白銀カノン、夫の勇姿。
「あくあ様にはサプライズで、みんなでアラビア半島連邦に行くわよ!」
アラビア半島連邦では、今まさにとある大きなスポーツの大会が開催されている最中だ。
あくあはそのイベントで歌を披露する予定になっている。
本当は自宅にみんなが集まって、テレビの前で掲示板を見ながらゆっくりと鑑賞するつもりだったけど、お婆ちゃんと藤蘭子会長のサプライズで、あくあには内緒でみんなと一緒に現地で観戦する事が決まった。
ありがとうお婆ちゃん、藤蘭子会長!
「ほえー、ここがアラビア半島連邦か」
「うおおおおおお! アラビア半島連邦きたー! 山奥の秘境じゃなくて、ちゃんとした旅行きたー!」
「おい、ティムポスキー、あれ見ろ!」
「うわ……あの女の人の衣装、私達の国なら確実にアウトじゃん……」
「ワンチャンあくあ様もあれ着てたりしないか?」
「マジかよ。捗るやっぱお前天才だわ……」
うん……この2人とは他人のふりをしておこう。
後、テンション上がるのは仕方ないけど、捗るとかティムポスキーとか言うんじゃありません!
幸いにも他のみんなは聞いてないから良かったけど、姐さんに怒られるよ!
「おい、嗜み! 早くこっちこいよ」
逃げようとしたら捗るに首根っこを掴まれた。
だから嗜みじゃなくてカノン! って、どこいくのよ!?
「せっかくだしそこの売店で、あの衣装をみんなで買おうぜ!」
「捗る、ここはやっぱり気を利かせて姐さんの分も買っといた方がいいよな?」
「そりゃそうだろティムポスキー、1人だけ仲間外れにしたら姐さんだって泣くぞ。あっ、姐さんにはあの紐みてーな奴が良いんじゃないか」
捗るがハンガーに引っかかった紐を指差す。
「紐みたいっていうか紐だね」
「これダメでしょ。大事なところ全然隠せてないじゃん……」
もー、絶対怒られるでしょ、これ……。
だってこれ……もう衣装からして、ねぇ……する気まんまんじゃん。
とてもじゃないけど恥ずかしすぎて着れないよ。
「ばっか、姐さんみたいなシャツの1番上までボタンを留めて隠すような人はな。夜はこれくらい大胆な方がいいんだって! 完全にチジョーだけど」
「ほら、やっぱチジョーじゃん」
「姐さんはチジョー、了解!」
「誰がチジョーですって?」
ん? 私達3人は顔を見合わせる。
えっと……嫌な予感がするんだけど、これ後ろ振り向かなきゃだめ?
ペゴニアに助けを求めようとしたが、なぜかペゴニアは主人である私を放置してもうレジに並んでいた。
「いや、姐さん。これは違うんです。私は姐さんの事を思って……」
「そうそう。この衣装ならあくあ君も姐さんをぺろぺろしやすいんじゃないかって真面目に……ヒィッ!」
はい、私はしーらないっと……説教が始まった2人を見捨てるように私はするりと抜け出す。
沈黙は金って言うけど、黙っておいて良かった。
「こ……こんなの着たら、男の子は卒倒するんじゃ……」
「アヤナちゃん、人生は冒険よ! せっかくだし、私もなんか買おーっと。ほら、阿古もこれ買いなさいよ」
「ちょ、ちょっと待って、ゆかり、これ……お尻が……」
阿古さんはスケスケの衣装を見て顔を真っ赤にする。
普段のキリッとした阿古さんしか知らない私からすると、こんな阿古さんを見るのは初めてだ。
ふーん、阿古さんもちゃんと女の子なんだね。
「私もあくあちゃんのために、一枚買っておこうかしら」
お、お義母さん!? そ、その衣装大丈夫ですか!?
なんか胸の生地が捲れるようになってるんだけど……これ、なんのためにそうなってるの? も、もももももしかして、授……ゴホッ、ゴホッ、余計な事を想像してしまって咽せた。
「わ、私もこれを着れば兄様と……」
って、らぴすちゃーん!!
よりにもよってその紐みたいな奴と、お義母さんの持ってる奴と同じものを買おうとしないで!!
「私、これ買います」
結さん!? そんな衣装、どこにあったんですか!?
もしかしてそれ、あくあと……や、やっぱり私も何か買った方が……。
「あら、私もまだいけるかしら」
「メアリーちゃんお揃いの買う?」
お婆ちゃん……?
蘭子会長……?
見てない。そう、私は何も見てない事にした。
「みんなすごい。こんなの買うんだ……」
「白龍先生は買わないの? ほら、これとか……」
「本郷監督……私の年齢知ってます!?」
「ごめんごめん、先生って結構童顔だからつい」
まともそうな本郷監督や白龍先生まで!?
なんだかんだで結局、全員で似たような衣装を買う事になってしまった。
ちなみに私の分は、ペゴニアがさっき並んだ時に自分のと一緒に買っていたので拒否権などない。
うう……なんでよりにもって、こんなやたらとスケスケなのを買うのよ。
「いやー、良い買い物したぜ!」
もーっ、元はと言えば捗るのせいなのに!
それなのに1人だけ1番ちょうどいいくらいの買って!! ずーるーい!
ほら、お婆ちゃんですら冷静になって顔赤らめてるじゃん!
あのティムポスキーですら、あちゃー、勢いでやらかしたって顔してるし、姐さんに至っては衣装を再度確認した後、突っ伏して完全にシャットダウンしてる。
そんな状態の私達を乗せた車は今日の会場へと向かう。
「ようこそおいでくださいました。藤蘭子会長、メアリー前女王陛下、お連れの皆様もこちらへどうぞ」
スタジアムに到着した私達はスタッフさんに案内されてVIPルームの中に入る。
残念だけど現地で仕事する事が決まってるティムポスキーとはここで一旦お別れだ。
「とほほ……上司に急遽見に行ける事になったから、なんでもする代わりに休みくれってお願いしただけなのに。まさかこんな事になるなんて……私もできたら観客席で見たかったなぁ」
「楓先輩の場合、仕方のない事だと思うけど……」
「楓さん。身から出たサビですよ。これを機に今後は計画的に有給を使いなさい」
「そうだぞ。これを機に色々と反省しろ森川!」
「よりにもよって1番言われたくない奴に、ぐぬぬぬぬ……」
はいはい、ティムポスキーと捗るは離れて離れて。
なんでそこは仲良いのにたまに喧嘩するかなぁ。
「じゃあ、私もちょっとだけ仕事してくるわ。あくあ君のためにもね」
ティムポスキーはそう言うと手を振って実況席の方へと向かった。
何故かその後ろ姿がちょっとだけカッコよく見えたけど、本人に言ったらすぐ調子に乗りそうだから黙っておこうと思います。
「社長、私もちょっと行ってきます」
「はい。よろしくお願いします」
そう言って本郷監督はカメラを携えて下の報道エリアへと向かう。
既に撮影の許可は取っているらしく、こちらもせっかくの観光が仕事になってしまった。
でも、本郷監督は楽しそうにしているから、これはこれで良かったのかな?
「き、緊張してきました……」
「らぴすちゃん、あくあならきっと大丈夫よ。しとりお義姉さんもついてるし……ね?」
「は、はい! カノンお義姉様」
私は隣の席に座ったらぴすちゃんの手を優しく握り締める。
らぴすちゃんの隣では、今にも泣きそうな顔をしたお義母さんが、両手を握り締めて何かに拝むように座っていた。なんかさっきからすごく静かだし、大丈夫かな?
さらにその奥では小雛先輩とアヤナちゃん、阿古さんの3人が楽しそうに会話を弾ませている。
私の後ろの席でも藤蘭子会長やメアリーおばあちゃん、捗るが楽しく話してる横で、結さんや白龍先生、姐さんはすごくドキドキした表情をしていた。
ふぅ……なんだか私も少し緊張してきちゃったかも……。
別に私が何かをするってわけじゃないんだけど、会場のワクワクドキドキとした雰囲気というか、ライブとはまた違ったピリついた空気感が特別な何かを強く感じさせる。
「お嬢様、大丈夫ですよ」
「ペゴニア……」
もしかしたらあくあが何か失敗をしてしまうんじゃないか、うまくいかなかったりするんじゃないか。
そんな悪い予感が頭を過った。ペゴニアはそんな私の不安な胸の内を汲み取ったのだろう。
「楽しもう……。きっと、旦那様ならきっとこうおっしゃるはずです」
「ええ、そうね。ありがとう、ペゴニア」
そうよ。あくあならきっと楽しもうっていう。
それに正妻の私が、どーんと構えてなきゃダメでしょ。
私は心の中で気合を入れ直す。
「ほら、そろそろ始まるみたいですよ」
目の前に視線を向けると、ゆっくりと会場の照明が暗くなっていく。
それに合わせて心臓の鼓動が緩やかに加速していった。
『Ladies and gentlemen please sit down for the world cup final ceremony』
会場に響き渡るスタジアムアナウンスと共に、唸り声のような大歓声が聞こえてくる。
振動で肌がピリピリと震えるほどの凄い熱量が会場全体を包んでいく。
『It's not a question of win or loss, it's a question of honour』
勝つか負けるか、これはそういう戦いじゃない。
それぞれの国を背負った人達の名誉をかけた戦いが始まる。
スターズの騎士道精神に準えた言葉だ。
【この戦いはどこまで続くのだろうか。何も見えない霧の中、もがき、苦しみ、倒れ、それでも前に進む。何故そうまでしても人は前に進まないといけないのか】
美しく、それでいて繊細なメロディー。
オーケストラによって奏られたイントロに、世界的なオペラ歌手のアリア・カタリーニさんの歌声が重なる。
会場にいた誰しもが、その力強い歌声に一瞬で聞き惚れた。
【ふとした時、誰かが歩みを止めた私の背中を押してくれた。私も同じように動けなくなった者に手を差し伸べる。きっとこの霧を抜けた先に何かがあると信じて】
壮大なオーケストラの演奏と共に、会場のボルテージが静かに湧き上がっていく。
そしてその時がやってくる。
【この戦いに勝ったとしても負けたとしても私達の人生は続くだろう。では、なぜ戦うのか……それは名誉のためだ】
男性の低いバリトンボイスに会場がどよめく。
乙女咲とメアリーの合同音楽会、あの動画を見たアリア・カタリーニさんはすぐにあくあにオファーを送ってきたそうだ。
最高の歌を完成させるために君の声が必要だから、どうか私達に力を貸して欲しい。
あくあはそのオファーに即答したそうだ。
【今までの人生で積み重ねたものを全て出し切り、競い、戦い、高めあう。そうして私達の最高の戦いが始まるのだ。この戦いを邪魔する者は誰1人としていない。ここにあるのは共に戦ってきた仲間達と紡いでくれた人達の想いと魂、そして名誉だけ】
2人の歌声が重なる。その瞬間、鳥肌が立った。
どちらがどちらかに合わせるとかそういう次元じゃない。
完璧な2人の調和、お互いの100%をぶつけ合った最高の歌声だった。
あくあのスターズの言葉を使った日常会話はまだまだけど、この歌の歌詞だけは完璧にしたいと何度も発音を練習していた事を思い出す。夜も遅くまで家に帰ってこない日だってあった。
自然と涙が溢れる。
【さぁ、私達の戦いを始めよう。勝利と敗北の峠を越えた先に何がある? ここに立つ、それこそがもう名誉なのだ。余計な事はもう何も考えなくていい。さぁ、戦う事を、競い合う事を、高め合う事を楽しもうじゃないか!】
最後はそれこそお互いに競い合うように、高め合うように、2人は戦う事を楽しむかのように交互に歌い、持っている全てを出し切る。
演奏が終わった瞬間、観客は総立ちになって拍手を送った。
【Everyone, once again, please give aria katalini and aqua shirogane a round of applause】
会場のアナウンスに合わせて私達はもう一度盛大な拍手を送る。
周りの様子を見ると、みんな私と同じように涙ぐんでいた。
ただ、らぴすちゃんだけはあまりにも事態が大きすぎて飲み込めてないのか、惚けた顔で無意識に拍手をしている。
その一方でお義母さんは泣きすぎて、もう席から立ち上がれそうにないほど泣き崩れていた。
お義母さんの様子に気がついた阿古さんがずっと声をかけている。
『さぁ、皆様、いよいよW杯決勝が始まります。試合が始まるまでの実況はこの私、森川楓が務めさせていただきます』
VIPルームの中にあるモニターから楓先輩の声が聞こえてきた。
会場では選手入場のために再び曲が流れる。
【私達にはやり残した仕事がある。さっさとそれを終わらせに行こう。ここには過去も将来もない。今、ここにある事はひとつ。さぁ、為すべき事を為しに行こう】
スターズの有名なDJ、ミシェルとあくあのコラボ曲、タスクが流れる。
ここまで歌なしバージョンが使われていたが、決勝戦だけは特別だ。
静かでいて闘争心を掻き立てるような曲調に観客席もさらに盛り上がりを見せる。
【私達にはまだやらなければいけない仕事が残ってる。だからそれを終わらせに行くんだ。先延ばしにはできない。今、しなければいけない事はひとつ、さぁ、為すべき事を為しに行こう】
フィールドでは両国の国旗が大きく広げられる。
モニターには起立したアラビア半島連邦のシャムス女王陛下を挟むように、総理、皇くくりさん、そしてスターズを代表してお母様とお姉様の5人の姿が映し出された。
2人とも元気そう……久しぶりに見る家族の姿に、少しだけホッとする。
【これが私達の誇るべき仕事だ。仕事はどこまでも続く。今日仕事を終えてもまた明日には新しい仕事が始まる。過去を遡ればもう何度も似たような仕事を繰り返してきた。今日もいつもと同じ、私達は自分の仕事を終わらせに行くだけだ。さぁ、仲間達とやるべき仕事を終わらせに行こう】
お互いの国の選手達がピッチに入って行く。
曲と相待って、選手の顔が完全に闘う時の表情になっていた。
先ほどよりも更に大きな拍手を持って選手達の健闘を祈る。
今日の主役はあくまでも彼女達だ。
でも、もう戦いは始まっているのである。
『Ladies and gentlemen please stand for the national anthem』
嘘みたいに会場が静かになる。
テレビのモニターから楓先輩の声が聞こえてきた。
『スターズの国歌斉唱は世界的なオペラ歌手のアリア・カタリーニさんです』
神よ女王陛下に祝福を……。
もう何度も、それこそ物心がつく前から何度も聞いてきた曲だ。
威風堂々とした力強いカタリーニさんの歌唱力にみんなが聴き惚れている。
でも……今の私にとってはどこか遠く感じてしまった。
懐かしさを感じてノスタルジックな気持ちにはなるけれど、私の感情が揺れるほどではない事に気がつく。
『続きまして、日本の国家斉唱です』
心の奥がキュッと引き締まった気がした。
私がスターズから離れて4年……そう、まだたった4年しか経ってない。
それでも、この国での4年間はとても濃厚で、私の中の大事な思い出も……大事にしたい人も、今は全てここにある。
『日本の国歌斉唱は、我らが、そう我らが白銀あくあ氏です!』
紋付羽織袴を着たあくあがマイクの前へと向かう。
裏で倒れずに自分の仕事を成し遂げた着付師さん達に心の中で拍手を送る。
ここで仕事をしている誰1人として、プロフェッショナルではない者などいない。
『さぁ、歴史的な瞬間が今、始まろうとしています。これまでスポーツの世界では数多くの世界大会が行われてきました……。ですが! ここまで誰1人として、そう、誰1人として! 今まで国歌斉唱を行った男性は存在していませんでした。しかし今! この国の白銀あくあがその第一歩を! この異国の地で私達の国を代表して、世界に新たなる歴史の1ページを刻もうとしています!!』
観客席の歓声がなかなか収まらないから曲が始まらないので、それを繋ぐように楓先輩は視聴者のボルテージをキープするように喋り続ける。
全く、アナウンサーをちゃんとしてる時だけはカッコいいんだから。
普段からそうしてれば良いのにと思ったけど、それじゃあ楓先輩らしくないから面白くないなとも思った。
『さぁ、聴け、世界よ! これが私達、日本の代表、日本の、そう日本の白銀あくあが歌う国歌だ!』
VIPルームに居た全員も立ち上がってあくあの方を見つめる。
さっきまで泣いていたお義母さんも、足にグッと力を入れてしっかりと前を向いていた。
あくあが依頼を受けたのは、あくまでも大会最終日でカタリーニさんと共演する事だけ。
それなのに日本代表が快進撃を見せたために、あくあの方からどうせならと国歌も歌う事を申し出た。
あぁ……。
あくあの柔らかく優しい歌声が会場全体に伸びていく。その歌声は一瞬で会場の色を変える。
さっきまでの威風堂々としたスターズの国歌とは対照的だ。
会場に熱を持たせたまま、張り詰めていた緊張の糸がほんの少しだけ和らぐ。
日本の選手達が心の中で静かに炎を燃やしているように感じた。
『すごい大歓声です。VIPルームを含めたすべての観客達が総立ちになって拍手を送っています!』
歴史的な1ページに、会場にいたすべての人が拍手を送った。
最後まで聴き終えた後、まりんさんが泣き崩れる。
「あくあちゃん……すごく立派だったわ。ありがとう阿古さん、貴女のおかげよ」
「まりんさん、私の方こそ感謝の言葉を贈らせてください。あの時、お母さんがあくあ君のしたい事を認めてくれたから、私達を陰ながら支援してくれたから今があるのです」
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ」
2人は涙ぐみながら抱き合った。
あくあにとっても特別な関係であるこの2人の間でしか分かち合えない事もあるのだろうと思う。
「カノンさんもありがとう。これからもあくあちゃんを支えてあげてね」
「はい、私じゃまだ頼りがないかもしれませんが、しっかりとあくあを支えたいと思います」
私もお義母さんと抱き合う。
あくあには内緒だけど、お義母さんとは毎日のように連絡を取り合ってる。
すごく相談に乗ってもらってるし、この前も妊娠や出産の事について色々と話を聞かせてもらった。
「カノンさん……これから先、もっともっと大変になるだろうけど頑張ってね。困ったことがあったら相談してくれて良いから」
「はい、ありがとうございます。阿古さん」
私は阿古さんとも抱き合う。
阿古さんとも毎日、あくあの事で連絡を取り合ってる。
あくあは無理しがちというか、疲れててもあまり表に出さないから、支えたいと思ってる私からすると近くにいる阿古さんの情報は重要だ。阿古さんは良くあくあの事を見てるから、ちょっとでも疲れてそうな時もすぐに気がついてくれる。
私達が抱き合ってる後ろでは、お義母さんが小雛さんの事を抱きしめていた。
「小雛さん、これからもあくあちゃんの事をよろしくね」
「はい……」
「後、あくあちゃんのために泣いてくれてありがとう」
「はい……」
まさかの小雛さんのガン泣きにアヤナちゃんもびっくりしてる。
これには泣いていたお義母さんも優しく微笑み、小雛さんの背中をポンポンと叩いて慰めていた。
お義母さんは、結さんや、姐さん、先生にも同じように感謝の気持ちを伝えていく。
改めて、あくあがすごい事を成し遂げたんだという実感が湧いてくる。
私は背後に居たお婆ちゃんと抱き合う。
「お婆ちゃん、スターズの国歌の時は拍手だけだったのに、こっちを歌って良かったの?」
「郷に入っては郷に従え。この国の言葉よ。女王メアリーとしての魂はスターズに置いてきたけど、女王という殻を脱ぎ捨てたただのメアリーとしては、私の魂は最後まであくあ様と共にあるわ」
ふふっ、お婆ちゃんったら、あくあの事好きすぎでしょ。
あ、あれ? もしかして孫の私より……ううん、そんな事は流石にないよね。
そういえばこの前、夢で若い時のお婆ちゃんにあくあを寝取られて歯軋りしている夢を見たな。
良かった。お婆ちゃんがお婆ちゃんで……。何となくだけどお婆ちゃんが私と同じくらいの年齢だったら絶対に勝てない気がする。
私は隣にいたペゴニアとも抱き合う。
「ペゴニア、改めていつもありがとう」
「私の祖国はお嬢様が居るところです。だからお嬢様は私にとって、永遠に私だけのお嬢様なのですよ」
もう……逆にペゴニアは私の事、好きすぎない?
でもそれならもっとこう普段から態度で示して欲しいんだけど……。
この前も私に内緒で、あくあとえっちな画像のやりとりしてたし。
「さぁ、みんな。試合が始まりますよ。あくあ様のためにもみんなで応援しましょう!」
「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」
藤蘭子会長の言葉でみんながフィールドの方へと視線を向ける。
モニターからは楓先輩の声が聞こえてきた。
『それではここからは実況席にいるお二人にマイクを返したいと思います。以上、森川楓が現場から実況を送らせていただきました。頑張れ! 日本!!』
その日、サッカー日本代表も新たな偉業を打ち立てた。
1点先制されるも宮真選手のゴールで追いつくと、試合は延長へと突入する。
再び先制され苦しい戦いになるが、エースの沢選手がゴールを決めて同点へと持ち込む。
そして最後はPK戦にもつれ込み、先に3本を決めた日本が歴史上初めてサッカーで優勝したのだ。
試合が終わった後は両者で抱き合い、優勝カップを掲げた後はお互いの健闘を讃えあう。
その姿はとても美しかった。
「あくあちゃーん!!」
「うぉっ、母さん!?」
楓先輩や本郷監督と再び合流した私達はサプライズであくあを出迎える。
あくあはまた泣き出したお義母さんを慰めた。
「それにカノンも……どうしてみんなここに……?」
びっくりするあくあを見て、みんなでサプライズ成功と拍手した。
ペゴニアはどこから持ってきたのか、ドッキリ成功という看板を手に持っている。
「なるほどね。みんな、来るなら言ってよ」
「ごめんね。下手にプレッシャーかけたくなかったし……でも、あくあの勇姿がこんなに近くで見れて来て良かったと思う」
「そっか……。どう? 惚れ直した?」
私は小さく首を左右に振る。
「ずっと好きなのに、今更惚れ直すとかないよ」
私の返事にあくあは少しびっくりした表情を見せると、照れたように手で顔を隠した。
「「「「「おぉ……」」」」」
「嘘だろ、あの嫁なみが……」
「嗜み覚醒、マ!?」
「カノンさん、成長しましたね……」
「あのポンコツお嬢様が……」
「カノンさんその勢いよ!」
「お義姉様素敵……」
「なるほど……これが正妻の返しですか。勉強になります」
「あくあ君にやり返すなんて、カノンさんすごい……!」
「あくあってカノンさんには結構弱いよね」
「むふーっ、良くやったわカノンさん。このネタでしばらくあくあの事を弄れそうね」
「カノンさん、今の小説に使っていい?」
「今のばっちり映像に撮りました!」
「カノンさん、普段からそんな感じであくあ君の事をよろしくお願いします」
「ふふふ、さすがは私の孫娘よ! 今日はお赤飯ね!!」
「「「「「おーっ!」」」」」
ちょっと! お婆ちゃん、お赤飯は恥ずかしいからやめてってば!!
みんなも! それと捗るとティムポスキーは嗜みとか嫁なみとか言っちゃダメでしょ!!
あくあにばれたらどうするのよ! もう!!
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