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ナタリア・ローゼンエスタ,RE:LIVE。

 ついにこの日が来ました。

 ベリルエンターテイメント主催のイベント、月9ドラマ新作発表会。

 私はなんと……なんと! お昼の部に当選してしまったのです。それも通常席ではなくプラチナシート!!

 プラチナシートはプラチナルームチケットと同様に、自分以外に同伴者を1名連れて行くことが可能です。

 せっかくだからお世話になった佐倉うい先輩を誘おう! 先輩は私がまだこの国が不慣れな時に、色々と助けてくれました。そんな素敵なうい先輩だからこそ誘いたい。そう意気込んでいたのですが、先輩はどうしても外せない用事があるらしく、残念だけど無理なのごめんねと言われました。

 また、うい先輩同様に、同級生のすず、レオナ、牡丹も外せない用事があるらしく、会長に至ってはプラチナルームに当選したそうです。るな先輩もその会長と一緒に午前の部に参加するらしく、これで残ったのは後輩のクレアだけ、そのクレアも何故か連絡つきません。だ、大丈夫かな? 一応学校には休むって連絡来てたけど、2週間近く来てませんよ……。

 まぁ、それは置いといて、残ったチケットどうしようかなぁと、学校のベンチでチケットを手に持って眺めていたら、1人の女子学生が声をかけてきたのです。一緒に連れて行ってほしいと……。声をかけてくれた女生徒は、以前に生徒会の仕事でご無理を言って手伝ってくれたことがありましたから、知らない仲ではありません。だから私はいいよと答えました。

 今はその人と待ち合わせるために、私は会場近くの公園のベンチで座っています。


「お、お待たせしましたわ!」


 見事な金髪縦ロールの女の子が息を切らして私のところにやってきました。

 彼女の名前は鷲宮リサさん、あくあ様のクラスメイトの子です。

 以前、生徒会で衣装が必要になった時、演劇部の彼女が手伝ってくれた事もあり、その時のお礼も兼ねて今日はご一緒することになりました。


「大丈夫、私もさっき来たところです。さぁ、行きましょう」

「はいですわ!」


 新宿ベイカーの入り口でチケットを見せて、プラチナフロア専用エレベーターに乗る。

 プラチナフロアに一歩足を踏み入れると、私たちの目の前にベリルの皆さんの世界が広がっていった。


「うわぁ……」

「素敵ですわ……」


 会長によると、午前の部ではヘブンズソードで実際に使われたものが展示されていたみたいだけど、お昼の部に展示されていたのはライブの時にみんなが着た衣装や楽器だった。

 私たちは一旦受付を済ませるためにカウンターに行くと、ウェルカムドリンクとして、私はアイスキャラメルラテを、鷲宮さんはクールスカッシュグレープを注文する。

 注文したドリンクは後で受け取れるらしいので、その間に先ほどの展示スペースへと2人で向かう。


「ローゼンエスタさん、これ、シロくんとたまちゃんの衣装ですわ!」

「持ってきた衣装は、夏コミの時の衣装で揃えてるみたいね」


 お昼の部は1部と2部があるけど、前後半で入れ替えたりするのでしょうか?

 私たちが参加したのは1部ですが、持ってきていた楽器も全て夏コミのもので揃えられていました。


「こっちは……オフショットパネルみたいね」

「ええ、そうみたいですわね」


 持ってきていたオフショットパネルは夏コミだけじゃなくて、色々なライブイベントのものが混じっており目移りします。反対側を見るとショーケースの中に、手書きの楽譜や歌詞が入っていました。

 天我さんや猫山さんの生の楽譜にも感動しましたが、原稿用紙に綺麗で丁寧に書かれた黛さんの字が達筆で驚きます。そして多くの人が驚かされたのは、隣にあったあくあ様直筆の歌詞の原文でしょう。


「鷲宮さん、これ……」

「これは白銀様の……この記号は何なのでしょう?」


 えっ……? ここから黛さんの作詞になるの? 黛さんすごくない? 私は隣にいた鷲宮さんと顔を見合わせました。周りにいた人たちも私達が思っている事と同じことをヒソヒソと話しています。


「え、黛くんすごくない?」

「この原文がどうやったらあの歌詞になるの?」

「これはもはや通訳レベル」

「マユシンくんは、あー君専用の翻訳資格を持っててもおかしくない」

「これメモとって勉強しよ。私もあー様の翻訳になる」

「えっ? そんな資格あるなら私も頑張るんだけど」

「絶対にお稲荷さんソムリエの資格より役に立つでしょ」

「あんなバカみたいな資格取るのなんてティム……ンンッ! しかいないって」

「とりあえず私も写真撮ってメモしとこっと」


 別にあくあ様の字が汚いというわけではないのですが、なにぶん描かれている事が抽象的すぎて、わたしたちには到底理解できそうにありません。

 とりあえず私も写真撮っておこうかな? これが翻訳できるようになれば、また一歩、あくあ様にお近づきになれるかもしれないし……。

 鷲宮さんと2人で写真を撮ったあとは、物販コーナーへと向かいます。

 物販コーナーでは、ポップアップショップや公式サイトと販売されているグッズの他に、今回は特別にパンフレットが出るので多くの人たちはそれを買い求めていました。

 那月会長は午前の部の終了後にヘブンズソードの特別パンフレットを購入したらしいけど、私たちお昼の部で販売されるのはライブの特別パンフレットです。

 これらは後からもオンライショップ限定で注文できるようにする予定だと、ファンクラブの広報でも書かれていましたが、この機会を逃すと最長で2ヶ月近く遅れるとも書かれていました。


「パンフレットお願いします」

「はい、通常版が1000円、超豪華版が3000円になります。どちらがよろしいですか?」


 通常版と超豪華版の違いは、皆さんのカレンダーが添付されているかどうかだけの違いです。

 もちろん私も鷲宮さんもカレンダーありの超豪華版を注文しました。

 私たちは再び受付に行くとウェルカムドリンクを受け取ります。私のドリンクにはあくあ様とメリーさんが描かれていますが、鷲宮さんのにはシロ君とたまちゃんが描かれていました。もちろん中身は別なので、それらは専用の袋に入れられているので汚れる心配もありません。

 素晴らしい気遣いと言えるでしょう。


「それじゃあそろそろプラチナシートの方へと向かいましょうか」

「そうですわね」


 普通のシートより少しゆったりとしたシートに座って談笑していると、ライブ映像の放送開始時間になりました。

 ブザーの音とともにゆっくり照明が暗くなっていきます。それに合わせるように、みんなが呼吸を止めたかのように静かになる。


『流れた星は海に落ちる。夜空に手を伸ばせば、ミンナの希望が瞬く。僕は今、白黒の世界の中』


 最初に流れたのは、大海たまちゃんの白黒の世界という曲です。

 やっぱり展示していた夏コミに合わせてきたのでしょうか?

 みんなうっとりとした表情で耳を傾ける。


「まさか……」


 そう小さな声でつぶやいた隣の席の鷲宮さんは目を見開いていました。

 鷲宮さんが驚くのも無理はないでしょう。この生歌を聴いているかのようなリアリティに溢れるサウンド。最近の映画館ってすごいんですね。それともここの音響設備が特別なのでしょうか?

 あら……一般席の人たちがバッグの中からペンライトを取り出していました。

 やはり映画館でもペンライトを振るのでしょうか。そういえば先ほど受付のお姉さんも、タイミングが来たら遠慮せずに振っていいですからねと言っていましたし振ってもいいのでしょう。私もバッグの中から、全員分のペンライトを取り出す。


「えっ?」


 1回目のサビが終わって間奏に入るタイミングで、目の前の画面が真っ暗になってしまいました。

 観客席がざわめく。それと同時に目の前のステージを一筋のスポットライトが照らした。


 くる……!


 私が呟いたのか、それとも鷲宮さんが呟いたのか、他のお客さんによる呟きなのかは定かではありません。

 でもその場にいた全員が、心の中できっと同じこと思ったはずです。

 なぜ、たまちゃんの歌が生歌に聞こえたのか。こんなにも歌声が心に響くのか。その一瞬で私は理解しました。


「恐怖で冷え切った僕の心、それを貴方の優しいぬくもりが溶かしてくれる」


 きたあああああああああああああああああああああ!

 そう叫びたいのを我慢して、ステージを食い入るように見つめる。

 まるでゆっくりと着地するように現れた大海たまちゃんは、そのままラストスパートへと向かう。

 あの時と同じ曲、もう何度も映像で見て聴いたはずなのに、私の肌がピリピリと震えた。

 上手くなってる。前よりもずっと……!


「たとえこの思いが伝えられなくても、この大きな宇宙の下で僕と君は繋がっている。僕のこの想いは胸の奥を甘く締め付けるけど、全ては白と黒の世界の中に静かに沈んでいく」


 自然と涙が溢れ落ちました……。

 あのインタビュー記事を読んでしまったからというのもあるかも知れませんが、たまちゃんと猫山さんが被って見えて、シンクロした私の胸の奥が切なさで締め付けられたのです。


「みんな、会いにきたよー!!」


 たまちゃんの挨拶に、観客席は大歓声で応える。


「わかってると思うけど、次はお友達とのデュエットだよ。さぁ、みんな! もう準備はできてるよね? 準備ができてない人は、置いて行っちゃうかも……なーんてね! 僕たちがみんなを連れていくよ! 次の曲、いっくよーーーーーーーーー!」


 会場に響き渡るピアノサウンド、もう次に何を歌うのか、ここにいる全員が知っていた。


「星を瞬かせて、世界を照らせ! 白い息を吐けば、どこかで水面が揺れる」


 わあああああああああああああああああ! シロくんだあああああ!


「君が叩いたドアの扉、でも僕はそこにいない」


 シロくんとたまちゃんによるデュエット。私たちはこの曲の結末を知っている。

 最初に歌った時はシロくんの歌唱力にたまちゃんがついていけなくて、息切れを起こしてしまいました。

 でももう違うよね? 私は……ううん、私たちはもう男の子だって努力して成長するってことを知っている。


「傷を負ったケダモノ達はまた立ち上がる!」


 瞬間、2人の声が重なる。


「「このままじゃいけない! 僕だってもううんざりなんだ! だから無理をしても立ち上がれ! 生きてるって証を刻みつけろ!! 愛してる君に、この気持ちを伝えるまで諦めない!!」」


 完璧なハーモニー、2人の圧倒的な歌唱力が私の心臓をドンと叩いた。

 私は隣にいた鷲宮さんと両手を取り合って喜ぶと、持っていた2人のペンライト振り回す。

 その後もほとんど息継ぎのないこのアップテンポな歌を勢いを落とさずに、2人で完璧に歌い切った。


「はぁ……はぁ……」


 歌い終わった後、息切れをした、たまちゃんの呼吸音をマイクが拾う。

 全てをぶつけてきたと思った。そんなたまちゃんをシロくんが優しく抱きしめる。


「ありがとうたまちゃん、あとは僕に……ううん、みんなに任せて!」


 軽快なイントロ、次はstay hereだ! あの伝説の初ライブと全く同じ構成に観客席がまた湧く。


「僕は君に何度も酷いことをした。だから変わらなきゃいけないって思ったんだ」


 歌い出しと共に、天我さんと黛さんの2人がギターとベースを手に持って左右の舞台袖から現れると、中央にいるシロくんと天我さん、黛さんの3人にだけスポットライトが照らされた。


「君の代わりなんて、世界のどこを探したっていない。だから僕から離れないで」


 センチメンタルなたまちゃんの曲から、魂を揺り動かすような2人のデュエット、それを落ち着けるようなポップなリズムに思わず笑顔が溢れる。

 まるでジェットコースターに乗っているかのように、聴いている私たちの心が揺さぶられるけど、これがベリルなんだから仕方ない。


「間違って、悔やんで、また間違った行動をする。そうして僕は君の時間を奪ってしまった。僕は君がどれだけ僕のことを考えてくれていたのかをわかっていなかったんだ」


 4つ目のスポットライトが照らされると、いつの間にか設置されたドラムの位置に猫山さんが座っていた。

 さっきまでの疲れを感じさせないようなドラムの演奏に、みんながペンライトで応える。


「僕はもう終わりだよ。君がそばにいてくれないなんて考えたくもない。僕は君に何度も酷いことをした。だから変わらなきゃいけないって思ったんだ。君の代わりなんて、世界のどこを探したっていない。だから僕から離れないで。僕は君に取り返しのつかない事をしたかもしれない。だから謝らなきゃいけないって思った。だって、君の代わりなんて、世界のどこを探したっていない。だから僕を待っていて!」


 1番のサビを歌い切ると、みんなを照らしていたスポットライトが集束して中央を照らす。

 あれ……? 何故かそこには誰もいなくて、観客席が一瞬どよめく。

 しかしそれを嘲笑うかのように、スポットライトはステージの中央から一気に私たちの座るプレミアシートの後ろを照らす。


 嘘……でしょ?


「やっと君を捕まえることができた。この手で君に触ってもいいだろうか? 君のおかげで俺は愛に気付かされた」


 私たちプラチナシートとプラチナルーム専用のシートに座った人たちの、悲鳴に近い歓声がシアターの中に響き渡る。


「俺は君のことを信じることができなかったんだ。今までの関係を崩したくないから怖くて一歩を踏み出せなかった」


 私は両手にペンライトを持ったまま固まると、あくあさんの顔をじっと見つめる。いえ……正確に言うと私だけではない。隣にいた鷲宮さんも含めて、あまりの衝撃にプラチナシートにいた全員が固まってしまった。


「君は俺のせいで前を進むことをやめてしまった。1人取り残された君をみて俺はこのままじゃダメだって思ったんだ。だって君には俺が必要だろ? だからベイビー、俺のそばにいてくれ」


 あくあ様はそんな私たちの座席の近くで歌うと、自然と伸ばしてしまった私たちの手に軽くタッチしていく。

 そして横にある非常用階段から下に降りると、ステージの中央へと行ってしまった。


「俺は君に何度も酷いことをした。だから変わらなきゃいけないって思った。君の代わりなんて、世界のどこを探したっていない。だから俺から離れないで。俺は君に取り返しのつかない事をしたかもしれない。だから謝らなきゃいけないって思った。だって、君の代わりなんて、世界のどこを探したっていない」


 まるで夢を見ているみたい。心がふわふわとして宙に浮かんでいるような感覚とは裏腹に、心臓はずっとドキドキしていてこれが夢ならば覚めないでほしいと思った。


「だからそこで待っていて、俺が君を迎えに行くから!!」


 曲が終わった後、プラチナシートに座っていた何人かのお客さんは耐えきれなくなって泣き出してしまった。私もこぼれ落ちる涙を腕で擦って強引に拭いとる。

 こんな登場から1分足らずで私たちの心を一瞬で持っていくなんてずるい! ずるいよ! でも好き。好きだから許しちゃう。


「みんな泣かないで、せっかくのライブなんだから、もっといっぱい笑おう。だからみんなを泣き止ませるために、次はこの曲を歌います。乙女色の心」


 ノスタルジックな天我先輩のギターサウンド。

 切なくてそれでいて温かい音に包まれた私の心が、揺籠に揺らされているように穏やかになっていく。


「君の事を好きになった。でもその恋は叶わないことを知ってしまった。だからと言ってこの想いを忘れることなんてもうできないから」


 私は手に持っていたペンライトを、ごく自然と左右に揺らしていた。

 優しい音と心に染み渡るような声にうっとりとした気持ちになる。


「今よりも、きっともっと、君のことが好きになる。それがわかっているのに、僕は君から離れられない乙女色の心。僕のこの想いはいつの日か報われるのだろうか?」


 ねぇ、あくあ様は気がついてる? みんな……みんな、君のことが好きなんだよ? 大好きなんだよ?

 ううん、好きだなんて言葉だけじゃ収まらない。愛してるの……。チャンスなんてないって、本当はみんな心のどこかでわかっていると思う。でもね、今、この歌を聴いて、諦めたくない。貴方のことが好きでいたい、もっと愛してたいのって……きっと私みたいに、みんながあくあ様への想いを募らせるんだよ。


「今よりも、もっとずっと、君のことが好きになるよ。それがわかっていても、僕は君から離れられない乙女色の心。僕のこの想いがいつの日か君を振り向かせると信じて、夜の光にそっと消えていく」


 あああああああああああ! もう、もう! だからこの曲は反則なんだって!

 だって、みんな夕迅様の事が好きじゃないですか。被るんですよこの曲は!!

 わかってるんですか? 私これでもスターズからの留学生なんですよ!?

 スターズの女の子に夕迅様が嫌いな女の子なんているわけないじゃないですか。

 ちょっと遊んでそうで女の子に手慣れてそうで、火傷しそうなほどセクシーなのに、それでいて傷つきやすい繊細な心を持っていて、本当の想いは一途で、報われないとわかっていても、そんな素振りも見せずに、悟らせずにただ1人の女の子のために尽くす。

 え? そんな夕迅様が嫌いな人っているの? 頭おかしくない? こんなの好きになっちゃうでしょ。そんなヒロインさっさと捨てて、私のこと見てよ、私なら無条件で全部を受け入れてあげるのにって普通に思っちゃうじゃない!!

 あー、もう無理、やっぱ泣く。一瞬泣き止んだけど無理。好きすぎて泣く。


「本当はこのあと、beautiful right? を演って終わりにしようと思ってたんだけど……ちょっと予定を変更して、みんなでこの曲を歌います。よかったら最後まで聴いてください」


 天我さん、黛さん、猫山さんの3人がスタッフの人からマイクを受け取ると、楽器を置いて前に出る。するとしばらくして、ポップなイントロが会場に流れた。


『ねぇ、なんでそんなに不安げな顔をしているの?』


 あ……この曲、結婚式の時の曲だ!


『下を向いて歩いてたら、俺たちが君のことを見逃してしまうかもしれないぞ』


 猫山さんに続いて黛さんが歌う。


『前を向いて歩こう。君の素敵な笑顔を俺たちに見せて』


 画面にアップになった天我さんが観客席に向かって優しい笑みを見せる。


『その事を君に伝えたくて、俺たちは歌にするんだ』


 4人のソロパートが終わると、あくあ様はそっとマイクに向かって囁く。


「サビはみんなで歌おう! だからほら、みんな顔を上げて!!」


 私も含めて泣いている子たちは、あくあ様の言葉に顔を上げる。

 隣にいた鷲宮さんはそっと私のことを抱きしめると、一緒に歌いましょうと囁いてくれた。

 そう言ってくれた鷲宮さんの目にも涙の跡が見える。


『君が素敵だって事をみんなが知ってる。それなのに君だけがそのことに気がついてない』


 そっか……この曲、最初は男の子が女の子に向けて歌ってる曲だと思った。

 でもそれだけじゃないんだ。


『ほら、俯かずに顔を上げて!』


 周りを見ると、泣いている女の子を近くにいた女の子たちが優しく抱きしめて一緒に歌ってあげてる。


『君のことが美しくないって人がいるなら、そんな奴は俺たちがぶっ飛ばしてやるよ!』


 1人じゃない。みんなで支えあって生きている。

 苦しくないよって、みんなでこの気持ちを分け合えばいいんだ。


『だからほら、勇気を出して、君の素敵な笑顔を俺たちに見せて欲しい』


 2番のサビが終わる頃には、私も含めてみんな泣き止んでいた。


「良かった……ですわね」

「ええ、本当に……」


 私は再び鷲宮さんと抱き合う。やっぱり今日1人で来なくて良かった。

 でも例え1人で来ていたとしても、きっと誰かが私のことを慰めてくれていたと思う。

 それくらい私たちのいる会場の中には暖かい空気が流れている。


「ローゼンエスタ先輩、本当に今日はありがとうございますわ」

「こちらこそ、今日は鷲宮さんを誘って良かったわ。ねぇ、良かったらまた一緒に遊びましょう」

「ええ、もちろんですわ!」


 ライブが終わった後、私たちは会場を出て近くの公園でライブのことを語り合った。


「今日は本当にありがとう。それと、私のことはローゼンエスタ先輩じゃなくて、ナタリーでいいわよ」

「それでしたら、わたくしの事も鷲宮さんではなく、リサと呼んでくださいまし」

「わかったわリサ、また学校で」

「はい、ナタリー先輩、また学校でお会いしましょう」


 こうして私とリサは同じ人の事が大好きな友達になった。

 私が乙女咲にいる時間は後1年と半年くらいしかない。だからきっとこの想いは届かないと思う。でも、リサはまだ2年以上はあくあ様と同じクラスでいられる。その間に、彼女の気持ちがほんの少しでも報われる事があればいいなとそう思った。

姐さんの休日、公開しました。


https://fantia.jp/yuuritohoney

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Twitterアカウント、作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


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