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復活の白銀あくあ

 動けない……。


 心はここにあるのに、まるで心と体が切り離されたかのように、自分の体がいう事を聞かなくなった。

 目の前に迫ったステージからは、俺たちを待ち望むファンの大歓声が聞こえてくる。


 頼む! ファンが待ってるんだ!!


 最高の仲間達と一緒に考えた最高のステージ。

 どんなことをやったらファンのみんなが楽しんでくれるんだろう?

 こういうのやったら面白いんじゃない?

 みんなで意見を出し合った。

 楽しみに、本当に楽しみにしていたハロウィンイベント。

 それなのに、どうして俺はこんな事になっているんだろう?


 気がついた時には、俺は椅子に座って項垂れていた。

 どこか遠くで阿古さんやスタッフ達が慌ただしく動く音が聞こえる。

 それとは別にステージの方からは歌声が聞こえてきた。


『たとえ君に何があったとしても、たとえ君が何かを抱えていたとしても、僕は全てを受け入れてみせる』


 この歌声はとあか……。

 今日のとあの歌声はすごく感情が乗っている気がする。

 良い意味でも悪い意味でも、ライブでうまく歌おうとする癖があるとあが、こんなにも感情を揺らしているのは初めてかもしれない。


『あの夜の告白、君の答えを覚えてるかな? この分厚い壁をぶち破って、この手を取ってよ!』


 あの日からとあは変わっていった。

 前を向くようになったし、自分からどんどんと新しい事にチャレンジして俺達を驚かせる。きっとそれが本来のとあの性格だったのだろう。明るくなっていくとあを見て、俺は沢山の元気を貰った。


『いつだって君の言葉は僕の中にあるから! こんなところで挫けるなよ。強くなくたっていいから、情けない君だっていいから、たとえ前に進むのが辛くなったって、いつだって僕が隣にいる』


 とあは強いな。

 もし、俺がとあと同じ経験をしていたら、とあと同じように前に進めただろうか?

 トラウマを乗り越えて立ち上がるという事はそれほどまでに難しい。

 だからこそトラウマを乗り越えたとあの歌声は力強かった。

 深く深く沈んでいく俺の心がとあに掴まれて、ゆっくりと浮上していく。


『どこまでもずっと……』


 永遠に続くと思っていた。

 でも命はいつの日か終わる。

 照明の光、観客席からの大歓声、大きなステージ、全てがあの時と重なった。

 フラッシュバックされた過去の記憶。

 あぁ、人はこんなにも呆気なく死ぬのかと思った。

 そうか、これは俺のトラウマなんだな。

 俺の中に残った前世の未練が呪いとなって、今の俺の体から自由を奪っていった。


「あくあ……この歌声が聴こえてるか? ステージの上で今、とあが頑張ってる」


 あぁ、わかってるよ慎太郎。

 とあの歌うbeautiful right? が聞こえる。

 本当に、本当に上手くなったな、とあ。


「僕も今からそこに行くよ」


 慎太郎……。


「だからそこで僕の姿を見ていてくれ」


 今日のこの日のために、慎太郎も沢山の努力をしてきた。

 新曲の一つに4人で歌う曲があるが、その曲にはダンスパートがある。

 慎太郎はダンスが苦手なのに、みんなで踊ってみたいからと夜遅くまでスタジオで練習している姿を何度も見た。

 俺だって慎太郎と一緒に踊りたい。とあと一緒に歌いたかった。

 それなのに体が少しも動かない。

 自分の事がどうしようもなく情けなくなった。


『これが正解かどうかなんてわからない。もしかしたら間違ってる事をしているのかもしれない。だからと言って諦める事なんてもうできない。みんなを笑顔にするって君が言ったあの日から』


 慎太郎の力強い声が聞こえる。

 下ばっか見てないで顔を上げろ! そう言われた気がした。


『僕の笑顔を君達に届けたい。この気持ちを伝えたいんだ。そのために僕は手を伸ばし続ける。どこにだっていける。だって君と僕は自由だろう? 一緒に行こう、同じ未来へと』


 未来……自由……そうだ。今世の俺には未来がある。

 前世で果たせなかった夢。それを叶えるために俺は努力してきたんだ。

 俺は心の中でもがく。無駄かもしれないけど、それでもどうにかしたいんだという想いの方が勝る。

 見苦しくてもいい。カッコ悪くてもいい。足掻く俺の心を今度は慎太郎の手が掴んだ。

 とあと慎太郎、2人に両手を掴まれて俺はさらに上へと浮上していく。


『みんな自由なんだ。どこにだって好きなところに飛んでいける。誰も見た事のない景色へと。目の前は何も見えないかもしれない。それでも僕達と一緒に歩いていこう。切り開いていく。世界すらも』


 2人に手を引っ張ってもらう日が来るなんて思ってもいなかった。

 微かに俺の指先が動く。離れていた心と体が徐々に近づいていった。


『どこにだっていける。だって僕達は自由だろう? もう迷う必要なんてない! まだ見た事ない景色にみんなを連れていく。ゆっくりでもいい。明日に向かって』


 そうだ。顔を上げろ白銀あくあ!

 俺も、お前達と同じ景色が見たい!!


「やっとこっちを見たわね。このおたんこなす!」 


 俺はびっくりして目を見開く。

 顔を上げた先に居たのは、まさかの小雛ゆかり先輩だった。


「ちょっとなんで私が見に来た日に限ってそうなるのよ! これじゃあ、私が疫病神みたいじゃない! はっ!? このままじゃ明日の新聞で、小雛ゆかりが見にきたせいでライブぶち壊しとかで記事が出て、ネットで大炎上するんじゃ……ちょっと、早く復活しなさい! 今すぐに!! 私のために!!」


 はは……先輩、普通こういう時は優しい言葉とかかけてくれるんじゃないですか?

 でも逆に、小雛先輩らしいなと思った。それに先輩はネットで大炎上してもほくそ笑むタイプじゃないですか。

 だから俺はわかってる。先輩はあえてそういうふうに言ってくれてるんだって。

 先輩……小雛ゆかりとしての、自分自身に成り切る演技はまだまだなんですね。お陰で安心しました。

 先輩だって完璧じゃないって知る事ができたから。


「大丈夫ですよ先輩、先輩はずっと炎上してますから、これ以上薪を焚べても火が大きくなるだけです」

「アヤナちゃん酷い!」


 小雛先輩の隣を見るとアヤナが立っていた。

 2人にはいいですともの流れから関係者席のチケットを渡してある。

 どっちが気がついてくれたのかはわからない。もしかしたら両方が気がついてくれたのかもしれない。

 どちらにせよ2人は俺の異変に気がついてここにきてくれたんだ。そう思うと嬉しくて微かに口元が動く。


「あくあ君!」


 元気いっぱいの声で誰だかすぐにわかった。


「大丈夫!? お、お腹痛いなら私がおトイレについてあげってても……」

「森川さん? 貴女は一体、何言ってるんですか?」


 なぜかデレデレとした森川さんを、隣に居た桐花さんが冷えた視線で睨みつける。


「ヒェッ! な、なんでもありません。じょ、冗談ですって姐さん。はは……」


 桐花さんは俺の方をジッと見つめると、柔らかな声で俺に喋りかけた。


「とあちゃんが、黛さんが、そして天我さんが、あくあさんのために今、ステージの上で頑張っています。それだけじゃない。スタッフのみなさんも、阿古さんも貴方の復活を願って頑張っている」


 桐花さんはゆっくりとしゃがむと俺の握りしめた拳の上に自らの手を重ねる。


「みんな、みんな、貴方に救われてきた。私だってその1人です。貴方に何かを返したくて私はベリルの求人に応募しました。それなのに、こんな時、あくあさんに何もしてあげられないなんて……私は、私は一体貴方に何を返せるというのでしょう」


 そんな事はない。という言葉が喉にひっかかって出なかった。


「裏でずっとあくあさんがどれだけ頑張ってるかをみてきて、だからこそ、だからこそなんです。あんなにもこのステージを楽しみにしてたじゃないですか! やりましょうよ! 私にできる事だったら何でもします。だから、だから、ステージの上で頑張るみんなのために、もう一度だけ立ち上がってみませんか? ステージの上はきっと楽しくて、観客席のみんなは誰よりもあくあさんの事を温かく迎えてくれるはずだから」


 いつもは鋭い目つきの桐花さんの目尻が下がる。

 今にも泣きそうな桐花さんの表情に俺の心が揺れた。

 桐花さんも、ファンのみんなも、悲しませたくなんてない。

 アイドルがファンにそんな顔させていいのかよ!


「ねぇ、あくあ君。私もね、この仕事が大好きなんだ。最初は間違って入社した会社だけど、こんなドジな私にも優しいし、アナウンサーとして誰かに何かを伝えるってこの仕事を誇りに思ってる。だからね。失敗しても、やらかしても、私は絶対に次の現場に行くんだ。それが私のちっちゃなプライドで誇りでもあるの。まぁ、たまに遅刻しちゃいそうになって上司にめちゃくちゃ怒られる事もあるけどね……」

「「「それは貴女が悪い」」」


 はは、何故か桐花さんだけじゃなくて、側にいた小雛先輩やアヤナまで頷いてた。

 やっぱり森川さんといると、なんかこうすごく気持ちが元気になる。

 人によっては騒がしいという人もいるのかもしれないけど、その騒がしさは俺にとって心地がよかった。

 いや、それにしてもなんかもっと別の音で騒がしいような……。


「止まれ! そこのバイク!!」

「ちょっと、誰か止めて! 不法侵入よ!!」


 不法侵入という言葉に俺の周りにいたみんなが強張った表情をする。

 けたたましいバイクのブレーキ音、俺の視線が自然とそちらへと吸い寄せられていく。

 サイドカー付きのバイク、そのシートに跨っていたのはチャイナ服を着た美しい女性だった。


「白銀あくあ様ですね」


 俺はその女性にも、彼女が連れてきた2人の女性にも見覚えがあった。


「ラーメン竹子の今日限り、ハロウィン限定の特別デリバリーサービスです。ご注文の嫁ラーメンいっちょ、お届けにあがりました!!」

「えみりさん!?」

「な、なんでここに、捗……えみりが!?」


 えみりさんの登場にみんながびっくりする。


「へへっ、私のセンサーがこうピーンとね。何か異常を感じ取った訳ですよ。ほら、この私のアホ毛、今日はちゃんとピーンって立ってるでしょ。ちなみにこのえみりセンサー、迷子になった時も便利なんだぜ。あと、なんか知らんけど信号は全部青だったし、青山通りをバイクでかっ飛ばしてきた!」


 な、なんだってー!?

 そのアホ毛に、そんな意味あったんですか?


「マジかよ……お前なんかすごいわ色々と」

「そうだろそうだろ、森川はもっと私の事を褒めてくれたっていいんだぞ!」

「えみりさん、貴女は本当にもう……!」

「へへ、どうです姐さん。これで私も賑やかし要員じゃないって事、ちゃんとわかったでしょ」


 えみりさんはバイクから降りると、桐花さんや森川さんと何やら言葉を交わす。

 俺の視線は、自然とえみりさんが後ろに乗せてきたカノンの方へと向けられる。


「あくあ……」


 今日のカノンは家族席ではなく家で見ると言っていた。

 カノン曰く、ネットのお友達に俺のファンが何人かいるらしい。

 スターズに強制帰国させられた時、その人たちに何も言えずに出てきて心配かけてしまったから、今日はライブに行けなかったみんなと一緒にネットでお喋りしながら楽しみたいと言っていた。

 それなのに俺は……。ごめんな、カノン。


「おうち、帰ろっか?」

「え……?」


 意外な一言に思わず声が出た。

 カノンのこの一言には、その場にいた全員が目を見開いて固まる。


「あくあに何があったのかは聞かない。でもね、私達に色々あるように、あくあにだっていろいろあるよね」


 カノンは桐花さんがしてくれたみたいに、俺の握り拳に左手を置くと、俺の頭を右手で優しく撫でてくれた。


「だから、辛くなったら辞めたっていいんだよ」

「カノン……」

「私はね。あくあがどんな選択をしたとしても受け入れるつもりだから。あくあと結婚したその日から、私はあくあにとって心が安らげる場所になりたいってそう思ったの。だからね。辛い想いをしたり、苦しい想いをしたりするくらいなら一緒にお家に帰ろ? 後は私がどうにかするから、全部、全部、忘れて、お家でゆっくりしよ?」


 俺の頭を撫で終えたカノンは、その優しい両手で俺の固く握りしめた拳を柔らかくして解いていく。


「ふふっ。でもね。あくあはそうじゃないよね。アイドル白銀あくあはいつだって皆の声に応えてくれる。私はあくあの奥さんになるまでそれが凄く嬉しかった。でも、あくあの奥さんになって、裏で貴方が血の滲むような努力をしている事を知ったらすごく心配になるの。だからさっきのは、只の白銀あくあの妻としての気持ち。でもね、アイドル白銀あくあのファンとしては、あんなにも努力していた貴方にもう一度立ち上がって欲しい。だって、あくあ、今すごく悔しそうな顔してるもん」


 近くにあったアクリル板に、微かに俺の顔が反射する。

 俺の表情を見ると、歯を食いしばっていた。

 抗おうとしてる。また立ちあがろうとしていた。

 心だけじゃない。俺の体もまた現状を打破しようと踏ん張っていた。


「ねぇ、あくあ。観客席の声が聞こえる?」


 ステージの方へと耳を傾ける。


『だってこの真っ暗な世界で、君は誰よりも輝き続けているのだから』


 天我先輩の声が聞こえる。


『君は光だから、月のない夜空に一際輝く道標だから。君とならどこまでだっていける気がする』


 カノンは俺の手を離すと、立ち上がって空を見上げた。

 それに釣られて周りのみんなも空へと視線を向ける。

 一体何が起こっているというのだろう?

 ただ一つわかるのは、天我先輩から空を見上げろと言われた気がした。

 俺はゆっくりと顔を上げる。


『夜空が暗くなるほど君はますます輝いていく。そんな君の周りでみんなが輝きを増していくんだ』


 満天の星空、降り注ぐ星の瞬きに目が奪われる。

 先輩は……すごいな。

 天を我のものにするなんて冗談かと思ってたが、あの人は本当に天すらコントロールしてみせた。

 こんな渋谷のスクランブルのど真ん中で、こんなにも綺麗な夜空が見れるなんて、一体誰が想像できた事だろう。


『弱って翳る時もあれば、雲に遮られる日があってもいい。そんな日があっても誰も君を責めたりなんてしない』


 震えた足に力が入る。


『だってこの真っ暗な世界で、君は1人輝き続けていたのだから』


 立ち上がりたいと思った。


『君と出会えた奇跡に感謝する』


 慎太郎の繊細なピアノサウンドに強張っていた体が自然と緩んだ。

 握った拳を開いたり閉じたりして俺は感触を確かめていく。


『君と出会えたこの運命にありがとう』


 とあの力強いドラムの音が、俺の心臓を何度も強く叩いた。

 遠く離れていた心がゆっくりと体の方へと近づいていっている。


『君は光だから、月のない夜空に一際輝く道標だから。あぁ、なんて素晴らしい景色だろう』


 とあと慎太郎に引き上げられていた俺の心を、天我先輩が後ろから押してくれた。

 水面まで後少し! 伸ばした俺の手がカノンの手首を掴む。


『君が照らした世界はこんなにも輝いている。君が照らした光でみんなが世界の美しさを知る』


 ステージに立ちたい!

 カノンに視線を向けると、その後ろ、モジャさんの前に置かれたモニターに映しだされた観客席の映像が目に入った。白色、紫色、緑色、赤色、水色、黄色……あぁ、こんなにも素敵で美しい夜空があるだろうか。

 みんなが振ってくれたペンライトに心が震えた。

 隣に映っているモニターには、同時視聴者数が書かれたテレビ配信の画面や、配信サイトを通じて画面上のチャット欄にコメントが流れている。

 多くの人がこのステージを楽しみにしているんだ。俺だけじゃない!


「おかえり、あくあ」


 カノンの頬を涙を伝う。

 俺は立ち上がるとカノンの事を抱きしめた。


「ただいま、カノン。ごめん、心配かけた」


 意識はもう完全にはっきりとしている。


「お帰りなさい、あくあさん」

「あくあ君、おかえり!」

「あくあ様、おかえりなさい!!」

「全く、心配かけるんじゃないわよ!」

「よしっ、これで炎上回避!!」

「みんな……ありがとう」


 俺はスッと頭を下げた。


「最悪、自分のをモミモミさせて元気出させてやるかと思ったけど、なんとかなってよかったわ」

「「小雛先輩!?」」


 俺とアヤナの声がシンクロした。


「ちょっと待ってくださいあくあ様。揉んだら元気出るんですか!? それならここに大きな無料のスイカとメロンが四つもあります。ラーメン竹子、今なら替え揉み無料キャンペーンやってます!!」

「えみりさん!? って、えっ、えっ、私のも?」

「ナイス捗……えみり! 姐さん乗っかりましょうこのビッグウェーブに! 今なら国営放送の視聴契約キャンペーンのおまけで、楓ちゃんのりんごちゃんも無料です」

「楓さん!? じゃ、じゃあ、私のもその……需要があるのでしたら……どうぞ」


 ちょ、ちょっと!? 桐花さんまで何言ってるんですか!?


「し、仕方ないわね。ついでに私のも……揉んでいいわよ。今日だけ! そう特別にね!」

「そうです。仕方がありません旦那様。ペゴニアもご奉仕しますし、帰ったらお嬢様のものも揉み放題ですよ」

「う、うん、私はその奥さんだしね。その……今日じゃなくても、好きな時に……どうぞ」


 アヤナ!? ペゴニアさん!? カノンまで!? どうしてこうなった!?

 って、そこでニヤニヤしてる小雛先輩、貴女のせいですよこれ!


「あ、あああありがとうみんな。と、とりあえず俺、行ってくるわ」

「あ、逃げた」


 とりあえず逃げるが勝ちって言うし、そりゃ、ね。俺も男子だから揉めるものなら揉みたいけど、こんなところで揉むなんて無理でしょ! スタッフの人達も全員こっちをガン見してたし、中には自分のものを見つめてたり、揉んでサイズを確認してる人までいた。

 流石の俺も恥ずかしくて逃げ出すしかない。


「はぁ……はぁ……あ……」


 逃げた先……じゃなかった。舞台袖の出口に行くと目の前に阿古さんの背中が見えた。


「阿古さん……」

「次の曲、世界の終わりで、行ける?」


 阿古さんはゆっくりと俺の方へと振り向く。

 よく見ると握りしめた拳に血が滲んでいた。

 あぁ、阿古さんはずっと待っていてくれたんだ。何も言わず、ただ俺が来るって信じて……。


「行けます……!」

「そう、わかったわ」


 阿古さんはそういうとモジャさんへと指示を出す。

 俺は阿古さんに言おうとした言葉をぐっと飲み込んだ。

 もう俺たちの間に言葉はいらない。

 最高のステージを、1番の特等席からこの人に見せるって約束した。

 だから俺が阿古さんにできる事はたった一つしかない。

 言葉じゃなくて最高のステージを見せる。ただそれだけだ。


『天我君! とあちゃん! 黛君! 3人ともありがとう。もう大丈夫よ!』


 渡されたマイクを持つ手が震える。

 とあ、慎太郎、天我先輩、みんなの声が聞こえた。

 阿古さん、モジャさん、スタッフのみんな、今もこのステージを最高のものにしようと頑張ってくれている。

 カノン、小雛先輩、アヤナ、桐花さん、森川さん、えみりさん……後、ペゴニアさんも、みんな俺を勇気づけるために、こんなステージ裏にまで来て集まってくれたんだ。本当にみんな、ありがとう!

 それに何よりも、ファンの人のペンライトの光が、アイドルとしての白銀あくあを奮い立たせてくれたんだ。

 みんな、待っててくれ。今からその感謝の気持ちを全てこのステージに込めて、みんなのところに届けにいく。


「俺の名前を呼ぶのは誰だ?」


 あぁ、確かにこの光景は、あの時を思い出すな。

 再び舞台袖に立つとあの頃とまた重なって見えた。

 いや、違うな。よくに似ているけど、そうじゃない。

 間違ってるぞ白銀あくあ、今のこのステージはあの時のステージとは違う。

 前世で俺が憧れた唯一無二のアイドル、あの人は命懸けてステージに立っていた。

 ならば俺も命を賭けよう、このステージに、全てのステージに、アイドル白銀あくあとしての2度目の人生に。


「ステージに立っていいのは、俺についてくる覚悟のある奴だけだ」


 一歩、また一歩と前へ進む。

 みんなが成長してきたように、俺だって成長する。

 今、この瞬間に、俺は過去の記憶を前世の自分を乗り越えていくんだ。


「白銀あくあが約束する。お前たちに最高のステージを見せると……だから俺についてこい!!」


 降り注がれるスポットライトの光と観客席からの大歓声。

 さぁ、みんなで作る最高のステージを楽しもうか!!

fantia、fanboxにてカットしたミスコンの話を投稿してます。

真決勝戦も今月中に投稿できたらいいなぁ。


上のサイトはたまにキャラ絵あり、下のサイトはキャラ絵なしです。


https://fantia.jp/yuuritohoney

https://www.fanbox.cc/@yuuritohoney


Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://mobile.twitter.com/yuuritohoney

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― 新着の感想 ―
[良い点] はか・・・えみりセンサーすげぇ。
[良い点] カノンよりも阿古さんのほうが正妻感えぐい( ゜Д゜) よく考えたらこの人検証班じゃないのにあくあの始まりの人なのか(;´・ω・)
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