白銀あくあ、とあちゃんと一緒にゲームする。
「とあちゃん、俺、もう限界なんだけどっ!」
「あっ、あっ……あくあくん、待って、あと少しだから!」
息を吐かせぬ激しい攻防。
俺は汗を拭いながら体を大きく捩らせる。
「くっ……流石にもうキツいし我慢できそうにない! とあちゃん、外に出すよ!」
「んっ……待って、あくあくん! ダメ……ちゃんと中に出して!」
熱の篭ったお互いの体が室内の温度を上げていく。
しかしもう俺も限界だ。耐えかねた俺は、とあちゃんの言うことを無視して体を前のめりにさせる。
「あっ! あくあくん、らめぇっ!」
「あっ……!」
やらかした……全てが終わった瞬間、冷静になった俺は目の前が真っ白になる。
「ごめん……」
完全に俺のせいだ。
「ううん、僕の方こそごめんね。あくあくんは初めてなのに、経験者の僕がもっとちゃんとリードしてあげるべきだったよね」
見つめ合う俺たち。
会話の途中でなんとなく気がついてしまったが、俺たちって今すごく卑猥な会話を繰り返しているのでは?
いや、そんな事はないはずだと、俺は画面に映ったゲームオーバーの文字を再確認する。
EPEX Legend。
通称えぺ。
今や流行の発信地でポップアップストアが開かれたり、交差点の広告をジャックをしたりするくらいの超有名ゲームの一つである。
あの日からかなりの頻度で猫山家を訪問している俺は、自然ととあちゃんと親交を深めることになってしまった。
とあちゃんはゲームが好きで、特に好きなFPSをかなりやり込んでいるらしい。
FPSゲーム、First-person shooterと呼ばれるジャンルは、一人称のキャラクターを操作して武器を使って戦うゲームだ。主にえぺでは3人で1チームとなって銃を使って、オンライン上で繋がった他のプレイヤーのチームと最後の1チームになるまで戦うのがバトルロイヤルシステムのゲームである。
「俺が焦ってバブルの外に手榴弾を出しちゃったのが不味ったよな」
「ううん、さっきのあの展開だと中に手榴弾を入れてもそう変わらなかったかも。あくあくん、ディブ使うの初めてだったのにすごく上手だったよ」
「ありがとう、とあちゃん」
バブルというのは、相手の攻撃を全て弾くことのできる反球体の防御壁のことである。
俺が今日初めて使ったディブという体の大きなキャラが使えるスキルの一つだ。
基本グレネードとは相手のいる方向に投げ入れるものだが、上手い人だとバブルの中にグレネードを入れて向かってくる敵を前に詰めさせないというテクがある。
それは理解できるのだが、このディブというキャラ、やらなきゃいけない事が鬼ほどあるから、何度も漁夫で迫り来るパーティが続くとそこまで思考が回らない時があるのだ。
特に今回、俺ととあちゃん以外に組んだもう一人は野良と呼ばれるたまたまオンラインでマッチした人だったし、ボイスチャットがついていたわけではないので連携が取りづらかったというのもある。
「えぺ、どうせなら3人でやれたらいいんだけどな」
俺はそこでハッとする。
「とあちゃんってさ、えぺのPC版もやってるんだっけ?」
「うん、そうだよ。僕、本当はキーマウの方が得意だからね」
キーマウというのはキーボードとマウスの事だ。
俺たちが今やっているのは据え置きタイプのゲーム機だが、このゲームはパソコン版の方が本家である。
ちなみに据え置き機で一緒にやるためには画面とゲーム機も二つないとダメなのだが、猫山君の家にはちゃんと全てが完備されていた。もしかしたら猫山君もとあちゃんと一緒にゲームをするのかな?
それならいつの日か、こうやって遊んでると部屋から出てきて一緒にやってくれる日もあるかもしれないと希望を膨らませた。
「だったらさ、今度、俺のクラスメイトの黛って奴と一緒にやらないか?」
黛がえぺをやっているかどうかは知らないが、パソコンを持ってて他のゲームをやっていると言ってたのでスペックさえ満たしていれば一緒にできるはずだ。
それに女性と上手く接したいと思っている黛に、とあちゃんのようなタイプは適任ではないだろうか。
クラスメイトの女子と比べると、あんまりガツガツくるタイプでもないし、かといって遠巻きに意識してくるタイプでもない。普通に友達の距離感で接してくれるのだ。だから俺も同級生の妹というよりもただの一人の友達みたいに意識せずに接する事ができている。
「う、うん……別にいいけど、い、いいのかな、僕なんかで」
あ、ああそっか、とあちゃんは女の子だからそういうの気にしちゃうのか。
この世界の男は黛が珍しいだけで、基本は女の子を邪険に扱うタイプの男性が多い。
とあちゃんはきっとそのことを気にしているのだろう。
「あーうん、一応黛に聞いてみるけど大丈夫だと思う。とあちゃんが嫌じゃなければだけど」
「ううん、僕の方は大丈夫。あくあくんと仲がいい人ならきっと大丈夫だと思うし」
「とあちゃん、ありがとな!」
俺が素直に感謝の気持ちを述べると、とあちゃんは照れたように微笑む。
「感謝するのは僕の方だよ……僕だって、このままじゃいけないだろうし」
とあちゃんは小さく何かを呟くと、真剣な表情で俺の方をじっと見つめる。
「あくあくん……少しお願いがあるんだけど、大丈夫ですか?」
「あ、ああ! 俺にできることなら」
とあちゃんは何かを決心したかのように、ずずいと前に出ると僕の手を取った。
近くで見るとあちゃんのクリッとした大きな猫目にドキッとする。なんかこの目で見つめられると視線を逸せないんだよなぁ。
「……よかったら、今度、僕と一緒にお外に遊びに行きませんか?」
「え? ああ、それくらいなら大丈夫だけど」
「本当ですか? よかったぁ……断られたらどうしようかと」
とあちゃんは花が咲いたような満面の笑顔を見せる。
最初は喜んでくれて良かったと呑気に思っていた俺だったがここで重大な事実に気がつく。
あれ……? これって、もしかしなくてもデートじゃね?
俺はとあちゃんをチラリと見つめる。
え? 俺こんな可愛い子とデートするの?
妹みたい、友達みたいとは言っているが、とあちゃんは普通に見ると美少女のらぴすに劣らないレベルの美少女だ。今になって少し緊張してきた俺を見て、とあちゃんも緊張が移ったのか少しギクシャクとし出した。
「あ、えっと……じゃあ、この週末でいいのかな?」
「う、うん、あくあ君がそれでいいのなら」
俺はとあちゃんとの正確なデートの日時の約束を取り付けて、そそくさと猫山家を後にした。
ごめんな猫山君、俺はこの日曜、君の妹さんと一緒にお出かけすることになります。
後1回で本日の更新は終わりです。