白銀あくあ、結婚します!
あのあとすぐに、俺の家族や政府関係者がスターズに来ることが決まった。
母さんやしとりお姉ちゃん、らぴすの3人は結婚式への出席と両家顔合わせのために、政府関係者の人は、今後の両国間の取り決めについて話し合うと聞いている。
その翌日に行われた両家の顔合わせの時は、ちょっと緊張したけど、母さんがすごくしっかりしていてびっくりした。母は強しっていうけど本当なんだなぁ。
「いやあああああ、やっばり結婚なんてしないでええええええええええ!」
そう思ってたのに、結婚式を前に泣きながら俺にしがみつく母さんを見て前言を撤回しようか悩んでる。
「グスッ、グスッ……ママもあくあちゃんと結婚しゅる……」
母さん、流石にそれは無理だよって言おうと思ったけど、そういえばこの世界って家族とも結婚できるんだっけ。でも、母さんは本気でそういう事を言ってるわけじゃなくて、きっと自分の子供が結婚するから寂しいんだと思う。親ってそういうもんだって聞くし、こういうのは時が解決してくれるものだと信じている。
だから俺はいつものように母さんの戯言を普通に流した。
「あーちゃん……お姉ちゃんとも結婚しよ?」
しとりお姉ちゃんはそうやってまた俺を揶揄って……いい加減その涙には俺も騙されませんよ!
俺は、きっとしとりお姉ちゃんにも素敵な人が現れますよと言った。するとしとりお姉ちゃんは、影のある表情で、ふーん、そういう事をいうんだ……これはちゃんとわからせないとねって小さな声で呟く。え? い、一体、俺は何をわからせられるんです?
「兄様、らぴすもついでに貰ってください」
あと、らぴすよ。ついでに貰ってくださいなんて、自分の事をそんな安売りしちゃダメだぞ。男性が少ない世界だから、女の子のらぴすも焦ってるのかもしれないけど、もしらぴすが結婚しなくてもお兄ちゃんが養ってあげるから、そういうのはまだ考えなくていいんだ。
うんうん、やっぱりらぴすに結婚は早いよな。それに、らぴすの結婚相手はちゃんとお兄ちゃんが審査しないと。
「みんな落ち着いて、確かに俺は結婚するかもしれないけど、家族との縁が切れるわけじゃないから安心して」
俺はらぴす、しとりお姉ちゃん、母さんの順番で抱きしめる。
カノンと出会ったおかげで、俺は改めて家族というものを見つめ返すことができた。
だからこれからはもっともっと家族の事を大切にしようと思う。
『白銀様、そろそろお時間です』
『あっ、はい!』
どうやら時間がきたようだ。
俺は家族にほら行こうと声をかける。
王宮の中の控室を出た俺たちは、ゆっくりと通路を進む。すると目の前からご両親にエスコートされたカノンがゆっくりとこちらに向かってくる。
『白銀あくあ……娘の事を、カノンのことをよろしく頼みます』
『はい、お任せください』
この後、俺とカノンは式場に向かって移動する。多くの人にお披露目するために大回りのルートを回る予定だ。その間に、後から王宮を出る家族の車列は別ルートから先回りして会場に行くらしい。
俺は今回結婚式をするにあたって色々とみんなから話を聞いた。この世界では基本的に神様の前で誓いを立てる挙式だけで、披露宴も何もないシンプルなものらしい。そもそも結婚式自体が行われることもあまりなく、王族といえど決まり事は教会で誓約書にサインをするだけだそうだ。でもなぁ……それじゃあなんだかすごく味気ない気がする。
そこで俺はせっかくならもっと楽しい結婚式にできないかと、カノンのご両親に相談した。
『あ……貴方の好きなようにすればいいと思うわ……』
女王陛下に、どういうプランで式を行うか事細かく説明したら、なぜか笑顔を引き攣らせていた。
ちなみにそのプランを聞かされた阿古さんと慎太郎はフリーズし、とあや天我先輩には呆れたような目で見られていた気がしたけど気のせいだよな? ジョンや家族と一緒にきたノブさん、本郷監督は楽しそうって言ってたし、モジャさんに至っては、やっぱりお前は最高だよって言ってたから問題ないはずだ。
一応カノンに相談する前に、ペゴニアさんにも相談したけど、カノンには黙っていた方がいい、きっと喜びますよと言われて、黙っていることにしたけど本当によかったのかな? 俺は超薄手のヴェールを被ったカノンの顔を見つめる。
やはり少し緊張しているのか、いつもより表情が固い。
俺は彼女の緊張を解くために、小さな声で話しかける。
「カノン、今日も綺麗だよ。それとドレスすごく似合ってるね。ドキドキしたよ」
「う、ううううううん……」
あれ? 俺の言葉で余計に緊張したような気がするぞ。
俺は再びカノンに話しかける。
「大丈夫、俺が隣にいるから安心して」
俺の言葉にカノンは小さく頷く。
さっきまで俺も結構緊張してたけど、めちゃくちゃ緊張してるカノンを見たおかげか落ち着くことができた。
カノンには申し訳ないけど、緊張しているカノンが可愛くてほっこりとする。
「それじゃあ行こうか」
「よ、よろしくお願いします」
俺はカノンに向かって手を伸ばす。その上にカノンはそっと手を重ねる。
白い手袋をつけているせいか、ただでさえ細いカノンの腕が余計に細く見えた。
こんなことを思うのは烏滸がましいのかもしれないけど、1人の男として守ってやりたいなと思ってしまう。
『開門します!』
王宮の扉が開くと、俺たちの目の前に待ち構えていたのは馬車だ。
挙式となる会場に行くまでの移動手段として最近は車を使っているけど、古い歴史を紐解くとつい数十年前までは馬車を使って移動していたらしい。式典のルールとしてどっちを使っても問題がないそうだ。ペゴニアさんから仕入れた情報によると、カノンは結構メルヘンなのが好きらしい。それならこっちの方がいいんじゃないかなと思ったんだよね。
俺は先に馬車に乗り込むと、カノンを上に引き上げる。
馬車で隣に座ったカノンは借りてきたネコみたいにちょこんと座って可愛かった。
「ゆ、夢みたい……」
「カノン、まだ始まったばかりだよ? ほら、もっと楽しもう」
俺はカノンが落ち着くように、手をぎゅっと握る。
本当は頭を撫でてあげたいけど、セットが崩れるしヴェールを被ってるから我慢我慢。
「うん……!」
王宮の中で勤めている人たちに見送られて外に出ると、通りには多くの人々が出ていた。
『きゃああああああああああ!』
『うわあああああああああああ!』
『カノン殿下、すごく幸せそう!』
『カノン殿下きれい!』
『えっ、えっ……何これ、結婚式ってこんな幸せな感じだっけ?』
『はうあ……あくあしゃまかっこよしゅぎりゅ……』
『お二人とも幸せにー!』
『カノン殿下ってもっとキリッとした感じだと思ってた』
『わかる。なんかすごく優しい顔してるよね』
『むしろちょっとだらしない顔をしているような……きっと私の気のせいね』
『よく見たら2人とも手繋いでない!?』
『もうなんか最初から私の知ってる結婚式じゃない……』
『わ、私たちは一体何を見せられているの!?』
俺達は歩道にいる人たちに向かって手を振る。
最初はこの国の人に受け入れられなかったらどうしようかと思ってたけど、どうやらあんまり反発はなく祝福してくれているようだ。
「あ……カノン、あっち見て」
「え?」
俺は精一杯手を振っていた小さな女の子に視線を向ける。
あんな小さな子にも、俺たちの結婚が祝福されているのだと思うと嬉しくなった。
「ふふっ、かわいい」
「うん、やっぱり子供は可愛いよね」
2人して女の子に手を振っていたら、俺の言葉でカノンが固まる。
「え、え、え、それってつまり……」
「ん? どうかした?」
カノンは小さな声で、ううん、なんでもないとつぶやく。
うーん、声が震えてたし、もしかしたらまだ緊張してるのかもしれないな。
「あ……」
歩道にいた小学生くらいの男の子と目があった。その子が人の波に押されて前に倒れてしまう。
俺は慌てて馬車を運転する人に止めてもらうようにお願いすると、後ろの座席から飛び降りて男の子の元へと駆け寄る。
『君、大丈夫?』
『あ……あ……あ……』
男の子は俺を見て固まってしまった。
俺はその子を立たせると、怪我がなかったのかチェックする。ほんの少し膝を擦りむいたくらいかな? 頭も打ってなかったし大丈夫だと思う。
『あ……あの…… 僕、近くの花屋の息子のベンジャミンって言います。それで……これ』
ベンジャミン君は手に持っていた小さな花のコサージュを俺に渡す。
話を聞くと頑張って自分で作ったらしい。まだ小学生くらいなのに、すごいなあ……。
『あの、えっと……この前のお兄さん、すごくカッコよかったです。それでお兄さんの映像いっぱい見て、その……僕も、将来はお花屋さんになって、お兄さん達みたいにみんなの事を笑顔にしたくって……えっと、僕も、お……お兄さんみたいになれますか?』
やばい、泣きそうになる。
実際、俺がこの世界でやってることは本当にいいことなのだろうかと考えたことは何度もあった。本当は余計なお節介なんかじゃないかと考えたことは1度や2度ではない。だからこそ、ベンジャミン君の言葉がすごく嬉しかった。
『もちろんさ。だから俺たちで、いいや、みんなで世界を笑顔にしよう。そのために、ベンジャミン君もお兄ちゃん達に協力してくれる?』
『は、はい!』
俺はベンジャミン君を抱きしめると、頭を撫でてありがとうと言った。
その様子を見守っていた周りから自然と歓声が沸き起こる。
『これが白銀あくあなのね!』
『馬車から飛び降りた時、私のところに来るのかと思って焦ったわ……』
『奇遇ね。私も焦って衣服を整えてしまったわ』
『あ、あれが噂の花屋のベンジャミン君ね』
『もしかしたら、この国の将来もまだまだ捨てたものじゃないのかも』
『今まさに歴史が変わる瞬間を見た気がするわ』
流石にこれ以上は馬車を止めておくわけにもいかないし、少し恥ずかしくなってきた俺は、ベンジャミン君や周りの人に手を振って、カノンの待っている馬車へと戻る。
「ごめん! 結婚式なのに花嫁さんを置き去りにするなんて、カノンは怒っていいよ」
「ううん。そんな事ないよ。あくあなら行くだろうなって思ってたし、子供が生まれたらあくあって子煩悩になりそうだなって……」
そこまで言って、カノンはヴェール越しでもわかるくらいに顔を赤くした。それに釣られて、俺の顔も赤くなる。流石に鈍い俺でも、カノンが想像してしまった事に気がついた。
できる限りこの後の事は意識しないようにしていたのに、そんな可愛い反応されちゃうと意識してしまいそうになる。
「あ……そうだ、さっきのコサージュ」
さっきベンジャミン君が手渡してくれた花のコサージュを見ると、対になった二つのコサージュが重なっていた。
「付けてあげよっか?」
「ああ、ありがとう」
カノンは俺の胸元に顔を寄せると、花のコサージュをそっとタキシードの襟に付けてくれた。
なんだか新婚の奥さんにネクタイをつけてもらってるみたいで恥ずかしくなる。
「じゃあ俺も付けていい?」
「うん、いいよ」
俺はもう一つのコサージュを手に取ると、カノンの胸元にそっとつける。
その時、手の甲でちょっとだけカノンの胸に当たってしまってお互いに恥ずかしくなった。
きっと、あの感触は永遠に忘れることはないだろう。
「と、とりあえず手を振ろっか」
「う、うん、そうだね」
俺は全てを誤魔化すように、無心で手を振った。
でも触れ合った肩が熱くて、あんまり気を紛らせないままに式場の前に着いてしまう。
教会の天我先輩が壊した部分は既に修復されており、踏み台に使ったモニュメントは後でポイズンチャリスの銅像が追加されるらしい。なんでそうなったのかはわからないけど、相変わらず先輩はすごいなと思った。
『カノン殿下、おめでとうー!』
『幸せになってね、カノン殿下ー!』
『カノン殿下万歳!』
『カノン殿下、どうかお幸せにー!!』
それにしてもカノンはすごい人気なんだな。
自分の奥さんになる人が、こんなにもスターズの人から愛され祝福されている事に嬉しくなった。
俺もできる限り通りの人の歓声に応えて手を振る。
「カノン、そろそろ行こうか」
「はい」
俺たちは再び手を繋ぐと、ゆっくりと教会の中に入った。
さっきまでの歓声が嘘のように、教会の中は厳かで静寂な雰囲気に切り替わる。
大きな扉をくぐると、その奥にいたのは見知らぬ老婦人だった。
「おばあちゃん……?」
お婆ちゃん? 確か、カノンのおばあちゃんって、メアリー前女王陛下だっけ? 確か私はもう引退しているからと、両家の顔合わせの時にこなくて、おばあちゃん子のカノンはしょんぼりとしていた。それなのに、メアリー様はどうして結婚式場の、それも壇上で待ち構えているのだろう?
俺たちはゆっくりと、メアリー様が待っている場所へと向かう。
メアリー様は、俺たちが壇上に到着するのを見計らうと、周囲をゆっくりと見渡す。
『結婚式の前に、今より我が国にとって重大な式典を行う。スターズの前女王、メアリー・スターズ・ゴッシェナイトの名の下に、スターズの秩序を守った白銀あくあに対して最高位の勲章であるスターズ勲章を授与する。私は在位中に一度としてこの勲章を授与する機会がなく、女王を辞した今でも、この権利が保持されている事が貴族院によって認められた。故に今この時をもって、この権利を行使する事をスターズ正教、主教キテラに宣誓する』
えっ? 俺が勲章? そういえば前に叙勲だとかなんとかって話出てたけど、こんな大事じゃなかったような気がするんだけど……。俺はカノンと顔を見合わせる。どうやらカノンも知らなかったのかびっくりしていた。
『み……認めます』
キテラさんがほんの一瞬だけ、メアリー様を睨んだ気がした。
それに対してメアリー様は含みのある笑顔で応える。
『これにより我が孫娘であるカノンは条件を満たしたものとして、王族の1人として、カノン・スターズ・ゴッシェナイトに対して、結婚と同時に空位となった大公位を授けることを、現女王フューリア・スターズ・ゴッシェナイト陛下に進言致します。幸いにもこの会場内には、議決権に足るだけの貴族が参列されているので、只今を持って緊急議会を招集し決を取るものとする。もし、我が案に賛同していただけるのであれば、その場でのご起立と拍手をお願いしたい』
メアリー様の言葉に、一斉に参列者が立ち上がって拍手する。
い、一体何が起こってるんです? 俺はもちろんのこと、家族やベリルのみんなもびっくりしてるし、カノンも驚いた顔をしていた。
フューリア様は、少し頭を抱える素振りを見せると、メアリー様に促されて前に出る。
『女王フューリア・スターズ・ゴッシェナイトの名の下に、白銀あくあへのスターズ勲章の授与と、カノン・スターズ・ゴッシェナイトに大公位を授ける事を認めます』
フューリア様の言葉に会場が湧く。
な、なんかよくわかんないけど、みんなが喜んでるならとりあえずはいいか。
メアリー様はゆっくりと壇上から降りると、俺達に近づく。
『2人にとっては大事な儀式なのにごめんね。でもこのタイミングしかなかったの。許して頂戴……それとカノン、綺麗になったわね。幸せになるのよ』
『お婆ちゃん……ありがとう』
メアリー様は俺の方を向くと、優しげな表情で微笑む。
「あくあ様、カノンの事をどうか幸せにしてあげてください」
「あ……はい!」
まさかこちらの国の言葉で話しかけてくださるなんて思ってもいなかったから、びっくりした。
ただ、言葉使いが丁寧すぎて、前女王陛下から敬語で話しかけられるのは恐れ多すぎる。できれば、もっとこう……軽い感じでとお願いしたいけど、それもどういえばいいのかわからないので、とりあえず笑顔で誤魔化した。
『白銀あくあ並びにカノン・スターズ・ゴッシェナイト、前へ』
気がついたら壇上に、あの目隠しをしたシスターさんが立っていた。
俺はシスターさんに言われた通りにカノンと一緒に前に出る。
すると横から現れた人に、ジャケットの上から肩にサッシュのついた勲章をかけられた。
どうやらこれがスターズ勲章らしい。
俺とカノンは手渡された楽譜を開く。
『この善き日の門出を祝って、全員で讃美歌を斉唱します』
俺たちが歌ったのは、メアリーの合同音楽会でえみりさんが歌ったlilyだ。
アニメの曲でいいのかなと思ったけど、本当に現地でもみんなが知ってるくらい有名な曲らしい。
何よりカノンが嬉しそうだからいいか。
『誓約の証として両名の指輪の交換を取り行います』
会場が一瞬ざわめく。
あの時に、俺が跪いて指輪を渡したシーンはこの世界では珍しいことだったらしい。
本来であれば女性が跪いて指輪を渡すのが通常らしいが、俺はその逆をやってしまったのだ。
しかも指輪を渡すのはその1回きり、こうやって2回もやることなんてまずないらしい。
俺はカノンと2人で選んだ指輪を交換する。
『次に、ち……誓いのキッスぅ!? ふ、ふざ……ンンッ、なんでもありません』
目隠しをしたシスターさんが慌てふためく。
ちなみに誓いのキッスなんてものはこの世界に存在してない。
でもやりたいって言ったら、止められなかったし、多分問題ないと思う。
それにしても、あのシスターさんの声、どっかで聞いたことあるような……。うーん、まっ、スターズの知り合いはジョンやクリス、トラッシュパンクスしかいないし、きっと俺の気のせいだろう、うん。
俺は向き合ったカノンのヴェールをゆっくりと持ち上げる。
カノンの顔を見ると少し固まっていたので、俺は彼女の頬に優しく手を置く。
「カノン……もしかして俺じゃ不安?」
「う、ううん、そんな事ない。で、でも、その、こんなに幸せでいいのかなって思って……ご、ごめんね。式の途中の、しかもこんな大事な時に、そんなこと考えちゃって……」
あぁ、なるほどね。これあれか、マリッジブルーとかいうやつか? よくしらないけど、そんな感じのやつだと思う。
「大丈夫。これからのカノンの人生には、ずっと俺が隣にいるから、不安な気持ちになったら、直ぐにでも言ってほしい。ちゃんと聞くから、ね、俺と一緒に歩いて行こう」
優しく微笑むと、カノンはポーッとした顔で俺のことを見つめる。
カノンが不安だったら、それを打ち消すくらい俺の事で幸せいっぱいにしてあげればいい。俺はそう思った。
「うん、ああありがとう……」
顔を赤くしたカノンを見て笑みが溢れる。
俺はカノンの前髪を手で退かせて彼女の可愛いおでこをさらけ出すと、予定通りにおでこに口づけをしようとそっと唇を近づける。うーん、でもなぁ。本当にこれでいいのか?
周りの意見を取り入れて、あんまり刺激がない方がいいかもとおでこにしようとしたが、やっぱりどうせならそこじゃないところにしたい! 誓いのキスは一生に一度だしね!
そう思った俺は、急遽軌道を変える。
「ごめんカノン、やっぱりこっちにさせて?」
「んっ」
さっきまでなんとか静けさを保っていた参列者たちから悲鳴に近い声が聞こえてきた。
流石にちょっとやりすぎたか? でも、結婚式はこれくらい盛り上がらないとね。
「えへ、えへへ……」
あれ? なんか心なしかカノンの顔がだらしなく見えたような。ん、気のせいかな?
『ンンッ! 両名はこの結婚に異論がなければ、誓約書にサインを』
俺とカノンは目の前にあった台の上に置かれた誓約書にサインする。
カノンがなぜか自分で立てないくらいヘロヘロになっていたので、文字を書く時に支えてあげた。
大丈夫? やっぱりちょっと疲れちゃったのかな?
『12人の証人に選ばれた者たちは前に』
この12人という数字は、スターズの始まりが12カ国だったという事が由来らしい。
ちなみに証人に選ばれた12人のうち10人は、フューリア女王陛下、ハーキューリー王配殿下、メアリー前女王殿下、母さん、阿古さん、天我先輩、とあ、慎太郎、桐花さん、森川さんの10人だ。そして壇上にいたスターズ正教の主教を務めるキテラさん、そして目隠しをしたシスターさんを含めた12人が続けてサインをする。
うーん、それにしてもやっぱりあの目隠しシスターさん、どっかで見たことあるような……。
そんなことを考えていたら、森川さんがペンを落としそうになって慌てる。しかし隣にいた桐花さんが鬼の反射神経で、ペンが床に転げ落ちる前に空中でキャッチした。すげぇ……。
『現時刻を持って、両国間の名の下に2人の結婚を認めるものとする』
再び参列者から拍手が沸き起こった。
よーし、次は披露宴だ! カノンにとって最高の結婚式にするために、俺も今以上にさらに頑張るぞ!!
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