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白銀あくあ、俺についてこい!

「いやあ、インタビューをお受けしていただいてありがとうございます」


 俺と桐花さんは森川さんを連れてトラッシュパンクスの控室に入る。インタビューを受けずにあそこで置いてくることもできたけど、桐花さんの判断で森川さんにも事情を説明することにした。


「貴女……こんなところで何をやってるのよ?」


 桐花さんの声に、森川さんは最初意味がわからずに固まっていたが、ようやく理解が追いついたのか大きく口を開ける。


「ええ……んぐっ!?」


 あ、危ねぇ。俺は森川さんが驚きで大きな声を上げようとしたから、後ろからスッと森川さんの体に抱きつくような形で口を手で塞いだ。


「んっ……」


 あれ? なんか森川さんの雰囲気が急に艶かしくなったような。

 そこはかとなく体温も高くなっているような気がするし、呼吸が荒くなってるみたいだけど大丈夫だろうか?


「あくあさん、それ以上は森川さんが大変なことになると思うから解放してあげて……」

「あ、はい」


 俺は桐花さんに言われて、森川さんを解放する。

 森川さんは熱のこもった目で俺のことを見つめると、乱れた着衣を整えて一呼吸おく。


「姐さんなんでここに……? それにこの下半身から出るオーラ……並の戦闘力ではないと思ってたけど、やっぱりあくあ君だったのね」


 下半身から出るオーラ? えっ……俺って、そんな変なところからオーラ出てるの!?

 俺は念の為に自分の下半身をじっと見つめる。いや……そんなの出てないよな?


「ちょっと、変なこと言って、うちのタレントを困らせたりするんじゃありません」

「ひゃ、ひゃい」


 桐花さんの軽めのチョップに、森川さんは頭を押さえる。


「で……あなたは何でここに?」

「えっと……」


 森川さんの説明によると、どうやら彼女は国営放送の仕事でスターズに訪れていたそうだ。

 その最中に、友人であるカノンの結婚を知って、いてもたってもいられなくなって行動に出たらしい。

 桐花さんと森川さんは喫茶店にも一緒に来てたし、桐花さんがカノンと友人だと聞いて、もしかしたらと思っていたが、まさか森川さんとカノンまで友人同士だったとは……これには俺も予測をしていたこととはいえ驚いた。

 世間って思ってたより狭いんだなぁ。


「そういうわけだから、私も協力しますよ!! ついでに言うと、彼女たちも協力者なので安心してください」


 森川さんが指差した方に視線を向けると、同行したカメラマンさん達がなぜか拝むような姿で土下座していた。えっ、えっ? 何? 何があったっていうんだ!?


「ちょっ、ちょっとちょっと!」


 森川さんは現地のカメラマンと思わしき人を立たせると、何やら現地の言葉でコソコソと話を始めた。

 残念ながら距離が遠いから何かを言っているかは聞こえなかったが、森川さんは説得しているように見える。


『族長さん、ダメだって……』

『いや、でも……』

『いやもくそもへったくれもないですから! 本人の前でそういうのやっちゃダメだって、何かに書いてなかった?』


 近くにいたスタッフの1人が立ち上がると、森川さんとカメラマンさんの会話に割り込む。

 大丈夫? なんか揉めてない?


『族長……経典にも同じことが書かれています。汝、決して唯一神に不信感を抱かせることがないようにと。我々としたことが、唯一神あくあ様の神々しさに思わず拝礼をしてしまいました。聖人様、ご指摘ありがとうございます』

『うむ、そうなのか。次からは気をつける』

『それにしてもさすがは聖人様ですね。唯一神あくあ様のお側に立たれていても平然とされているなんて、末端の信者の1人として感服いたします』


 なぜかはわからないけど、次は森川さんが拝まれていた。

 えっと、スターズってそういう文化があるのかな?


『だーかーらー、そういうのやめなって! ほらちゃんとする!!』


 どうやら3人の会話はうまくまとまったようだ。


「あはは、ごめんねー。あくあ君は何も気にしなくていいからさ、うん。それでさ、どうやってカノンを助けるつもりなのか聞かせてもらってもいいかな?」

「えっと……本当にいいんですか?」

「うん、だってカノンは私の友人だからね。目的が一緒なら、助けられる確率が高い方の計画に協力した方が良くない? それと彼女たちは、スタッフの人のふりしてるけど現地の人たちで、スターズ正教、今回の黒幕と対立してる勢力だから本当に気にしなくていいよ」


 へぇ、スターズ正教に対立してるところなんてあるんだ。どういう集まりの人かは知らないけど、そういう現地の人たちがいるなら心強い。俺は森川さんたちにも助けを求めることにした。


「森川さんも皆さんもありがとうございます」


 俺はみんなに頭を下げた。それを見て、なぜかスタッフに扮した現地の人たちは、動揺した様子を見せる。男が頭を下げるのはこっちでも珍しいことなのだろう。


「カノンの結婚を阻止できるチャンスがあるとしたら、彼女が教会に到着した瞬間だと思います。一旦は控え室に入ると思うので、そのタイミングを狙って控室に結婚のお祝いと挨拶という形で突撃しようと思っていました。そこでほんの少しでいいから、俺はカノンと話す時間が欲しい。この結婚をカノンが望んでないならどうにかしたいし、カノンがこの結婚を望んでるなら……その時は説得して、それでもダメなら、悔しいけど諦めます……。でも彼女が幸せなら、俺はそれでいいと思ってる。俺はカノンが笑ってないことの方が何よりも辛いから」


 俺が願うのはただ一つ、カノンの幸せだ。

 もちろん、カノンを幸せにするのが俺だったらいいなと思う。いや、俺がカノンを幸せにする。

 子供みたいなわがままかもしれないけど、他の男に託すのなんて絶対に嫌だ! だから俺はこの思いをカノンにぶつけたい。


「そっか……うん。わかった。それなら任しといて、私たちにだって、足止めくらいできるから!」

「ありがとう森川さん、それに皆さんも」


 俺は改めて皆さんに礼を言う。


「ちょうど、カノンも王宮を出たみたいね」


 俺は控室に設置されたテレビへと視線を向ける。

 すると画面の中では、純白のウェディングドレスを着たカノンが、車に乗るところが映されていた。

 なんて綺麗なんだろう……胸の奥が締め付けられたように苦しくなる。


「私たちも準備しましょう」


 桐花さんの言葉に、俺たちも突撃に向けて最後の打ち合わせをする。


「そろそろ到着するようね。私たちも行きましょう」


 カノンが教会に到着するタイミングに合わせて、俺たちはお手洗いにいくフリをして外に出る。幸いにも事前にジョンから控室として使うのならここだろうという目星をつけてもらってるから、あとは控室の近くで警備員の目を掻い潜ってお祝いの挨拶がしたいというていで本人に突撃するだけだ。ほんの少しでもカノンと話せる時間ができれば、あとは俺がどうにかする。そう計画を立てていたのに、俺たちの予定は簡単に狂ってしまった。


「何かあったみたい」


 警備員達が慌てたように教会の中を走る。


『教会の外で誰かが民衆を扇動して反乱を起こしてるぞ!!』

『カノン殿下は予定を変更して、控室に入らずそのまま結婚式に入るそうだ!』

『急げ、配置の変更だ!!』


 聞こえてきた警備員達の声に、俺たちは顔を見合わせる。

 カノンが控室にはいかない? そうなると、予定していた計画が完全に狂う。


「ど、どどどどどどうしよう?」


 困惑する森川さんに対して、俺の頭の中はやけに冷静だった。

 自分より焦ってる人を見ると案外落ち着くって言うのは本当だったんだな。


「落ち着いてください森川さん。計画は変わりません。こうなったら直接、式に乗り込みます」


 これがカノンの望んだ結婚なら、彼女を悲しませることになるかもしれない。いや、そんなことはない。俺はあの時の、悲しく笑うカノンの表情を見て、この結婚式が彼女が心から望んだことじゃないと確信している。だからこの結婚式は絶対に阻止しなきゃいけない。その覚悟がもう俺にはある。


「あとは俺が1人で行くから、みんなは逃げてください」


 俺がそういうと、桐花さんが俺の両肩を掴んだ。


「あくあさん……私と森川さんの覚悟を侮らないでください!」


 桐花さんの強い言葉に、俺は背筋がピンと伸びる。

 ヘルメットで顔は見えないが、その気迫と熱が心に響く。


「貴方は……貴方は、私を変えてくれました。いや、私だけじゃない。森川さんも、そしてこの計画に協力してくれた全ての人たちは、貴方と出会ったことで、今までの後ろ向きな自分を変えてもらったんです! 貴方が覚悟を決めたように、私たちだって覚悟は決まってる! だから、最後のその時までお供させてください。貴方が、アイドル白銀あくあが世界を変える。その瞬間まで私はついていく!! これが私の覚悟です。覚えておいてください!!」


 桐花さんの言葉に、森川さんも強く頷く。


「あくあ君、私なんかじゃ頼りないかもしれないけど、私だって姐さん……桐花さんと気持ちは一緒だよ。たまには足を引っ張るかもしれないけど、今日だけは任せて。それにあの子に、カノンに幸せになってもらいたいって気持ちだけはあくあ君にも負けてないんだからね。だって私と桐花さんの方が、あくあ君より付き合いは長いわけだし! だからさ、あの時の……ライブの時のように言ってよ。ついてこいって!!」


 2人の言葉に俺は拳を強く握りしめる。


「ありがとう2人とも! わかった。これ以上は何も言わない。背中はみんなに任せる。俺についてきてくれ!!」


 俺の言葉に全員が頷いてくれた。

 そんな時、偶然近くを通りかかった警備員が俺たちの存在に気がつく。


『トラッシュパンクス、なんでこんなところにいる? さっさと控室に戻れ!』


 もういくしかない。そう思った瞬間、カメラマンのお姉さんが警備員に飛びかかった。


『早く行ってください!! 私たちも協力します』

「あ……ありがとうございます!」


 俺たちは式場に飛び込むために走り出した。


『そいつらは不審者だ!』

『誰でもいい、そいつらを止めろ!』

『銃は使うなよ! 取り押さえるだけでいい』


 次々と向かってくる警備員の人たちを、スタッフに扮した現地の人たちが盾になって俺たちに道をつくってくれる。彼女達の協力のおかげで、俺たちは式場の前へとたどり着くことができた。


「あくあ君、行って!」

「あくあさん、ここは私たちに任せて!!」


 扉の前にいた2人の警備員と、森川さんと桐花さんの2人が揉み合いになる。

 その隙に俺は目の前の大きな扉を蹴飛ばす。この先にカノンがいる。そう思っていたのに……扉の先にあったものは、さらに大きな扉とそれを塞ぐ数多くの警備員達だった。

 ここまでか、ほんの一瞬だけ俺の心が挫けそうになる。その瞬間、鼓膜が破けるような大きな声が辺り一帯に響き渡る。


「僕の歌を聞けえええええええええええええええええええ!」


 とあ……いや、正確には大海たまの時のとあの声だった。

 外で何かが起こってる。いや……みんなが動いてくれているんだ。

 1人じゃない。俺の後ろにはこれだけの多くの人がついてきてくれている。だったら俺は前を向くしかねえだろ!!

 俺は頭にかぶったヘルメットに手をかけると、それを地面に投げ捨てた。

 それを見た警備員の人達がざわめく。その中でも警備隊長らしき人は、誰よりも冷静に俺のことを見つめていた。


『白銀あくあ……何しにきた?』

「男が、愛した女に会いにいくのに理由なんて必要あるかよ!!」


 即答だった。


「だから道を開けてくれ。撃つなら撃てばいい、邪魔をするなら邪魔をすればいい。それでも俺は止まらないし、その扉を開けてカノンに会いにいく。それを止める覚悟があるやつだけはこい」


 俺はゆっくりと大きな扉の方へと向かっていく。

 警備員の人たちは、誰1人として動かない。


『……道を開けて差し上げろ』


 警備隊長がそういうと、全員が驚いた顔をしつつ、ゆっくりと左右に道を開けていく。

 俺はそれに合わせて、一歩、また一歩とゆっくりと前に進む。

 このままいけばカノンのところに行ける。そう思った瞬間、誰かが声を荒げた。


『何をしている警備隊!』


 通路の横から現れたシスター服を着た集団、それを連れた女性が鬼の形相で俺のことを見つめる。

 俺は彼女の姿に見覚えがあった。

 司祭ミーズ、スターズ正教の過激派の筆頭とされている人物である。


『早くその男を取り押さえるのです!』


 警備員達は警備隊長とミーズさん、どちらの指示を聞いていいのか戸惑う。


『全く、役にたたない奴らばかりなのです。お前達、行きなさい!!』


 ミーズさんの言葉にシスター達が動き出そうとしたタイミングで、バイクをふかす音が聞こえてきた。

 その音の方へとみんなが顔を振り向けた瞬間、空中を飛ぶようにバイクが教会のステンドグラスに突っ込んでくる。


「あくあ!」

「し、慎太郎!」


 座席の後ろに乗った慎太郎と目があった。


『な、なんだお前達は、ここは神聖な教会だぞ!!』


 慌てるミーズさんをよそに、慎太郎を後ろに乗せてバイクで突っ込んできた人物は、冷静にゆっくりとバイクを降りる。見覚えのあるスーツとマスクに俺はミーズさん以上に驚いた。そ……それ、なんでここにあるの?


「マスク・ド・ドライバーー、ポイズンチャリス……我、参上!」


 いやいやいや! かっこよくポーズを決める天我先輩に、全員が固まってしまった。

 なんなら連れてきた慎太郎すら固まってる。

 さっき俺はとまらねぇとか、カッコつけて言ってたのに、普通に止まっちゃったし、なんでこんなことになった。


「行け剣崎。ここは俺と橘に任せろ」


 な、なりきってる……。これは完全に役に入りきってる時の天我先輩だ。

 元々身長が高いことに加え、天我先輩はアクションシーンも自分で演じるために鍛え始めただけあって、すごい圧にシスター達もどうしていいのか戸惑っている。


「ありがとう先輩、後は任せます。それと慎太郎もあとを頼む!」


 とりあえずよくわからないけど、慎太郎、あとは任せた!

 お前ならきっとこのカオスな状況も上手くまとめることができるはずだ。うん。

 俺は目の前で起こった出来事を慎太郎に丸投……託して、目の前の大きな扉をゆっくりと手で押した。

 ゆっくりと開かれていく扉、その先にカノンの姿が見える。


「カノン!」


 彼女の姿が視界に入った瞬間、俺は彼女の名前を叫んでいた。

 俺の言葉に反応して、ゆっくりとこちらに顔を向けるカノン。

 カノンと目が合ったその瞬間、俺は確信する。カノンを幸せにするのは他の誰でもない! この俺だ!


「君の事を迎えにきた。だから……今だけは大人しく俺に攫われてくれ!」

本編では少ししか絡んでいませんが、鞘無インコ視点でのシロとたまとの絡みになります。

月2回以上はこういう小話やりたいですね。


https://fantia.jp/yuuritohoney

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Twitterでお知らせとか、たまに投票とかやってます。


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