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村娘サリと流れ星の靴下

作者: 松村かれん

 むかし、むかし。ある村にサリという少女がいました。サリは料理を作ることが大好きで小さい頃からの夢はコックさんでした。流れ星が降る夜にはいつも決まって「コックさんになって大好きな料理がいっぱい作れますように。」とお願いしました。やがてサリは大人になり、町へ仕事を探しに行くことになりました。職業志望はもちろんコックです。サリのお母さんはサリの夢が叶うように流れ星の刺繡の入った靴下を作りました。サリはその靴下を履いて町へ行き一件一件レストランをまわりましたが、なかなか仕事は見つかりませんでした。


 やがて夕暮れ時になりました。サリはこのお店が駄目だったら村に帰ろうと思い、『サンセット』というレストランに行きました。すると、

 「コックの仕事をしに来たのかい?」

と声をかけられました。その人はこのお店の店長でした。サリはすぐさま

 「はい!ここで働かせてください!!」

と言いました。するとそれを聞いた店長がこう言いました。

 「今日はお城から王様がこのレストランに来る。しかし、コックが足りなくて困っていた所だったんだ。君が来てくれてありがたい。」

こうしてサリは『サンセット』で働くことになりました。しかも、初日から王様に料理を振る舞うことになったのでサリは夢のような気分でした。王様はサリ達の料理をとても美味しそうに食べました。そして、

 「ここの料理は最高だったよ!」

と言って満足そうに帰って行きました。サリ達はとても喜びました。

 「ありがとう、君のお陰だよ!」

と店長が言ってサリと握手をしました。


 ところが、次の日サリが『サンセット』に行くと店長が顔をしかめて言いました。

 「お前、足元を見せてみろ!」

サリは店長の前に足を出しました。すると、

 「やっぱりな、他のコックから報告があった。お前は靴下が短い。うちは昔から長い靴下と決まっているのだ!しきたりを破った罰としてクビだ!!」

サリは何回も謝りましたが、店長は許してくれませんでした。こうしてサリは『サンセット』を一日で辞めることになりました。サリの家は貧乏なので長い靴下なんて持っていません。その上、注意された靴下はサリのお母さんが心を込めて作ってくれたものということもあり、サリはとても悲しい気持ちになりました。サリはショックでその日から家から一歩も出なくなりました。


 一ヶ月後、サリが住んでいる村に突然王様が来ました。そして、村中響き渡る声でこう言いました。

 「この村に、私に木苺のタルトを作ってくれたコックがいると聞いた!今すぐ私の前に出てきなさい!!」

それを聞いたサリは家から出て王様の所に行きました。

 「君がこの間あのレストランで木苺のタルトを作ってくれたコックか?」

そう王様が聞くと、サリが答えました。

 「はい、そうですが。もしかしてお口に合いませんでしたか?」

すると、王様が言いました。

 「とんでもない!あのタルトは絶品だったよ!!今度お城で色々な国の王が集まる晩餐会がある。その時に君にたくさんのデザートを作って欲しい。ぜひ、うちの城のコックになってくれないか?」

それを聞いたサリは少し暗い顔になりました。

 「でも私は長い靴下も絹の服も持っておりません。こんな私で良いのでしょうか?」

すると、王様がこう言いました。

 「これからは身分も服装も関係なく、実力でその人を判断する時代が来る。服なら城で用意する。そんなことを気にせずに君の本当の意見が聞きたい。」

そして、サリはこう言いました。

 「私は料理を作るのが大好きです。人間が美味しいものを食べて美味しいと感じるのに身分は関係ありません。王様がそうおっしゃってくださるのなら私は各国の王様方のために精一杯デザートを作ります!」

 こうしてサリは、お城へ行くことになりました。道中の馬車の中で王様があの日から今日までの話をしてくれました。『サンセット』で食事をした一週間後に晩餐会をやることが決まったこと、晩餐会のメニューをコック達と考えていた時に木苺のタルトを思い出しすぐさま『サンセット』に向かったこと、店に行くとそれを作ったコックがすでに辞めていて色々な人に聞いてまわってサリの村にたどり着いたこと。サリもこの一ヶ月間の話を王様にしました。そんな話をしているうちにお城に着きました。


 お城に着くとすぐさまサリに絹の服が用意されました。しかし、そこに長い靴下はありませんでした。

 「すみません、靴下は…。」

サリが王様に聞きました。すると、王様はこう答えました。

 「馬車の中で私に話をしてくれただろう。君が今履いている靴下は君にとって大切なものなのであろう。その靴下のままで良い。」

それを聞いたサリはその場で王様に礼を言いました。


 とうとう晩餐会の日になりました。メインの料理は他のコック達が作り、デザートは全部サリが作りました。サリが作るデザートはどれもこの国では家庭的なものばかりでしたが、各国の王様達はたいへん喜びました。晩餐会が終わった日の夜、サリは王様の部屋に呼ばれました。

 「君のお陰で最高な晩餐会になった。そこで、君にこの城のコック達をまとめるコック長になってくれないか?返事はいつでも良い。君の意見を聞かせてくれ。」

王様がそう言うと、サリは答えました。

 「いえいえ、他のコック達と一緒に頑張った結果です。なぜ、私なのですか?」

王様が言いました。

 「うちのコックには家庭料理を作れるものはいない。家庭料理はこのような晩餐会の時に他の国の王達にこの国の伝統文化を伝えることができる。それができるのは君だけなのだ。」

それを聞きサリは答えました。

 「料理を通してこの国の伝統文化を伝えることができるのであれば、私は喜んでこの話を引き受けます。」

こうしてサリはお城のコック長になりました。


 それから月日が流れました。サリは今までの成績が認められ、王様の息子である王子様のお妃になりました。それでもなお、コック長の仕事を続けました。サリ妃の話は国中に広がり、やがて後世に語り継がれました。あの時、小さな村の小さな女の子が流れ星にした願い事は、小さな村に住む小さな子女達の希望の星となりました。


 今私達が身分関係なく実力で勝負ができるのは、この王様やサリのお陰かもしれませんね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったです。 サリの料理が認められてよかったです。 [一言] それまでの宮廷料理人は伝統を軽んじていたようですね。
[一言] サリの頑張りが報われて良かったですね。 そして理解のある王様!
2021/12/18 17:17 退会済み
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