白銀あくあ、波乱の新居生活と転校生。
この土日は本当に色々あった。
CRカップの優勝から始まり新居の準備、そして夜の白龍先生との食事会……。
白龍先生から告白されたりキスされたりするとは思わなかったから、あの出来事には余計にびっくりした。
そもそも奥さんがいるのに反応しちゃった俺が悪いし、深雪さんとの事もあったのに俺があまりにも警戒心が薄かったせいだと思う。カノンにも申し訳ない気持ちでいっぱいだから、今晩、同居を開始する時にちゃんと謝らなきゃな。
「一夫多妻制か……」
あのあと、家に帰ってから色々と調べた。
この世界は一夫多妻が普通にあり得る世界で、近親婚も含めて母さん達が冗談で言ってるわけじゃない事を知る。実際に家族と結婚している男子が多いということも、検索してみて実際の実例などをみて自分なりに勉強したつもりだ。
あの夜、ユリスが来れなくなって、俺は一緒に新居で準備をしていたカノンに相談する。2人きりの食事になっちゃうからカノンが嫌だったら断るよと言ったら、カノンから返ってきた答えは意外なものだった。今にして思うと、その反応はすごくあっさりしていたと思う。
「ん? 別にいいけど、それがどうかした?」
最初は信頼してくれているのかな? それともカノンは、そういう事で嫉妬したりとか色々考えるタイプじゃないのかなと思ったけど、どうやら根底にある考え方というか常識自体がそもそも違ったのかもしれないと感じた。
俺は今は自宅にいるけど、カノンとは今晩から一緒の新居で暮らす予定にしており、学校から帰る時には実家ではなく新居へと帰る予定にしてある。
ここら辺の話についても、今晩、ゆっくりとカノンと話し合えたらいいなと思った。
俺はそんな事を考えながら、迎えにきてくれた送迎の車に乗り込む。
「おはよー、あくあ」
「おはよう、とあ」
学校に到着した俺は、下駄箱の前で遭遇したとあと一緒に自分のクラスへと向かう。
二学期からとあが学校に通うようになってから、こういう光景も珍しくなくなった。
それにしても慎太郎やクラスの女子より、とあとの下駄箱遭遇率が高いのは俺の気のせいか?
「ハロウィンフェスの話聞いた?」
「あー……うん、今回のも面白そうですごく楽しみにしてるよ」
俺がそう答えると、とあが俺の前に回って、下から覗き込むように俺の顔を見上げる。
「なんか、心ここに在らずって感じだけど大丈夫? 僕、今回のフェス結構楽しみにしてるんだから、疲れてるならちゃんと休みなよ」
「はは、悪い。引っ越し準備とかCRカップとか色々あって、まだ疲れが抜けてないのかも。でも大丈夫、本番にはまた気合い入れるから」
とあに言われて、ちゃんとしないとなと思った。
確かに疲れてるのも少しはあるかもしれないけど、白龍先生や深雪さん……それに胡桃さんともか、彼女たちからの真剣な告白を改めて考えてしまって、そっちに気を取られすぎちゃってたのかもしれない。もちろんそっちはそっち、こっちはこっちで、どっちもちゃんと向き合わなきゃいけないけど、仕事が疎かになるのはだめだと思った。
とあはこういう時、必ず気がついてくれるから本当にありがたい。
「慎太郎、おはよー」
「おはよう、慎太郎」
「あくあ、とあ、おはよう」
クラスに入ると、既に登校していた慎太郎が和菓子の本を読んでいた。
「どうしたのそれ?」
「あぁ、僕とあくあは茶道部だからな。今度の文化祭、茶道部としても手伝わなきゃいけないだろうから、和菓子の知識なんかもあったら面白いんじゃないかと思って、せめて知識面だけでもと本を読んで勉強しているんだ」
慎太郎は茶道部だけだが、俺は茶道部の他にも演劇部と、なぜか家庭科同好会にも所属している。
1学期の時はたまに顔は出してたけど、2学期はまだ1回も顔を出せてない。
「文化祭、茶道部はお茶会やるから、黒上さんがあくあも一回は参加して欲しいって言ってたぞ」
「了解。後で黒上さんと話してみるよ。あと演劇部の鷲宮さんと、家庭科同好会の胡桃さんとも……」
「あくあ、なんで1人でそんなに部活入ってるの? もしかして、馬……ううん、なんでもない」
ああ、いいんだよ、とあ。そうだよ、俺は基本的に馬鹿なんだよね。押しに弱くて結局、全部断りきれなかった。
いや、断りきれなかったのは胡桃さんの件のみだけど、茶道部も演劇部も面白そうだから入ったのはいいけど、すぐにアイドルとしての活動が始まっちゃって、部活に行くどころじゃなくなってしまったから部活のみんなには本当に申し訳ないと思う。
「あーでも、せっかくだから僕も部活入ろうかな。慎太郎が茶道部なら、僕は演劇部にしようかな?」
とあはそう言うと、自分の席に荷物を置いて鷲宮さんのところへと向かっていた。
今朝も少し思ったけど、学校での積極的なとあの姿を見たら嬉しくなる。慎太郎も最初は女の子に話しかけられたらオーバーヒートして保健室に行ったことが何度かあったけど、最近はそんな姿も見ない。それどころか普通にクラスの女子と会話してたりする。
確実に2人とも最初に出会った頃から変わってきてるんだなと強く思った。
「お前ら席につけ〜」
チャイムの音と共に教室に入ってきた杉田先生は、俺の顔を一瞬だけ確認した後、全員の顔を見渡す。
「今日はみんなに転校生を紹介します」
この時期に転校生? 二学期開始直後ならわかるけど、もう1ヶ月以上も経っている。珍しいな。
男子が転校してこないかなあとか、俺はそんな事を呑気に考えていた。
「それじゃあ中に入っていいぞ」
杉田先生に言われて教室の中に入ってきた人物を見て俺は固まる。
えっ……? カ……ノン?
「初めまして、白銀カノンです。メアリー女学院高等学校から転校してきました。これから卒業までの間、みなさんと一緒に楽しく過ごせたら良いなと思っています。よろしくね! ……あっ! その……できればだけど、立場とかそういう事は気にせずに、普通の同級生として気軽に話しかけてくれると嬉しいな」
カノンの挨拶にみんなが拍手する。俺もそれに釣られて慌てて拍手を送った。
ちょっ、ちょっと待って、なんでここにカノンがいるの?
しかも乙女咲の制服着てるし……。うん、メアリーの制服姿も見たかったけど、乙女咲の制服もいいな。というかカノンは何着ても可愛いと思う。コスプレしてた時もすごく可愛かった。
「まぁ、そんなに驚きがないところを見ると、みんな大体わかってたようだし安心したよ。まぁ、学生結婚したら妻が夫となる人の学校に来るのは当然のことだしな。流石にそんな小学生でも知っているような事を高校生になっても知らない事なんてあり得ないか」
すみません……。
小学生でも知ってるような事を知らないダメな奴ならここにいます。
それで昨日の夜に色々やらかしちゃったのが俺なんですよ……。
「カノン、君の席は白銀の後ろだ」
「はい、ありがとうございます。杉田先生」
俺はカノンが戻ってきても、ずっとメアリーに通うものだと思っていた。
だから今日、新居に帰ったらカノンとその事についてもちゃんと話をしなきゃいけないなと思う。
それこそカノンが好きで乙女咲に転校して来てくれているのなら良いけど、もしその常識のために嫌々転校したとかならすごく申し訳ない気持ちになる。
見てた感じはそんな雰囲気ないけど、俺の場合はちゃんと口に出してコミュニケーションをした方がいいと思った。
「へへ、来ちゃった。その様子だと、やっぱりわからなかったみたいだけど驚いた?」
「う、うん」
すれ違う時、カノンは立ち止まって俺の方へとにこりと微笑む。
そしてそっと俺の耳元に顔を近づけると、小さな声で囁く。
「少しはあくあに驚かされるみんなの気持ちがわかった?」
「はい……よく、わかりました」
カノンは俺に向けて少し悪戯っぽく微笑むと、そのまま俺の後ろの席へと移動して着席した。
「そういうわけでこのままホームルームに入ろうと思うが、みんな知っての通り、我が校ではそろそろ文化祭の時期だ」
乙女咲では10月の29日と30日の土日2日間で、文化祭を行うことになっている。
文化祭では家族はもちろんのこと、一般の人たちにも開放されているので結構な人数の人が来るらしい。
「そこでみんなには今から周囲の人たちとクラスで何の出し物をするか考えてほしい」
杉田先生の言葉にクラスが騒がしくなる。
「あーあと、乙女咲の一般開放は抽選制になっているように例年人気だ。特に今年はすごい倍率だと思う。だからご家族や知り合いを呼びたい人は、招待枠が1人3枠まで設けられているので早めに申請するように」
杉田先生はそれだけ言うと、横にある自分の席に座る。
ちなみに俺は、母さんとしとりお姉ちゃんとらぴすのチケットを手配した。母さんとしとりお姉ちゃんは一緒に来るみたいだけど、らぴすはスバルちゃんやみやこちゃんと一緒に回る予定にしているらしい。
そのスバルちゃんとみやこちゃんのチケットは、とあが手配していると聞いている。残り1枚のチケットはお母さんに手渡すそうで、お母さんに元気で学校に通ってる姿を見せるんだと意気込んでいた。
天我先輩が来たそうにしてたけど、それは慎太郎が手配してくれるらしい。
「はぁ……」
俺は隣で大きなため息を吐いたクレアさんの方へと視線を向ける。
「クレアさん、どうかした?」
「えっ? ああ、ちょっとですね。チケットを誰に渡すかでその、争奪戦になってまして……」
「なるほどね」
確かに3枚って絶妙に少ないよな。家族にチケットを渡したら友達に回せる分も少なくなるし、かといって一般枠を減らすわけにもいかないので仕方ないのかもしれない。乙女咲は元々受験の倍率も高いから、来年の受験者が文化祭で来ることも例年多いと聞いているし、OBで来たがる人が多いから一般枠のチケットの抽選倍率は毎年10倍を超えるそうだ。
「カノンはチケット誰か渡す人いる?」
俺は後ろの席にいるカノンに話しかける。
「3人なら森川さん、桐花さん、えみり先輩の3人かな? 森川さんは、そもそも帰ってこれるかどうかが問題なんだけどね」
あーなるほどね。そういえば森川さんってまだ帰ってきてないんだっけ? なんかスターズの山の奥の方に行くって言ってたし、国営放送のアナウンサーさんなのに、そんなところまで自分で足を運んで取材するんだと、初めて聞いた時は驚いたくらいだ。
いつもは明るくて元気な森川さんがそんなにも真面目に仕事に取り組んでいると聞いて、すごく尊敬できる人だなと思ったし、俺も1人の人間として見習わなきゃなと思う。
「そんなことより、2人はクラスの出し物は何にするのか考えてあるの?」
カノンは俺を見た後、俺の隣の席のクレアさんへと視線を向ける。
「え、えっと、例年だとやっぱり出店が多いんじゃないでしょうか? 焼きそば屋さんとか、たこ焼き屋さんとか……でも、その辺は人気だから抽選になっちゃうかもですね」
「それならお化け屋敷とか? 展示系だったりとか、ダンスみたいにみんなでなんかするとかかなあ? あくあはなんかいい案ある?」
きた! 俺はカノンからその質問が飛んでくるのを想定して、先ほどから色々と考えていたのである。
「他によくあるのだと、コスプレ系の喫茶とか? 定番のメイド喫茶とか、あと猫耳喫茶とか、コスプレ系のコンセプトカフェとか、あー、あとホスト喫茶とか?」
コスプレ系の喫茶といえば、文化祭の出し物の定番の一つである。
つまり、そういう系の出し物をすれば、合法的に! そう、合法的にカノンのメイド服や猫耳を観る事ができるのだ!!
もちろん頼めばカノンは優しいからやってくれそうな気がするけど、そんな事は恥ずかしくて言えるわけがない。だって、あくあってそういう趣味があるんだ、へー、なんて言われた日には、俺はもう立ち上がれなくなってしまうだろう。
だからこそ、文化祭という素晴らしい建前を俺は最大限に利用する事にしたのである。
我ながら完璧な作戦だと、心の中で天我先輩のようなかっこいいポーズを決めた。
「ね、ねぇ、それって……」
カノンが驚いた顔で俺のことを見つめる。
くっ、俺の純度100%の下心が気づかれたかっ!?
「あ、あくあが猫耳つけたりとか、女装してメイドさんの格好するってこと?」
なんでや! 思わずインコさんの関西弁がうつってしまう。
俺は想定してなかった回答に、椅子から斜めに滑り落ちそうになってしまった。
ガタッ、ガタタッ!
ん? 俺じゃないぞ?
音の方へと視線を向けると、アヤナを含めた半数のクラスメイト達が席から転がり落ちてた。
「ね、ネコミミ……」
「あくあ様の猫耳とか何人死人が出ると思ってるのよ」
「文化祭って売り上げじゃなくて死体の数で競うんだっけ?」
「あっ……やばい。あくあ君の女装メイド姿なんて、なんか新しい扉が開きそう」
「ああっ、あくあお姉様っ!」
「メイド服を着たとあちゃん1人お願いします、テイクアウトで」
「黛くんにメイド服着てもらって、蔑むような目で舌打ちしてほしい……できればタイツとヒールのある靴の着用でお願いします」
「猫耳つけて3人でうっ、うっ、うっどーんやってほしい」
「猫耳とあちゃん1人、店内でお召し上がりで」
「メガネ猫耳の黛君に、そっけない態度で無視されたい……できれば執事服着用で」
「流石にそれは盛りすぎでしょ! 贅沢すぎるわよ!!」
「しーっ、みなさま小声で話しなさいまし! 欲で爛れた会話の内容が男の子たちに聞かれちゃいますわよ」
みんな両足を震わせながら、自分の椅子にしがみついて立ち上がっていた。だ、大丈夫かな?
隣のテーブルへと視線を向けると、先ほどまで近くの女子たちと話していた慎太郎から、お前何言ってるんだ的な目で見られて、とあからはものすごいジト目で見られた。くっ、もしかして2人にも俺の下心がバレたか!?
「ところで最後のホスト喫茶って何?」
あー、そっか、この世界って男子が少ないから、ホストっていう概念がないのか。
「えっと、基本的に男子が女子を接客するんだけど……言葉で説明するのは難しいな。カノンとクレアさん試しにちょっといい?」
「う、うん、別に良いけど、あんまり心臓に悪い事はやらないで……ね?」
「わ、私も胃にくるのはちょっと……」
「大丈夫大丈夫、ちょっと接客するくらいだから」
俺は立ち上がると、カノンの椅子の隣に自らの椅子をつける。そしてちょっと悪っぽく前のボタンを全部開けて、中に来ていたシャツを全部出す。
「おひさ! 元気してた?」
「う、うん……」
俺はカノンに声をかけると、そのまま隣の席に座る。
接客時の距離感は重要だ。ちょっと手を伸ばしたら触れるんじゃないかという距離感でカノンに話しかける。
喋る言葉も崩しすぎず、かといって固すぎてもだめだろう。俺は役に入り込むようにホスト役を演じた。
「今日も俺を指名してくれてありがとう。友達と一緒に来てくれたんだ?」
俺はカノンのことを余裕のある感じで見つめると、クレアさんの方へと優しげな視線を向ける。
「あ、うん……友達のクレアさんです」
「初めましてクレア。いつも俺の女がお世話になってます」
ここで重要なのは、連れてきた友達に対して丁寧に挨拶しつつ、連れてきてくれたカノンの方にも、さりげなくアピールすることだ。
彼女や奥さんの友達に対して、俺の女がお世話になってますなんて、はっきり言ってよっぽど自分に自信がない人じゃないと言えない言葉だし、俺もそんな事をいう自信なんてない。
だからこそホストでは、女の子に特別感や非日常感を味わせてあげるために、普段日常では言われないだろう言葉を織り交ぜるのが重要だと、前世で会話術の指導をしてくれたホストの先生が言っていた。
「お、おおおおお俺のおおおおお女……」
何故か隣のカノンが挙動不審になる。
まさかとは思うけど、こんな事でそんな過剰に反応してないよね? だって俺たち、もう……した仲でしょ? そもそももう奥さんなんだし、そんなに素直に恥ずかしがられると、こっちも素に戻って恥ずかしくなっちゃうんだけど……。俺はそれを悟られないように、ホストという役回りを演じ切る。
「そんな可愛い顔して、どうしたの?」
「か、かかかかかわいい……」
って、おおい! 反対側に倒れそうになったカノンの腕を掴んだら、どこからともなく現れたペゴニアさんが反対側を支えていた。
「ぺ、ペゴニアさん!?」
「……旦那様、周りをよく観てください」
「周り?」
周りを見ると、クレアさんと数人の女子を除く全女子生徒が椅子から転がり落ちていた。
ちなみにクレアさんは隣にいた慎太郎や鷲宮さんと一緒に微動だにせず固まっていたし、アヤナと杉田先生は机に突っ伏している。黒上さんは微笑ましく俺の方を見るだけで、その中で唯一まともに稼働していたとあだけが、机を小さくバンバンと叩いて笑いを堪えていた。一体何が起こっているというんです?
「それでは私はお嬢様を保健室に連れて行くので失礼いたします」
ペゴニアさんは、カノンを俵を担ぐみたいに抱えると、スタスタと教室から出ていった。
これって、床に転がってるみんなとかクレアさんとかも保健室連れてったほうがいいのかな?
そんなことを考えていると、1人、また1人と、ゆらりと立ち上がる。
みんな大丈夫かな? 何があったか知らないけど、保健室に行かなくてもいい?
「決を取ろうと思います。今から用紙を配るので、希望する出し物を記名してください」
えっ? もう?
カノンいないけどいいのかなと思ってら、いつの間にやらペゴニアさんが戻ってきてカノンの代理で用紙に記入していた。ところで、そのペゴニアさんが着ている乙女咲の制服どこから持ってきたんだろう。聞いてみたいけど、ある意味、怖くて聞けなかった。
俺は用紙に猫耳メイド喫茶と書いて提出したが、結果は残念なことに終わった。
34票 ホスト喫茶、うち1票代理
4票 食べ物屋ならなんでも(できればあくあが表にでない奴)
1票 猫耳メイド喫茶 俺
ほぼ満場一致でホスト喫茶になってしまった。
それ以外の4票は、なんとなく1票は誰だかわかるけど……残り3票は誰だろう。
ちなみに俺が猫耳メイド喫茶に投票したのはどう言うわけか全員にバレていた。なぜなら読み上げられた時に先生を含めた全員が俺の方へと視線を向けたからである。くっ、そんなにわかりやすいのか俺は!?
「あくあ様って猫耳メイドさん好きなんだ……」
「嫁は無理かもしれないけど、メイドさんならワンチャンいけるかも」
「結婚できなくてもいい、永遠にそばにいられるならメイドさんもいいかも」
「それってつまり、あくあ君に就職できるってこと?」
「婚姻届は無理だけど、雇用契約書であくあ君と繋がれるならそれでいい。だって同じ紙だし、名前と判子押すならもうほぼ婚姻届みたいなもんでしょ」
「それってもう、半分はお嫁さんみたいなもんじゃん」
「あくあ様のメイドさん=実質嫁の方程式了解。これってテスト出ますか?」
「確かに……それならさ、ホスト? やる人以外のサポートとか、裏方さんは猫耳メイドさんで良くない?」
「「「「「それだ……!」」」」」
よくわからないけど同情されたのか、ホスト以外は猫耳メイドになることが決まったみたいだ。
やったー! こうなったらもう同情でもいい!! これでカノンの猫耳メイド姿が正々堂々とじっくりと真正面からちゃんと見れるぞー!! そんなことを考えていたら、後ろの席のペゴニアさんが俺の肩をトントンと叩く。
「旦那様、私も今日から猫耳つけましょうか?」
ペゴニアさんは赤くなった頬を両手で押さえて、俺の方へとチラチラとあざとい視線を飛ばしてくる。
なんか最初に会った時より、だいぶ感情が豊かになったというか、遠慮がなくなっているような……俺の気のせいかな?
当然のごとく俺は、ペゴニアさんをスルーする。反応したらダメな気がしたからだ。
「それでは私達のクラスの出し物はコスプレホスト喫茶になりました。多分……というかほぼ間違いなく100%承認されると思うのでそのつもりでいてください」
なんか知らないけどクラスメイトの温情で頭にコスプレという文字がつけられた。
ちなみホスト喫茶とは言うけど、ただ席に座って接客するだけで実際のホストのような事はしない。
その後、クラスの文化祭実行委員の人が生徒会室に行って、うちのクラスの出し物であるコスプレホスト喫茶はその日のうちに認められてしまった。なおホスト役をする男子の人数が足りないのは、女子が男装して参加することで補填する事に決まったらしい。
学校の授業が終わった後、胡桃さんが学校をお休みしていたので、茶道部と演劇部に顔を出して話をする。
ちなみにとあは本気で演劇部に入るそうで、俺と一緒に演劇部の部室にやってきて今回の出し物である演劇にも一緒に参加する事が決まった。
そんなわけで、用事を全て終えた俺は学校が用意してくれたタクシーに乗って1人新居へと帰路に着く。
結局最後までカノン戻ってこなかったけど大丈夫かな?
「すみません。白銀様。お嬢様がポンコ……初心すぎて寝込んでしまわれたので、今日はお部屋で1人ゆっくりとお休みするそうです」
「マジか……」
今日はちょっとソファでイチャイチャしようかなと思ってた俺は、ペゴニアさんの話を聞いて玄関前で膝から崩れ落ちた。
「なんなら、ペゴニアが猫耳をつけて代わりにイチャコラしましょうか? ちなみに羊のツノもご用意しております。どちらが好みですか?」
いつの間にやら羊のツノをつけたペゴニアさんを俺は華麗にスルーすると、1人自分の部屋へと戻っていった。
ちなみに夫婦の寝室もあるけど、部屋がいっぱいあるからそれぞれの寝室も用意してある。
まさか同居初日でこんなことになるなんて……俺はやりすぎたんだなと1人部屋の中で反省した。
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