白銀あくあ、引く事を覚えろ!!
10月15日、ついに延期されたCRカップの本番を迎えた。
CRカップ本番では全部で5試合を行い、1試合当たりの順位と倒した敵の数をポイント化して合算して、最終的にポイントが1番高いチームが優勝する。
戦い方としては順位を伸ばしつつ敵を倒していくのが理想だが、そう毎回うまくいくわけではない。
中には試合が始まった最初の数分で味方の2人が倒されてしまい、おまけに復活させるために必要なアイテム、バナーを拾えなかったら、試合が終わるまでの残りの時間をずっと1人で戦わなければいけない試合もある。
そうなった時は、ハイド……つまりかくれんぼをして、一つでも順位を上げてポイントを拾いにいく必要があるのだ。
CRカップ本番、第1試合目、俺たちはまさにその状況に陥ってしまう。
「あああああ、ごめんよぉ〜!」
「いやいや、大健闘だよユリス」
「ユリス大丈夫、次あるよ!!」
序盤の乱戦でユリスと白龍先生が落ちてしまって、なんとか俺だけでも生き延びたものの、相手に1人しかいないのがバレてしまって詰められてしまう。その結果、俺がやられて順位は13位、倒した敵は2人だった。
順位ポイントの算出は、1位が12pt、2位が9pt、3位が7pt、4位が5pt、5位が4pt、6位〜7位が3pt、8位〜10位が2pt、11位〜15位が1pt、16位〜20位が0ptなので、俺たちが獲得したポイントは順位ポイント1pt、倒した敵のポイント2ptの合計3ptである。
この試合、優勝したのは鞘無インコさん率いる【ベリル大概にSAYや!】チームだった。
『あああああああ!』
『お前ら言っておくけど、シロくんが負けたからって倒したチームのチャット欄を荒らすなよ』
『まだ、慌てる時間じゃない』
『まぁ最初はこんなもんでしょ』
『昨日終盤のトリプルチャンピオンで全チームが警戒してたししゃーない』
『シロくんが稼いだこの1ポイント、後々効いてくるよ』
『乱戦で地味にキルポ稼げてるのも大きいと思う』
『ナイファイ』
『まだ始まったばかり、がんばろー』
残る試合は4試合、優勝するためには次の試合が重要だと思った俺はユリスに声をかける。
「ユリス、Let’s just have fun playing the game!」
俺はユリスが少しでもリラックスできるように、彼女の国の言葉で喋りかける。
試合を楽しもう。少し前のめりになっていたユリスにそれを伝えたかった。
「Chill out、落ち着いてゆっくり行こう」
「おぅ……シロさんありがとね!」
うん、ユリスは若いけどプロだから次の試合はちゃんと立て直せると思う。
次に心配なのは白龍先生だ。
「アイコちゃん、ユリスが前に出てる時カバーしてあげて。それ以外の方向は全部俺がカバーするから」
「う、うんわかった」
「あと、次の試合から終盤まではスナイパー武器持つよ。牽制するために遠距離あった方がいい」
「OK!」
「うん、ソだね〜」
続く第二試合、初動でうまくスナイパー武器を拾った俺たちは表示された安全エリアの奥の建物へと向かった。
最後の1チームになるまで争うバトルロイヤル系のゲームでは、マップのエリアが徐々に縮んでいき、狭まった安全エリアの外側ではダメージを受けてしまう。つまりプレイヤー達は強制的に安全エリアの方へと集められ、最後の1チームになるまでファイトするようなシステムが組まれている。
「ここのポジション、キープするよぉ〜!」
「OK! すぐにガスで固める」
俺の使っているキャラクター、ガスおじさんは、ガス管と呼ばれる円柱状の置物を設置することで壁にしたり、扉を塞ぐことができる。敵が近づいてくると自動的にガスが漏れて、敵にダメージが入ったり動きが遅くなったりするので、建物にこもって戦う時はとても強い。
スナイパー武器を持っていた俺は、その利点を生かすように、こちらに向かってくるチームを牽制するようにダメージを与えていく。そして自分が使っているキャラクターがガスおじであることも相手に見せつける。建物に籠ったガスおじチームを倒すのは面倒くさいので、下手に突っ込んでこなくなるからだ。
「ユリス! 前の建物に1チーム入ってきた!」
「前プッシュするよぉ!」
空から飛んできたチームが前の建物に入ったので、俺たち3人は固められる前に敵チームが入った建物の中にすぐ押し入る。敵にもガスおじがいたので、固められる前に倒したほうが楽だという判断からだ。
「やったやった1人やった、ガス食らってる!」
「こっちも倒した」
「2人とも後ろ! 漁夫きた!!」
前と同じような状況、まずいかと思ったがさすがはユリス、立て直したユリスは圧倒的なファイト力で敵を倒す。
「崖の上、これで全部終わったかも!」
「残り4チーム!」
「行けるヨォ〜!」
最終エリアがマップに表示される。ここで読みが外れたのか、エリアから少し外れてしまった。
俺たちはなんとかエリアに移動したが、その後の乱戦で落ちてしまう。
最終順位は3位で7pt、倒した敵は10人で10pt、合計17ptで一気に上位にかけ上がる。
『おしぃぃぃいいいいいいいいいいい!』
『いいよいいよ〜!』
『あちぃいいいいい!』
『GG!』
『スナイパー持ったのが正解だったな』
『1人で後ろの部隊を全部カットするシロくんかっこよしゅぎ……』
『一気に4位まで上がってきた』
『これ行けるんじゃない?』
『盛 り 上 が っ て き ま し た !』
よーし、よしよし!
今のは完璧だった。最後はもう運みたいなところあるし、全チームからヘイトかってたからしゃーない。
「次もゆっくり行こう」
「チル、オーケィ!」
「うん、わかった!」
第3試合では、俺の持っていたスナイパーがさらに刺さった。
安全エリアが遠く、ゆっくりとエリアに沿うように前進する。
ユリスの指示がうまいおかげもあって、進行方向を塞ぐ敵にも遭遇することなく順調に進んでいく。
俺は建物に入るたびにガスで固めて、他チームと争っている敵を遠目からスナイパーで遠距離から落とす。
このムーブが功を奏して、俺たちはついに最後の2チームに残る。
「どうするこれ?」
「ウーン……」
最終局面は難しい状況になった。
俺たちがいるのは建物上で、下に最後の1チームが残っている。
下のチームは上に上がってくるスキルを持ったキャラクターがいないチームだから、上に陣取った俺たちが下に降りて決着をつけにいくか、ここで3人が耐えて、エリア収縮のダメージで決着をつけるという運に任せる方法をとるのか、どちらかを選択しなければいけない。
「ストリーマー……実況者として後者はないよね」
「さすがシロさん、わかって〜るねぇ!」
「もちろん!! こういうのはちゃんと白黒つけなきゃ!!」
そうなると上から下に降りないといけないのだが、下のチームにも俺と同じガスおじがいるから厳しい戦いが待ち受けているだろう。
1番いいのは俺と白龍先生だけが降りて下のチームとファイトして、亜空間に入るスキルがあるユリスだけが上に残るやり方だ。亜空間に入るとエリア外ダメージをくらわないので、収縮が終わるタイミングで亜空間に入ればダメージを数秒間だけカットすることができる。だけどこのやり方も結局は耐久勝負になってしまう。
「念のために確認しておくけど、3人でいくんだよね?」
「当然でしょ!! ここで行かなきゃ女が廃る!!」
「いいねぇ、アイコォ〜! その意気だよ!!」
右上に表示された秒数が0になるのと同時に、エリアが収縮するアラームの音が鳴り響く。
下のチームからグレネードが上に飛んでくる。しまった、グレネードで食らったダメージを回復している間に、自分達で降りるタイミングが少し遅れてしまう。下のチームもまた、勝つためにファイトすることを諦めてない。
「行こう!!」
「OK!」
「うん!」
なんとか回復した俺たちは下に突っ込む。それと同時に俺はガス爆弾を投げる。
それに続いてディブを使ってる白龍先生と、ユリスが近距離戦で強いショットガンを手に持って続く。
「やった! あと1人!!」
「ごめーん、あとミリ!!」
「あっ……」
俺たちはなんとか2人を倒すことができたが、最後の1人を倒し切ることができなかった。
くっそー、悔しい!!
『ぎゃあああああああああ!』
『あああああああああ!』
『おしいいいいいいいいいい!』
『ぐぎゃああああああああああああ!』
『最後ファイトに行くのかっこよすぎ……』
『アイコちゃんあちちちちち!』
『最後のチーム、たまちゃんだった!』
『たまちゃんのチームかー』
『szrさん、ダウンしても肉壁になってたまちゃん守ってたwww』
『たまちゃんチャンピオンおめええええええ!』
『これは本当にナイファイ!!』
『あくあ君VSたまちゃんは熱い!』
あの白熊スキンのディブはやっぱとあだったか。
チャンピオンを取りたかったが、ポイント的には悪くない感じだ。
2位の俺たちは順位ポイントが9pt、倒した敵の合計数は7人で7pt、合計16pt、ここまでの総合ポイント36ptで、ついに全体総合順位を3位に上げる。
なお1位は、たまちゃん率いる【お茄子を突っ込むよ?】チームと、インコさん率いる【ベリル大概にSAYや!】チームで同率の43ptだ。それに続くのが俺たちの【引くことを覚えろあくあ】チームだ。
引くことを覚えろとは全てのFPSゲーマーが胸に刻む名言の一つである。
それになぜか俺の名前が組み合わさってるのだが、あれ? 俺のプレイスタイルってそんな前押ししてるかなぁ?
「いやぁ、ピッタリのチーム名だネェ!」
「うんうん、本当にね……切実にそう思いますよ」
チーム名が決まった時の2人もうんうんと頷いてたし、だから今日は気持ち後ろ目でプレーするようにしている。
「そろそろかな。ユリス、アイコちゃん、残り2試合も楽しもう!」
「もちろん! あと2試合、全然逆転できるよ!!」
「その通りだよアイコ!! みんなでチャンピオンとろ〜!」
次の試合からは戦うマップが切り替わる。
それに合わせて俺も、次の試合からはガスおじじゃなくて、ブラックハウンドと呼ばれる敵のいる位置をサーチするスキルを持ったキャラクターへと変更する予定だ。
「行きます!!」
第4試合ではあらかじめ降りた場所とエリア収縮の動きが良かったのか、小競り合いが多少あっただけで難なく最終エリア前まで辿り着く。残りチームは7つ。上位2チームが転けたので、ここでポイントを詰めたい。
ユリスもそれがわかっているのか、先行して前にプッシュしていく。
「前にスキャンおねがいね!」
「いないない、敵引いた! ユリス少し引こう!」
最終局面、俺たちの連携の、ほんの少しの乱れを敵に突かれる。
突っ込んできたチームとバトルになったのがきっかけで、十数人以上が建物の大きな通路の中やその周辺で乱戦になった。
前に出てたユリスがそれに巻き込まれて最初に落ちる。
俺は4試合目も遠距離武器を持っていたことから後ろにいたので、少し前に出ていたアイコちゃんをユリスが呼び戻す。
「アイコ、シロさんのところまで戻ってぇ〜!!」
「う、うん!!」
バブルと呼ばれるドーム状の防御壁を張って戻ってくるアイコちゃんをカバーしつつ、俺は突っ込んでくる敵をグレネードで牽制する。しかし、数の暴力には抗えずヘイトを買ってしまった俺も落とされてしまった。
「アイコがんばれ!!」
「アイコちゃんファイト!!」
「ま、任せて!」
白龍先生は倒れた俺を壁にしてショットガンで大健闘し、突っ込んできたチームのうち2人を2発ずつで落とす。だが、残った最後の1人に1発を当てたがいいが、もう1発が外れてしまったタイミングでリロードが入ってしまったために、銃の弾を装填している間に頭にショットガンのダメージを受けて健闘したものの倒されてしまった。
「ごめ〜ん!!」
「アイコちゃん、ナイスファイト!! 最後のファイトすごかったよ!!」
「アイコォ〜! 最高だったよぉ! 私の方こそごめん〜〜〜!」
この試合、俺たちの順位は4位で順位ポイント5pt、倒した敵は3人で3pt、合計8ptだった。最後白龍先生の倒した敵はダウンしただけなのでポイントに入らなかったものの、粘って生き残った事で順位ポイントを上げることができた。
『うわあああああああああああ!』
『白龍先生カッコ良すぎやろ……』
『女の意地ってやつ見せてもらったわ!』
『さすがはもうピー年も第一線でやってるだけの事はある』
『これはナイスファイト!』
『goodness game!』
『最後シロ君が倒れた後も白龍先生を守ってるの見たらドキドキした』
『シロくん、倒れてもちゃんとかっこいいよぉ』
『これは惚れる』
『白龍先生最高です!!』
『ちょ、ちょっと、これどうなってるポイント!?』
俺は試合結果を確認してすぐにポイントを計算する。
おそらく上位2チームと結構ポイントが詰まっているはずだ。
『シロくんのチームの合計ポイント44pt!』
『たまちゃんのチーム+3ptで46pt!』
『インコのチーム+2ptで45ptじゃん!!』
『たまちゃんチーム46pt、インコチーム45pt、シロくんチーム44pt!』
『上位3チーム大接戦じゃん!!』
『いい試合してる!!』
『4試合終わった時点でこれは熱すぎでしょ!』
『リアルすらもドラマティックに変える、さすがはベリルだわ!!』
『これだからベリルはやめられねーぜ!』
『最後の最後までこんな熱い試合展開ある?』
『ヒヤヒヤするよ〜』
『次最後の試合、頑張って!!』
『総合順位13位→4位→3位→3位、最後の試合も上位陣を捲ってくれ!!』
『最後にチャンピオンを取るシロくんが見たい! ユリス、アイコちゃん頑張って!』
『白龍先生も、ユリスも、シロくんも、最後の試合を楽しんできて!!』
『えっ? もう次で終わっちゃうの?』
『最後に魅せてくれ。貴方が1番だってこと!!』
ふぅ……泣いても笑っても次の試合が最後だ。
自然とマウスを握る手が汗ばむ。
「シロさん、シロさん!」
「ん? どうしたの、ユリス?」
「アイコが頑張ってつないでくれたこの試合、最後にユリスがシロさんを優勝させてみせるよ!!」
「ユリス……」
どうやら白龍先生の熱いファイトが、ユリスの熱いハートに火をつけたみたいだ。
「ユリス、アイコちゃん。残念だけど次が最後の試合だよ。だから楽しもう、そして最後に3人で勝とう!」
「うん! ここまできたら最後までみんなで勝ちたい! ユリス、シロくん、優勝するよ!!」
「Let’s just have fun playing the game! さぁ、勝ちに行きましょー!!」
延期したり色々あったけど、CRカップの運命のラストゲームが始まる。
試合開始のカウントダウンが0になると、一斉に空を飛ぶ飛行船からそれぞれのチームがバラけて飛び散っていく。
俺たちがさっきと同じところに降りて暫くすると、マップに最終安置が表示された。
「これ、最終安置ココだよぉ〜!」
「わかった、すぐに漁る! アイコちゃん、敵が突っ込んでくるかもしれないから俺かユリスの側にいて!」
「わかった! 私も早めにアイテムをクラフトするね!!」
よりにもよって最後の最後で、俺たちがランドマークにしていた場所が最終エリアだ。
最初に降下した場所が最終エリアになる場合、移動しなくていいのは楽だが、その分後からどんどん入ってくる人たちを返しつつ自分達のポジションをキープしないといけない。そうなるとアイテムの物資が足りなくなるので、結構難しいゲームになることが多い。
「アイコ、シロさん、ここに行こう!!」
「OK!」
「わかった!」
俺たちはあえて建物の中を取らずに、最終エリアからは外れてるであろう高台のあまりヘイトを貰わない位置をキープする。
次々と侵入してくるチームを牽制しつつ、混戦になったところを遠距離からスナイパーで突っつく。最後の試合、ユリスはこうなるのがわかっていたのか、得意のセンティネルというスナイパー武器を持っていた。
それが功を奏し、俺がダメージを与えて削った敵をユリスが倒していく。その討ち漏らしをアイコちゃんが倒してちゃんと自分達のチームのポイントにする。
俺はチラチラと右上のミニマップの下に流れるログを確認するが、まだたまちゃんのチームも、インコさんのチームも倒れてない。それどころか多くの敵を倒してポイントを稼いでいた。
「これ次のエリア収縮どうする?」
「もういくしかないネ! 下にいる奴らファイトで倒して前に行く!! アイコ防弾爆撃お願い!!」
「OK! 爆撃要請した後に、降りてすぐにバブル使うね」
ブザーの音とともにエリアが収縮する。それに合わせて白龍先生は、アルティメットスキルの防弾爆撃を要請した。
「ユリス、アイコちゃん、行こう!」
白龍先生が下にバブルを投げると、俺たちはそれに合わせて飛び降りる。
防弾爆撃が落ちたエリアから逃げて、こっちのバブルに入ってきた敵を倒していく。しかし、ファイトが長引いてしまい、最終エリアが迫ってきたせいで、残り体力ゲージの少なかった白龍先生が倒れてしまう。
「シロくん、ユリス、私のことはいいから行って!!」
ユリスは亜空間に入ってエリアダメージを無効にして突っ切る。俺は足が速くなるブラックハウンドのアルティメットスキルを使って、収縮するエリアから最後はスライディングで滑るようにして逃げ切った。
「ごめん! でも最後の防弾爆撃で何人か道連れにした!!」
「あとは任せて、アイコちゃん」
「任せろ、アイコ!!」
残ったチームは3チーム、右上のキルログにはまだインコさんのチームも、たまちゃんのチームも流れてない。つまり最後に残ったのもこの3チームだった。
俺たちが気がついているように、おそらく残りの2チームも気がついている。
お互いに牽制し合うだけで、攻めには行かない。なぜなら3チームのうち2チームがバトルを始めると、両チームが削れた後に漁夫ができる最後の1チームが圧倒的に有利になってしまうからだ。
「シロさん、最後のエリア収縮に合わせていきましょ」
「わかった!」
「2人とも頑張って!」
正直、装備は心もとなかった。スナイパーの弾は多めに持ってきていたが、もう一つのサブマシンガンの弾が少し足りない。全員ワンマガジンで倒したとしても、明らかに弾が足りてないからだ。
それでもやると決めたら、やらなきゃいけない時がある。だから……やるぞ!
アラームの音と共に、カウントダウンのアナウンスが始まる。
【リングが収縮します。残った参加者は最後のファイトをお楽しみください。10、9、8、7、6、5、4……】
カウントダウンが始まって最初に動いたのは、インコさんが率いるチームだった。
おそらくこの三すくみの状況に、痺れを切らしたんだろう。
「シロさん、ゲート開くよ!!」
俺が柱の後ろに隠れて相手の攻撃を凌いでる間に、ユリスはアルティメットスキルで短距離の亜空間ゲートを繋ぐ。
ここに入ると、ダメージを食らわずに繋いだ先のゲートへと移動することができる。
「ユリス、入るよ!!」
ユリスの咄嗟の機転、そのおかげで俺たちは突っ込んできたインコさんチームを近くにいるたまちゃんチームにぶつけつつ、インコさんチームの裏取りをして2チームで挟み込む形にした。
こうなるとたまちゃんチームも戦わざるを得なくなるので、2チームでインコさんのチームを蜂の巣にする。
「ラストワンチーム!」
「ごめんユリス、サブマシンガンの弾無くなった!!」
俺がそう言うと自然とユリスが前に出る。
もうやるしかない。相手の棺桶の中からアイテムを拾ったり、武器を持ち替えたりしてる暇はなかった。
「1人やった!」
ユリスは俺との連携で1人落とすと、たまちゃんチームのプロゲーマーszrさんと相討ちになった。
奇しくも最後に残ったのは俺とたまちゃん。勝った方が最後の順位ポイントとお互いのチームの残った人数分のポイントが拾える。ここにくるまでのポイントを考えると、俺には勝つ以外の選択肢はなかった。
「行けシロさん!!」
たまちゃんは手にショットガンを持って突っ込んでくる。
おそらく俺がスナイパーしか使ってないのに気がついて向かってきたのだろう。
しかし甘い。俺の持っているこのスナイパー武器は、当てるのは難しいが、スコープを外せば近距離武器としても十分に流用できる。
「シロくん行けーーーーー!!」
その瞬間だけ、まるでスローモーションになったみたいにたまちゃんの動きがゆっくりと見えた。
残った体力はもう半分もない。つまり一撃でもショットガンをまともに喰らえば負けてしまう。
そんな状況で一瞬だけスコープを覗いた俺は、対峙するたまちゃんより一歩早くトリガーを引く。
ヘッドショット、最もダメージ倍率の高い場所に俺の放ったスナイパーライフルの弾が貫通する。
次の瞬間、待ち望んだ文字が目の前に大きく表示された。
【YOU ARE THE CHAMPION】
どうやら体力が削られていたのは俺だけじゃなかったみたいだ。
だからたまちゃんも今しかないと、俺の方に突っ込んできたんだと理解する。
俺は座っていた席から立ち上がって、両手の握り拳を高く突き上げた。
『やったあああああああああああああああ!』
『うぎゃああああああああああああ!』
『おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
『シロくん、やっぱり君は最高だよ!!』
『最後ショットガンとあちゃんにスナイパーで勝つのやば』
『上位3チームが最後に残るのやばくない?』
『最後のベリル対決、本当に熱すぎでしょ!』
『※これがベリルエンターテイメントです』
『こんなことある?』
『ありがとうシロくん』
『先生ちゃん頑張った!!』
『シロくん、シロくんだったとしてもカッコよくいてくれてありがとう』
『ユリス、みんなを引っ張ってくれてありがとーーーーー!』
『とあちゃんも頑張った。お疲れ』
『これ、最後ポイントどうなったの?』
『勝ったのはいいけど、インコチームも、たまちゃんチームも相当な数の敵を倒してたよね?』
『シロくん、ワイプの画面から見切れてるよ!!』
おっと……そうだった。俺は慌てて着席する。
立ち上がったら見切れてワイプに胴体しか映らなくなるのを忘れてた。
「やったあああああ! シロさん最高!! 好き!!」
「ありがとうユリス、僕もユリスが好きだよ!!」
ユリスと抱き合ってハイタッチできるなら、今ここでハイタッチしたいくらいだ。
ハイテンションなユリスと違って、イヤホンからはなぜか白龍先生が啜り泣く声が聞こえる。
「うぅぅ……ごめんね。最後、ちょっと足引っ張って……」
「何言ってんのさ。アイコちゃんが前の試合で粘ってくれたおかげだし、最後の試合だって、あのファイトで稼いだポイントは大きいよ」
「アイコぉ〜、落ち込むのダメ、ダメ! 最後なんだから笑お!!」
「うん……うん……! ありがとう2人とも」
俺とユリスで白龍先生を慰めつつ、公式配信の結果発表を待つ。
『あわわわわわ、どきどきしゅるよぉ……』
『ヤベェ、自分が戦ったわけじゃないのに緊張する』
『最後どうなったのこれ!?』
『ざわ……ざわ……』
『頼む頼む頼む!』
『ここまできたら結果はどうなってもいい。でも優勝してほしい!』
『シロくんもユリスも白龍先生も、みんな楽しい時間をくれてありがとう』
『全てに感謝!!』
俺は一旦、チームのボイスチャットをミュートにすると、コメント欄のみんなに話しかける。
「みんな、応援してくれてありがとう。そろそろ公式配信の結果発表だからみんなで一緒に見ようね」
俺はそれだけいうと、再びチームチャットをオンにして、サブパソコンで公式配信を見守る。
先に20位から4位までのチームを発表すると、残ったのはラスト3チーム。
「第3位! 57ポイントで、鞘無インコ、icebox44、加藤イリアで【ベリル大概にSAYや!】だ! おめでとう!!」
急遽裏解説に入った天我先輩が、第3位のチーム名を読み上げる。
「ぐわああああああ。なんでやねん!! また3位やんけ!!」
「インコどうどう、落ち着こう。人いっぱい見てるからね?」
「あはは、ありがとうございまーす」
あぁ、そういえばインコさんて前回も3位だったのか、その前は2位だし、強いけど優勝できないって裏でもみんなに弄られてたなぁ。
「ところでベリル大概にSAYや……とは?」
「そのまんまです」
「多分多くの人が思ってますよそれ」
「ははは……うん、私も思ってます」
「なるほどな……つまり後輩の白銀が悪いと」
「「「うん」」」
なんでやねん!! 思わずインコ先輩の口調が移る。
えっ? 俺が悪いの? 俺なんかしたっけ?
「まぁ、それはなんとなくわかる。それじゃあ次のチームの発表に行くぞ」
ちょっ、ちょっとちょっと、天我先輩! そここそ詳しく根掘り葉掘りと聞くべきでは!?
天我先輩は持っていたマイクを慎太郎に渡す。
「第2位のチームを発表します。64ポイントで……大海たま、szr、キャプテンのあで【お茄子を突っ込むよ?】です。おめでとうございます!!」
ってことは……? いや、今はそんな事を考えるよりも最後まで戦ったチームの健闘を讃えたい。
「うわぁー惜しかったぁぁぁ。でもみんな頑張ったよ。ありがとう!!」
「おぅ……とあ様、じゃなくってたま様を優勝させたかった、sorry!」
「謝らなくていいよー、みんな頑張ったし楽しかった!!」
「慎太郎〜、みんなを慰めて〜〜〜!」
たまちゃんはやたらと慎太郎にダル絡みして、たじたじになった慎太郎をみんなで弄っていた。
ところでその謎のチーム名なに?
「慎太郎、最後のチームのポイント送って。僕が発表する!」
たまちゃんはVCを切らずにそのまま公式配信に残ると、最後の結果を発表する。
「それじゃあみんな準備はいい? 最後のチームを発表するよ!! CreamRAWカップ、栄えある第1位は……65ポイントで、星水シロ、ユリス、白龍アイコで【引くことを覚えろあくあ】です。みんな優勝おめでとおおおおおおおおおおお!!」
「たまちゃん、ありがとう!」
「やったああああああああああああああ!」
「ひっく……ひっく……ほんとよかった。足引っ張ってばっかだったけど……2人を優勝させられて本当によかった」
俺とユリスとたまちゃん、それに天我先輩と慎太郎、みんなで泣いてしまった白龍先生を慰める。
【おめでとおおおおおおおおおおおおお!】50000円 by 貴方のママ
【やったああああああああああああ!】50000円 by ハイパフォーマンスサーバー
【優勝だあああああああああああああああああ!】10000円 by 掲示板の民
【最後チャンピオンで上2チームに逆転して優勝とかもうね】10000円 by なつきんぐ
【やっぱりシロくんでも、シロくんなんだね】50000円 by 奉仕者
【シロくんでも期待を裏切らない貴方が好き】50000円 by 92
【こんなかっこいい男の子いる?】50000円 by ソムリエール
【何をやらせてもかっこいいの困る……】50000円 by 乙女の嗜み
【ちょっとはカッコ悪いところを見せてくれてもいいんだよ?】50000円 by 石油女王
【試合始まる前に、風呂入ってきててよかった……】10000円 by 風呂上がりのお姉さん
【ベリルのみんなもありがとおおおおおおおおお!】50000円 by 本郷弘子
【試合を盛り上げてくれたすべての人たちに感謝!】300円 by ラーメン捗る(金欠)
最後は他のチームも含めた全員が公式配信のチャットに入ってきてお互いの健闘を讃えあった。
俺は一瞬だけ全体チャットを抜けると、ユリスと白龍先生を呼び出す。
「2人ともありがとう。ユリス、アイコちゃん、この3人でチームを組めてよかったよ」
「こっちこそ、ありがとねシロさん、アイコ。またみんなで遊ぼうねぇ〜〜〜!」
「シロくん、ユリス、ありがとね。このチームで優勝できてほんとよかった!」
明日の夜、みんなで会う約束をしているけど、それはそれとして俺たちは3人で優勝の余韻に浸りながら健闘を讃えあった。ちなみにこの後は、一旦解散して二次会がある予定だけど、疲れたしどうしようかなあ?
俺はそんな事を考えつつ、リスナーのみんなにお礼を述べて一旦配信を切った。
Twitterアカウント、作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
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姐さんの休日、公開しました。
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