白銀あくあ、OHANASHIからのWAKARASE
山、それは一言で言うとロマンである。
何故人は山に登るのか? そう問われたとある登山家はこう答えた。そこに山があるからだと。
大きくて包み込むような暖かな気配と優しさ、母なる大地の偉大さを肌で感じる事ができる山は素晴らしい。
だが、もしその山が1つではなく、いくつもの大きな山が連なっていた場合はどうだろう?
大きな山が3……いや6つも並んでいるのだ。それを見て心が躍らない男などこの世にはいない! そう、ただの1人としていないのであるっ!!
「えっ?」
家に帰ってリビングに入った瞬間、俺は固まってしまった。
カノン、ペゴニアさん……まではいい。でも、何故そこに深雪さんがいる?
「し、失礼しました」
俺は慌ててリビングから退散する。
本音を言うと俺だってそこに混ざりたい。普通に、やあとか言ってソファに座ってじっくりと優雅に神々しい山々の景色を堪能したいけど、そんなことが許されるはずがないだろう。
いくら一夫多妻が認められているとはいえ、俺の妻はカノンだ。
それなのに脳裏に焼き付くほどの深雪さんとペゴニアさんの大きなものが、俺の頭の中にずっとふわふわと漂っている。
くっ、こんなことだから俺はダメなんだ! 夫として、1人の男として、カノン以外に反応しちゃダメだろ! 俺は自分にそう言い聞かせる。
そもそもリビングが騒がしかった時点で気をつけるべきだったのだ。
白龍先生の時も、俺の身体能力を持ってすればかわせたはずなのに、されるがままに受け入れた俺の心の片隅に、浮気性な心があったのは否めない。
あの後、白龍先生からは、急にあんなことしてごめんねと連絡が来たけど、そもそもの話、既婚者なのに綺麗な年上のお姉さんにデレデレしてしまった俺が悪いのである。いくらあの夜の白龍先生が普段と違っていつもより良い匂いがしてたり、髪が綺麗で顔だってメイクのせいか普段よりセクシーだったり、いつもはかけてる眼鏡がなくて、普段着てる動きやすい格好と違ってスレンダーなスタイルがわかる服装をしていたとしてもだ!
「あくあ、ごめんね。帰ってきたことに気が付かなくて……」
「あ、いや、俺の方こそごめん」
服をちゃんと着たカノンが呼びにきたので俺はリビングへと戻る。
さっき何があったのか聞きたかったが、もちろんそんなことは自分からは聞かない。
それが夫としての、いや、男としてのマナーだ。ただ……カノン達の方から言ってくれるのなら、俺はいつでも正座をして聞く準備はできている。そう、重要なことだからもう一度いうが、俺は聞く準備ができてるから、さっき何をやっていたのか、その詳細をいつでも話してくれて良いんだぞカノン!!
もちろんそんな俺の邪な心が、純粋で心の綺麗なカノンに伝わるわけなどない。そもそもの話、そんなことを考えるからダメなんだよなというさっきの話に戻る。
「お邪魔しております。白銀様」
「お久しぶりです、深雪さん」
俺と深雪さんが挨拶する後ろで、ペゴニアさんが手に持っていたカンペを捲る。
【さっき、なんであんなことをしてたか知りたくありませんか?】
そんなの知りたいに決まってるだろ!! 知りたくない男なんているかよ!!
はっ!? だ、だめだだめだ! つい本音が漏れてしまいそうになる。
ペゴニアさん、頼むから小学生のように純粋な俺の心を惑わせないでくれ。
「白銀あくあ様、カノン様、改めてご結婚おめでとうございます。本来、新婚のお二人のところに、すぐにお邪魔するのはどうかと思ったのですが、白銀様……ああ、これでは少し分かりづらいですね。あくあ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん大丈夫ですよ」
俺がそう答えると、深雪さんは軽く咳払いして姿勢を整える。
相変わらず座ってる時の姿勢が綺麗で、ついつい見惚れてしまう。
桐花さんやカノンの姿勢も綺麗だが、深雪さんも負けず劣らず姿勢が綺麗な人だ。
「それでは改めまして、あくあ様の今月のご予定を確認させていただいたところ、ハロウィンイベントの出演、並びにその前の文化祭行事へと参加する意向をお伺いしていることから、今日は事前にご連絡した通り予定よりもお早めに伺わせていただきました」
あ、あぁ、そういえばそういう話になってたけど、それって今日だっけ? 明日じゃなかった?
改めて送られてきたメールを確認すると確かに今日になっている。しかしスケジュールに書かれていないところを見ると、多分メールが送られてきた時は忙しくて、返事だけしてスケジュールに記載する事を忘れてしまっていたのだろう。
メールをやりとりしていた日付を見ると、その頃は引っ越し作業とかCRカップがあったりとか、ハロウィンイベントの打ち合わせとか準備で忙しかった頃だ。でもそれを言い訳にはしない。何故なら、その事を忘れてメモしなかった俺が間違いなく悪いからだ。
「あぁ、そうでした。深雪さん、せっかく約束していたのに予定の時間に遅れてすみません。カノンも、事前に伝えておくべきだったことなのにごめんな」
俺は立て続けに2人に頭を下げる。
「いえ……あくあ様はお忙しい身ですし、仕方のない事です。それに遅れたといっても何時間も待たされたわけではないですし、お仕事の関係で十数分遅れただけのこと、さしたる問題ではありません」
例えそうだったとしても、仕事では数分の遅れで大きなプロジェクトの交渉が一瞬で吹き飛ぶこともある。
俺は改めて気が緩んでいたことを深雪さんに謝罪した。
「私も、あくあは忙しいのだから、もっと妻としてちゃんとサポートするべきだったのに……昨日は倒れてごめんなさい」
俺はカノンに対しても、倒れた事は気にしなくていいよという。
その一方でこれからは何かあるといけないから、俺の予定は全部カノンに知らせる事を約束し、自分の携帯の中のスケジュールアプリに記された予定表をそのままカノンの携帯に転送した。
「あ、あくあの、アイドル白銀あくあとしての予定が、わ、わわわ私のスケジュール帳に……」
「お嬢様しっかりしてください。ほら、ちゃんと口の端からこぼれ落ちかけてる涎を拭いて、見せてはいけない乙女の部分が出ていますよ」
何故か携帯を拝むように見つめるカノンと、コソコソと耳元で囁くペゴニアさん。
同居してわかったけど、この2人は本当に仲がいいな。
カノンは実の姉妹とも少し距離を感じるくらいのよそよそしさがあったけど、ペゴニアさんに対しては100%と言って良いほど完全に甘えきっている。ペゴニアさんも私はお嬢様の侍従ですからと言っていたけど、俺から見ると甲斐甲斐しく妹のお世話をしているお姉ちゃんにしか見えない。
一見すると微笑ましい光景だけど、たまに、どうです? 私の方がお嬢様と仲がいいでしょうと、マウントとってくる時のペゴニアさんのニヤリとした顔はイラッとする時がある。あの笑顔を見ると、いつの日か俺の方がカノンのことが好きなんだぞわからせてやりたい。
例えば俺とカノンのイチャイチャ新婚ライフをペゴニアさんの目の前で繰り広げて、俺の方がカノンと仲がいいんだぞというところを見せつけてやるんだ!
「先ほど奥様にも少しだけお話しいたしましたが、今日は今後の生殖細胞の採取についてご相談に参りました」
生殖細胞の採取と聞いてドキリとする。
月に1度の義務、俺はカノンと付き合ってからは深雪さんにしてもらってはいないけど、その前はずっと深雪さんにしてもらっていた。
今さらその事を言ってもどうしようもないが、カノンは俺がそういう事を他の女性にされていると聞かされて嫌じゃないのかな? 俺はカノンの様子を伺うように、その表情をチラリと見る。
「お、おくしゃま……はわわわ」
カノンは両手を口に押さえて顔を真っ赤にしていた。
あのさ……カノン、そういう反応されると可愛いし、グッと来るけど、これから大丈夫なのかどうかちょっとだけ心配になる。本物のお姫様であったカノンは箱入り中の箱入りなんだろうけど、俺だってアイドルとはいえ健全な男子校生だしな。
「ご存知の通り現在の採取方法は自分でしていただくか、担当官の補助を伴った採取のどちらかが選択できます。しかしあくあ様はご結婚なされたので、これからは配偶者に採取業務と管理を引き継ぐ事ができるという事を先ほど奥様にお伝えしました。その後も担当官である私の立場は変わりませんが、私はあくあ様ではなく奥様と採取に関する業務の事についてご連絡を取り合う事になります」
少し悲しげな表情をする深雪さんの顔を見て、前回の事を思い出す。
俺の事を好きだと言ってくれた深雪さん、でも俺はその時にはカノンと付き合っていて、深雪さんとも付き合うことは裏切りだし、人として許せない行為だと思っていた。
一夫多妻は合法であるということを知った今も、俺はカノンが悲しむ事はしたくない。それが俺の本音であり、それくらいカノンの事を愛しているのである。
「でも……私は、あくあ様とのご縁を切りたくはありません!」
深雪さんは力強く、はっきりとそう言うと、ソファから降りてカノンの前で土下座した。
ちょっ、ちょっと深雪さん!?
「お願いです奥様! 私にチャンスをくれないでしょうか? 既に私の気持ちはあくあ様に伝えております。その時にあくあ様は、奥様の事を傷つけたくないからその気持ちには応えられないと言われました」
深雪さんはこれでもかと、地面におでこを擦り付ける様に頭を下げている。
「こんな私如きが何を期待しているのかと思うかもしれません。しかし……しかし! 白銀様は私に魅力がないからという理由で断ったわけではないのです。それだったらこんな私にもチャンスがあるのではないかと、分不相応にも期待してしまいました。お願いします。こんな事を頼める立場ではございませんが、もうこれが私にとって最初で最後のチャンスだから……見苦しく足掻く事をお許しいただけませんでしょうか?」
深雪さん、そんなにも……そこまで、こんな俺の事を好いてくれていたのか。
白龍先生もそうだったが、2人が俺にぶつけてきた気持ちは間違いなく本物だった。
それなのに俺はカノンを言い訳にしてきたのではないか、自らのズルかった部分に向き合わされる。
だから白龍先生はあの時、カノンを言い訳に断ろうとした俺を見抜いたからこそ、ああいう止め方を本能でしたのかもしれない。
あの後の白龍先生の顔は今でもよく覚えている。
ちゃんと私を見て断って……。カノンさんを言い訳に使わないでと言っているみたいだった。
そんな白龍先生の真剣な気持ちに対して、俺がしようとした答えは……ああ、なんて最低なんだろうなと今になって気付かされる。白龍先生があの時止めてくれなかったら、そして目の前の深雪さんがこうまでして足掻いてくれなかったら、俺は2人の女性を不幸にするところだった。
2人の気持ちをちゃんと断るなら、俺はカノンを理由にするんじゃなくて、ちゃんと自分の気持ちで断らないといけなかったのである。
「顔を上げてください、深雪さん。貴女の気持ちは痛いほど伝わっています」
カノンは深雪さんに寄り添うと、もう一度ソファに座る様に促す。
「深雪さん、私はあくあの事が好きです」
「はい……でも私もこの気持ちを諦めたくはありません」
見つめ合う2人、その視線はどちらも真剣そのものだった。
「それじゃあ私があくあを独占したいって言ったらどうする? 私、本当はあくあの事が独占したくて仕方がないの。本当はね、この前だってドラマを見て、妹役の小雛さんに優しくしただけでも嫌って思ったもん」
「すみません……それでも私は諦めたくありません。何故なら奥様のその気持ちは、ただの担当官にしか過ぎない私にも理解できる事だからです。あくあ様はこんな私にも女の子扱いをしてくれました。そんな人の担当官に、自分以外の人がなる事を想像したら……それだけで胸が苦しくなってしまいます。あくあ様にとっては、それは普通のことで、誰に対してもそうであったのかもしれませんが、私にとってそれは自分の人生を変えるくらい特別な事でした」
深雪さんに対して自分がしてきたことが、そんなにも影響していたなんて全然気が付かなかった。それに気が付かなった自分の鈍感さを悔やむ。もっと早く、俺が深雪さんの苦しみに気がついてあげられればと思った。
カノンは深雪さんの思いの丈を聞くと、少し表情を和らげて優しげな笑みを見せる。
「うん、そうだよね。それにあくあは優しいから、きっと私がその事を伝えればきっとそれを叶えてくれるって事が心のどこかでわかっているんだよね。もしかしたらドラマだって、女性との絡みがない役にしてくださいっていうかもしれないし……でも、でもね、それじゃあダメなのよ」
カノンは俺の方へと顔を向ける。
その時のカノンの表情は同級生の女の子たちと比べると少し大人びて見えて、俺はドキドキした。
何故かその奥でドヤ顔をしていたペゴニアさんはうざいのでスルーします。
どうです。私のお嬢様はかっこいいでしょう? なんて思ってるんだろうけど、そんなの言わなくても俺だって知ってるよ!! あぁもう、せっかくカノンがかっこいいシーンなのに集中させてほしい。
「私以外の女の子が、あくあの事を好きになる事を私は否定しません。なぜなら私だって、深雪さんと同じで、彼に恋をした仲間だから、その気持ちは痛いほどに理解できるんだよね。だから……だからね、あくあには、私の我儘かもしれないけど1人ずつ女の子に真剣に向き合って欲しい。その上であくあがその人と結婚したいって思ったら、してくれていいんだよ」
カノンは俺の両手をとって、にこやかな笑みを見せる。
「その代わり……これは私の我儘だけど、私のことはずっと1番に好きでいてほしいな」
「カノン……」
俺はカノンの手をぎゅっと握り返す。
2人の手のぬくもりが均一化されていくように、俺とカノンは向き合ってお互いの本音を包み隠さず曝け出した。
「俺が1番好きな女性はこれまでも、これからもずっとカノンだよ。でも、だからってカノンを言い訳にして他の女性の気持ちから目を逸らしちゃダメだってわかったから、これからはちゃんと向き合って、その上で答えを出そうと思う。それでいいかな?」
「うん、ありがとうあくあ。あっ……でもね、アイドル白銀あくあとしては、今まで通り、みんなに幸せを届けてあげてほしいの。それで救われた人や、これから救われる子はきっといると思うから、だから自重しようだなんて思わずに、今までのようにあくあのやりたいことを思い切ってやってほしい」
俺はカノンの言葉に頷くと、そのまま彼女の事をギュッと抱きしめた。
改めてカノンが俺の奥さんでよかったと思う。
「わかった。自分でも頑張ってみるけど、俺は自分でも思ってた以上にダメな男だから、これからカノンが少しでも不安な気持ちになったらすぐに俺に言ってほしい。俺も自分の中だけで勝手に結論を出すんじゃなくて、これからは何でもちゃんとカノンに相談するようにするから。逆にカノンも何か少しでも思う事があったら、同じように俺に思っている事や考えてることを打ち明けてほしい。カノンの話を聞かせて欲しいって俺はいつだってそう思ってる。カノンはそれでいい?」
「うん。ありがとう、あくあ」
俺はカノンの体からゆっくりと離れていく。
夫婦になったのなら奥さんのカノンさんにちゃんと話し合いをするんだよ。なんでも勝手に自分で決めちゃダメだからねと、今日のお昼休みに2人きりになった時に、とあに言われた事を思い出す。
とあは友達として、俺のそういう部分にそこはかとなく気がついていたのだろう。あいつにはまた心配をかけてしまったな。今度、学校の帰りにクレープ奢る約束してたけど、トッピングマシマシにして感謝をするしかないなと思った。
「深雪さん」
カノンは1人、ソファから立ち上がると深雪さんに近づく。
そして深雪さんが膝の上で硬く握りしめた拳を優しく解いて、自らの両手で包み込む。
「深雪さん。あくあが嫌がったりしてないのであれば、あくあの妻として、私からあなたの行動を咎めることはしません。私があくあに対してストレートにこの人と結婚したら、付き合ってみたらなんて進言する様な事はできないけど、同じ人に恋をした乙女の1人としては貴女の健闘を祈るわ。頑張って」
「あ、ありがとうございます……奥様っ」
涙を流す深雪さんを抱きしめるカノンを見て、ほんわかとした気持ちになる。
やっぱり女の子同士のこういうのはいいなぁ。カノンと桐花さん、森川さん、えみりさんの関係を見てても、すごく仲が良さげだし。前の世界じゃ女同士の友情なんて幻想だと先輩に言われたけど、この世界の女の子たちは男の数が少ないからといって競い合うというよりも、お互いに頑張ろうねって感じのスタンスの人が多いように思う。
そんな2人の姿を温かな目で見つめる俺のそばに、ペゴニアさんが音もなく近づいてきた。
「やっぱりアレですか? 旦那様はこの肉の塊が良いのですか?」
はー……人がせっかく心穏やかにしてたのに、この人はほんともう。
ペゴニアさん、そんな持ち上げるようにしてタプタプしなくてもいい……って! ちょ、ちょっと待って、その柔らかそうな自然の弛み、ま、まさか……! 着けてないだと!? ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ。それもしかして……ゴクリ、ペゴニアさんの自然なうねりに、俺の目線が当たり前のように吸い寄せられていく。
「あくあ」
「あくあ様……」
はっ!?
振り返ると、ペゴニアさんと同じ様な仕草をする深雪さんの姿と、悲しそうに自分のものと他の2人のものを見比べるカノンの姿があった。
何やってんだ、バカヤロウ!!
俺は自分の頬を勢いよく叩いた。とはいっても、アイドルなので腫れたりしないように、仕事に支障をきたさない程度に加減はする。
「あくあ!?」
「あ、あくあ様!?」
「旦那様!?」
自分で叩いたほっぺたがいてえ……でも、この痛みは当然の裁きだ。
俺はソファから立ち上がると、そっとカノンに近づく。
「カノンのも十分大きいから」
「えっ?」
はっきり言ってカノンのサイズは理想的だ。
平均より大きくて、掌にちょっと収まらないくらいのサイズ感がちょうどいい。
揉み心地もあるし、実は着衣した時の膨らみの形が1番グッとくる理想のサイズ感なのだ。
「俺はカノンのが1番好きだ!」
「う、うん」
大事なことはちゃんと伝える。そう約束したからこそ、俺は誤魔化さずに全てをカノンに伝えることにした。
恥ずかしがるなよあくあ。そうTENGA先輩に言われてる気がする。
そして素直になれと、慎太郎に肩を叩かれたような感じがした。
とあ、慎太郎、TENGA先輩……いや、天我先輩。
ありがとう……! 俺は、白銀あくあはもう大丈夫だ!!
「でもな……あれは反則だ。深雪さんとか、ペゴニアさんとか、桐花さんとか、えみりさんとか、黒上さんとか、それが目の前に転がっていて見ない方が無理なんだよ。いや、むしろああやって見せつけられたら、見ない方がマナー違反、失礼じゃないのかとさえ思う」
「そ、そうなんだ……って、あくあ、えみり先輩とか姐さんとか、同級生の黒上さんの事もそんな目で見てるんだ。ふ、ふーん、そっかー、やっぱり大きいのが好きなんだ……」
こんなこと、普通なら言うべきじゃないのかもしれない。
でも俺は今回の一連の事でよくわかった。俺は……そう、俺はすごく鈍感なのである。
それが原因でカノンとすれ違うのは嫌だし、最悪、別れることになったら、想像しただけでも絶望しかない。
だから俺は包み隠さず全てをカノンに言おうと思う。それが俺なりの彼女へ見せる誠実さだ。
「だけど安心してほしい。俺にとってのナンバーワンはカノンだから。今だって本当は触りたいと思ってるし、あの夜から、いや! 初めて会ったあの日から、触ってみたいと思ってた!! 最低かもしれないけど、これがアイドル白銀あくあとしてではなく、ただの1人の男、ただの純粋な男子学生としての俺、白銀あくあの気持ちだ」
「わ、わわわわわ私のがあくあにとって1番……そっ、そっか〜、えへへ、そうなんだぁ」
顔を赤らめたカノンは、少し蕩けた表情でだらしなく笑みを浮かべる。
なんだろう。さっきまでキリッとしてたのに、ちょっと蕩けた感じのカノンの表情がなんとも言えないほどに可愛い。うん、やっぱり俺はこういうカノンが好きだ。いや、かっこいいカノンも好きだけどね。
あぁ、ほっぺたをぷにぷにしたくなる。
「なるほど、それでしたら3つ全てを1度に味わってみるのはどうでしょう?」
「「「えっ!?」」」
俺たち3人の視線がペゴニアさんに釘付けになる。
この人はせっかくいい感じに纏まろうとしていたのに、一体何を言ってるんです!?
「幸いにも、旦那様は今日そういう日なのでしょう?」
ペゴニアさんはにっこりと微笑むと、見覚えのあるアノ器具に頬擦りする。
深雪さんの方を見ると、いったいいつの間にと小さな声で呟いていた。
やっぱりアレは俺がいつも使ってるアレなんですね。
ペゴニアさん、メッ! ちゃんとそれは深雪さんに返しなさい!
「お嬢様も妻として採取義務について詳しく知っておく必要がありますし、私も白銀家の筆頭メイドとして詳しく知っておく必要があると思うんです。あっ、言っておきますけど、私も旦那様の事が好きだから、これからはちゃんとそういう対応でお願いしますね。でも私は結婚という形に拘らなくてもいいですから。この体の所有権はお嬢様、つまり足の爪先からこの毛の1本まで全てはお嬢様の配偶者である旦那様の所有物。そんなペゴニアをどう扱おうとそれは旦那様の自由、そしてペゴニアは旦那様にそういう扱われ方をされても、お嬢様と同じくらい幸せを感じることができますから……ね」
ペゴニアさんの視線が、俺のとある一点を見つめる。
よく見るとカノンと深雪さんの2人も同じところを、じっと熱のこもった視線で見つめていた。
「あくあ様……」
「あくあ」
あっ、いつの間にやら俺の両横をカノンと深雪さんの2人が迫ってきていた。
あ、あれー、逃げられないぞこれ。
「旦那様」
目の前から迫ってくるペゴニアさんのプレッシャーに俺はたじろぐ事しかできない。
「え、あ、ちょっと……」
6つの神々しい山々に囲まれた盆地の俺に逃げ出す場所などない。
そう、これは仕方のないことなんだとそう自分に言い聞かせて、その流れに身を任せていく。
って、だめだろそれじゃ! 頑張れあくあ!! 立ち上がるんだあくあ!!
「旦那様はお嫌ですか?」
「いえ、全然嫌じゃありません」
俺は時の流れに仕方なく、そう仕方なく身を委ねた……。
全てが終わった後、俺はソファの上で体を丸めて1人縮こまる。
ぐわあああああ、色々とやらかしてしまった……。
「ところで、さっき話の途中になってたけど……」
カノンは身だしなみを整えると、全員の顔を見渡す。
「さっきのを見る限り、あくあって私以外の女の子にも問題なくできるみたいだし、私以外の人とこういうことをするのも、あまり重く考えずに受け止めてほしいの」
「う、うん……」
前世の常識で言えば浮気になるのだろうけど、さっきカノン以外の2人、ペゴニアさんと深雪さんで性欲を発散させてしまった自分が言う資格なんてあるわけがない。ずっと溜めていたから仕方がないなんて言い訳は通用しないのだ。
「もちろんそんな急に結婚しろっていうわけじゃないけど、あくあのペースで、もっと気軽に考えた方がいいんじゃないのかな?」
気軽……そうか、気軽にか。
今思えば、この世界に来てからずっと肩肘を張っていたような気がする。
阿古さんにもいっぱい仕事ぶち込んでくださいとお願いしてたし、前世では早死にしてしまったせいで俺は生き急いでいたのかもしれないな。
「でも……いいなって思った女の子がいたら、まずはちゃんと私に相談してほしいな。だって私が1番目の奥さんなわけだし。だから私の知らないところで、知らない女の子と仲が進行するのはちょっと嫌かも……」
「わかった。ありがとうカノン」
俺はカノンのことをギュッと抱きしめる。
やっぱりカノンと結婚してよかったなと思った。
こんなにも俺のことを考えてくれるカノンをもっと幸せにしたい。
そのためにも、これからはちゃんとなんでもカノンに相談しようと思った。
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