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白銀あくあ、毎日ご飯。

 都内某所の撮影スタジオ、その控室に俺は居た。

 国営放送のご長寿番組、毎日ご飯の65周年記念放送回のスペシャルゲストとして出演するからである。


「今日は生放送ですが、大丈夫ですか?」

「あ、はい……問題ないと思います」


 今日の撮影に同行してくれているのは桐花さんだ。

 うーん、結局この前の告白はなんだったのだろうか?

 今の所、普段の桐花さんと全く一緒だ。

 いや、仕事中だし、桐花さんの性格を考えたら当然の事か。

 何となくだけど桐花さんは、オンとオフ、仕事とプライベートは分けてそうな気がする。


「姐さん、お久しぶりです!」


 今日の司会進行をしてくれるのは例の如く森川さんだ。

 俺達のところにやってきた森川さんは、開いた両膝の上に手を置いて頭を下げる。

 Vシネやそういう系のゲームに出てくる末端の構成員が、親分に頭を下げている姿と全く同じだ。

 それ桐花さんに怒られません?


「痛っ、何するんですか姐さん」


 桐花さんは森川さんの頭の上に軽くトンと手刀を落とす。ほら、やっぱりね。

 全然力が入ってないけど、森川さんは痛がるように頭を撫でる。


「全くもう、ふざけた事ばかりして、今日はよろしくね楓さん」

「はい! 泥舟に乗ったつもりで任せておいてください!」

「だから森川さん、それじゃあ沈んじゃうって」


 なんか前にもこんなやり取りがどこかであった気がするぞ。気のせいか?


「あくあ君も今日はよろしくねー!」

「こちらこそ、今日は森川さんなんでリラックスしてできそうです」


 俺は森川さんと軽く握手する。


「それじゃあそろそろ時間らしいから、スタンバイしよっか」

「りょーかいです」


 俺たちは所定の位置に立つと、軽く談笑しながらその時間を待つ。

 暫くすると目の前のスタッフさんがカウントダウンを始めたので、お互いに会話をやめて集中する。

 目の前のランプが点灯し、いよいよ放送が始まった。


「みなさん、こんばんは。本日の毎日ご飯のお時間です」


 隣にいた森川さんはカメラに向かって丁寧にお辞儀する。

 さっきまでふざけあってたのに、ちゃんと切り替えられるなんてすごいなぁと感心した。


「今回はこの番組が始まってから丁度65周年という事もあり、素敵なスペシャルゲストの方と共に視聴者の皆様に特別な回をお届けできればと思います」


 スタッフの人達と一緒になって俺も拍手する。

 65周年という事は、ほぼほぼメアリーお婆ちゃんと同じか。

 ちなみにお婆ちゃんは今年66歳になるそうだ。


「それでは本日のスペシャルゲストを紹介したいと思います。今をときめくアイドル、白銀あくあさんです!」

「テレビの前のみなさんこんばんは、白銀あくあです。今日はみんなで楽しく料理しましょうね!」


 俺もカメラに向かって丁寧にお辞儀をした。

 毎日ご飯は通常時お昼に放送して、夜は再放送を流している。

 しかし今回は特別記念放送という事もあって、夜に再放送ではなくスペシャル版が放送されるのだ。

 そんな特別な回に出演できるなんて普通に嬉しい。しかもこの番組、俺は前世でも見てたから今日はちょっと緊張している。本来はプロの料理人が出てきて料理する番組なのに、本当に素人の俺でいいのかな?


「それでは今日のテーマです。今日のテーマはお菓子作り、って、あれ? それだけ?」


 森川さんはクエッションマークを頭の上に浮かべて首を傾ける。

 確かに、普通ならマフィンを作るとかパウンドケーキを作るとか、もっと具体的なものが提示されてもいいはずだ。

 それなのにお菓子作りだけしか指定されてないとは、だいぶフワッとしてる。


「これって好きなお菓子を作れって事かな?」

「どうやらそうみたいですね」


 目の前のカンペにもそう書いてある。


「どうします?」

「どうしましょう?」


 俺と森川さんは顔を見合わせると、お互いに首を傾けた。


「森川さんは、何か食べたいものがありますか?」

「え? そりゃ、あくあ君が作るものならなんでも嬉しいです。えへへ……」


 なんとなくだけど森川さんて好き嫌いなさそうだなって思う。

 喫茶店に来た時も、いつも料理を美味しそうに食べてるし、なんとなくご飯を作ってあげたくなるタイプの人だ。


「うんと……そうですね。いっぱい色々と材料を用意してくれてるみたいだし、1時間スペシャルって事なら、お菓子の家でも作っちゃいますか?」

「あ、いいですね! お菓子の家! くぅ〜っ、子供の頃からの夢でした!」


 目の前のテーブルを見るとたくさんのお菓子の材料が置いてある。

 もちろん材料を提供してくれたのは森長さんだ。

 これだけ色々あるなら、せっかくだし色んなお菓子を作りたいよね。


「それじゃあ最初はクッキーかな。森川さん手伝ってくれる?」

「……これ完全に新婚さんじゃん」

「ん? 何か言いましたか?」

「あ、いえ、なんでもありません。はい! 一緒に頑張りましょう!!」


 俺は予め解凍されている冷凍クッキー生地の袋を開けて中身を取り出す。

 これ、本当に便利なんだよな。家でもサンライトのクッキー作れるし。

 俺は麺棒を使って薄く伸ばすと、お菓子の家で使う壁のサイズを想定して包丁でカットしていく。

 そして余った生地を再び捏ねると、また麺棒で薄く引き伸ばす。


「それじゃあ、この型を使っていろんなクッキーを作りましょうか。はい、森川さん」

「わわ、ちゃんとできるかな?」

「大丈夫ですよ。失敗しても捏ねたら何度もやり直せますから」


 森川さんは最初ミスりかけたけど順調に型を使ってクッキー生地をくり抜いていく。


「うん、上手ですよ」

「本当ですか? えへへ」


 まぁ、クッキーを型で抜くだけなんて失敗しようがないんだけど、そんな事は気にしない。


「で、できました。先生」

「はい、よく頑張りましたね」

「えへへ……」


 森川さんは年上のお姉さんだけど、年下のような無邪気な可愛らしさがある人だ。

 もし俺に森川さんみたいな後輩がいたら、めちゃくちゃ可愛がってたと思う。

 だから森川さんが年上の先輩に好かれているのはなんとなくわかる気がする。


「それでは、クッキーを焼いてみましょうか」

「はーい!」


 クッキングシートを乗せた天板の上にカットしたクッキー生地を並べる。

 それを予め180度で予熱をとっていたオーブンの中にぶち込んで10分程度焼く。


「それではこの間に、チョコレートを作るための準備をしましょう」


 ボウルの中に森長さんの定番商品でもあるミルクチョコレートを細かく包丁で刻んでぶち込む。


「それじゃあ森川さん、ミルクのついでにダークとホワイトも作っちゃいましょう」

「が、頑張ります!」


 俺がダークチョコレートを刻んでる間に、森川さんはホワイトチョコレートを刻む。

 スタッフの人からは、森川さんはこういう仕事の時はミスしないから安心して欲しい、これがプライベートなら指切ってるけど仕事なら大丈夫と言われてたけど心配になる。

 案の定、森川さんの辿々しい手つきの包丁さばきにちょっとドキドキハラハラさせられたけど、なんとか怪我なく無事に終える事ができた。


「じゃあ、次に湯煎なんだけど、その前にクッキーの様子を見ましょうか」

「わわ、焼き色ついてる」


 うん、後もうちょっとかな?


「後少しですね。ちょっと待ちましょう」


 俺は改めて森川さんの方を見る。

 今日の森川さんは黒のパイピングが施されたアイボリーのエプロンを着ていた。

 パイピングの生地と同じ黒の大きなフロントリボンと首の後ろでも巻いた大きなリボンが可愛らしい。

 実はこのエプロン、カノンも色違いの水色を持っている。

 2人で色違いのお揃いエプロンを買ったのかと思ったら、すごく微笑ましい気持ちになった。


「ところで森川さん、今日のエプロンとっても可愛いですね」

「ふぇっ!? あ……そっか、これ、カノンさんと同じ奴だからか。えへへ、実は4人でお揃いの色違いを買ったんですよ」


 4人!? そ……それって、桐花さんもこの可愛いエプロンを着てるって事ですか!?

 嘘でしょ。桐花さんみたいなキリッとしたかっこいい大人の女性が、プライベートでこんな可愛いエプロン着てるなんて……くっ、本番中なのにあまりの衝撃で足元がぐらつきそうになった。


「あ、そろそろ焼けたみたいですよー」


 チッ! その話をもっと根掘り葉掘り詳しくと聞こうとしたらクッキーが焼けてしまった。

 俺はオーブンの中から焼けたクッキーを取り出すと粗熱をとる。


「いい焼き色ですね。それではこれを冷ましている間に、テンパリングをしましょう。最初にお手本見せますよ。まずはホワイトからです」


 ホワイトチョコレートを湯煎で温めて溶かした後、氷水で一旦冷やして、再度湯煎してチョコレートをより滑らかな口当たりにする。チョコレートを作るにあたって、1番難しいのがこの過程だ。

 ちゃんと温度を測ってできる限り正確に作業を行う。


「はい、それじゃあこれを絞り袋に詰めて……っと、はい、それじゃあクッキーの壁をくっつけましょうか」


 まずはお手本を見せるように、壁の2枚をチョコレートを使ってくっつける。


「森川さんもやってみますか?」

「わわ、できるかな? 頑張ります」


 森川さんは同じように壁をチョコでくっつけて囲いを作る。

 少しはみ出てるけど、初めて作るにしては上手だし、多少の不出来な所がある方が手作り感があって可愛いなと思う。


「はい、よくできましたね」

「えへへ」

「それじゃあ、この壁を立てさせてその上に屋根をおきましょうか」

「はーい」


 俺はウェハースを取り出すと、それらを溶かしたチョコでくっ付けて壁の上に置く。はい、これで基本的なお家の形が完成だ。


「ついでだから少し装飾しましょうか。森川さんは、この板チョコを扉の代わりに貼ってください」

「わわわ、ミスしたらどうしよう」

「大丈夫ですよ。失敗してもそれはそれでいいじゃないですか。それもまた料理です」

「わかりました先生、頑張ります!」


 俺は絞り袋をうまく使って、屋根の上に波線を書いていく。

 たったこれだけの事で、ウェハースの屋根もそれっぽく見える。


「あくあ君って……料理だと変な事にならないんだ……絵は壊滅的なのに……」

「え? 何か言いましたか?」

「う、ううん、なんでもないの。あ、そ、そんな事よりも先生、完成しました!」


 うん、やっぱり扉がついたらよりそれっぽくなった。


「いいですね。それじゃあ、この残りのチョコレートを使って型取りしたクッキーに装飾を施しましょうか。こっちはその間にダークチョコレートとミルクチョコレートのテンパリングをしますね」

「上手にできるかな? あっ、ちょっとハミ……ぐぎゃあ! 大丈夫、まだリカバリーできる……はず」


 大丈夫かな? まぁ、装飾は多少変になっても問題ないし大丈夫だろう。

 俺は自分のやるべき事に集中する。


「さっきと同じように、チョコレートをテンパリングしていくんですけど、この時、チョコレートの種類によって温度が変わってくるので注意してください」


 先ほど同じようにちゃんと温度を測って、チョコレートを滑らかにする。


「それじゃあ、このサンライトのソフトケーキや、ロングポテト、マシュマロやカットしたオレンジなどをチョコレートでコーティングしましょうか」


 ボウルの中にお菓子を漬け込んで溶かしたミルクチョコレートをコーティングさせていく。

 それらを冷まして固めている間に、ダークチョコレートの方もテンパリングさせる。

 溶かしたダークチョコレートを適温まで冷やすと、予め準備していたカットされたセロファンシートの上にパレットナイフで塗っていく。


「な、何やってるの?」


 どうやら装飾を終えた森川さんがこちらの様子を伺いにきたようだ。


「秘密」

「えー、なんかとんでもない事やろうとしてない?」

「気のせいですよ」

「本当かなー?」


 俺は少しだけ固まったのを見計らって、セロファンシートをつけたままくるりとチョコレートを巻いて輪っかができるように両端をくっつける。それをいくつか作って、冷蔵庫の中に放り込む。これはこれでよしと。

 いくつかのシートは、次の行程に使用するために、両端をくっつけずにそのままにしておく。


「さて、それじゃあその間に、こっちを貼っていきましょうか」


 俺はシートをお菓子の家を包むリボンのように十字に貼る。扉に重ならないように斜めにしてっと……うん、これでいいかな。こちらも固まるまではこのまま放置だ。

 この間に森川さんが作った装飾はどうなってるのか確認しようか。


「上手にできてますね。初めてなのにすごいですよ!」

「えへへ、ありがとうございます」


 俺がさっきチョコレートをコーティングさせたお菓子や、森川さんがチョコレートで装飾してくれたクッキーを2人で飾り付けていく。


「これこっちの方が良くない?」

「あ、確かに。それならこれはこうとか」

「うん、いいね。じゃあこれもつけちゃおっと」

「えっと、それならこれはこうかな?」


 途中残ったミルクチョコレートやダークチョコレートも再度テンパリングして、絞り袋に入れて2人で一緒にコーティングする。これでお菓子の家は大方完成だ。

 俺は一旦屋根を外すと、その中に市販のお菓子を詰めていく。

 こういう時、キャンディーなどを上手に散りばめるとより見栄えが良くなる。


「ねね、家の中にお菓子詰めるのって意味あるの?」

「ふふふ、これは後のとっておきだから内緒です」

「えー! 気になるー!」

「ははっ、後少しですぐにわかりますって」


 最後の仕上げに冷蔵庫で冷やして固めていたチョコレートの輪っかを取り出す。

 その輪っかからセロファンシートを剥がすと、同じようにお菓子の家の屋根に取り付けたチョコレートからセロファンシートを剥がしていく。


「それじゃあこの輪っかを屋根の上につけましょう」


 輪っかの先端にチョコレートをつけて、1枚ずつ丁寧にくっつけていく。


「わわ、これってリボンなんだ。お家がプレゼントボックスみたいで可愛い!! あっ! だからお家の中にお菓子入れてたんだ!」

「はい、そうです」

「わー、これ絶対、子供喜ぶじゃん!」


 ふぅ……流石に最後の仕上げは少し緊張した。

 よし! これで完成かな?


「はい、それじゃあこれで完成ですね」

「やったー!!」


 2人で拍手して完成を喜ぶ。


「あくあ君、作ってみてどうでしたか?」

「うーん、そうですね。個人的にはうまく作れたと思うんですけど、改めてやっぱりプロの人ってすごいなって思いました。すごく手間暇がかかってるし、テンパリングやセロファンを使った作業なんかは物凄く神経を使うので、今回はうまく行ったけど失敗してもおかしくなかったと思います」


 実際に料理を作った事のある人ならわかるけど、例えばすごくシンプルな卵焼きだってものすごく奥が深い。

 味のバランス、食感、焼き加減などを計算して、毎回同じクオリティのものを作り続ける事にはものすごく高い技術力がいる。家庭料理のように、今日はちょっとしょっぱい、今日はちょっと甘いなんてのは許されない。

 それこそ今回のチョコレートを使った作業なんて作業する室温や湿度も関係してくるから、そこの管理からしてもう手間暇がかかっているのだ。


「これだってサンドケーキとかクッキー生地とかは市販のものを使ってるんですけど、そこもすごく助かりました。人によってはそこも最初から作る人がいるんでしょうけど、あるものは使っていく形でいいと思います。そういうのは全然手抜きじゃ無いですからね。むしろこれだけのクオリティの商品が、スーパーやコンビニといった場所で買えるなんて凄い事ですよ。スターズでもお菓子を幾つか食べさせて貰いましたし、どれも美味しかったですけど、改めてこの国のお菓子産業は本当に世界に誇っていいレベルだと思いました。本当にクオリティが高いです」


 はっきりいって、仕事でも無いのに毎日毎日料理を作るのはよっぽど好きじゃない限りはとても疲れる。

 そう考えると、お菓子に限らずこの国の食品産業は本当に優れているなと思う。

 だって冷凍食品もインスタント食品も普通に美味しいもん。

 しかもどれもかなりの頻度で食べても飽きないようにちゃんと考えられて作られてる。

 それって本当に凄い事だ。


「森川さんはどうでした?」

「えっと、私もやってみてすごく大変だなって思いました。私がお手伝いしたところなんてほんの少しだけですが、失敗しないように失敗しないようにって考えながら作ってたから……ほら、みてください。手に汗かいちゃいました」

「なるほど、でもそれだけ頑張ったから、ほら、みてください。素敵なお家が完成しましたね」

「ですねー。なんかすごく嬉しいです」


 俺は料理するのが好きだけど、その好きな理由の1つが達成感だ。

 他にも頭をリセットしたり、考えをまとめたりする時に料理をしたり家事をしたりするといい切り替えになる。


「それじゃあ、せっかくですし食べますか」

「えー……なんか勿体無いような……」

「ははっ、わかります。でもね森川さん、料理は食べるまでが料理なんですよ。せっかく2人で頑張って作ったのに、この子だって食べてあげないとかわいそうでしょ」

「2人で作った……この子……」


 ん? 森川さん、顔赤いけど大丈夫?

 俺は心配して森川さんの顔を覗き込む。


「どうかしましたか?」

「あ、いえ……はい! 食べましょう!!」


 急に元気になった森川さんは、自分で装飾したクッキーを手に取る。


「それじゃあ、せっかくだし俺も森川さんが装飾してくれたクッキーを食べようかな」


 俺も森川さんと同じように、ホワイトチョコで装飾されたクッキーを手に取る。


「いただきます」

「いただきまーす!」


 うん、美味しい。

 俺はメリービスケットの方が好きだけど、サンライトクッキーも普通に美味しいな。


「美味しいです!」

「うん、森川さんの装飾のおかげで手作り感が増して、より素朴な感じが引き出されて美味しく感じられますね」


 森川さんはよっぽど美味しかったのか、続け様にクッキーをもう1枚パクリと頂く。

 おいしそうにクッキーを食べてる森川さんを見て、ほっこりとした気持ちになる。

 これが番組収録じゃなかったら、頭を撫でていっぱいお食べって言いたくなるほどだ。


「他のお菓子も美味しいですね」

「はい! あっ! このリボンのチョコレート薄くて美味しい!!」


 2人でお菓子の感想を言いながらパクパクとお菓子を食べる。


「あ……そろそろもうお時間のようです」

「あー、もうそんな時間ですか」


 時間が経つのは早いものだ。

 特にそれが楽しい時間ともなると余計に速く感じる。


「それじゃあ、白銀あくあさん、最後に視聴者の皆さんに対して何かメッセージをいただけますか?」

「はい。えーと……番組をご覧の皆さん、今日はご視聴ありがとうございました。お菓子の家、作るのは大変だけど、誰か友達と一緒に作ってみてもとても楽しいんじゃないかなと思います。みなさんも自分だけのお菓子のお家、作ってみてくださいね! それじゃあ、またお会いしましょう……って、すみません。俺次回は出ないんでした」

「いや、もう今日から毎日出てください。後で上司に皆さんからもらった受信料を有効活用するように進言しておきます。国民あっての国営放送ですから」


 あれ?

 さっきまでと違って、珍しく森川さんがキリッとした顔をしている。


「はは、流石に毎日は無理かも。それに俺、土居先生のファンなんで、先生が見れなくなるのは寂しいですよ」

「それ、後で絶対に先生に伝えておきます。先生ともコラボしましょう」

「じゃあ先生と一緒に2人で塩おにぎり作りましょうか?」


 森川さんの表情が険しくなる。

 いつもの森川さんからは想像ができないほどの神妙な面持ちに驚かされた。


「死人出ますよ? スタジオを殺人現場にしたいんですか?」

「えぇっ? おにぎりで死人出るんですか?」

「出ます! って、あぁ! もう終わらないといけないんだった。わわ、テレビの前の皆様、今日の毎日ご飯はどうでしたか? 皆様に愛されて65年間、この番組は続いてきました。そしてこれからも変わらずご愛顧よろしくお願いします! えっと、えっと、最後に、今日のゲストの白銀あくあさんでした!! それでは皆さん、また明日お会いしましょう! って、あ……私も明日出ないんだっ……」


 そこで放送は終わってしまった。


「ははっ、森川さん、それ反則ですって、最後途切れちゃってるじゃないですか」

「もー! あくあ君が変な事言うからー!」

「えぇっ!? 俺のせいですか?」

「うん。だってほら、みんなも頷いてるじゃん」


 あ……本当だ。みんな苦笑しながら頷いてる。

 俺なんか変な事言ったかな?


「私だってあくあ君の塩おにぎり食べたいし、姐さんも塩おにぎり食べたいですよね?」

「ええ、そうね」

「うーん、それじゃあ2人とも今度、家に来ます? 俺、作りますよ」

「やったー!」

「ありがとうあくあさん」


 飛び跳ねて喜ぶ森川さんが、いつも通りの桐花さんとハイタッチする。

 そういうわけでみんなでお家ご飯する事が決まってしまった。

 大丈夫だと思うけど、カノンとペゴニアさんに連絡しとこう。

 せっかくだし、えみりさんも誘うように言っておくか。ご飯食べてるかどうか心配になるし……。

 もういっそ、えみりさんは定期的に我が家に来て欲しい。

 今回はちょっと前に撮影したMVのお金があるから大丈夫だろうけど、なんか嫌な予感がするんだよなぁ。

 ま、流石に使い切ってるなんて事は無いだろうし、まさか草なんて食ってないと思いたい。

 そんな俺の考えは甘かったと、俺は数日後のえみりさんに思い知らされる事になる。

すみません。遅くなりましたけど、真決勝戦の方をfantia、fanboxにて掲載しております。

上のサイトはたまにキャラ絵あり、下のサイトはキャラ絵なしです。


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[一言] 森川ゴロリだこれって笑っちゃった
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