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白銀あくあ、カノンは俺の嫁。

 純白のウェディングドレスに身を包んだカノンは、とても綺麗だった。いや、綺麗に見えると言った方が正しいのかもしれない。一見するとわからないが、以前にあった時と比べて少しやつれたように思う。それをうまくメイクで誤魔化しているけど、俺の目は誤魔化せない。


「あくあ様……」


 俺の事を見たカノンは、ほんの一瞬の笑顔の後、憔悴しきった表情を覗かせる。一刻も早くカノンを抱きしめて、安心させてあげたい。そう思った俺は、ゆっくりとカノンの方へと向かって歩き出す。

 バージンロードの左右の椅子に座った招待客の人たちは、何が起こっているのか理解できないのだろう。目を見開いたまま口をポカーンと開けて俺の方をジッと見つめている。


『待たれよ!』


 警備隊とは少し違う衛兵のような格好をした女性2人に行く先を阻まれる。

 その視線は鋭く、それぞれが手に持った槍を威圧するように俺の前で交差させた。


『悪いけど、その指示には従えない』

『なんだと?』


 俺は2人の持った槍の柄部分、切先の根元に近い位置にそっと手を置く。


『愛する人が目の前で今にも泣きそうな顔をしていたら、抱きしめて安心させてあげたいと思うのは恋人として当然のことだろう』

『っ!?』


 俺の言葉に、会場はどよめき、衛兵の女性たちも驚いた顔を見せる。

 さっきのカノンの表情で俺の中でさらに覚悟が決まった。

 例えカノンのご両親と対立、それこそスターズという国に対して喧嘩を売ることになったとしても、あの状態のカノンをここに置いていくことはできない。


『白銀あくあ……貴方は、スターズと敵対するおつもりか!?』

『スターズだけじゃない、たとえ世界の全てを敵に回す事になったとしても、俺はカノンのところに行く』


 俺は衛兵の人たちから視線をスッとそらすと、カノンの奥にいる女王陛下に向けて力強い眼差しを向けた。

 フューリア・スターズ・ゴッシェナイト。

 現スターズの女王陛下にしてカノンの母親、平和にして変化が求められる時代に治世を行う彼女は天秤王とも呼ばれている。しかしこの天秤王という名前は二重の意味があって、良い意味でその言葉を捉えるならば、天秤のようにうまくバランスをとっているとも言えるし、悪い意味で捉えると、バランスをとりすぎてどっちつかずになっているとも揶揄されているそうだ。スターズ正教では保守派の考え方に近く、その中でも社会派よりの保守層ともされているが、過激派からの支持も高い。

 ジョンやクリス曰く過激派の支持者が高いのは、女王陛下のそのルックスによるところが大きいそうだ。

 確かに今、目の前にいる女王陛下を見ると、俺と同じか、それより少し高いくらいの身長で、立ち姿にも華がある。さらにいうとカノンの母親だけあって美人さんだが、カノンから柔らかい感じをひいてより男前にした感じというべきだろうか。男の俺から見てもかっこいいと思う。

 近くにいた王配、つまりはカノンの父親に当たるハーキュリー殿下もまたかっこいいが、柔らかい雰囲気があり、カノンの基本的な顔の作りはお母さんに似ているが、あのふんわりとした優しい雰囲気に仕上がっているのはお父さんに似たんじゃないのかなと思った。


『止めたければ止めればいい。ただし、止めるつもりならそれ相応の覚悟を持って止めに入ることだ』


 俺はただでは止まらないぞと、威嚇するように警告した。

 本当はあまり暴力では解決したくないけど、話し合いに応じてくれないのであれば多少揉みあってでもカノンのところに行く。その覚悟はできてる。

 俺と目の合ったフューリア陛下は軽く息を吐く。


『少し後ろが煩いわね、扉を閉めてもらえるかしら?』


 フューリア女王陛下の言葉に衛兵が慌てて扉を閉める。

 式場の扉が完全に閉じると、外の喧騒は何一つとして聞こえなくなった。


『何故……何故そこまで私の娘に拘る?』


 フューリア女王陛下は落ち着いた口調で、問いかけるように喋りかける。


『白銀あくあ、貴方ほどの男であれば、カノンではなくても多くの女性から言い寄られているのではないか? 確かに私の娘は美しく優秀かもしれないが、多少面倒臭いところはあるし、女性なんて世の中に掃いて捨てるほどいるんだ。こんな揉め事を起こして、自らの築き上げたものを捨てることになっても拘るだけの価値がある事なのか?』


 俺はゆっくりと息を吐くと、拳をぎゅっと握りしめた。


『俺は……俺は、誰かを愛する事を恐れていた』


 前世で家族のいなかった俺は、親戚をたらい回しにされ最後には孤児院に預けられた。

 別にそこに対して恨みがあるとかではない。だけど、そういう事もあって、前世の俺は親の愛情というものや、家族の温もりを知らずに育ってきたのである。そんな俺が、今世では初めて母に出会えて、姉妹という存在が出来た。

 最初は戸惑ったし、どうすれば良いのかわからずに、そっけなかったりとかもしたと思う。それこそ最初に始めたバイトも今にして思えば、無自覚に家族との接し方がわからずに距離を置こうとしたんだろうな。でも、そんな俺に対して母さんは、いや家族のみんなは無償の愛をくれた。この仕事をするときもいっぱい支えてもらったし、今だって俺のわがままにも優しく見守ってくれている。

 そのことに気づかせてくれたのはカノンだ。


 あくあ様は……もしかしたらですけど、誰かと深い関係になる事に対して一歩引いてしまっているのではないですか?


 熱を出してお見舞いに来てくれた時のカノンの言葉に、俺はハッとさせられた。カノンの言う通り、俺は無意識の内に誰かと深い関係……正確には家族になる、つまりは恋人同士になることを恐れていたんだと思う。

 だから誰かに好意を向けられたとしても、自分の事じゃないと自然と思い込むようになってしまっていた。

 誰かを好きになっても、失ってしまったら、またあの時みたいに一人ぼっちに戻ってしまう。それが寂しいことだって事を頭が覚えてるから、俺は誰かを好きにならないようにした。


『人を愛するってことにすごく臆病で、カノンと付き合ってるときも、いつかは身分差でこの関係が終わるだろうと思ってた』


 あの夏祭りの日、俺はあの時、自分とカノンでは身分が違うからこの恋は報われないかもしれないと、勝手に線を引いて、カノンを失った時のことを最初から考えてしまっていたんだ。そうすればカノンと結ばれなくても、仕方ないと諦められると思ったし、自分の心が傷つかないで済むと予防線を張っていたのである。


『手を尽くして、それでも無理だったら諦められる』


 そう考えていた。


『でも無理だったんだよ。自分の気持ちに嘘をつくなって、見透かされていた』


 胸の上に手を置くと、あの時、天我先輩に揺さぶられた心臓が力強く跳ねる。


『自分と向き合うことから逃げるなよって心を打たれた』


 黛の言葉が俺を立ち上がらせてくれた。


『アイドル白銀あくあとしてじゃなく、ただの1人の白銀あくあの望みは何かと問われた』


 倒れた俺をとあが引っ張り上げてくれた。いや……とあだけじゃない!

 ここに来るまで多くの人たちが俺を導いてくれた。だから俺はもうこの気持ちからは逃げない。


『俺は心の底からカノンの事を愛してる! 他の誰にも渡さないし、カノンを幸せにするのは俺だ!』


 あの時、カノンだけが気がついてくれた。

 いや、病気で弱っていたとはいえ、俺はカノンに対してあそこまで心の奥を覗かせてしまった時点で気がつくべきだったのだと思う。思えば最初にあった時から、自分の中の情けない本音の部分を、ほんの少しでも曝け出すことができた異性はカノンだけだった。


『カノン、たった一言でいい……君の気持ちを聞かせてほしい』


 俺はフューリア女王陛下からカノンへと視線を戻す。

 カノンは自らの両手で口元を覆い隠すと、ポロポロと大粒の涙を幾つも零した。


『嫌……』


 えっ? 嫌!? 嫌なの……?

 周りの招待客の人達も、目の前の衛兵さん達も、えっ? マジ? みたいな顔してるし……。

 やばい、ちょっとでも気を抜いたら俺もオロオロしてしまうかもしれない。


『あくあ以外の人と結婚するなんてやだ!』


 そっちの嫌!? よかった……最初に嫌って言われたから、俺のことが嫌なのかと思って、もう少しで絶望するところだった……。


『お母様……』


 カノンは涙を拭うと、フューリア女王陛下へと視線を向ける。


『私も覚悟が決まりました。例え、愛すべき母様や父様と、愛すべきこの国と国民達と訣別することになったとしても、私は私の愛した人と添い遂げます!!』


 カノンの決意に会場がこれまでにないほどにどよめく。


『カノン王女殿下が、王家を離脱するって?』

『それどころかスターズとも決別するなんて……』

『カノン王女殿下がいなかったら、この国を導く未来の女王陛下はどうなるのよ』

『そんな……』

『ミーズはどこなの? 聞いていた話と違うじゃない!』

『私はカノン王女殿下の幸せを願って署名したのに!』


 ざわめいた招待客達が、近くにいた人達と話し始める。

 衛兵達もどうしたらいいのかわからずに戸惑っているようだった。

 俺はその隙にゆっくりと前にでて、カノンの隣に並ぶ。

 本当なら今すぐに抱きしめてあげたいけど、まずは女王陛下と視線を向ける。


『静かになさい! 女王陛下の御前ですよ!』

 

 シスター服を着た女性が、ゆっくりと立ち上がる。

 主教キテラ……スターズ正教のトップとされている人物だ。

 キテラさんは、そのままゆっくりとフューリア女王陛下の方へと近づくと跪いて首を垂れる。


『主教キテラ……こうなってしまっては、全てを説明しないといけないのではなくて?』

『お任せください、フューリア女王陛下』


 キテラさんはこちらに振り向くと、会場の全体を見渡す。


『昨今、我が国では男性への社会進出を促す一方で、スターズ正教による検閲が強化されてきました。私が率いる保守派は、これまで通り男性の保護を一番に考えた上で、社会派の人たちと共に男性への社会進出をサポートしてきたつもりです。男性を保護する、それが理念であったスターズ正教の中であって、ここ最近は過激派、女性第一主義を掲げるグループが現れました』


 過激派……そういえば、テレビでもやっていたけど、過激派と呼ばれる人たちがつい最近、飛行機をハイジャックしていた。死者はおろか、重傷者もいなかった事は不幸中の幸いだと聞いている。


『その過激派のリーダーを務めていたのが、スターズ正教の司祭の1人ミーズです。ここに招待された政治家や貴族の人達も司祭ミーズにこう言われたのではないですか? かの東の島国の男性は女性に暴力を振るう人間が多い。そんな男性に、私たちの敬愛するカノン王女殿下が弄ばれてもいいのかと……』


 キテラさんの言葉に、多くの招待客が反応を示す。


『そうよ! 私だって、カノン王女殿下には不幸になってもらいたくないもの』

『カノン王女殿下の幸せを願って、司祭ミーズの言葉に賛同したのに!』

『待て、裏切るつもりか!』

『裏切るも何も、私たちはカノン王女殿下の事を考えて過激派の提案に乗ったのよ』

『結婚は女王になるための責務の一つ、カノン王女殿下が女性と結婚すれば、穢れた男性と結婚する必要がなくなるわ!!』

『穢れた男性? 意に沿わぬ結婚を阻止するためと言っていたのではなくって?』

『カノン王女殿下は子供だから、王家に婚約者を決められて不幸になる前に手を打とうって、そういう話ではなかったのですか?』

『待ってくださいまし、最初と言っていた事が違いますわ!!』


 招待席を見ると隣の招待客と取っ組み合いの喧嘩を始める人たちまで出てきた。


『ご存知の通り、過激派の思惑通りに貴族院と一般議会、つまりは貴族と政治家の両方から、カノン王女殿下の結婚についての嘆願書がフューリア女王陛下に提出されました。フューリア女王陛下はこれを王権を使って却下しようと思っていましたが、そこにストップをかけたのが私です』


 何人かの人が青ざめた顔でキテラさんのことを見つめる。

 慌てて逃げ出そうとした人たちもいたが、すぐに衛兵の人たちに確保された。


『つい先日、過激派が自分達の思想を流布するために、全くの無関係である一般市民を巻き込んだハイジャック事件を起こした様に、これ以上、彼女達を増長させてしまえば、この国や他国の人たちにさらなる災いをもたらす事は明白です。ですから私はフューリア女王陛下に嘆願して、今回の王女殿下の結婚式を利用できないかとお願いしました。作戦は全て秘密裏に行われ、結婚式までに過激派に関与するものを炙り出し全てを片付けるつもりでしたが、予定外の事が多々あり、いまの今まで遅れてしまったこと……そして、作戦の秘密厳守のために、カノン王女殿下を利用し、何も告げなかったことに関してはこの場にて謝罪申し上げます』


 自然と握っていた拳に力が入る。

 キテラさんの言っている事も、フューリア女王陛下のやろうとしたことも理解できなくはない。

 大きな団体のトップや女王陛下になると、より大きな目的のために家族を利用しなければいけないこともあるのだろう。でも俺は、大事なカノンがそのために利用され、心を痛めてしまっていたこと、そしてカノンの事を心配していた桐花さんや森川さんのことを思うと腹が立った。

 俺も人のことを言えたような人間じゃないと思うけど、ここでカノンの代わりに怒ってやれるのは俺しかいない。


『ふざけるなよ! そんなことでカノンは……カノンに、あんな顔をさせてしまったことを理解してるのか!!』


 俺が声を荒げると、フューリア陛下は衛兵の制止も聞かずにゆっくりと俺のいるところまで降りてくる。


『そうね……あなたのいう通りよ。でも私はこの国の女王なのだから、有事の際には、愛する娘や夫よりもこの国を優先しなければいけないわ』


 フューリア女王陛下はゆっくりとカノンの方に視線を向ける。

 その時の視線は今までと違って、すごく優しくて慈しみのある目だった。


『ねぇ……カノン。貴女は、あくあ君よりこの国のことを優先できる?』


 フューリア女王陛下の問いかけに対してカノンは目を見開く。

 そしてゆっくりと首を左右に振る。


『そう……わかったわ。ごめんねカノン』


 フューリア女王陛下がカノンに言ったごめんねの意味はどういう意味なのだろう。

 そんなことを考える暇もなく、フューリア女王陛下は威厳のある表情を戻して周囲を見渡した。


『聞いた通りよ。女王陛下に求められる1番の資質は、家族よりも誰よりも国家と国民のことを考えること。それに関してカノンは不適格だと判断されたわ。現時点をもって、フューリア・スターズ・ゴッシェナイトの名の下に、カノン・スターズ・ゴッシェナイトを次期女王候補から外すことを宣言する。尚この決定は王権を持って発動されたものとし、今後2度と覆る事はないと明言します』


 フューリア女王陛下の言葉に、周囲が余計に騒がしくなった。

 それほどまでにカノンは多くの人に、この国の次期女王陛下に望まれていたのだろう。


『母様……』


 フューリア女王陛下はそっとカノンの肩の上に手を置く。


『カノンこれで貴女は自由よ』


 涙をこぼしたカノンを見て女王陛下の手が伸びそうになる。

 本当はこの場で、一番カノンを抱きしめてあげたいのは、母親であるフューリア女王陛下なのかもしれない。

 でもフューリア女王陛下は、母になる前から女王陛下だったのだ。

 だから家族よりも女王陛下であることを優先した上で、女王の権限を使ってカノンを王族の縛りから解放したのである。

 俺はその姿を見て、なぜか母さんのことを思い出した。

 母は強いと言うが、こういうことを言うのだろうか。それに比べたら俺はまだまだ子供だなと思い知らされる。

 フューリア女王陛下は俺とすれ違う時、小さな声で囁く。


『さっきは娘のために怒ってくれてありがとう。ところで……最初にカノンを抱きしめて安心させてあげたいって言ってたのは嘘かしら?』


 フューリア女王陛下と視線が合うと、挑発的な表情で笑みを浮かべられた。

 それをみた俺は、本当はこの人こそ、カノンに次期女王陛下になってもらいたかったのかもしれないと察する。

 娘の幸せのために諦めるんだから、貴方がしっかりと幸せにするのよと言われた気がした。


『スターズ正教、主教キテラ! フューリア・スターズ・ゴッシェナイトの名に置いて命じます。残る過激派を拘束しなさい!!』


 フューリア女王陛下の言葉を受けて、キテラさんは近衛兵を率いて式場の外へと向かっていく。

 俺はカノンに近づくと、そっとほっぺたに手を添える。


「あっ、あっ……見ないで、今、化粧が崩れてるから」

「大丈夫、カノンはいつだって綺麗だよ。だからほら、こっちを向いて」


 俺は両手をカノンのほっぺたに添えると、指先で涙をそっと拭う。


「ごめん、来るのが遅くなって」

「ううん……私の方こそごめん。この国のことに巻き込んでしまって」


 うーん、こればっかりは仕方ないんじゃないのかな。

 カノンは知らなかったわけだし、こんな大事になってしまった責任は俺にもある。

 誰が悪いとかそういう問題じゃなくて、それぞれがそれぞれの信念のもとに動いた結果がこれだったのだ。

 だから俺はこの後捕まっても文句はいわない。それも覚悟の上で行動を起こした。

 巻き込んだベリルのみんなやジョン達には申し訳なく思うけど、それを言ったらみんなに怒られるんだよな。

 だから俺ができる事と言えば、みんなが何らかの罪を負うならば、それを自分に転嫁できないかと願うことくらいだろう。そのためなら俺はなんだってするつもりだ。


「カノン……抱きしめてもいいか?」

「う、うん……」


 俺はカノンの背中に手を回すと、自分の方にギュッと抱き寄せた。

 そしてカノンを落ち着けるように、背中をぽんぽんと優しく叩く。


「少しは落ち着いたかな?」

「うん、ありがとう」


 俺はゆっくりとカノンの体を離すと、その場に跪いた。

 それを見たカノンが戸惑うように狼狽える。


「えっ、えっ……!?」


 もう2度と手放したりなんてしない、そのためにも俺はカノンに伝えなければいけないことがある。

 俺はポケットの中から小さな箱を取り出すと、蓋を開けてその中身を取り出す。


「カノン、俺と結婚してほしい」


 俺もカノンもまだ学生だ。結婚するには早すぎるのかもしれない。

 でも、俺にはもうこの感情を、自分の気持ちを誤魔化す事はできなかった。

 カノンの顔を見上げると、彼女は顔を真っ赤っかにして固まっている。

 周囲の人たちは疎か、女王陛下もここでプロポーズをするとは思っていなかったのか、みんな同じように固まっていた。あれ……やっぱやりすぎだったか? でも、もうここまできたら引けないよな。


「カノン」


 このままじゃダメだと思った俺は、再度優しく彼女の名前を呼ぶ。


「ひゃ、ひゃい」

「俺じゃ嫌?」

「嫌じゃありません!!」


 ずるい聞き方だったかもしれない。でも俺だってそれくらい必死なのだ。


「じゃあ結婚しよっか」

「はい、喜んでぇ!!」


 俺は立ち上がると、彼女を抱き上げてその場でくるくると回転した。


「ありがとうカノン!」

「ふ、ふぁい……」


 そのまま俺はカノンをお姫様抱っこした。

 すると後ろからパチパチと拍手する音が聞こえてくる。

 振り返るとそこには、とあ、慎太郎、そしてポイズンチャリス……じゃなくって、天我先輩の姿があった。


「みんな……」

「おめでとう、あくあ! お幸せにね!」

「あくあ、それでこそお前は白銀あくあだよ!」

「カッコよかったぞ後輩! いや剣崎!!」


 俺はカノンをお姫様抱っこしたままみんなところへと向かう。

 ちなみに天我先輩には突っ込まない。だから頼んだぞ慎太郎。


「カノン〜、よかった、よかったねぇ!」


 森川さんは、カノンを見てガン泣きしてた。


「カノン、無事で良かった。幸せになってね」


 桐花さんも目に涙を浮かべている。

 カノンをその場に下ろすと、3人は抱き合って涙を流し喜びあった。

 俺もまたみんなと一緒に抱き合って喜び合う。

 その後ろで目隠しをしたシスターさんが、カノンたちの輪に混ざりたそうにしてたような気がするけど、俺の気のせいだろうか?


 それから数日後、俺は改めてカノンと結婚式をすることになった。

本編では少ししか絡んでいませんが、鞘無インコ視点でのシロとたまとの絡みになります。

月2回以上はこういう小話やりたいですね。


https://fantia.jp/yuuritohoney

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Twitterでお知らせとか、たまに投票とかやってます。


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― 新着の感想 ―
[一言] ずっと応援してます。 早く続きがみたくて仕方ないです。
[一言] 嗜みさんおめ! とは思うけど当事者であるカノンに事前に説明しない合理的な理由はどこにもないですよね。
[良い点] 「はい、喜んでぇ!!」めっちゃ刺さりますありがとうございますm(_ _)m
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