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白銀あくあ、お見合いパーティー始まるよ。

 政府主導のお見合いパーティー。

 本来、俺はただのサプライズゲストとしてライブをする予定だった。

 しかし俺が理人さんにお見合いパーティーへの参加をお願いした事で、事態はさらに大きく広がっていく。


「今こそがチャンス!!」


 最初にそう言ったのは総理だった。

 今までの政府主導のお見合いパーティーは、男性側が消極的なこともあってあまり盛り上がっていなかったそうだけど、今回は流れが変わったのか参加者もすんなりと決まったらしい。

 そこで今回こそが勝負時だと感じた総理は、急遽お見合いパーティーの生中継を決定した。

 そして理人さんを参加させる条件として、俺にその番組の司会をやってくれないかとお願いされたのである。

 もちろん俺はこれを二つ返事で了承。

 そして、お見合いパーティー当日を迎えた。


「この日を楽しみにしていた皆様、おはようございます! この国を明るく照らし、皆様の心に元気を与える。国営放送のホゲ川こと森川楓が今日のお見合いパーティーの司会と女性側のサポーターを務めさせていただきます!!」


 うん、まぁそうだよね。

 国主催のイベントだから放送は確実に国営放送だし、オファーを受けた時点でメインの司会進行役に森川さんが出てくる気がしてた。

 多分そこは俺に気を遣ってくれたんだろうと思う。実際、森川さんとはすごくやりやすいから助かってはいるしね。

 っていうか森川さんすごいな。

 もう自分でホゲ川とか言っちゃってるし、俺もこういう森川さんの強メンタルと、なんでもネタにして喰らっていくハングリー精神を見習わなくちゃいけないなと思った。果たしてそのハングリー精神が国営放送のアナウンサーに必要かと問われたら何も言えないけど……。


「そして今日は私ともう1人、司会と男性側のサポーターを務めてくれるスペシャルゲストが来てくれています! いやぁ、誰でしょうね〜? え? 森川小ネタすんなって? はいはいわかりましたよ。それでは本日のスペシャルゲスト、ベリルエンターテイメント所属のアイドル、白銀あくあさんです!! はい、みなさん拍手〜!」


 俺は森川さんのコールに合わせてステージの上に出る。


「みなさんおはようございます。今日は森川さんの助手として司会と男性側のサポーターを務めさせていただく白銀あくあです。いやぁ、それにしても今日、晴れてよかったですね。天気予報じゃ雨だったのでちょっと心配してました」

「えへへ、実は私、晴れ女なんですよ。雨が降りそうな日には森川を行かせろってよく言われます。それと今日はせっかくのおめでたい日ですし、やっぱり新たな門出を迎える日は晴れがいいだろうなと思ってお参りにも行ってきました。ほら、これ」


 森川さんはポケットから一つのお守りを出す。よく見るとそこには晴天守という文字が書かれていた。


「うわ、こんなのあるんですね。初めて見ました」

「なんかここの神社しかやってないみたいですよ。高円寺のなんとかって神社です」

「森川さん、そこが1番大事な情報なんじゃ……」

「えへへ、忘れちゃいました。だから詳しくは皆さん検索してくださいね」


 さすがは森川さんだ。細かい所なんてもはやどうでもいいのである。

 情報を正確に伝えないといけないメディア側の人間としては完全にダメだけど、そもそもカノン曰く、森川さんはそういう次元で戦ってないらしい。

 あと生放送なのにこんなゆっくり雑談してて良いのかと思ったら、カンペ持った人が森川、巻きでって指示出しててわらいそうになった。

 もちろん森川さんはそんなのは全く見ない自由人なので、俺の方から話を進めていく。

 というか話を進めなきゃ、このまま森川さんとの雑談だけでお見合いパーティーが終わりそうな気がした。


「ところで今日はかなりの人数が参加してくれるみたいですね」

「はい。男性側はなんと史上最高を更新する10人の男性が参加してくれる模様です!!」

「「「「「わぁああああああああ!」」」」」


 マジかよ……。一瞬、10人って少なくないって思ったけど、そっか、この世界からすればこれでも多い方なんだと認識を改めた。そう考えると勇気を出して参加してくれた10人の男性には拍手を送りたい。


「それでは、勇気ある男性の人達はこちらの方達となります。どうぞ!」

「「「「「おぉ〜!」」」」」


 画面に男性側の控室が映し出される。

 そして一人一人の男性にズームすると氏名や年齢などの情報が合わせて表示された。

 その中でも一際歓声が大きかったのはやはり玖珂理人さんである。

 うん、俺から見ても普通にかっこいいし、そうだろうなと思った。


「男性陣の映像が流れた事もあって、会場のボルテージもマックスですね」

「そりゃね、女性陣のテンションもぶち上がりですよ!! 私も参加するわけじゃないけど、体があったかくなってきました。いやぁ、もう待ちきれない! そういうわけで……この男性陣とお見合いできる事になった運のいい100人の女性達はこちらだ! 出てこいや!!」


 森川さんはどこかのプロレスラーみたいな仕草をする。

 そういえば自宅に来た時に披露してくれた森川楓の雑に似てない物真似シリーズのレパートリーにあったなぁ。

 森川さんって、本当は民間放送のバラエティアナウンサーじゃないの? 絶対に国営放送の人じゃないでしょ。だって他の国営放送の人は絶対にそんなことしないよ?

 まぁ、それはさておき、森川さんの掛け声でさっきまでステージの下で歓声を上げていた女性達がゆっくりと壇上に上がっていく。みんな流石に緊張しているのかドキドキした顔をしていた。


「はい、それじゃあちょっと何人かの人にインタビューしてみましょうか。それではまず最初に……」


 森川さんが適当にピックアップした女性へとマイクを向けてインタビューを開始する。

 俺はこの間にステージから降りると、男性側の控室へと向かった。

 女性側のインタビューが終わった後は、男性側のインタビューがあるから急がなきゃな。

 俺は控室の前に着くと、一旦ノックしてから中に顔を出して、男性陣にそろそろインタビューあるからよろしくお願いしますねと声をかけた。


「あれ? あくあ君? どこ行きました?」

「はいはい、森川さん、ここですよー! 実は森川さんが女性陣にインタビューしてる間に、こちらは今、男性の控室の前に来ています!!」

「おぉ〜! も、ももももしかして、男性側のインタビューとかもあったりしちゃうんですか?」

「はい! 今回は特別の許可を得て、男性側のインタビューについても了承をもらっています。そういうわけでね。早速中に入って、インタビューをしてみたいと思います!」


 俺はそう言うと再び控室に中に足を踏み入れる。

 部屋に入るとこちらもまた理人さん以外は緊張した面持ちの人ばかりだ。

 まずはこの緊張をほぐさないといけない。俺はそのために1番手前にいた人に向かって片手を上げて近づいていく。


「こんにちは〜!」

「こ、ここここんにちは……」


 まずは軽めにハイタッチすると、俺はその男性の肩へと手を回す。

 人によってはやらないけど、この人は大丈夫そうなので軽めのスキンシップを織り交ぜてインタビューすることにした。


「よかったらカメラに向かって改めて自己紹介いいですか?」

「あ、はい……」


 ちなみに今、テレビカメラを回しているのはノブさんだ。これも男性側に対する配慮である。


「え、えっと、原口泰二、20歳です。料理が得意でその……お弁当屋さんで働いてます」

「いいですね〜。お弁当ってこうワクワクするっていうか、蓋を開ける瞬間に温かい気持ちになるんですよ」

「あ……わかります。僕もお弁当の蓋を開ける瞬間が好きで、その……ほっこりとした気持ちになるじゃないですか。だから僕も自分が作ったお弁当で誰かをそうしたいって、多くの人に食べてもらいたいなって思ったんです」

「実家に居た時、妹に弁当作ってた事を思い出しましたよ。お弁当を食べる人の笑顔を想像したりすると、作る方も楽しくなっちゃいますよね」


 俺がそう言うと原口さんはうんうんと頷いてくれた。


「あぁ……お弁当の話をしていたら心なしかお腹が空いてきました。よかったら今度、原口さんのお店にロケ弁を手配してもいいですか?」

「はい、もちろんです!」


 うんうん、やっぱり好きな話ってテンション上がるよな。

 俺はだいぶ打ち解けてきたところで、本題へと踏み込むように原口さんを自分の方へと抱き寄せる。


「ところでどういうタイプの女の子が好き? 俺だけにこそっと教えてよ」

「え、えっと、ご飯を美味しそうに食べてくれる女性がいいです。それか一緒にお弁当を作ってくれる人とかもいいかなって……」

「あー、なるほどね。それじゃあズバリ、今の時点で狙ってる人はいますか?」

「じゅ、17番の坂野さん、プロフィールに料理が趣味って書いてたから。あと、食べるのが好きって言ってた65番の根山さんも気になっています」


 おぉ……思ったよりちゃんと希望がはっきりしていてびっくりした。

 事前に聞いた情報では、男性はそこまで積極的じゃない可能性が高いから、誰かに興味が出るようにうまく誘導してって言われてたけど、これなら問題ない気がする。

 あとは俺がうまく原口さんをサポートしないとな。

 他人の人生に少なからず俺の行動が影響するのだと思ったら、責任感で身が引き締まった。


「それじゃあフリートークが終わって食事タイムの時は2人が隣の席になるように手配しようか。あ……でも美味しく食べる姿を見たいって言うのなら65番の根山さんは真正面の方がいいかな?」

「は、はい!」


 俺は原口さんがまた緊張していたので、もう一度、肩をポンと叩いた。


「今みたいに普通に話せば全然大丈夫だから、頑張って。それに俺も近くで全部見てるから困った時はすぐに言ってくださいね。1人じゃないから、一緒に頑張ろう!!」

「ありがとうございます!」


 うん、幸先がいいね。俺は次に少し気難しそうな男性に声をかけた。


「初めまして〜。上坂秀悟さん、インタビューいいですか?」

「はい」


 上坂さんは眉間に皺を寄せる。とは言っても煙たがられているとか、嫌がられているという印象とは少し違う。

 うん、これは気難しいと言うよりも、彼もまた原口さん同様に緊張してるのかもなと思った。


「上坂さんは……あ、そういえば上坂さんって慎太郎のファンって書いてくれてた人ですよね? ありがとうございます。今日、慎太郎は来れてないんですけど、同じベリルの仲間として、代わりにいつも応援してくれてありがとうって言わせてください。本人もきっと喜ぶと思うので、後で伝えておきますよ」

「あ、あぁ……」


 お、照れてる照れてる。

 あまり喋るのは得意そうじゃないけど、親しくなればもう少し色々と喋ってくれるんじゃないかなと思った。

 だから俺はあえて上坂さんが話しやすい方向へと話を振っていく。


「ご職業は……あ、すごい。来年から学校で事務員をされるんですね。何かきっかけがあったんですか?」

「あぁ……その、だな。俺は今まで無職だったんだが、ヘブンズソードの役で橘斬鬼として弁護士事務所で働く黛君を見てかっこいいなと思って、俺もそういう誰かを助けられる仕事がしたいなと思ったんだ。その学校は、事務員をしながら教職員の免許を取れるように学費から何までサポートしてくれるそうだから、将来的には教壇に立てたらと思っている」


 ほらね。だから言ったろ、慎太郎。お前もきっとどこかで誰かのヒーローになってるんだって。

 慎太郎だけじゃない。きっと天我先輩やとあも、どこかで誰かを救ってる。

 それをこうやってみんなが居ないところでも感じる事ができるようになって、心がすごく嬉しくなった。


「それは素敵な夢ですね。これも後で慎太郎にも伝えておきます。ところで……ここだけの話、気になってる女性はいますか?」

「黛君のファンだって書いてる6番、23番、37番、58番の女性が気になっている。彼女たちなら、きょ、共通の話題もあるし、口下手な自分でも話しやすいんじゃないかなって……」


 うんうん、共通の話題があるってやっぱり重要だよな。

 何もないところから会話のきっかけを探すのは大変だしね。


「それじゃあ、そっちの方向でサポートしていきますね。頑張りましょう」

「あ、あぁ、よろしく頼む」


 俺はその後も他の参加者にインタビューを続ける。

 そして最後に回ってきたのが理人さんだ。


「えーと、最後になりましたが、玖珂理人さん。今日参加してくれた理由を聞いても?」

「君が参加しろって言ったからだろ?」

「あ、そうでした。えへへ」


 ここまでは流れだ。

 俺もわかってて言ってるし、理人さんもわかってて応えてくれてる。

 理人さんは森川さんのように笑顔で惚ける俺に対して、大人な雰囲気でにこやかに微笑む。

 うーん、やっぱりこの人かっこいいな。背筋もピンとしてるし、何より立ち姿に華がある。

 いかにも俳優にいそうだし、俺の居た世界でも普通にモテると思う。


「早速ですが、気になった女性はいますか?」

「うん、そうだね。プロフィールを見た感じだけだとまだピンと来ないので、実際に一緒の時間を過ごしてから決めたいと思うよ」


 なんか、うまくはぐらかされた様な気がするなあ。

 司会をやる事になってしまった俺は、今回表に出る事が多く裏で大きくは動けない。

 だけど、その分は裏でアヤナが頑張ってくれてるはずだから、きっと大丈夫だと安心している。

 小雛先輩にいつも叩きのめされてる仲間として、アヤナがいつもどれだけ努力しているか知っているし、今回の事も自ら進んで協力してくれた。信頼できる仲間が裏で頑張ってるんだから、心配なんてする必要なんて何もない。

 後は俺が勝負どころを見逃さないだけだ。


「なるほど、それでは気になった女性がいたら、その時はこっそり教えてくださいね。こっちも全力でサポートさせてもらいます」

「はい、ありがとうございます」


 理人さんへのインタビューが終わった俺は、カメラに向かって森川さんに呼びかける。


「森川さーん! どうでした、見てましたか?」

「はいはいはい、ちゃんと全部、見てましたよ〜! いやぁ、面白い事になってますね。男性側の希望を聞いて、急遽こっちでも話を聞いてみたんですけど、男性の原口さんと17番の坂野さん、男性の浜田さんと93番の秋葉さんあたりはお互いに名前を上げてますし、これはちょっと期待できるんじゃないですか?」


 このお見合いパーティーは、司会である森川さんや俺は両方のインタビュー映像を観れるけど、女性参加者や男性参加者は相手側のインタビュー映像は見れないようになっている。

 だからお互いに誰が誰を好きかは知らない状態なのに、もうすでに2組のカップルが成立する可能性があるのだ。

 これは相当期待できるんじゃないかとスタッフ達や政府関係者もいろめきだっている。


「幸先いいですね。この調子でどんどんいきましょう」

「うわぁ、なんかドキドキしてきました。ちゃんとうまくサポートできるかなぁ……」

「はは、お互いに頑張りましょう、森川さん」

「わかりました。頑張ります!!」


 お互いの第一印象を確認しあった後は、フリータイムの時間だ。

 フリータイムでは、事前の情報と先ほどのインタビューを加えた情報を合わせて、俺と森川さんでいくつかの小さなグループを作っていく。

 それぞれにばらけて配置された男性の周りに会話のしやすそうな女性達を並べる事で、1番最初の問題である会話をする流れを作るためだ。最初の10分間は選ばれたメンバーだけで会話を進めてもらって、少し打ち明けたあたりで残りの女性陣が一気に解放される仕組みとなっている。

 選ばれなかった女性達は、全体の流れを見てそれぞれ気になる男性のところに行ってアピールしてもらうが、あまりにもアピールが度を過ぎると警備員の人達に退場させられるので注意しなければいけない。

 また、20分を過ぎると、最初に配置された女性達、つまり俺たち選択した女性陣は自由に行動ができるようになる。そのまま残るのもいいが、違う男性へとアタックする事も可能だ。フリータイムに与えられた時間は最長で1時間。女性達それぞれの戦略性も試される。


「いよいよフリータイムが始まりましたね。どこも順調そうです」

「そうですね。最初にこのグループはこういう共通の話題がありますって振ったの良かったと思います」


 俺と森川さんは別室にも関わらず何故かひそひそ声で喋る。

 男性参加者の原口さん、上坂さん、浜田さん、柳川さん、玄野さん、岡澤さん、橋井さん、梨田さん、原さん、理人さんも今のところは問題なさそうだ。


「はい、ここで10分が経ちましたね。それでは残りの女性陣の皆さん、頑張ってください!」


 ここまで1人のテーブルにつき、女性4人がついていたが、残りの60人はここからがスタートである。

 最初は理人さんに人気が集中するかと思っていたけど、女性陣もなかなか冷静だ。

 明らかに競争率が高そうな理人さんをあえてスルーして、他の男性のところへと向かう女性陣は少なくない。

 それでもやはり100人中24人の女性が理人さんのところへと集まった。おそらく結婚実績がある所も女性からの評価が高い理由なのだろう。理人さんの次点で人気だったのはなんとあの原口さんで15人、すごい!! その次が絵が描くのが趣味と言っていた梨田さんで11人、なんとこの3人だけで50人と半数を独占している。

 続く浜田さんが9人、玄野さんと橋井さんが8人、上坂さんが7人、柳川さんと岡澤さん、原さんが6人だった。


「理人さんやっぱり強いなぁ」


 俺がそう漏らすと森川さんが小さく頷いた。


「一生に一回しかないかもしれない機会ですから、女性陣もどうせならって思ってる人は多いみたいですね。さっきインタビューした感じでもダメ元で行くって人結構いましたよ。それに、明らかに脈がなさそうなら移動できますし……あ、ほら! そろそろ動きますよ!」


 開始から20分経つと、最初に男性の傍付きに選ばれて座ってた人達も動き出す。

 8割の人はその場に残ったけど40人のうち、8人の女性達は脈がないと思ったのか他のテーブルへと移っていった。その中でも1人、離れていった女性の背中を悲しげな視線で見つめる1人の男性参加者が目につく。


「機械いじりの好きな浜田さんですね。去っていく93番の、おぉっと! 相思相愛かと思った秋葉さんですね。これは……どうしたんでしょうか?」

「あくあ君、ここは、ちょっとサポートが必要なんじゃないですか?」

「そうですね。テレフォンタイム発動します!」


 俺はスタッフに渡された携帯を使って、一旦離れた場所へと移動した浜田さんに電話をかける。

 ちなみにこの間、フリータイムの時間は止まってる。

 女性陣はこの間にゆっくりとこの後どうするかを考える事ができるから、是非とも有意義に時間を使ってほしい。


「もしもし、浜田さんどうしました? 最初は秋葉さんと相思相愛かと思ったんですけど……」

「えっとその……秋葉さんの事を近くで見たら、凄く好みの女性で、恥ずかしくなってあんまり会話ができなかったんです。それで目も逸らしてたら、他の人のところいっちゃって……」


 あっちゃー、これは良くない。どうにかしてあげないと!!


「いいですか浜田さん、女性陣だって男性から少しは気持ちを伝えないと、自分の事が気になってるかどうかなんてわかりません。だから勇気を出して声をかけましょう。それが無理なら視線だけでも向けるべきです」

「はい……やっぱり、そう……ですよね」


 うーん、これは相当凹んでるな。

 俺は浜田さんに勇気を持って立ち上がってもらうために優しく声をかける。


「浜田さん、想像してみてください。もし秋葉さんが他の男性と結婚したりしたらどう思いますか? そうじゃなくても、今後も彼女が1人で余生を過ごす姿を想像してどう思います?」

「いや……です」

「だったら頑張りましょう! 浜田さん、秋葉さんを幸せにするのは他の誰かじゃない。貴方が彼女を幸せにするんだ!! 大丈夫、はっきり好きって気持ちを自覚できてる貴方ならやれるって俺は信じてますから!!」

「あくあ君が、俺の事を……?」

「はい! だから頑張れ浜田さん! もしだめだったら後で俺が慰めるから、勇気を持ってもう一度アタックしてくださいよ。幸いにもまだチャンスはあります。フリータイムの後にはツーショットタイムがありますから、そこでもう一度、席を設けましょう。1対1で君の事が好きだって気持ちをわからせるんです」

「わ、わかりました。頑張ります!!」


 ここでテレフォンタイムは終わりだ。

 俺は自分の席に戻ると同じように秋葉さんに電話をかけていた森川さんから話を聞く。


「森川さん、そっちはどうでしたか?」

「はい。秋葉さんも浜田さんの事は気になってるみたいですけど、一度も目を合わせてくれなかったら、嫌われてるのかなと思って身をひいたそうです」


 よしよし、まだ脈はあるぞ。頑張れ浜田さん!!

 その後も同じように、所々で何度かテレフォンタイムを駆使して上手く進行していく。


「はい! フリータイムはこれにて終了です! 男性は用意された個室に、女性陣は一旦控室に戻ってください」


 フリータイムが終わると次に待っているのはツーショットタイムだ。

 男性側が気になる女性を呼びだして、2人きりで10分間のトークタイムが与えられる。


「ツーショットタイム、ちょっとドキドキしますね。あくあ君はどうなると思う?」

「告白タイムを待たずに、もうここでくっついちゃう人とかいるんじゃないですか? 見ている感じでは、何人かはもうここでうまく行きそうな気もしますけどね」

「きゃーっ、そうなったらどうしよう?」

「えっと、一応リミットはないんですよね? それならお付き合いが決まった女性はここで捌けてもらって、残った女性達と親睦を深めるのもありなんじゃないでしょうか?」

「え、えっと、一応確認してみますね」


 森川さんが本部に確認すると、その流れでも大丈夫だという事になった。

 本来であれば告白チャンスは最後の告白タイムのみだったが、俺の提案で急遽ツーショットタイムでの告白が認められる事になり、それが伝えられた女性達から歓声が上がる。

 なお、ここで失敗したとしても退場とはならずに残りのイベントにも参加する事が決定した。

 そのまま同じ男性にアプローチし続ける事もできるし、別の男性にアプローチする事もできるので、女性陣は悔いがないように頑張って欲しいと思う。

 ちなみに男性側が呼び出す女性には人数の制限がないので、気になった人がいれば複数人を個別に呼び出す事が可能である。


「それでは今から1人ずつ、選ばれた女性達の名前をコールしていきます!」


 森川さんがそれぞれの男性から指名された女性の名前を読み上げていく。

 その度に女性陣の控室からは大きな声が上がる。ここで俺が凄いなと思ったのは、選ばれなかった女性達が、選ばれた女性達に対して、拍手を贈り頑張ってねと声をかけてあげるところだ。

 全員が全員、結ばれるわけじゃないってみんなわかってるのに、それが素直にできるのは尊敬に値すると思う。


「頑張ってね」

「うん、みんなの分も頑張ってくる!」

「さっき橋井さんといい感じだったし、里見さんならいけるよ!」

「う、うん、頑張る!」

「井口さん、ここ勝負だよ!!」

「わかってる。私も、ここしかないってそう思ってるから!!」


 女性達のその姿を見て、俺はここ最近の自分がしてきた行動について振り返っていた。

 カノンと結ばれた後、俺はあまり他の女性達と結ばれる事については積極的じゃなかったと思う。

 結にしても琴乃にしても俺はずっと受け身だった。向こうからの気持ちに応えて、本当にそれでちゃんと2人を心の底から幸せにできたと言えるのだろうか?

 この世界の現状については何度か説明されたし、頭では理解しているつもりでいた。

 でも俺の心は、カノン以外の女性に対して本気になる事は裏切りだと、心のどこかでそう感じていたのである。

 目の前のモニターに視線を向けると、ちょうど浜田さんの部屋に秋葉さんが入ってきたところだった。


「あ、ああああああ秋葉さん! 最初見た時から気になってました! 付き合ってください!!」

「え?」


 いきなりの告白にスタッフや森川さんもびっくりした。俺も思わず席から立ち上がってしまう。

 確かに勇気を出してとは言ったけど、まさかの初手告白、それも男性からの告白に秋葉さんも固まっていた。


「あ、秋葉さん、告白、告白ですよ!」


 森川さんは慌てて室内のスピーカーをオンにすると、部屋の中にいる秋葉さんに直接喋りかける。

 こういう時に、フリーズせずに直ぐに何らかの行動ができる森川さんはやっぱり凄いなと思った。


「え、あ、はい……。よろ……こんで……?」


 秋葉さんの頬に一筋の涙が伝う。それを見た浜田さんがどうしていいのかわからずに、チラチラとカメラの方を見る。俺は森川さんにマイクをもらって、ゆっくりとした口調で浜田さんに喋りかけた。


「浜田さん、そういう時は秋葉さんの手を優しく握ってあげるとか、寄り添ってずっと見てあげてるだけでも女の子は楽になると思うよ。大丈夫、ゆっくりでいいから。あと、おめでとう。勇気を出してとは言ったけど、告白するなんて思ってもいなかったからびっくりしたよ。でもその勇気、最高にかっこよかった!! ありがとう浜田さん。俺も勇気もらったよ」


 浜田さんと秋葉さんに続くように、他にもいくつかの部屋でカップルが誕生した。

 過去になかった異常事態に、後ろの政府関係者はもう祭りでも起きたのかってくらいてんやわんやしている。

 流石に自分から告白したのは浜田さんだけだったけど、上坂さんなんか、最初に気になった4人からの告白を全部受けてそれも周囲をびっくりさせた。

 みんなすげぇな……。それに比べて俺はだせえなと思った。

 全く予想できなかった琴乃はともかく、結の気持ちは自分が1番知ってたはずだし、俺だって少なからず結の事を想っていたはずじゃないのか? それなのに俺は結の方から全部言わせて、その上でなし崩し的に体を重ねて結婚する事になった。琴乃に対して俺が取った行動はもっと論外である。俺はその流れで琴乃の事も抱いてしまった。

 胡桃さんはまだ入院中で面会に待ったがかかってるから仕方ないとしても、白龍先生は引きこもって出てこないというか俺を避けてるから気を遣ってそのままにしてたけど、本当はそこをあえて無視して俺の方から行くべきなんじゃないのか? なんかそうじゃないと白龍先生、一生出てこなさそうだしな。

 そんな時、俺の頭の中にアキオさんからの言葉が思い浮かぶ。


『あくあ、男なら全部自分からいけ。男の辞書に防御とか後退って文字はねぇんだ。男なら目の前にあるもの全部掴んで見せろ。それで全部幸せにすりゃいいんだ。アイドルになって全員を幸せにしたいなんて馬鹿げた夢を掲げるっていうのなら、それくらい欲張りになってもいいんじゃねえか? なぁに、もしトラブルがあったとしても自分でやった事なんだから、責任取ればいいんだ。いいか? 取った責任の数は男の勲章だ。むしろ誇れ!! それこそカズヒコの奴なんか、そのせいで認知した子供が100人もいるんだぜ!』


 カノンも、結も、琴乃も……俺は手を掴んだ人、全員を幸せにする。

 ずっと他の女性と結ばれれば、その分、カノンとの時間が少なくなって蔑ろにしているんじゃないかと思っていた。

 でもそうじゃない。その分、今まで以上にカノンを幸せにすれば良いんだ。

 俺はもっとカノンの事を幸せにできる。結も琴乃も同じだ。

 この極端に男性が少ない世界で、たった1人の女性しか幸せにできないやつなら、みんなを笑顔になんかできねぇよ。なんで俺はそのことに気が付かなかったのだろう。

 俺は隣にいた森川さんへと視線を向ける。


「いやぁ、凄いですね。SNSのトレンドランキングも、浜田さんがぶっちぎりの一位ですよ。それに他も全部お見合いパーティーの事ばかりです」

「それだけ浜田さんの告白はすごかったし、俺もすごく心に響くものがありました。やっぱり欲しいものは、自分から掴みに行かないとなって改めてその事について思い出しました」


 カノンにしてもアイドルになるってことにしてもそうだ。

 白銀あくあである自分を思い出せ。俺はいつだって欲しいものは自分から掴み取っていたじゃないか。

 この世界で成功して、カノンと結婚して幸せで、それで俺はどうなった?

 思い出せよ。あの時の渇きと欲望を、俺はこの人生も後悔するつもりなのか?

 否、俺はもう後悔なんかしたくない。


「あー、みんないいなぁ。ねぇねぇ、あくあくん、この流れで私たちも付き合っちゃわない?」

「いいですよ」

「もー、そんな即答で断らなくて……もぉ!?」


 森川さんはびっくりした顔を見せる。


「え? あっ……冗談、冗談だよね。あはは……」


 俺は森川さんに向かって微笑む。

 森川さんとは何度か共演してて思ったけど、本当に話しやすい人だ。

 なんというか、この人の前だとあんまカッコつけなくていいというか、自然体で話せる。

 だからもっと仲良くなりたいと思った。俺は自分のその気持ちに従って答えを出したまでである。


「冗談じゃないですよ。森川さんは冗談だったんですか?」


 森川さんはこれでもかと思うくらい首を横に振った。


「それじゃあ今度、2人きりでデートしましょう」

「あ、あ、あ……は、はいいいい! よ、よろしくお願いします」


 後ろでは政府関係者だけではなく、国営放送のスタッフ達もびっくりしていた。

 その中で1番後ろから見守っていた総理だけが悪い顔でニヤリと笑みを浮かべている。

 やっぱりこの人は只者じゃないな。

 これは俺から全ての女性に対しての宣戦布告である。

 白銀あくあは止まらないし、欲しいものは全部取りに行く。

 かと言って俺は決して無責任じゃない。

 浜田さんの告白を見て、間違いなく男性が変わっていっている姿を見て確信した。


 この世界は変えられる。


 俺1人じゃ抱えきれなかったとしても、それならもっと分母を増やせばいいだけだ。

 そうだよ。だから俺はみんなとCMであの宣戦布告を、そして記者会見であの宣言をしたんだろう。

 だめなら俺の事は好きにしていいし、殺すなら殺せばいい。

 世界を変えるって言ったあの日からもう覚悟は決まっている。


「森川さんおめでとう」

「楓ちゃん、本当によかったね」

「森川、お前やっぱすげーわ」

「こいつほんま……」


 カメラが参加者達に切り替った途端、みんなが森川さんにおめでとうと声をかけていた。

 これだけ周りに好かれている森川さんだから、俺も惹かれたのだと思う。

 それなら素直にその気持ちに従えばいい。俺はやりたい事をやる。

 ただそれだけだし、俺はいつだってそうだっただろ?。


 なぁ、俺よ……。俺を誰だと思ってるんだ?


 世界で1番のアイドルになる男、白銀あくあだぞ!!


 俺がこの世界を笑顔にする!!


 責任とって欲しけりゃ、地球ごととってやるよ!


 愛して欲しけりゃ、全員愛してやるよ!


 だからしのごの言わずに俺についてこい! 俺はもう止まらないっ!!

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[一言] 森川が今迄(ジェットコースターもかくやの振り幅のアレコレを)積み上げてきた結果やぞ
[一言] ここで!森川~!すげぇ…!
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