呪いの魔剣が伝えたいこと
俺は呪いの魔剣と呼ばれていた。
生まれは200年ほど前になる。
安物量産品の剣として作られたはずだが、なぜか意思が芽生えてしまった。
前線の兵士へと支給され、最初の相棒となったのは下級兵士のラルフだ。
ラルフは、国に残してきた幼馴染のミリーを心の支えにしていた。
「俺は生きて帰る。絶対にミリーと結婚するんだ」
そんなセリフを口癖にして、なめし皮で念入りに俺を磨いていたっけな。
しかし俺は、ラルフの口癖を聞く度に妙な胸騒ぎがしていたんだ。
危険な予感とでも言えばいいのか。
「とにかく戦場から逃げろ!」そう言ってやりたかったが、言葉を発せない俺には、どうすることも出来なかった。
そして運命の日。
ラルフは敵兵を2人斬ったが、3人目に殺されて力尽きたんだ。
首を斬られて血を流し、最期は壮絶な死に様だったよ。
まさかあんな結果になるなんて思わなかった。
剣を打ち合わせたラルフは、男の剣を折り飛ばしていたんだからな。
それで勝負は決まったと思ったんだが、男はしぶとかった。
素早く体勢を立て直し、折れた剣でラルフの首を斬り付けて命を奪ったんだ。
戦い慣れていたんだろうな。あっという間の出来事だった。
ラルフと出会ってから20日に満たなかったとはいえ、俺の初めての相棒が死んだんだからな、そりゃ動揺したさ。
それと同時に、やるせないとも思ったね。
なんせ俺の次の相棒は、ラルフの命を奪ったその男になったんだからな。
ラルフを殺した男は、俺の柄を無造作に掴んで拾い上げ、あろうことか相対する敵を斬り始めたんだ。
つまりはラルフの同僚達をな。
怒声と剣撃が響き渡る中、俺の剣身は折れることなく人を斬り続けていった。
全てが決着したのは半日後だ。
勝者はこの男の陣営だった。ラルフの祖国が負けたんだ。
後日、敗戦国となったキサーム国は酷い有様になったらしい。
ラルフの幼馴染ミリーも困窮しただろうが、詳細は分からない。
俺は噂話を黙って聞くことしか出来なかったからな。
俺の2番目の所有者となった男は、カガンという豪快な男だった。
戦があればどこにでも行く雇われの傭兵だ。
貧しい家族を支える為に傭兵をやってる。
そんな気の良い奴だったよ。
カガンとは3年程一緒にいたが、そこでも剣身が折れたりはしなかった。
俺は安価な量産品のはずなんだがな。
だが長い付き合いになると思っていたカガンとの関係は、唐突に終焉を迎えた。
確か、8人の傭兵仲間と共に、次の戦場へと向かっている道中のことだ。
「結婚することになった」
カガンが唐突にそんなことを言ったんだ。
俺は何故か「やめろ! 口に出すな!」と叫び出したい衝動に駆られたが、喋れない剣の身ではどうにもならなかった。
「やったじゃねーかカガン。相手はミリルだろ?」
「おうよ」
「よかったなぁ。だったら、これからはもっと頑張らねーとな」
「ああ。幸せにしてやるって約束したからな」
馬上で陽気に喋るカガン。
しかし俺は気が気じゃなかった。
カガンがラルフと同じような事を口走っていたからだ。
事が起こったのは、森の道を進んでいる時だった。
ズブリ。
「……うぇっ?」
カガンは呻きながら、ドサリと馬から落ちた。
そしてあっけなく死んでしまったんだ。
賊の伏兵に遭って、心臓を一突きにされての絶命だった。
おそらく結婚目前で浮かれていたからだろう。
気が緩んだカガンには、いつもと違う油断があった。
あとの戦いは一方的で悲惨だったよ。
カガンを失って浮足立った傭兵達では、勝負にならなかったからな。
混乱している内に、あっという間に殲滅されてしまったんだ。
俺の次の所有者は、カガンを殺った賊の頭目だった。
その次の所有者は、どこぞの国の部隊長だったな。
200年の間には剣士も戦士も王族もいたが、俺を手にした奴はどいつもこいつも口にしやがる
『結婚するんだ』
そんな意味の言葉をな。
やがて俺は、所持者が次々と死んでいく呪いの魔剣として、とある王城の宝物庫に封印されることになった。
日の目を見たのは、今から数ヶ月前のことだ。
何もなければ封印されたままだっただろうが、残念ながら魔王軍の猛攻が始まったからな。
人類の抵抗むなしく各地の勇者が次々と死んでいった。
そして魔王は、停戦の条件として聖女の身柄引き渡しを求めたんだ。
何故かって?
聖女と魔王の血を引く御子の力を使って、神域へと攻め入る為だよ。
神々といえど、強大な聖と魔の力を併せ持つ子供に勝てるかは分からない。
神域崩壊の危機と言っても過言じゃなかったのかもしれないな。
その事を予知夢で告げられた預言者達は、一計を案じたってわけだ。
俺の特性を利用して、事態を打開しようとしたんだよ。
どうしてそんな事を知っているのかって?
宝物庫から持ち出された俺の前で、国の重鎮や賢者や預言者諸々が、顔を突き合わせて語っていたからさ。
で、ほどなくして俺は、聖女と共に魔王へと献上された。
すると魔王軍の大軍勢の中、俺を手にした魔王は高らかに言ったんだ。
「これより我と貴様は婚姻の義を結ぶ」
ああ、こいつも言ってしまったか――と思いながら、俺は冷静に事の成り行きを見守っていた。
「聖魔の力を得た我が子と共に、いずれ必ずや神を討つであろう!」
大歓声が沸き起こる中、魔王は俺の切っ先を空へと向かって突き上げた。
その瞬間、天からの雷が俺を伝って魔王の頭上へと落ちたんだ。
それと同時に、俺は意識を失った。
~~~~~~
『――とまあ、これが俺の生い立ちだ』
長い自分語りを終えた。
「色々と大変だったんですね」
鞘に納められた俺を両手で持った聖女は、結界を張りつつ答える。
ちなみに今は、雷の直撃を受けた俺に回復魔法を掛けてくれている最中だ。
「防御結界」と「剣身の回復」と「思念伝播」を同時にこなすとは、とんでもない女だ。
そもそも俺の思念を受け取れる奴なんて今までいなかった。
聖女は聖女でも、この女は規格外の聖女なんだろう。
△
魔王軍に囲まれた中を、平然と歩いて帰還した聖女は大歓声で迎えられた。
動揺している魔王軍を見るに、どうやら魔王は消滅してしまったようだ。
それから各国は体勢を整えて、弱体化した魔王軍を駆逐していった。
その際には俺も「絶対に折れない聖剣」と呼ばれて活躍していくことになる。
俺の意思を聖女が伝えてくれたことで、所有者も死ななくなったからだ。
『使用者は既婚者に限定してくれ』
それが、俺がどうしても伝えたかったことだ。
今は呪いの魔剣改め聖剣として、騎士団内に仰々しく展示されている。
これはこれで悪くないと思いながら、納得して過ごす毎日だ。
■連載中作品
復讐のカウンター使い ~裏切られ全てを失った男は、最強スキルで断罪して世界最強の王となる~
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