白銀あくあ、みんなでお買い物、前編。
アラビア半島連邦での仕事が終わった翌日、ショッピングモールを貸切にしてもらってみんなで買い物をする事になった。
お礼とはいえここまでしてくれたシャムちゃんには後で感謝の気持ちを伝えておこう。
日本じゃこんなに落ち着いて、みんなと一緒にショッピングする機会なんてないからすごく嬉しい。
「あくあ、ソファの前に敷こうって言ってた絨毯だけど、これなんかどう?」
「いいんじゃない? 可愛いと思う。どうせならクッションもこれとか」
「あー、いいかも! あっ、でもこっちもかわいい!」
なんてはしゃぐ奥さんを見て、かわいいのはお前の方だよと言いたくなった。
流石にみんないるから言わないけど、耳元で囁くくらいはいいかな?
「ばか……あくあのばか……」
耳まで真っ赤にしてかわいいなぁ。
俺としては本音を言うと絨毯やクッションより後ろに展示してあるこの国の衣装とか買って欲しいけど、流石に奥手なカノンじゃあの大胆な衣装は難しいよな。
だから俺は、カノンの後ろに立っていたペゴニアさんへと視線を送る。ペゴニアさんならきっと俺の意図に気がついてくれるはずだ。頼む。俺とカノンの新婚性活のために、あそこに展示してあるスケスケの衣装をこっそりと買っておいてくれ!!
俺のサインに気がついたのか、ペゴニアさんはどこからともなくカンペを取り出す。
もう、買ってます……だと……!?
いっ、一体いつの間に!?
俺がペゴニアさんの優秀さに驚いてると、ペゴニアさんはさらにカンペを捲る。
実は私の分も買ってます。お楽しみに……だと……!?
俺は思わず神に祈りを捧げたくなった。
それこそここにシスターさんの1人でもいたら俺は膝を折って拝むだろう。
ま、そんな都合よくシスターさんがいるわけないけどな。
「ぐぬぬぬ……嗜みめ。見せつけてきやがって!!」
「何やってんのよあんた……」
「ひぃっ!? く、くくり!?」
「……あんたさ。仮にもトップなんだから、もう少ししっかりしなさいよ。そもそも年下の私にびびってちゃ話になんないんだけど? はぁ〜、あんたが早くくっつかないと、順序的に私がいけないのちゃんとわかってる? つまりあんたのせいで私が、そうこの私が待たされてるの。だから、できる限り、早く、迅速に、なんなら今すぐに、くっつけ。これは命令よ。わかった?」
「ふぁ……ふぁい……」
ん? なんか遠くでくくりちゃんとえみりさんが仲良くお話ししてるな。
俺がそちらへと顔を向けると、くくりちゃんが笑顔で手を振ってくれたので同じように俺も手を振りかえす。
その時、隣にいたえみりさんの笑顔が引き攣ってる気がしたけど、きっと俺の気のせいだろう。
「うーん。皆さんへのお土産はどれがいいかしら?」
反対側のショップに視線を送ると、琴乃が気難しそうな顔でお菓子を見つめていた。
琴乃……どのお土産を買おうか商品を選ぶのに真剣なのはいいけど、お菓子を買う時くらいは眉間に皺を寄せなくてもいいんじゃないかなぁ。ほら、リラックスリラックス。
俺は琴乃に近づくと、琴乃の眉間のシワをツンとつつく。
「なーに、してんの? みんなにお土産買うなら、俺も選ぶの手伝おうか?」
「あっ……あくあさん」
琴乃は俺が触れたところに両手の指先で触れると、恥ずかしそうに顔を赤くした。
あまり悩んでる姿を見られたくなかったのだろうか。かわいいなぁ。
「やっぱここは定番のお菓子じゃない。ほら、ラクダのミルクのチョコレートとか結構よくない?」
「あっ、本当ですね。これなら数もあるし、仕事の合間で気軽につまめるからいいかもしれません」
俺は店員さんが持ってきてくれた試食用のチョコレートを一切れ掴むと、琴乃の方へと差し出す。
「ほら」
「へ……? んぐっ!?」
俺は半開きになった琴乃の口の中に、ゆっくりとチョコレート押し込む。
「どう? 美味しい?」
「……大変、美味しゅうございました」
ははっ、なんで急に丁寧語なのさ。
さらに顔を赤くした琴乃は俺から顔を背けてしまった。
「ほら、琴乃。俺にも食べさせてよ」
「だ、だめです……」
俺が口を半開きにして待ち構えると、琴乃は慌てたように両手を振って拒否する仕草を見せた。
「なんで……?」
「だ、だって、私はベリルの社員でその……」
「あれ? 琴乃って今日はお仕事じゃなくてプライベートでしょ? だって今回の仕事で俺のマネージャーなのは、琴乃じゃなくてしとりお姉ちゃんだし」
「た、確かにそうかもしれませんけど……」
「だったら今はいいでしょ。琴乃はちゃんとオンとオフを切り替えられるようにならないとね」
なんとなくだけど、琴乃はそういう切替えが苦手なような気がするんだよね。
ちゃんと休める時に心を休まないと、どこかで無理が祟って体調を崩してしまうかもしれない。
そうならないように近くの人がちゃんと見ていて言ってあげる事が重要だ。
「オンとオフ……」
「そうそう。だって、ずっと琴乃がお仕事モードなら、俺が琴乃に甘えられないじゃん」
「あ、あくあくあさんが、わわわわ私に甘える!?」
正直、今すぐにでもそのおっぱいに甘えたいです。
だってここに来てからというもの毎晩、マナ様が薄着でお休みの挨拶をしてくれるし、ペゴニアさんは毎晩、嫁と自分のえっちな画像を送ってくるし……我慢している俺の身にもなって欲しい。
「あ……えっと、それじゃあ……」
琴乃は俺の方へと手を伸ばす。
「お仕事、よく頑張りましたね。い……良い子、良い子」
おっふ……不意打ちの頭なでなでにやられた俺は琴乃から顔を逸らす。
マジか。いつも頭を撫でる方だから琴乃の予想外の攻撃にやられてしまった。
俺は赤くなった顔を隠すように手のひらで覆う。
「姐さんすげぇ! ポンなみさんとはまるで次元が違うぜ」
「あわわわわ、姐さんすごい……って、捗る、ポンなみって何よ? そのポンカンみたいな名前、絶対に私の事でしょ!」
「琴乃様、勉強になります。旦那様はああやって甘やかせば良いのですね。あっ、お嬢様、ポンなみはきっとポンコツな嫁の略称ですよ」
俺は琴乃と一緒にプレゼントを選ぶと、隣の店にいたアヤナに近づく。
「よっ、何してんの?」
「あ……えっと……」
アヤナが見ていたものへと視線を向けると、そこには色とりどりのスカーフやパシュミナが置いてあった。
俺はその中の一枚を手に取る。
「これなんか良いんじゃない?」
「え……?」
アラベスク柄のストールを手に取った俺はアヤナの首にそっとかける。
「この色合いちょっと地味かもしれないけど、場所を選ばないし、ずっと使えるし、それにアヤナには華があるからこういう引き立ててくれるストールもいいんじゃない?」
俺は満足そうに何度もうんうんと頷く。
自分で言うのもなんだが結構似合ってるんじゃないかなと思う。
もちろんアヤナが嫌って言うのなら話は別だけど、俺は一眼見て、これが1番アヤナに似合うと思った。
「あ、ありがとう。で……でも、これ……ふらんとか、まろん先輩とか、クラスメイトのお土産選んでただけだから……」
「あぁ……なるほどね。それならクラスメイトの分は俺も一緒に買おうかな。2人で一緒にどれがいいか選ぼうぜ!」
「う、うん!」
俺とアヤナは2人でストールを手に取って、あーでもないこーでもないとどれがいいか選ぶ。
「胡桃さんは絶対ピンクでしょ! こういうかわいいの絶対好きだと思う」
「意外と胡桃さんは黒でシックなのも似合うと思うけど、あくあが選ぶならそっちの方がいいかも」
「あっ、いや。アヤナのそれも捨て難いなぁ。あっ、これ鷲宮さんにいいんじゃない?」
「わかる! 鷲宮さんってそんなイメージだよね! お姫様っぽそう!!」
「ねー。じゃあ黒上さんはこれで……」
俺は高級感のある黒の透けたストールを手に取る。
黒上さんが全裸でこれを纏ったらとんでもない威力になりそうだなと思った。
「なんかあくあが黒上さんに選んだそれ、やたらと透けてない? 私の気のせい?」
「ぎくっ! 気……気のせいじゃないかな……はは……あ、クレアさんなんてこれなんかいいと思うな」
「うーん、何かすごくごまかされたような……。あっ、でもそれクレアさんには似合うと思うよ」
ふぅ……。なんとかうまく誤魔化せたぜ!
俺は何事もなかったかのようにその後もみんなのストールを選ぶ。
ついでにeau de Cologneのまろんさんや、ふらんちゃんのも選んだから喜んでくれると嬉しいな。
俺は店員さんにお会計は俺につけておいてとお願いした時に、さっきアヤナに選んだストールも一緒に購入する。
「はい、これ」
「あ……えっ、これって……」
「さっき似合ってたからプレゼント。嫌だったらごめんね」
「う、ううん。嫌じゃない……ありがとう」
俺ははにかんだアヤナに笑みを返す。
「アヤナちゃん! そこよ! そこでもっと押すのよ! お礼に食事に誘うとか……あぁ、もう焦ったいわね!!」
「ゆかり……そんなところで何してるの?」
「しーっ! 阿古っち、今いいところなんだから、邪魔しないで! ったく、あの、あくぽんたんはさっさと気がつきなさいよ!! もう!!」
「はいはい。ゆかりが楽しそうで私は何よりよ」
店の外に出ると、芳醇なコーヒーの香りが漂ってきた。
俺はその匂いに釣られるように、コーヒーの香りの発生源へと向かう。
「ここのお店かな?」
アロマのような独特な香りのコーヒーは癖が強くて人を選びそうだなと思った。
その一方でコーヒーを淹れるカップやソーサーは素敵なデザインのものが多くて目を惹かれる。
せっかくだし、ここで俺もみんなの分のお土産を買おう。
「あーちゃんどうしたの?」
「ん?」
後ろを振り向くと手に紙袋を持ったしとりお姉ちゃんが立っていた。
「ここで、とあ、慎太郎、天我先輩のお土産を買おうと思ってさ。どう思う?」
「あら、いいんじゃないかしら? 休憩室で使うものを選んであげたら喜ぶと思うわよ」
この地域は金が豊富なのか、どのカップにも金の装飾が入っている。
その中でも唯一、白を基調としたカップに銀色の装飾が入ったら美しいデザインのカップがあった。
「これいいじゃん。セットだし、とあと一緒に使おっと」
俺はその隣にあった黒と金の色違いのカップを手に取る。
「それじゃあ、こっちのセットは慎太郎と天我先輩にするか」
先輩は黒色が好きだし、黛も黒が似合うし、2人も喜んでくれるのじゃないかなと思った。
「あーちゃん、会社のSNSにあげるから写真撮っていい?」
「うん。いいよ」
しとりお姉ちゃんは手際よく写真を撮るとすぐにその場でSNSに投稿する。
うーん、俺が4人でお揃いのコーヒーカップとソーサーを買った情報とかいるのかな?
俺もせっかくだから、みんなにお土産買ったぞって写真撮って言っとこっと。
「とあちゃんとあくあさんが同じコーヒーカップ……」
「え? そ、それじゃあ、区別がつかないから2人だけの兼用になっちゃうんじゃ……」
「月街さん……」
「桐花さん……」
あれ? なんかアヤナと琴乃が抱き合ってるけど、そこっていつの間に仲良くなったの?
まぁ、仲がいいのは良い事だから別に良いんだけどね。
「ところでしとりお姉ちゃん、その紙袋どうしたの? 何か良いもの買えた?」
しとりお姉ちゃんはにっこりと微笑むと、周囲をキョロキョロと見た後に俺の耳元で囁く。
「この国の女の子達が着ている衣装と同じの買っちゃった」
「え……?」
い、いいいいいいい今、なななななななななんて!?
え? どれですか!? さっきのスケスケですか? そ、それとも、あ、ああああの、紐みたいな奴じゃ!?
「……あーちゃん、見たい?」
俺は頷きたいのを必死に我慢する。
見てしまったらダメなような気がしたからだ。
「お母さんやらぴすも買ってるみたいだし、今度実家に帰ってくる時は楽しみにしててね」
な、なんだってー!?
しとりお姉ちゃんだけじゃなくて、お母さんまで……いや、そうじゃない。それよりも重要なのはらぴすが、同じような衣装を買ってしまったという事だ。
これはらぴすの兄として、じっくりと隅から隅までチェックする必要があるな。
大事な妹に際どい衣装を着させるわけにはいかない。それはお兄ちゃん以外の人の前で着たらダメだよって言っておかないと。
「しとりお姉ちゃん。俺ちょっとらぴすのところに行ってくる」
「はいはい。商品はお姉ちゃんが受け取っておくからいってらっしゃい。それとついでにお母さんの方も様子見に行ってあげてね。そうじゃないと拗ねるから」
「わかった!」
俺はしとりお姉ちゃんに後の事をお願いして、らぴすのいる方へと向かった。
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