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白銀あくあ、いいですとも!

 学校の授業で一番好きな科目は何ですか?


 そう聞かれた時、俺は間違いなく即こう答えるだろう。


 お昼休みのご飯タイムですと……。


 4限目の授業が終わった後、俺は楽しみにしていた弁当箱を取り出す。

 それを見たとあが、トコトコと俺の方へとやってくる。


「あれ、今日はお弁当だっけ?」

「おう! 今日は気合い入れて作ったからな。良かったらとあや慎太郎も食うか?」


 俺がそう言うと、何故かクラスの女子たちが全員立ち上がってこちらを見つめている。


「今日は気合い入れて作った……?」

「まるで白銀くんが作ったみたいだけど……」

「いやいや、カノンさんが作ったんじゃないの?」

「そこはペゴニアさんでしょ」

「見て、カノン様もお弁当よ!」

「チィ! これみよがしにペゴニアさんが私たちに同じ弁当を見せつけてくるぅ〜」

「ちょっと待って、2人のお弁当箱、色は違うけど柄が一緒だわ!!」

「ペゴニアさんのお弁当箱も見て、あくあ君と形どころか色も同じお弁当箱よ」

「それって、一つ間違ったらお弁当が入れ違いになることがあるんじゃ」

「なるほど予備の弁当箱を買うふりをして、そういう事故も計算に入れてると……」

「さすがペゴニアさん、さすペゴ」

「カノン様、1番の敵はきっとそのメイドよ。気づいて!!」

「いや、それよりもあの弁当って本当にあくあ君が作ったの?」

「そんなことある?」

「さすが白銀くん、結婚しても毎日やらかしてくる」


 なるほどね。会話の内容はよく聞こえないけど、俺はクラスメイトたちの反応を見てピーンときた。

 はは〜ん、さてはみんな俺の弁当のうまそうな匂いに釣られたな。可愛い奴らめ!


「あっ、良かったらみんなも一緒に食べる?」


 基本的に我が家の食卓に並ぶものは、ペゴニアさんが用意してくれてる。

 たまにカノンも手伝うようで、昨日の夜は初めてカノンの手作り料理を食べた。

 少し卵焼きを焦がしてしまって恥ずかしそうにしてたけど、その仕草が可愛くてついつい抱きしめたくなってしまう。そもそも料理なんてすごく手間暇がかかるから、作ってくれるだけでも有難いんだよな。実家に居た時もありがたかったし。だから今日はその感謝の気持ちを込めて早起きしてお弁当を作った。

 でも、久々の料理についつい気合いを入れすぎてしまって、3人分の弁当にプラスして、お重3段分くらい作っちゃったんだよね。いくらなんでも作りすぎだって結構早い段階で気がついたけど、どうせ今日はとあと慎太郎と一緒に食堂に行く予定にしてたし、その代わりに俺の作った弁当を食わせりゃいいかと思った。


「えっ……?」

「今、なんか幻聴が」

「心配しなくても貴女の耳は正常よ。だって私の耳にも聞こえてきましたもの」

「あわわわわわ」

「こんなチャンス滅多にないんだから、倒れちゃダメよ!」

「メディーック!!」

「ももももも餅つけ!」

「お前が落ち着け!」

「覚悟が決まったよ。他のクラス……ううん、全人類の女性を敵に回しても私はこの弁当を食う」

「奇遇ですね。私もお供しますよ。そう例え世界と争う事になったとしても、私の箸は止まらない」

「箸の動きを止めるんじゃねーぞ」

「我が人生に一片の悔いなし!」

「神に感謝します。あーくあ」


 こらこら、そんなに殺気出さなくても、お弁当はどこにもいきませんよ。

 全く、弁当如きでそんな……よっぽどみんなお腹が空いてたのかな?

 まぁ、俺たちみんな育ち盛りだもんな、うんうん。いっぱい食べて育つんだぞ。

 あっ……いや、育つと言ってもですね。そういう意味じゃないですよ。

 このクラスっておっぱいの平均サイズが大きいなとか、最近みんな一回り以上おっぱいのサイズがインチアップしてるような気がしてるとか、そういうやましい事は全然思ってないから、うん。


「よし、じゃあみんなで飯食おうぜ!!」

「「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」」」


 最初は……うん、まずは肉だな! 肉は全てを解決する。

 かといって、いきなり最初に手捏ねハンバーグに行くのは欲張りさんが過ぎるだろう。

 だからまず最初に俺が狙うのはタコさんウィンナーだ。


「このミニハンバーグ……一つずつ大きさが違う」

「えっ、ちょっと待って、これまさか……」

「あくあ君の手捏ねハンバーグだと!?」

「見て、ハンバーグを摘んだカノンさんの箸を持つ手が震えてるわ」

「ペゴニアさん、わざとらしくハンバーグたべるのを見せつけてくるぅ〜!」

「ミニハンバーグ20個か、クラス全員が食べるには足りないわね」

「さりげに今、とあちゃん2個取ったわよ!」

「残り18個、悪いけど私、最初から肉にいかせてもらうわ」

「どうやらお作法で鍛えたこの私の華麗なる箸捌きが本気を出す時が来たようね」

「昨日の味方は今日の敵、恨みっこなしよ」

「ふっ、ガキどもめ。私が狙うのは最初からおにぎりのみ!」

「あくあ君の塩おにぎり……ゴクリ」


 俺の箸先がタコさんウィンナーをつまむ直前に、ポケットの中に入れてたスマートフォンが振動する。


「ん?」


 誰だろう? さぁ、今から飯を食うぞと思ってたら電話が鳴ってびっくりした。

 俺はよく発信者名を見ないまま電話を取る。


「じゃじゃーん! あくあ君の芸能界のお姉さんこと、小雛ゆかりさんだよー」


 俺は受話器のボタンをフリックして電話を切った。

 なんかちょっとうざかったから思わず切っちゃったけど、ゆかりさんだしまぁいいか。

 さてと、飯、飯! 後でかけ直せばいいよなと思ってたら、また着信があった。


「ちょっとぉ! 今、ふっつーに電話きったでしょ!?」

「……ただいまお掛けになった電話番号は現在使われておりません。ご用件のある方はピーッという発信音の後」

「あのさぁ、どうせ誤魔化すなら、現在使われてないのか、留守電なのかはっきりして! 雑い、色々と雑い。そしてお姉ちゃんの扱いがすごく雑い!! しくしく、ゆかりお姉ちゃん泣いちゃう」

「……今からみんなで弁当食べるんで、真剣に切っていいですか?」


 はっきりいって俺だって普通にゆかりさんから電話がかかってきたらこんな対応はしてない。

 でも受話器を取った瞬間から、ゆかりさんの声と喋り方はどこか作ってる感じがした。

 だってあの人、本当に重要な話の時とか、普通の電話は全然トーンが違うもん。

 その違和感が引っかかって、俺もあえてそのコント調の演技につきあってる。


「待って待って待って、お弁当とゆかりさんだよ? あくあ君はどっちが大事なのよ!」

「弁当っす」


 俺はわざとらしく弁当箱の蓋をガチャガチャと鳴らす。


「あっ、あっ、今、お弁当箱を開ける音がした! あくあ君ってば本気でお弁当優先させるつもりなんだ? ふーん、そういう話なら、生放送で色々やっちゃおうかなぁ? お姉さんを本気にさせたこと、後悔させてあげるんだもんねー」


 生放送? どういうこと? こんな日中のお昼に生放送とか、あの人、一体何の番組出てるんだ?


「お兄様、そんな意地悪しないで、いつもみたいに沙雪のお願いを聞いてはくださらないのですか?」

「何を言っているんだい沙雪、兄様が沙雪のお願いを聞かなかったことなんてないだろう?」


 受話器の向こう側から複数の甲高い歓声が聞こえてくる。

 やっぱりゆかりさんは何かの番組に出演しているようだ。

 あっぶな。この人、こっちが整ってないのに、いきなり振ってくるからマジで困る。

 さっきまで目のあったタコさんウィンナーにニヤニヤしてた顔から、一気に一也の雰囲気にするのは大変なんだぞ!


「まぁ! さすがはお兄様ですわ。それじゃあお電話代わりますね」


 ゆかり先輩は相変わらずフリーダムだな。

 流石にここまでくると、鈍い俺でも何のテレビの何の企画かわかってしまった。


 笑っていいですとも!


 平日のお昼に毎日やってる超ご長寿番組。

 その中の1つのコーナー、テレフォンショック。

 芸能人や文化人、スポーツ選手など、友人同士で電話を繋いで日替わりでゲストが変わるコーナーである。

 あれ? ゆかり先輩って芸能界に友達いたっけ……? あっ……いや、そこは深く考えないようにしよう。大人の事情ってやつだ。

 それと聞いてた話だと、普通こういうのって事前に事務所に連絡があって、もっと前に出演が決まるはずなんだけど、いきなりかけてくるところがさすがというか何というか……。

 いや、ゆかり先輩は阿古さんと知り合いだからそこの連絡は終わってるけど、敢えて俺には伝えてなかっただけなのかもしれない。うん……悪戯好きのあの人なら普通にあり得る。


「うぇっへっへっ、どうもお久しぶりです。守田です」

「お久しぶりです守田さん。今日は妹の沙雪がお世話になってます。沙雪がご迷惑をお掛けしてませんか?」


 受話器の向こうから再び甲高い歓声が聞こえてきた。

 ドラマ始まったばかりだし、同じ放送局だからこそ、こういうサービスは必要だろう。


「いやぁ〜、やっぱすごいね君。今日もやってるねぇ! ところでさっきお弁当って言ってたけど、もしかしてまだ学校?」

「はい、普通に学校ですよ。ちょうどお昼休みの時間です。かけてくるのがちょっと早かったら授業中だったから、出られなかったかも……だからタイミング的にはばっちりでしたね」


 テレビの画面は見れないけど、守田さんの隣で視聴者に向けてドヤ顔してる小雛さんの顔が思い浮かぶ。

 くっそ、なんかイラっとするのは俺だけだろうか?


「へぇ、真面目に学校行ってんだ。偉いね〜。そういえばクラスメイトに、猫山とあ君と、黛慎太郎君がいるんだっけ?」


 誰かが俺の肩を叩く。そちらに振り向くとペゴニアさんがカンペを出していた。

 ここはスタジオか!


 【スピーカーに切り替えていいですよ】


 周りの様子を見ると、クラスメイトのみんなが手で口を塞いでうんうんと頷いていた。

 悪い……違和感に気がついた時に、俺が気を遣って出て行くべきだったかも。でも今回は皆の厚意に甘えてスピーカーに切り替える。


「お久しぶりです。守田さん。ベリルエンターテイメントの黛慎太郎です。この前はお世話になりました」

「どうもどうも、黛くん最近メガネ変えた?」

「いえ、特には変えてませんが……」

「うぇっへっへっ、黛くんは真面目だねぇ」


 慎太郎……そこは逆に、守田さんグラサン変えました? とか、実は普段かけてないんですよ、とか、えっ? 守田さん僕の姿見えてるんですか!? って言って慌てたりした方がいいと思うぞ。

 でも、スマートフォンからは笑い声が聞こえるから、これはこれで慎太郎っぽいからいいのかもしれない。


「黛くんはあれ、国語の授業とか好きなんじゃない?」

「はい。よく分かりましたね守田さん。流石です」

「いやぁ。多分きっと黛くんのファンならきっとみんなわかってるよ。うんうん、これからも大変だろうけど作詞頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」


 慎太郎の会話が終わると、とあが机の上に置いたスマートフォンに近づく。


「守田さ〜ん! 猫山とあです。この前はありがとうございました……もぐもぐ」

「お久しぶりです守田です。あれ? とあちゃん今、なんか食べてなかった?」

「あっ、はい。なんか、あくあがお弁当いっぱい作りすぎちゃったみたいなんで、クラスのみんなと一緒に食べてまーす」


 うぉっ!? スマートフォンが壊れるんじゃないかというほどの甲高い悲鳴に思わず耳を塞ぐ。


「んなこたーないよ! って、えぇっ!? 本当に? それって、あくあ君の手作りお弁当ってことなのかな?」

「ふぁい、そうでふよ〜もぐもぐ」


 再び悲鳴に近い声が聞こえてくる。

 とあ、わざととはいえ、流石に食べながらは行儀が悪いぞ……。

 どうせ会場のお客さんがお昼を食べられてないのをいい事に、見せつけるように食べてるんだろうな。

 そりゃみんな悲鳴をあげるよ。俺だって一刻も早くタコさんウィンナーを食べたい。

 タコさんも、そんなつぶらな瞳で俺を見てもダメだぞ。俺は確実にお前を最初に食う。そう心に決めている。


「あっ。そういえばクラスメイトと言えば、アヤナちゃんも同級生じゃないの? クラス違ったっけ?」


 守田さんの声を聞いて、俺が狙っていたタコさんウィンナーを摘んでいたアヤナは、口の中に入っていた物を飲み込んで俺の机に近づいてくる。


「守田さん、この前はうちのメンバーがお世話になりました」

「最近調子いいよね。eau de Cologne、今度新曲出すんだって?」

「はい。月9の挿入歌にもちょこっと使われたりするんで、楽しみにしててください」


 アヤナは一呼吸置くと、パッと雰囲気を変える。


「沙雪、あんたには負けないんだからね。選挙も……それに、もう一つの方もね!」

「莉奈さん……ええ、わかってますわ。でも私だって負けませんから、生徒会選挙も……この秘めたる恋も!」


 受話器から大歓声と拍手が聞こえてくる。

 月9はちょうど第2話が終わったあたりかな。全12話なので今のところ放送日程に変更がなければ12月に最後の放送を迎える予定だ。

 初回の視聴率はかなり良かったと聞いているから、このまま伸びてくれると嬉しいな。


「いやぁ、みんなプロだねぇ。サービス精神旺盛すぎるよ。あくあ君いる? お弁当食べてたりしない?」

「はいはい、いますよ。心配しなくてもちゃんと食べずに待ってますから安心してください」


 というか頼む。早くしてくれ、そもそもテレフォンショックの中でも一つのコーナーでしかないここのコーナーに、こんなにも時間を使っちゃダメだろ! 早く俺にお弁当を、目の前のタコさんウィンナーを食わせてくれ!!


「それじゃあ、わかってると思うけど……明日の夜、いいかな?」

「ん〜、予定があえば行きます」


 俺が敢えていつもの返し言葉を言わないと、受話器の向こうから観客席の笑い声が聞こえてきた。


「明日の夜、出てくれるかな〜?」

「スケジュールどうだったかなぁ?」


 わざとらしくノートを捲る音を入れて、スケジュール帳を見てる振りを装う。


「わかったわかった。みんなで待ってるから、来てくれるかな?」

「後でマネージャーに確認して、折り返し電話しますね」

「ちょっとぉ、そこは、いいですともーでしょ!! ごめんなさい。うちのあくあが全然わかってなくて、今度キツく言っておきます」


 さすが、ゆかりさんはわかってる。3回目でちゃんと突っ込んでくれた。

 そして俺はこの展開を生かして、ゆかりさんに仕返しを試みる。


「守田さん助けて、ゆかり先輩がいじめます」

「あくあ君!? 君がそんな事を言ったら洒落にならないんだけど!?」

「はは、冗談ですよ。それと……」


 俺は再び白銀あくあから、自らが演じる佐田一也へと憑依する。


「俺に相談せずにいきなりかけてきた悪い沙雪には、兄としてちゃんとお仕置きをしないとね」


 ふふふ、してやったり!

 受話器の前で悔しがってるゆかり先輩の顔が思い浮かぶ。


「あくあ君、あんま先輩をいじめちゃダメだよ。今すごく悔しそうな顔してたから許してあげて」

「はい、いいですとも……あっ」


 あっ、油断していいですともって言っちゃった。


「うぇっへっへっ、まだ詰めが甘いねあくあ君。そういう訳で皆さん、明日の緊急スペシャル特大号のゲストは、白銀あくあさんです。今日のゲストは、小雛ゆかりさんでした。はい、拍手〜」


 くっ……さすがは何十年と、この番組の司会をやっているだけのことはある。

 完全にしてやられてしまった。俺はガックリと項垂れる。

 この戦いを制したのは俺でもゆかりさんでもない。守田さんだった。


「あくあ、項垂れてるところ悪いけど、もう残り時間ないよ?」

「えっ?」


 うわあああああ、本当だ。大事な大事なお昼休みがもう終わってしまう。

 俺は電話を切ると、慌てて弁当のご飯を掻き込む。ちなみに用意したお重の方はいつの間にやら完食状態だった。

 なぜかクラスメイトの女子達とカノンは、譫言のようにお仕置きと呟きながら俺の方を見て固まっている。

 あれ? みんなどうかしたの?

 5時間目の授業は先生が開口一番授業にならないと何故か自習になったので、俺はゆっくりと残りの弁当を食べた。

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