白銀あくあ、意外な人物と再会する。
本日7話目です。
次は日曜日の夕方か夜からの更新になります。
約束の日曜日が来た。
「兄様から女の匂いがする……」
勘のいい妹のらぴすに何故かバレそうになったが、俺は適当に嘘をついて誤魔化した。
俺の話を聞くらぴすがずっとジト目だったのは気がかりだが、それは俺の気のせいだったという事にしておく。
「少し早かったかな」
待ち合わせより30分も早く来てしまったようだ。
俺はスマホを弄りながら軽く時間を潰す。
「わっ、あの男の子かっこいい!」
「高校生かな? 休日出勤だったけど、今日はいいことあるかも!」
「一人かな? それとも誰かの待ち合わせ?」
「あの子の彼女羨ましすぎるよー。私だってあんな若くてイケメンの子と休日デートしたいぃい!」
通り過ぎる女の人たちは俺の事をチラチラと……いや、ガッツリと見ながら横切っていく。
そのうちの一人、茶色い髪の20代前半くらいのお姉さんと目が合う。
お姉さんは俺の方を見すぎていて全く前を見ていなかった。だから目の前の信号が変わったことに気がつかずに、お姉さんは赤信号の横断歩道を横切ろうとしたのである。
「危ない!」
それに気がついた俺は、お姉さんの二の腕を掴んで抱き寄せる。
「大丈夫ですか、お姉さん?」
咄嗟のことで最初は理解が追いつかなかったのだろう。お姉さんは俺と体が密着していることに気がつくと、頬をピンク色に染めていく。
正直、相手にそういう反応をされると、こちらも意識しないようにしているのに伝染してしまう。俺は目線を横に流しつつお姉さんに注意する。
「怪我はないですか? どこか痛いところとかあったら言ってください」
「今まさに心臓がすごく痛いです……はっ、もしかしてこれが恋……」
とりあえず見た感じ怪我はないようだ。
「道路を渡るときは危険だからよそ見してちゃダメだよ」
「はい……もう貴方の事しか見ません」
あれ? なんかお姉さんとイマイチ会話が通じてないような気がする。
まぁ、怪我もなく事故にもならなかったし大丈夫そうだからいっか。
「チッ、あの女、羨ましすぎる」
「あんな優しい顔で抱き寄せられたらどんな女の子も一発で落ちちゃうよ」
「男の子に甘々で嗜められるとかそんなのご褒美じゃん」
「お金ならいくらでも払う! だから一度でいいから私の事を叱ってほしい!!」
俺は、次から気をつけてねと言ってお姉さんを見送った。
心臓が痛いと言っていたから、病院にいくことを勧めたけど大丈夫だろうか。
そんなことを考えていると、誰かが後ろから俺の着ている服の裾くいくいと引っ張る。
「ごめん……待った?」
俺が振り返るとそこには美少女がいた。
とあちゃんは、上は家で着ていたのと同じ黒いリボンのフリルのブラウスだが、下は黒いタイツの上にフロントボタンのハイウェストのスカートを穿いている。
家で見た黒ニーソとショートパンツも良かったがスカートもいいな……。何よりスカートを穿いている事が、よりデート感を強く演出していた。
「いや、俺も今きたところだから」
俺はお決まりの言葉を返す。まぁ、実際そんなにまってないしね。
「良かった」
とあちゃんは緊張していたのか、少しおどおどとしていたがほっとした笑顔を見せる。
「あくあくんは身長が高いし、みんなに注目されてるからすぐに見つかっていいよね」
「俺はランドマークか!」
「ふふっ」
俺たちは、たわいもない会話に花を咲かせる。
「ところで用があるって言ってたけど……」
「うん、それなんだけどね。ほら……ここってさ」
とあちゃんは周囲を見渡す。
待ち合わせ場所の新しい綺麗な駅の周囲には、新しい高層ビルがいくつも立ち並んでいる。
歩いている人たちも10代から30代の人が中心だろうか、高級ブランドのお店や若い子に流行のお店や人気店がひしめきあっている状態だ。
「目的地はあそこの商業ビルなんだけど……期間限定でEPEXのポップアップストアをやってるの」
所謂ポップアップストアとは、常時開店しているようなお店ではなく、予め期間を決めて開かれるお店の事だ。
流石は人気とだけあってこんな所でポップアップストアを開けるなんてすごいな。俺のいた世界でもEPEX女子とかいうハッシュタグでアイドルやモデル、芸能人とか普通の可愛いJKとかJDとかOLのお姉さんがやっていた事を思い出した。
「ずっと行ってみたいなって思ってたんだけど、一人で行くのが怖くて……でも、あくあくんと一緒なら大丈夫かなって思ったの。だから今日は来てくれてありがとう。でも……あくあくんのこと利用しちゃったみたいでごめんね」
「とあちゃん、寧ろ誘ってくれてありがとうというのは俺の方だよ。俺だってえぺのポップアップストアには興味あったし、とあちゃんが誘ってくれなきゃここにこれなかったしね。それに、俺たちはもう友達だろ? 一緒に遊ぶのに、気を遣う必要なんてないと思うぞ。だから謝らなくていいんだよ」
「あくあくん……うん! じゃあ、改めて、今日一緒に遊んでくれてありがとね」
「こちらこそ! とあちゃん、今日は誘ってくれてありがとな」
俺たちは場所を確認すると、目的の場所に向かって歩き始めた。
とあちゃんは人混みに流されないように、俺の服の裾を掴みながら隣にピッタリとくっついている。
しかし人混みが多いせいだろうか、やたらと俺にぶつかってくる人が多い気が……気のせいだよな?
このままだと危険な気がしたので、俺は服の裾を掴んでたとあちゃんの手を取る。
「ごめん、嫌かもしれないけど、こっちの方が安全だから」
「う、うん」
今思えば、こうやって女の子と手を繋いで歩くのは初めてのことかもしれない。
俺は手のひらが今日に限って少し汗ばんでいるような気がした。できればとあちゃんにバレませんように!
とあちゃんの方をチラリと見ると、向こうも緊張しているのかあせあせとした表情で恥ずかしそうに少し下を俯いていた。どうやら緊張しているのは俺だけではないようだ。
俺たちは手を繋いだまま無言で目的の施設に入ると、ポップアップストアのある場所まで行く。
「わっ、あくあくん、あれ! ガスおじのガスボンベだよ!!」
「おっ、あのジャンプパッド、記念撮影できるみたいだぞ」
ガスおじとは、ガスを武器に戦うキャラクターで、ガスボンベはそのキャラクターが使うスキルである。
ジャンプパッドもまた、えぺに登場するキャラクターが使うスキルの一つだ。
他にもゲームでいつも使っている武器と同じ玩具が置いてあったり、登場キャラクターなどのフィギュアが売ってたりして俺ととあちゃんは大いに盛り上がる。
俺たちはショップでグッズを買ったり、撮影可能な場所で写真を撮ったりして十二分に楽しんだ。
「いやー、来てよかったね」
「うん!」
元気な返事で応えてくれたとあちゃんは、ショップで購入した首なが恐竜キャラのぬいぐるみを手に抱えて笑顔ではにかんだ。見るからに最初の頃よりテンションが上がってて、駅であった時のおどおどとした感じはもう完全に消えている。とあちゃんも喜んでくれたみたいだし、きてよかったな。俺は心の中でそう呟く。
「とあちゃん、よかったらどこかで少しお茶しない?」
「うん、いいよ」
いっぱいはしゃいだせいだろうか。
少し疲れたので俺たちはどこかのお店で少し休憩することにした。
生憎一番近いとこのカフェは人気店で人がすごく並んでたけど、同じ商業施設の中には他にも幾つもカフェがある。どこかに入れれば良いかと、俺たちは施設の中の他のテナントを眺めながらゆっくりと歩いていく。
「あの人、なんか困ってるのかな?」
その人の姿に、最初に気がついたのはとあちゃんだった。
とあちゃんが指差した方向を見ると、スーツを着た女の人が焦った顔で周囲をキョロキョロと見渡している。
誰かを待っているのだろうか……俺はその女性の後ろ姿に見覚えがあった。
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