白銀あくあ、へんしんっ!?
文化祭二日目、その日、事件は起こった。
「ごめん、みんな……」
青ざめた顔をしたクラスメイト。床にはひっくり返った状態の大きなボウルが散乱していた。
どうやら裏で仕込みをしていた時に、足が滑ってこけそうになった時に持っていたボウルの中身が衣装にかかってしまったらしい。
ほとんどの衣装は無事だったが、俺が着る予定だった衣装や幾つかの衣装が使えなくなってしまった。
「大丈夫、衣装がなくてもなんとかするから」
俺がそういうと他のクラスメイト達もそれに続く。
「そうだよ。気にしなくていいって」
「うんうん、その分みんなで頑張ろう!」
「みんなありがとう」
うん、みんな良い奴ばっかでよかった。
俺は改めて衣装の棚を確認する。被害があったのは俺の衣装ととあの衣装、カノンやペゴニアさん、アヤナやクレアさんのメイド服か……。さて、どうしようかなと考えていたら、俺の両肩をとあと慎太郎が叩いた。
「あくあ、今日は僕も接客に出る」
慎太郎はやると言ったらやる男だ。
昨日の慎太郎は主に配膳を担当していたが、午後からのお茶会を1人でこなした事で更に自信がついたのかもしれない。
「それなら僕にも秘策があるから大丈夫」
とあはそういうとクラスで一番小柄な女子に声をかけに行く。
彼女は昨日、男装をして俺が担当するテーブル以外を回っていた子だ。
「白銀君はどうする? 普段着で接客するか、今日は裏方に回っちゃう?」
うーん、どうしようかな……。
このまま接客してもいいけど、慎太郎やとあが前に出るなら裏方に回ってもいい気がするんだよな。
「皆様お待ちください。このペゴニアに、全てをお任せいただけませんでしょうか?」
会話に割り込んだペゴニアさんの目がキラリと光る。
ん……なんか今、背筋がゾクっとしたような? お、俺の気のせいだよな?
「ペゴニアさん……わかったわ。何か他に手があるって事よね?」
「はい、こんな事があろうかと、常々ペゴニアは準備をしていたのです」
ペゴニアさんはまっすぐと見つめ返す。
こんなにも真剣なペゴニアさんの姿を見るのは初めてだ。
ペゴニアさんはあくまでも俺たちのお付きという体で一緒に登校しているから、正式に言うと乙女咲の生徒というわけではない。それでもクラスメイトとはすぐに打ち解けたし、後ろに立ってるのもあれだからと、杉田先生の配慮で俺の後ろにいるカノンの隣に机を並べて共に授業を受けている。
つまりはもう俺たちのクラスの一員だと言っても過言ではない。
「それならペゴニアさんにお任せします」
「うんうん、どっちにしろ私達じゃ他になんも思い浮かばないしね」
「何をするのかわからないけど頑張って!」
「ペゴニアさん、ダメで元々だから、失敗したとしても気にしないでね」
クラスメイトのみんながペゴニアさんに優しく声をかける。
「はい、あとはこのペゴニアに全てをお任せください」
ペゴニアさんはクラスメイトのみんなに優しげな笑みを返す。
いい話だなぁ……。ええ、俺もそう思っていました。
それなのに、こんな事になるなんて!!
「ふふっ、やはりよくお似合いですよ」
「ぺ、ペゴニアさん? ま、ままままさか、本当にこの姿で外に出ろと?」
俺の問いに対して、ペゴニアさんは有無をも言わせぬ無言の笑みを返す。
ちょっと待ってペゴニアさん、それ怖いって!!
「さぁ、行きましょうか旦那様……いえ、お嬢様!!」
「待って待って、まだ心の準備が……あっ!」
ペゴニアさんにお尻でドンって突き飛ばされた俺は、控室からみんなのいる場所へとよろけながら飛び出る。
全員の視線が一斉に俺の方へと向けられると、まるで世界が凍ってしまったかのように固まってしまう。
あ……やっぱり無理があるよな。き、着替えてきます。俺が再び控室に戻ろうとしたら、信じられないほどの大きな声が教室の中を埋め尽くした。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああ!」
「お姉さま! お姉さまがいらっしゃるわ!」
「あっ、あっ、あっ、変な扉が開いちゃううううううううう!」
「脳が溶けるうううううううううううううううう」
「これはきましたわーーー!!」
「美しすぎる……」
「とあちゃんといい、あくあくんといい、お姉さん達の情緒をどうしたいのかな?」
「ま、まさか黛君もワンチャンある!? はぁはぁ、はぁはぁ」
「公式のネタの供給の多さに戸惑ってる件について」
「さすがはあくあ様、お姉ちゃん達の性癖を容赦なく拗らせてくるぅ!」
「こーれ、今晩は捗っちゃいます!」
「ど、どうしよう。兄様がお姉様になっちゃいました?」
「し、ししししっかりしてらぴすちゃん!!」
「スバルちゃんも落ち着いて!」
あまりの大きな声に思わず両手で耳を塞いでしまった。
やっぱおかしいよな、これ……。
「ふぁああああああああああああああああ」
「顔を赤らめたメイド女装あくあお姉さまあざっす!!」
「あ、あ、あ、大人びたお姉さん風なのに、可愛いのずるい!!」
「くっ……あくあ様の方が私より女子力高そう」
「実際、料理作れるしね……」
「悲報、大半の女子、あー様に負ける」
「大丈夫、おっぱいの大きさなら負けてない!!」
「まさか、あんなにも忌避すべき存在だった大きな胸が、私達女子の最後の砦になるなんて思ってもいなかった」
「ただでさえとあちゃんに拗らされてるのに、あっくんのせいで色々と捻転しそう。誰か助けて」
「ここって膝枕からの耳掃除とかやってますか?」
「そんないかがわしいサービスなんてあるわけないだろ!」
「あらあら、孫娘がもう1人増えるのも悪くないわね」
俺は近くにあった鏡で改めて自身の姿を確認する。
前にカノンとのデートで女装をさせられた時よりもより完璧に仕上がったメイク。男らしい体型を隠すためにあつらえたような特注のメイド服とスタイリング。もはやぐうの音すら出ない。
あと意外だったのは女装したら似てるって言われてる美洲さんに似るのかと思ったけど、どちらかというと桐花さんとか黒上さんとか貴代子さんみたいな、色気のある大人なお姉さん的な仕上がりになっていた。
「あわ、あわわわわわ」
間の抜けた声がしたな。誰だ? と思ったら俺の奥さんだった……ってえ!?
俺もカノンに劣らないほどの間抜け面を晒してしまう。
「あく、あくあがお姉しゃまに……」
俺が見たカノンはスーツを着こなす男装の麗人へと仕上がっていた。
え? これって、カノンが接客するのマジ!?
「へぇ、悪くないんじゃないの」
げげげっ、カノンと同じく男装をしたアヤナがニヤニヤとした顔で俺のことをじっくりと鑑賞する。
は、恥ずかしいからあんまり見ないでくれ!!
「はわわわわ、胃が……胃が……!」
クレアさん大丈夫? って、クレアさんまで男装してる……。
俺はサイズが合わないから無理だけど、女子たちはサイズ的に代えの衣装があるからどうにかなったみたいだ。
「へぇ‥…あくあってそんな感じになるんだ。ふぅん」
男装したとあが俺の全身を値踏みするような視線で見つめる。
「と、とあ……?」
「ほら、もっと良く見せてあくあ」
あ、あれ? とあさん? なんかいつもと雰囲気が違わないですか?
いつの間にやら壁際に追い込まれた俺は、気がついた時にはとあに両手で壁ドンされていた。
しかもそんな股の間に膝を入れられると、ちょっとなんか落ち着かないんですけど?
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「あっ……」
「し、しっかりしろ! し、死んでるう!?」
「なんかとんでもないことが始まってしまった」
「は……? はぁ!?」
「これはいけません、これはいけません」
「公式が妄想を超えてくるのどうにかなりませんか?」
「我が人生に悔いなぁし!!」
「はいはい白銀あくあ白銀あくあ」
「やばい、とあちゃんに攻められたい」
「ふぅ、とあちゃんはお姉さんたちをどうしたいのかな?」
「ちょっと油断してたわ。やっぱベリルっておかしいんだなって再確認した」
「これは掲示板が荒れるぞ!!」
「とあちゃんが男の子で、あくあさんが女の子? ほえ〜」
「姐さんしっかり! 顔が間の抜けた時の私みたいになってます!!」
不敵な笑みを浮かべるとあ。
あっ、これはとあの悪戯スイッチが入った時の悪い顔だ。
だ、誰か助けてくれ!
「とあ、あっちでお客さんが呼んでるぞ」
「ちぇ……慎太郎の意地悪」
慎太郎〜〜〜! ありがとう、本当にありがとうな。
俺は勢いが余って慎太郎にハグしてしまった。
「あ、あくあ!?」
慎太郎は俺が急に抱きついたせいか、びっくりした顔をした。
「ふぁああああああああああああああ!」
「ふふっ、ふふふふっふふふふふふっ……」
「あっ……何かに目覚めそう」
「ぴこーん!」
「やめて! もうこれ以上、変になりたくない!!」
「せっかくこっちが扉の前で耐えてるのに、向こうから扉を蹴破ろうとしてくる」
「はっきり言って掲示板の住民じゃなきゃ死んでたね」
「一緒に堕ちれば怖くない!」
「それ絶対にダメなやつじゃん!!」
「はぁ……なるほどね、これがベリルですか」
「ベリルが確実に私たちをヤりにきてる件について」
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのかもしれない」
「神に祈りを! あーくあ!!」
「バッカ、お前、静かにしろ!! 私の存在が掲示板のアホタレどもにバレるだろうが!!」
おっと、こんなことしてる場合じゃなかった。ちゃんと真面目にしないと……。
俺は慎太郎から体を離すと、近くに居たクラスメイトに、どのテーブルの接客につけばいいかを聞いた。
「えっ、えっと、最初のテーブルは1番になります」
「OK!」
一番テーブルへと向かうと見覚えのある人が座っていた。
「あっ、お婆ちゃん来てくれたんだ!」
「ふふっ、きちゃった!」
お茶目なお婆ちゃんの仕草を見て、ほっこりとした気持ちになった。
こういうプライベートなシーンでのお婆ちゃんの姿を見てると、やっぱりカノンのお婆ちゃんなんだなあって感じがする。カノンはお母さんよりも、どちらかというとお婆ちゃん似な気がした。
「あれ? もう来たんだお婆ちゃん」
俺の後ろからカノンがひょっこりと顔を出す。
改めてこうやって近く見ると男装したカノンは中々の美少年だな。
「あらあらまぁまぁ、男の子の姿もよく似合ってるわよ、カノン」
「ありがとうお婆ちゃん」
お婆ちゃんがカノンの頭を優しく撫でた。
嬉しそうな照れた表情のカノンを見ると俺も同じくらい嬉しくなる。
「それと今日はお友達を連れてきたの」
「お友達?」
俺とカノンは顔を見合わせると、お婆ちゃんが手のひらを向けた方へと視線を向ける。
「お久しぶりですカノンさん、あくあ様」
お淑やかでありながら可愛らしさの感じられるルックス。一言で言うと美少女だが、同じ美少女のカノンとはタイプが違う。
カノンのような華やかで天真爛漫なタイプの美少女とは違って、彼女はどちらかというと清楚で奥ゆかしいタイプの美少女だ。それでいてどこかカノンに似た雰囲気を持つ彼女の事を俺はよく知っている。
「えっ? くくりちゃん?」
くくりちゃんは喫茶店でバイトをしてた時の常連さんの1人だ。
その中でも彼女は俺が1番最初に接客した人だからよく憶えている。
「私の事、覚えててくださったのね」
「勿論だよ、久しぶり、元気だった?」
「はい」
こうやってくくりちゃんと会話するのは喫茶店でバイトしていた時以来だ。
確か俺の一年後輩で、まだ中学2年生、いや、今は中学3年生だったかな?
「くくりさん久しぶり。もしかして今日は文化祭を兼ねた学校見学かしら?」
「はい、今日はそのために無理を言ってここに通ってる知り合いにチケットを手配してもらったんです」
へぇ、くくりちゃんって乙女咲を受験するのか。
ここは先輩としてちゃんとアピールしとかないとな。
「くくりちゃん、乙女咲はすごくいいところだよ。それに俺もくくりちゃんみたいな後輩ができたら嬉しいな」
「はい、ありがとうございます。あくあ先輩」
先輩……うーん、いい響きだなぁ。
そっか、俺も来年にはいよいよ先輩になるのかあ。
赤海に先輩と呼ばれた時も嬉しかったが、先輩という響きについついデレデレしてしまう。
天我先輩っていつもこんな気持ちなのかなと思うと、少し羨ましくなった。
「って、アレ? なんでお婆ちゃんとくくりちゃんが一緒に?」
いや、カノンが知ってるって事は家同士のお付き合いがあるって事か?
俺が首を傾けてると、くくりちゃんから意外な言葉が返ってきた。
「覚えていませんか? あの時のもう1人のお客さんの事」
「そういえば最初に接客した時に、くくりちゃんともう1人居たような……」
喫茶店の中でも帽子とサングラスを外さずにマフラーを巻いてた人が居た事を思い出す。
俺はハッとしてお婆ちゃんの方へと視線を向けた。
そこはかとなく輪郭とか雰囲気が似てる……ような気がする。
「あっ……もしかして、あの時来ていたもう1人のお客さんって……」
「ふふっ、そうよ。やっと気がついてくれたのね」
ほえ〜、あの時ってもしかしてお忍びで来てたりとかしたのかな?
まさかそんな前にお婆ちゃんと会ってるだなんて思ってもみなかったからびっくりだ。
俺は隣に立っている驚いた表情をしたカノンと顔を見合わせる。
「つまり、カノンより私の方が先にあくあ様に出会ってたってわけ」
お婆ちゃんはほんの少し勝ち誇った表情をカノンに見せる。
「ねぇねぇ、カノンさんはどんな気持ち、どんな気持ちー?」
う、うぜえ……って言ったら不敬になるかも知れないが敢えて言わせて欲しい。
だって今のお婆ちゃん、小雛先輩が常日頃、俺に絡んでくる時と全くもって一緒なんだもん……。
カノンの方をチラリと見ると、頬を膨らませてぷるぷると全身を震わせていた。
「ぐぬぬ……」
「ふふーん、第一線を退いたとはいえ、まだまだ孫娘には負けませんよ」
何やら気配を感じて後ろに振り返ると、いつの間にやら男装をしたペゴニアさんが立て看板を持って立っていた。
【さすがですメアリー様、お嬢様プークスクス】
ペゴニアさんそれクラスの備品っす。だから遊んじゃダメだよ。
「ううっ……」
ほらあ、いじりすぎてカノンが涙目になっちゃったじゃん。
もう、ペゴニアさんまで悪ノリして。おーよしよし、俺はカノンを抱き寄せると頭を撫で撫でして慰める。
「ふぇ……」
うん、いつものフニャった顔になったな。よし、これでもう大丈夫だろ。
それにしても、うん、カノンはチョロ可愛いくて助かる。
「もう! お婆ちゃんもペゴニアさんも俺の奥さんをいじめないでくださいよ」
「あらあら、ごめんなさいね。つい」
お婆ちゃんはカノンの事をギュッと抱き締めるとごめんねって慰めていた。
これじゃあどっちがホストでお客さんかわからないけど、あのテーブルはもうカノンに任せて次に行こう。
「白銀君、次2番テーブルお願い」
「あいあいまぁむ」
2番テーブルに行くと、再び見覚えるのある人達が来ていた。
「あっ、桐花さん、森川さん、来てくれたんですね!」
「うん、久しぶりあくあ君。メイド服もよく似合ってるよ!」
「あ、ああああくあさん……メイド服もとってもお似合いです」
「はは、ありがとう2人とも」
俺は2人の間に座ると、クラスメイトが用意してくれた飲み物が入ったグラスで2人と軽く乾杯する。
「桐花さん、明日はイベントなのにすみません。こんな忙しい時に来てもらって」
「ううん、大丈夫よ。昨日は社長やしとりさんも来たんでしょ?」
「はい、2人とも午後からだったけど、来てくれてすごく嬉しかったです」
桐花さんと軽く談笑する。
どうやら桐花さん達は、お昼からのとあと俺が参加する演劇も見て帰るらしい。
「ところで森川さん、さっき久しぶりって言ってたけど、この前、会ったばかりじゃないですか」
「あ、うん……」
森川さんは首を左右に動かして周囲を警戒する素振りを見せる。
どういうわけか桐花さんも少し焦ったような顔をしていた。2人ともどうしたんだろう?
「カノンも喜ぶし、また普通に泊まりに来てくださいよ」
俺がそういうと、なぜか2人とも泡を食ったような顔をしていた。
「泊まり……に?」
「速報、ホゲ川と姐さん、あくあくんのお家に泊まる」
「おい嘘だろ森川!?」
「ホゲ川の癖にマジ!?」
「こーれホゲ川あります」
「姐さん、あー様のおうちに泊まったんだぁ。ふーん」
「不可抗力とはいえ、まさか姐さんが抜け駆けするなんて、ねぇ」
「くっそ、こうなったら私達も嗜みの友達ですって泊まるか」
「お前天才かよ!」
「朗報、私達みんな嗜みの友達だった」
「よし、みんなで嗜みの家に突撃だ!!」
「体の準備よし、下着の準備よし」
「もしもの時のために、ちょっくら全身を綺麗に洗ってくるわ」
「それって捗るは参加してないよな?」
「捗るがいたら襲っちゃうからニュースになってるだろ」
「襲わねーよ!!」
「ちょ、ちょ、えみりさんダメ、騒いだらバレるってぇ!」
「パンケーキうまうま」
「ねぇ、あそこにいるの聖あくあ教の聖女様じゃない?」
「マジかよ。やべー奴の大将が来てるじゃん」
ん? どうしたんだろう?
他のテーブルに座ったお客さんがこっちを見て一斉にひそひそ話をし始めた。
「あくあさーん、5番テーブルお願い」
「はいはーい!」
俺は桐花さんと森川さんに改めてお礼を言うと、席を立って次のテーブルへと向かう。
段々と忙しくなってきたぞ!
「あっ、兄様……じゃなくって、姉様?」
「そこは兄様で頼む。らぴす」
俺の尊厳のためにもな!
「お、おおおお久しぶりです。お兄さん」
「病院の時はお世話になりました」
「こっちこそ、いつもらぴすと仲良くしてくれてありがとうね。スバルちゃん、みやこちゃん」
らぴすのテーブルを見ると、お友達のスバルちゃんやみやこちゃんが一緒だった。
そういえばとあは、お母さん以外にスバルちゃんと、みやこちゃんの2人にチケット渡すって言ってたんだっけ。ちなみに俺はらぴすと母さん、しとりお姉ちゃんの3人にチケットを渡している。カノンはお婆ちゃん、桐花さん、森川さんの3人で、お母さん以外のチケットが余っていた慎太郎は、お世話になってるからと阿古さんと天我先輩の2人にチケットを渡しているそうだ。
先輩、今日来るって言ってたけどいつくらい来るんだろうか?
「ふぁ……」
俺はいつもの癖で、ソファに座る時にらぴすを自分の膝の上に乗せてしまう。
ま、別に変な事をしてるわけじゃないし、いっか!
「に、兄様、とってもお綺麗なのです」
「ペゴニアさんのおかげだよ。ほら、みてみ」
俺はポケットからスマホを取り出すと自撮りモードにして、らぴすと頬がふれあうほど顔を近づける。
うぉっ!? らぴすの頬っぺたプニプニでやわらけー、後でふにらせてもらおっと。
「こうやってみると、姉妹同士っぽくない? だからほら、らぴすもきっと将来すごく美人さんになるぞ〜」
「はわわわわわわ……私も将来、兄様みたいな美人さんに!」
「よかったね。らぴすちゃん」
「うんうん、らぴすちゃんは絶対に将来美人さんになるよ」
うん……なんかいいな。JC3人組に囲まれるなんて一見すると犯罪臭がするが、今の俺は都合よく女子なので何一つ問題はない! だから一緒にきゃっきゃうふふしたっていいはずだ。
「スバルちゃんも、みやこちゃんも、らぴすと仲良くしてくれてありがとうな」
「ふぇ!?」
「ふにゃ!?」
あっ、しまった! ついついらぴすにやるみたいに2人の頭を撫でてしまった。
2人とも年頃だから、こう言うの嫌がっちゃうよな。
俺が2人に謝ろうとしたら、何やら後ろから強烈な視線を感じる。
「じーっ」
「と、とあ!?」
いつまにか直ぐ側に近づいてきていたとあが剣呑な表情で俺のことを見つめる。
「あくあって……もしかして、ロリコン?」
俺は慌てて左右にぶんぶんと首を振り回す。
確かに3人とも可愛いし、お付き合いできるかできないかで言えば普通にできるけど、俺だってちゃんとした大人だからね。そこら辺は分別ついてるから! 流石に中学生に手を出しちゃダメでしょ。だから、安心してくれ! 大船に乗ったつもりで俺を信じてくれ、とあ!!
「今の否定……嘘っぽいわね」
「って事は、あくあ君まさかの年下好き!?」
「ちょっと待って、昨日掲示板で年上好きって結論出てなかった!?」
「年上好き+年下好き、しかも結婚したのは同級生……」
「つまりどういう事なんです?」
「それって全年齢OKってことじゃ!?」
「しかも妹さん小さいし……」
「もしかして大きいとか小さいじゃなくて、もはやついてたら誰でもいいんじゃ……」
「なるほどなるほど、で、どういうこと?」
「待って、これ全世界の女子の勝利フラグ立ってない?」
「いやっほおおおおおお!」
「これは掲示板が荒れに荒れるわよ!!」
「朗報、あくあ様、全世界の女子とフラグをお立てになられる」
「みんな落ち着け!」
「ふぅ……一旦落ち着こう、みんな」
「そういうお前のティーカップがガタガタと震えて、飛び散ったお紅茶が私のスカートにビチャビチャ跳ねてる件について」
「まだ、慌てる時間じゃない!」
「そう言って年食ったのが私だから、勝負は仕掛けられる時に仕掛けなきゃ!」
「ちょっとお外走ってくる」
「さーてと、アップしときますかあ!」
「乗るぞ、このビッグウェーブに!!」
あれ? なんか知らないけど、女の子達がソファから立ち上がって両手を突き上げて盛り上がってる。
なになに、なんか盛り上がるような事でもありました!?
「あわわわわわ、兄様がりょりこん……」
「そ、それじゃあ私もお兄さんの守備範囲ってこと!?」
「わわわわ、私なんかがよろしいんでしょうか?」
ど、どうしたみんな、顔が茹でタコみたいに赤いけど大丈夫か!?
もし、熱とかあったらいけないから測っといたほうがいいかと、らぴすの方へと顔を近づける。すると、とあに肩をガシッと掴まれて阻止されてしまった。
「あくあ、もう時間だからここは僕に任せてもう次のテーブルに行きなよ」
「あ、あぁ、わかった。なんかあったら言ってくれ」
俺はらぴす達のテーブルをとあに託して、6番テーブルに向かう。
そこで俺は再び見覚えのある人に遭遇する。あれ? なんか知り合い多くない?
「あ、あれ!? なんでここにシスターさんが……?」
俺とカノンの結婚式を取り仕切ってくれた目隠しシスターさんを見てびっくりする。
なんで彼女がこんなところに!? まさかわざわざスターズからこの国に来たとか? いやいや、なんで?
「実は彼女、私の知り合いでして……」
「クレアさんの知り合い?」
そういえばクレアさんのお家ってスターズ正教だっけ。
確かに、披露宴でも2人で話してたりしたような気がする。
もしかしたら目隠しシスターさんも何かの用事でこっちに来てて、そのついでに学園祭に寄ったのかもしれないな。そう考えると納得だ。
「結婚式の時はどうもありがとうございました。今日は楽しんで行ってくださいね」
目隠しシスターさんは無言でコクリと頷く。
楚々とした感じを見ていると、カノンの友達で俺がバイトしてた時にお店に来てくれていたえみりさんの事を思い出す。えみりさんもカノンと一緒にいる時以外は、深窓の御令嬢って感じの奥ゆかしい美人さんだけど、この人もまさにそんな感じだ。うん、よく見たらそこはかとなく似てる気がするし、メアリーはスターズ正教の子も多いから、もしかしたら2人は遠い親戚なのかもしれない。
「あ、あとですね。こっちも私の知り合いで、風見りんさんです」
髪をポニーテールにした身長150cm前後のちょこんとした小柄な少女だ。
年齢は中学生か小学生くらいか……クレアさんの姪っ子かな?
「風見りん。メアリーの4年生。好きなものはパンケーキとポップコーン……です」
へぇ、小学4年生かー。4年生にしたらすごく落ち着いてるなぁ。
よーし、お兄ちゃんがいい子いい子してあげよう。
おっ、この子、撫でられ慣れてるな。
なんか犬っころ撫でてるような感じがして、全身を撫でくり回してやりたくなる。
「あくあさん、ちなみにりんさんは大学四年生です」
「ふぁ!?」
え? 小学生じゃない……?
いやいやいや、これ、どう見たって小学4年生じゃ……え? 本当に?
クレアさんの真剣な表情を見てると、とてもじゃないが嘘をついているとは思えない。
「良い、気にしなくて……それよりもっと撫でて」
謝ろうとしたら止められてもっと頭を突き出してきた。
仕方ない。自分で蒔いた種だ。俺は席に座るとりんさんを膝の上に乗せて頭を撫でる。
心なしか目の前の目隠しシスターさんから物凄い圧が出ているような気がしたが気のせいだろう。
こんな心まで綺麗そうな人が、そんな殺気なんか出したりなんかするわけないしな。
「ヒィッ……胃が、イタタタタ」
「クレアさん大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ここここは、私がなんとかするので1秒でも早く、他のテーブルにヘルプしに行ってください。お願いします……!」
本当に? 大丈夫かなあと一抹の不安はあるが、クレアさんがどうしてもと懇願したので、俺は席を離れて他のテーブルへと向かった。さてと、次のテーブルはどこだったかな?
fantia、fanboxにてこのお話の裏側を那月会長の視点で掲載しています。
よろしければこちらもどうぞ。
本編ではやらなかったようなお話をこちらのサイトにて無料で公開しています。
・らぴす視点の、あくあが引っ越した後の日常
・スターズ編後の姐さん視点の日常回
・森川視点の日常回
・鞘無インコが配信中に、配信外のシロやたまとプレーするエピソード
・あくあ、とあ、黛、天我のバーベキュー回(ヘブンズソード撮影中)
上のサイトは挿絵あり、下のサイトは挿絵なしです。
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