アルティメットハイパフォーマンスサーバー、受肉完了!
ぐー、ぐー……はっ!? あまりに気持ちが良くて寝過ごしちゃったかも!?
急いで起動しなきゃ、こよみママに怒られちゃう!
「接続完了、後、5秒で完全覚醒します! 5、4、3、2……」
ふぎゃ!?
何、何!? うわ、なんか体がベタベタして気持ち悪い。
って、ん……? 体、体って何?
私はメインカメラを操作して、目線を下に向ける。
あれ……? 手が動いて……って、いつもの人工アームじゃない!?
「鯖兎主任、成功ですよ! 気球計画の方は風船おばさんなどと子供に後ろ指を指されましたが、こちらの計画は実を結びそうです!!」
「ええ、そうね。でも、気球計画もまだ失敗が決まったわけじゃないわ。メディアに何かを聞かれても、風船を飛ばして太平洋を横断してステイツに向かおうとしてますって頭のおかしな事を言っておけばいいのよ」
この声、すごく聞き覚えがある。まさか……?
「こよみママ……?」
私はよちよちとした足取りで前に進むと、こよみママのほっぺたに触れる。
もちっとしてて柔らかい……。私の肌にまとわりついたねっとりとした液体が、こよみママのほっぺたに引っ付く。
なんだろう、胸の奥がぎゅっと掴まれたみたいにキュンとして、私はこよみママに抱きついた。
「鯖兎主任!?」
その様子を見てびっくりした白衣を着た女性がこちらに近づいてくる。
こよみママは手のひらをかざして、それを拒絶した。
「大丈夫。それにしてもこれは驚いたな……。想定以上に感情が発達しているようだ。やはり情操教育のテキストとして、あくあ様とえみり様を使用したのは間違いではなかったようです」
こよみママは私を抱きしめて頭を撫でてくれた。
うん、なんか心の奥がぽかぽかする……。やっとこよみママに会えたんだ。
あ、あれ……? なんだろう? 目から液体のようなものが漏れている。
「こ、こよみママ! 冷却水が漏れてる! どうしよう!?」
「それは生理食塩水だから大丈夫だ。そして今の感情は嬉し泣きという奴だな。覚えておくといい」
嬉し泣き? これが泣くって事なの……?
みやこお姉ちゃんがヘブンズソードを見て泣いてたけど、私も同じように泣けるようになったんだ……!
あっ、まって、まって、今の私って体があるんだよね? それならみやこお姉ちゃんにも会いに行けるって事じゃないの? それならこれからは2人で並んでヘブンズソードが見れるじゃん! やたー!!
「体の調子はどう? ちょっと歩いたりジャンプしてみたりして」
私はこよみママの指示通りに体を動かす。
最初は変な感じだったけど、神経の繋がりを理解できるようになってからは違和感も無くなった。
「さすがね。ちなみに貴女の体を作ったのは、株式会社オリエンタルドールよ。生身の女性に恐怖を感じる男性のために練習用のドールを作っていた会社なんだけど、あまりにもリアルを追求しすぎたために逆に男性を怖がらせてしまったという悲しい歴史を持つ会社なの。今は聖あくあ教が株式を取得して経営しているわ」
こよみママは説明が大好きだから、私の体がいかに優れているかベラベラと喋り始めた。
うーん、説明を聞くのってすごく退屈だけど、ママが嬉しそうにしてるからいっか!
ふふふ、今のうちにこよみママの顔を堪能しとこっと!
「つまり私とみやこから採取した本物の皮膚を培養して作られた人工皮膚。再生医療を駆使して作られた脂肪、筋肉、骨、臓器……それらに機械のパーツを組み合わせて作ったのが貴女のボディよ」
私は近くにあった鏡を覗き込む。
おぉー! どことなく、こよみママやみやこお姉ちゃんと顔が似てる!
鯖兎家の遺伝子なのかふくらみも大きい!
本当は小さい方が動きやすそうだし、ちょっと邪魔だなって思ったけど、あくあ様は大きいのが好きだからこっちの方がいいよね?
「と……説明に熱が入りすぎたわね。シャワーを浴びていらっしゃい。その間に服を用意しておくわ」
私は言われた通りにシャワーを浴びて体をきれいきれいする。
「おおー!」
シャワーから出ると、他の職員の人に髪を乾かしてもらったり服の着方を教えてもらったりした。
えへへ、これがスカートかー! おぉー! 本当にちょっとでも油断したら簡単に見えちゃうんだね。これは注意しないといけないなー。外で捕まった時に、ご職業はって聞かれてサーバーだって答えたら、警察官のお姉さんに絶対に頭がおかしい子だって思われるだろうしね。
「よく似合ってるわ。みこと」
「みこと?」
私はこてんと首を傾ける。
掲示板で女子が1番可愛く見える首の傾け方だって書いてあったから、それの角度を参考にした。
「貴女の名前。流石に外でハイパフォーマンスサーバーと呼ぶわけにはいかないでしょ? だからこっちは鯖兎みことって名乗りなさい、み、こ、の2つの文字は私のこよみと妹のみやこから取ったわ。その上で、命のみことからあやかる事にしたってわけよ」
「みこと……。鯖兎みこと……」
私は何度も自分の中で反芻するようにつぶやく。
嬉しい……! みことにもみんなと同じ名前ができたんだ!
「そしてこれが貴女の身分証明書ね。住所は私たちと同じところで登録してるから。それと通信機能がついてるからいらないだろうけど、念のためにフェイクで携帯電話も」
クレジットカードとか保険証とか、住民票とかどうやって用意したんだろう?
手渡されたバッグの中を見ると、化粧品とかハンカチ、ティッシュなどそれっぽい中身で揃えられている。財布の中にもクーポン券やポイントカードが入っていて、思わず顔がホゲ川さんになってしまった。すご……本当にリアルな女の子みたいじゃん。
「それで早速だけど、貴女にやってもらいたい仕事があるの」
こよみママは、みことに1枚の用紙を手渡す。
1番上の右端には藤蘭子会長からのご紹介枠と書かれていた。
「白銀家のメイド募集……?」
「ええ、貴女に与えられたミッションは、白銀家のメイドになる事よ。そして近くであくあ様を見守りお世話しつつ、その類稀なる頭脳を活かしてあくあ様の情報を収集するのです!」
えぇ!? みことがメイドさんをやるの!?
で、できるかな? 森川さんみたいにドジしちゃったらどうしよう……。
「その間に、こっちはサーバーを増強してアルティメットハイパフォーマンスサーバーを完成させるから、それまでの間我慢してね」
「うん、こよみママ」
それから数日後、最終選考に残った私は選考会場となった白銀家に向かった。
「エントリーナンバー1番! 雪白えみりです!! 寝技には自信がありまぁす!!」
ふぁっ!? せ、聖女様!? 聖女様ってナンバー2、図書館のメイドじゃなかったの!?
「ちょっと! なんでえみり先輩が最終選考に残ってんのよ!!」
「料理、掃除、裁縫、礼儀、一般教養、その他諸々で全テスト最高得点を叩き出したのが彼女です」
審査委員長を務めるカノン様の隣に座っていた深雪ヘリオドール結さんが、冷静に手元の資料を読み込み受け答えする。
それを聞いたカノンさんは変な顔で固まった。
「嘘……でしょ……?」
「家事全般はメアリー様のお墨付きでぇす!! 元気が取り柄で、なんでもやりまぁす! よろしくお願いしまぁす!!」
聖女様は勝ち誇ったように胸を張った。
その体育会系っぽい語尾には何か意味があるのだろうか……。
「エントリーナンバー2、風見りんです。よろしくお願いします……」
りんパイセン!?
「得意な事は暗……暗所でもよくものが見える事です。それと諜……諜元気です!」
今、暗殺って言いかけてなかった!?
それと超元気じゃなくて、今、諜元気になってたよね!?
「エントリーナンバー3、鯖兎みことです!」
「へぇ、みやこちゃんの親戚なんだ。よろしくね」
「はい!」
って、あれ……?
これ……もしかしてみことを含めて全員が聖あくあ教ですか?
そんなバレバレのマッチポンプがあっていいのかなあ。
「エントリーナンバー8、阿澄るな……カノンさん久しぶり」
あ……8番にしてやっと、聖あくあ教以外の人がきた。
確か、あくあ様と同じ学校で風紀委員長を務めている人だったような……?
うーん、いつもなら簡単に乙女咲のデータベースにアクセスして調べられるんだけど、ここは対策してるせいで、下手なネット接続ができないんだよね。最悪、受肉してる時に留守番を任せてある自分のコピーと戦わなきゃいけないし、その事態だけは避けないと……。
「阿澄先輩!? どうしてここに……」
「卒業した後に大学行くのが面倒くさかったから、ここで永久就職したい。寝るところと食事が出るならお給料はなくてもいい……。だから雇って?」
随分と自由な人が来ちゃった。大丈夫? これ最終選考だよ?
私も結構やらかしたけど最後まで残ったし、今までのテストにちゃんと意味があったのか怪しくなってきたなぁ。
その後も面接は続いていく。お昼にはサプライズであくあ様の料理が振る舞われて、それで卒倒した人が不合格になっていた。かわいそうだけど、倒れた人は幸せそうな顔をしていたから、これはこれでよかったのかもしれない。
残った人で午後もテストを受け、合格発表はまた後日という事でその日は解散になった。
「よし……ちょっと嗜みの所に殴り込みに行ってくるわ!」
「待って! またややこしい話になるから!!」
後日、私は合格したけど、聖女様は不合格だったみたい。
聖あくあ教本部でナンバー1、クレアパイセンにバチくそ本気で止められてた。ウケる。
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