白銀あくあは見過ごさない。
男2人、密室、話し合い、何も起きないはずもなく……。
「ほう……すごいな。これが本物か」
理人さんは、部屋に置いてあったヘブンズソードの変身アイテムを手に持ってじっくりと観察していた。
彼が今、手に持っているカブトムシは、実際に俺が最初に変身した時に使ったものである。
このカブトムシは他にもいくつかの公式複製品があって、もしもの時の予備として使用する用途以外にも、製作委員会の方でイベント持ち回り用に使われているそうだ。
それもあって予備の変身道具もイベントのために実際に撮影で1回は使ったりしている。
よくわからないけど、スタッフの人曰く、実際に使用した物の方が本物感が出るらしい。
最初のオリジナルとなる1台と複製品の違いはいくつか違いがあって、俺が知っているのだとオリジナルは裏のカバーを外した所に【SOUJI KENZAKI - AQUA SHIROGANE】という名前と、初めて変身した回を撮影した日付、1話の放送日が刻まれている。
「色々と見せてくれてありがとう。しかし……初対面の私が君の部屋に招かれて本当に良かったのだろうか? 先ほど、リビングに居た女性の数人から羨むような顔で見られたのだが……彼女達にはすまない事をしてしまったな」
「あはは……すみません」
俺は立ち話もなんだからと、理人さんに椅子に座ったらどうですかと促す。
実は最初、カノンがメインで使ってる仕事部屋兼応接室に通してもいいかもと思ったが、自分から距離を置きに行くより、もっとお互いにリラックスした環境で話し合うために、俺はあえて彼を自分の部屋へと招いた。
小雛先輩が教えてくれたけど、あえて自分のパーソナルスペースに引き摺り込むというのも交渉術の手段の一つらしい。
「ところで今の生活はどうかな? 困った事はあるかい?」
「特にないかな……あ、でも……」
うーん、どうしようかな。
初対面の人にこんな事を聞いていいのか悩む……。
「何か気になる事があるのなら言ってほしい。私で協力できる事があれば協力するし、話を聞いたり悩みがあるなら相談に乗ることはできる」
おぉ……なんか頼りになるちゃんとした大人のお兄さんって感じがする。
もしかしたら彼なら、理人さんなら俺の抱えている悩みも解決できるかもしれない。
だから俺は思い切って理人さんに相談してみた。
「嫁が可愛すぎて困ってます」
「は?」
アレ? なんかおかしいこと言いましたっけ?
あ、いや、これだけじゃ俺が何を言いたいのか伝わってないのかもしれない。
「嫁が可愛すぎて、毎日が大変なんです。仕事には影響出したくないから、ある程度は自制しないといけないのに……!」
それなのに、毎日、毎日……可愛い仕草で俺の事を誘惑しやがって!
俺だって1人のアイドルとしてね。ファンに対してちゃんと真摯に向き合ってるつもりなんです。
溢れ出る若い衝動に抗って、アイドルとしての活動に影響が出ないように毎日、毎日……我慢してるんですよ!
それこそね、俺だって子供が好きなんです。いや、子供が好きと言っても変な意味じゃないですよ。俺とカノンの子供、男の子でも女の子でも普通に可愛いんだろうなあって、俺だってそういう事を考えない日はないんです。
はぁ……俺もね、死ぬ思いで、そう、死ぬ思いでね、アレですよ。一所懸命、努力に努力を重ねて、いきなりこの世界に飛ばされて、やっとファンのみんなにだって喜んでもらえてね。だからこそ、こうやって、毎日、毎朝、毎晩、毎秒、カノンが可愛すぎるのが本当に辛くて、自分が情けなくって、ファンのみんなにも申し訳なくて……それでも俺の頭の中は常に健全な男子高校生なんですよ。
だけど俺はアイドルだから。そう、アイドルだから日々の活動のために、色々と欲望に折り合いをつけて毎日一所懸命頑張ってるんです。
俺だって本当はね、1人の男として、この国の男子と女子の少子化問題とか解決したいんですよ。
でもね、最近も高齢者の方からお手紙をいただいて、生きがいだって、元気になったって……だからね、俺は全ての人が元気になれるようなイベントを、それこそ今は東京しかイベントできてないけど、この国で……そう全国の人達をアイドル活動を通じて元気にさせたい!!
そのために俺だって頑張ってるんですよ。
でもね1人の男としてはね、少子化問題についてやっぱり強く取り組みたいんですよ。
それでも俺はアイドルだから、翌日に仕事があったらちゃんと自制して我慢してるんです。
我慢して、我慢して……我慢しても解決せずに問題が先延ばしにされるだけで状況は同じ、全く変わらないじゃないですか! 理人さん! 貴方にはわからないかもしれないけど、カノンは……俺の嫁は本当に可愛いんです。
第三者から見たら只のポンコツ、いや……夫の俺から見ても只のポンコツなんですけど、それすら可愛くて気が狂いそうになるんですよ。
どれだけこっちがアイドルとして我慢しても、毎日、毎日、無垢な乙女の振りして近づいてきやがって!! いまだに初めて会った頃と全く一緒だし! ずっとあの頃の穢れのない少女、そのままなんですよ!
あぁ、もう可愛いなぁあああああああああ! 俺の好みドストライクのくせに、毎日誘惑してきやがって、くそがああああああああああ! こっちはな。カノンが普通に歩いてるだけ、座ってるだけでも常時意識してるんだよおおおおおおおお! 実は飯を食ってる時もな、俺は目の前のカノンを見てうっとりとしてるんだよね。それでも俺は翌日仕事だよなと我慢してるんです。だから、気がついてくれ、ポンコツ!!
俺だって本当はカノンと少子化問題に取り組みたいよ!
はっ!? 待てよ! ワンチャン、俺がカノンに子供ができれば、メアリーお婆ちゃんもニッコリの高齢者問題も解決するんじゃ……って、そうじゃない、そうじゃないだろ。
俺はカノンに、みんなと一緒に、学校を卒業してほしいんだ!!
今だって楽しそうに学校通ってるし、1人だけ卒業が遅れるとか、そもそも同級生の俺が嫌だし……。カノンと一緒に3年間いたいもん……。
「そ、そうか……それは大変だったな……うん」
あ、アレ? もしかしなくても全部口に出てましたか?
穴があったら入りてえ……俺はベッドの上で自分の布団にくるまって身を隠した。
「ンンッ、その……だな。私には理解できない話だが、少しは君の手助けとなるアドバイスができるかもしれない」
え? 本当に?
俺はくるまった布団から顔だけを出す。
「まず最初に、子供を作ったからといって学校を留年しなければいけない理由はない。学校に届出を出してサポートしてもらえばいいし、授業の単位さえ落とさなければ問題ないだろう。それに君たちの通ってる乙女咲学園は先進校だから、生徒の時間外授業も24時間行っているし、連動した国からの単位取得サポートもある。もちろん出産した後もサポートは続くから安心してほしい」
マジ? 俺は布団からモゾモゾと抜け出して、ベッドの上に正座するようにちょこんと座る。
「念のために聞くが、その……意識をするのは奥さんだけか?」
「いえ、もれなく誘惑してくる全員に反応してます。ハニートラップなんてしなくても秒で引っかかる自信しかありません」
だって魅力的な女の子が多いんだもん。
その中でも最近脅威になっているのが、カノンの侍女を務めてるペゴニアとかいう女性だ。
こいつはかなりの問題児で、事あるごとに何かしようとしてきやがる。
昨日の夜も、ワクワクと料理を待っている呑気な顔をしたカノンが目の前にいるのに、キッチンを隔てたこちら側で、カノンに見えないように何やらしてこようとするんだもん。
そりゃ、隙を見せた俺が悪いんだけど、そもそも俺が隙を見せたのは、キッチンの下でメイド服のロングスカートをたくしあげようとしたペゴニアさんのせいだからね。
「そ……そうか、君みたいな女性が大好きな男性は現在でも何人かはいるのだが……君の強さは少し異常かもしれないな。それなら奥さんを沢山娶るとか、愛人をたくさん作るとか、君くらいの年齢だと、同級生にそういう友達になってもらったり、家族に頼むというのも一つの手段だと思う。アイドルの仕事に影響を及ぼしたくないと思うなら、それこそ疲れない方法とかもあるし、多少……いや、だいぶもったいない気もするが、遥か昔に前例がなかったわけではない」
うーん、なるほどね。
ペゴニアさんとカノンからも色々と話を聞いて驚いたけど、この世界の常識に俺も早く慣れる必要があるな。
愛人とかって聞くと、やっぱりなんかこう良くないんじゃないかって思うけど、こっちの女性にとってはそれがステータスみたいなものだと聞いて驚いた。
「それこそ君の担当官、深雪さんに相談する事を強くおすすめするよ。彼女達、国家機密局の担当官はその手のエリートだからね。男性が疲労を感じない、翌日に響かせないための優しい仕方もよく知っているはずだし、食事のメニューや睡眠時間の確保などで疲労回復のサポート、管理も行ってくれるはずだよ。もし、君が嫌じゃなかったら、愛人にして部屋を与えてあげるといい。きっと毎日、身を粉にして献身的に動いてくれるだろう。彼女達、担当官は男性に尽くせる事を至上の喜びだと考えている人が多いからね」
深雪さんか……。
俺と深雪さんの今の関係はちょっと複雑だ。
俺は深雪さんがすごく真剣に俺の事を想ってくれている事を知っている。
だから俺はその気持ちにちゃんと向き合って、何らかの答えを出さないといけない。
そのために俺は深雪さんをデートに誘った。
まずは彼女の事をよく知って、それから深雪さんを奥さんにしたいのかどうかを考えたいと思ってる。
その事はもう既に深雪さんやカノンに伝えたし、2人からも了承済みだ。
正直、俺としては愛人とかそんな中途半端な責任の取り方をするくらいなら、ちゃんと嫁にして毎日溺愛したいんだよね。カノンは既に知ってるけど、俺、イチャイチャするの好きだし。
「そういえば、君はお見合いする気はあるのか?」
「お見合い……ですか」
「ああ、秘書官の立場からすると、我が国としては君にはこの国の有力華族と結婚して欲しいと思ってる」
華族か……確かにお見合いリストをチラ見した時、華族と書かれていた書類があった。
たまたまその人がGをお持ちだったからよく覚えている。
「でも個人的には……そうだな。同じ男性としては、そんな事は気にせずに、君が好きになった人と結婚するべきだと思うし、お見合いだって無理に受ける必要はないと思ってる。だから、断りたいけど、断りづらい人からお見合いの話が来たら私に相談するか、お母さんか深雪さんを通じて天草しきみさんに相談しなさい。私たちが間に入れば断れない華族はいないだろう」
ありがたい話だけど、それをすると理人さんが苦労する気がする。なんとなくだけどそんな感じがした。
「それか……もしくは、華族の女性を妻に迎え入れるか。私の放蕩バカ妹を貰ってくれるか、でもそれだと角が立ちそうだから、そうだな……先ほどなぜかメイド服を着ていて驚いたが、君の知り合いというか、カノンさん繋がりで雪白家の雪白えみり嬢と結婚するのは自然の流れだろう」
「え? えみりさんって華族だったんですか?」
理人さんの説明によると、華族の中でもトップに君臨する6家、そのうちの1つがえみりさんの雪白家らしい。
すげぇ……深窓の御令嬢っぽいとは思ってたけど、本当にお嬢様だったんだ。
そりゃそうだよな。女性の美しさを比べるのはどうかと思うが、純粋な美しさで言えばカノンとえみりさんは俺の中でも不動のツートップだ。美人が多いこの世界でも明らかにラインを超えてる。
2人の違いがあるとしたらより美少女なのがカノン、より美女なのがえみりさん。健康的な美しさも兼ね備えているのがカノンだとしたら、えみりさんは儚そうで守ってあげたくなるような、男が放っておけない美しさを兼ね備えている。
だからこそ俺は彼女が華族と聞いて直ぐに納得できた。下品さの下のカケラもないもんなぁ。うちのメイドにも見習ってほしいよ。
でも逆に考えるとペゴニアさんでもよかったかも。えみりさんが俺のメイドなら、色々と我慢できるか不安になる。アイドルが間違ってなんかしてしまったら、それこそ最低のクソ野郎だ。
それくらい彼女の体とメイド服の相性はいい。あの目隠しシスターさんのシスター服とレート帯は同じと言っても過言ではないだろう。その2つは、俺の理性なんて簡単に破壊してくる。
「もしくは……この国の誰も手出しができない人と添い遂げるか……」
「誰も手出しができない人?」
「あぁ、君の文化祭にも来ていただろう。皇家のくくり様だ。少なくともあの黒蝶だってお嬢には絶対に喧嘩を売らない。それくらい彼女は愛されてるし、姫が怒ったら誰よりも恐ろしい事を私達6家の誰しもが知っているからな」
ほえ〜、くくりちゃんも確かにお嬢様っぽいもんな。
うちのらぴすより一個上だけど、明らかに落ち着き具合が大人と一緒だもん。
それこそ俺の周りで普段ちゃんとして見える大人の代表である阿古さんや桐花さんと比べても、くくりちゃんはより落ち着いてる感じがある。
それこそ阿古さんだって昔みたいにたまにドジ踏んで可愛いなとか、桐花さんだって急に天然ぽい事して可愛いなって思う時があるけど、くくりちゃんはその2人よりも更にやらかしそうな雰囲気がない。
ちなみに母さんと小雛先輩は論外だ。え? 大人って何ですかって逆にこっちが聞きたくなる。
「とは言え、これも君に強制するわけではない。かと言って、知識として受け取って置くのは悪い事ではないだろうと思う。自分の事を守るためにも、色々と知っておいて損はないからね。知識があれば、ある程度の事を想定した準備を整える事もできるし、もしも不測の事態が起こったとしてもより良い選択肢を選ぶ確率が上がるという事を知っておいて欲しい」
なるほどな……。
俺は前に小雛先輩に言われた言葉を思い出す。
『阿古から聞いたけど記憶喪失なんだっけ? だったら、誰かにその事についてなんか言われた時、咄嗟に誤魔化せる練習をしておきなさい。そいつがどういう思惑でそう言ったのか、そいつの意図がわかんないうちは、下手に喋んない方がいいわよ』
何気なく2人で飯食ってる時に、小雛先輩にそう言われた事がある。
『良い? 何か不測の事態が起こったら、まずは自分を守る事を1番に考えなさい。誤魔化して、引き伸ばして、とにかく何をしてもその場から逃げ出すの。自分じゃ手に負えないって思ったら、お母さんか、阿古か、私か……とにかく大人に相談すること。女の人に言いづらい内容だったら、周りの男の子達に相談するといいわ。本当にやばいなと思った事は、絶対に自分1人でどうにかしようとか、勝手に判断したりしない事ね。わかった? とにかく、あんたは——』
今思い出してもこの時の小雛先輩の圧はすごかった。
そのあと、すぐにいつもの小雛先輩に戻ったから今まで忘れてたけど……。
「わかりました。色々とそのありがとうございます」
「気にしなくていい。これも私の仕事の一つだ。それに、しきみ……いや、国家機密局の長官からも君とは一度話をしておいて欲しいと頼まれていたからな」
ほーん、なるほどね。このポンコツなあくあさんでも、なんとなくピーンときましたよ。
国家機密局の長官こと天草しきみさん、母さんからお見合い話の説明を受ける時に聞いた名前の人だ。
なるほどね。お二人はそういう仲だったりするんですか?
俺は小雛先輩のようにニマニマとした顔で理人さんを見つめる。
「ど、どうかしたのか?」
「あ……いや、理人さんて結婚してるのかなーって」
俺がそう聞くと、理人さんは少しだけ顔が曇った。
「あぁ、私も華族だからな。形だけだが妻は4人いるよ」
おぉ、まじか!! って、あれ? それだと天草と玖珂じゃ苗字が違うような……。
「ふっ、君が何を考えてるのかわかるよ。だから言ったんだ。君とは好きな人と結婚して欲しいってね。私としきみは奇しくもそれぞれの家の当主候補筆頭だったし、当時はどこの家もゴタゴタしてて他にも色々あったからな。お互いの道が混ざり合う未来はどうあったってなかったんだ。それこそあのバカな妹が珍しく気を遣って、私が当主になるとか言ってた事を思い出したよ。まぁ、私がそこで首を縦に振らなかったから、レイラは家を出ていったんだろうけど……」
理人さんは過去に想いを馳せるように遠くを見つめる。
俺はそれを見て心がキュッと締め付けられて苦しくなった。
もし俺がカノンと添い遂げられていなかったら、どうなっていたのだろう。
それを想像しただけでこんなに苦しい気持ちになるんだから、理人さんの苦しみは、きっとそんなものじゃない。
どうしてあげる事もできないし、そんな彼になんて声をかけて良いのかわからない自分に無力感を感じて腹が立った。
「すみません、俺……」
くそ……普段は誰かを笑顔にしたいなんて言ってて、このざまかよ。
謝るだけでその後に続く言葉が、理人さんにかける言葉が見当たらなかった。
そんな俺の顔を見てか、逆に理人さんに気を遣わせてしまう。
「まぁ、それはもう終わった事だし、私たちもお互いに大人だから自分の中で決着はつけているつもりだ。だから君が気にする事じゃない。それよりも……君はレイラの事をどう思う? 27歳になってもまだ家出してるんだぞ。頼む、あいつはバカだけど、そこそこ綺麗だから少しでも良いなと思ったら貰ってやってくれ!!」
「え……あ……いや、確かにレイラさんは綺麗な人ですけど……」
「本当か? 考えるだけで良いんだ……。アレでも一応妹だしな。それと、頼む、あいつ全然帰ってこないからしきみも凄く心配しているんだ。だからもし今度会う機会があったら俺の事はどうでも良いから、お前の大好きなしきみお姉ちゃんの所だけは顔を出せって言っておいてくれ」
ほんの一瞬だけ、理人さんの本当の顔が見えた気がした。
どうにかしてあげたいなんて想うのは、本当に烏滸がましい事だと思う。
でも、さっき、しきみお姉ちゃんと言った時の理人さんの顔を見て、ただ見過ごすことができるほど俺は大人でもなかった。
『とにかく、あんたは、もっとちゃんと周りの大人を頼る事ね。それこそ今は子供なんだから、少しは甘えたって良いんじゃない? もっと我儘だって言って良いし、阿古なんてもっと振り回せば良いのよ。それなのにいつも大人ぶって、ちょっとはこの大人のお姉さんに可愛げってものを見せなさいよね』
くっそ、普段は小学生みたいな事してくるし、ウザ絡みだってしてくるのに、あの人はいつだってそうだ。
みんなが俺の背中を押してくれる。支えてもくれた。守ってくれている。でもその中で小雛先輩だけは少し違っていた。
いつだってあの人は俺の前に居る。そして、振り返ってちゃんと俺がついてきているのか確認するようにこちらを見るんだ。
あぁ、おかしいな……。
相手はあの小雛先輩なのに、お母さんに手を引かれて歩くってこんな感じなのかって少し思ってしまった。
「おっと、少し話し込んでしまったかな。皆さんをお待たせしているのは悪いし、何より君を独占していたら怒られそうだからね。そろそろリビングに戻ろうか」
「はい」
俺が理人さんにしてあげられる事なんて何もないのかもしれない。
だから俺は、小雛先輩の言うように少し大人達に迷惑をかけようかと思う。
深雪さんや母さんから話を聞いて、もしかしたらえみりさんやくくりちゃんからも話が聞けるかもしれない。
それに何よりレイラさんとは今度一緒に仕事する予定だ。
少しでも理人さんに何かができる可能性があるなら俺は諦めない。
あんな今も苦しんでいるような笑顔を見せた人を放っておけるわけがないだろ。
俺が前世で憧れたあの人だってそうだった。
アイドルを舐めんなよ!
死の間際、俺が憧れたあの人が最後にノートに書いた言葉を思い出す。
誰も見た事のない景色に連れて行く。そう阿古さんと約束した。
とあに、慎太郎に、天我先輩についてこいって言ったのは誰か忘れてないよな。
やる前から諦めるような奴がアイドルなんてやるかよ。
全ての人に笑顔を届ける。それが俺とあの人が目指した最高のアイドルなのだから。
本気の白銀あくあ……行きます!!
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