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白銀あくあ、みんなでお買い物、後編。

「うーん。どれにしようかな」


 俺が慌ててらぴすのところへと向かうと、ランプシェードが置いてあるお店の商品棚の前でらぴすが百面相していた。


「らぴす、どうしたの?」


 俺はさりげなく、自然に通りかかった風を装ってらぴすに話しかける。

 だってらぴすに、お兄ちゃん、もしかして私の事をつけてたの? きっも、って言われたらお兄ちゃんは耐えられそうにないからだ。


「あっ、兄様。えっと……飾ってたランプシェードが素敵だったから自分のお部屋に置こうかなって思ったんですけど、どれも可愛いから選べなくって……。だから先にみやこちゃんとかスバルちゃんに買う分を選ぼうとしたんだけど……」

「なるほど、それも綺麗なのがいっぱいあって選べないと」


 らぴすは俺の問いかけに頷いた。

 困ってる妹を助けるのは兄の務め。

 らぴす、ここはお兄ちゃんに任せなさい。


「みやこちゃんにはこれ、スバルちゃんはこれ、らぴすはこれで」


 らぴすに選んだのは煌びやかでありながら透明感のあるスリムな形のランプシェードだ。

 スバルちゃんには、青色がとても綺麗ならぴすと同じ形状のストンとしたランプシェードを選ぶ。

 みやこちゃんのは暖色系の1番膨らみが大きいのにした。言っておくが形に他意はない。

 だから、らぴすはそんな目でお兄ちゃんの事を見ないでおくれ。


「……兄様。確かにどれも綺麗だけど、らぴすのお小遣いじゃ予算オーバーです」


 ああ……そっちね。確かにらぴすはまだ中学生だから、お小遣いでとなると予算は限られるな。

 まだ事務所に人が全然居なかった頃にらぴすがお手伝いをしてた時は、母さんから追加でお小遣いをもらえてたらしいけど、今は会社の人数が増えてそういった臨時収入も無くなってしまったと聞いている。


「らぴす、そういう事ならお兄ちゃんがお友達との交際費を援助してあげよう」

「兄様が交際費を援助ですか? で、でも……兄様に甘えてるばかりで申し訳ないです」

「なに、その代わりらぴすは、お兄ちゃんの言う事を聞いてくれればいい」

「兄様の言う事ならなんだって聞きますけど……そんな事でいいんですか?」

「もちろん」


 よーし! これで最近はらぴすが恥ずかしがってさせてくれなかった事が色々できるぞ。

 これからはまた、お風呂上がりのらぴすの髪を乾かしたり、足をマッサージしてあげたり、膝の上に乗せて撫で回したり、実家に帰った時にらぴす成分をたくさん補充できる。


「らぴす、お兄ちゃんと援交しよう」


 あれ……? なんか略したら物凄くいかがわしい感じになった気がするけど、きっと俺の気のせいだよな。


「わ、わかりました。らぴすは兄様と援交します!」


 うんうん、妹と援交……兄としては胸にときめくものがあるな。うん。

 俺はお財布からこの国の紙幣を取り出すと、周囲にバレないようにこっそりとらぴすに手渡した。


「らぴす、母さん達には内緒だぞ?」

「は、はい。兄様。兄様とらぴすが援交してる事は、カノンお義姉様にも内緒にしておきますね」


 俺はらぴすの頭を優しく撫でる。

 しめしめ、これで実家に帰った時はらぴすの事を自由にできるぞ。

 とりあえず最初のお願いは、昨日買ったらしいこの国の衣装を着てもらうとするか。

 兄としてらぴすを守るためにも布面積のサイズとか生地の透け感を要チェックしないとな。


「やっぱり、1番のライバルはらぴすちゃんなんじゃ……」

「落ち着け嗜み、まだだ……まだ、慌てるような時間じゃない」

「で、でもさ、ほっ、ほら、さっきのアレとか距離感近くない!?」

「それでもポンなみさんなら……あくあ様と結婚した私達のポンなみさんならなんとかしてくれるっ……!」

「だからポンなみって何なのよ!? あと本当にそう思ってるなら目を逸らさないでよ捗る!」


 ん? なんか遠くでうちのカノンとえみりさんがじゃれあってるな。

 多分だけど、これ可愛くない? あっ本当だ可愛い! ねー! なんていう可愛らしい女の子同士の会話をしてるんだと思う。

 美女と美少女だし、絵面的にも俺の解釈で間違ってないはずだ。


「それじゃあらぴす、またお金が足りなくなったらすぐに呼ぶんだぞ」


 俺はらぴすと別れるとショップの外に出る。

 すると通路で何やらメモを取っているアイと、周りの様子をカメラで収めてる本郷監督に遭遇した。


「何してんの?」

「あ……えっと、作品の資料になるかなと思って、見て感じた事をメモしてるの」


 あーなるほどね。俺はアイが手に持っていた荷物へと視線を向ける。


「これは担当や編集部の人とか同業者へのお土産と、参考資料用に買ったものとかかな」

「じゃあ、自分へのプレゼントは買ってないの?」


 それじゃあ味気ないなと思った俺は、本郷監督にも声をかけて2人を連れて近くのショップに入る。

 2人とも仕事に熱心なのは良いけど、せっかくのショッピングならもっと楽しまないとね。


「せっかくだし、アクセサリーとかいいんじゃない? ほら、これなんかどう?」


 俺は目についたイヤリングを手に取ってアイの耳に当てる。

 うん、これなら小説を書くときにも邪魔にならないからいいと思うな。


「い、いいのかな? 私、ちゃんと似合ってる?」


 俺がアイの耳にイヤリングをつけると、アイは鏡を見てそれを確認する。


「ああ、すごく似合ってるよ」

「じゃ、じゃあこれ買います」

「うん、じゃあ店員さんこれお願い!」


 俺は店員さんに商品を預けると、近くにあった良さげなネックレスを手に取る。


「本郷監督はこれでしょ」

「え? 私!?」


 俺は小さく頷く。


「監督ってあんまアクセサリーとか持ってないでしょ?」

「うん……確かに言われなくてもあんま持ってない」

「でしょ? でもさ、これから監督として受賞パーティーがある時とか、やっぱり首元にくらいはなんかつけておいた方がいいんじゃない?」


 流石に監督も授賞式にはジャージで行ったりしないだろうし、多分シンプルなドレスで行くと思う。

 そんな時、寂しくなりがちなデコルテにネックレスをつける女優さんや関係者とかは結構多い。

 このシンプルでありながらも煌びやかなネックレスであれば、着る服装も選ばないと思う。


「確かにそうかも……。私も念の為に、こういうの1個くらいは買っておこうかな」

「うん。じゃあ店員さんこれもお願い。支払いは俺につけておいて」


 俺は近くにいた店員さんにネックレスも一緒にとお願いする。

 はっきり言って2つともそう安くはない値段だけど、2人ともちゃんとした大人の女性だから安物を贈るわけにはいかない。


「いいの? 白龍先生はともかく、私は……」

「監督にはいつもお世話になってるし、これは俺からだけじゃなくてみんなからって事でどう? 監督がヘブンズソードをやってくれた事、あの時、みんなに声をかけてくれた事、結構嬉しく思ってるんですよ」


 ベリルアンドベリルでみんなで風呂に入った時、本郷監督がいたからこそあの景色が見れたと思った。

 阿古さんや、初期からずっと裏方で支えてくれるしとりお姉ちゃん、最初に出資してくれた母さん、人が居なくて困った時に買い出しや掃除を手伝ってくれたらぴす、プロデューサーとしてここまで数々の音楽制作に携わってくれたモジャP、世界的な写真家なのにハードスケジュールの中でベリルの撮影をこなしてくれるノブさん、琴乃をはじめとしたマネージャー、それに社員のみんな、多くのみんなが支えてくれて今の俺達がある。


「今のベリルがあるのはきっと本郷監督のおかげでもあるから」


 本郷監督があの時、とあを、慎太郎を、天我先輩を誘ってくれたから今がある。

 多分……きっと……あの時、無言で同じ方向を見たみんなもきっとそう思ったはずだ。


「だからどうか俺達からの気持ちを受け取ってほしい」

「……うん、わかった」


 本郷監督は柔らかな笑みを見せる。


「ありがとう。授賞式の時はこれ、絶対につけていくわ」

「もちろんその時は最優秀監督でね。その時は俺達4人で監督をエスコートしますよ」

「ははは、あくあ君は本当にプレッシャーが凄いなぁ。まぁ、君が1番を目指すような子だから、私も頑張れちゃうんだけどね」


 俺は心の中で、それは俺達も同じだよって小さく呟く。

 本郷監督の熱が、作品への想いの強さがあったからこそ、俺達だってどこまでも熱くなれるんだ。


「本当にありがとね」

「私も、これ毎日つけるね」


 アイは髪をほんの少しだけ持ち上げると耳に付けたイヤリングを見せる。

 うん、よく似合ってるよ。俺がアイの耳元でそう囁くとアイは顔を真っ赤にした。


「嫁なみ先生……! 私もあくあ様からアクセサリーを貰いたいです!」

「捗るはそれ以前の問題でしょ。もうちょっとこう頑張りなさいよ。肝心なところでヘタレなんだから」

「だ、だって……お父様とお母様から、お前は外じゃ素を見せない方がいいかもなって……」

「あー、それであの擬態だったのか……って、その割りに捗るって、私の前では最初からそうだったじゃん!」

「だってそれはお前の中身が嗜みだって知ってたから」

「ムカッ、なんか馬鹿にされてるような気がするんだけど?」

「はい、嗜みの事は馬鹿にしてます」

「ちょっと! そこは取り繕いなさいよ!」

「ほらね。私が素を見せるとこうなっちゃうんだよ」


 相変わらず遠くではカノンとえみりさんが仲良く談笑していた。

 きっと2人の絵面的に、すごく品のある女の子らしい会話とかしてるんだろうな。

 先にお店を出た俺は、外でポカンとした顔をしてた結を見つける。


「どうしたの結?」

「あ……えっと、その……まさかこの仕事をしてて、こんな遠くに来れるなんて思ってもいなかったから……」


 どういう事だろう? 俺は結から話を聞く。


「えっと、私達、担当官は基本的に担当の男性のお側から離れるわけにはいけません。だからこの仕事に就いた時点で、海外に旅行する事は一生ない事だと思ってました。先輩からは国内旅行でさえも難しいと聞いていましたから」


 あぁ、そっか……。俺は仕事で色々行ったりするけど、引きこもりの男子は基本的に外に出ない。

 ましてや男性が他国に行くのはまず難しい。今回だって、本当はとあや慎太郎、天我先輩だって来たかったけど、双方の国から安全性などを考慮してストップがかかったと聞いてる。


「流石に仕事についてきてもらうわけにはいかないけど……時間ができたらいつかプライベートでも旅行しようか」


 俺は結の手をそっと握る。


「い、いいんでしょうか?」

「いいんじゃない? まぁ、当面はお仕事が忙しいんだけどね。どこか時間ができた時に、1泊2日で旅行にでも行こうか。とはいえ、全員個別に旅行なんてできないからカノン達も一緒になるだろうけど……それでもいい?」

「はい……! もちろんです。奥様は私なんかにもとてもお優しいですし、皆さんとご一緒に旅行できるのも、その……家族旅行をした事なかったので楽しみです。ひゃっ!?」


 俺は結をギュッと抱きしめた。

 そっか、そうだよな。結は家族との関係がうまくいってなかったんだから、ちょっと考えればわかる事だ。


「俺もさ、あんま家族で旅行に行った事とかないんだよ。だからさ、母さん達も連れてみんなで家族旅行に行かないか?」

「はい……! とっても楽しみです!」


 俺は結の頭を撫でると、近くにいた警備の人にお願いして少しだけ外に出れないか聞いてみた。

 するとショッピングモールの敷地内の外であればいいと聞いたので、結と2人で外に出て散歩をする。

 後ろから警備として、りのんさんとアキコさん、それに何故かペゴニアさんがついてくるけど、俺たちは2人は会話をしながらゆったりとした時間を過ごす。


「りのん、クル……いや、ペゴニア、お前ら、今、ちゃんと幸せか?」

「はい。お嬢様に出会ってからというもの、両目が見えていた時よりも世界が華やいで見えます」

「私も、真に仕えるに相応しい人物を、聖女様と出会う事ができました」

「お前ら……そりゃよかったな。言っとくけど、先に逝っちまった奴らに気を遣って、自分が幸せになっちゃいけねぇとか思うんじゃねぇぞ。そんなしょうもない事を考えてたら、地獄の底からあいつらが蘇ってきてお前らのしけた乳首を摘みに来るぜ」

「先生……」

「隊長……」

「いいか? 男がその気になった時がチャンスだ。チャンスが来たら安心して体を差し出せ。何、こう見えても私は寝室じゃ負けた事がねーんだ。困った事があったらなんでも聞け」

「流石です先生!」

「隊長! それでこそ私達の隊長です!」


 俺はせっかくだから旅行の記念にと、結の写真をいっぱい撮った。

 途中からはペゴニアさんにお願いして、2人の写真を撮ってもらう。

 おそらくだけど、結と家族の関係を考えると幼い時に写真とかあんまり撮ってない気がした。

 だからこそ、今、いっぱい撮ってあげたいと思う。歳をとった時に、その写真を見て楽しかった記憶として思い出せるように。

 時間にして十数分ほどだったけど、結とのリラックスした時間を過ごした俺はショッピングモールの中に戻る。


「あら、お帰りなさい」

「みんなこっちに来てお茶でも飲みなさい」


 メアリーお婆ちゃんと藤蘭子会長が近くのカフェでお茶をしていた。

 俺達はそれに甘えるように同伴する。


「あれ? ペゴニア、うちの孫娘は?」

「お嬢様なら何やら雪白様と楽しげな雰囲気でしたので置いてきました。桐花様に面倒を見るようにお願いしているのできっと大丈夫でしょう」


 琴乃が近くにいるのなら安心だな。なんか知らないけどそういう安心感がある。


「こんなに大勢で移動するなんて、なんだか学生時代を思い出すわ」

「わかるわ。楽しくって昨日もえみりさんや孫娘と夜更かししちゃったもの」

「あら、いいわねぇ。まるで修学旅行みたいじゃない」


 お婆ちゃん達はきゃっきゃうふふと盛り上がる。

 2人から話を聞くともうショッピングは十分楽しんだようで、メアリーお婆ちゃんと藤蘭子会長はみんなに色々買ってくれたみたいだ。俺は改めて家族やみんなに良くしてくれてありがとうとお礼と感謝の気持ちを伝える。

 ここに家族を連れてきてくれたのも2人のおかげだし、それがあったからこそ、こんなにも素敵な時間を過ごせているのだと思うと感謝してもしきれないくらいだ。


「あらぁ、そんな事くらい気にしなくていいのよ」

「そうそう。ババア達がお節介でしてる活動みたいなもんなんだから」

「あら、それいいわね。略してババ活ってどう?」

「いいわね! 今日もババ活に精が出るわ!」


 うん……。元気なのはいい事だと思う。

 でもそのババ活は違う単語に差し替えたほうがいいような気がするな。


「メアリーお婆ちゃん、蘭子会長、代わりと言ってはなんだけど、俺にできる事ならなんでも言ってね。なんでもするから」

「ん……?」

「今、何でもって……」


 メアリーお婆ちゃんと蘭子会長は顔を見合わせると淑女の笑みを見せる。

 そして2人で何やらコソコソと話し始めた。


「せっかくだし、あの子もあくあ様に娶ってもらおうかしら」

「あらぁいいわね。それなら私のところも……」

「これはますますババ活に精が出そうね」

「あらあら嫌だわ。老後なのに忙しくって仕方ないわぁ」


 何やら2人が楽しそうにしてるから俺はそれだけでもう満足だ。

 その後、2人のお婆ちゃんのお節介に巻き込まれた結は3人で話をすると言ったので、俺は気を利かせて席を離れる。


「ん?」


 外に出ると端っこで電話をかけてる阿古さんを見つける。


「はい……はい……わかりました。それではまた、帰国した時に……」


 おそらく仕事の電話、多分俺に関する事だろう。

 阿古さんは俺に関する事は極力自分がやろうとする。

 こんな遠くに来ても仕事をしているという事はそういうことだ。

 しとりお姉ちゃんや琴乃からも相談されてるけど、俺も阿古さんと一緒で自分にできる事は極力自分でやっちゃうんだよね。


「阿古さん、いつもありがとね」

「あ……あくあ君」


 俺は阿古さんの電話が終わったタイミングで話しかける。


「阿古さん疲れてない? 休める時に休んどいたほうがいいと思うよ。俺が言えた立場じゃないけど……」

「うーん。そうなんだけど、やっぱりどうしてもね」


 多分だけど阿古さんはワーカーホリックだ。

 休んでる時も仕事が気になるというのはまだしも、休日でもよく会社に出社してるらしいし、どうにかしてちゃんとオフの時間を作らなきゃな。


「それなら休みの日でも、仕事の電話は時間だけ決めて出るとかは? 例えば夜の1時間とか2時間だけは仕事の電話に出るけど、それ以外は仕事用の電話は切っておくとか……」

「なるほど……確かにそれならギリできるかも……」


 なんとなくだけど、それを決めてても阿古さんは普通に電話に出そうな気がする。

 うん、それならいい方法があるな。


「それじゃあ、今度のおやすみ、阿古さんのお家にチェックしに行きますね」

「うぇっ!? お、おおおおおおおおお家って、誰が誰の……?」

「俺が阿古さんの家に、そしたらちゃんと休めてるかチェックできるし、いいんじゃないかって思ったんだよね」

「あわわわわわ、あの祭壇、片付けなきゃ」

「祭壇……?」

「う、ううん、なんでもない。なんでもないの」


 なぜか慌てる阿古さんを見て、昔の阿古さん……と言っても数ヶ月前の阿古さんの事を思い出した。

 やっぱり会社じゃ社長らしくあろうと胸を張ってるけど、きっとこっちの方が素に近いんだろうなと思う。


「やるじゃない! 阿古が思ったより達観してるからどうしようかと思ったけど、少しくらいは良い思いしたっていいじゃない」

「ゆかり先輩、どうしたんですか?」

「ん……? あぁ、アヤナちゃんか。あんたも頑張るのよ」

「え? 頑張るって……え?」

「あんなのちょこっと揉ませておけばどうにかなるのよ。私がバイクの後部座席からギュッて押し付けた時だって意識してたんだし!」

「ゆ、ゆかり先輩!? わ、わわわわわ私は別にあく、あくあとそんなんじゃ……」

「アヤナちゃん、いくらなんでもそれはバレバレすぎるわ……。これはもう一度鍛え直す必要があるわね。こっちにいらっしゃい!」


 ん? なんか遠くで小雛先輩がアヤナの事を引き摺ってる。

 またアヤナに無茶言って付き合わせてなければいいけど……。


「それじゃあ、今度の2人の休みは阿古さんの家に遊びに行くから」

「う、うん……わかった……」


 あれ……。そういえば阿古さんって独身か、事務所の社長でマネージャーとはいえ、未婚の独身女性の家にいっていいのか……? ま、大丈夫か。阿古さんはそういう素振りも見せてないし、俺だけが意識しても仕方ないしな。

 さてと次はどっちに行こうか。そんな事を考えていたら後ろから可愛い声が聞こえてきた。


「先輩」


 後ろを振り返ると、手を後ろで結んだくくりちゃんが可愛らしく首を傾けていた。

 いいね。美少女がそれをやると威力が半端ない。


「くくりちゃん。ショッピング楽しんでる?」

「はい。あくあ先輩は何か買いましたか?」

「あぁ、みんなにお土産とか色々ね」

「それじゃあ、あくあ先輩は自分のお土産を買ってないんですか?」


 確かに……言われてみたらそうかもしれないな。

 まぁ、たくさん思い出ができたし、それで満足はしてるけど、せっかくだから俺もなんか買っておくか。そこのラクダのぬいぐるみとかいいかもしれない。


「はい、これ」


 くくりちゃんは、お抹茶が入るくらいのサイズの小さな缶を俺に手渡した。

 なんだろうこれ?


「これはアラビア半島連邦で売ってるお香です。ほら、あくあ先輩ってお仕事をたくさんしてるから疲れてないかなって思って……だから、よかったらこれ使ってリラックスしてください」

「くくりちゃん……。ありがとう! すごく嬉しいよ。大切に使わせてもらうね」

「はい!」


 あぁ……なんて良い子なんだろう。下心がまるで感じられないくくりちゃんの微笑みに心が洗われるようだ。

 きっとこれもじっくりと時間をかけて選んでくれたに違いない。

 えみりさんといい、やっぱり清純なうちの嫁の友達は清純な女の子ばっかりなんだなぁ。


「ふふん。どうよメアリーちゃん、うちのおひいさまは?」

「うちの孫娘は本当に運がいいわ。くくりちゃんは強敵ね」

「あれが皇くくり様……長官が言ってた華族の頂点」

「そうよ。結ちゃんもあくあ様のお嫁さんになるなら覚えておいた方がいいわ。おひいさまは絶対にあくあ様の味方だから、きっと困った時は助けてくれるわよ」


 俺はくくりちゃんにお礼を言うと、近くのショップで魔法のランプらしきものを見つめているえみりさんを見つけた。


「えみりさん、どうしたの?」

「あ……えっと……」


 ほんの少しだけえみりさんの視線が泳ぐ。

 えみりさんはカノンとは結構楽しげに談笑しているけど、俺に対しては大体こんな感じだ。

 もしかしたら男性恐怖症なのかもしれないな。箱入りのお嬢様っぽいし。


「子供の頃に読んだ絵本のように、これも擦ったら精霊みたいなのが出てきて願いが叶うのかなって」

「あー確かに……えみりさんは何か叶えたい願い事があるんですか?」

「えっ?」


 ちなみに俺はないかな。

 2度目の人生を歩めて、素敵な家族や友人達に囲まれて、楽しく仕事ができて、愛すべき人と結ばれて、これでまだ何かを願うとしたら欲張りにも程がある。それなら他の人にその願いを譲った方がいい。


「えっと……その……せ、世界平和とか? 争いは何も生まないし、みんなが平和になれば飢える事もないかなって……」


 ふぁー、やっぱえみりさんはその見た目そのままに女神様みたいな人だった。

 俺なんかとはもう考えてる次元が違いすぎて、比べ物にならないわ。なんならちょっと拝んどいていいですか?


「それはいいですね。俺も、そういう社会にできたらいいなって思います。よかったら俺にもその願い、協力させてください」

「あ……はい。ありがとうございます……」


 これで少しは距離が縮まっただろうか?

 えみりさんが男性恐怖症だとしたら一気に距離を積めるのは危険だ。

 少しずつ少しずつ会話を重ねて距離を詰めていこう。


「あれ絶対に会話が噛み合ってないでしょ」

「ええ、私もそんな気がします」

「どうせ捗るの事だから、世界平和って言っても全世界の女性に男性があてがわれますようにとか、男性の貞操観念が逆転しますようにとか多分そんなんだと思う」

「いえ、もしかしたら本当に世界平和を……捗るさんに限ってそれはないですね」


 えみりさんとの時間は心が清らかになるような時間だった。

 もしかしたら体からマイナスイオンでも出てるんじゃないかってくらい、えみりさんの周りにいると空気も美味しいんだよな。

 俺がえみりさんとの余韻に浸っていると遠くから声が聞こえてきた。


「あくあちゃ〜ん!」

「うぉっ!?」


 ぼーっとしてたら後ろから母さんが突撃してきた。


「必殺マリンロケット!」

「母さん……良い大人なんだから、みんながいるところでふざけちゃだめだよ」


 俺は小さい子を諭すみたいに母さんの両肩を掴んでにっこりと微笑む。

 すると母さんは頬を膨らましてプイッと顔を背けた。


「だってぇ、あくあちゃんがしとりちゃんやらぴすちゃんの所には行くのに、お母さんのところには全然来ないんだもん! ぷんぷん!!」

「はいはい。で、何?」

「がびーん! あくあちゃんがママに塩対応!!」


 母さんって、たまに古臭い対応をするよね。

 あと俺は普段からこんな感じだし、今更そう言われてもなぁ。

 母さんは黙ってれば、ほんっっっっっっっっっっっっっとうに綺麗なのに、はぁ……残念すぎる。


「あくあちゃん疲れてない? そこのソファで少し休憩しましょ」

「あぁ、うん」


 俺は近くのソファに腰掛ける。

 母さんは水の入ったペットボトルを俺に手渡すと、すぐ隣に座った。


「昨日のあくあちゃん、すごく立派だったわ」

「母さん……」


 カノンから聞いたけど、母さんは観客席で大泣きしていたらしい。

 もし、俺とカノンの間に子供ができて、自分と同じようにあの場所で同じような事をしたら……うん、確かに泣くかもしれないなと思った。


 俺は本当にこのまま母さんに嘘をつき続けていいのだろうか?


 心にズキッとした痛みが走る。

 俺にはこの世界のあくあだった時、転生する前の記憶はないし、今の俺を形成しているのは間違いなく前世のあくあだ。

 もし、俺が母さんの立場だったらどうだったかって、それを考えれば考えるほど胸が痛む。

 前のあくあを産んで育ててくれた母さんには間違いなく知る権利があると思う。

 ただ、それを打ち明けた事で、今の家族との関係が崩れてしまったら……我儘かもしれないけど、前世で家族が居なかった俺に初めてできた家族を今更失いたくなんてない。

 それでも母さんだけには、全てを打ち明けた方がいいんじゃないかと思った。


「あくあちゃん、大丈夫? もしかして疲れちゃった?」

「あ……ううん。なんでもない。少し考えてただけだから」


 母さんの目が見れなくて俺は視線を逸らしてしまった。

 ついそっけない態度をとってしまう自分に歯痒い気持ちになる。

 とりあえず一旦水でも飲んで落ち着こうと俺はペットボトルの蓋を開けた。


「もしかして、あくあちゃん……」


 母さんはキョロキョロと周囲を確認すると、俺の耳元でこそっと囁く。


「この国に来てから溜まってるのなら、お母さんがそこのおトイレであくあちゃんのを手でゴシゴシしてあげよっか?」


 ブフォッ!

 思わず飲んでた水をぶちまけそうになった。


「母さん……」

「え……違った?」


 俺は母さんにジト目を返すと小さく溜め息を吐いた。


「なんでもない。母さんって幸せそうでいいなって思っただけ」

「そうでしょそうでしょ! お母さんがあくあちゃんの事を幸せにしてあげるから、ずっと一緒にいましょう」


 母さんは俺の腕にしがみついて頬擦りする。

 幸せになるかどうかは別として、母さんといるのは退屈しなくていい……って言うか、実家にいる時も急にこの世界に飛ばされて不安になる暇がないくらい騒がしくて楽しかった。

 だからこそ胸が痛む。本当に母さんに打ち明けないでいいのだろうか?

 俺は急に母さんといるのが辛くなって、トイレに行くと言ってその場を離れた。

 ごめん……母さん。


「あんたこんなところで何やってんの?」

「小雛先輩……」


 男性エリアの手前にあったソファに腰かけてると小雛先輩が話しかけてきた。

 なんかまた弄られるのかなと思ったら、そんな事もなく俺の隣にゆっくりと腰掛ける。


「何かあった?」

「いや……別に……」


 俺は誤魔化すようにそう答えた。

 小雛先輩くらいならこんな誤魔化しが嘘だってすぐにバレるだろう。

 それでも今の俺には、他にうまく誤魔化せる言葉が見つからなかった。


「……あんたってさ、何か隠してる事ってある?」


 心臓が小さく跳ねた。

 もしかしたら小雛先輩は何かに気がついたのかもしれない。

 もう誤魔化せないかもしれないと思った俺は小さく声を出す。


「俺は……」

「私はあるわ。そしてずっとそれを隠し通すために嘘を吐き続けてる」


 小雛先輩は俺の言葉を遮るように言葉を発する。

 何も言わなくてもいいって言われたような気がした。


「だからね。世の中には本当の事を打ち明ける優しさがあれば、嘘をつき続ける優しさもあるのよ。優しさに正解も不正解もないの。嘘を吐いてたってその人が幸せそうに笑ってたらそれでいいじゃない。その人が重くなる荷物まで背負わせて、笑顔を曇らせるよりいいと思うわ。まぁ、嘘を吐かれた方は真実を知りたかったって思うかもしれないけど、嘘だって最後まで吐き続けたら本物になるのよ」


 嘘を吐き続ける事も優しさになる?

 俺は小雛先輩の言葉に目を見開く。


「まぁ、あんたが何で悩んでるかは知らないから、私のこのアドバイスで正しいのかどうかはわかんないけど、何にしても生きてたら答えは一つじゃないって事! あと、あんたの白黒はっきりつけたがるところは好きだけど、まだガキンチョなんだから答えを出すのに急ぐなバカ。もっと悩め。んでもってもっと大人に甘えなさい」


 小雛先輩は立ち上がると俺の頭を髪がくしゃくしゃになるまで撫でる。


「これはあんたの人生の先輩としてのアドバイスよ」


 ああ……なんか勝てないなって思った。

 小雛先輩の掌は気持ちよくて、俺はそのまま身を委ねる。


 それからしばらくの時間が経った。

 そろそろ帰りの時間だけど……あれ? そういえばいつも騒がしい楓を見かけていないような。

 俺が周囲をキョロキョロとすると、ベンチでぐったりとした楓を見つける。


「楓、どうしたの? なんか顔色悪そうだけど……」

「いや、なんか肩の辺が痛くて」


 大丈夫かな? 心配になった俺は楓の顔を覗き込む。

 明らかに具合が悪そうだ。


「なんか心当たりとかない? どっか病院行く?」

「そういえばこの前、番組でローション相撲した時に肩を……いてて……」


 ローション相撲!? そんな素敵な企画が……あ、そうじゃなくって、なんで国営放送でローション相撲なんてやってるんですか!? 国営放送でそんな怪しい企画が行われていたなんて……恐るべし国営放送!

 こちらの様子に気がついたカノンとえみりさんと琴乃が、慌ててショッピングモール近くのクリニックからお医者さんを呼んでくれた。


「あー、もしかしたらこれ鎖骨あたりを骨折してるかもしれませんね。折れてたらすぐに手術しなきゃだめですよ。今すぐに病院に行きましょう」

「えっ!?」


 骨折!? 俺たちは顔を見合わせる。

 結局、楓は本当に骨折してたらしく緊急で手術する事になった。

 それもあってスターズの時と同じく、楓だけがまたこの国に取り残される事になるのだけど……まぁ、仕方ないよね。ちなみに国営放送の上司の人が来てくれて帰りは上司と一緒に帰ったそうだ。


「お前ってさ……本当にアホだよな。しかも骨折してたのに普通に途中まで私達と一緒にはしゃいでたし、鈍すぎるにも程があるだろ」

「はーん、貴女と同じ大学ですが何か? つまり捗ると嗜みの未来がこれよ!」

「嫌すぎるんだけど……あっ、私はもう乙女咲だから関係ないよね? メアリーに居た事は無かったことにしとこ……」

「楓さん、もう貴女も大人なんですから、仕事とはいえあまり無茶な事はしないでくださいね」


 病院に行く時、何やら4人で話していたけど、みんな楓の事を心配して声をかけたんだろう。

 きっと俺の解釈で間違ってないはずだ!

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