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雪白えみり、初心者歓迎! 短期で高収入!

「やべぇ、ついに電気が止まった……」


 まぁよくあることだ。まだあわてるような時間じゃない。

 真っ暗な部屋の中、私は手に持った携帯のライトをつける。これぞ文明の利器というやつだ。


「あっ……」


 充電していなかったせいで、すぐに携帯の電気が切れてしまった。

 さっきまでぽちぽちと掲示板に書き込んでいたりしたせいだろう。

 はぁ……文明の利器というやつは、大体こうなると何の役にも立たないな。

 だが、まだあわあわてるようなじかんじゃあわあわ。


「と、とりあえず寝よう」


 やはり睡眠は最高だ。寝ている時だけは、大体の問題を先送りにできる。

 そういうわけで私は朝までぐっすりと寝た。今日も快眠である。


「とりあえずバイト行くか」


 私は洗面化粧台で顔を洗うと、道端に生えていたヨモギで自作した化粧水を塗る。

 やっぱ自然が1番よ。電気が切れたら使えなくなる文明の利器とは大違いだ。


「いってきまーす」


 私は壁に貼ったあくあ様のポスターに投げキッスをしてから部屋をでる。


「ハイ・ヨー・シルバー!」


 シルバー号こと、銀色のママチャリをギコギコと漕いでバイト先のラーメン竹子を目指す。

 とりあえず竹子さんに土下座して日払いでお金をもらおう。それしかない。

 なんて悠長に構えてた時期が私にもありました。


「は?」


 ラーメン竹子に着いたら、めちゃくちゃ工事の準備をしてた件について。

 なに、まだあわあわあわあわあわ……泡食ってたらラーメン屋の二階にある自宅から竹子さんが降りてきた。


「あっ、えみりちゃん! 連絡つかなくて心配してたのよ」

「あ、あの、竹子さんこれは一体……」

「ほら、最近いっぱいお客さん来てたでしょ。老朽化してたから水漏れしちゃって……せっかくだから色々と業者さんに頼んで綺麗にしてもらおうと思って。悪いんだけど、その間はお店をお休みにしようと思うの。えみりちゃん大丈夫? 一応少ないけどこれバイトがない時の足しにして」


 そう言って竹子さんはお金の入った封筒を渡してくれた。竹子さんの優しさが身に沁みる。

 とりあえずこれで止まってた電気代を支払おう……。それにしてもなんで止まったんだ電気? ちゃんとお金入れてたはずなのにな。

 しかし私に起こったアクシデントはこれだけでは終わらない。

 帰り道、信号待ちをしていた時に、お店の前に置かれていたテレビに視線を向けると、タイミング良くニュース速報が入った。


『速報です。先ほど株式会社ベニーオークションに家宅捜索が入りました。えー警視庁の発表によりますと、拉致した男性を闇オークションを通して財界人や政治家に向けて販売していた模様です。繰り返します、先ほど株式会社……』


 はぁ!? そこ明日から入る予定のもう一つのバイト先だったんだが!?

 なんかインターネットに書き込むだけの簡単なお仕事だって言ってたし、掲示板で培った経験と技術が活かせるかと思ったのになぁ。でも、そういえば特に履歴書を送る必要もなく、電話かけた時点で合格だったから今思えば相当怪しかった気がする。その時は最近の会社はすげーなとしか思わなかったけど……。


「ほげー」


 私は近くの公園のベンチで、アホみたいな顔を晒しながら放心していた。

 えっ? ちょっと待って、竹子は臨時の改装工事でしばらくお休み、でもって明日から働きに行こうと思ってた会社は明らかにもう無理と……。あれ? 私、無職じゃね?

 ふぅ……一旦落ち着こう。まだあわわわわわわ……うん、もうだめだ。諦めようそうしようって言いたいところだけど、諦めたらそこで試合終了なんだよね。私の場合純粋に諦める=死が待ってるからな。これぞ本当の死活問題……なんちゃって! よし、冗談が言えるならまだいける。まだ舞える!


「とりあえず適当に日雇い入れて食いつなぐか……その間に、どっかちゃんとしたところを探そう」


 私はいつも金に困った時に訪れる、例の場所に向かって自転車を漕ぐ。

 そこにいけば日雇いの仕事を斡旋してくれるおばちゃんがたくさんいるので、誰かから仕事がもらえるはずだ。


「オネェサン、オネェサン、チョットヨッテキナヨ! イイコト、イッパイ、サービススルヨ!!」

「一回……一回だけでいいから、見るだけでいいから! ね、お願い、先っちょだけ、先っちょだけ!!」

「ヘイ、シスター! 久しぶり! 今日も良いお茄子がいっぱい入ってますよ!!」

「へへ、そこの綺麗なお姉さんどうですか? 今ならいい気分になれる例の甘ーい粉も、いい夢が見られると噂の例の草もどっちも入荷してますよ」


 シンプルに終わってる。その区画に入ると真っ先に頭の中に思い浮かぶ言葉だ。

 相変わらず世紀末みてーなところだけど、実は悪い人は1人もいない。いたら普通に取り締まられてるしな。

 ただ純粋にたむろってる奴らの柄が悪いだけなのだ。

 でもそれを知らない人からすれば、何やら悪いことをしているようにしか見えない。ましてや警察が取り締まらないから治外法権なのかと勘違いして、よく本物の犯罪者が逃げ込んでくることがある。ただ犯人がここに逃げ込もうものなら袋叩きにされて警察に突き出されるのがおちだ。

 それを繰り返してるせいか、ここにいる奴らの大半は警察から何やらの賞状をもらってるような奴しかいない。でもみんな見た目は前科三犯してるような奴らだから、やっぱりこの区画に隔離しておいた方が無難だろう。だって普通にちっちゃい子とか泣くし。

 私は魑魅魍魎の中をくぐり抜けて、スタスタと目的の場所へと向かう。


「お邪魔します」


 ゲホッ、ゴホッ……建物の中に入ると煙で充満してて前が見えない。

 ちょっとこれ火事になるって!


「邪魔するなら帰って!」


 これはあいさつのようなものである。西の方では御作法の一つとして幼少期から習わされるらしい。

 最初分からなくて普通に帰ろうとしたら、ちょっとちょっとって止められた。


「おっ! えみちゃんや! みんなえみちゃんがきたで!!」


 1番手前にいた、プカプカとヤニのようなものをふかしていた金歯のおばちゃんが私に気付く。

 ちなみにヤニのようなものであってヤニではない。ただの甘ーいお菓子である。

 えっ? じゃあこの煙は何かって? 普通におばちゃんたちが朝から焼肉してるだけなんですよ。


「なんやて、えみちゃん聞いてや! この前、近所のおばはんがな……」

「えっ? えみちゃんきやはったんか? おーい、みんなえみちゃんやで!!」


 一斉におばちゃんの大群に囲まれる。

 おばちゃん1人に気づかれたら、100人が寄ってくるとは聞いていたが本当のことなんだな。


「おばちゃんたち久しぶり。元気してた? とりあえず窓開けるね。このままじゃみんなの健康にも悪いだろうし」


 とりあえず換気しようと私は窓を開ける。このままじゃ目が痛いし、何より火事になりそうだ。


「あぁ、あぁ、やっぱえみちゃんは優しいねぇ」

「こんなに綺麗なのに、私たちみたいな汚ったねぇババアにまで優しくしてさ。ほら飴ちゃん食べな。おばちゃんの大好きなナチョ黒だよ」

「小汚いのはあんただけで私は綺麗だけど、えみちゃんは本当に綺麗ねぇ。ほら、お腹空いてないかい? 焼肉なら好きなだけ食べな。まぁ、なんの肉かは知らないけどね。ひっひっひっ!」

「腹が減ってるなら裏のストックルームに賞味期限切れのパンならいくらでもあるから、好きなだけ持って帰りな!」


 くぅっ……! 竹子さん同様にみんなの優しさが沁みる。ちなみに目も沁みて涙を流しているように見えるが、これは単純に煙のせいだ。


「で? 今日は仕事の斡旋かい?」

「あ……うん。なんかこう短期でいっぱい稼げる仕事ないかなって……」


 私がそういうと、おばちゃんは後ろの箱をゴソゴソと漁り出す。


「あー、それならちょうどいいのがあるよ。これなんかどうだい?」


 おばちゃんは箱の中から一枚の紙を取り出すと私に向けて差し出す。

 ありがてぇありがてぇ、私はおばちゃんから紙を受け取って中身を確認する。



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 うおおおおお〜! これだよこれ! こういうの探してたんだよ。


「ありがとうおばちゃん、これ受けるね」

「よっしゃ! それじゃあそろそろお迎えのトラックが来る予定だから、紙に書いてある集合場所に行っておくといいよ!」

「うん! 本当にありがとうねおばちゃん!」


 私は再度おばちゃんにお礼を言って建物から外に出る。


「ん? さっきえみちゃんに渡した紙、何か違ったような……まっ、気のせいかね。おい、ババア! さっきから私の肉食ってんじゃないよ!」

「へっへっへっ、早い者勝ちさーよねっと!」


 私は中でそんな会話が行われてるとも知らずに、建物の外に出て集合場所へと向かう。

 集合場所に到着すると、死にそうな顔をした奴らが何人もいてちょうどトラックの中に乗り込むところだった。


「おーい! 早くしろ、行っちまうぞ!!」

「あっ、はい!」


 私はあわててトラックに乗り込む。トラックの中は真ん中に間仕切りがあって、左右に鮨詰めになって椅子に座らされた。

 車内に充満するメス臭い香りにむせ返りそうになる。くっそー、どうせ密着するならあくあ様と一緒に鮨詰めになりたかった。そうすれば合法的に車の揺れに合わせて色々お触りできたのに!!

 トラックに乗った私たちはガタンゴトンとやたらと揺れる車内の中、目的地に向かって進み出す。残念ながら窓がないからどこに向かっているのか、どこを進んでるのかはわからない。

 それからどれくらいの時間が過ぎたのかはわからないが、サイドブレーキを引く音とともに車内の揺れが収まる。

 おっ、到着したか? トラックの後ろの扉が開くとなんかだだっ広い道路か駐車場みたいなところだった。


「早く外に出ろ! こっちだ!!」


 急かされた私たちはあわてて外に出る。

 すると目の前にさらに大きなトラックが現れた。


「お前らこの中に入れ!!」


 私たちは案内されたコンテナの中に入る。

 あれ? なんでコンテナ? と疑問に思う暇もなく扉がバタンと閉じられた。

 そこからはまた車に揺さぶられて何処かへと向かう。しかし今度は距離が短かったのか、十数分くらいの時間で車がストップする。


「中身の確認しまーす」


 ガチャガチャという音と共にコンテナの扉がゆっくりと開く。

 ほんの一瞬だったが、コンテナの扉の外には飛行機があるのが見える。

 えっ? えっ? 扉を開けた人物は中身のわたしたちを見てにっこりと微笑む。


「中身確認問題なーし! このまま中に放り込んでくださーい」


 再びコンテナの扉が閉じられる。何やら釣り上げるようなクレーンの音と共に、中にいる私たちの体が揺れる。

 おいおいおい! 流石に不味くね? そう思った時にはもう全てが遅かった。

 回り出す飛行機のエンジン! ジェット噴射が火を噴く!


「あばばばばばば!」


 私たちの詰め込まれたコンテナを乗せた飛行機が大空へと飛び立つ。

 ちょっ、ちょっ、揺れでかいって! これ確実に死ぬ奴じゃ……。


 だ、誰か、助けてくれえええええ! こうなったら嗜みとかティムポスキーでもいいから早くうううううう!


 この後、私は半日近くの長い時間を飛行機の中で過ごすこととなった。


Twitterでお知らせとか、たまに投票とかやってます。


https://mobile.twitter.com/yuuritohoney


森川楓こと○○スキーの日常回のお話を投稿しました。

せっかく開設したからにはこっちも有効活用したい……。


https://fantia.jp/yuuritohoney

https://www.fanbox.cc/@yuuritohoney

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[良い点] えみりさんマジ天女…大好きです
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