キテラ、堕ちた聖女。
雪白えみりさん、彼女に声をかけてもらって本当に助かりました。
どうやら私は青海と青梅を間違えて、青梅の方に行こうとしていたらしいです。
「青海ってことは……キテラさんもアイドルフェスですか?」
「はい、せっかくですので旅行の記念に行ってみようかなと……」
この国のトップアイドルたちによるフェスティバル。今日はそのイベントに、スターズ正教が要注意人物としてマークする白銀あくあが参加するという情報を掴むことができました。
白銀あくあはランウェイのイベント以降、過激派の検閲による情報規制を掻い潜ってスターズの中にも急速に隠れファンを増やしています。その最たる原因は、聖あくあ教と呼ばれるふざけた名前の宗派が、我が国の中でも暗躍しているからでしょう。
ただでさえ過激派に手を焼いているのに、そちらの対応までしないといけない事に私は頭を悩まされています。
彼女達のトップは聖女を自称するエミリーと呼ばれる名前の女性で、奇しくも私を助けてくれたえみりさんと名前が似ている。まぁ、エミリーなんてよくある名前ですし、えみりさんみたいな優しくて落ち着いていそうな女性が、そんな頭の悪そうな宗派のトップだとは思えません。こう見ても私は人を見る目があるので間違いないはずです。
「それじゃあ私はここで……」
「はい、ありがとうございました」
私はえみりさんにお礼を言うとその場で別れ……別れなかった。
どうやら2人とも目的地が同じなのか、同じ方向へと向かっていく。
「あ、あの……もしかして、キテラさんの目的もあの……」
「ええ、もしかしてえみりさんも……?」
私の質問にえみりさんもコクリと無言で頷く。
どうやら彼女の目的も白銀あくあのようです。えみりさんが発表のされてない白銀あくあの情報を掴んでいるのは怪しいと、私の中での彼女への警戒度が上がる。でも、会場に到着するとそれは杞憂だった事に気がつきました。
なぜなら彼のファンの中でも察しの良い人は何人か気がついていたのか、会場には同じ目的のために集まったと思わしき人物がチラホラと集まっていたからです。何気なくたまたまそこにいるのだと装っているのでしょうが、ソワソワとした雰囲気がごまかしきれていません。
みなさん時計をチラチラと見ながら、今か今かとその時を待っていました。
「そろそろですね……」
えみりさんは小さな声で呟く。すると、曲のイントロに合わせて件の白銀あくあがステージに現れた。
私やえみりさん、その場にいた全ての人が彼の着ていた衣装に釘付けになる。
格子状に裁断された服から覗かせる肌色の部分、マントを着ているのでチラチラとしか見えませんが、むき出しになった肩や程よく鍛えられ引き締まった腹斜筋が十分に刺激的です。
これが……白銀あくあ……。
事前に予習をしていたにも関わらず、さすがの私も少し度肝を抜かれてしまいました。
最初は奇抜な衣装にばかり目を奪われてしまいましたが、慣れてくると彼の歌唱力や表現力の高さに唸らされます。彼は役者やモデルとしても仕事をしていますし、人に見られるアイドルという仕事ということもあって、ちゃんと体型をキープするためにトレーニングにも真面目に取り組んでいるのでしょう。
なるほど……確かにこれではスターズの男性陣ですらも比べ物にならないと改めて思いました。
もし彼が才能に胡座をかいているだけの人物であれば違っていたかもしれませんが、そもそもそんな人物であれば周りの女性達もここまで熱狂していないことでしょう。
努力できる天才、向上心のあるトップランナーほど厄介なものはありません。
私が冷静にじっくりと白銀あくあを観察していると、偶然にも彼と目が合いました。いえ、合った気がしただけなのかもしれません。
『夏の暑さよりもうだるような、二人の夜を過ごしませんか?』
最後まで歌い切った彼は、羽織っていたマントを空へと投げ飛ばす。
私は、ただ空を舞うマントの行先をゆっくりと眺めているだけでした。
しかし徐々に私の方へと近づいてきたマントは、偶然にも私の元へと舞い落ちてきたのです。
「きゃあああああああああ!」
「うぎゃああああああああああ!」
「あわわわわわわわわわわわ」
「あっ、あっ、あっ!」
「ぐわあああああああああ!」
騒がしくなる私の周囲、口を開けて私のことを見つめるえみりさん。しかし私の頭の中はそれどころではありませんでした。
えっ? ……えぇっ!?
偶然にも受け取ってしまった彼のマント、ふわりと私の手の上に落ちてきたマントから漂う彼の匂いに、私の体がビクンと反応する。私は普段から香水をつけるタイプではありませんが、最近の香水はこんなにもいい匂いがするのでしょうか? それとも男の子だから? いえ……仕事柄、男の子には何度か会いましたが、こんなにも良い匂いはしませんでした。ならばこれは白銀あくあ本人の匂いということなのでしょうか? 信じられません。こんなにも良い匂いがする人が存在しているだなんて……。
「ふぁ……」
いけません、自然とマントをぎゅっと抱きしめてしまいました。そのせいで彼の良い匂いが、私の鼻先から全身を駆け巡る。私は思わず体を身震いさせてしまいました。
全く私は良い歳をして何をやっているのでしょう。私と彼とでは親子ほどの歳が離れているのに……。
そんなことを考えていると、彼はとんでもない曲を歌い始めたのです。
『この気持ちに気がついた時、貴女は誰かのもので、遠目に見つめる俺に気がつかない振りをした』
ガラスのティーンエイジャー……。10代の少年が年上の女性に恋をするなどという、そんなこと絶対にあり得ないでしょうと思わずツッコミを入れたくなるほどの歌詞の曲を歌い始めたのです。もちろんそんな事を思っていたとしても、その場にいた誰しもが彼が歌う歌詞の内容には突っ込みませんでした。
彼が想いを寄せていたのは人妻でしたが、歳が近い私には他人事とは思えなかったのです。
『たった一枚の紙切れ、それが貴女と俺の間を隔てる』
えっ、ちょっと待って……それじゃあさっき目が合ったのは気のせいじゃないってこと?
私は30代後半ですが、20代後半に見られることが多いです。今回はプライベートな旅行、現地にいるスターズ正教の人たちにバレて騒がれないように、飛行機に乗る前から年相応に見えるようなファッションやメイク、髪型、小道具まで使って変装してからこの国の入国しました。
所謂、人妻コーデに身を包んだ私にコートを投げた彼は、その直後に人妻に想いを寄せる曲を歌ったのです。それってつまり……こんな年上のおばさんである私の事を熱烈に口説いているってこと? いえ、それとも彼は私のことをスターズ正教の主教キテラだと気がついているのかもしれません。それだったら全ての辻褄があいます。
人妻はただのブラフでしょう。スターズ正教の主教という立場、つまりは夫ではなく国自体に囚われた私。スターズ正教と聖あくあ教、対立する二つの派閥にありながら、彼は私に道ならぬ恋心を抱いてしまったのです……。
『ひび割れたガラスの向こうに眼差しを向けたら貴女の後ろ姿が見える』
あっ……今確実に目合ったし、これは間違いなく私の事ですね。
待って待って! ……無理、絶対に無理、だって私、スターズ正教のトップだよ? もう正直な話、スターズ正教のトップとかどうでも良いけど、元主教の私が他国の国籍を今から取得しようとすると数年はかかるだろうし……それに赤ちゃんだって高齢出産になっちゃうし、結婚式だって若い彼の隣で私みたいなおばさんがウェディングドレスを着るなんて許されないでしょ。そもそもこんな歳まで乙女を貫いてる私が、ちゃんと彼のことをえっちでリードしてあげることができるのか不安で仕方ありません。
「Come together over me(今すぐ俺のところに来てくれ!)」
はい、はいはいはい! 直ぐに行きます! 貴方のものにしてください!!
彼は私の考えていることなど全てお見通しだと、あえて私の国の言葉を使ってそう語りかけてきたのです。
ふわああああああ、体の奥が切なくって、マントをギュッと抱きしめたら良い匂いで脳みそが蕩けちゃうよぉ。
『ガラスのティーンエイジャー、割れた欠片が俺の心を切り刻む。いつかはこの気持ちに区切りをつけることができるのだろうか? ずっと貴女だけを見ていた』
だ、だめだめ、そんな熱ぽい視線でおばさんメイクしてる私のことを見ないで!
私は思わずマントで顔半分を隠す。それでも彼は私のことをじっと見つめている。
んっ……待って、これできちゃったかも……。お腹の辺りがすごくポカポカするし、男の子は視線だけで女の子の事を妊娠させることができるって聞いたことがあります。今の視線は明らかに私の事をそういう目で見てましてたよね? どうしよう、検査薬なんて持ってないよ。どこかで急いで買わなきゃ。
『みなさん、こんにちは。ベリルエンターテイメント所属の白銀あくあです』
こんにちはー!!
『ところで今日のシークレットゲスト、俺で大丈夫でしたか?』
大丈夫ー!!
『ありがとう! 俺もみんなの事が大好きだよ!!』
あっ……これ私のことだよね。
みんなって言ってるのはカモフラージュだってわかってるよ。
『この衣装すごいでしょ? ジョンのデザインなんだけど、実は俺もちょっと恥ずかしかったりするんだよね』
彼がジャケットを捲った瞬間、何人かの女性が卒倒した。
私はマントで顔を半分隠したまま晒された肌をじっと見つめる。
慣れなきゃ……ベッドの中では、もっと肌面積が増えるんだから、こんなことで倒れちゃダメよと自分に言い聞かせた。
『それじゃ、次で最後の曲だけど、よかったら聞いてください』
えっ? もう最後なの? やだ……。
彼が最後に歌った曲は、私たちの国で使われる言語によって書かれた歌詞の曲でした。
beautiful right?
その曲を聴いた時の衝撃は忘れられません。
美しく見える今の世界は間違っていると言われた時には、まるで雷を受けたかのような衝撃でした。
そっか……そういう事だったのね。
今のスターズ正教とスターズが進もうとしている方向は間違っていると、彼は私にそれを伝えるためにこのライブをしたのだ。シークレットゲスト、その情報が漏れるなんて普通ならあり得ない事だけど、これなら全てのパズルが綺麗にはまっていく。それじゃあ私のこの隣にいる人は……。私は改めてえみりさんの顔を見る。
聖あくあ教の聖女、エミリーはとても美しい人だと聞く。改めてえみりさんの顔を見ると、恐ろしいほど綺麗だった。なぜ、私は先ほど全てを偶然の一言で片付け、彼女がエミリーではないと思ってしまったのだろう。この盤面、この状況、彼女の、えみりさんの目的は、おそらくこの曲を私に聞かせる事だったんだ。つまりは全ては彼女の手のひらの中……彼女こそが聖女エミリーである。私はそう確信した。
「えみりさん……」
私は彼のステージが終わった後、意を決して隣にいた彼女に声をかける。
すると彼女は何も言わずに、そっとバッグの中から一本のお茄子を取り出すと私に手渡しました。
「よかったら、使って」
「えっ……でもこれ……」
戸惑う私の掌の上に茄子を置いたえみりさんは、その上からそっと自らの手を重ねる。
「大丈夫、それこの日のために用意した新品だから安心して」
ふぁ……なんて優しい人なのでしょう。
慈愛に満ち溢れたえみりさんの表情は、まさしく聖女のような輝きを放っていました。
「で……でも、私、こういうことしたことがなくって……」
実は私、この歳になってまだ一度もそういう事をした経験がありません。
幼い時のトラウマがきっかけで、極力そういうことには触れないようにしてきたから、最低限の知識くらいしか知らないのです。
「大丈夫」
不安げに狼狽える私に対して、えみりさんは優しく導いてくれる。
「左手は添えるだけ、あとは右手の本能に全てを委ねるのです」
トイレは少し混んでいましたが、タイミングが良かったのか直ぐに入ることできました。
「大丈夫だった?」
「う、うん……」
帰ってくる時、少し恥ずかしかったけど、えみりさんは優しいから私が早いことにも触れないでいてくれました。ああ、なんて優しい人なんだろう……。こんな人が聖女をやってる聖あくあ教は、きっと……ううん、確実に閉塞的なスターズ正教よりも良いところなんだろうなと思いました。
『あのー、マントを受け取った方ですか?』
『あっ……はい』
受け取ったマントを返すべきかどうするべきなのか、私は隣にいたえみりさんに相談しました。すると彼女は、私がおトイレに行っている間に、スタッフの人に連絡してくれたみたいです。
『すみません。マントを受け取った彼女だけ、お手数ですがこちらに来てくれませんか?』
私はえみりさんにお礼を言うと、連絡先を聞いてその場でお別れしました。
なんでも彼女はこの後、ラーメン屋でバイトがあるらしく急いで帰らないといけないらしいです。
聖あくあ教のトップである彼女がラーメン屋でバイト? とも思いましたが、きっと私にはわからない高度な何かがあるのでしょう。
『こっちです』
スタッフの人に誘導された私は、関係者専用の区画に足を踏み入れる。
その区画の中にある一つの楽屋、そこには白銀あくあ様控室と書かれていました。
ま、待って……! 急展開で慌てる私のことなど御構い無しに、スタッフの人は楽屋をノックする。
『はい、どうぞー!』
あっ、あっ、あっ……生のあくあしゃまの声だぁ……。
ゆっくりと開いていく楽屋の扉、その奥にいたあくあ様と目が合いました。
『あっ、マント受けとった人ですね』
『ひゃ、ひゃい……』
思わず声が裏返ってしまいました。
そんな私にあくあ様は優しく語りかける。
『緊張しないで』
私は握りしめていたマントをギュッと握りしめる。あっ……でもこれ返さなきゃ。名残惜しそうにマントを見つめる私に、あくあ様はクスリと微笑む。
『大丈夫、そのマントはプレゼントしますよ。良かったらですけどマントにサインしましょうか?』
えっ……そんな事、良いのかな? で、でも、私とあくあ様の関係なら大丈夫なのかも。
それに私はスターズで、あくあ様はこの国の人で、だから会えない間はこれを俺だと思って抱きしめてってことなのかな? うん、きっとそうだ。
『はい、どうぞ!』
あくあ様はマントにサインを入れると返してくれました。
『今日は来てくれてありがとうね』
はにかんだあくあ様は、私の方へと手を伸ばす。
握手しようってことなのかな? 私はあくあ様の方へとゆっくりと手を伸ばす。
でも緊張しすぎて、思わず足元がふらついてしまった。
『あっ、危ない!』
倒れかかった私の体を、あくあ様が優しく抱きしめる。
不意な肉体的な接触に、初めて肌を触られたあの時の感覚がフラッシュバックしそうになる。でも、そうはなりませんでした。何故ならそれを遥かに凌駕する出来事によって、私の記憶は上書きされてしまったのです。
「あっ……」
彼の手が私の体に触れる。
あのシスターに襲われた時とは違う。男の子に、ううん、あくあ様に触られるのってこんなに気持ちがいいことなんだ。過去に男の人と肌が触れ合いそうになった時は、トラウマがフラッシュバックしたし、触られることに対して気持ちが悪いとしか思えなかったのです。あくあ様だから、気持ちいいんだ……。もっと、もっともっと触ってほしいな。
『ご、ごめんなさい!』
『い、いえ、私の方こそすみません。こんなおばさんの体を触らせてごめんね』
はっきり言って私は胸も大きいし、お尻も大きい、身長だって高いくらいだ。
この世界の男の子の基準からすれば、忌避されるべき存在なのです。
もしかしたらあくあ様に嫌われるかも……。
『触ってしまった俺が言うことじゃないけど、そ、そんな事ないですよ。お姉さんは魅力的だから、も、もっと自分に自信を持ってください』
え? 魅力的? こんなおばさんの体が? スターズの男の子にもだらしのないむっちりした体をしていると言われたし、実はちょっとだけパンツの上にお肉がぷにって乗っかってるんだよ? 胸だって若い子みたいにハリがあるわけじゃないし、言うならちょっとだけ垂れてるし……。確かに同年代の女の人と比べると綺麗なのかもしれないけど、10代の女の子と比べると、明らかにおばさんだよ? そ、それでもいいの?
チラリとあくあ様のお顔を見ると、顔を真っ赤にしていた。
『ご、ごめんなさい、変なこと言って』
『う、ううん、私の方こそ励ましてくれてありがとう』
待って……可愛い……。さっきまであんなにかっこよかったのに、そんな初心な反応されると、母性本能とか庇護欲で頭がおかしくなる。私みたいなおばさんの体がいいってことは、もしかしてあくあ様ってマザコン!? そっかぁ……じゃあ、あくあ様も、赤ちゃんみたいに甘えさせてあげたら喜んでくれるかな? ママが好きな男の子って、そういうプレイが好きって聞いた気がするんだけど、違ったらどうしよう……。あとでえみりさんに聞いてみよっと。
『すみませーん。そろそろ時間なんでここらへんで』
私はスタッフの人に楽屋の外に追い出された。
あくあ様は忙しいだろうし、これも仕方ない事よね。
それに私も早くスターズに帰って、一刻も早くやらなきゃいけない事ができてしまった。
そう、全ては私とあくあ様が添い遂げるために、スターズという国ごと、あくあ様に全てを差し上げなくてはいけない。そして、その暁には、私のこの体と心、私が持っている全てをあくあ様に捧げるつもりだ。
世界を変えると言ったあの歌に込められた本当の想い。会えない時間を想って私に手渡してくれたこのマント。ええ……あくあ様、キテラは全てをわかっています。だから貴方はそこで待っていてください。私が、キテラが、スターズの全てを貴方に差し上げましょう!!
帰国した後の私がとった行動は二つ、一つは過激派の凶行を敢えて自由にさせて、目立たせ、検閲により国民に強いヘイトを向けさせる事。そしてもう一つは王家に対する不信感を募らせる事です。
そのためにも、有能で唯一の障害になり得るカノン王女殿下には、この国からご退場頂く。きっと、あくあ様ならばカノン殿下のことを迎えにくる事でしょう。カノン殿下がいなくなれば、懸念すべきはメアリー様だけです。
しかしそのメアリー様は一度退位している身、一度退位した女王は戦時下による特別措置以外では女王に復帰することはできない。
フューリア女王陛下もヴィクトリア殿下も私から言わせればただの凡庸。ハーミー殿下は有能だが、彼女はカノン殿下以上に女王であることに興味がない。つまりカノン王女殿下を王室から排除した時点で私の勝利は決まったようなものです。
「待っていてくださいあくあ様……いつの日か、必ずこのスターズを貴方の下に、そしてスターズ正教が聖あくあ教に吸収された暁には、聖女エミリー様の次に、私の事を貰ってくださいね」
地下室を降り立った私は、あの時、聖女エミリー様にもらったお茄子様を模した石像に軽く口づけを交わす。
この地下室は、私があくあ様にお祈りするために用意したものだ。壁にはポスターなどを貼り、手に入れたグッズを敷き詰め、部屋の中では24時間ライブ映像を流している。
そのライブ映像の一つが乱れると、見覚えのあるニコニコマークへと切り替わった。
「あら? さっきまで貴女の優秀な妹ちゃんが来てたわよ?」
私は手縫いで作った自作のあくあ様ぬいぐるみを抱き抱える。
ちなみに、このぬいぐるみを抱き抱えながらあくあ様との生活を妄想するのがマイブームだ。
あくあ様と赤ちゃんプレイがしたいと思った私は、ちゃんと彼のサイズに合わせたベビーベッドとか、おしゃぶりとか、ロンパースとか、ガラガラも用意してある。あとは本人と致すだけだ。唯一準備ができてないのはミルクが出ないことだけど、あくあ様にミルクが出る体にして貰えれば良いわけだし、そこは問題ない。
「表立って明らかにしてないとはいえ、あまり私の妹を虐めないで欲しいんだけど……」
さっきとは違うハイパフォーマンスサーバーの声色に私はほくそ笑む。
聖あくあ教十二司教が1人、管理人ことハイパフォーマンスサーバーは1人ではない。
1人はさっきまで私と会話し、自立型AIのふりをしつつ猫山とあのライブジャックを手伝った鯖兎みやこ。
そしてハイジャックに対応し、永続的に我が国に攻撃を仕掛けてきた自立型AIのハイパフォーマンスサーバー。
最後に今まさに私と対峙し、検閲機能を麻痺させて掲示板の民を扇動した姉の鯖兎こよみ。
この3人を以て、真のハイパフォーマンスサーバーなのだ。
「スターズ正教が主教キテラ……いいえ、聖あくあ教十二司教が最後の1人、闇聖女ことインスタント・ダブルピース、仲間とはいえ、今回の一件を含めて私はまだ貴女のことを100%信頼したわけじゃないから。今はあくまでも利害が一致してるだけ、あくあ様を悲しませたりしたら許さないんだから」
どうやら姉の方は、妹ちゃんが揶揄われたから少し機嫌が悪いようだ。でも仕方ないじゃない。こうでもしないと、直接貴女とこうやってここで会話する事ができなかったのだから。
「安心して、あくあ様と聖あくあ教……聖女エミリー様を裏切ることだけはしないから。だって聖女エミリー様は、何も知らなかった無知な私に本当の生体儀礼を教えてくださった方ですもの。それと貴女の妹ちゃんを揶揄ったことは謝るわ。ごめんなさいね」
そういうわけだから、貴女にも協力してもらわないとね。
全てはあくあ様のために、さぁ、このスターズを私と一緒に、甘くしめやかに堕落させましょう。
本編では少ししか絡んでいませんが、鞘無インコ視点でのシロとたまとの絡みになります。
月2回以上はこういう小話やりたいですね。
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