白銀あくあ、運命の再会。
俺は小さな窓から雲一つない空に輝く灼熱の太陽を見上げる。
カノンは今頃、晩御飯を食べ終わったくらいだろうか。
今日は月9だけじゃなくて、ベリルアンドベリルの初回放送回だから早めにお風呂に入るって言ってたし、もしかしたらもうお風呂に入ってるかもしれないな。
うん……お風呂に入ったカノンを想像したら顔がにやけそうになったのでこれ以上はやめておこう。最近は恥ずかしがってあまり一緒にお風呂に入ってくれないから、困った時のペゴえもんにでも相談してみるか。
「いやあ。外は暑そうだね〜」
俺の隣にいた総理が暑そうに手で顔を仰ぐ。
今回の同行者である総理は、いつものスーツとは違ってラフな格好をしている。
「あくあ様、お水をどうぞ」
「あぁ、ありがとう。くくりちゃん」
俺は反対側に座っていたくくりちゃんから水の入ったグラスを受け取る。
うん、水分補給はしっかりとしておかないとね。俺はぐいっと水を飲むと、空になったグラスをくくりちゃんに返す。
「あーちゃん、体調は大丈夫? きつかったら言ってね」
「ありがとう、しとりお姉ちゃん。移動の最中にじっくり寝たから大丈夫だよ」
今回の仕事で俺に同行するのは阿古さんでもなければ琴乃でもない。
外国語が堪能で法律にも詳しい、しとりお姉ちゃんがマネージャーを担当してくれる。
「仕事とはいえ、あくあ君と旅行ができるなんてね。いやぁ、総理をやっててよかったなぁ!」
「はは……」
俺は手に持ったパンフレットに書かれた文字へと視線を向ける。
【United Arabian Peninsula】
アラビア半島連邦か……まさかこんな遠くに来るなんてな。
前世ではアラビア半島には幾つかの国が存在したが、この世界ではアラビア半島連邦として統一されている。女性優位のこの世界だからかもしれないけど、中東地域は戦争やテロ活動も一切なく世界でも最も平和な場所になっているのはちょっと皮肉だなと思った。
カノンから聞いた話だと、アラビア半島連邦はその豊富な資源で世界の平和をコントロールし、観光大国としても栄えているらしい。
ちなみにこの国には厳格なカースト制度が残っているが、それは明確に男性が女性より下だという事が決められているのみである。なんでもこの国の男性は、女性の奴隷やペットとして存続が許されているそうだ。
この国に転生しなくてよかったなと思う反面、カノンみたいなご主人様なら奴隷やペットになるのも吝かではないなと思ってしまった事は、俺の心の中にそっとしまっておこうと思う。
いや……ここはワンチャン、琴乃か結のようなお姉さんに飼われるのも悪くないな。大きなお姉さんの奴隷とかペットになるなんて想像しただけでちょっと胸がドキドキする。いやいや、逆に控えめなアヤナもいいし、なんなら小雛先輩とからぴ……おっとぉ、これ以上はダメだ。あくあ、今ならまだ引き返せる。引き返すんだあくあ。
俺は心の中で素数を数える。
「あくあ先輩の真剣な表情……素敵! きっと今からお仕事の事とかを真剣に考えていらっしゃるのね!」
「いやいや、くくり様。なんとなくだけどあくあ君はしょうもない事考えてる気がするよ。そんな予感がする」
「あら……総理ってトンマな顔そのままにとぼけたお方なのね。きっとあくあ先輩は、真面目に世界平和について考えていらっしゃるのよ」
「まぁ、ある意味であくあ君の頭の中は世界で1番平和そうな気がしますよ。それこそカノン様やえみりちゃん、なんなら楓ちゃん並に頭の中は平和なんじゃないかな。うん……」
ん……? なんか今、総理からとても失礼な事を言われた気がするけど、俺の気のせいかな?
「そろそろ準備が整いますので、みなさま搭乗口の方へ移動してください」
「はい」
今、俺達はくくりちゃんが所有している長距離用のプライベートジェットの中で待機している。
本来であれば総理がいるので政府専用機で移動するところだけど、今回は秘密裏の入国、俺の入国はサプライズなので政府専用機を使えなかったそうだ。
「皆様、準備ができました。くくり様とあくあ様は私の隣から離れないようにしてください」
「わかりました」
俺は隣を歩く高身長の美女を見上げる。
神狩りのんさん、どういう繋がりか知らないけど、りのんさんは今回の旅で俺とくくりちゃんの警備を担当してくれるそうだ。
俺、総理、くくりちゃん、しとりお姉ちゃん、りのんさん、そして総理の秘書が1人とSPが2人、合計8人が今回の仕事で同行するメンバーである。
もちろん他にも影で色々とサポートしてくれてる人がいるのかもしれないけど、俺が把握しているのはこのメンバーだ。
「あっつ……」
外に出た瞬間、灼熱の太陽から降り注ぐ熱気に焼かれた肌がチリチリと焦げるような感覚を味わう。
今が11月だって事を忘れそうになるくらい外は暑かった。
カノンに言われた通りに、薄手の服を準備しておいて良かったと思う。
「皆様、お待ちしておりました」
用意された数十台の車の中心にあった2台のリムジンの前には、やたらと肌面積の広い扇情的な服装の美女2人が立っていた。
これが観光大国のおもてなしというやつか。
俺達の国もこういう他国の良い所は見習わないといけない。
今後のためにも俺はじっくりとお姉さん達を観察する。うわ……生地が透けてるのエロすぎだろ……。
「白銀あくあ様はこちらのリムジンに、他の皆様は後ろのリムジンにお乗りください」
2人とも流暢な言葉で俺達の母国語を駆使しているところを見ると、過去に俺達の国に留学でもしていたのだろうか。それとも物凄く勉強したのか。どちらにしろ凄い事だ。
俺は言われた通りに前のリムジンに向かって一歩を踏み出す。それに待ったをかけたのは総理だった。
「いやあ、それは困りますね。私としてもあくあ君に何かがあった時は責任を取らされるわけでして、クビになるだけならまだしも、私の首が物理的に胴体から刎ねられるかもしれないんですよ」
「……それでしたら同行者を1人だけ」
「2人、そこは譲れないかな」
笑顔でピースを蟹バサミする総理に、美女2人の体がびくんと跳ねる。
総理がお茶目すぎて美女さん達もびっくりしたのかな。
「……わかりました。ただし、総理、貴女はダメです」
「いいでしょう。それじゃあくくり様、りのんちゃん、そっちは任せたよ。しとりちゃんは悪いけど私と同じ車に。それじゃあ、あくあ君、また後で」
「はい、総理」
俺は前のリムジンの中へと入るために身を屈める。
その瞬間、車の中から伸びてきた手にびっくりして前屈みになった体が体勢を崩して中に居た人へとダイブする。
おぉう……なんという弾力とクッション性! なんて事はなく、俺は抱き止めてくれた薄っぺらい胸板に頭を埋めた。
「ふぅん。お主が白銀あくあか……良い顔をしているな。よし、お主なら将来、この妾のペットにしてやってもいいぞ」
顔を見上げたらそこには不敵に笑う勝ち気な表情の少女……いや、幼女が居た。
この子も流暢に俺の国の言葉を喋っている。この年ですごいなと素直に感心した。
でもそれはそれ、これはこれである。
ふっ、俺は鼻で笑うと、スッと体を持ち直す。これが弾力性とクッション性に富んだ体なら間違って頷いていたかもしれないが、らぴすより小さい子だったから助かった。
「お嬢さん、悪いけど俺をペットにしていいのはこの世でただ1人、妻のカノンだけなんだ。君からのお誘いは嬉しいけど、他を当たってくれないかな?」
俺はキリリとした表情で幼女の提案を断る。
ごめんな。君の気持ちは嬉しいけど、俺には既にポンコツな飼い主様がいるんだ。
「むっ……お主……」
幼女は眉間に皺を寄せて不機嫌な表情をする。
怒っちゃったかな? と思ったけど、幼女はすぐに表情を崩して笑顔を見せてくれた。
「はっきり言うところが悪くないのぉ! ますます気に入ったぞ。あっぱれじゃ!」
幼女は俺の体にむぎゅーっと抱きつく。
なるほど、態度は生意気そうだが可愛い子だな。ほれほれ、あくあお兄ちゃんが頭を撫でてあげよう。
「ほへっ!?」
幼女はびっくりした顔で顔を赤くする。
そういえばこの子は一体誰なんだろう?
そんな事を考えていたら、後ろから伸びてきた手が俺の腕をぐいっと引っ張る。
「フィーヌース王女、お戯れはそこまでにしてください。ま・た・姉上に怒られますよ。先月も限定スキンのガチャに1万も課金して叱られたばかりでしょう」
「むむっ、その声はくくりお姉ちゃん!?」
おや? くくりちゃんの知り合いかな? って、フィーヌース王女……? えっ? この子、王女様なんですか?
すぐにでも謝った方がいいかなと考えたけど、俺は気が付かなかったフリをして誤魔化す。
「も、もしかして、白銀あくあはくくりお姉ちゃんのペットなのかえ!?」
「えっ!? あ、あく、あくあ先輩が、わ、私のペット……」
「さすがはくくりお姉ちゃん! やっぱりお姉ちゃんくらいになるとペットの格が違うのう!! 尊敬するのじゃ!!」
戸惑うくくりちゃんに俺は親指を突き立てる。
大丈夫。君の頼りになる先輩が話を合わせてあげよう。
「あ……う、うん。そうね。あ、あくあ先輩……あくあは、私のペットよ!」
「ほへーっ! 凄いのじゃ、くくりお姉ちゃんは大人なのじゃ……。妾の国では18から男をペットにできるのに、未だに誰1人として男の奴隷も持っておらん堅物な姉上達にもアドバイスを送ってくれんかのお」
くくりちゃんは少し困ったような顔で、周囲を伺うようにその質問に答える
「そうは言っても姉上であるシャムス女王やマナート元王女にもお立場というものがありますし、なかなか難しいのではないのでしょうか?」
「うーむ。そうなのか……。ところでくくりお姉ちゃんは、さっきからなんでそんな堅苦しい言葉を使っているのじゃ? いつも一緒にゲームしてる時みたいにフィーちゃんと呼んではくれんのかのお……」
フィーヌース王女は寂しそうな表情で、両手の人差し指をツンツンと突く。
くっ……思わず頭を撫でてしまいたくなるほどの可愛さだ。そんな事を思いつつ、俺は無意識にフィーヌース王女の頭をポンポンする。
「いえ、非公式とはいえ……他の人が……」
「よし、お主らは出ていけ!」
フィーヌース王女は先ほど出迎えてくれた2人のお姉さんに、後ろのリムジンに乗るように命じた。
流石にこれは想定外だったのか、2人のお姉さんは困った表情を見せる。
「で、殿下!? それは……」
「そこのデカい女1人がいれば大丈夫じゃ!」
フィーヌース王女は目の前に座ったりのんさんを指差す。
美女2人はりのんさんを見てため息を吐くと、殿下をよろしくお願いしますと呟いてリムジンを出る。
あぁ……美女達の熟れた果実が遠のいていく。グッバイ俺の目の保養。
「これで大丈夫なのじゃ!」
「フィーちゃん、少しは部下の人達の事も考えてあげなさい。あの子達にも仕事があるんだから」
「ご、ごめんなのじゃ……後で謝るから赦してくれんかのお?」
「ふふっ、ちゃんと謝れるなんて偉いわね。フィーちゃん」
美少女が俺を挟んで美幼女の頭を撫でる。
あ……なんか尊い……。
壁、そう俺は壁になりたい……いや、むしろ俺はただの壁なんだ。俺は自分にそう言い聞かせる。
「ところで、くくりお姉ちゃん。いつまでその気持ちの悪い口調を続けるのじゃ? いつもはそんな猫を被ったような口調じゃ……」
「何のことかしら? フィーちゃん。私は、い・つ・も・ど・お・り、よね?」
「ヒィッ!」
ん? なんか今、ひぃって声が聞こえてきたような……。うん、きっと気のせいだな。
「すみません、あくあ先輩。フィーちゃんがご迷惑をおかけして」
「ううん。大丈夫。俺も妹のらぴすを思い出してほっこりした気持ちになったし……まぁ、俺の妹はもっとおとなしいけどね。あぁ、でもフィーヌース王女殿下やくくりちゃんみたいに素直で良い子なんですよ」
そういえば今度、らぴすとカノンの3人でデートするって約束してたっけ。
あの2人、俺の知らない所でめちゃくちゃ仲良いんだよなぁ。
カノンはいつも一緒にいるのが年上ばかりだし、本国の妹があまり甘えてくるタイプじゃなかったから、妹ができたみたいでめちゃくちゃ嬉しいらしい。この前なんからぴすがお泊まりした時に、仲良く2人で……正確にはペゴニアさんを交えた3人でお風呂に入ってたし……。
くっ、俺はカノンから逃げられているというのに、うらやま……はっ!? 待てよ……俺のライバルってもしかしてらぴすなんじゃ!?
俺は意外なライバル登場に頭を抱える。
「おぉ! では、あくあはお兄ちゃんなのだな?」
「えぇ、そうですよ。フィーヌース王女」
「ううむ……いいのう。妾も一流のれでぃになるために、男の奴隷が欲しかったが、今はお兄ちゃんの方が欲しくなってきたのじゃ!」
「はは、じゃあ今だけ俺がお兄ちゃんになってあげましょうか?」
「それは本当なのじゃ!?」
「ええ、もちろんですとも」
「嬉しいのお。あくあお兄ちゃん、妾の頭をもっと撫でてたもう。それと妾のことはフィーちゃんでも、フィヌちゃんでも、ヌーちゃんでも好きなように呼ぶといいのじゃ」
「じゃあ、フィーちゃんで」
俺はフィーちゃんの頭を撫でる。
うーん、猫みたいで可愛いな。この子、もうこのまま持って帰っていいですか? カノンに見せたい。
「そういえばさっきくくりちゃんと一緒にゲームしてるって言ってたけど、何して遊んでるの?」
「Lead of Legend、通称lolなのじゃ! あくあお兄ちゃんも妾達と一緒にロルをやってたもう! お兄ちゃんが加入してくれたら5人になるから、念願のクラン戦ができるのじゃ!」
よりにもよってそれかあああああああ!
あのさ……小学生と中学生ならもっとカジュアルなゲームしようよ。EPEXとかさ……ってEPEXもやってる? それもメアリーお婆ちゃんと3人で!? って、メアリーお婆ちゃんプレデターランキング一桁なの!? 嘘でしょ……お、俺よりゲームうまいじゃん。
「メアリーちゃんは、本物のグレネードを投げた事があるらしくてのお。妾にちゃんとしたグレネードの投げ方を教えてくれたのじゃ!」
おっふ……ガチ勢じゃねぇか。色んな意味でガチ勢が過ぎる。
俺は頭を抱えながらくくりちゃんの方へと顔を向けた。
「ちなみにゲームのクラン名は?」
「私達を倒したら世界を敵に回すと思え、ですわ」
おぅのぉ……。それ冗談ですよね? ガチなやつじゃないですよね?
スマホで軽くクランを検索したら、クランリーダーのImperial_BBAさんが、クランの説明に、喧嘩を売ったらお前の国滅ぼすぞって書いてあって思わずスマホの画面に顔を突っ伏しそうになった。
これ誰!? もしかしてメアリー様じゃないよね!? ゲームは人が変わるって言うけど、穏やかなメアリーお婆ちゃんはそんな過激な事を言ったりとかしないですよね!?
って、よく見たらこいつら全員最高ランクじゃねぇか……。どれだけやりこんでるんだ。
おまけに4人目のI am Prime ministerってまさかじゃないけど、総理じゃないよな? って思ったら、総理でした。あの人、何やっとんねん! おっと、思わずこの前の旅ロケのせいで関西弁が出てしまった。
「よかったら、あくあ先輩も私達のクランに入りませんか? えみりさんやカノンさんも誘ってるからきっと楽しいと思いますよ。みんなで楽しくロルしましょう」
くくりちゃん……ロルは大多数の人にとっては、楽しいけど楽しめるゲームじゃないんだよ。
まぁ、プライベートなら配信者の間で話題になってるスナイプ、配信者狩りをされる事もないだろうし、10人集めたらカスタムマッチもできるか。カノンやえみりさんが参加するとして先輩、とあ、慎太郎を誘えば10人になるから、なんかいけそうな気がしてきた。
後10人いたらもう一つのタクティカルFPSゲームもできるし、いいかもしれないな。って、え? 4人はそっちも最高ランクのレディアント? ふざけんな、こっちは必死こいてた時で5つ手前のアセンダント2止まりだぞ!
「か……考えとく……」
「ありがとうございます。あくあ先輩が入ってくれたら、きっとメアリーちゃんも喜ぶと思いますよ」
「はは……」
俺はくくりちゃんの満面の笑みに苦笑いを返す。
「あ……見えてきましたね。王宮ですよ」
「でっっっ……!?」
でっか! いくらなんでもデカすぎでしょ……。
俺は楓みたいなホゲーっとした顔で口を半開きにして王宮を見上げる。
隊列を組んだ車両がそのまま王宮の中へとフリーパスで吸い込まれていく。
「長旅ご苦労様でした」
おぉ……何という光景だ。先ほど出迎えてくれた美女達と同じ衣装を着た美女達が、数十人も並んで笑顔で出迎えてくれる。そうか……天国は、楽園はここにあったのか!
俺は緩んだ気持ちを隠すようにキリリとした顔を見せる。
「あくあ先輩、素敵……お仕事モードに入られたのね」
「あくあお兄ちゃんかっこいいのじゃ……!」
「いやぁ、2人とも……あれはきっと何かを誤魔化してる時の男の顔ですよ」
しーっ、総理、しーっ!。
「おっと、フィーヌース王女殿下、お久しぶりです」
「うむ! 総理、この前の角待ちショットガンと芋スナ、妾はいまだに忘れておらんし根に持っとるからな」
「ははは、殿下……その時はお世話になりました! キルポあざっす!!」
「ぐぬぬぬぬぬ!」
フィーちゃん涙目になってるけど大丈夫?
総理も、幼女相手に大人気ないですよ。
「ふっ、久しいな総理、それにくくり殿、どうやら妾の妹が世話になっているようだな」
フィーちゃんと同じ褐色の肌と艶のある黒い髪をしたスレンダーな美女が、ゆっくりとした歩調で広間の階段を降りてこちらに近づいてくる。
黄金に輝く瞳は魅力的で、一度視線が合ってしまったら吸い込まれてしまうくらい美しかった。
オリエンタルでエキゾチックな感じの異国美女に俺は息を呑む。
おそらくこの人がフィーちゃんの2人いるお姉さんのうちの1人だろう。
「初めまして、白銀あくあ殿……妾の名前はシャムス。王族に苗字はないのでただのシャムスだ。この国で女王をやらせてもらっている」
「初めまして、ベリルエンターテイメントでアイドルをやらせてもらっている白銀あくあです。本日は大層なおもてなしをしていただき感謝しております。シャムス女王陛下」
俺はシャムス女王と握手を交わす。カノンから聞いけど、非公式の会談だとこんな感じでいいらしい。
1人の男としては、シャムス女王のスケスケから覗く引き締まった小ぶりなお尻に目が奪われそうになるが、なんとか耐えた。
「うむ。妹のフィーが世話になったようだな。今は非公式ゆえ、私の事も愛称のシャムちゃんと呼んで良いぞ。何、心配せずともこの王宮では妾がルールだからな。自殺志願者でもない限り文句を言う者などはおらんよ」
「ありがとうございます、シャムちゃん」
俺がそういうとシャムちゃんは笑顔を見せたので、この対応で間違ってないはずだ。
ちなみにシャムちゃんは俺より年上だが、そんな事は気にしない。細かい事を気にしたら負けって楓も言ってたしな。
「そういえば、今回は仕事の関係上、カノンを連れてきていないのだな」
「ええ。妻のカノンも残念がっていました。なんでも仲良くさせてもらってるとか……」
「ははっ! そうだな。妾もカノンもちょうど三姉妹の真ん中で苦労しているから、お互いに通じ合うところがあったのだよ。会った機会は数えるほどだが、カノンからも友人の1人……とでも思って貰えているのなら嬉しいのだが」
「大丈夫ですよ。俺もカノンからシャムちゃんは友人の1人だと聞いていますから」
「そうか! それは嬉しいな!」
「良かったら、今度カノンを連れてプライベートで来ますよ」
「言ったな? その約束覚えておるからな。絶対だぞ?」
「はい、必ず連れてきますよ」
シャムちゃんと2人で並んで、王宮を歩きながら談笑する。
男性が奴隷やペットの国、カースト制度で明確に女性上位が決まっている国と聞いて、最初はどうなるかと思ったけど、この雰囲気ならなんとかなりそうだ。
総理やカノンからもそれらの制度は自国の男性にのみ適用されているだけで、他国の男性は関係ない、普通に接してくれるだろうとは聞いていたけど、ちょっぴり不安だったんだよな。
しばらく2人で話していると何かに気がついたシャムちゃんが手を振る。
「マナ姉様!」
「シャムス女王陛下。いくら王宮内とはいえ、国家元首がそんな大股で走っては皆さんに笑われてしまいますよ」
お、おぉう……。
俺は目の前の大きな2つの果実を見て挙動不審になる。
こんなサイズ、見た事がないぞ……! こっ、これがアラビア半島連邦の本気か!!
間違いなく俺が今まで現実にあってきたどの女性よりもでかい。
それなのに彼女は、他の女性達が着ているような薄着ではなく、体全体を覆い隠すようなローブを着ているのだ。
だからこそなのか、余計に淫靡なものに感じる。隠せば隠すほど淫らなものに見えるって言ってたアキオさんの言葉を思い出した。
「あら……初めまして、白銀あくあ様ですね。どうしても外せない所用があったために、お出迎えに遅れた事をお詫びいたします。今は王室を離脱して隣の神殿で神殿長を務めているマナートと申します。どうか気軽にマナと呼んでくださいませ」
「べ……ベリルエンターテイメントでアイドルをやらせて貰ってる白銀あくあです。よろしくお願いします! マナ様」
俺はマナ様と固く握手を交わす。
一瞬で視線が一つの方向へと持っていかれそうになったが我慢する。
これも結や琴乃のおかげだ。あの2人のおかげで、俺だって少しは我慢ができるようになったと思う。
「む……あくあ殿、何か私やフィーとは対応が違うような気がするのだが……」
「なのじゃなのじゃ!」
い、嫌だな〜。ふ、2人とも気のせいですよ!
「あくあ君、非公式とはいえ外交上の問題もあるから、接するときは公平にお願いね」
「は、はい。わかりました総理……」
総理が俺の右耳に小さな声で耳打ちした。
その反対側の左耳では、しとりお姉ちゃんが小声で囁く
「あーちゃん……我慢できなくなったら、結さんや琴乃さんの代わりに、お姉ちゃんのを触らせてあげるから……ね?」
うん……聞かなかった事にしておこう。俺は何も聞いてない、聞いてないぞと自分に何度も言い聞かす。
「それでマナ姉様、何か用があると言っていたのは」
「はい、シャムス女王陛下。此度の事に関して、あくあ様の警備にこの者を加えさせては貰えないでしょうか?」
マナ様は手を叩く。
すると黒い服装の女性が指にタバコを挟んだ手で頭をポリポリと掻きながら面倒臭そうに奥から出てきた。
うん? 何か……初めて会った気がしない。俺達、どこかで会いましたっけ?
そんな俺の疑問は直ぐに解消される。
「初めまして、えーと、アクアサマ? 私の名前はアキコ……アキコ・ライバックだ! よろしくな。坊主!」
「あ、はい。白銀あくあです。よ、よろしくお願いします?」
アキコ・ライバック……? え? あ……も、もしかしてアキオさん!?
確かにその縛った髪といい、体は女性だけど雰囲気が……ええ……。俺は困惑を通り越えて混乱する。
アキコさんは俺の後ろにいるりのんさんを見つけると、笑顔で大きく手を振った。
逆にりのんさんはものすごく青褪めた顔をしている。だ、大丈夫かな?
「ん? お前、リノン……リノン・サージェスか! 久しぶりだなぁ! 元気してたか? おっ、そうだ。お前とバディを組んでたクルシュはどうなった? もしかして教官の私より先にそこらへんの野っ原でくたばってねぇだろうな? いやぁ、懐かしいなぁ。昔を思い出すぞ」
「しーっ、アキコさん、しーっ! 今の私は神狩りのんで、クルシュも今はペゴニアという名前で一般人として暮らしてます。だからどうか小さな声で……」
あの2人、知り合いなのだろうか?
りのんさんはタジタジという感じだが、アキコさんは知り合いに出会った事が嬉しかったのか楽しそうだ。
「ふぅん……こんな事なら、あのメイドも連れて来れば良かったかしら。まぁ、忍者もいるし、もしもの時のためにサバちゃんもいるし、キテラが粉狂い達を連れてきてるから何かあっても問題ないか」
俺の後ろではくくりちゃんが真剣な顔で何かぶつぶつと呟いていた。
ううむ……俺も、とりあえずフィーちゃんの頭でも撫でて精神を落ち着かせておくか。
「ふぎゃ!」
俺はアキコさんから視線を逸らすように、フィーちゃんを猫のように撫でくりまわした。
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