白銀あくあ、羽ばたけベリルエンターテイメント!
「みんな急いで!!」
空港に到着した俺たちは、そのまま迎えに来てくれていたヘリに乗り込む。
本当は車で会場となる新宿ベイカーに行く予定だったけど、藤の会長さんがご厚意でヘリコプターをチャーターしてくれた。飛行機をチャーターしてくれた時もそうだったけど、こんなにも甘えていいのだろうか……。今度、なんかお礼しないとな。
「あくあちゃん頑張って!」
「兄様頑張ってください」
「あーちゃん、あとで私と桐花さんも行くからね!」
「ありがとう母さん、らぴす。しとりお姉ちゃんと桐花さんはまた後で」
ヘリコプターに乗るのは俺と天我先輩、とあと慎太郎、阿古さんと本郷監督だけだ。
家族やモジャP、ノブさんとはここでお別れだけど、桐花さんとしとりお姉ちゃんは社員だから後で合流することになっている。
そしてもう1人ここでお別れしないといけない人がいた。
「あくあ……頑張ってね。応援してるから、来てくれてる人たちをたくさん笑顔にしてあげて」
「わかった。任せておけ!!」
俺は軽くカノンの体を軽く抱きしめる。
よし! チャージ完了!! これでいくらでも頑張れるぞ!
「出発します!」
「はい、行ってください!」
ヘリコプターに乗ってる間にみんなで色々と打ち合わせをする。
本当は司会の森川さんに進行を任せる予定だったけど、その森川さんが種子法違反だかなんだかで空港で止められてしまったんだよね。どうしようかと思ってたけど、事情を聞きに行った桐花さんが秒で見捨てて行きましょうと言った。
みんなびっくりしたけど、あの時の桐花さんの笑顔が怖くてみんな素直にうんと頷くことしかできなかった……というかできない。森川さん、帰ってきたらお説教とか言われてたけど大丈夫かな。
「前半のトークショーは全員で行きましょう。お客さんへの質問コーナーにして、それにみんなで答える形にするのがいいと思います」
「良い案だと思うわ。司会進行は基本的に本郷監督とあくあ君で行きましょう」
「私もそれが良いと思うわ」
俺が提案すると、阿古さんと本郷監督もそれに乗ってくれた。
「今日の時点でヘブンズソードは6話までは放送されてるんだっけ? そこも頭に入れておかないとね」
「あまりネタバレしないように配慮しないといけないな」
「6話というとロ・シュツ・マー、クンカ・クンカー、デカ・オンナー、シ・シュンキー、オオモリ・アセダク、ポヨポヨあたりが終わったあたりか……」
「天我先輩よく覚えてますね。ちなみに俺はポヨポヨ結構好きでしたよ」
撮影は前後することがあるので、必ずしも1話、2話、3話と撮っていくわけではない。だからこそ天我先輩はよく確認しているなと思う。
ちなみに俺の好きなポヨポヨは、お腹がぽよぽよしている事がコンプレックスで虐められた過去がきっかけでチジョーになった女性だ。他の怪人と違ってポヨポヨはちょっともっちりとして触り心地も独特だったんだよなぁ。撮影のシーンで、一回だけギュッとしたことあるけどあの感触は最高だった。
「うん、それじゃあそんな感じで……午後のトークショーだけど、そっちは藤テレビの司会の人が来るから大丈夫だと思います」
森川さんが司会を担当する予定だったのは、午前の部のトークショーだけだ。
今回のイベントの主催はベリルエンターテイメントになっているけど、藤テレビで放送される月9ドラマ、優等生な私のお兄様の舞台挨拶がメインのイベントである。つまりは本当の主催は藤なので、他局で放送中のヘブンズソードのイベントには1番角が立たない国営放送の森川さんが起用された。これはヘブンズソード制作部のトップである松垣隆子部長と、藤の会長である藤蘭子さんお二人の推薦によるところが大きい。
「そろそろ到着します!」
「はい!!」
はやっ! 打ち合わせをしていたらあっという間に目的地付近のヘリポートに到着した。
俺は操縦してくれた人たちにお礼を言うと、搬入用のエレベーターに乗って下へと向かう。
エレベーターの中で俺は携帯で時間を確認する。ヘリでだいぶ時間を短縮できたおかげで、少し余裕ができたんじゃないだろうか。これなら問題なく間に合いそうだな。
送迎用の車が待ってくれている1階のフロアにエレベーターが到着すると、扉が開くのと同時に、大勢の人たちが通路を挟んで左右に分かれて待っているのが目に入った。 な、何? どういうこと!?
「セーの!」
「「「「「みんなー! お帰りなさーーーーーい!!」」」」」
凄い歓声に俺たちはびっくりする。
「あくあ様ー!!」
「あくあ君、結婚おめでと〜!」
「みんな大変だろうけど頑張ってーー!!」
「ずっとずっと、応援してるからー!!」
「無理しないでねー!!」
「きゃー、天我君かっこいい!」
「黛くん愛してるー!」
「とあちゃーん! こっち向いてー!!」
「ありがとー! みんな、みんな、ありがとーーー!!」
どうやら服装を見るとみなさんこのビルで働いているOLさんたちのようだ。ここのヘリポートもご厚意で貸して頂いているから、俺たちが利用することを事前に伝えていたのだろうか。
空港でも多くの人が屋上から横断幕を掲げていたりしてたけど、すぐにヘリに乗ったから遠くからしか応えられなかったから、その分ここで応えたいとそう思った。
みんなも同じように考えてくれたのか、俺たちは顔を見合わせると小さく頷き合う。
「「「「ただいまー!!」」」」
俺たちが大きな声で挨拶を返すと、OLのお姉さんたちは大いに湧いてくれた。
みんなに感謝の言葉を返したり手を振ったりしながらビルの入り口の方へと向かうと、その付近にいた1人の男性が俺の目に入る。
その人はちゃんとスーツを着て、髪をきっちりとセットしたナイスミドルだった。でもその両手には、可愛らしい水色のうちわに、俺とシロの名前とがイメージカラーである白いテープで貼られていた。
え……え? も、もしかして俺のファンですか? 俺は思わずその人の前で立ち止まってしまう。
「課長、頑張ってください!」
「課長の好きなあくあくんだよ!」
「あわわわわ、私まで緊張してきちゃった」
「が、頑張れ!」
「大丈夫、課長ゆっくり、落ち着いて」
課長さんは俺を見てカチンコチンに固まっていた。俺は改めて課長さんの方へと体を向けると、ゆっくりと彼の方へ近づく。
「そのうちわ、俺とシロのペンライトの色で作ってくれたんですよね。ありがとうございます」
俺はできる限り課長さんが緊張しないように柔らかな感じで微笑みかける。
すると課長さんは眉毛をピクリと動かして、ほんの少しだけ口元を動かした。
「あ……あの、ファンです。あくあさんの歌う乙女色の心が好きで、その……まだいけていなくて申し訳ないんですが、いつか絶対にあくあさんの生歌を聞くためにライブに行きますから、頑張ってください! お、応援してます!」
おぉ……! 普通に嬉しい!! 前世の先輩が男性ファンは貴重だから、めちゃくちゃ嬉しいぞと言っていたけどわかる気がする。特にこの世界は男性が少ないし男性のファンはもっと貴重だ。チャーリーの時も感動したが、こうやってこの国にもちゃんと俺を見てくれて応援してくれている男の人はいる。
俺のやっていることはこの世界に生きる男性に反発されても仕方のないことなのだと思ってたけど、こうやって俺のことを応援してくれている人がいるのだと、それを知る事ができて嬉しくなった。
「っ……ありがとうございます! 俺、待ってますから……だから次はライブ会場でお会いしましょう。それまで俺は、いや俺たちは歌い続けます!!」
俺は課長さんに向けて握り拳を差し出す。すると課長さんはそれに応えるように拳を合わせてくれた。
「約束しましたからね。それじゃあ行ってきます!」
「はい! 頑張ってください!!」
もうテンションはマックスだ。俺は移動の最中、用意してくれたバンの中でみんなに話しかける。
「あのさ……お昼の部なんだけど、みんなよかったら手伝ってくれないか?」
俺がそう言うと、みんな何も言わずに頷いてくれた。
何も聞いてないのに、そんなに簡単に頷いちゃダメだろと苦笑したけど、それ以上にみんなが俺と一緒な気持ちである事が嬉しくなる。さっきのアレを見てテンションが上がらない奴なんてここには誰1人としていない。天我先輩も、とあも、慎太郎も俺の横に立ってくれている。後ろを振り返れば阿古さんや本郷監督、多くの人たちが俺たちを支えてくれているんだ。恐れるものなど何一つない。
俺たちならどこまでも行けるとそう思った。
だからこそ俺はもっともっとみんなを引っ張らないといけない。
もっと前へ! もっと先へ! 誰も見た事ない景色へとみんなを連れていく!!
俺は心の中で決意を新たにした。
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