白銀あくあ、白銀王国(キングダム)。
10月29日、土曜日。今日は二日間に渡って開催される乙女咲の文化祭、その初日だ。
俺の今日の予定は大きく分けて3つ。午前中はクラスのコスプレ喫茶にキャストとして出演した後、お昼休憩あたりからカノンとデートして、午後は茶道部のお茶会に慎太郎と一緒に参加する予定である。
「あくあくーん、お客さんからの指名が入りましたー!」
「はい!」
今日一番最初のお客様、一体どんな人が来るんだろう?
俺は椅子にかけてあった白いジャケットを羽織る。
チラリと鏡で自分の姿を確認すると、バックヤードから出て指定された番号のテーブル席へと向かう。
「あくあちゃーん! こっちよ〜!」
挨拶しようとした瞬間にずっこけそうになった。
「か、母さん!?」
ちょっと待って、よりによって母さんが一番最初のお客さん!?
戸惑っている俺の隣にスッと現れたペゴニアさんがそっと俺に耳打ちする。
「それが一番揉めなかったみたいですよ」
「揉める? 何が!?」
ペゴニアさんが言っている言葉の意味はよく理解できなかったけど、俺に話しかけてきたペゴニアさんのメイド服姿が今日も似合っている事くらいは察しの悪い俺でも簡単に理解できた。
ただ、いつもはロングスカートなのに、今日はなんでそんなにミニスカなんですか? ちょっと屈んだら絶対に見えちゃうだろうし、なんか胸元も開いてるし……ダメでしょ。文化祭で大丈夫なのそれ? 俺だって健全な男子高校生なんですよ? くっ……そうやって俺を煽るようにわざとチラ見せさせるなんて、なんて事をしてくるんだこの人は………
「じーっ……」
「はっ!?」
ペゴニアさんの胸元に自然と視線が吸い寄せられていたら、俺の方を見ている3人のじとりとした視線に気がつく。ま、待ってくれ! 今日は黒かあ……なんて思ってないから!!
「あくあちゃん……お母さんのだって結構大きいのにな」
いや、いやいやいや! 母さんのも確かにでかいけど、俺たちはですね、その、親子なんですよ? 頼むからあんまり俺を刺激しないでよ……。ただでさえ黙ってたら普通に綺麗なお姉さんにしか見えないのに!!
今日だって着物だから助かってるけど、お風呂上がりで薄着になるとしとりお姉ちゃんと同じくらいあって最初びっくりした事を思い出す。確か2人ともGだっけ……家族のサイズなんて知りたくなかったけど、みんなのブラジャーが俺の洗濯物に紛れてて、思わずタグに書かれた数字をガン見しちゃったんだよな。
あの時は、らぴすのスポーツブラに書かれていたAを見てどれだけ心を落ち着けた事か……。そのせいでらぴすのブラジャーを握り締めてるところを本人に見られて、あの時は本当に誤魔化すのが大変だったなぁ。
「ふーん……まぁ、いいけどね」
俺はもう一つの視線の方へと振り向く。
そこにはメイド服を着たカノンが俺の方を見て頬を膨らませていた。
ひぃっ! カノンさん、カノン様、ごめんなさい! 見てません! 見てませんから! すみませんでしたあああ!!
俺は慌てて携帯を取り出すとメッセージアプリを起動させる。
【カノンのが一番だから、カノンのメイド姿が一番かわいいよ、できたら家で2人の時にも着てほしいな】
俺は自らの欲望を交えつつ高速で文字を打ってメッセージを送信する。
「ふぇ……」
メッセージに気がついたカノンは急速に顔を赤くする。
よし! これで機嫌が直ったな! ふぅ、やばかったぜ!
俺の嫁さんチョロくて助かるう!
でも、メッセージで書いたことは本心だし、嘘は言ってない!!
「あくあって、やっぱり大きいのが好きなんだね」
いやいやいや、なんでとあは自分の胸の位置を触ってるのさ!?
ていうか、昨日から思ってたけど、なんで猫耳メイド服!? とあも俺と同じ、こっちじゃないの!?
「僕のメイド服、似合ってない?」
「いえ、そんな事ないです。めちゃくちゃ似合ってます」
即答だったね。
「ふふっ、なんで敬語なんだよ。あくあってばおかしいなぁ、もう」
とあは口に手を当てて笑顔を見せる。
それを見た他のテーブルのお客様の2人が悲鳴をあげて倒れた。
「お客様ああああ!?」
「メディーック!」
「救護班早く!」
「これは例の動悸ですね」
「担架持ってきました!」
「はい、そっち持って」
「頭ぶつけないようにしっかり固定して」
「ゆっくりね〜」
「失礼しました皆様、あとはごゆっくり……」
だ、大丈夫か!?
俺もなんかできることはないかと思ってソファから立ち上がろうとしたけど、あまりにも対応が早すぎて何もする事がなかった。
「旦那様、サポート体制は万全です。隣に救護室があるので、旦那様は自分の仕事に集中してください」
そういえば隣のクラスの出し物は救護室だったな。反対側は休憩室だったし、俺の世界じゃ聞いた事ないけどこっちの世界の文化祭ではそれが当たり前なのだろうか? それに、さっきの人達、なんかやけに手慣れてない!?
「皆さん、今日この日のために、プロの指導を受けてますから」
えぇ……? ペゴニアさんの言葉に困惑する。
これただの文化祭だよね? そんな事を考えていると、母さんの奥からとあに良く似た笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ、学校でもとあと仲良くしてもらってるみたいで嬉しいわ。あくあ君」
「あっ……久しぶりです。かなたさんも今日、母さんと一緒に来てたんですね」
彼女の名前は、猫山かなたさん。何を隠そう、あのとあのお母さんである。
はっきり言って若い。うちの母さんも若いけど、かなたさんも相当若い!!
というか、とあ、スバルちゃん、かなたさんで並んでも三姉妹としか思えないくらいだ。
ただ、かなたさんと、スバルちゃんやとあでは決定的に違うところが一つある。
DEKAI、そうSUGOKU DEKAIのだ。身長は小さいのに、大層ご立派なものを胸部にお持ちなのである。
初めて見た時は、こ、これが……子供を2人も産んだ母性の結晶なのかと思ったくらいだ。
「お邪魔してます。何時もとあの事をちゃんと見てくれていてありがとうね」
「いえ、こちらこそ、寧ろとあにはお世話になりっぱなしで……」
母さんが気を利かせて、かなたさんと席をチェンジする。
かなたさんと話していると、メッセージアプリがメッセージを着信した。
接客中に見るのはダメかと思ったが、とあが見ろって刺すような冷えた視線を送ってきたので仕方なくアプリを開く。
【いくら僕に似てるからって、お母さんに手を出すのはやめてよね。責任取れるなら別にいいけど……】
いやいや。いやいやいやいや! いくら一夫多妻が認められてるからと言って、流石に俺も親友の母親に手を出すなんてことないよ!!
確かに出来るか出来ないかで言えば間違いなくできるし、胸部だってガン見した。さっきだって思わず胸に向かって挨拶してしまった事は謝るよ。うん、そこは否定しないし、俺だって潔く認めよう。でもな、俺だってそこまで節操なしじゃないから!! お前の親友を、お前の信じた俺を信じてくれ!!
「ふふっ、本当に仲がいいのね」
「は、はは……はい、そりゃもうすごく仲良くさせてもらってます」
よし……一旦、落ち着こう。俺は目の前にあった紅茶のカップに口をつける。
「あっ……でも、とあやスバルと結婚したい時はちゃんと言ってね」
「んぐっ!?」
かなたさんの一言に、口に含んだ紅茶を噴き出しそうになった。
ゲホッ、ゲホッ……いきなり何を言ってるんだこの人は!?
スバルちゃんはともかく、とあは男だろ!?
「ふふっ、冗談よ」
「はは、はは……冗談きついっす」
はぁ、はぁ……まだ1組目だよなこれ!?
もうなんか体力の半分くらい持ってかれてる気がするぞ!?
俺は呼吸を整えると、改めて紅茶のカップに口をつける。
「2人だけじゃなくって、どうせなら私もセットでもらってくれると嬉しいな」
「ブフゥッ!」
ゲホッ、ゲホッ……ちょっと噴き出したけど、カップの中だからセーフ!
って、かなたさん! 貴女の発言が全然セーフじゃないよ!! さっきから全部アウト寄りのアウト、デッドボールばっかりじゃねえか!!
「くすくす。本当にあくあ君て面白いね」
くっ……ホストを務めなきゃいけない俺が、こうも簡単に弄ばれてるなんて……。
かなたさんは持っていたハンカチで俺の口の周りを拭いてくれると、もう片方の手を俺の手の上に重ねてそっと俺の耳元で囁いた。
「2人の事で何か困った事があったら、すぐに相談してね」
ふぅ……なるほどね。これが人妻か……。
やべえな、俺みたいな子供なんて一瞬で手玉に取ってくる。
「あわわわわわわ……」
それに比べて俺の母さんを改めて見て欲しい。
体だけは大人の女性だけど、精神が完全に小学生と一緒。
今だって顔真っ赤にしてこっちの事見てあわあわしてるし……その姿を見て、改めて母さんが俺の母さんでよかったと噛み締めた。もし、かなたさんが俺の母さんだったら、その日のうちに一線を越えてたかも知れねぇ……。
「あくあちゃん、ママ以外のママと浮気しちゃダメだからね。メッ!」
ママ以外のママと浮気ってなんだよ……。また意味のわからない事を言ってる母さんは放っておいて、まずは一旦落ち着こうか。
ふぅ……改めて仕切り直そうと気持ちを整えていたら、こちらのテーブルに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「すみません。お手洗いが中々見つからなくって……」
か細い声、なんとも言えない守ってあげたくなるような声に俺は思わず振り向いてしまう。
「きゃっ」
俺が急に振り向いたせいか、その女性は足を滑らせてしまう。
「おっと……」
俺はソファから立ち上がると、その女性の手を掴んで抱き寄せた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
助けた女性は、失礼かもしれないけど少し幸薄そうな感じの美人さんだった。
声もそうだけど、見た目も守ってあげたくなるような、男の庇護欲を全面的にそそるような感じがグッとくる。
うーん、でもそこはかとなーく、誰かに似てるような……?
「母さん……」
「あっ、シンちゃん」
シンチャン? ていうか、さっきの声って……。
「あくあ……その人は、僕の母親だ……」
「えっ? えええええええええええええええ!?」
お、おまおまお前、マジかよ!?
俺は一旦心をリセットすると、改めて自己紹介する。
「初めまして、白銀あくあです。慎太郎君とは何時も仲良くさせてもらってます」
俺は黛のお母さんの手を取ると、目を見てにっこりと微笑んだ。
初対面は大事だし、やっぱりこういうのはちゃんとしないとな。
「あ、あああの……黛貴代子です……。初めましてあくあさん。いつもシンちゃんがお世話になっています」
貴代子さんはうちの母さんやかなたさんとは違う、なんとも言えない妖艶な色香が漂っていた。
一言で言うと未亡人、そう、薄幸の未亡人という言葉がピッタリと合いそうな人である。
「私、あくあさんには本当に感謝しているんです。早くにパパを亡くして、ママは女の人だから、男の人の事があまりわからなくって……だからシンちゃんともどう接したらいいかわからなくなって、お互いにちょっと他人行儀というか、シンちゃんが中学生になったあたりからずっとそんな感じだったんです。でも、シンちゃんが高校生になって、あくあさんと友達になってから、シンちゃんの方からママに歩み寄ってくれて……」
貴代子さんは薄い唇をキュッと噛むと、ほんの少し目尻に涙を滲ませる。
そっか、本当に未亡人だったのか……慎太郎は母親に手をあげる様な奴じゃないだろうけど、思春期とか反抗期がなかったわけじゃないだろう。それに慎太郎はスターズに留学していたから、異国の地で女手1人じゃ色々と苦労したんじゃないだろうか。
「シンちゃんも、ありがとうね」
「母さん……」
貴代子さんの言葉に、慎太郎は珍しく頬を染めて照れ臭そうにする。
俺は再び貴代子さんに寄り添うと、震えた背中をゆっくりと摩った。
「貴代子さん、女手1人じゃ苦労するでしょう。なんかあったら俺にすぐに相談してくださいね」
「本当ですか? それじゃあ連絡先を交換してもいいかしら?」
貴代子さんは俺の胸にそっと手を置くと、潤んだ瞳で俺の事を見上げた。
俺の男としての本能が、この人を守ってあげなきゃと囁く。
「ええ、もちろんですよ」
お互いに体を寄せ合って連絡先を交換していると、何故か母さんが俺たちの間に無理やり割って入ってくる。
そして俺と貴代子さんを引き離すように密着させた体をグイーっと左右に開いた。
「はいはいはいはい! えっちっち警報発令! えっちっち警報発令! これだから全くもう、油断も隙もないんだから。きよこさんも!! あくあちゃんと結ばれるのはママの方が先なんだからあ!!」
全く……母さんは一体何を言ってるんだ? 少しは貴代子さんの落ち着きを見習ってほしい。
俺は普通に貴代子さんが1人じゃ大変だろうからと、連絡先を交換しただけなのだから。そんな、ねぇ? 確かに貴代子さんは綺麗だし、魅力的だし、守ってあげたいなって思うけど、親友の母親に手を出すなんてないでしょ。
みんなもっと俺の事を信用してほしい!!
「お嬢様しっかりしてください」
「あわわわわわ、あ、あれが人妻の、未亡人の色香……あくあが寝取られちゃう……」
「お嬢様、こうなったら今晩もう襲っちゃいましょう。大丈夫ですペゴニアも付き添いますから、この姿で上から2人で覆い被されば、旦那様なんてイチコロのコロコロです。出なくなるまで搾り取って差し上げれば、浮気なんてできませんから」
あそこはあそこで一体何を言っているんだ……。
ちなみにペゴニアさんよ。男なんて夜に絞りとっても朝起きたら普通にリセットされてるからな。男子高校生の恐るべき欲望を舐めちゃいけません!!
「嘘でしょ……」
「あくあ様って、あの年齢層でも全然いけるんだ」
「大丈夫なそぶり見せてるけど、視線は誤魔化せてなかった」
「とりあえず大きいのが好きなのはもう確定でしょ」
「寧ろ年上の女性に弱い可能性すら出てきた」
「これは掲示板が荒れるわよ……」
「あくあ様、全国の牛女どころか年上女子まで救ってしまわれるのか……」
「ふーん、ああやって攻めればいいんだ。参考になるぅ!」
「守ってあげたくなる女子に弱い。メモメモ」
「でも攻めてくる女の子にも弱いと……」
「あくあ君って攻撃力ツヨツヨだけど、守備力はヨワヨワだよね」
「防御力弱いの助かる」
こっちを見ていたお客さんがざわめていた。
というかスタッフのクラスメイトたちもざわめいている。
みんな! ちゃんと仕事をしよう!! ほら、後ろにお客さんもつっかえてるし、最初からこんなにドン詰まってたらダメだろう。俺もちゃんと真面目にしよ……。
とりあえず気の緩んだクラスをもう一度引き締めるためにも、俺もちょっと本気を出しちゃいますか! さぁ、白銀あくあによるショータイムの始まりだ!!
「みんな、今日は俺のために来てくれてありがとうな」
「ひゃっ……」
「ふにゃん……」
「んっ……」
とりあえず近場にいた母さんたち3人の耳元でそっと囁く。
3人には悪いけど今から俺がこの王国のキングだ。
「ほら、早く座れよ」
俺はソファに座ると、背もたれに両手をひろげる。
両脇にかなたさんと貴代子さんが座ったが少し距離が離れていた。
「少し寒いな……」
俺はそう言うと、2人の肩に手を回してそっと抱き寄せた。
「ふにゃにゃ!」
「あんっ!」
かなたさんと貴代子さんは顔を真っ赤にして俺の事を見つめる。
貴代子さんには申し訳ないけど、これで少しはかなたさんに先程の仕返しができた。
「嫌だったらやめるけど?」
「嫌じゃないです……」
「わ、私も……」
「あわわわわわわ、あくあちゃんが、あくあちゃんが……あと、ママが座るとこない……」
俺は目の前の母さんの方へと視線を向ける。
「ほら、お前が座るところはここだろ?」
俺は自分の膝の上へと視線を落とす。
実家に居た時、らぴすの髪を乾かしていると、母さんやしとりお姉ちゃんはその後の流れで、勝手に俺の膝上に乗っかってきてたんだからいつものことだ。
「ふぁい……」
母さんはまるで借りてきた猫のように俺の膝上にちょこんと座る。
周りを見渡すと、他のテーブルに座ったお客さんたちは驚いた顔でこちらを見ていた。
悪いな、みんな……。もう、この教室は完全に俺が支配した。
「みんな、今日は俺からの奢りだ! 例のアレを頼む!!」
俺がそうコールすると、ペゴニアさんが素早く準備を整える。
さすがはペゴニアさんだ。こんな状況でも1人冷静にいつも通りである。
隣にいたカノンがホゲーっとした顔をしていたが、彼女の名誉のためにも見なかった事にしておく。
「ところで3人は、普段からこうやって会ったりしてるのかな?」
「うん、だって私達同じママ同士だし……」
「はい、最初にまりんさんがお声がけしてくれて、かなたさんと3人でよくお茶したりしてます」
「この前も3人で、とあとあくあ君が食べたクレープ食べに行ったよね」
へぇ、俺たちの知らないところでもちゃんと母親同士は母親同士で交流してたんだなぁ。
同じ貴重な男子を持つ親同士だし、やっぱりそういうことでも会話が弾んだりするのだろうか?
気になるけど、聞くのは怖いのでスルーしとこう。
「ところでみんなは俺たちがこういう活動をしている事についてはどう思ってるのかな?」
俺はどうせならと、普段思ってる事を3人に聞いてみた。
「私は、あくあちゃんが楽しいならそれでいいわ。でも……せっかく阿古さんがお休みの日を設けてくれても、トレーニングとか個人練習とか色々やって休めてないのはちょっと心配かな。お仕事が楽しいのかもしれないけど、あんまりカノンちゃんに心配かけちゃダメだよ」
「母さん……ありがとう。気をつけるようにするよ」
そっか……そうだよな。
せっかく阿古さんが気を利かせてお休みの日も用意してくれたり、お仕事だってセーブしてくれようとしてるのに、なんだか暇だと落ち着かなくて、色々とやっちゃうし、仕事もスケジュールあけないように入れてしまってる。
「私はさっきも言ったけどあくあ君には感謝してるの。とあは毎日が楽しそうだし、まさかまた学校に行ける日が来るなんて思ってもいなかったから……だから、本当にありがとう。お仕事についても、とあが楽しんで頑張ってるのだから応援したいと思ってる。それに担当マネージャーも桐花さんも凄く信用のできる人だしね」
かなたさんは少し目を潤ませながらそう言った。
「かなたさん……俺は最初とあとスバルちゃんの事を勘違いしただけで、とあが外に出てきたのは、自分から一歩を踏み出したおかげなんです。だから俺の事よりも、もっととあの事を褒めてあげてください」
もとより、とあ自身がこのままじゃいけないと思っていたんだと思う。
そうじゃなきゃ、あの時、あの瞬間、俺がピンポンを押した時に、とあは外に出てこなかったんじゃないだろうか。もしくはピンポンに対しても出なかったと思う。
だから俺がやった事なんて、ピンポンを押したくらいだ。
「そっか……なるほどね。そりゃうちの子達も惚れるわ。よーし、ママも頑張ろうかな。まだ産めるし!」
ん? さっき、なんか言いました?
「私はシンちゃんがこういう事するだなんて思ってもいなかったから、最初、話を聞いた時はびっくりしたわ。でも、それがきっかけで沢山お話しするようになったし、あくあさんの話をする時のシンちゃんは凄く良い顔をしてたの。だから、そんなあくあ君が一緒のお仕事なら大丈夫かなって」
最初、俺がこういう仕事をやりたいって話したのは何を隠そう慎太郎である。
その時、普通に止められたり笑われたりするかと思ったけど、慎太郎はちゃんと話を聞いてくれたし、背中を押してくれた。
「そうでしたか……。俺も慎太郎にはいつも助けられてます。あいつの頑張ってる姿を見ると、俺も頑張ろうって気になれるし、今度よかったら仕事場にもこっそり遊びに来てください。あいつの頑張ってる姿を一緒に見ましょう」
「ありがとう、あくあさん……」
貴代子さんはまた瞳を潤ませていた。か細い白い手を見ると、ついつい支えてあげたくなる。
「シンちゃん……ママが再婚したら怒るかしら?」
ん? 今、何か言いました?
ちょっとよく聞こえなかったな。
ところで母さん、さっきからすごいホゲ〜っとした顔してるけど大丈夫?
そこでホゲってる俺の奥さんと同じ顔してるけど……。
「あくあ様よろしいでしょうか? こちらの準備が整いました」
おっ! どうやら準備ができたようだ。
俺は母さんの頭をひと撫ですると、自分の座っていた所にそっと下ろす。
「3人とも、ちゃんとここで大人しくできるかな?」
「う、うん」
「にゃあ……」
「はい……」
俺は改めて3人の頭を順番に撫でる。3人とも少し内股気味に蕩けた顔をしているが、気のせいだろうか? 気のせいだな。そういう事にしておこう!!
「これは俺からみんなへの餞別だ。瞬きなんかして見逃すんじゃねえぞ!」
ペゴニアさんから薄く色づいた炭酸水を受け取った俺は、目の前に置かれたシャンパングラスがピラミッド状に積まれた物を見つめる。もちろん俺が持ってるのはあくまでも炭酸水であって、アルコールが入ってるお高いシャンパンなどではない。
「俺様の美技に酔いな!」
とか言ってカッコつけてるけど、普通に炭酸水を積み重ねたグラスの天辺から注ぐだけなんです。
それでも観客席のみんなはものすごく盛り上がってくれた。
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
ていうかクラスの人達、これ昨日もやったよね!? なんで昨日より盛り上がってんの!?
それとその変なコール何? 普通に昨日まで乙女咲コールじゃなかったっけ……?
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
「勝つのはあくあ! 負けるのは私達!」
なんか気がついたらお客さんたちまで……って母さんたちも!?
ニヤついてるペゴニアさんやとあは、わざとやってるよな!?
と、とりあえず止めなきゃ! 俺は天に向かって人差し指を差すと、スッと地面に下ろしてみんなのコールを止める。
「しょ、勝者は……俺だ!」
「「「「「「「「「「うわああああああああああ!」」」」」」」」」」
なんかよくわからないけど、これで少しは落ち着いてくれるはず……。
って思ってたけど、周りはすごく盛り上がっていた。
「きゃああああああ、あくあちゃんかっこいいいいいいいいい!」
「あくあくーん、私にも注いで〜!」
「あくあさん、素敵……」
「勝つのは旦那様! 負けるのはポンコツお嬢様!」
「あわわわわわわ、人妻ヤヴァイ……ワタシ、カテナイ……」
「あくあ……スバルだけじゃなくてお母さんまで……ちゃんと責任とってよね!!」
「ま、まさかあくあが僕のお義父さんになるのか!?」
「さすがは白銀様ですわ……」
「あらあら、白銀君ってば、ココナちゃんもうかうかしてられないわね」
「うっ……初日の午前中からこれとか胃がいたい……。ちょっとお手洗い行ってきます」
「全く何やってんのよ」
最後の呟きがアヤナなのはわかった。俺もそう思うけど、あんま突っ込まないで恥ずかしいから! あとクレアさん大丈夫?
流石にちょっとやりすぎたので、その後は普通に他のテーブルを回って、今日は来てくれてありがとうとか、楽しんでいってねとか、普通に声をかけていった。
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・らぴす視点の、あくあが引っ越した後の日常
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・森川視点の日常回
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・あくあ、とあ、黛、天我のバーベキュー回(ヘブンズソード撮影中)
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