白銀あくあ、スタジアムリハーサル。
「ったく、この国は本当にどこまでいっても砂漠ばっかりだな」
アキコさんは窓の外を眺めながら頭をポリポリと掻きむしる。
話し方といい、雰囲気といい、彼女を見ていると前世でお世話になったアキオさんの事を思い出す。
もしかしたら俺と同じように転生したのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
俺としてはとても懐かしい気持ちというか、もう会えないと思ってた人に会えたみたいで素直に嬉しかった。
そんなアキコさんのことをフィーちゃんが怪訝な顔つきで見つめる。
「アキコ……お主、タバコは体に良くないぞ」
俺はフィーちゃんの言葉に頷く。嗜む程度ならまだしも、アキコさんは昨日からバカスカ吸ってる。
アキオさんも前世じゃ吸ってなかったし、アキコさんはそういうところもアキオさんと違うなと思った。
「タバコ……? あぁ! ほら、フィー様やあく坊にも一つずつやるよ」
「いや、アキコさん俺たちタバコは……って、ん? 何これ? タバコじゃ……ない?」
「なんじゃこれ。甘ーい匂いがするのじゃ」
見た感じは手作りのタバコのように見えるが、確かにフィーちゃんのいう通り何やら甘い香りがする。
「それはな、今、巷で流行ってる体に良い薬さ。吸えばリラックスできるし、その日の夜はいい夢が見られるんだぜ。しかもそれは本部が作ってる上物だからな。滅多に手に入らない代物なんだぞ」
タバコらしきものをよく見ると、Emilyという文字が入っている。
「上物がClaire、最上級がEmily、それと一部の人間の間にしか回らない最上級を超えた代物のAquaってのがあるらしい。そのエミリーは一般人が手に入れる事ができるものの中じゃ最上級品だな。あく坊と同じ名前のアクアは国家元首ですら中々買えない代物らしいから、私達じゃおいそれと手に入るものじゃないんだ」
「へぇ……」
そんなものあるんだ。
自分で吸う事はないと思うけど、カノンとの話の種にするために有り難く頂いておこう。
俺はポケットの中にそれを突っ込む。
「あら……これと同じものなら、シャムス陛下が吸っていたと思うわ。確かその、アクアって銘柄のものだったと思うけど……」
同じくアキコさんからタバコのようなものを受け取ったマナ様は、それを掲げるようにしてじっくりと観察している。
「何!? それは良い事を聞いたぞ! よしっ! 嬢ちゃん、この仕事、金はいらんから、これで支払いを頼む!」
「わかりました。どうなるかは分かりませんが、シャムス陛下にはそのようにお伝えしておきます」
「あぁ、頼む! いやぁ、この仕事を受けて良かったぜ!」
アキコさんが上機嫌になった一方で、何故かりのんさんとくくりちゃんの2人の顔が青褪めていたような気がした。
「りのんさん、くくりちゃん、大丈夫? もしかして車に酔っちゃった?」
「い、いえ、大丈夫です。ご心配をお掛けして申し訳ありません」
「……ったく、あの馬鹿のせいで……」
「ん? くくりちゃん何か言った?」
俯いているし、もしかしたら車酔いでもしたのかな?
俺はくくりちゃんの様子を伺おうと顔を覗き込もうとすると、くくりちゃんは何時もと変わらない笑顔を見せてくれた。
「ううん、なんでもないですわ。あ、でも……ちょっと車酔いしちゃったかもしれないから、あくあ先輩にもたれかかってもいいですか?」
「もちろん。おいで、くくりちゃん」
「はい……!」
くくりちゃんは俺の腕にピッタリとくっつくようにもたれかかった。
フィーちゃんは指を咥えてそれを羨ましそうに見つめるが、彼女は既に俺の膝の上に乗っかっている。くくりちゃんの反対側にはおっぱいが触れそうな距離感でマナ様が座ってるし、真正面にはりのんさんが居て綺麗な生足が見放題だし、いやぁ、可愛い女の子に囲まれて幸せな気持ちになるなぁ。いいんですか? お仕事なのに、こんなに素晴らしいおもてなしをしてもらって。
ちなみに今はしとりお姉ちゃんは同行しているが、総理とシャムちゃんは2人でお話があるそうで別行動をしている。
「おっ、あく坊、会場が見えてきたぞ! アレがそうだ」
おぉ〜。でかい! これが俺の歌うスタジアムか……。
俺達は車でそのまま関係者専用の入場口に乗り付ける。
『お待ちしておりました。本日は遠いところから来ていただいてありがとうございました。こちらへどうぞ』
『こちらこそお招き頂きありがとうございます。本番を素晴らしいものにするためにも、私達にもそのお手伝いさせてください』
しとりお姉ちゃんは現地の言葉で流暢に挨拶を返す。
言葉はわからないが相手の表情を見る限りは好感触のようだ。
「すげぇ……」
打ち合わせのために用意されたVIPルームから見下ろした風景に感嘆の声を漏らす。
自分があの中心で歌うのかと思ったらワクワクした気持ちにもなったが、それと同じくらい大きなプレッシャーを感じた。
『貴方が白銀あくあね?』
「え?」
俺は自分の名前を呼ばれた気がして後ろに振り返る。
すると事前に手渡された資料に画像が添付されていた女性が、にっこりと微笑むような表情で立っていた。
『今回の仕事で一緒に歌う事になるオペラ歌手のアリア・カタリーニよ。よろしくね』
『初めまして白銀あくあです。世界的なオペラ歌手のカタリーニさんと共演できるなんてとても光栄に思っています。足を引っ張らないように精一杯努力しますので、何かあったら遠慮せずにガンガン言ってください!』
俺は辿々しいながらも話しかけてもらったスターズの言語で挨拶を返す。
今は自分達の国の仕事を中心に引き受けてるし、将来もそこを大事にする部分は変わらないつもりだけど、海外での仕事も面白そうな内容であればどんどん引き受けるつもりだ。
阿古さんともそういう方向で話し合ってる。
だからこそ俺は常日頃からカノンや慎太郎、天我先輩にペゴニアさん、それにメアリー様やえみりさんにも付き合ってもらって、スターズの言葉を空いている時間で教えてもらっていた。
そうやって陰ながらコソコソと日常会話の練習をしていた成果が出てるなと今まさに実感する。
『ふふっ、ありがとう。男性と一緒に本気で歌えるなんて初めての事だから、すごく楽しみにしてたの』
『俺も最高の舞台で、最高の歌手と共演できるなんて楽しみで仕方がないです!』
『あら……本当にお世辞も上手なのね。なるほど、スターズの女の子達がみんな貴方に夢中になるわけだわ。私も貴方の演じた夕迅様が好きだもの』
『ありがとうございます! でも、カタリーニさんの歌声が素敵なのはお世辞じゃないですよ』
『まぁ……カノン様が本当に羨ましいわ』
2人で和やかに談笑していると、スタッフの人と話し終えたしとりお姉ちゃんがこちらへと向かってくる。
「あーちゃん、どうする? スタッフの人が軽くなら下でリハーサルしてくれても構わないって言ってるんだけど……」
しとりお姉ちゃんはチラリとカタリーニさんの方を見ると、軽く会釈してにこやかな表情で挨拶を交わす。
俺もそれに続いてカタリーニさんに言葉を投げかける。
『良かったら少し下で歌いませんか? 初めての合わせがいきなり本会場になっちゃうけど……』
『あら、いいじゃない。楽しそう! それに音の響きとか、早めにわかっておいた方がいいと思うわ』
そういうわけで、しとりお姉ちゃんに許可をとってもらって俺達2人は実際に歌う場所へと降りる。
「ほへーっ、すごいのじゃ! 上から見るよりも下から見上げた方が迫力があるとはのお……」
「フィーヌース殿下、あんまりはしゃぎすぎてはだめですよ。また陛下に叱られてしまいます」
「あーちゃん、すごい! ここから歌うなんて、想像しただけでお姉ちゃん泣きそうかも。天鳥社長やお母さん達にも見せたかったなぁ……」
「あく坊、お前すごいな。こんな所で歌うのかよ……。こりゃ警備も気合い入れていかねーとな」
「あくあ先輩、素敵! これは間違いなく歴史に残る偉業になりますよ!!」
「聖女様のためにいっぱい写真撮っとこ……」
改めて下から周りの観客席を見渡すとすごい光景だった。
自然と自分の中でスイッチが入る。
『音響スタッフの準備が整いましたので、リハーサルを開始します。3、2、1……』
カタリーニさんの歌声は一言で言うと圧巻だった。
さすがはプロのオペラ歌手だけの事はある。声量やピッチの正確さ、音の伸びは素晴らしく、その上で感情表現にとても優れていた。
『とっても楽しかったわ。今から本番が楽しみよ。今日はありがとう』
『こちらこそ素晴らしい経験をさせて頂きありがとうございました』
俺はカタリーニさんと強く握手を交わす。
はっきり言ってリハーサルはカタリーニさんについていくので必死だった。
歌手としての基本的な部分、基礎の部分でカタリーニさんは間違いなく俺より歌がうまい。
だからこそ心が震えた。まだ俺も上を目指せる。もっと良い歌が歌えるかもしれないと思った。
幸いにも本番まで、まだ少しだけ猶予がある。
とっても楽しかった。
確かに俺も楽しかったけど、俺とカタリーニさんの楽しさの基準は違いがあったと思う。
俺はまだそこまで完璧に言語を聞き取れるわけではないが、カタリーニさんの楽しかったは、自分についてこれるレベルの男性歌手との共演に対して楽しかったと、そういうニュアンスに聴こえた。
多くの人はそれでいいじゃないかと言うかもしれない。
でも俺は違う。今より上があるなら目指したい。
そしたらもっと最高に楽しいはずだし、もっと良い歌になるはずだと思った。
幸いにも彼女はリハーサルの最中に余すところなくその技術を披露してくれて、俺に手本となるものを指し示してくれている。
カタリーニさんは本気で歌っていたかもしれないけど、メインとなる彼女には俺の事なんて考えずにもっと全力で歌いきってほしかった。
そのためには俺がもう一段階上に行く必要がある。
「っし!」
俺は王宮内の自室に戻った後、両頬を軽く叩いて気合を入れ直した。
すると誰かが部屋の扉をノックしたので返事をする。
「あくあ先輩。夕食の時間です」
「あぁ、ありがとうくくりちゃん」
迎えにきてくれたくくりちゃんは、落ち着いた感じのワンピースドレスを着ていた。
髪をアップにしている事もあって、いつもより大人っぽく見える。
「くくりちゃん、その髪もワンピースもすごく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます」
俺はくくりちゃんの手を取るとエスコートするように通路を歩く。
今回、くくりちゃんのエスコート役を務めるのも俺の役目の一つだ。
「2人とも良くきてくれた。秘密裏ということもあり、ささやかではあるが楽しんでいってくれ」
「こちらこそ素敵な歓迎会をありがとうございます」
俺は出迎えてくれたシャムちゃんと挨拶を交わす。
実は昨日する予定だったのだが、みんな結構疲れていた事もあって、シャムちゃんの配慮で歓迎会を1日ずらしてくれた。
「あくあ殿、何か不自由な事はあるか? すぐに改善する故、何なりと申されよ」
「いえ、特には……あ、できれば、ボイトレとかランニングをしたいので、何処かできる場所があれば……」
「それならば中庭を使うといい。雨が降る事はないとは思うが、王族専用のトレーニングルームや音楽室も開放するように部下に通達しておこう」
「何から何まで、本当にありがとうございます!」
「何、招いたのはこちら側だ。最善を尽くすのは招待した側の当然の礼儀と言える。それに……礼には礼を以って報いるというのが、そちらの国の流儀であろう? 尊敬すべき文化だ。ぜひ大切になされよ」
陛下……シャムちゃんって、確か楓とそう年齢変わらないよな……。
やっぱり若くして女王だからしっかりしてるのかな。うん、きっとそうに違いない。
俺もできればシャムちゃんや琴乃のようなキリッとしたタイプの大人になりたいが、いかんせん子供っぽい小雛先輩や、ホゲーッとした時の楓のようなタイプの大人になる未来しか見えないのは俺の気のせいだろうか。
「あくあ様、代わりのグラスをお持ちしましたので、こちらをどうぞ」
「あ、ありがとうございます。マナ様」
1人になったタイミングで、ちょうど良くマナ様が水を持ってきてくれた。
今朝みたいにシャムちゃんが居ない時は、女王の名代としてフィーちゃんが俺に同行してくれるが、いかんせんフィーちゃんがまだ子供なので、そのサポートとしてマナ様が同行してくれている。
マナ様はすごく気配りのできる人で、俺だけじゃなくて周りの事もよく見ているのだろう。
困った人が居たら、その人が何かを言ったり行動したりする前に声をかけてくれる。そんな素敵な人だ。
「マナ様だなんて……あくあ様、私はもう一般人でございます。できれば、マナと呼び捨てにしてください。それと敬語も必要ありませんから」
マナ様は囁くように俺の耳元に顔を寄せる。
その時、俺の腕が大きくて柔らかいものにじんわりと押されて、思わず体が反応しそうになった。
「あ、えっと……じゃあ、マナ、今日はありがとう。色々と助かったよ」
「いえいえ、あくあ様をサポートし、円滑に仕事をしてもらうのが私の役割なのですから、当然の事をしたまでですわ」
おっふ……お、お、俺の腕が深い深い渓谷にゆっくりと沈んでいく。
これはまずい。これはまずいですよ! マナ、頼むからちょっと離れようか。
そう言いたかったけど、男としての性がそれを邪魔する。
「あくあ様の滞在中は、私が近くの部屋に控えておりますので、もし、夜に何か困った事があればすぐにお呼びくだいね。私にできる事でしたら、なんでもいたしますから……」
ん……? 今、なんでもって……いやいや、そうじゃないでしょ!
マナはもっと自分の立場を考えて! 男の前でそんな不用意な事を言っちゃダメだよ。
きっとマナは良い子だし、くくりちゃんやえみりさんみたいに清純そうだからそういう意味で言ってないんだろうけど、俺が察しの悪い男なら勘違いしたっておかしくはない発言だ。
「ありがとう、マナ。でも、マナのおかげで今のところは快適だから大丈夫だよ」
「……はい。それでも、何かあった時は遠慮せずに私に申し付けてくださいね。私の全てを使って満足いただけるまで、ご奉仕させていただく所存ですから」
あれ? 今なんか最初に間があったような気がしたけど、俺の気のせいかな?
まぁ、いっか。俺はにこやかに笑みを返す。
マナ様もまた、いつもと変わらない笑みを見せると、ゆっくりと俺から離れていった。
そんな俺の側で、いつの間にやら近づいてきていた総理がポツリと何かを呟く。
「心配してそばで見てたけど、むしろマナちゃんの方が可哀想になってきた」
「ん? 総理、何か言いました?」
「いえいえ、何も……ある意味ではちゃんと回避できてるから、危機感があるというのか、ないというのか……」
俺は総理から料理を受け取る。
うん、うまい。シャムちゃんの気遣いで自国の料理以外にもこちらの料理を用意してくれてるし、立食形式にしてくれてるから気軽に食べられて助かった。
一応、小雛先輩にマナーは叩き込まれてるけど、王族とちゃんとした形式での夕食になると緊張してあまり食べられなかっただろうしね。
歓迎会を無事終えた後、俺達はそれぞれの部屋に戻り、俺は自室の中に用意されたバスタブに1人で浸かった。
「あーちゃん、本当にお姉ちゃんが見守ってなくて大丈夫? 1人でおねんねできる? 添い寝してあげよっか? あ……枕が変わると寝られないって人もいるし、お姉ちゃんの膝枕で……」
「はは、大丈夫だよ。しとりお姉ちゃんこそいっぱいお仕事して疲れてるだろうし、自分の部屋でゆっくり休んでよ。今日はありがとね。お休み」
俺はやたらと薄着なしとりお姉ちゃんをやんわりと押し返す。
「それでは、お休みなさいませ。あくあ先輩」
「今日はありがとう、くくりちゃん。おやすみ。また明日」
くくりちゃんからは、お風呂上がりの良い匂いがほのかに香る。
一言で言うと、スミレの香りが好きだったマリー・アントワネットがバラを手に持った絵画を思い出すかのような高貴で華やいだ艶やかな匂いだ。
「さてと、メールでも返して寝るか」
俺は画面をスクロールさせる。
【当日について】阿古さん
【業務連絡】琴乃
【今日の授業】慎太郎
【お疲れ様です】結
【新曲について】モジャP
【12月の写真撮影に関して】ノブさん
うんうん、ここら辺は真面目だよね。
それにしても結も琴乃もさ。もうちょっとこう……なんかさ、うん……。
まぁ、なんかそういう所も可愛い気がするから良いけどさ。
いや……でもやっぱ、業務連絡はダメだろ琴乃。逆に面白くて笑っちゃうよ。
【そっちは寒くないですか?】マイスウィートハニーカノン
【ねね、アラビア半島はどんな感じ〜?】とあ
【テレビ見たよ〜】アイ
【新番組、面白かった!】アヤナ
【のうりん実写化まだですか?】メアリーお婆ちゃん
【こちらは異常なしです】えみりさん
【お母さんもカノンさんも居なくて寂しくない?】母さん
【らぴすも兄様と海外に行ってみたいです】マイラブリーシスターらぴす
とりあえず、らぴすだけは最優先で返信しておくか。
その次にとあに返信してっと、カノンは長くなりそうだから逆に最後でいいや。
あ、後、俺が不在の間、カノンとメアリーお婆ちゃんの事をよろしく頼んでるえみりさんには返事を送っとこっと。
【もちろんいつもお世話になってる先輩にお土産買ってくるわよね?】小雛先輩
【まさかとは思うけど、私だけお土産なしとかないわよね?】小雛先輩
【もちろんあれだけお世話したんだから1個じゃ足りないわよね? 10……ううん、20くらいは】小雛先輩
えっと、とりあえずまとめて迷惑メールフォルダに放り込んでっと……。
というか、本文を件名に書いているせいか圧が凄い。最後のメールなんて、長すぎて途切れてるし。
あぁ……そういえば小雛先輩、友達がいなさすぎてメールの送り方とか知らなかったんだっけ。アドレス交換した時に、俺とアヤナでメールの仕方を教えた事を思い出す。
そういえばさっき、阿古さんにメールでも、ゆかりにはお土産買ってきてあげてね。楽しみにしてるからお願いねって言われてたな。どれだけお土産楽しみにしてるんだよ……。
やれやれ、仕方ない……。イベントが終わった後の空いてる時間にこっそりショッピングできないか、マナに相談しよ。
【本日のムフフ画像】ペゴニアさん
【・・・---・・・】天我先輩
【うんこ踏んだ、もしかして私ってついてる!?】楓
うん……ここ3人はもう無視でいいか。
というか、だんだん下にスクロールするほど、メールがアホになっていってるのは俺の気のせいかな?
それにしても楓って本当にいつ見ても幸せそうだな。とりあえず楓にはニコニコマークだけ返しとくか。
後、天我先輩、モールス信号にはまってるのか知らないけど、それ、俺じゃなかったらモールスって気がつかないですよ。それとやっぱりペゴニアさんは完全に無視で! ……でも、画像は気になるから、それだけはチェックしとこ。
はっ!?
気がついたら朝が来てた。俺はベッドの中で体をググッと伸ばす。
くっ、ペゴニアさんの送ってきた画像のせいで悶々としてたら、いつの間にか眠っていたみたいだ。
ん? なんか自分のお腹周りに違和感を覚える。
俺が布団を捲ると、なぜか薄着のフィーちゃんが俺を抱き枕にして眠っていた。
「フィーちゃん!?」
「むにゃ!?」
俺はフィーちゃんをベッドの上に座らせる。
フィーちゃんは肩紐をずるりと落としつつ、眠そうに目を擦った。
「もう、朝なのじゃ……? ふぁ〜……あれ? あくあお兄ちゃんはなんでフィーのベッドに……ははーん、さてはフィーの魅惑的なぼでーにむらむらしてベッドの中に潜り込んできたのじゃな! 良いぞ。フィーはまだ子供が産める体ではないが相手してたもう……ふぎゃ!」
俺はフィーちゃんの頭の上に優しくチョップを落とす。
「フィーちゃん……ここは俺の部屋なんだが」
「あ……そういえば、あくあお兄ちゃんのベッドに潜り込んだまま寝てしまったのじゃ」
「フィーちゃん……」
俺は一応フィーちゃんよりは大人の男として、こういう事は勝手にしちゃダメだよと叱った。
「すまなかったのじゃ……ごめんなさい」
「フィーちゃん、わかってくれたらそれでいいんだ」
俺はフィーちゃんの頭を優しく撫でる。
この歳の子ならよくある事だろうし、わかってくれたのならそれでいい。
「それじゃあ、言えばあくあお兄ちゃんは添い寝してくれるのじゃ?」
「うーん……俺はいいけど、そういうのはまずお姉さん達に相談すべきだと思うよ。あとはまぁ、俺も男でフィーちゃんも女の子だから、俺の方からくくりちゃんや総理、しとりお姉ちゃんにも聞いてみるよ」
俺とフィーちゃんが話してたら、外から誰か部屋の扉をノックした。
「朝早くからすみません、あくあ様。もしかして、そちらにフィーヌース王女殿下はお邪魔しておりませんでしょうか?」
あ……。俺はフィーちゃんと顔を見合わす。
ごめんな。フィーちゃん。声を抑えているが、マナは確実に怒ってると思う。
悪いけど俺じゃ救えそうにない。と言うわけで、ちゃんとお姉ちゃんに叱られてくれ。
「あくあ様、本当に申し訳ありませんでした。いくら作法を知らない子供とはいえ、殿方の寝室に忍び込むなど……」
「いえいえ、子供のした事ですし、俺は全然構いませんよ。俺からもフィーちゃんには言ったし、マナもあまり怒らないであげてね」
「はい……。あくあ様がそうおっしゃるのなら、わかりました。本当にご迷惑をおかけしました」
マナは深くお辞儀をする。
結局、朝食の後にシャムちゃんからも謝罪されたし、フィーちゃんは悪事がバレてお姉さん達にコッテリと叱られたそうだ。
しょぼくれすぎて可哀想だから、後で遊んで慰めてあげようかな。
こうして俺のアラビア半島連邦での日々は過ぎていった。
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