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白銀あくあ、赤スパ乱舞。

 CreamRAWカップ。

 プロゲーミングチームCreamRAWが主催する大規模なゲーム大会だ。

 参加者は現役のプロゲーマーや元プロゲーマーはもちろんのこと、人気Vtuberやyourtuber、ストリーマーと呼ばれるゲーム実況者、タレント、ミュージシャン、漫画家、コスプレイヤーなど様々な人が出場している。

 今回大会で使用するゲームはEPEX、各チーム3人の全20チーム、合計60人によって争われるバトルロイヤル形式のゲームで、1日に5試合行い優勝チームやMVP、特別賞に輝いた人には賞金が出たり、何か特別なものが送られたりするそうだ。

 星水シロとして招待された俺は、ステイツの現役プロゲーマーであるユリスと、白龍アイコ先生の2人と組んで大会に出場する。今日はその顔合わせと、大会本番を想定して連日開かれる練習試合に参加する予定だ。


「ふぅ……こんなもんかな?」

「うん、そろそろ時間だしね」


 俺ととあの2人は、集合時間まで射撃訓練場でエイムを温めていた。エイムとはいわゆる銃の当て感のことである。いくら強い武器を使っていたとしても、弾が当たらなければダメージは入らない。だからいかに相手に弾を、できればヘッドショットと呼ばれるダメージ倍率が高い頭部に綺麗に当てられるかが試合の鍵となる。


「じゃ、俺もそろそろチームチャットに移動するわ」

「うん。じゃあまた試合で……言っとくけど、あくあを見かけたら狩りに行くから」

「とあには悪いけど、返り討ちにするけどな! ユリスが!」


 俺がそういうと、とあは吹き出した。


「ちょっ!? そこは他人任せなの!?」

「ハハ、じゃ、こっからは敵同士ってことで」

「うん、あくあと戦えるのを楽しみにしてるよ」


 俺はとあとのチャットを抜けると、チームのチャットを探す。

 えーと、チーム番号どこだったかな。ここか?


「ん……えっ!?」

「ふぁ、嘘っ!?」

「シロくん!?」


 あ、入るチーム間違えた。


「すみません……入るチーム間違えました」


 このまま抜けるのも感じが悪いので、俺はとりあえず謝る。


「ううん、いいんだよ、そういうこともあるよね」


 そう言って俺に優しく声をかけてくれたのは、Vtuberの先輩、鞘無インコさんだ。普段はこうやって優しいのにゲームになると……ていうか銃を持つと性格が豹変するタイプの人である。好戦的になってしまうが故に、よく周りとはぐれて孤立して自滅することが多い。なお、今は標準語を喋っているが、試合中にヒートアップすると関西弁になる。なんでや! どないなっとんねん! ああああ! もうやってられんわ!! 大概にSAYや!! などなど暴言クイーンとしても知られている。


「大丈夫? お姉さんがついて行ってあげようか?」


 甘えさせてくれるような年上のお姉さんの声にドキッとする。元プロゲーマーの大御所で、現在はストリーマーとして活躍してる先輩、icebox44さん。みんなからは、名前の本体である4からしーちゃん先輩と呼ばれている彼女は、同時接続で4万以上の視聴者を集めている超有名人だ。ちなみにお尻の数字は元々4だけだったが、同時接続4万突破を記念に4を二つに増やしたらしい。なお、しーちゃん先輩は森長ジャンキーとしても有名だ。SNSでも連日、森長のお菓子の画像が上がってるし、配信画面のワイプのどこかにも常時写っている。


「し、シロくんだ。えへへ、えへへへへ」


 可愛い声で少しだらしなく喋る女の子は、Mステの出演の時にバックヤードで一緒に写真を撮った、フェアリスの加藤イリアさんだ。イリアさんはアヤナと共に今の若手女性アイドル界のツートップと言われている。仕事以外ではほとんど表に出ないアヤナと違って、イリアさんは仕事以外でもSNSやライブ配信を駆使したファンとの触れ合いにとても積極的に活動しているそうだ。


「あ、ありがとうございます。ところでチーム分けってどっか載ってます?」

「えっとね……確か、シロくんのチームは、どっかに貼ってあったはず」

「インコちゃん、シロくんは多分チーム15よ」


 ああそっか、白龍先生の下の名前、アイコさんに合わせてチーム15にしたんだっけ。


「あ……そういえばそうでした。インコ先輩、しーちゃん先輩ありがとうございます」

「いいのいいの、気にしないで!」

「ふふふ、いいのよ。お姉さん達、シロくんにならなんでも教えてあげちゃう」

「うんうん、なんでもね!」

「あはは……イリアさんも、ありがとうございます。それじゃ」

「またねー」

「頑張って」

「じゃーねー」


 俺はインコ先輩達のチャットを抜けると、自分のチームのチャットに入る。


「よろしくお願いしまーす!」


 チーム15のチャットには既にユリスさんが入ってたので、シロらしく元気よく挨拶した。


「アハハ、よろしくねぇ〜! あ、シロさんシロさん! もう配信つけてるけどダイジョブ〜?」

「あ、大丈夫ですよ、ユリスさん。それにしてもこっちの言葉、普通に喋れるんですね。うますぎて驚きました」


 この世界の地図を真っ平にしてこの国を中心にすると、西の方にあるのがスターズで東の方にあるのがステイツだ。ユリスさんはそのステイツでプロゲーマーをやっている。そんな彼女がなんでこの国の言葉が上手かというと、この国のアニメや漫画、ゲームにどハマりして独学で言葉を覚えたからだとか。確か配信でそう言ってたのを見た。


「え? ほんとぉ〜? ウレシイネ! ありがとぅ〜! あとシロさん、ユリスのことはユリスでいいヨォ!」


 俺もユリスには敬称をつけなくていいよと言おうとしたが、確か前に配信で、この国の敬語が珍しいらしくて、さんづけにはまってるって言ってたから、あえて言わずにこのままにしておいたほうが本人的にもいいのかなと思ったので黙っておく。でも、念のために裏のチームチャットには、呼び捨てでもいいよとだけ書いておいた。


「あ、シロさんシロさん、リスナーのみんなが配信つけてって言ってるヨォ〜!」

「あ……そういえば配信つけてなかったや。ありがとねユリス」


 俺は配信ソフトを起動させる。


「アハハ、どういたしましてぇ〜! シロさん、配信つけないのはストリーマーとしてダメダメヨォ〜!」

「おっしゃる通りです。じゃあ遅延つけて……配信と、これで大丈夫かな? みんなー、みてるー?」

「シロさんのリスナーのみんな、みってるぅ〜?」


 配信を覗かせてもらった時も思ったけど、ユリスはノリいいなぁ。確か16歳だっけ、同い年なんだよね。

 俺が喋りかけてから数分すると、コメント欄に文字が流れる。


『待ってたよシロくんー!!』

『シロくん久しぶりー!!』

『大好きシロくん!』

『見てるー!』

『euris to korabo arigatou!』

『I love you♡』

『シロくんもユリスもどっちも可愛い!』

『この時点でてぇてぇ』

『白龍先生は?』

『白龍先生が入る隙残ってますか?』

『白龍先生の椅子ある? 窓から投げ捨ててない?』


 あー、そういえば、白龍先生まだ来てないな。大丈夫かな?


「アイコまだ来ないネェ〜。アハハ、昨日あんなに張り切ってたのに遅刻、おかしーね!」


 ユリスと白龍先生の2人は、数日前に先に顔合わせして2人で練習していたと聞いている。

 だから後から来た俺が足を引っ張らないように頑張らないとな。


『シロくんとユリスを待たせる白龍先生』

『流石は白龍大先生ですわ』

『アイコちゃん先生→ガキは待たせるもの』

『超大御所は違いますなあ』

『お前らやめろ! 白龍先生のお腹が痛くなっちゃうぞ!』

『これ絶対に胃痛案件じゃんw』

『先生、初日からポンポン痛めそうwww』

『ユリス、シロくんはシロさんなのに、白龍先生はアイコw』

『先生だけは呼び捨てとか、ユリスは扱いわかってるw』

『ユリスの言語コミュニケーション○ 遅刻した白龍先生X』


 こういう時に、お互いの連絡先を知らないと困るなと思った俺は、通話チャットアプリを使って、裏画面で自分の連絡先を記載する。


「ユリス、3人のチャット画面に、あくあの電話番号とアドレス書いてるから、後で見ておいて、もしもの時はそっちに連絡すればシロに連絡がいくから」

「お〜、りょーかいねぇ! ユリスのも書いておくよぉ」


 3人のチャット画面に記載されたユリスの連絡先を携帯の電話帳に登録する。


『うぇっ!?』

『速報、ユリスと白龍先生、あくあ様の連絡先ゲット』

『あくたんの連絡先ゲットとかユリス羨ましすぎ』

『ユリス、後でこっそり教えて!』

『ユリス、その電話番号を売れば、仕事しなくても一生ご飯食えるよ』

『urayama……』

『白龍先生、これ確実に死んだわ』

『白龍先生、嬉しすぎて卒倒しそうw』

『先生よかったな。もうこの世に思い残すことは何もないだろw』

『先生まじかよ。これだけでも参加した甲斐があったな!』

『むしろ先生の場合、電話番号を知るために参加したすらある』


 念のために裏で、電話番号は売っちゃダメだよってユリスに言っておいた方がいいのかな? まぁ、そんなことしないと思うけど。そんな事を考えていると、左上のグループチャットの一覧に白龍先生の名前が表示される。最初に反応したのはユリスだった。


「あ、アイコきたぁ!」

「白龍せんせーい!」


 ユリスと俺が白龍先生に呼びかけるけど反応がない。ラグかな?


『やっときたwww』

『おいおい、おせーぞ白龍先生』

『先生やる気ある?』

『もうみんな集まってるよー』

『先生さぁw』

『やる気ない人は帰ってもらっていいですか?』

『先生は歳なんだから許してやれよ!』

『hurry up AIKO!』


 あ……白龍先生の名前がグループチャットの一覧から消えた……と思ったら、また入ってきた。調子が悪くて再起動したのかな?


「あ、あ、2人ともごめーん! ちょっとPCの調子悪くて遅れちゃった」


 白龍先生の慌てた声の様子から、相当、焦ったんだろうなあと思う。俺も同じ立場だったら焦っただろうし、こういうのは仕方ないよね。ゲーム系のイベントにはよくあることだ。


「アハハ、アイコだいじょーぶぅ?」

「うん、大丈夫だよユリス。ごめんね!」

「気にしなくていいヨォ。でもシロさんは待たせちゃ、ダメ、ダメー」

「あああ、そうだよね。ごめんねシロくん!」


 俺は一呼吸おくと、優しいトーンで話しかける。


「大丈夫ですよ白龍先生。今日はよろしくお願いします。それにしてもPC大丈夫ですか?」

「うんなんとか……ね。それにしてもこうやって話すのは初めまして、だよね?」

「そうですね。改めて初めまして白龍先生、惑星ベリルからやってきた星水シロです」

「先生なんてそんな……普通に呼んでくれていいからね。ほらユリスだって呼び捨てだし」

「じゃあ……思い切ってアイコちゃんって呼ぼうかな!」

「えっ?」


 あれ? 白龍先生がまた一瞬だけグループチャットから消えて戻ってきた。


『アwイwコwチwャwンwww』

『シロくん攻めるねw』

『あーあ、先生これ死んだわ』

『先生フリーズしてるwwwだいじょーぶぅ?』

『さっきキャパオーバーで咄嗟に一旦落ちたなw』

『先生ちゃんさぁ。年下にアイコちゃんって呼ばせる気分はどうよ?』

『なるほどね。これがベテランのやり方か。勉強になります』

『16歳2人に挟まれるアイコちゃん先生ピー歳www』

『先生うらやま! 私もちゃんづけで呼ばれたーい!!』

『最初はどうかと思ったけど、これはいい組み合わせ』

『この3人にチーム組ませたのは普通に神』

『シロくんも好きだけど、ユリスも白龍先生も全員好き!』


 とりあえず初顔合わせは上手くいったぞ。主にユリスのおかげで。ユリスのコミュニケーション能力の高さというか距離の詰め方は同世代としても見習うところがある。あと、最初がやっぱり一番緊張するから、ここさえ乗り切れば後は大丈夫だと思う。


『ところでシロくん、投げ銭はまだですか?』

『早くお布施させてください』

『お願い、お姉さんにシロくんを養わせて』

『あく……シロくんに課金したいです!』

『お財布ヨシっ! クレカよしっ!』

『準備はできてる』

『投げ銭解禁まだー?』


 あ……そういえば今日から投げ銭解禁するんだっけ。


「ごめん2人とも、一旦チャット抜けますね。すぐ戻りますから」

「りょーかいネェ!」

「うん」


 俺は一旦グループチャットをオフにすると軽くコホンと咳払いする。


「えっと、実はですね。今回のCRカップなんだけど、今日の練習試合から本番までの間に限り、投げ銭機能を解禁しようと思います」


 俺がそう言うとコメント欄が爆速で流れていく。


『キタキタキタキタキタアアアアアアアアアア!』

『よっしゃああああああああああああ』

『やったああああああああああああああああ!』

『いやっほおおおおおおおおおお!』

『今、お財布の紐を緩めました』

『みんなクレジットカードは手に持ったか?』

『準備はもうできてる』

『どうやら私が本気を出す時が来たようだな』


 俺は一旦チャットが落ち着くのを待ってから、ゆっくりと話し始める。


「本当は投げ銭機能については解放するつもりはなかったんだけど……この前、友達のあくあがね。学校の交流学習の一環で病気に苦しむ子どもたちのいる病院にリハビリのボラティアスタッフとして参加したみたいなんだ」


 実はあの後も、俺は黛やとあ、らぴすとは再度、あの病院を訪れていたりする。黛ともよく話したけど、あのまま中途半端にしては置けなかったし、一度関わった以上は、これからも定期的に時間がある時は行こうって話をした。


「そこで、一番元気だった女の子がいるんだけど、先生がいうには、その子はかなりの難病らしいんだよね。でもその子は誰よりも元気で、いつも周りの子たちを元気づけたりしてさ。それを見たら自分も何かできるんじゃないかって、ただの偽善なんだけど、そう思ったんだよね」


 まいちゃんは、ゆうちゃんや他の子たちにも明るく話しかけたりしていたけど、誰もいないところでは1人で苦しんでいる。その姿を偶然にもみてしまった俺は心が苦しくなった。もし自分がまいちゃんと同じ立場なら同じ事ができただろうかと思う。あんなにも小さな体で頑張っている子の姿を見て、自分も何かをしたいと思うのは当然のことだった。


「そこで阿古さん、社長に相談したら、今回の投げ銭で得ることができた収益を、そういう子供たちの医療に使うための基金に寄付したらどうだろうって言われたんだよね。だからみんなが投げてくれたお金は、シロに入るわけじゃないから、それが目的で投げ銭してくれる人には申し訳ないんだけど……それでもいいなら気持ち程度でも投げてくれたら嬉しいです」


 今回は配信サイトもボランティアのための配信ということで、手数料は取らないと聞いている。クレカなど決済代行業者の手数料は差し引かれるものの、阿古さんや配信サイトの協力もあって、多くのお金を寄付先に渡せることができる枠組みを作ってくれた。おそらくこのために多くの人が動いてくれたのだと思う。実際にしとりお姉ちゃんや桐花さんはすごく動いてくれたと聞く。本当にみんなには感謝しかない。


「そういうわけで投げ銭、解禁します」


 俺は投げ銭機能をオフからオンに切り替える。すると遅延の終了と同時に、多くの投げ銭が飛んでいく。


『心ばかりですが』50000円 by 92

『これ少ないけど使ってください!』10000円 by スバル

『なけなしのバイト代、悪いけどこれが限界』10000円 by ラーメン捗る

『えへへ、実はお金だけはソコソコあるんだー』50000円 by ソムリエール


 一番最初にスパチャを投げてくれたのは、92さんという人だった。しかも金額は5万、投げ銭は金額によって色が変わるが、1万以上は赤スパと呼ばれ、5万はその赤スパの中でも上限金額と言われている。


「92さん、ありがとう! そんな大金いいんですか? 大丈夫ですか? ラーメン捗るさんも、ソムリエールさんも赤スパありがとう。みなさん、あまり無理しないでくださいね。本当に気持ちだけでいいんで! って、スバルちゃん!? 赤スパありがとう、大事に使わせてもらうね!」


 コメント欄にスバルちゃん誰って出てきたけど、すぐに数人の人がスバルちゃんはとあの妹だって書かれてた。すごいな。家族構成がバレてるのか……。もしかして妹のらぴすも知られたりしているのだろうか。


『シロちゃんも、ママって呼んでいいんだよ?』50000円 by まりん

『いつもお兄ちゃんがお世話になってます』10000円 by らぴす

『シロくん頑張って!』50000円 by しとり


 みんなありがとう。でも、家族からの投げ銭はちょっと恥ずかしい。まぁバレないからいいかと思ってたら、普通にコメント欄で俺の家族だってバレまくってた。なんでみんなそんなに俺達の家族構成に詳しいの!? まぁ、もうバレてるなら別にいいか。


『白銀家のみんなもありがとうね。後であくあに家族サービスするように言っておくから』


 流れていくスーパーチャット、俺はその中で見知った名前を見つけてしまう。


『全ては神の思し召しのままに』50000円 by 藤蘭子

『どうか使ってください』50000円 by 森長のメリーさん


 画面を見て、思わず飲んだ水を噴き出しそうになる。藤蘭子さんはビルが移転した時に一度だけ挨拶したけど、藤グループの会長さんだ。そして森長のイメージキャラクターであるメリーさん、CMのメリーさんとは別にSNSでメリーさんとして活動しているのは森長グループの社長さんである。流石は大企業のトップだけあって金額も上限いっぱいだ。それにしても神の思し召しだなんて、藤会長は信心の強い人なのかな? どこの宗教を信奉しているのかは知らないけど、ありがとう!


「蘭子会長、メリー社長、いつもベリルの白銀あくあがお世話になってます。赤スパありがとうございました」


 2人の登場にコメント欄が沸く。普通に考えて大企業のトップがこんな普通に赤スパ投げに来ることなんてないからね。俺もびっくりだよ。


『シロくんも今度一緒にお仕事しようね』50000円 by 本郷弘子

『hi mr shiro』50000円 by ジョン・スリマン

『乗り遅れちゃった』50000円 by 白龍アイコ

『シロさーん!』50000円 by ユリス

『さっきはどうも!』50000円 by 鞘無インコ@ホロスプレー

『お投げ銭ですわーおほほほほ』50000円 by 十二月晦日サヤカ@大惨事

『感謝します』50000円 by icebox44_beta

『シロくん素敵!』50000円 by 加藤イリア@フェアリス

『使ってください』50000円 by 深雪ヘリオドール結


 知り合いからのスパチャに嬉しくなる。


「ちょっ、み、みんな、投げすぎだってば! 嬉しいけどさ、みんな本当にありがとうね。本郷監督もジョンも、アイコちゃんも、ユリスも、深雪さんも、あ、インコ先輩もしーちゃん先輩も、イリアさんもありがとう。でも絶対に無理だけはしちゃダメだよ!! って! サヤカ先輩初めまして、上限ありがとうございます!」


 念のために注意したにも関わらず、その後しばらくの間は多額の投げ銭が止まる事なく俺の頭の上を通過していく。す、すごいな。こんなことになるなんて思ってなかったけど、みんな優しい人ばかりで感動しそうだよ。


「みんな本当にありがとうね。すごく嬉しいよ!」


 俺は投げ銭をしてくれた人たちに感謝の言葉を返す。

 それから暫くの間、勢いは止まらなかったけど、徐々に落ち着いてきた。

 やっと落ち着いてきたかな? ええ、そんな甘い事を考えていた時期が俺にもありました。

 次の瞬間、見たこともない赤い波がコメント欄に一気に押し寄せてきた。



 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

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 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

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 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み

 50000円 by 乙女の嗜み



 うわあああああああああああああああああ!

 び、びっくりした!? なんだこれ!?

 普通、投げ銭をする1番の理由は、コメントの表示される時間が長い事に起因する。

 そこに書かれた言葉で配信者と投げ銭をした人との間でコミュニケーションができるのだが、この乙女の嗜みという人は、ひたすら無言で上限の5万円を投げ銭しまくってきたのだ。


『たwしwなwみwww』

『本物きたwwwww』

『投げ方がガチすぎるwwwwww』

『おい、嘘だろwwww』

『嗜み、お前、えぐいって!』

『無言で赤スパ連投www』

『見たかお前ら? これが白銀あくあガチ勢だ』

『流石だよお前、期待を裏切らないどころか余裕で上回ってくる』

『あのー、よく知らないんだけど、この人、何者?』

『本物の金持ちきたあああ!』

『これが掲示板の最終兵器こと、リーサルウェポン嗜みさんです』

『よかった。競うもんじゃないってわかってるけど、一番は原初の4人のうちの誰かが良かったから』

『おい! こいつ、今の一瞬で100万投げたぞw』

『この手慣れたスピード感、私じゃなかったら見逃してたね』

『私たちがうまか棒を大量購入する感覚で万札投げるなバカw』

『初回の投げ銭から、他者に格の違いを見せつけてくる嗜み』

『無言だけど、わ・た・し・のっていう言葉が透けて見えるのは私だけか?』

『シロくんというよりも、他の視聴者に完全にわからせにきてるなこれ』

『札束と言う名の暴力w』

『いっそ、清々しいまでのチート』

『嗜みついでに捗るの分も払ってあげて』

『嗜みついでに私の分も払っといて』

『この乙女の嗜みって人誰ですか? 石油王さんですか?』

『嗜みの汚い金がシロくんによって浄化される……はっ!? そうか、これが新手のマネーロンダリングか!!』


 コメント欄が一気に加速していく。俺はただそれをぼーっと眺める。

 あ……反応しなきゃ。あまりの出来事に状況が整理できずにフリーズしてしまっていた。


「あ、ありがとう。乙女の嗜みさん。でもこんなにたくさんいただいていいんですか? ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね」


 とりあえずお礼の言葉を述べる。何者なのかはわからないけど、ボランティア精神に溢れた心の綺麗な人なんだろう。うん、そうに違いない。きっと邪な心もなく、純粋に病気の子供たちを救いたいと思ったからこそ、共感してくれたのだと思う。ありがとう。俺は乙女の嗜みさんに再度感謝の言葉を呟いた。


『まーた、なんかやってる』50000円 by 猫山とあ

『使ってくれ』50000円 by マユシン

『ヒーローから子供たちへ』50000円 by 謎のマスク・ド・ドライバー

『みんな今日はこっちに投げてね』50000円 by 大海たま

『私からも』50000円 by 社長

『ついでにもう一回』50000円 by 社長


 あ、みんな……。

 今の投げ銭の流れはちょっとうるっときた。


「とあ、たまちゃん、マユシン、みんなありがとう。それに天鳥社長もありがとうございます。天我先輩もかっこいいよ! あ、天我先輩って言っちゃダメなんだっけ? ごめんね」


 あちゃー、やらかしちゃったかな? 天我先輩は許してくれるだろうけど、後でちゃんと謝っとこ。


『大丈夫、みんなわかってる』

『心配しなくてもみんな知ってる』

『謎のマスク・ド・ドライバー、一体どこの先輩なんだ……ゴクリ』

『きっと神に代わって投げ銭してくれてるんだろうな』

『さりげに二重に投げて嗜みに対抗しようとしてるとあくんたまちゃんかわいい』

『とあちゃーん!! たまちゃーん!!』

『わかりました、とあ様』50000円 by szr@とあ様LOVE!

『マユシンくんもアキラくんも次のCRカップでて!!』

『黛くん、ファンです!』

『黛くんも配信しよ?』

『社長、そのまま嗜みに対抗しろ!! 貴女ならできるはずだ!!』

『ありがとう天鳥社長、こんな素敵な子達をいっぱい世に送り出してくれて』

『天鳥社長、誰でもいいんで1人ください!! by 同業者』


 ベリルのみんなの登場でコメント欄が沸いた。

 俺もそれに流されてついついのんびりしていたら、ユリスと白龍先生の2人が慌ててチャットに入ってくる。


「シロさんシロさん! もうみんな集まってるよぉ!」


 あ……ユリスの一言で、練習試合ことカスタムマッチのことを思い出す。


「やばいネェ〜、これ間違いなく遅刻だヨォ」

「あわわわわ、若い子たちに、チッ! BBAおっせーんだよ、とか思われてないかしら……」


 俺が裏画面のチャット欄にいくと、カスタムマッチ、練習試合に入るためのキーが既に公開されていた。

 あ、やべ……本当に遅刻だぞこれ。


「ごめんみんな、2人とも巻き添えにしちゃって」

「イイヨ、イイヨ、スターはいつも最後に現れなきゃ、ネ!」

「大丈夫大丈夫、最悪私が悪女ムーブでどうにかする!」

「ありがとう、ユリス、アイコちゃん」


 優しい2人に感謝しつつ、俺はキーとなるパスコードをコピペしてカスタムマッチにログインする。


『悪女ムーブw黙れ小娘とか言うのかなwww』

『ユリスわかってる』

『アイコちゃん先生の悪女ムーブに期待』

『むしろFPSのカスタムマッチじゃこの時点で心理戦の勝負はじまってる』

『遅刻していくくらいでいい。多分シロくんが早く入ると、みんなそれよりも早く入ろうとイタチごっこになる』

『スターは遅れてやってくるもの、ヒーローも遅れてやってくるもの』

『実はまだ開始時間は来てないから大丈夫だよ』

『みんなが集まるの早すぎるだけで、本当は遅刻じゃないんだよなぁ』

『CRカップはそこらへんドチャクソ緩いから大丈夫、リスナーだって、遅れたら遅れた分、長く配信者と接することができるから嬉しいよ』

『今日はいつも寝坊する人が、1時間前から来てるのウケるw』

『しかも初日から全チーム全選手揃ってるし、お前らさあwww』

『悲報、配信者の皆さん、気を遣い過ぎたがために、逆にシロくんに気を遣わせる』


 結論から言うと俺たちのチームがカスタムマッチに入ったのは最後だった。

 本当にごめんなさい! 俺は全体チャット欄でひたすらに謝りまくった。

 でもみんな優しくて、気にしなくていいよとか言ってくれたり、私も投げ銭したよとか言ってくれて嬉しかったなあ。

 ちなみに全体チャットがしばらく騒がしくて、運営の人が中々スタートできずに困っていたら、白龍先生の黙れ小娘の一言で本当に静かになってびっくりした。こ、こんな凄い人をアイコちゃんだなんて気軽に呼んでいいのかな? やっぱりさん付けした方がいいかなって、こっそり自分のリスナーに聞いたら、みんなが白龍先生が可哀想だからやめてあげて、ちゃんづけで呼んであげてと言われたので、とりあえずはこのままにしておこうかなと思う。


 ちなみに、肝心の練習試合はというと、最初の2試合はユリスのおかげで連続チャンピオンを取ったけど、残りの3試合は残念ながら18位、19位、6位だった。特に最後の試合は個人的に悔しい思いをしたので、できる限りちゃんと練習しようと思う。なお、とあのチームが5試合目、インコ先輩たちのチームが3試合目、大惨事のサヤカさんのチームが4試合目でチャンピオンを取っていた。

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森川楓こと○○スキーの日常回のお話を投稿しました。

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