泣き虫ピエロ
泣き虫ピエロは笑わない。どうして笑わない?そういう役割なのだ。
誰にだってその集団の中で役割を持っている。彼はただそれが「泣き虫」だっただけなのだ。
自分で決めたわけじゃない。そうなりたいと考えたことすらない。でも、受け入れるしかない。
泣き虫ピエロは笑えない。人気漫才師の漫才を見ても、動物のおもしろ動画集を見ても、笑顔の女の子に手を振られても笑わない。でも、サーカスの支配人の寒いギャグには少し笑う。
たったそれだけ。そんな人生。
泣き虫ピエロはいつも泣いている。ショーの最中かどうかにかかわらず、自分の役割に徹する。
「おはよう」を言いながら涙を流し、「いただきます」を言いながら涙を流し、「さようなら」を言いながら涙を流す。でも、「また今度ね。」は言わない。
だって、また会いたいだなんて思ってもないから。
泣き虫ピエロには友達がいる。わたがし売りのトキムネだ。
トキムネは泣き虫ピエロが唯一自分から話しかける人物だ。それはトキムネの人柄ゆえだろう。
トキムネは道端のゴミは無視し、重い荷物を運ぶ老婆も無視し、いじめられている男の子も無視してきた。
だから、トキムネはなにも無視できないという呪いをかけられている。
泣き虫ピエロにも好きな人がいる。詐欺師のエリーだ。
エリーは見事な手口で金をだまし取る。子供から、老人まですべての人から。
でも、泣き虫ピエロはだまさない。だって、だまさなくてもお金をくれるから。
しかし、トキムネとエリーは恋人同士だ。
二人の素性を知りさえしなければ、最高の美男美女に見えるだろう。
トキムネはエリーのお金が、エリーは恋人という存在が欲しかった。
利害は一致しているので問題などどこにもないでしょう?
泣き虫ピエロはトキムネとエリーを殺した。
トキムネはいじめられている泣き虫ピエロを無視した。
泣き虫ピエロは笑わなくなった。
エリーが自分をだましていることに泣き虫ピエロは気づいた。
泣き虫ピエロは笑えなくなった。
それで理由は十分だった。間違いなどとは思わなかった。後悔はない。
私は初めて心から笑えた。