白銀あくあ、天国へのカウントダウン。
「おっと、どうやらもう質問がいっぱいきているようですね」
総理は手に持っていたタブレット端末の画面を俺の方に見せる。
そこにはもうすでに多くの質問が集まっていた。
ちなみに誰も楓の事には触れない。何故ならすぐそこで上司さんの顔が般若のようになっていたからだ。
後で俺の方でなんとかご機嫌をとっておこう……。
「こんなにたくさん……ありがとうございます! 全部に答えるのは難しいけど、できる限り時間内で多くの質問に答えたいと思います!!」
総理はタブレットを操作すると、その中から質問の内容をピックアップする。
「まずはそうですね。実はこれ私も気になっていたんですが、えー、ママ友会さんより、年上の女性はお好きですか? という質問が来ています」
「あー、そうですね。実は俺、カノンの方が誕生日も早くて、今のところ白龍先生も含めて結婚した人は、みんな年上の女の子しかいないんです」
こう年上ばかりに固まっている事を考えたら、もしかしたら俺って結構甘えたがりなのかもしれないな。
かといって、カノンに甘える事はそうないと思うけど、結と琴乃には一度でいいからめちゃくちゃ甘えてみたい……! でも、男としてのプライドがな……。やっぱ、ちょっと恥ずかしいし、子供っぽい俺をみて2人にドン引きされたくはない。
「それに似たような質問で、最近東京都在住になった夕迅様ラブさんから、結婚するにあたり、年齢の守備範囲はどこからどこまでですか? 具体的な年齢がでなければご家族や知人を例に挙げてください。という質問が来ています」
「逆に総理に聞きたいんですけど、好きになるのに年齢って重要ですか?」
「ふぁっ!?」
びっくりした顔をした総理は手をあげて、少し待ってください、協議してきますと、席を立ってコメンテーター席の方へと向かう。
「これ、ワンチャンあるぞ……?」
「総理、落ち着きましょう。私も今、ガッツポーズを必死に我慢してます」
「私、もう明日死んでもいい。政治に捧げた人生だったけど、さっきの一言で全てが報われました。これからは残りの人生を感謝の気持ちでより一層この国と国民に奉仕しようと思います」
「今この番組を見ているお年寄り達が心配ですね。もしかしたら画面の前で仏になってる人もいるかもしれません」
「確かに……大丈夫か、これ? 画面の前で既に何人か死人がでてるんじゃないか?」
「さきほど政府からのお願いとして、近隣住民で一人暮らしをしている女性がいたら、生きてるかどうか様子を見にいってくださいとSNSで全国民に発信しました。そろそろ速報テロップでも流れるはずです」
総理はヒソヒソ話を終えると、俺のところへと戻ってきた。
「年齢は関係ないって言ってたけど、本当に……?」
「はい。もちろん法律は守りますけどね。逆に聞きたいんですけど、年齢ってそんなに重要ですか? 好きになるのに、年齢なんかで判別してたらその人の事が好きになる可能性まで狭めちゃうんじゃないかな。俺にとっては好きになった人が、好きな人なんです」
アイや琴乃もめちゃくちゃそこを気にしてたけど、俺としては年齢で2人を好きになったわけじゃない。
ただ、琴乃が自ら望んで俺にお姉さんプレイをしてくれるのなら話は別だ。
そういうわけで俺は琴乃の方をチラチラ見る。
「えっ……それじゃあ女の子の全部が恋愛対象になるんじゃ……え? 全国民、俺の女宣言ですか?」
「ん? 何か言いましたか?」
「いえいえ、何でもないです。お気になさらず」
総理はタブレットをスクロールして、次の質問をピックアップする。
「それじゃあこの質問なんてどうですか? えーっと、20代女性匿名さんからで、知人女性それぞれの良いところを一つに絞って挙げるならコレという点を教えてください。だそうです。年齢じゃないのなら、どういうところに重きを置いているのか知りたいですね」
「あーなるほどね。それじゃあ例えば阿古さん……うちの社長のいいところはいっぱいあるんですけど、その中でも一つ挙げるとしたら、やっぱり……包容力じゃないかな?」
「包容力!?」
「そうです。仕事に対して真面目とか、何事も先頭に立とうとしてくれるとか、阿古さん、社長のいいところは他にもいっぱいあるんだけど、なんていうのかな……。俺達に対しても、社員さんに対しても、こう……ちゃんと全員を抱えて前に向かっていってくれてるって感じがするんですよね。前に立って先導するリーダーシップかと言われると、それも違う気がしますし、何と言って説明するのがわかりやすいんだろう。阿古さんはファンの人達も含めて全員を後ろから包み込んでベリルって会社にしてるんです。だから包容力しかないと思うんですよね」
言葉にして誰かに伝えるのって案外難しいなと思った。
そう考えると、こんなフワッとした俺の言葉を、いつもちゃんと歌詞に修正している慎太郎はすごいなと思う。
今度会ったら個人的にもっと褒めておこうと思った。
「それとドラマで共演した月街アヤナさんは、目標に向かって努力できるところが素直に尊敬できますね」
「なるほど、でもそれって同業者としてですよね? 異性としていいなって思ったところがあれば教えてください」
「えーっと……これを言ったら本人は怒るかもしれないけど、この前のお見合いパーティーとか、ドラマの撮影前とかに緊張しているのか、祈るようにしている姿を見ると個人的にはグッときますね」
「そこもっと具体的に!」
「アヤナ……月街アヤナさんって普段は強気なのに、本番前になるとやっぱり不安なんだって思うと、なんかこう男としては後ろからぎゅっと抱きしめて、大丈夫って言ってあげたくなります」
「ふぁ〜っ!」
総理は奇声を上げながら目を見開くと、立ち上がってコメンテーター席へと向かう。
「卑しか雰囲気が出とるばい!」
「総理、落ち着いてください、総理!」
「せやかて! 後ろから抱きしめるって何ですか? そんな経験みなさんあります?」
「あるわけないでしょ! ないから、そういう社会にしようとこっちは真面目に政治家やってるんですよ!」
「えっ? 月街さんとあくあ君ってもう付き合ってましたっけ? これって、どう考えても合意のサインじゃないですか?」
「しゃあっ! 莉奈派の私大勝利! 小雛ゆかりファンざまあ!」
「なんか口の中が甘酸っぱくなってきたのは私だけですか!?」
「総理! とにかく落ち着いて! 国民の代表たる貴女が取り乱した姿を国民に見せたら支持率が下がってしまいますよ!」
席に戻ってきた総理は話を続けてと言った。
さっきから忙しないけど本当に大丈夫ですか?
生放送中にそんな何回もヒソヒソ話してるって、どこかから今話題になってる空飛ぶ球体とかが飛んできてません?
「他に知人女性で名前が出せる人ってなると……」
「ほら、女優のあの人とか」
「女優……? あー、そう言えばいました」
「そう! その人です!」
「ヘブンズソードで共演してる小早川優希さんですね」
ん? 総理、今、椅子からずっこけそうになってませんでした? 大丈夫ですか?
「小早川さんはあまり口数が多い人じゃないんですけど、どことなく天我先輩に似てるっていうか、周囲に気遣いができる人でよく周りを見てるなって思います。仕事に真面目なところとか、集中力が高いところとかも同じ演者としては尊敬してますね。後、撮影中によく2人で筋トレと食事の話するんだけど、すごくストイックで俺も参考にしてます。実は腹筋を触らせてもらったことあるんですけど、ガチガチに引き締まってて惚れ惚れしましたよ」
「え……? あくあ君が小早川さんの腹筋を? それとも小早川さんがあくあ君の……」
「最初は俺が触らしてもらって、その後に触ってみたそうだったからお礼に俺のもって感じだったかなあ。お互いに触りっこしたって感じかな」
「それは、服の上からですか?」
「あの時はどうだったかな。確か2人でランニングマシン使った後だったから、お互いに素肌だったと思いますよ」
「ファ〜っ!」
総理は再び奇声を上げながら立ち上がるとコメンテーター席へと向かった。
「あかん、これ完全にアウトや。えらいこっちゃになったで〜! 朝から国営放送でとんでもない話ししてもうたわ!」
「総理! 落ちついてください。貴女に冷静になって貰わないと困ります」
「もう私達にはこの席に座って、なんとか気を失わないようにしたり、発狂しないように我慢して耐える事しかできません。だから総理が頑張ってくれないと困るんですよ!」
「中原議員、そんなんいうたかて、私にも限度っちゅうもんがあります! 男女が腹筋を触りっこ……? これ、もうあかんのちゃいますのん!? えぇ!? えぇっ!? びっくりしすぎて顎外れるかと思いましたわ!」
「総理! 大丈夫、みんなが同じ気持ちです。SNSでもハッシュタグ、あくあ君にぽんぽん触ってもらいたい女子とか言って、ルームウェアを捲っておへそ周りを映したクソ女どもの画像がアップされまくってますから」
「私も需要ないけど、へそ写真撮ってアップするか……」
「総理! ダメです。炎上しますよ! さっきそれで行方議員が炎上してました!」
「ほんまかいな!? 行方議員、これはもう全裸土下座しかないわ」
「総理! その事ですが、白龍先生が結ばれた事で、ファンがご祝儀で例の土下座画像をアップしたり、自分も白龍先生のように何かご利益があるんじゃないかとあやかってる卑しい奴らでSNSが溢れかえっています。もれなく全員凍結処分食らってましたよ……。あっ、行方議員のアカウントが……」
「あ……」
「あっ……全……」
「行方議員、いい人だった……」
あれ? なんか総理が沈痛な面持ちで帰ってきた。
だ、大丈夫ですか?
「すみません。で、他に先輩と言うと……?」
「他に先輩!? あっ、そういえばもう1人いましたね」
「はいはいはい、その人です。その人の事はどう思っていますか?」
俺はもう1人の業界の先輩の事を考える。
「そう……ですね。彼女もまた、小早川さんと同じく仕事に対してはとてもストイックな人です」
「ふむふむ」
「でも画面で見るのと実際は違って、役者として演じていない時は結構気さくに話かけてきたりとか……」
「うんうん……って気さく!? 気さくなの!?」
「はい。後見た目はすごく大人っぽいのに、実はものすごく子供っぽいところがあったりするんですよね」
「はいはい、子供っぽいわかります。……って、見た目はすごく大人っぽい?」
「はい」
「えっ、それって先輩の事ですよね?」
「はい、玖珂レイラさんは一応先輩ですね」
総理が椅子からずっこける。
だっ、大丈夫ですか!?
俺は手を伸ばして総理の体を起こす。
「なるほど、そっちの先輩ね」
「レイラさんは雰囲気がありますよね。役者の中では個性が強い方の役者さんだと思います。画面映えする華やかさとかは日本の女優さんの中では間違いなくトップクラスでしょう。そういう魅せ方はすごく参考にしてます。って、あぁ、だめだ。理人さんから、おだてるとすぐに調子に乗るからあんま褒めないでって言われたのを思い出しました」
「なるほどね……。女の子としては、どう?」
「レイラさんって普通に綺麗じゃないですか? だからさっきも少し触れたけど、普通に黙ってたら話しかけづらいタイプだと思うんです。でも気さくに向こうから話しかけてくるタイプだし、案外愛嬌があるって言うか、そこが1番魅力的じゃないかな」
総理はぼーっとした顔で、へー、そうなんだと呟く。
何故か放心状態のようにも見えるのは俺の気のせいだろうか。
「ところで、こういう質問もきてます」
総理は軽く咳払いする。
「東京都在住で永遠の18歳、世界で1番頼れる可愛い先輩K.Yさんより質問が来ていますね。以前、尊敬する人に大女優で偉大なる大先輩でもある小雛ゆかりさんの名前をあげていたと思います。そんなあくあさんが媚びへつらう小雛さんの尊敬出来る所を5つ以上あげてください。 尊敬しているならもちろん出来ますよね?」
俺は頭を抱える。
総理はそのままタブレットの画面をスワイプすると、他の質問へと目を向ける。
「他にもペンネームゆかりご飯さんで、あくあさんが世界で誰よりも1番尊敬している大女優小雛ゆかりさんの尊敬してやまない所を十個教えて下さい。本当に尊敬してるなら大好きな小雛ゆかりさんのことを1時間くらい語れますよね。なんてのも来てます。ちなみ似たような質問が他にも……」
「次の質問に行きましょう」
「え……でも……」
「次の質問に行きましょう」
俺は何事もなかったかのように、総理に次の質問へと向かうように促す。
全く、こんな朝から何やってるんだあの人は……。暇なら少しはお部屋の片付けとかしてくださいよ。
定期的に俺に部屋の掃除させたり、作り置きの料理作らせたり……俺は小雛先輩の通い妻か!
頼むから段ボール折り畳んでゴミに出すくらいはしてください。それと、俺も健全な男子なんだから、せめてね。下着くらいは自分で洗ってくださいよ!! おかげで先輩のローテーションまで知っちゃったじゃないですか!!
「えー……あくあ君からの圧が強いので次の質問に行こうかな。三重出身の28歳、セーター大好きさんからの質問です。 童……女性に不慣れな男性を落とすセーターというのを雑誌の通販で買ったのですが、おっぱいがはみ出て恥ずかしいので着るに着れません。今も箪笥の奥に眠っているんですけど、あくあ様はこういう服は好きですか?」
どーてーを殺すセーターだって!?
総理は誤魔化したけど、今、間違いなく言いましたよね?
ふっ、俺はこう見えてもアーティスト、耳だけは抜群にいいんだ。
「そう……ですね」
俺は真剣な面持ちで言葉を選ぶ。
どうにかして28歳のお姉さんがセーターを着用した画像を手に入れられないか、あくあブレインをフル回転させる。
会社に送ってもらっても阿古さん、しとりお姉ちゃん、琴乃の誰かにチェックされて省かれてしまうし、どうしたものか。
「まずセーターなんですが、普通に着ればいいと思います。恥ずかしがる必要なんて全くありません。はみ出たっていいじゃないですか! むしろはみ出るほど元気な自分の肉体を褒め称えてください!!」
ぴこーん! 良い事を閃いたぞ!!
俺は邪な心を覆い隠し、爽やかな表情を画面に向ける。
「それでもまだ恥ずかしいと言うのなら、後で個人的に俺のtowitterに着用画像を送ってください。すぐにチェックします!」
フハハハハッ! これで28歳お姉さんの着用画像を自然にゲットだぜ!
そんなろくでもない事を考えていたら、総理に肩をツンツンとつつかれる。
ん? どうかしましたか?
「あくあ君あくあ君、それを全国放送で言っちゃうと、テレビを見てる社長とか、奥さん達にもバレちゃうけどいいの?」
「あ……」
やっちまった……。
なんだよあくあブレインって、完全にポンコツじゃねえか!
「えーっと、気を取り直して、次に行きましょう! 福岡県在住の23歳の女性から質問が来ていますね。私は喫茶店で毎日スイーツを作っています。 お客様に美味しいと言ってもらえるのが嬉しくて毎日頑張っているのですが、料理が得意なあくあさんは、この前、森川アナと一緒にお菓子の家を作っていたけど、プライベートでお菓子作りとかはしないんですか? もし作られるのであれば得意なスイーツを教えてください!」
「スイーツってほどではないんですけど、妹とカノンによくパンケーキ焼いてますね」
「パァンケェキ!?」
「はい、妹とカノンは似てるところがあって、パンケーキを焼いてる時に、テーブルでそわそわしたり、ワクワクしたりしているのが見ててもよくわかるんですよ。その時の表情や仕草がすごく可愛くて、また見たいなってついついパンケーキ焼いちゃうんです」
思い出しただけでも、心がほっこりと温かくなる。
らぴすやカノンについついスキンシップが過多になりやすいのは、きっと俺だけのせいじゃない。
定期的にかわいいぞって事を俺にわからせてくる2人がずるすぎるのだ。
「あー、でもお菓子作りなら俺よりもとあの方がうまいかな」
「そういえば、とあちゃんは配信とかでお菓子作りしてましたね」
「はい。学校の授業でも2人でカップケーキ作って、クラスのみんなとか生徒会の皆さんとか、担任の先生とかに配ったりしました」
「え……そ、そそそそそ、それって、ベリルのシークレットイベントですか!?」
「いえ、普通に学校の授業ですけど……」
「ちょっと行って来ます!」
総理はコメンテーター席へと向かう。
「乙女咲には、来年からもう補助金とかいらないんじゃないか?」
「総理、気持ちはわかるけど、落ち着いて、どー、どー」
「落ち着いてください総理、国会議事堂を占拠したテロリストとグレネードランチャーで闘った時と同じ顔になってますよ!」
「だってずるいだろ! 私なんかメアリー卒だぞ! メアリーのネット辞典見てみろ! 有名人の一覧に載ってる代表が、嗜み、捗る、ティムポスキー、私だぞ。ふざけんな!! 私をそこの四天王に混ぜるな!!」
「メアリーは基本的にクソ女しかいないんだから仕方ないじゃないですか!」
「あっ、あっ、中原議員、それは問題発言ですよ! そういえば貴女、クラリス卒でしたね」
「もうクラリスとかメアリーとかどうでも良いじゃないですか。乙女咲の前では総じて全部クソなんですから」
「ふぁ〜、もうそんなのどうでも良いから、私もあくあ様ととあちゃんが作ったカップケーキが食べたいよぉ」
「よしっ! 良い事を思いついたぞ!」
総理は何やら一言二言コメンテーター席の議員さん達とコソコソとお話しすると、こっちに戻ってきた。
「ところで、乙女咲の次の家庭科の授業はいつかな?」
「えーっと、火曜日だったかな?」
「行きます」
「えっ?」
「総理大臣として、いや、1人の政治家として、何よりも1人の大人として! これからの子供達を学び育てる学校教育に力を入れるのは当然の事です! そのために、実際にどういう勉強をしているのか、我々議員には生の教育現場を視察する義務があるんですよ!!」
カメラの前で総理が力強く演説するかのように語りかける。
あれ? なんか、額が汗ばんでるし、さっきの演説より力が入ってませんか?
コメンテーター席に座った議員さん達は、席から立ち上がって拍手を送る。
「総理! 職権濫用じゃないんですか!」
「横暴だぞ!!」
「不適切じゃないのか!?」
この様子を近くで見ていた国営放送のアナウンサーのお姉さん達から抗議の声があがった。
総理はそれを嗜めるように、手を下に向かって押さえるような仕草を見せる。
「みなさん落ち着いてください! きっとみなさんは私達政治家が本当にちゃんと視察しているのか。それが心配なんでしょう? だったら、国営放送としてもちゃんと密着取材をしておいた方がいいんじゃないですか?」
「「「「「おぉ〜ッ!」」」」」
アナウンサーやスタッフのお姉さん達から拍手が巻き起こる。
一体何が起こっているというんです?
「いいぞー!」
「それでこそ総理だ!」
「感動した!!」
「次も投票するぞ!」
なんかよくわからないけど、うまく収まったみたいだ。
国営放送のスタッフさんが、楓の先輩へと近づく。
「先輩、さっきから抗議のメールが後を絶ちません」
「とりあえず全部、森川が悪い事にしておけ! そもそもこうなったのはあいつのせいなんだし!」
「了解しました!! お客様相談室にはそのように伝えておきます!」
総理は席に座ると、再びタブレットを操作して次の質問を選ぶ。
「えーっと、東京都在住の中学生、ボランティア大好きさんから、乙女咲に合格するために死ぬ気で勉強頑張っている受験生へエールをお願いします! だそうです!」
俺は席から立ち上がるとカメラに向かって合図する。
「受験をせずに入学をした自分が言える事じゃないけど、例えどういう結果になったとしても、目標を決めてソコを目指して頑張った事はきっと君の将来にとってとても大きな糧になる。だからどういう結果になっても落ち込まないでほしい。その上で言わせてほしい。君の事を乙女咲で待っている」
「うおおおおおおお!」
総理は席から立ち上がると、猪突猛進! 猪突猛進! と叫びながらコメンテーター席へと向かう。
この国ってもう与党とか野党とかないよね。だってなんか、もうすごく楽しそうだもん。俺も混ざっていいかな?
「私、総理辞めるか」
「ちょっ!? 総理、お気持ちはわかるけど、まずは一旦落ち着いてください!」
「来年、乙女咲受験して制服着るわ」
「総理!? ご乱心なのはわかりますが、どうか冷静になって考え直してください!」
「だって、私の事を待ってるって言うんだもん!」
「カメラに向かって言ったんですよ! 総理が総理を辞めたら只の問題児になりますよ!」
大丈夫? なんかみんなで総理を説得しているように見えるけど、俺の気のせいかな?
総理は周りに宥められて落ち着いたのかこちらの席へと戻ってきた。
「ちなみにこういうのもありました。神奈川県在住のペンネーム月夜さんで、カメラに向かって、おいでと言ってほしいそうです」
俺はさっきとは別のカメラの方へと視線を向ける。
こうやって前振りする事で、スタッフさんもやりやすくなるからだ。
「おいで」
ゆうおにで一也が沙雪を優しく呼ぶ時をイメージした。
「おっふ」
うーん……もうちょっと何かできそうな気がするな。
初期一也をイメージしたせいか、ただ優しいだけって感じがする。
「おいで」
次にイメージしたのは、はなあたの夕迅だ。
優しくも俺様感のある夕迅は妙にしっくりくる。
「おっふ」
せっかくだしもう一個くらいやっとくか。
「おいで」
ヘブンズソードの剣崎をイメージした。
包み込むように優しく抱き止めてくれる剣崎の心の大きさと力強い覚悟を表現する。
「うわあああああああああ!」
発狂した総理がコメンテーター席へと向かう。
「うわあああああああああ!」
「うわああああああああああ!」
「うわ!?」
「うわああああ!?」
「うわああああああああああ!」
あっ、戻ってきた。
なんかお互いにうわしか言ってなかったけど、本当に今ので会話が成立してるんですか?
「はぁ……はぁ……」
大丈夫ですか、総理?
俺は近くに置いてあったペットボトルの水を総理に手渡す。
「ごくっ、ごくっ……ぷはぁっ! 生き返った……。ええっと、丁度いい質問が来ています。投稿者の名前はワーカー・ホリックさんで、あくあ様から懺悔することはありませんか? だそうです」
「懺悔!?」
懺悔する事ってあったかな……?
「あるんじゃないんですか!? い、色々と!」
「色々!?」
うーん、そんなに俺って何かやらかしてたかな?
全く心当たりがないんだが……。うん、ないな。ミリもない。
ただ一個だけ思いついたので、それを答えようかなと思った。
「クレ……同級生で二学期から席が近くなった子がいるんですけど、この前の金曜日にドーナッツもらったんですよね。えーっと、確かミスドーナッツさんから出てる、アマガサキクルーラーって奴。涙が出そうになるくらい美味しくて、本当はカノンと一緒にって話だったのに、嫁に内緒でこっそり2人で食べちゃったのを懺悔します!」
総理はすくっと立ち上がってコメンテーター席に行くと、何故か台を軽く蹴飛ばした。
「どないなっとんねん!」
「総理ダメです! 素が出てます!!」
「私も高校生の時に男の子と一緒にドーナッツ食ってみたかったわ!」
「みんな思ってます! 総理だけじゃないですよ!」
「総理、思い出してください! 私たちはそんな社会になれるように、政治家を目指したんじゃないんですか!?」
「そうですよ! よかったじゃないですか。私達がやって来たことが報われたんです!」
「だからこそ歩みを止めるわけにはいかないんです。総理! どうかお覚悟を……!」
「こんな難しい状況で総理なんてやれるのは貴女しかいません!! どうかお願いします!」
「そうか……国民も期待しとるよな。わかった! 総理、動きます!!」
手を上げて誇らしそうな表情でこちらに戻ってくる総理を、議員さんや国営放送の皆さんがスタンディングオベーションで送り出す。
「時間も迫ってきてるので、どんどん行きましょうか。えー、東京都在住のAAさんから、あくあ君がアイドル活動を始めてから、1番心に残っていることは何ですか? だそうです」
「1番は何かって言われると……やっぱりライブとかで喜んでくれてるファンの人の顔を見たら頑張ろうって気がしますね。これはとあ達とも話してるんだけど、やっぱり生のライブって直接、ファンの人達の顔が、表情がダイレクトで観れるから、それが大きいんだと思います」
「なるほど……」
実際それがモチベーションにも繋がるし、もっと頑張って、たくさん喜んで貰おうって気持ちになる。
それにアイドルといえばやっぱりライブだしね。俺も学生を卒業したら今よりもっともっとライブをやりたいと思ってる。
「40代の芸能関係の女性、つまり同業者の人からも質問が来てますね。急に人気になってしまいましたが、実は下積みとしてこういう小さな仕事がしてみたかったなどあれば教えてください。だそうです」
「これは阿古さんにも話してるんだけど、そういう下積み時代にやりそうな、もっとこう小規模のイベントとかできないかって考えてます。まだちょっと時間がかかるかもしれないけど、広報からファンクラブ宛に発表があるので楽しみにしててください」
「40代の音楽家の方から、白銀あくあさんはこれまで、ロックやポップス、EDM、それにオペラ歌手との共演など幅広いジャンルで活躍されていますが、ご自身のルーツとなる音楽はどのようなものでしょうか? だそうですよ」
「えっと、そうですね。丁度都合よく……というか、スタッフの人が用意してくれてるので、少しピアノをお借りしますね」
俺は軽くピアノの音を鳴らすと、子供にとってはお馴染みの曲であるルッソー作の、ひらいてむすんでを歌う。
前世で孤児院に居た時に、小さな子供達を喜ばせようと練習したのが俺の音楽のルーツだ。
それが俺とピアノとの出会いでもあったんだよね。クラシックを好きになった最初の始まりでもある。
「ふぁ〜、私、あくあ先生の居る幼稚園に行きたい……」
「総理、みんなそう思ってます」
「やばかった。後少しでテレビの前で醜態を晒すところでした」
「これ、子供の前で幼児退行している人が多いんじゃないか……」
「この番組もう再放送なんてできないんじゃないか。最初から最後まで放送倫理委員会行きだよ」
俺はジャケットを正し自分の居た席へと戻る。
「そろそろ最後の質問かな? なんと、ギリギリで男性から質問が来ました!! 秋田県の男の子、たかぴょん君、7歳! ヘブンズソードへ! ぼくもどらいばーになりたいです! ただおねえちゃんが、てれびにヘブンズソードがうつっているといつもおおさわぎでちょっとこわいです。 ぼくもどらいばーになったら、しらないひとにさわがれたりするのかなっておもったら、とってもこわいきもちになりました。 ヘブンズソードはおんなのひとにきゃーきゃーさわがれるのって、こわくないんですか? さっきもへんしんせずにチジョーにむかっていって、ぼくはとてもびっくりしました」
「たかぴょん君、ありがとう。世の中には怖い事はいっぱいあるかもしれない。それでも俺が、ヘブンズソードが立ち向かっていくのは、その恐怖心に打ち勝ってでも向かっていかなければいけない事があるからなんだ。だから、いつの日かたかぴょん君も、どうしても守りたい人ができた時、勇気を出して向かっていってほしい。その時は女の子に優しくするんだぞ! いいかい、これは俺と、剣崎とヘブンズソードとの約束だ」
俺はカメラに向かって親指を突き立ててグッドポーズを見せる。
「最高かよ! って、そんな事言ってる暇なかった。え? もう番組終わり? ええっと、それじゃあもうこれが最後で! 他にも北海道在住のふとももに自信がある女性から、あくあくんは、ふとももがお好きですか? とか、匿名で、私はお尻が大きいのがコンプレックスです。あくさんは大きいのはお嫌いですか? なんて質問も来てます」
「そんなのどっちもいいに決まってるじゃないですか! 健康的なムチッとした太ももも、すらっとした太ももも、スカートがはち切れそうなほど大きなお尻も、キュッと引き締まった小さなお尻も、悪い事なんて一個もないんです! 是非とも自信を持ってください!!」
って、あ、あれ? なんか最後勢いに任せて答えちゃったけど、これでよかったのかなあ?
何故か放送が終わった後、大きな仕事をやり遂げたと言わんばかりに総理はみなさんと仲良くハイタッチをしていた。
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