの事で頭がいっぱいになって、ぼーっとしてたみたい。

 私はほっぺたのタルタルソースを近くにあった紙で拭き取る。


「違う。そっちじゃないよ。こっち」

「え……? あ……」


 あくあは反対側のほっぺについたタルタルソースを指先で掬い取るとペロリと舐める。


「うん……たまにはフィッシュバーガーを注文してもいいかもな」


 う、あ、え……? そ、それって、たまにはいつも食べてる照り焼きバーガー、カノンさんじゃなくて、たまにはフィッシュバーガー……私の体もつまんでみたいなって、そういう意味じゃ……。


「よし、それじゃあそろそろ目的の雑貨屋さんに行こうか」

「う、うん……」


 正直それどころじゃないんだけど、あくあを見ている限りそういう雰囲気はない。

 うん……これはきっと私の考えすぎね。


「いっ!? いらっしゃいませぇ……」


 私とあくあが雑貨屋さんの中に入ると、店員さんがびっくりした顔をしていた。

 うん、普通はそうなるわよね。


「俺、これにするわ……」


 そう言ってあくあはどこにあったのか知らないけど、木刀を担いできた。

 え? ここ雑貨屋さんだよね? 私は店員のお姉さんの方へと視線を向ける。


「それ、木工食器を買おうと思ったら、品番を間違えて仕入れた奴……」


 あぁ……うん……。


「小雛先輩なら、これ持ってても似合いそうじゃない?」

「似合うかもしれないけど、もっと可愛いのにしなさいよ。小雛先輩だって女の子なんだからね」

「小雛先輩が女の……子……?」


 あくあはキョトンとした顔を見せる。


「ちょっと、いくら何でもその反応はわざとすぎ!」

「はは、バレたか。わかってるって、俺これにするわ」


 あくあが選んだのは可愛げなアニマルスリッパだった。


「前に家行った時さ、スリッパがへたっててゴミに出したから、新しいのまだ買ってないだろうからこれにしておくわ」

「うん、悪くないと思う」


 って、ちゃんとリサーチもできてるんじゃない!

 もう! 私を揶揄うためにわざとやってたでしょ!


「それなら私はこれにしようかな」

「お揃いのブランケットか、いいと思う。小雛先輩、冷え性だしね」

「じゃあ、これで」


 もっと悩むかなと思ったけど、雑貨屋に来たらスッと決まった。今までの茶番はいったい何だったというのよ……。

 って、小雛先輩へのプレゼントは決まったけど、まだ肝心のあくあのプレゼントが決まってない。

 他になんかないかな? 私は店員さんにプレゼント用に包んでもらってる間に、他の商品へと視線を向ける。

 あ……これなんかいいかも! 私はあくあが他の商品を見ている隙に、追加で商品を購入した。


「アヤナ、今日は俺に付き合ってくれてありがとな」

「ううん、こっちこそ、あくあと一緒だからすぐに決まってよかった」


 私はさっきの雑貨屋さんで包んでもらった紙袋をバッグから取り出すと、あくあに手渡した。


「ん!」

「え……? 俺に?」

「他に誰がいるっていうのよ。だって、あ、あくあも誕生日でしょ。はい、誕生日おめでとう!」

「ありがとう」


 あくあはじっと紙袋を見つめる。


「……開けてみてもいい?」

「うん」


 私があくあに買ったプレゼントは2人で巻けるくらいの長めのマフラーだ。

 一時期、仲のいい女の子同士で友達マフラーって言って2人で巻くのが流行ってたんだよね。

 最近見なかったから忘れてたけど、なんとなくあくあならカノンさんと一緒に使いそうな気がした。


「明日からも今日みたいに普通に登校するんでしょ? それなら登校する時に、カノンさんと一緒に使えるんじゃないかと思って……」

「マジか。すごく嬉しいよ。ありがとう!」


 あくあは早速首にマフラーを巻くと、バッグの中から取り出した小さな紙袋を私に手渡した。


「これ、今日のお礼にって思って」

「え……?」


 びっくりした私は、あくあの顔と紙袋に何度も視線を動かせる。


「あ、ありがとう。私も……開けてみていい?」

「ああ」


 中に入っていたのは小さなリボンのヘアピンだった。


「かわいい……! ありがとう。でも、本当にいいの?」

「あ、あんま高いのだと気を遣うだろうし、それくらいならいいかなと思って。アヤナいつも髪にアクセつけてるじゃん。それに今日出かけた記念に、アヤナには何かをあげたかったんだよ。ほら、アヤナにはお見合いパーティーの時も世話になったし、いつも助けてもらってるからさ」


 あくあは少し気恥ずかしそうに、照れた表情で頬を人差し指で掻いた。

 私は手に持ったリボンをぎゅっと握りしめる。


「うん。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうね」

「ああ、ほら、貸して」


 あくあは私の髪の毛に優しく触れる。

 ああ……あの日の夜の事を思い出しちゃうな。

 いつだってあくあは私達女の子の事を、宝物を扱うみたいに優しく触れてくれる。

 そういうところが凄くキュンとした。


「ほら、どう?」

「わ……かわいい。ありがとう!」


 鏡を見た私はあくあに優しく微笑んだ。


「それじゃあ、また明日、学校で」

「うん! また明日、学校で!」


 私とあくあの帰る方向は逆だ。

 だから私達は駅の改札口の近くでさよならの挨拶を交わす。

 あくあと別れて反対側の改札口へと歩き出した瞬間、ちょっぴり寂しい気持ちになった。

 私はほんの少しだけ振り向いて、あくあの背中をじっと見つめる。

 するとあいつは、こっちの視線に気がついたのか、私の方を見て、笑顔で大きく手を振ってくれた。

 ばか……。そこで振り向かなきゃ、少しはこの気持ちも冷めたかもしれないのに、ますます好きになったじゃない。

 私はあくあのくれたヘアピンにそっと触れる。

 あくあに置いていかれないように、私も頑張らなきゃ。才能がない私にはひたすら足掻いて努力する事しかできない。そしていつかは……ううん、絶対にヒロインとしてあくあの隣に立つの。そして最高の作品を作って小雛先輩を超えるんだ。

 だからこんなところで立ち止まってる場合じゃない。私は顔を上げると、一歩前へと踏み出した。




ーここからオマケですー


 後日……。


「どうよ、このTシャツ。すっごくいいでしょー!」

「あはは、はい……すごく、いいと……思います」


 ゆかりご飯Tシャツを着た小雛先輩は胸を張って私に見せつける。

 え? 小雛先輩まさかとは思いますけど、そのクソダサTシャツ着て、家からここまで来たんですか?


「でしょ! ふふん。あいつ中々良いセンスしてるじゃない! ただ、どうせ買うなら私だけじゃなくて、阿古っちやアヤナちゃんのも買っておきなさいよね。全く、気が利かないんだから!」

「あはは……」


 私はただひたすら笑ってその場を乗り切った。

 よかったわ。私と阿古さんは被害に遭わなくて……。


「アヤナちゃんもありがとね!!」

「い、いえ……ところで、小雛先輩、そのバッグから飛び出たものってもしかして……」

「ああ! これも、あいつがくれたのよ! ふふん、アヤナちゃん、良いでしょう? マイ木刀、私も前から欲しかったのよね」


 えー……。ああ、なるほどね!

 この2人って波長が合うというか、多分似てるんだ。謎のセンスとか、そういう部分が……。

 って事はもしかして、小雛先輩ならあの狸の置物も喜んだんじゃ……。

 うん、私はその事について深く考える事をやめた。




ーさらにオマケー


 一方その頃。


「どうよ、カノン! この小狸の置物、かわいいだろ!!」

「え? ダサ……」

「旦那様、お家をゴミで汚さないでくださいね」

「嘘だろ!?」


 こんなやりとりがあったとかなかったとか。




ーさらにさらにオマケー


 ベリル本社の休憩室にて。


「誰、こんなダサいの休憩室に置いたの……」

「と、とあまで……シクシク、配信部屋に持っていきます」


 という話があったとか、なかったとか?

この時もらったリボンを着用したアヤナの画像をTwitterにて公開しています。


1周年に向けてアンケートやってます。

https://customform.jp/form/input/135309


Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。

現在、特別にはなあたの夕迅、聖女エミリー、月9のゆうおにのイメージ図を公開しています。

また黛、天我、とあ、カノン、あやなのイメージ図などを公開中です。


https://mobile.twitter.com/yuuritohoney


fantia、fanboxにて、本作品の短編を投稿しております。

最新話では、アヤナ視点のバレンタイン回を公開しています。。


https://fantia.jp/yuuritohoney

https://www.fanbox.cc/@yuuritohoney

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンパってるアヤナ・・・。 (*´ρ`*)
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