白銀あくあ、俺達のランウェイ。
「それじゃあ行ってくるよカノン。また後で」
「う、うん」
朝、目が覚めた時、自分の腕の中にカノンが居た時の感情は、おそらく一生忘れることがないだろう。
そんなことを考えていたら、タイミング良く……というか明らかに狙い定めたように目の前からニマニマした顔のペゴニアさんが歩いてきた。
「ゆうべはおたのしみでしたね!!」
「言うと思ったよ……」
なんでペゴニアさんは、そんなにも嬉しそうなんだ……。
後、その指で作った輪っかに人差し指を抜き差しするような行為やめなさい! ペゴニアさんだって年頃の女性なんだから、カノンみたいにもっと羞恥心だとかを持った方がいいと思いますよ!!
「ランウェイショーまでにはなんとか歩ける様にはしますから、後はお任せください」
「あ……うん、ありがとう」
えっ……? なんでカノンが歩けない状態だって知ってるの? も、もしかして、どこからか覗いてたとか……いやいやいやいや、流石にそれはないでしょ。いや、ないよね?
俺の反応を見てペゴニアさんはニヤニヤする。あれぇ……この人ってこんなにも感情が豊かな人だっけ? なんかだんだんペゴニアさんの本性があらわになってきている気がした。
ペゴニアさんと別れた俺は用意された車に乗って、スターズコレクションでコロールオムがランウェイショーを行う会場へと向かう。
スターズコレクションは世界三大ファッションショーの一つとされ、この時期にそれぞれのブランドが、来年の春夏に売り出す商品のコンセプトを提示するイベントである。
俺はコロールオムの専属モデルとして、このショーに参加する予定だ。
ショーのモデルには俺の他にも、とあ、慎太郎、天我先輩、それにクリスとデザイナーであるジョン、スターズの男性モデルが1人と、CMで共演した玖珂レイラさんと、スターズの女性モデル2人が男装モデルとして起用される。
『ありがとうございます』
俺は運転手さんにお礼を述べるとスタッフ専用入り口から会場に入る。
すると目の前に見知った人が立っていた。
「お久しぶりですレイラさん」
玖珂レイラさんは世界で活躍する女優さんだ。
16歳の時に映画デビューして、その年の新人女優賞と助演女優賞をW受賞したことで、いきなりトップスターの仲間入りをした凄い人である。ただ、その時に共演して主演女優賞を取った雪白美洲さんに憧れて、すぐに彼女を追ってステイツに行ってしまった。
映画、ドラマはもちろんのこと、現地ではミュージカル女優としても評価されている。
レイラさんは俺達の国とステイツのハーフで、オリエンタルな雰囲気の目鼻立ちがはっきりとしている美人さんだ。スレンダーなタイプでウェーブのかかった長い髪はとても魅力的である。ちなみにCMでは、結婚詐欺師を演じた俺に騙されたという女性を演じたけど、明らかに騙されるとしたら俺の方だろう。レイラさんみたいな美人さんなら大半の男の人は貢いじゃうだろうなぁ……。まっ、今の俺にはカノンがいるから関係ないけどね!!
「あくあくん、結婚おめでとう?」
「そこは疑問形じゃなくて、ちゃんと祝福してくださいよ」
ミシュさんも相当ふわふわした人だったが、レイラさんも普段はとぼけた感じの人だ。
確か今は27歳くらいだっけ……。芸歴11年の大先輩だ。そんな大先輩が何故か俺の顔を至近距離からじーっと見つめている。お、俺の顔になんかついてますか?
「あくあくんって、やっぱり若い時のミシュ様に似てる……。私、あくあくんとなら結婚できるかも? ねぇ、試しに私のこともギュッてしてくれない?」
「ちょ、ちょっと、先輩、俺、新婚ですよ!? 揶揄わないでくださいよ、もー!」
こ、この人は、いきなりなんてとんでもないことを言い出すんだ。
誰かに聞かれていたらどうするんですか? 白銀あくあ、結婚の翌日に有名女優と浮気! 泣かされたスターズの元王女殿下とかいう見出しの夕刊が発行された日には、間違いなくスターズの人たちに殺される……。
「別に揶揄ってないんだけどな……。だってミシュ様、私と子供を作ってくれないんだもん」
俺は何やらブツブツと呟くレイラさんの背中を押してみんなの待っている控室へと向かう。
このままここでこの人と2人きりでいたら危険だ。一体何を言い出すのかわかったもんじゃない。
『おはようございまーす!』
『おはよう? こんにちは? こんばんは?』
会場に入った俺たちはスタッフの皆さんと挨拶する。
「あ、あくあ! それにレイラさんお久しぶりです」
最初に俺の存在に気がついたとあが俺達の方へとやってくる。それに続いてやってきた慎太郎や天我先輩、ジョンやクリスと、スターズの女性モデルお2人とも挨拶を交わす。
みんな改めて俺の結婚のことを祝福してくれて嬉しかった。
俺たちが固まって談笑していると、俺とレイラさんが入ってきた入り口から誰かの気配を感じる。
『アレ……もしかして、僕、遅刻した?』
優しい声色だけど、それは間違いなく男性の声だった。
俺は声がした方へと振り向く。
『そんなことないよ、チャーリー。みんな来るのが早すぎただけさ』
ジョンはチャーリーと呼んだ男の人と挨拶のハグを交わす。
チャーリーは黒いパーカーのフードを頭に被り、目にはサングラス、口元はマスクで覆い隠している。一見すると不審者みたいに見えるが、芸能人であれば珍しくないファッションだ。でも実際にこのファッションをすると、逆に自分からそういう関係の人なんですと言ってるのと同じなんだけどね。
ジョンはチャーリーと共に俺の方へと近づいてくる。
『あくあ紹介するよ。彼がもう1人のコロールオムの専属男性モデルのチャールズ・ヘンダーソンだ。まだデビュー前だけど、よかったら仲良くしてやってくれ』
近くに来ると俺より少し小さいように見えるから身長は175cmくらいだろうか。
声の感じからすると若い……年齢は同じくらい、もしくは年下かもしれない。
『ほら、チャーリー。あくあに会いたがってただろ、何か言わなくていいのかい?』
『あ……』
チャーリーはパーカーのフードを下ろすと、サングラスとマスクを外した。
おぉ……! ゆるふわパーマの見事なブロンドヘアーに、透き通るような青い目、顔はかっこいいけどどちらかというと可愛い感じで、俺たち高校生組と比べても幼さが感じられる。
「ハ、ハジメマシテ、アクアサン、ベリルノミナサン。ワタシ、ナマエ、チャールズ・アンダーソン。チャーリー、イイマス」
お、おぉ! 片言とはいえ頑張って俺達の国の言葉を話してくれている。
俺達は顔を見合わせて驚いた。
「初めましてチャーリー、俺の名前は白銀あくあ、喋りづらい言葉があったらこの国の言葉でもいいよ」
「ア、アリガトウゴザイマス」
俺はチャーリーと握手を交わす。チャーリーが少し恥ずかしそうに俺の顔を見つめていると、隣にいたジョンが助け舟を出す。
『チャーリーはまだ14歳だけど、とっても優秀なんだ。勉強もできるし、運動神経だって悪くない』
『おぉ、凄いなチャーリー。俺も運動好きだから今度一緒になんかスポーツしような!』
俺がそういうとチャーリーはコクンと頷いた。
『僕……勉強も運動も嫌いじゃないけど、ずっと退屈だった。でも……あくあさんのライブ映像見て、楽しそうって思ったし、実際に見てて楽しくって、僕もあくあさんと同じことしたら楽しいんじゃないかって思ったんです』
うわー、うわあああ……やべぇ、やベぇぞ! これはめちゃくちゃ嬉しい……!!
まさか俺を見て、アイドルを目指してくれる子がいるなんて!! それもスターズ、海外の男の子ですよ!!
そりゃ、とあや慎太郎、天我先輩がドラマに出てくれたり、一緒にライブしてくれたこともめちゃくちゃ嬉しかったけど、それとは違う嬉しさが込み上げてくる。
『だから、コロールオムには自分で応募しました……あ』
俺はチャーリーにハグした。ありがとう、ありがとう。
『すげぇ嬉しいよ、チャーリー! これからもいっぱい一緒に仕事しような。なんなら合同ライブもやろうぜ!!』
『う、うん、ありがとうあくあさん』
『あと、あくあでいいって』
『で、でも、あくあさんの方が先輩だし、そっちの言葉のさん付け……結構好きなんだ』
うわああああ、なんてうい奴だよ!!
かわいいなぁチャーリー、しかも後輩、初めてできた後輩……あぁ、天我先輩の気持ちわかるぞ。
なぁ、この子、このままベリルにお持ち帰りしていいか? はしゃぐ俺を、とあがジト目で見つめる。
「あくあくん」
「何ですかレイラさん?」
隣にいたレイラさんが俺の腕をつんつんとつつく。
「気がついてないみたいだけど、この子、スターズウォーで貴方とW主演を務める新人俳優よ」
「えぇっ!? な、なんでレイラさんがその事を……」
レイラさんの目がとあと同じように半目になる。
「……もしかして、私がメインキャストなのを知らない?」
「……初耳です」
えっ? 待って、本気で知らなかったんだけど……。
あ、いや、そういえば、前に阿古さんが言っていたような……確かあの時は眠くて、うとうとしながら聞いていた気がする。スターズウォーの撮影も春休みを前倒ししてやるからまだ先だし、現場に入る直前に再確認すればいいやって思ってた。
「あくあ……僕も大海たまとして声で出演するんだけど、知らないってことないよね?」
「すみませんでした」
はい、そういうことでですね。あー、アレです。これは全面的に話をよく聞いてなかった俺が悪かった。
ダカラ、トアサン、ユルシテクダサイ……。
『みんな揃ったことだし、一言いいかな?』
ジョンの言葉に周りの空気がピリつく。
『今日のショーは特別だ。最高のキャストを揃えられたし、自分の仕事にも満足している。だから今日は絶対に成功させたいんだ。そのためにみんなの力を貸して欲しい』
ジョンの言葉にみんなが頷く。俺の隣にいたレイラさんも、ジョンの言葉で仕事モードにスイッチが入った。
小雛先輩や、ミシュさんもそうだけど、一流と呼ばれる人には本番になると周りの空気を自分のものに変えてしまう。俺はレイラさんだけじゃなくって、反対側にいたチャーリーからも同じような空気感をうっすらと感じる。この子の演技力がどんなものかはわからないけど、間違いなく自分の雰囲気を持っている子だと思った。
2人にあてられて、俺の中のスイッチが入る。
負けてられないな。チャーリーは未知数だけど、少なくともレイラさんは本物だ。一度共演したからこそ知っている。小雛先輩もそうだったけど、良い仕事をする人達との共演は楽しい。何よりもワクワクする。
俺達は全員で円陣を組むと、みんなでやるぞと気合を入れ直した。
それから打ち合わせをしてリハーサル、その後に休憩を挟んでショーがついに始まる。
『トップバッターはあくあだ。行けるか?』
『もちろん。ジョン、俺に任せろ』
ランウェイでは1人2回ずつ服を着る予定だ。ただし俺とレイラさんだけは3回着ることになっている。
順番は、俺、レイラさん、天我先輩、とあ、慎太郎、女優さん2人、ジョン、クリス、チャーリー、レイラさん、俺、とあ、慎太郎、天我先輩、女優さん2人、ジョン、クリス、レイラさん、チャーリー、俺の順番で最後はみんなでフィナーレだ。
「あくあ君」
「あ、森川さん」
バックヤードからランウェイ裏の通路に移動すると、メディアの人たちが待機していた。
ショーモデルは待ち時間の間に、ここでメディアの人たちの写真に応じたりコミュニケーションを撮ったりする。
森川さんもその1人だ。
「2回目のランウェイはどうかな? 緊張してない?」
「少し緊張しています。でもそれ以上にわくわくしているので、楽しんでこようと思いますよ」
森川さんと軽く談笑していると、準備ができたレイラさんが俺の後ろに立った。
「トップバッターがんばって」
後ろに振り向くと、レイラさんは上下モノトーンのシンプルな装いにシルクハットを被っている。
普段は惚けた感じなのに、こういう格好が似合うのはかっこよすぎるだろ……。
「会場あっためてきます。だから次はお願いしますね」
「ふふっ、うん……任せておいて」
そろそろか……後ろを見ると、準備のできた全員が緊張の面持ちで立っていた。
その中でもベリルのみんなは特に緊張しているように見える。
ライブは慣れてきたとはいえ、ランウェイにはまた違った緊張感があるから仕方ない事だ。
「とあ、慎太郎、天我先輩」
俺は3人に声をかける。すると3人が俺の方を見たので、前を向いて親指を背中に刺した。
苦しくなった時は俺の背中を見ておけ、あの時、ライブで俺が言った言葉である。
だからもう言わなくてもこの仕草だけで、3人は俺からのメッセージに気がついてくれるはずだ。
「相変わらずかっこよすぎでしょ」
俺は小さな声で何かを呟いた森川さんに親指を向けると、行ってきますの合図を交わす。
会場からイントロが聞こえてくる。俺は軽く息を吐くと、通路からランウェイに出た。
今日は阿古さんはもちろんのこと、家族やカノン達も最前席で見てる。だから恥ずかしいウォーキングを見せるわけにいかない。
今回のランウェイのテーマはボーダー、境界線をテーマにしたものだ。
男性と女性、少年と青年、その境目。俺はあえていつも通り、というか前回のランウェイを踏襲したウォーキングでステージを歩く。前回のランウェイからちゃんと続いているということへのアピールである。
ステージの中央でポーズを取ってターンすると、自分が出てきたところから出てきたレイラさんと目があった。
俺はレイラさんとすれ違う時に軽くお互いの右手の掌を合わせると、出てきた方と反対側の通路の方へと向かう。
一瞬だけ、通路から出てきた天我先輩と目があったが、我に任せておけと言われた気がした。
『白銀さん、こちらです早く!』
俺は次の衣装にあわてて着替える。本当はみんなのランウェイを見たいが、そんな余裕はない。
男性用に用意された更衣室で服を着替えて外に出ると、目の前でレイラさんがシャツの裾を掴み、今にもたくし上げるような仕草をしていた……。お、おぉ、確かにファッションショーじゃ珍しくない光景だが、見てしまっていいのだろうか。
なんだかちょっとレイラさんにもカノンにも罪悪感が……。うん、でもこれは不可抗力だし仕方ないよな。あの魅力的な下腹部にかけてのラインと、綺麗なおへそは俺の中にこっそりとしまっておこう。
「あくあくん、見たいなら見ても良いんだよ? 減るもんじゃないんだし、私これでも恥ずかしい体はしてない」
「すみませんでした」
だからってそんな堂々としないでください。
俺は自分の名誉を守るためにも、さっさと着替えて再びさっきの通路へと向かう。
すると、ランウェイではチャーリーが出るところだった。
チャーリーが出るのと同時に、観客席が少しどよめく。
さっきまでの少年らしさというか、チャーリー本来の儚さを残したまま、ほんの少しだけミックスされる男らしさ。チャーリーは、少年にしかだせない色気を全面に出してくる。
すごいな……。雰囲気はあると思っていたが、ウォーキングの技術の足りなさを補うだけの魅力がある。
この子はスターになる才能があるぞと思った。
「じゃあ、今度は私が先に行くね」
「はい、後ろは任せておいてください!」
レイラさんはイメージの作り方からウォーキングまで全てにおいて完璧だ。
スターズ側から参加している2人の女優さんもすごいけど、やっぱりこの中でこの人だけ格が違う。
俺はレイラさんがターンするタイミングで通路からステージへと出た。
次はさっきとは違って、少年と青年の境界線、その両方の魅力を引き出すような空気感を演出する。
ポーズを取ってターンすると、目の前から歩いてきたとあと、さっきと同じように掌を合わせてすれ違う。
「おかえり」
うん……やっぱりさっきと同じだよね。今度のレイラさんはより確信を持ってやってるからタチが悪い。
ごめんカノン、でもこれはお仕事だから! そう、お仕事だから仕方ないんだ!!
「私とあくあくんはあともう一回だね」
「はい、最後までお互いに最高のウォーキングをやりきりましょう」
俺の言葉に、レイラさんは微笑む。
「やっぱりそういうところミシュ様にそっくり。好き……」
「はいはい、つまりミシュ様が好きってことですよね。わかります」
え? なんでわかったのって顔してるけど、それだけ言われたら誰でも気づきますよ!?
準備が終わった俺とレイラさんは、チャーリーのところへと行く。
最後は、レイラさん、チャーリー、俺の順番だ。
チャーリーは集中しているみたいだったからあえて話しかけずに列に並ぶ。
俺はたまたま森川さんと目があったので、笑顔で手を振る。
なんというか、森川さんの顔を見ると自然と気が抜けちゃうんだよなぁ。だから一旦リセットできて、またフレッシュな状態で仕事にのめりこめるというか。今回みたいに細かく雰囲気を作り直す時には、本当にありがたい。
「ふぅ」
チャーリーがステージの真ん中でポージングを決めるとターンする。
俺はそれに合わせてステージへと出た。
最後に見せるのは少年からの脱却、大人の男性としての魅力……前回のショーでは背伸びをしたが、それとは違う。だからあえて最初に前回のウォーキングを踏襲した。みんな見てくれ。その境界線を、ボーダーを超えた先の景色を。これこそがジョンがみんなに見せたかった本当のテーマの解釈だ。
目の前から歩いてくるチャーリーと目が合う。
あ……これはダメだと俺は刹那的にそう感じた。舞台袖で集中していたみたいだけど、逆にのめり込みすぎたのだろう。集中が途切れて俺の方をぼーっとした顔で見ていた。
チャーリーの足元がふらついたその瞬間、俺はチャーリーの手をとって自分の方へと抱き寄せる。
セ、セーフ!
最後の最後でショーは失敗したかもしれないけど、ステージからチャーリーが落ちる方がダメだと判断した俺は彼の安全の方を選択した。
やっちまったか……そう思ったけど、全員が死力を尽くしたし悔いはない。
観客席の方へと視線を見ると、全員が席から立ち上がって拍手をしていた。
『ブラヴォー!!』
『エクセレント!!』
『うわあああああああああ!!』
『ど、動悸が……』
『貴女、それ病院に行ったほうがいいわよ!!』
『大人になったあくあ様と、チャーリー少年を見ていたらすごくドキドキしたわ』
『なるほどね境界線……これは深いわ』
『白銀あくあ、まさかこれ以上に行こうとしているの?』
『全員素晴らしかったけど、やはり最後の白銀あくあは圧巻だったわ』
『王子様からキング、帝王に……もう世界はそのうち白銀あくあか、それ以外かになりそうね』
えっ? なんか知らないけど、観客席はめちゃくちゃ盛り上がっていた。
気がつくと後ろにみんなが並んでいる。フィナーレだ。
よ、よし、この流れでもう終わらせるしかない!
『チャーリー大丈夫か? 周りに手を振るぞ』
『う、うん……助けてくれてありがとう、あくあさん』
俺たちは観客席に向かって手を振る。
最後のあれも演出だと思われたのか? まぁ、ショーが失敗に終わらなかったのならいいか……ジョンもめちゃくちゃ喜んでたしな。その一方でチャーリーはすごく凹んでいた。
『あくあさん……僕、もっと頑張るから、だから待っていてください』
『ああ、次の現場で会えるのを楽しみにしてるよ。チャーリー』
チャーリーの顔を見て慰めは必要ないなと思った。この悔しさはきっと彼を成長させるだろう。
次に会うのは春前か……俺も負けてられないな。
『ありがとう、あくあ。君のおかげでショーは大成功だ!!』
『これはジョンが頑張った結果だよ。俺はその手伝いをしただけさ』
俺はジョンと熱い抱擁を交わす。これでまた暫くの間、ジョンとはお別れだ。
悲しくはなるが、2度と会えないわけではない。次はもっと良い仕事をする。そう心に誓った。
『クリスもありがとな。いっぱい世話になった』
『あぁ、カノン殿下とお幸せに!!』
クリスとも同じように熱い抱擁を交わす。ここ数日、みんなのウォーキングを完璧に仕上げたのはクリスの功績だ。
『みんな、またな!!』
『また会おう!』
『みんなまたねー!』
『お世話になりました、ありがとうございます』
スタッフの人たちに向けて俺達は別れを告げる。
俺たちはこのあと、すぐに車に乗って空港へと向かわなければいけない。
翌日には月9の舞台挨拶が待っているからだ。
到着するのは早朝で、そのあとすぐに会場へと向かう。
だからショーが終わったあと、ゆっくりしている余裕は俺たちにはない。
「レイラさんそれじゃあまた」
「うん、またあくあくんと一緒に仕事できる日を楽しみにしてる。あと……最後のウォーキングは良かった」
「あ、ありがとうございます!」
お、おぉ、レイラさんに褒められるなんて、めちゃくちゃ嬉しい。小雛先輩はあんま褒めてくれないんだよね。できて当然だよねってされる……。だから余計に燃えるんだけどね。うん、そう考えると先輩は俺のことがわかってるなと思った。
俺はレイラさんとも別れを告げ、みんなで用意してくれた車に乗って飛行機へと向かう。
「ところでカノン大丈夫?」
「だ、だだだ大丈夫じゃないかも」
なんとかショーは耐え抜いたカノンだったが、痛み止めが切れたのか足がガクガクしていた。
流石にこれでテレビの前に出るのは可哀想だと思った俺はカノンの耳元で囁く。
「ごめんカノン、だからあとは俺に任せて」
「へっ?」
俺はカノンをお姫様抱っこすると、来た時と同じように赤いカーペットを歩いてチャーター機の方へと向かう。
カノンはずっとあわあわ言ってたけど、ふらついた足で肩を貸すよりこっちの方が見た目的にもいいと思うんだよね。
「白銀あくあさん! 何か一言お願いします!!」
報道陣の中に紛れていた森川さんが俺に向かってマイクを向ける。
「イベントを楽しみに来てくれているみんな、待っててくれよ! 今、俺たちが戻るからな!!」
俺はカメラに向かって視線を送ると、チャーター機の中へと入る。
短いようで長かったスターズへの旅路が終わりを迎えた。
チャーリーにレイラさん……それにミシュさんも世界に目を向ければすごい奴はいる。
国内にだって小雛先輩がいるし、天我先輩や慎太郎、とあがものすごい勢いで成長しているから、俺が立ち止まってるわけにはいかない。だから俺も、もっともっと上を目指さないといけないと改めて気合を入れ直した。
よーし! 帰ったらお仕事頑張るぞー!!
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