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白銀あくあ、星水シロの突発企画。

 CRカップまであと1日、今日のカスタムマッチが終わればいよいよ明日は本番だ。

 それなのに昨日からゲームのサーバーが安定しなくて、運営の人たちがその対応に追われている。

 なんとか試合はぎりぎり行えているものの、何人かがサーバーエラーの煽りを受けてゲームの最中に強制退出されるという不具合が何度も出てて、ついに俺もその洗礼を受けてしまった。


「あっ……」


 フリーズするゲーム画面、マウスを動かそうがキーボードを叩こうが反応する素振りは全くない。

 しばらくすると強制ログアウトの文字と共にゲームのトップページに戻った。


「シロくん?」

「シロさーん!」


 通話チャットのユリスと白龍先生の声だけが聞こえる。

 おそらく2人とも固まった俺のキャラクターを見て異常に気がついたのだろう。


「ごめん、固まっちゃった……」


 俺は一旦ゲーム再起動させて、何度かカスタムマッチにログインしようとしたがはじかれてしまう。

 やはり一旦弾かれると試合に復帰することは不可能みたいだ。


『あああああああ!』

『シロくんかわいそう』

『これはク○ゲー』

『2日前にアップデートなんて入れるから!!』

『バグの修正をしたと思ったら、新しいバグが出てきた』

『えぺあるある』

『流石に落ちすぎじゃない?』

『マッチ開始5分で8人も落ちてるw』

『最初のへんに落ちると残り10数分がデュオ確定だからきついよね』

『2042ではよくあること、それに比べたらEPEXはまだマシな部類』


 コメント欄も最初は怒ってる人もいたけど、大方の人も呆れの境地に入っていた。

 まぁこういうのは怒っても意味ないしね。それにこのゲームの運営会社ではよくある事で、そうたとえばバトル……おっと、話が脱線しかけちゃった。


「ごめん、2人ともやっぱダメだったみたい。あと、みんなちょっとおトイレ行ってくるね」


 俺はイヤホンを外すと、画面を切り替えて退室する。


『え? シロくんのおトイレ……?』

『REC』

『お前ら、静かにしろ! シロくんの大事な音が聞こえないだろ!!』

『耳をすませば』

『録音ヨシッ!』

『●REC』

『ママが後ろから手で支えてあげようか?』

『1人で大丈夫? お姉さんでよかったら手伝わせて欲しいな』

『とりあえずスパチャ投げとこ』10000円 byソムリエ

『トイレ行くだけで赤スパが飛ぶ男w』

『トイレ助かる』

『お姉ちゃんもおトイレ行きたくなっちゃった……シロくん一緒に行こ?』

『おトイレ捗る』


 トイレに入った俺は大きなため息を吐く。

 実はユリスや白龍先生も昨日から落ちたりして、昨日今日とまともに試合をやれてない。

 配信を見に来てくれてる人や投げ銭をしてくれる人の事を思えば、3人でちゃんとゲームをやれている姿をみせられない事が申し訳なかった。


「どうしようかな」


 俺はトイレから戻るとサブモニターで裏画面を確認する。

 すると運営の人から、大会参加者宛にお詫びとお知らせが送られてきていた。


 【お知らせとお詫び】


 この度、9月25日(日)開催予定のCRカップについて、現在練習カスタムにて発生しているエラー落ちの現状と、改善の見込みがない事を鑑み、本番を10月の休日の何処かでの開催に延期できないか検討しています。

 よろしければ参加者の皆様方には参加可能なご日程をご連絡ください。

 また、今の状態ではまともに試合を行う事が不可能なために、この後のカスタムマッチの方は中止させていただきたいと思います。参加者の皆さんには忙しい最中にご参加いただいたにもかかわらず、このような形となり本当に申し訳ございません。


 CreamRAW運営


 うん……まぁ、今の状況じゃその対応がベターかもしれない。

 画面をスクロールさせると、既に阿古さんが俺やとあの日程に関して返答していた。

 運営の人はここから60人、全員の予定を調整しないといけないのだから大変だろうな。

 何事もうまくいくわけじゃないし、こういう事だってあるだろう。俺も協力できるところは協力しようと思った。


「みんな、ただいま」


 俺はイヤホンを耳につけると、サブモニターの表示を切り替えてユリスの配信を確認する。


「おかえりー」

「お帰りなさいぃぃぃいいいいい!」


 余裕そうなユリスと違って、白龍先生は声からもわかるように慌てふためいていた。

 画面を見るともうユリスは倒されており、白龍先生の操作するキャラクターが1人ドタドタとマップを走っている。

 どうやら白龍先生は他のチームから追われているようだ。


「アイコそこジャンプ!!」

「あわわわわわ!」


 なんとか攻撃を躱しながら崖裏に隠れる白龍先生。

 体力のゲージを見ると後少し、本当にギリギリのギリギリで首の皮一枚つながったという感じだろう。


「頑張ってアイコちゃん!」

「アイコがんばれぇ!」


 白龍先生はしゃがんで足音を消しながら、崖裏沿いにぐるりと左回りに進んでいく。

 幸いにも、先ほど白龍先生を撃っていたチームは違うチームに絡まれていたから追撃の心配はないようだ。

 白龍先生は操作するキャラクターの体力を回復すると、崖裏を抜けてトンネルの方へとコソコソ近づく。


「アイコそこ、一気に駆け抜けて」

「う、うん!」


 ユリスの指示でダッシュした白龍先生は、崖裏からトンネルを駆け抜けて目的の場所へと向かう。

 よく見ると白龍先生はちゃんとユリスのバナーを回収していた。

 このゲームでは、回収したバナーをビーコンと呼ばれる場所に運べば、倒された味方のキャラクターを試合に復帰させることができる。つまり白龍先生が、ユリスのバナーをビーコンまで運んで装置を起動させれば、ユリスが試合に復帰する事ができるのだ。そうなればまだワンチャンあるかもしれない。


「ビーコンあるよぉ〜!」

「アイコちゃん、後少し!」


 ユリスの指示通りに動くと、目の前にビーコンが見えてくる。白龍先生はキャラを操作して目的地に到着するとすぐにビーコンを起動させた。ビーコンが起動するまでの数秒が長く感じる。なぜならこの間はキャラクターが無防備だから、攻撃されたら一巻の終わりだ。


「あ」

「あ!」

「あっ……」


 3人の声が重なる。復活間際で、周囲にいた敵チームが白龍先生の操作するキャラクターの動きに気がついてしまったのだ。


「許して、ユルシテ……!」


 白龍先生は、操作するキャラクターが集中攻撃を喰らって、たまらずビーコンから離れてしまう。


「アイコ逃げて!」

「アイコちゃん大丈夫! 焦ら……あっ」


 またしても3人の声が重なる。なんと慌てた白龍先生の操作するキャラクターが足を滑らせて落下したのだ。


「ふ、2人とも、ごめんんんんん!」

「あはははは! 気にしない気にしなーい。それにしてもなんなのぉ〜これ、なんでこんなところに穴があるのぉ〜? どんまい、アイコ! 次あるよぉ、次!」

「アイコちゃん、ナイファイ。流石にこれはどうしようもないよ。多分落ちなくても相手3人だったから撃たれたら厳しかっただろうし、本番を想定すると相手のポイントにならなくて逆によかったかも。切り替えていこ!」


 ユリスと俺は白龍先生を慰める。

 俺はサブモニターの画面を切り替えて、コメント欄を覗く。

 コメント欄でも多くの人たちが白龍先生を励ましていてほっこりとした気持ちになる。


『さっきのはしゃーない』

『そもそも最初から2人だったしね』

『アイコちゃんはよく頑張った』

nf(ナイスファイト)

gg(グッドゲーム)

『さっきの絶対切り抜きクリップになるやつw』

『ごめん、落ちてく時の白龍先生めっちゃ笑ったw』

『アイコちゃん先生は賑やかし枠だからw』

『先生は文化人枠じゃなくて芸人枠』


 ん? 一部なんか励ましコメントとは違うような……まぁいっか。

 俺はチームチャットをオフにして、コメント欄のみんなに話しかける。


「みんな、ただいま」


 とりあえず試合が終わるまでの間に、俺は投げ銭してくれた人たちにお礼の言葉を返す。

 ありがたいことに投げ銭をしてくれる人が多く、ここ数日でかなりの寄付が集まったと聞いている。

 ただ、投げ銭をしてくれる人が多すぎて、全部の人にお礼の言葉を返しきれなかったのは完全に想定外だ。そこが個人的にもすごく気になっている。

 この話を阿古さん、桐花さん、しとりお姉ちゃんの3人に相談したら、別の形でどうにかできるように考えて置くと言われた。みんな大変なのに、ちゃんと意見を聞いてくれたことも嬉しかったけど、それと同時に仕事を増やしちゃって申し訳なく思う。いつかみんなにも恩返ししたいな。


『おかえりシロくん』

『ちゃんと1人でおトイレできた?』

『次からはお姉ちゃんと一緒にトイレ行こうね!』

『いっぱいでた?』

『スッキリした?』

『イライラしてない?』

『お姉ちゃんのトイレはいつでも準備おkだよ』

『白いのも出しちゃう?』

『ちゃんと1人で出せた? お姉さんが出し方教えてあげよっか?』

『ママが後ろからしてあげよっか?』

『赤スパ投げるから、次、録音させてください!』

『あくあくんのお家のおトイレをお姉さんに変えませんか? 今なら本体無料、工事費無料のキャンペーン中です。なんならキャッシュバックもしますし、バックでのご利用も可能です!!』

『貴女達、黙りましょうか?』10000円 by92


 あれ? 今なんか一瞬何かが見えて大量に消えたような気がしたけど、気のせいかな?

 シロとたまちゃんの配信は、複数の社員の人が監視してくれているおかげで、不適切な言葉が出た場合は即座にBANされて非表示にされるようなシステムになっている。もちろん禁止ワード設定もあって、それに引っかかってもBANされるから、二段構えの防衛システムを構築しているから安心して配信してほしいと言われた。

 きっと、小学生みたいな事書いちゃった人がいるのかな? どっちにしろ、92さんのコメントの後はコメント欄が急に大人しくなった。注意してくれるなんて優しい人だな、お礼を言っとこ。

 そんなことを考えていると、運営から告知があったのかコメント欄が騒がしくなる。


『えっ……?』

『延期って本当?』

『えー、やだー』

『残念だけど、シロくんが見れない方が嫌だから我慢する』

『まぁ、これは仕方ないかな』

『運営は英断したと思う』

『楽しみだったけど、また見れると思ったら嬉しい』

『このままやって本番何かがあってからモヤモヤするよりいいと思う』

『シロくんは延期しても出れますか?』

『この3人好きなんだけど、延期したら変わるってことない? 大丈夫?』


 コメント欄を見ると多くの人たちが残念がっていた。それと同じくらい、シロが出れるのかどうかや、この3人で出れるのかどうかを気にしている人が多く見られる。


「ごめんねみんな。そういうわけで告知の通り延期になります。うん、残念だよね。僕も楽しみにしてたし……みんなと同じくらい悲しいけど、中止になったわけじゃないからそこは安心して。ちなみに延期してもシロもアイコちゃんもユリスも出るから。引き続き僕たち3人を応援してくれたら嬉しいです」


 幸いなことに俺たちのチームも含め、今の段階では誰も欠員は出ないと聞いている。そこはよかったと思う。裏画面の参加者専用チャットとか、表画面の全体チャットとかの絡みとかで仲良くなった人いっぱいいるし。だからこそ誰1人として欠けてほしくなかった。


『シロくんが謝る必要なんてないよ!』

『むしろ延期しても出てくれてありがとう!』

『また3人で出るんだね! 楽しみ!!』

『絶対に見ます!』

『3人了解、そこが確認できてよかった』

『白龍先生よかったな』

『日程は?』

『日程いつですか?』


 あ、そうか、日程はまだ発表してないのか。

 俺はとりあえず今、公開されている情報を元にあらためて現時点でわかっている事を告知する。


「えっと、日程はまだ詳細には決まってないんだけど……多分、また後日CreamRAWの公式SNSで告知あると思います。一応シロのアカウントでも告知出た時点で発信すると思うので、それを見てくれてもいいかな。皆さんにはこんなにもスパチャしてもらって申し訳ないんだけど、どうかもうしばらくお待ちいただければと思います」


 コメント欄を見ると、みんなわかった、了解とか概ね延長を受け入れてくれているみたいでよかった。普通なら文句の一つでも出たっておかしくないが、こんなにも優しいファンに支えられている事が嬉しくなる。

 俺は再度みんなにお礼の言葉を述べると、ユリスと白龍先生のいるグループチャットに戻った。


「ただいま」

「あ、おヵえりぃ!」

「お帰りなさい」


 俺はゲームの画面を操作して、カスタムマッチにログインできない事を再確認する。先ほど通知があった通り、やはりこの後の練習試合は中止になったようだ。 


「みんなどうする?」


 早めに終わったので、俺は2人に予定を聞く。

 ちなみに俺はまだまだ時間的には余裕があるし、この後も配信しようと考えていた。


「ユリスさっき眠いって言ってたけど大丈夫? てかそっち今、早朝なんだっけ?」

「うん、だからもうねむくてねむくてぇ……今日はもう寝るよぉ」


 ユリスの住んでいるところとこっちでは13時間の時差がある。こちらでは夜の21時だけど、向こうではまだ朝の8時だ。カスタムが始まったのは20時、ユリスは朝弱いらしく、昨日の夜遅くまでプロチームとしての活動があったために徹夜で練習に来ている。

 俺と先生はユリスに休んでもいいよと言ったけど、ユリスがどうしても来たいと言ったので、本人の意思を尊重した。

 それだけに中止は残念だけど、ユリスは誰よりも明るく全然文句言わないから本当にすごいと思う。

 たまに子供っぽい悪戯したりして、白龍先生にクソガキって言われてるけどね。


「あ……私も実はまだお仕事残ってるから今日はここまでにしておくね。本当はシロくんといっぱいゲームしたいんだけど……あーもう、わかってるってば、執筆するってもう!」

「あはは! 編集さぁん、頑張って! アイコは仕事、ユリスが代わりに寝ててあげるねぇ!」

「ぐぬぬ! ユリスのばかー!」


 ほんと、この2人仲良くなったよなぁって思う。ちょっと羨ましいけど、俺はどうしても学校があるし日中はできないんだよなぁ。本当は配信外とかでももっと絡みたかったのに残念だ。


「じゃあねぇ、シロ、アイコ。2人ともまたねぇ!」

「シロくん、ユリス、またね! 本番までに上手くなっておくから!!」

「うん、またねユリス、白龍先生!」


 2人がグループチャットから抜けて1人になる。

 こういう時ってちょっと寂しい気持ちになるのはなんでなんだろう。


『ユリスまたねー!』

『白龍先生、仕事がんば!』

『先生、のうりんの続きはよ』

『ユリスの元気で終始チームが明るくてまじでよかった』

『先生、のうりんの実写化で隣人役をあくあ君で頼む』

『ありがとなユリス』

『感謝されるユリスと玩具にされる先生、どうして差がついたのか……慢心、環境の違い』

『シロくんもお休みかな?』

『やだー、これで終わりなんて』

『シロ君、ママと一緒にお布団行く?』

『お姉ちゃんと一緒にベッドでギシギシしよ?』

『就寝前のシャワー音待機』

『●REC』


 俺はゲーム画面を閉じると、適当な背景の上に拡大したシロを配置して、その左側にコメント欄を流す。

 それと並行して、これからやる事の許可を得るために、サブPCで阿古さんに今からやる事を連絡する。

 一応、事前にこういう企画はやるって言ってて、許可は取っているから大丈夫だろうとは思うけど念の為にね。


「えっと、せっかくなんでまだ時間あるし配信しようと思うんだけど、みんな大丈夫? 眠たい人は寝てもいいよ」


 俺はコメント欄をチラチラ見ながら準備を整える。


『やったあああああああ!』

『起きてます』

『寝るなんてとんでもない!』

『寝られません』

『シロ君が添い寝してくれるなら寝ます』

『おしゃべりかな?』

『雑談キタコレ!』

『またなんかやらかしそうな気がします』


 まだそんなに夜遅くないからか、落ちる人は誰もいなかった。

 準備を整えた俺はサブPCのモニターを見て、阿古さんからゴーサインが出ている事を確認する。

 どうやら問題なさそうだ。よし……ちょっと緊張するけど頑張るぞ!


「えっと、今からやる事なんだけど、今からトゥコール企画をやりたいと思います」


 To callとは、SNSを通じてファンの人たちと直接通話ができる機能だ。

 この前は、アイドル白銀あくあとして藤百貨店さんでトークショーをしたけど、ファンに近い距離感を目指している星水シロでは、こういうファンとのふれあい企画を増やして行く方針にしようと阿古さんとも話し合っている。

 これもその方針の一つとして予定されていた企画だ。


『ああああああああ!』

『は?』

『シロくんと……会話?』

『うえええええええ!』

『なん……だと?』

『うわあああああああ!』

『10秒1万円でどうですか?』

『え、無理、絶対喋れなくなる』

『速報、やっぱりシロくんやらかす』

『ほらね、これだからベリルは!』

『やば、緊張する』

『公開プロポーズする馬鹿はかけるなよ!』

『小学校の時に鍛えた16連射をついに披露する時が来たようだ』


 俺はSNSを開くとトゥコールボタンの上にカーソルを持っていく。


「それじゃあみんなボタン押すよー」


 俺はトゥコールのボタンをぽちっと押す。


『頼む……頼む……』

『お頼み申す!』

『繋がってくれえええええええ』

『こいっ! こいっ!』

『うわああああああ!』


 俺はコールがなったのでボタンを押して通話を許可する。


「もしもしー」

「やったね、1番げっと!」


 あれ? なんか聞いたことある声だぞ? って!


「ふふふ、僕は誰でしょう?」

「何やってんだよ。たまちゃん……」


 俺に通話をかけてきたのは、とあこと大海たまちゃんだった。


『ぐわああああああああ』

『おいまじかwww』

『あっ……』

『とあくん、あくあくんのこと好きすぎ問題』

『白玉コンビはこれだから』

『白玉てぇてぇ』

『うっ、心臓が……』

『流石たまちゃんわかってる』

『この反応の速さよ』


 同じ会社同士で何やってるんだよと怒られるかと思ったけど、コメント欄は何故か大歓迎の雰囲気だった。

 えっ? 本当にいいのこれで?


「で、なに?」

「うわ、めっちゃ塩対応じゃん。本当にそれでいいのかなぁ」

「わかったってもう。はい! それじゃあ最初の通話相手は大海たまさんです! ぱちぱちぱち〜」

「で、何話せばいいの?」

「んー……質問とか相談とか?」

「あっ、じゃあ、たまちゃんの誕生日設定10月なんでなんかください!」

「設定とか言っちゃダメでしょ! ていうか質問でも相談でもなく、それ!?」

「えへへ!」

「はいはい10月ね。何がいいの?」

「えっ、そこはちゃんと考えて欲しいな……」

「はいはい、りょーかい」

「やったぁ! じゃ、またねー」


 ピロリロリンという音と共に、たまちゃんとの通話が終了する。

 あれ? もしかして俺、とあちゃんにたかられただけ?


『あ……』

『あっ……』

『なんかもう最初から最後まで全部が尊い……』

『塩対応のシロくんドキドキした』

『ファンには優しいのにたまちゃんだけ塩対応なの刺さる』

『たまちゃんの誕生日10月ね、メモメモ!』

『シロくんは4月6日だっけ、まんまだけど』

『たまちゃん、誕生日のプレゼントたかりに来ただけwww』

『これはひどいwwwww』

『なんだかんだいってプレゼント買ってあげるシロくん優しい』

『ありがとう……ありがとう……』

『あれ? プレゼント代に投げ銭しようとしたのに投げられない……』


 投げ銭はあくまでもCRカップの時限定なので、トゥコール企画では切ってある。


「あ、ごめんね。投げ銭はCRカップの時にお願い。それじゃあ、気を取り直して次行くよー!」


 はい、ポチッとな。

 しばらくするとコールがかかってきたので、それを受け取る。

 もう次は知り合い来るなよ。


「もしもしー」

「ハハハハハ! 我参上!」


 俺はそっと通話終了のボタンを押すと、何事もなかったかのように再度コールする。


「もしもしー」

「フハーッハッハッ」


 俺は再び通話終了ボタンを押して再度コールする。


「おいちょ……」


 回線強すぎだろ天我先輩!!


「えー……身内の方は、空気読んでください。視聴者の人だけでお願いします」


 一応この企画はファンの人に向けてのものだしね。

 もうみんな悪ノリしすぎでしょ。


『天我先輩wwwwww』

『天我くんさあwww』

『シロくんちょっとは会話してあげなよwww』

『悲報、天我先輩の扱い、もっと雑だった』

『天我パイセン回線強すぎw』

『え? 後輩の配信ちゃんと見てるアキラくん尊くない?』

『声だけで誰もがわかる』

『21時超えてるのにテンション高すぎでしょw』

『ちゃんとキャラを維持したまま降臨なされるアキラ様』

『電話かけようとした黛くん←』

『黛くん省かれた!?』

『マユシンくんどんまい!』


 慎太郎はちゃんとしてるやつだから多分かけてこないと思う。

 俺は気を取り直して改めて通話開始ボタンを押す。

 するとすぐにコールがなったので受け取る。今度はベリルのメンバーじゃありませんように!!


「もしもし」

「もしもしですわ〜」


 ほっ……やっとベリル以外の人と繋がった。

 でもこの声って……。


「あれ? サヤカ先輩」

「ドキッですわ」


 間違いなく先輩の十二月晦日(ひずめ)サヤカさんだ。

 サヤカ先輩は大惨事という企業に所属しているVtuberさんである。

 お金持ちのご令嬢という設定で、上品だが特に元気、時にお淑やかと両方の面を見せてくることから人気を博した。それと言い難いことでも言ってくれたり、言いたいことをガンガン言ってくれるから、そういうところもファンの人からかなり好かれている。


「あ、前回は投げ銭ありがとうございました」

「おほほ、あれくらいのこと、気にしないでくださいまし」


 俺はサヤカ先輩の声にクスリと笑う。


「どうかなさいまして?」

「あ……ごめんなさい。なんかサヤカ先輩と話していると同級生の女の子のことを思い出しちゃって……そういえば、その子とサヤカ先輩ってそこはかとなく声が似てるんですよね」


 同級生の鷲宮リサさん。お嬢様言葉が特徴的で、大企業のご令嬢だと聞いている。そういえばこの前のコスプレイベントで見かけた時、鷲宮さんはサヤカ先輩のコスプレをしてたけど、鷲宮さんもサヤカ先輩に何か近しいものを感じたのだろうか。


「へ……へぇ……そうですのね。ま、まぁそういうこともあるのじゃないかしら、おほほほほほ!」


 何か少し声が動揺しているような気がするけど気のせいだろう。

 声だって似てるだけで、サヤカ先輩の方が少し大人びた声してるし、そんな偶然あるわけないしな。


「えっと、それでですわ。実はシロさんに相談がございますの! よろしいかしら?」

「あっ、うん、大丈夫だよ!」

「えっとこれはわたくしのご友人の話なんだけど……その子、気になっている男の子がいるらしいのですわ」


 おっ、恋愛相談か! そういうのは任せてほしい!!

 この前、とあにあくあはそういうの疎そうって言われたけど、そうじゃないってところを見せつけとかないとな!


「その男の子もわたくし……の友人を意識はしてくれているみたいなのですけど、その子、本当はすごく奥手な子なの。だからどうアピールしていいのかわからないらしくて、何かいいアドバイスを頂ければと思いますわ」

「うんうん、なるほどね」


 なるほどね。でも男の子が意識してくれてるのなら両思いじゃないのかなぁ。

 それなら積極的にいってみていいんじゃないのかなと思った。


「サヤカ先輩」

「は、はい、ですわ!」

「押しちゃお?」

「え?」

「そういう時は守りに入るより、攻めた方がいいと思うな! だってその子も気になってるんでしょ。もうそれ絶対に両思いだよ! いけるいける。多分その男の子もサヤカ先輩のお友達のことが気になってるよ!」

「攻め……」

「ね。だからガンガン攻めて落としちゃお。攻撃あるのみ! 何もせずに後で後悔するより、動いて後悔しよ。一歩を踏み出すのはものすごく勇気のいることだけど、その子に頑張ってねってシロが言ってたって伝えて!」

「わ、わかりましたわ……。その言葉、必ずその子にお伝えしますの!! 今日は相談に乗ってくれて、ありがとうですわ!」

「こっちこそ、ありがとね! それはそうと、サヤカ先輩、また今度一緒にゲームしよー!」

「も、もちろんですわ〜!」


 俺はサヤカ先輩と一緒にゲームをする約束を取り付けると通話を切る。

 ふぅ……見てるかとあ? これがベリルの恋愛相談担当、シロくんの実力だ。

 我ながら完璧な回答だったんじゃないだろうか。これでサヤカ先輩のご友人の悩みも一発で解決することだろう。


『ほえ〜』

『タメになるなぁ』

『攻撃あるのみね了解』

『あくあさまには積極的おk』

『恋愛弱者の私助かる』

『サヤカ嬢、あれ絶対に自分の相談www』

『男の子に恋愛相談するとかすげーな』

『友達の話、100%自分説w』

『男の子がそういう話してるの初めて聞いた』

『あくあくんは押せば落とせるね。メモした』

『この回、絶対に伝説になる』

『そのアドバイス、全国のファンが心に刻んだわ』

『おい、お前ら攻めるにしても自重しろよ!』


 なんか一部のコメントが気になったが気のせいということにしておこう。


「はい、そういうわけで、これで問題解決かな。それじゃ次のコール行くよ!」


 次にかかってきたのは普通の視聴者の人だった。流石に身内や知り合いが続くのはまずいと思ってたから、ここで視聴者の人と繋がったのは良かったと思う。なお、その後も相談が続いたり、好きな食べ物を聞かれたり、他のベリルメンバーの事をどう思ってるかなど、ファンの人といっぱい喋れて楽しかった。


「さてと、それじゃあこれでトゥコール企画は一旦終わりだけど、またやるから楽しみにしててね。あ、それと最後に告知いいかな?」


 俺はサブPCのモニターで、告知用に話していいところを再度確認する。


『告知助かる』

『告知きたあああああああ!』

『告知キターーーーーー!』

『一体、次は何をやらかすんです?』

『速報、ベリルまた何かおやらかしになられる』

『嬉しさと恐怖の両方で震えてる』

『このゾクゾクとした感じ、クセになる捗る』


 最初の時からいるけど、その捗るって本当に流行ってんの? 今度俺も使っちゃおうかな。


「えっと、明日オープンの渋谷のポップアップショップだけど、誰が行くかわからないけど、多分誰か行きます」


 俺がそういうとすごい勢いでコメント欄が流れる。


『あばばばばばばば』

『ぐわああああああああああああ』

『ああああああああああああ!』

『きちゃあああああああああああ』

『えっ? 誰かって誰!?』

『あくたん!?』

『誰か行きますwそこだけ雑いwww』

『ちょっと投げやりな告知きたw』

『あくあ君と違ってシロくんのこういうちょっと雑なところ好き』

『その誰かが気になるんだけど』

『ベリルの男の子が来るなら誰でもいいよ』

『あくあ様は?』

『シロ君は……流石に無理か』


 実はまだ細かいことは言えないんだよね。

 阿古さんからも自分の空いてる時間に来てくれていいし、来なくてもいいと聞いている。

 何せ俺ととあは夜にCRカップがある予定だったからね。でも予定が空くなら絶対に行こうと思った。

 元から少しでもいいから顔を出そうとは思ってたし、配信終わったらみんなにも連絡入れとこうかな。


「そういうわけなんで、今日はこれで配信終わります。みんなおやすみー。あ、あとあくあは多分行くと思うよ!」


 俺はそれだけ言って配信を停止した。

 さてと、明日は早く起きなきゃいけないし、さっさとお風呂入って寝よーっと。

Twitterでお知らせとか、たまに投票とかやってます。


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森川楓こと○○スキーの日常回のお話を投稿しました。

せっかく開設したからにはこっちも有効活用したい……。


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