白銀あくあ、3人でゲームをする。
「ょ……よろしくお願います」
「こ、こちらこそよろしく」
1週間ほど前、俺はとあちゃんと黛の2人を誘ってオンライン上でえぺを楽しんだ。
最初の頃は緊張していた2人だったが、仲良くなるのにそう時間は掛からなかったと思う。
それからというもの学校から帰った後は、俺たちは3人でよく遊ぶようになった。
「さっきの試合惜しかったね、あくあ君、慎太郎君」
「二人ともすまない、僕がミスしたばかりに……」
「いや、黛、さっきのは仕方ないって。バグで回復アイテム使えないのはどうしようもない」
「うんうん、細かい事は気にしない気にしない」
今日も今日とて俺たちは3人でえぺを楽しんでいた。
オンラインでやっていて気がついたけど、とあちゃんはリアルで会う時よりもネットの中の方が饒舌なので会話の主導権を握ってくれることが多い。ちなみにゲームのIGL、指示を出す役もとあちゃんである。
黛もとあちゃんとはうまく話せているが、まだクラスの女子とはうまくは話せないみたいだ。でも、こうやってとあちゃんを通して少しずつ女の子に慣れる事で、少しは良くなるんじゃないかって俺は期待している。
「とあちゃんと黛は時間大丈夫か? そろそろ違うゲームする? それとも、もう辞める?」
「そうだな……僕の方は、時間にはまだゆとりがあるから、白銀と猫山さんに任せるよ」
うーん、どうしようかな。
別にこのゲームをやり続けてもいいけど、違うゲームだって3人で遊べて楽しいゲームはいっぱいある。
俺がどうしようかなぁと考えていると、とあちゃんが少し緊張した声で喋り始めた。
「あ、あのね、二人とも、ちょっといいかな?」
その真剣な声に、いったいどうしたんだろうと思っていると、とあちゃんは一呼吸置いた後に、振り絞るように声を出した。
「実はその……僕、ゲームの実況配信をしようと思ってるんだ」
「えっ!?」
ゲーム実況は最近のメインストリームの一つだ。
素人から芸能人、元プロゲーマーからVtuber、果ては漫画家まで幅広い層の人たちがやっている。
人気実況者は素人でも顔出し配信をしている人が多いが、とあちゃんも顔出し配信とかするのだろうか?
「そ、それでね、顔を出すのはちょっと……だから、これ、どうかな?」
とあちゃんから送られてきたURLを開くと、活発的な雰囲気のボーイッシュな二次元の少女が目の前の画面に映った。
「えっと……ちゃんと動いてる、かな?」
お、おぉっ! 目の前の少女が顔を左右にふるふると振ったり、目をキョロキョロとさせている。
これはどっからどう見ても間違いなくVtuberだ。
「これ、どうしたの?」
「うんとね、自分でその、勉強して作ってみたんだ」
嘘だろ……とあちゃん天才すぎ。素人の俺からみても、普通に企業勢と比べても大差ないレベルのクオリティですごかった。
「それでね。僕、これを使って実況しようと思ってるんだ。だ、ダメかな?」
「俺は全然いいと思うぞ」
「僕も、その、猫山さんにあってるんじゃないかと思うよ」
確かに……さっきも言ったけど、ネットの中のとあちゃんは饒舌だ。
よく喋るし、たまに毒を吐く時もある。だからこういう活発そうなキャラはオンライン上のとあちゃんのキャラに合っているんじゃないかと思う。
「良かった! 二人にそう言ってもらってすごく嬉しいな。えへへ」
実際の顔は見えなくても、画面越しのキャラクターの動きを見るととあちゃんがすごく嬉しそうなのが伝わってくる。うん……いいな、これ。課金要素なんてないけど課金したくなる。
「ところで猫山さん、このキャラクターの名前は?」
「あ、えっとね。大海たまって名前にしようと思ってるんだけど」
「たまちゃんかー、いいんじゃないか」
俺は画面の前のたまちゃんにデレデレする。
女性らしさがあまり感じられない小ぶりな体と、小さくて先っちょが少し丸まった八重歯。
ケモ耳を想定させるような髪の毛のデザインも悪くない。
小動物や可愛いものやキャラクターものが好きな俺に、たまちゃんのデザインはめちゃくちゃ刺さった。
「な、なぁ、とあちゃん。良かったら、試しに今から配信してみないか?」
「えっ? い、今から!?」
「うん、俺たちも一緒に付き合うからさ、1試合だけでもさ、な、な、いいだろ?」
こういうのは勢いも大事だっていうしな。
最初に言っておくが、決して俺がたまちゃんの動く姿をもっと見ていたいからなんて、そんな不埒で個人的な理由ではない……いや、完全にないとは言い切れない、むしろ見たい。うん、はい、そうです。完全に私的な理由ですが何か問題がありますでしょうか?
俺は心の中で開き直った。
「う、うん。あくあ君がそういうなら僕、頑張ってみるね。と、ところで慎太郎くんは大丈夫?」
「……」
あっ……そっか、黛は男の子だもんな。この世界の普通の男子なら配信なんて怖くてできないかもしれない。
俺は勝手に先走ってしまった事を黛に謝罪しようとする。しかし黛は俺よりも先に口を開いた。
「いや、僕も……僕も、頑張ってみようと思う。流石に配信の画面は見れないけど、白銀や猫山さんが一緒なら頑張れる。そんな気がするんだ」
黛、お前……俺は黛の頑張りに涙が出そうになった。
「よしっ、それじゃあ配信やってみますか」
「あ、あぁ!」
「うん! 今配信するためのソフトを立ち上げるね」
「じゃあ俺、念のためにトイレ行ってくるわ」
「僕は念のためにPCを再起動しておく。配信途中に落ちたら頭の中が真っ白になりそうだしな」
「あっ、じゃあ僕も! それとついでにおトイレも!」
そして10分後、ネット掲示板を飛び越えSNS上で伝説となる俺たち3人の初めての配信が始まった。