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白銀あくあ、優しい世界に包まれて。

 ローション相撲で鎖骨を骨折してしまった楓の代わりに、俺は急遽日曜激論に出演する事になってしまった。

 楓は基本的に日曜がお休みだと聞いているけど、今回は総理が出演するという事で特別に対談相手として出演する予定だったらしい。

 そこでなんで俺が代わりになったかというと、総理から楓の代わりに出てみないと誘われたからだ。

 経済や政治をテーマにした日曜激論に、自分のようなアイドルが出てもいいのかな?

 少し悩んだけど、芸能界で働く人の観点から忌憚のない意見を聞かせてほしいと総理に言われた事、国営放送には今までお世話になっている事、これから先も楓が会社に迷惑をかける可能性を考えて出演を快諾した。


「えー、そういうわけで今日のスペシャルゲストは白銀あくあさんなんですが、もう私の話はいいでしょ。総理のよもやま話に興味ある人なんて誰もいないって、念のために聞くけど、いる? ほら、いないじゃん!」


 スタッフさんやコメンテーターの人達の笑い声が聞こえる。

 総理がバラエティ慣れしててなんとも言えない気持ちになるけど、俺も総理のアドリブに思わず笑みが溢れた。


「ところで今日のヘブンズソード、あれなんなんですか?」


 総理からの意外な質問に咽せる。

 あれ? 政治の話は? もしかして最初から脱線ですか?


「ちょっと、総理、それ他局の番組ですよ。大丈夫なんですか……?」

「大丈夫大丈夫。国営放送なんてその時間、ずっと薪が燃えてる動画流してるんだよ? いくら視聴率が取れないからって、ふざけてるにも程があるでしょ。おい! 責任者でてこい!!」


 えー!? 他のチャンネル見てないから、今初めて知ったわ……。

 家にいる時はカノンがテレビの前を独占して食い入るようにヘブンズソード見てるから、他のチャンネルに切り替えた事なんてないんだよな。だから裏で国営放送がそんな番組を流しているなんて知らなかった。

 小雛先輩が、あんたのせいで日曜の朝がヘブンズソード以外見るもんなくなったじゃないの!! って、キレてたのはこの事だったのか……。


「総理、さっきの発言は国営放送の職員に対するパワハラじゃないんですか?」


 コメンテーター席に座った野党の議員さんが声を上げる。

 その発言を受けて、総理は椅子から立ち上がるとスタスタとカメラの前に向かう。


「えー、先ほど、ナベさん……じゃなかった、野党の渡辺議員からパワハラではないのかというご指摘がありました。あー、私としてはですね。そういったつもりは一切無く、ただ笑いを取ろうとですね、そう! 少し調子に乗ってしまったというか……そういうわけでして、この場を借りて失言の訂正と謝罪をさせていただきたいと思います。すみませんでしたあ!!」


 総理はカメラに向かって頭を下げる。

 え? これ……コントか何かのネタを見せられてるんですか?

 いやいやいや、みんな苦笑いしてるし、朝から何やってんの総理!?


「えー、気を取り直しましてね。私、先ほどのヘブンズソードのお話にいたく感動しまして、是非ともあのハグを国会でもやっていきたいなと、これからは討論が終わった後にその相手とハグをしてお互いの健闘を讃えたいと思います」


 うん……まぁいいんじゃないかな。

 ちょっと、いや……だいぶずれてる気がするけど、スポーツでもなんでも闘った相手をリスペクトする心は必要だ。


「お互いに健闘を讃えるのは良い事だと思います。今回、ワールドカップの決勝でも試合が終わった後に、選手達がお互いに健闘を讃えあっている姿を見てすごく感動しました。リスペクトできる相手がいるというのは素晴らしい事です」


 俺の言葉に総理が頷く。


「あくあ君はリスペクトしてる人はいる?」

「そこはやっぱり社長かな。後は支えてくれる家族だったり、ベリルの仲間だったり、一緒に番組やライブを作り上げているスタッフのみんなだったり……後はまぁ、小雛先輩も、一応ね」

「そこは一応なんだ?」

「いや、だって言っとかないと後で五月蝿いから」


 この発言に総理は馬鹿笑いしてくれたけど、周りの人たちはびっくりしたような顔をしていた。

 どうしたんだろう? もしかして、小雛先輩って某大作映画に出てくる名前も出しちゃいけない人でしたか?


「すみません。白銀あくあさん、質問がありますがよろしいでしょうか?」

「はい! えーっと、佐藤議員、どうぞ」

「白銀あくあさんは、その……小雛ゆかりさんについて無礼だな。失礼だなとかって鬱陶しく思ったりしないんですか? 普通はその、男性にあのような態度で接する女性はいないと思うんですが……」


 確かに小雛先輩は、他の女性と比べると遠慮のようなものが感じられない。

 ただ、この世界に転生してまだ1年も経ってない俺からすると、前世の女性のような距離感で話しかけてくれる小雛先輩とは案外居心地がよかったりする。

 向こうも気を遣わないから、俺も気を遣わなくていいってのがまた楽だ。


「流石に小雛先輩とまでは言わないけど、俺としてはもっとこう女性達は気軽に接してくれていいと思っています。話をして触れ合ってお互いを知るって事はすごく重要な事なんですよね。だから、この前のお見合いパーティーのような、男子と女子が垣根なく触れ合えるような機会をもっと増やしていければと思ってます」

「はいはいはい! 質問です!」


 俺は元気よく手を上げた総理にどうぞと答える。


「あくあ君はお見合いとかしないんですか!?」


 総理の質問にコメンテーター席の皆さんが前のめりになる。

 あれ? スタッフの人達も急にそわそわし始めたけど、どうかしましたか?


「そうですね。お見合いパーティーの司会もやらせていただきましたし、何事も経験ですから、人生で一回くらいはお見合いをやってみてもいいかもしれませんね」

「「「「「おぉ〜!」」」」」


 見学していた国営放送のアナウンサーのお姉さん達が、何故かいっせいに化粧を直し始める。

 それを見ていた楓の先輩上司のベテランアナウンサーさんにめちゃくちゃ怒られてた。

 あの人、なんだかすごく苦労してそうな気がする。

 楓の事もあるし、番組が終わった後にいつもありがとねって言っておこ。ついでにこれからも楓の事よろしくねって言っておこう。確かこの番組が終わった後、楓をアラビア半島連邦まで迎えに行くんだっけ……本当ごめんなさい……。


「ただ、カノンが嫌がる事はしたくないので、その前に相談しなきゃですけどね」

「あくあ君ってさ、嫁な……奥さんと結構仲良いよね。テレビの前の皆さんはこう断片的にしか見れてないと思うんですけど、アラビア半島連邦に行った時とかもうほんとずっとイチャイチャしてるんですよ」


 カノンは外では恥ずかしいからあんまりイチャイチャしないでというけど、ついついやりすぎちゃうんだよね。


「そういえばひとつ聞きたいんですけど、あくあ君はカノンさんといつからお付き合いされてたんですか?」

「そうですね。最初のきっかけはパーティーでカノンをエスコートしたのがきっかけなんですが、自分が夏休みに熱を出してしまった時にお見舞いに来てくれまして、それがあって夏の終わりにデートしようという事になったんです」


 数ヶ月前の出来事だというのに、もう随分と前の事のように思えるのは毎日が充実しているからだろうか。


「そこでね……。やられちゃったんです。最初から……その、多分、一目惚れしちゃってたというのもあるんですけど、キスしたくなっちゃって……それがきっかけで付き合う事になりました。その後は皆様の知っての通りです」


 コメンテーター席に座った中原議員が総理、総理と小声で囁いて手招きする。

 椅子から立ち上がった総理は、コメンテーター席の方へと向かう。


「総理、これ放送しても大丈夫なんですか? キッ、キッスとか日曜の朝には刺激が強いんじゃ……」

「そうですよ。うちの娘なんかきっと想像して今、画面の前で卒倒していますよ」

「間違いなく放送倫理委員会に議題として持ち上がりますよ。誰が責任を取るんですか?」

「みなさん、落ち着いてください」


 総理達は小声でヒソヒソと何かを協議してる。

 どうしたんだろう? 何かトラブルでもあったのかな?


「まず責任は全てこの私が取ります」

「「「「「おぉーっ」」」」」

「その上で聞きたいのですが、皆さんあくあ君のそういう話に興味がないんですか?」

「ないわけがないに決まってるじゃないですか!」

「全国民の女子が気になってますよ! もしかしたら男子だって知りたいんじゃないですか?」

「なんならあくあ様の事なら、なんだって知りたい……!」

「わかります! そこはやはり野党も与党と一体となって取り組んでいきたい」

「今の我々に必要なことは一致団結する事です。総理、私は野党の議員ですが、その覚悟に敬意を表して私も進退をかけてこの番組の生放送に臨みたいと思います」

「おい! 若い議員が1人で格好つけるな! 死なば諸共、総理! 放送倫理委員会に襲撃しに行く時はお供します。バリケードを築いて共に立て篭りましょう!」

「落ち着いてください谷川議員、今は昭和じゃないんですよ! とにかく、何かあっても責任は私が取ります。というわけでこのまま番組を続行しますが、異議はありませんね?」

「「「「「異議なーし!」」」」」


 あっ、総理が戻ってきた。一体何をコソコソと話してたんだろう。

 もしかしたら何か大変な事があって、緊急で対策会議でも開いていたのだろうか?

 みなさんお疲れ様です。


「それじゃあ結婚するまでの時間がすごく短かったんじゃない?」

「はい。付き合ってからそう長くないですね。だからカノンの事を考えると、最初は自分の勝手で動いていいのかなと思いました。それでも……」

「それでも……?」

「カノンが他の男性と結婚する時、嫌だなって思ったんです。でもそれ以上に……そうですね。今考えると自分の中にある男としての欲が出たんだと思いました」

「男としての欲……とは?」

「どうしようもなくカノンを自分のものにしたかったんです。カノンは俺の女だ、他の誰でもない、白銀あくあの女だぞって言いたかった。もしカノンが他の男の事が好きになっていたとしても関係なかったと思います。もう一回、俺の方がいい男だぞと、わからせればいいわけですから。それくらい、どうしようもなくカノンを自分のものにしたかった。浅ましいですよね」

「……最高かよ」

「え? 何か言いました?」


 コメンテーター席から、総理、総理と総理を呼ぶ声が聞こえる。

 それに応えるように総理がコメンテーター席へと向かう。

 あれ? 大丈夫ですか? なんか大変な事になってたりしませんか?


「総理、これ、本当に大丈夫なんですか!?」

「俺のものにしたいなんて言われたら想像だけで死人が出ますよ!?」

「なるほど、これに耐えられる選ばれし者達だけがあくあ様と結婚できるのか……」

「嫁なみの死亡を確認!」

「嫁なみじゃなくても、あんなの言われたら普通は死ぬでしょ。私も自分に置き換えて妄想したら天に召されそうになりました。ほら見てください。腕に巻いたorangewatchが一時的な心停止を記録してるでしょ」

「谷川議員、それ大丈夫なんですか!?」

「いやあ、それにしても俺のものだなんて俺様すぎるにも程がある。そんな素敵な男性が実在していたんですね」

「この俺様感は間違いなく夕迅様……」

「やはり夕迅様は実在したのだ」

「総理、はなあたを教科書にしましょう!」

「みなさん落ち着いてください!! 私も少し取り乱してしまいましたが、これはおそらく重要な、そう重要なですね。歴史の教材に、これから先の人類に必要な重要な資料になると思うんです。いいですか、私達にはもはやこの流れに身を任せる。それしかないんです。だからみなさんも頑張って耐えてください!」


 話し合いが終わったのか、総理がこちらへと戻ってくる。

 いやぁ、本当にお疲れ様です。お仕事大変そうですね。


「いやあ、カノンさんは愛されてますね。ところで、他の女性とは結婚したいとかって考えてないんですか?」

「他の女性……そうですね。実は今度新たに3人の女性と結婚しようと考えています」

「さぁんにぃん!?」


 総理、大袈裟なリアクションしてるけど、あなた知ってるでしょ……。


「2人は一般人の方なので、ここでは名前を言えないんですけど、3人のうちの1人は、のうりんの作者で有名な白龍アイコ先生です」


 アイとは事前にこの事についても双方の会社を交えて話し合ってる。

 お互いの立場を考えた上で、著名人同士という事もありちゃんと公表した方がいいだろうという事になった。


「しゃあっ!!」

「白龍先生きたああああああああ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「マジかよ先生……感動した!」

「先生おめでとおおおおおおおお! ずっと先生のファンでよかったあああああああああ!」


 うぉっ!? びっくりしたあ。

 コメンテーター席に座っていたすべての議員さんがガッツポーズをしながら勢いよく立ち上がった。

 いつの間にか混ざっている総理とみんなで肩を組んで円陣になると、ぐるぐると回転しながらジャンプする。

 みんな年齢も党も違うのに、仲良いな。


「やっぱ先生なんだよ。のうりんに書いてあった事は正しいと証明してくれた!!」

「のうりんはすべての女子のバイブル! これこそ政府指定の教科書にするべきでは!?」

「これはもう来年からはなあたとのうりんは教科書行きでいいですよね?」

「いや、映像教材としてヘブンズソードも必要なのでは?」

「それなら音楽の教材にも、ベリルのライブ映像を取り入れるべきではないでしょうか?」

「これはもう政府が主導して、のうりんの実写化に向けて後押しするしかないでしょう」

「「「「「「総理の提案に異議なーし!」」」」」


 うーん、何を話しているのかわからないけど、真剣な表情を見ると何やらとても大事な事を話し合ってるようだ。

 あとなんか知らないけど、放送を見学していたアナウンサーでもベテランの人たちが大喜びしてる。


「先生の年齢であるなら、私たちにもチャンスあるぞ!」

「あの年齢で世界で1番かっこいい男の子と結婚できるとかもうレジェンドだわ」

「白龍先生は間違いなく来年以降に出版される歴史の教科書に載るだろうな」

「あくあ君だなんて贅沢は言わない。楓ちゃん繋がりでなんか男の子とお茶会でもひらけないものなのか……」

「それなら私は、とあちゃんがいい! ずっと膝の上に乗せてなでなでしたい!!」

「私は天我くん! この前のバラエティでもこれからはピンの仕事も頑張りたいって言ってたし支えてあげたい!!」

「じゃあ私は黛君、ああいうきっちりした男の子を何から何まで全部お世話してあげたい!!」

「無謀だと分かっていてもあくあ君に挑戦したい。このエイチはあくあ君のために!」

「やはり一刻も早く、あいつを連れ戻さないといけないようね!」


 何やら今度は若いアナウンサー達も盛り上がっていた。


「頼みます先輩!」

「楓ちゃん、早く帰ってきて!」

「森川〜! 骨折なんてしてる場合じゃないぞ! 私達のためにも秒で治せ!!」

「ワンチャンあいつなら2週間くらいで治りそうな気がする」

「そもそもなんであいつは骨折したんだ……国営放送でローション相撲をする事になった理由が未だに理解できないんだけど」

「クレーム相談室の人泣いてたよ。国営放送のお客さま相談室にかかってくる人の相談内容が8割楓ちゃんだって……責任者がいっそ森川対応室に名前変えるかって笑ってた。目は笑ってなかったけどね……」


 あっ……総理が戻ってきた。

 汗だくですけど、大丈夫ですか?

 俺はハンカチどうぞと言って、総理にハンカチを手渡す。

 総理はハンカチで額の汗を拭いながら、後で新しいの買って返しますと言って、そのままポケットの中に汗を拭ったハンカチを突っ込んだ。


「なるほど、それで今度は楓ちゃん……森川アナウンサーとも一緒にデートするんですよね?」

「はい。ですが……」


 俺はそこで言葉を詰まらせる。

 総理はどうしたんだろうと、心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。


「そうですね。総理と一緒にお仕事でアラビア半島連邦に行った時、シャムス女王陛下のご厚意でショッピングモールを貸切にしてもらって買い物をしたんですけど、やっぱり……なんと言うか、もっとカノンやみんなと、それに楓やこれから付き合う事になるかもしれない女性達とも、もっと外で、普通にデートしたいなって思ったんです」


 自分でも無茶を言っている事はわかる。

 もとより芸能人は俺の世界でもこっそりとデートするのが普通だ。

 でも前の世界と違って、こちらでは女の子と付き合う男子が女子からは圧倒的に支持されている。

 カノン達からも話を聞いたけど、デートをする事自体はむしろ自分にもチャンスがあるんじゃないかって思えるから良いように捉えられているようだ。

 それなのに……いや、こんな事を言ってもしかたないか。


「すみません。これはちょっと我儘過ぎましたね」


 俺はカメラに向かって軽く頭を下げる。


「いや、謝る必要はない」


 総理は真剣な表情で席から立ち上がると、カメラに向かって優しくそれでいて力強く語りかける。

 

「国民の皆様、どうか少しだけの時間でいいから、この私の話を聞いてくれませんか?」


 コメンテーター席に座った他の議員さんがスッと席から立ち上がると、総理の後ろに並んだ。

 一体何が始まると言うのだろう。


「今、皆さんは幸せですか……?」


 総理はカメラ越しに国民に問いかけるように言葉を紡いでいく。


「もしほんの少しでも以前よりも幸せだとそう思うのであれば、どうか、どうか……! 彼の、白銀あくあさんの些細な願いを聞き届けてはくれませんでしょうか?」


 総理は拳を力強く握りしめ、力強い言葉で訴えかける。


「私も同じ女性ですから、白銀あくあさんを見て騒ぎたくなる皆様の気持ちはとても、そう……とてもわかります。でもね。彼も、白銀あくあさんもプライベートは皆さんと同じただの1人の人間なんですよ。同じ日本国民なんです! そんな彼が自由に外で女性とデートをしたり、とあちゃんと、そうとあちゃんとですよ! 大事なところなので2回言いましたけど、お外で遊んだりできないのは国民のみんなで考えるべき問題なんじゃないんですか!」

「そうだ!」

「いいぞ、総理!」

「それでこそ私たちが選んだ総理だ!!」


 総理はカメラの前で両手を広げて語りかける。


「皆さん、ベリルアンドベリルを見ましたか? 私も帰国後に3回は見ました。おそらく皆様はビデオテープが擦り切れるくらい……って、ナベさん何? 今、重要なところなんだけど……」

「総理、世代が違います。もう国民は誰もビデオテープなんて使ってないです」

「じゃあ、DVDか?」

「いえ、DVDはまだ出てないので、みんな配信サイトで見てると思いますよ」

「あっ……コホン! ともかくですよ。皆さん! そんな事はどうでもいいんです。とにかくですね。皆さんが節度を持って行動してくれると約束してくれたら、ああやってもっとこう、ベリルの皆さんが外で買い物をしたりデートをしたりする日常の姿が、私達の日常の中で見られるわけなんですよ!!」

「そうだそうだ!」

「私達の党も全面的に支持するぞ!」

「これはもう政治家全員からの、政府からのお願いだ!!」


 それを見ていた国営放送の偉い人が総理に近づくと、リモコンを手渡して何やら小さな声で一言、二言会話する。

 再びカメラへと顔を向けた総理は、宣誓をするように片手を天高く挙げ強い言葉で訴えかけた。


「私はここに日本国の総理として、この国を愛する総ての国民の代表として宣言する!! 我々、すべての日本国民は、年齢、性別、人種を問わず、たとえベリルのメンバーであろうと、白銀あくあ氏であろうと、誰しもが安心、安全に外を出歩ける治安のいい社会にすると、政府と国民が一体となって取り組んで行く事を誓いまぁす!!」

「よっ! あんたが総理だ!」

「野党代表の代理として総理の発言を全面的に支持する!」

「国民の皆様、どうか私たちに協力してください!!」

「お願いします!! 全ての男性の、そして全ての女性のために!!」


 全員でテレビカメラに向かって頭を下げた。

 それを見ていた国営放送のスタッフさんやアナウンサーさんから拍手が巻き起こる。

 正直、俺は総理の本気に圧倒されて固まっていた。

 総理は頭を上げると、リモコンを見せてDボタンを指差す。


「国民の皆様、お手元にリモコンのご用意の程をよろしくお願いします。そして今言った私の発言を支持するなら、Dボタンを押した後に1番左の青色のボタンを押してください! 100%以外の支持率なら私は総理をやめます!!」


 結論から言うと、本当に100%だった。

 嘘だろって思って、何度も見返したくらいである。

 しかも有効回答数が5400万を超えているって事は、二台持ちの人がいたとしてもほぼ全世帯数じゃ……。

 総理はみんなで万歳三唱すると、再び隣の席に戻ってきた。


「そういうわけで、あくあ君。これからはみんなと普通にデートしたり遊んだりしてください。最初は遠目から警護をつけるけど、以前のように普通に外を出歩いてくれて大丈夫ですよ。私が国民を代表して保証します。国民を信じてこその総理なんでね」

「あ、ありがとうございます」


 俺は総理に頭を下げた後、カメラに向かって頭を下げた。

 なんかもうびっくりし過ぎて頭の中が追いつかないけど、まさかの展開に涙が出そうになる。

 正直、下のスーパーでカノンと2人で買い物したりとか、映画を見るときも事前に連絡して個室でみたり、結局警備付きで小雛先輩達と遊園地に行ったり、ヘブンズソードが始まった9月以降はずっとこんな感じで普段の生活から閉塞感をすごく感じていた。

 とあ達とももっと外で遊びたいなって話してたし、カノンにも、ごめんなって、本当はもっと2人で外に出かけたいのにって話をしたりしていた事を思い出す。


「すみません。ちょっと……」


 生放送中にいけない事だと分かっていながらも、俺はうるんできた目尻を誤魔化すためにカメラから顔を背ける。


「あくあ君、国民を代表して言わせて欲しい。私達は本当に、君達ベリルに、いや、元を正せば、アイドル白銀あくあに救われてきたんだ。私達からあくあ君に返せる事なんて、きっとそう多くはないかもしれないけど、少しでも君が生きやすい世の中にするために私達にも協力させて欲しい。それにほら、君はまだ子供なんだしね。もっと大人を頼りなさい。それこそさっきヘブンズソードで阿部さん、田島司令が似たような事を言っていたけど、わけー男が根性見せて頑張ってるのに、女が指咥えて見てるだけってわけにはいかねーんですよ」


 総理は俺の背中をポンポンと叩く。

 あー、これはだめだ。俺は席から立ち上がると顔を両手で覆い隠して、完全にカメラとは反対方向を向く。


「すみません。ありがとうございます。後ちょっとで復活するんで、できたら少し待ってください」


 それが今の俺に言える精一杯の言葉だった。

 自分のちょっとした我儘がきっかけで、まさかこんな事になるなんて思ってもいなかったけど、素直に嬉しかったんだと思う。

 だからこそより一層、もっとお仕事を頑張ろうと思った。俺が返せる事なんて、きっとそれくらいしかないから。


「うん。それじゃあ国民の皆さん、まだ生放送は続くんでね。よかったら、視聴者のみなさんからあくあ君に何か質問してみませんか? ええっと……今回、生放送にあたって、国営放送はベリル本社から進化した究極のハイパフォーマンスサーバー、アルティメットハイパフォーマンスサーバーを試験的にお借りしております。ですから公式HPの方にどんどん質問の方を送ってくださいだそうです」


 総理は画面下を指差す。


「っと、まだもうちょっとあくあ君の復活に時間かかりそうなんで……え? 楓ちゃんと繋がってる? えー、せっかくなんで入院中の楓ちゃんの様子を映しましょうか。それじゃあ放送、切り替えまーす」


 そう言って画面は楓の映像へと切り替わった。


『しゃあっ! 23連勝!』

『カエデ、ウデズモウ、ツヨイ。ホネ、オレテル。ゼッタイ、ウソ!』


 ええ……。片方の鎖骨折れてるのに、楓は何やってんの……。

 病室では何やらランチのジュースやデザート、お見舞いのお菓子やフルーツを賭けて腕相撲大会をしているのか、楓のテーブルの上には戦利品が並んでいた。


『へいへいへい、ランチのジュースゲット!! 次はどいつだ! 腕相撲なら負けねぇぜ!! 日本代表の森川楓選手、国歌独唱します!』


 次の瞬間、確認用のモニターに映ったテレビの画像が切り替わった。


【只今、不適切な映像が流れましたことを、心よりお詫び申し上げます】


 スタジオでは、強烈な寒気を放つ上司に他のアナウンサーがビクビクする中で、総理だけがゲラゲラ笑っている。


 はは、はははははは!

 楓のおかげもあって俺は涙も引っ込んでしまった。

 やっぱり楓は最高だよ。楓と一緒にいるだけで明るくなれる気がした。

 よし! 次は視聴者からの質問コーナーだったかな。頑張るぞ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 総理、曲者だけど本当に器がでかくて情と政の感覚を持っていて国を背負うに相応しい大人物で凄く好きです。
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