森川楓、悲報……私の正体がバレる。
明日帰国する予定だったのに急遽、夕方に帰国する事になった私は、招待された豪華なチャーター機の中で冷や汗をかく。
今の私は、さながら捕縛された宇宙人のように黒いスーツを着た2人の女性の間で縮こまっていた。
「突然お誘いしたのにも関わらず今日は来てくれてありがとう、森川さん」
「ふぁ、ふぁい……」
一見すると優しいお婆ちゃん。しかしその内面から溢れる気品と、年齢を感じさせない芯のある声に自然と背筋が伸びる。
メアリー・スターズ・ゴッシェナイト、ここスターズの前女王陛下にて、嗜みことカノンのお婆さま。どういう経緯か、私はそのメアリー様と共にチャーター機で帰国する事になってしまった。
『お連れ様方はこちらへ』
私以外の撮影班が別室へと案内される。
え? ちょっと待って、私を1人にしないで!!
もし私がやらかして粗相をした時、一体誰が私の事をカバーするっていうのよ!!
そんな私の願いは虚しく、あいつらは私を見捨てて別室に逃げ込みやがった。
ちなみにこのメアリー様主催による空の旅に誘われたのは私達、国営放送のメンバーだけではない。
せっかく旅客機を借りたのだからと、その日、我が国に帰国する人、その全ての人達をメアリー様は誘ったのだ。
なんとも豪快というか、やる事のスケールがデカすぎる。そういう所がなんと無く嗜みっぽい。
「ふふっ、本当のところはね。森川さんだけを誘ってもよかったのですけど、そうすると私のせいで森川さんの正体がバレてしまうのではないかと思ったの」
「えっ?」
メアリー様の言葉に私は混乱した。
えっ? ちょっとまって、ソレってつまり……?
「これでも孫娘の事はちゃんと調べてるのよ。娘は知らないみたいだけど、私は森川さんや桐花さん、雪白様、カノンの4人がとある掲示板で仲良くしている事も良く知っているわ」
ぐわああああああああああああああああああああああ!
誰だよ、よりにもよってティムポスキーとかいう恥ずかしいトリップにした奴!!
私だよ!! お稲荷さんソムリエの資格に史上最年少で合格した時に、あまりにも嬉しくて浮かれてやってしまった黒歴史を思い出す。もし、時が戻るなら私はあの頃からやり直したい。
なんだよティムポスキーって……せめてもうちょっとマシな名前があっただろ!!
「すみませんでしたぁ!!」
気がついた時には私はごく自然に土下座していた。
やらかす。やらかさないどころの話ではない。なぜならもう既にやらかしてしまっていた後だったのだから。
なんかもう本当に、色々と申し訳ないです……。
「あらあら、どうして謝るの? むしろ感謝しなければいけないのは私の方よ」
「えっ?」
メアリー様は椅子から立ち上がると、私の目の前で両方の膝をついた。
その様子を見たSPさんや秘書さん達が慌てる。肝心の私は慌てるのも通り越えて固まってしまう。
『メ、メアリー前女王陛下!?』
『良いのよ。ここは非公式の場所なのだから、ね。このひと時だけでいいの、今だけはただの孫想いのお婆ちゃんで居させて? だからほんの少しだけ見逃して頂戴』
可愛らしくSPの人達にお願いしたメアリー様は、優しく私の両手を取る。
その手はひんやりと冷たかったけど、緊張をほぐすような心の温もりを感じた。
「貴女には……ううん、貴女達にはとっても感謝しているの。カノンがスターズから貴女達の国に行った時も、きっと寂しかったと思うのよ。いくらペゴニアがいたとは言え、立場上あの時のあの子が一介の侍女に甘える事はできなかったと思うから……今はそうではないみたいだけどね」
カノンは今でこそペゴニアさんとは肩肘を張らない間柄になっているが、来た当初はやはりご主人様と侍従の域を出ていなかった。それがある日を境に、2人が親しくなっていった事をよく覚えている。
何がきっかけだったのかわからないけど……ううん、私が知らないだけで、きっとあの人が、あの2人の関係すらも変えてしまったのだと思う。そうであって欲しいというか、なんとなくそうなんだろうなと思った。だって、あのあくあ様だしね。それくらいの事は空気を吸う様にやってるでしょ。
「それにあの子の身分が明らかになった後も変わらずに接してくれた貴女達には感謝してるのよ。あくあ様や貴女達が居たからこそ、あの子は救われたと思うの。だからね、謝る必要なんて何もないのよ。寧ろ感謝をしなければいけないのは私の方なのだから」
「メアリー様……」
私は先に立ち上がったメアリー様に促されて立ち上がる。
そしてメアリー様は改めて私の手を取った。
「森川さん、カノンと友達になってくれてありがとう」
「は、はい」
ううう、優しいお婆ちゃんだなぁ。私こういうのに弱いんだよね。
「さぁ、席に座りましょう。喉は乾いてない?」
くっ、メアリー様から手渡されたメニューを見ても、どれを注文したら良いのかわからない。おまけに値段が書かれてないのが怖いけど、それは気が付かなかった事にする。
私はおすすめを適当にと注文すると、やたらと泡がきめ細かやなシャンパンが出てきた。
一緒に出てきたアラカルトもすごく美味しかったが、残念ながらうめぇ以外のコメントが出てこない。私の食レポにおけるボキャブラリーなんてそんなもんである。
「ところで森川さんは、どのあくあ様が好き?」
「えーと……私はやっぱり初めて生でお仕事している所を見たからだと思うんですけど、ランウェイを歩いた時のあくあ様が好きです」
今回のランウェイショーもそうだけど、前回の縁もあってあのシーンは強く印象に残っている。
もちろんどのあくあ君も好きだけど、あの時、あの瞬間、絶望というか悔しかった思いをした時に現れたあくあ君の姿は、私にとってはヒーローのように見えた。
「ふふっ、確かにあの時のあくあ様はかっこよかったわね。ちなみに私は夕迅様を演じておられるあくあ様が一番好きよ」
あぁ、そういえばスターズでも夕迅様は人気らしいと聞くし、あっちの女子には年齢とか関係なくやっぱり刺さる人が多いのかな? 確かカノンも、夕迅様を演じてる時のあくあ君が一番好きなんだよね。
「ほら見てこれ」
「わぁ!」
メアリー様がバッグの中から取り出したのは古くなった一冊の本、漫画本だった。
花さく貴方への初版本、そしてその内側の真っ白な見開きのページには片方に原作者である八雲いつき先生のサイン、そしてもう片方には真新しいあくあ君のサインが入っている。
これガチじゃん……ガチの中のガチじゃん。
「す、すごいですね」
「ふふっ、ありがとう」
さっきから乾いた喉を潤すために、シャンパンをがぶ飲みしているせいか少し気分が楽になったような気がする。
よーし、どうせなら色々と聞いちゃいますか!
「メアリー様は、どの曲が好きですか? ちなみに私はstay hearです。明るい感じがいいんですよね。そういう意味では結婚式でみんなで最後に歌った曲とか、男の子達が全員で歌ってくれた曲とか、アイドルフェスの一曲目も好きです」
あくあ君は結構幅広く色んなジャンルが歌えるけど、私は性格が前向きだからか聞いていてスキップしたくなるような明るくてリズミカルな曲の方が好きだ。
もちろん他の曲だって良いけど、どちらかというとさっきあげた曲の方を聞く事の方が多い。
「そうねぇ……乙女色の心と言いたいところだけど、ガラスのティーンエイジャーもいいわよね。私みたいなお婆ちゃんが何を言っているのと思うかもしれないけど、あの曲はちょっと……ううん、だいぶときめいたわ」
「あー良いっすねー。だけど、メアリー様……一言いいですか?」
真剣な表情……もといお酒の飲み過ぎで酔いが回った挙句、目の据わった私の気迫に、メアリー様もたじろぐ。
「な、何かしら?」
「お婆ちゃんが何を言っているのとか、そういうのは無しですよ。女の子は幾つになってもときめいたって良いんです!! だからほら、胸を張って言ってやってください!!」
そもそもですよ。呼吸をする様に、みんなをときめかせてしまうあくあ君が悪い!!
あくあ君はもっとこう、自分がいかに魅力的な男の子なのか、ちゃんと理解した方がいいと思う。
普通にあのルックスって時点で、調子に乗ったっておかしくないはずなのに、なんであんなに自己評価が低いんだろうねー? 別にコンプレックスとかトラウマがあるって訳でもなさそうなのに、まるでこう価値観が違うみたいな、あー……自分でも何を言ってるのかわからないけど、だいぶ酔いが回ってきたのだけはわかった。
「そう……そうね。ありがとう森川さん、やっぱり今日は貴女とお話しできてとっても楽しかったわ」
「そんな森川さんだなんて、気を遣わないでくださいよ。いいですか。私たちすべての女性はですね。白銀あくあという絶対的なオスの前では等しくただの1人のメスなのです!」
私は立ち上がって熱弁する。
「なぜなら我々女子達は、等しくお茄子で弄りあった仲間であり、同志なのですから、そこには立場も! 人種も! 国籍も! 年齢も! 関係ありません!! そう……言うならば私達女子は皆、お茄子の共犯者なのです」
「共犯者……」
「「「おぉ……!」」」
私たちの国の言葉がわかるSPさんや侍女さんは私の言葉に慄く。
言葉のわからない人たちは、わかる人たちに聞いて通訳してもらっていた。
「えぇ……だってよく考えてください。私達は貴方で変な妄想してるなんて、あくあ君本人に直接言えるわけないじゃないですか。相手未成年ですよ? だから私達全ての女子は、同じ秘密を抱える共犯者なのです」
ちなみにこれらの言葉は捗るの受け売りだ。
いやー、初めて話を聞いた時は、あいつもたまには良い事を言うんだなぁと感動したものである。
「森川さん……いいえ、あえてこう呼ばせて楓ちゃん。ありがとう、貴女とっても優しいのね。お陰様で私も気持ちが楽になった気がするわ」
「メアリー様……いいえ、メアリーちゃん。さぁ、飲みましょう! そして語り明かすのです。私達、全女子の希望の星、白銀あくあについて、ほら、SPや侍女の皆さんも!!」
私は高そうなシャンパンを片っ端から開けると、手酌でドバドバとグラスに注いで1人ずつに手渡して行く。
「ウェーイ! 今日のこの出会いに、そしてあくあ君に乾杯!!」
「「「カンパーイ!」」」
……。
…………。
………………。
うっ……頭が痛い。
どうやら私は知らないうちに酒に酔い潰れて寝てしまったようだ。
気圧の関係で飛行機の中は酔いやすいと聞いていたけどこういう事か。普段はたまーに嗜む程度の私が、緊張でガブガブ飲んじゃうと、まぁ、こうなっちゃうよね。普通の飛行機なら大問題になったかもしれないけど、幸いにもここはチャーター機、暴れたわけではないようだし、誰にも迷惑はかかってないはずだ。
「で、これは一体……」
飲みすぎたせいか、全くといっていいほど途中からの記憶がない。
でも自分が五体満足に生きている所を見ると、たぶん、なんもやらかしてないはずだ。
もしメアリー様に対して、何かとんでもないやらかしをしてたらきっと無事じゃないはずだから、ここはやらかしてない事にする。というかそういう事にしておこう。
「見てみて、楓ちゃん! もう到着したみたいよ」
「う、うん。ソウダネ、メアリーチャン」
さっき普通にメアリー様と言ったら、さっきまでメアリーちゃんって呼んでくれたのにって、とっても悲しそうな顔されたので仕方なく2人の時はそう呼ぶ事にした。おいおい、記憶を失う前の私、一体、何をしてくれちゃってるんですか!? ふぁー、一応会社に迷惑がかからない様に、後で退職届書いとこ……。
「それじゃあ行きましょうか」
「えっ? イクってどこに!?」
あれ? 到着したし、ここで解散するんじゃ……?
そんな事を考えていたら、迎えにきていた車にそのまま押し込まれた。
「お茶会よ」
「OTYAKAI?」
聞いたことのない単語だ。
いや……そういえばメアリーに居た時、高貴な女性たちがそういう会を開いてたとかなんとか……正直、飲み会とか忘年会くらいしか参加した事のない私でも大丈夫ですかね? えへへ、こう見えても私、メアリー卒だけど、純粋に学力だけで通ってたから、メアリーのお嬢様界隈とは無縁だったからなぁ……。
「あれ? ここって……」
見覚えのある喫茶店に到着した。
それもそのはず、メアリー様が連れてきたのは、あのあくあ様と出会った始まりの喫茶店である。
あれ? それにしても、日曜なのに誰も並んでない? 普段はもう入れないくらい人で溢れてるのに……。
「今日は貸切にしてるから大丈夫よ」
「貸切!?」
そんな事できるの!?
確か前に一度検証班で貸切にしようって話してたけど、その時はお店がそういうのはやってないって断られちゃったんだよね。それともこれが外交特権……いや、なんかメアリー様はそういう事はしなさそうな気がする。
「お久しぶりです。メアリー様」
う、うわぁ……店に入った瞬間、出迎えてくれたのは藤財閥の藤蘭子会長だった。
そういえば蘭子会長って元々は高貴な血筋の人で、留学先でメアリー様と交友を深めたって言ってた気がする。
「久しぶりね、蘭子。それにみんなも元気だった?」
ぐわぁああああああああああああああああああああ!
左を向いても右を向いても前を向いても、有名企業の会長さんとか社長さんばかりだ。
森長の社長さんもいるし……えっ? これって経団連の会合か何かかな?
って、よくみたら八雲いつき先生もいる。よかった。なんかちょっとだけ気分が落ち着く。いや、八雲先生も大先生なんだけど、ここにいる他の人たちの圧力に比べたら十分マシだ。
よしっ! とりあえず端っこの席座ろ、あの窓際の通称姐さんゾーンに入り込んで無難にやり過ごそう。そんな事を考えたらメアリー様にグイッと引っ張られた。ちょ、ちょっと、お婆ちゃん、パワー強すぎ……。
「みんな、今日は森川さんを連れてきたの、お話いっぱい聞きましょうね」
「「「わー」」」
うぉっ!? やべぇ、私、すげぇ人気じゃん!?
これ、もしかして森川の時代が始まっちゃいましたか!!
って、そんなくだらない事を考えていると、入り口の扉がガチャリと開く。
その瞬間、メアリー様以外の全員がすかさず頭を下げた。
えっ、えっ? これ以上、誰が来たっていうんですか!?
「あら、来たのね」
「……久しぶり」
その女性は、私より若くとても綺麗で……見た目は全然違ったけど、そこはかとなくカノンと似た雰囲気を感じた。
「くくりさん、元気にしてた?」
「ええ。メアリーさんは……相変わらず元気そうで何よりね」
「ふふっ、そうなの。お医者様にもここ半年は過去にないくらい元気だって言われたわ」
あー……それは間違い無くアレっすね。白銀あくあ効果ってやつです。
白銀あくあという存在がこの国の健康状態を改善し、働く意欲を上げ、GDPを成長させ、全世界一位の幸福度で満たしてくれている。私がスターズに行く前に、大学の偉い人が発表した論文にそう書かれていた。
信じられないかもしれないけど、厚生労働省の調査によってもそれらのデータが裏付けられているらしい。
ちなみについ最近、始まったばかりの月9だけど、月9を見るために強制的に定時に帰るというストライキが第2話放送時に決行されたそうだ。それを受けて今週の月曜日から早速、全企業で半強制的に月曜日の残業がなくなったそうだ。この流れが加速していずれは月曜日に限らず、そのうちどこの企業からも残業が消えていくだろうというのが今後の見通しらしい。
そうして残業で消費していた時間を趣味の時間として使えたり、睡眠時間が確保され、ストレスが軽減される事から国民全体の健康状態が改善されていく事も予想されている。そしてそのために社員のみんなも定時前に仕事を片付けるために仕事の効率が上がることで、ますますこの国が良くなるだろうという見通しだと、ホテルで見たニュースの記事にそう書いていた。
無自覚にブラック企業まで根絶して、たった1人でGDPまであげようとしてるのやばすぎでしょ……。
流石の私も、スターズのホテルでこの記事を読んだ時は、飲んでたコーヒーを盛大に噴き出した。一応は綺麗にしたつもりだけど、掃除の人ほんとごめん。
「貴女達も顔を上げて、今日の私は、メアリーさんと同じただの一般人なのだから」
「は、はい。おひいさま……」
「それもやめて、私はただの一般人よ」
ただの一般人? ただの一般人て、私みたいに現在進行形でチビりそうになってた奴の事じゃないの?
少なくとも藤蘭子会長達に囲まれて平然としている人は一般人とは呼びません。
「ふふっ、くくりさんはね。ああ見えて、この辺一帯のオーナーさんなのよ」
「えっ?」
そういえば喫茶トマリギの入っている建物は元々解体されるはずだった。それをとある企業が、ここら辺一帯の土地を保有していた企業ごと買収して食い止めたと聞いた事がある。
すごい事もあるものだと思ってたけど、えっ? この子がその企業の偉い人? ちょっと待って、だってこの子、カノンと同い年とかそれくらいじゃないの?
「ちなみにくくりさんは今、中3よ」
「中3!?」
マジ!? 私が中学生の頃なんて、頭の中は常にティムポの事でいっぱいだったんだけど……。
あぁ、思い出すなぁ。土手とか河原とかにムフフな本が落ちてないかと探したあの青春の日々、中学3年間、雨の日も風の日も隈なく探したが、そんな本なんて落ちてなかった。今思えばあれがお稲荷さんソムリエを取るための原動力になったんだと思う。
「さぁ、みんな立ち話もいいけど、そろそろ席に座りましょうか。今日はみんなでお茶会を楽しみましょうね」
私の座らされたテーブルは地獄だった。
隣にメアリー様、斜め前に藤蘭子会長、そして私の目の前には渦中のくくりさんが座っている。
まぁ、ぶっちゃけどのテーブルに座っても地獄だったんだけど、この席よりかは多少はマシじゃないかな。
緊張で持っていたティーカップがカタカタと震える。だって私、明らかに場違いじゃん……。
はっきり言ってコーヒーの味なんかわからないし、その後、自分でも何を話したのか覚えてもいない。
ただ一つ覚えているのは終始、あくあ君の話で盛り上がったという事実だけだ。
「それじゃあまたね」
時刻は夕方、お茶会は無事お開きとなってそれぞれが帰路に着く。
ちなみに店を出たら信じられないほどのSPが周囲に居て、喫茶店の前には黒い高級セダンが運転手付きで列を成していた。ねぇ、やっぱりこれ経団連の会合か何かだよね?
「くくりさんまたね。久しぶりにお話しできて楽しかったわ」
「……そうね。とは言っても一昨日も一緒にゲームしたばっかりじゃない」
マジ? メアリー様ゲームなんてするんだ。
と思ってたら、2人ともシロ君の影響でEPEXをしているらしい。
ちなみにくくりさんの使用キャラはシーラと呼ばれる殺傷力の高いミニガンを扱うキャラで、メアリー様はファンキーなキャラクターで有名なマッドネスマギーを使うそうだ。やべぇな、ヤる気ありすぎでしょ。とてもじゃないけど高貴な人達が使うキャラクターではない。
「そういえば来年から貴女も乙女咲ね。先におめでとうと言っておくわ」
「ありがとう」
メアリー様はくくりさんの耳元に顔を近づけると、周囲の人には聞こえない様に2人で二言、三言会話を続ける。一体何を話して居るんだろう……。少し気になったけど、プライベートな事だろうから聞かないようにほんの少しだけ距離を離した。報道関係者としてはだめなのかもしれないけど、何でもかんでも伝えればいいって事はないと思うんだよね。
「それじゃあ私たちも行きましょうか」
「えっ? 逝くってどこに!?」
なんかこの流れも2回目のような……。
全員を見送った後、私達は再び2人きりになった。
「もちろん孫娘たちの新居よ」
「は!?」
「さぁ行きましょう!!」
「うぇっ!?」
もちろん私如きに拒否権なんかあるわけがない。
一応念の為に嗜みに連絡を入れると、なんか捗るとあくあ様が一緒にMVを撮り終わった後らしく、ついでだから検証班の全員で揃って新居にお邪魔する流れになってしまった。
嗜み……私ですらギリギリアウトなのに、捗るなんて存在自体が完全にアウトでしょ。あんな奴をメアリー様に会わせていいの? 不敬罪で撃たれても流石に守りきれないよ?
何もなければいいけど……なんて事はないよね。うん。
「よっしゃ、雪白えみり、2人の新居祝いに腹踊りします!」
ふう……私ちょっとコイツの事を舐めてたわ。
あと秒で止めた姐さんナイス。
「あはは、じょ、じょーだんですって、だから姐さん、その殺気を抑えましょう。人が死にます。姐さんの殺気だけで私の心臓なんて簡単に止まっちゃいますから、ね、ね。……って、アレ? おま、ホゲ川じゃないか! 生きてたんだなぁ。よかったよかった」
「勝手に私を殺すな!」
全くこいつは……。
「楓さんお帰りなさい。それにお婆ちゃんも、来てくれてありがとう」
「結婚式以来ね、新婚生活には慣れたかしら」
メアリー様は嗜みの事をギュッと抱き締める。
おぉう、良かったなぁ。スターズじゃやっぱり人の目があるからこういう事は気軽にできなかったらしいし、こっちに来て初めてただの孫とお婆ちゃんとして再会できたんだと思うと少しうるっときた。
ちなみに涙脆い姐さんと捗るは普通に泣いてたし、あのペゴニアさんさえもそこはかとなく涙腺が緩んでいる気がする。
「改めてみんなようこそ新居に、今日はゆっくりしていってね」
嗜みの話によると、まだ少し仕事が残ってるあくあ君は、今日はみんなで食事をして帰るそうで何時もより帰りが遅れるそうだ。
なんとなくだけどあくあ君はそういう事にして、嗜みやわたしたちに対しても気を遣ってくれている気がする。
そういうあくあ君の優しさに対して、もう何度、好きになったのかも数えきれない。だからこそ、そんな優しい素敵な人と結婚できた嗜みは本当に良かったなと心の底からそう思った。
「それじゃあ改めて、かんぱーい」
「「「「「かんぱーい」」」」」
こうして私たち検証班4人+お婆ちゃんとメイドさんによる新居祝いのパーティーが始まった。
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