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白呪記  作者: 楽都
9/39

008 守護獣

 ソ―――っと


 バチッッ

「フギャッッ!!」

 バチチッ 

「ギャッ!!」


「駄目か・・・」

「グルル(リオ・・・)」

「ウォン(眠ぃ・・・)」 


 今、宝石が付いた金属に触ろうと奮闘している元人間の理緒でっす!

 さっきからずっとこうやって触れようと試みてるんだけど、ピリマウムとやらの守護魔法に阻まれて連戦連敗中。テメッ、ホントいい加減にしろっての。猫舐めんじゃねーぞ、ゴラァア!!・・・おっと失礼、乙女らしからぬ発言だ。 


 王様とガウラは目をギラつかせた様子の私を見守ってくれている。ディルは・・・眠たそうに欠伸をして伏せている。私もいい加減疲れて来たよ・・・首元に目をやってこの花を取ろうかと考えたけど、レイオンが取らない方が良いって言ってたしなぁ。猫の手じゃ取れんと思うけど。


 フウフウ!と毛を逆立てて、自分の白い毛むくじゃらの手をもう一度近づけようとした時。良い案が浮かんでガウラの元へ駆け寄った。


「ニャ、ニャアァッ(ガウラァッ!)」

「ガルル?(どうしたリオ?)」

「ニャアニャアッ(ガウラがこの金属を付けて、通訳してくれたら良いんだよ!)」

「ガル・・・(出来なくは無いが。分かった、やってみよう)」


 そこで二匹はハタと考える。どうやってまた頭に固定するのか。実はコレ、ガウラは尻尾とか胴に巻き付けて話が出来るか実験されてたりもしたんだけど、結局頭に付けるのが一番良いらしいとのこと。

 自分達の手では心許無い。人間に付けて貰うには言葉を発しなければ伝わらないし。自信は無いが身振り手振りで王様に伝えてみる事にした。


「ニャアッ、ニャアアアッ!!(王様、ガウラに金属を付けてあげてよっ)」

「?」

「ニャアアアッッ(ホラ、コレコレ!!)」


 気合いを入れて金属の横に2本足で立ち、それ目掛けてフンフンフンッ、と何回も指し示す。片手で動かせば良いのに両手で向きを変えてしまうのが悪かったのか、奇怪な動きになってしまった。


「・・・クッ、悪いが踊ってる様にしか見えないな」

「ギャフフンッ(ギャハハハッ、腹が捩れらぁっ!!)」

「・・・・」


 口元を引き攣らせて首を振っている、王様の体が心なしか小刻みに震えているのは気のせいだろうか。傍らに居る翼の生えた黒犬こと、ディルは腹を上にして大爆笑していた。

 ガウラは目に涙を溜めて口元がピクピク動いてる。

 番兵の人は・・・如何したらいいか分からずに目を逸らしていた。身振り手振りで分かって貰おうにも、肝心の金属に触れないのだ。どうしたってこんな動きになるわいっ!! と恨めしげに皆を睨む。


「ニャア・・・(どうしよう、こんな時にレイオンが居てくれたらなぁ。肝心な時に何処行ったんだよもう)」


 使えないとブツブツ言ってるとガウラが問い質して来た。


「!!ガルルル!?(リオ、お前レイオンに会ったのか?)」

「ニャオオン(会ったよ、ハンスともね。ガウラの友達?)」 

「ガルル・・・(そうだな。それに近いモノがあるな)」


 フーンと相槌を打つ。ガウラは懐かし気にしていた。

 ハンスは分かるけど、あのセクハラ獣人と親しいとは・・・どういった経緯で仲良くなったのか今度聞こうっと。ホント、人間何があるか分からない。あっ、違った。今は猫なんだっけ。

 ガウラは何か思いついた様で言うか言うまいか、そんな仕草をしていたが意を決して提案をして来た。


「グルルル(リオ、オレをお前の守護獣にしないか?)」

「ニャ?(ヘッ?)」


 ガウラからのいきなりの提案に目がパチクリ。


「グルル(オレがリオの守護獣になればその頭に付ける金属は必要無くなる。お前は今まで通りだが、オレが言葉を放てるようになってリオの話を通訳出来る)」

「ニャオン(レイオンも言ってた。守護獣はどうした?って。・・・やっぱり居た方がいいのかな?)」

「グルルル(そうだな。守護獣にした獣は主一筋になる。主に付き従う様になるし、命の危険も減るだろう・・・と言ってもリオにはピリマウムがあるがな)」

「ニャアアッ(そんな事っ・・・)」


 そんなの、ガウラの自由を奪うのと一緒じゃないか。折角ココに来て初めて出来た友達だもん。世界の危機を救うとかに巻き込みたくない。断ろうと思ったら・・・


「ガルルル(オレはお前とホンの少ししか居なかったが、ここまで一緒に居た獣は居なかった。リオだけだったんだ。牢に繋がれていたとはいえ、傍に来て沢山喋って笑って、寄り添って眠ってくれたのは。それが心地良かったとさえ思う)」


 貴方の暖かい体温、私も好きだよ。ちょっと硬い毛皮だけど、心地良いのは私も一緒なんだ。

 ガウラは目を細めながら呟く。


「ガルルル(リオがオレの主なら毎日が楽しいだろうな。勿論危険も目白押しだろうが)」

「ニャア・・・(ホントに良いの? 主従関係だなんて。それに命の危険に曝されるかもしれないのに・・・)」

「ガルル(命の危険については何とも言えないが、レイオンからも聞いたろう? 守護獣にした獣は普段の何倍もの力を出すと。そう簡単に殺られるつもりは無い)」

 

 どうやらガウラは覚悟を決めたらしい。でも、これだけは聞いとかないと。

 

「ニャアァ(守護獣になった獣はその反動でなんかのリスク・・・あっ、弊害が伴ったりしないよね? 私、ガウラが傷つくのは嫌だからね!!)」


 白い頭をガウラの体に擦り付ける。不安だ。何故って? 手順も何もかも初めてで、万が一失敗なんかしたりして。臆病な気持ちが私をしり込みさせるんだ。

 私の不安を感じ取ったガウラが、心配無用だと分からせる様に私の体に頬を摺り寄せた。猫になってからこういうスキンシップが気にならなくなったんだよね。することもされるのも好き。うーーん、我ながら積極的になったもんだ!!


「グルル(大丈夫だ。それにリオ、こんな事で悩んでばっかりだと先が思いやられるぞ。なんせ覇者となる者は沢山の獣を従える様にしなくてはならないからな)」

「!!」


 一匹だけじゃないの!?と聞こうとしたけどさあ早く、と促される。でもどうしたら良いのか分からなくてガウラを見上げた。見るとガウラは自らの腕に歯をガリっと突き立てていた。驚愕していると


「グルルル(リオ、オレの血を舐めてくれないか)」

「ニャ!ニャアア!?(エエエェ!!)」


 止め処なく赤い血が流れている腕を見て怯んでしまう。恐る恐る近づき、とりあえずペロッと少しだけ舐める。口の中に苦い鉄の味が広がるが一生懸命耐えた。


「(ううううううっっ!!!)」

「グル・・・(血液にも魔力が宿るんだ。軽く見てはいけない。リオ、自分の名を使って宣誓して欲しい。オレを認める言葉を使え。そうすればリオに仕える守護獣となる)」

「ニュァアアッ(うううっ)」

「グルルル(この方法は誰でも出来る事じゃ無い、普通の人間にはまず無理なんだ。なんせ魔力を大量に使うから、かろうじて獣を守護獣にしても体に魔力が残っていないと死んでしまう・・・だからそこに居る国王は別格だな)」


 チラリと視線を王様に移し、その横に居るディルを眺める。人間に使役され、恩恵に与った黒犬はピッタリと王様に寄り添い守るように佇んでいる。


 別格クラスの王様と一緒にされたら私は死んじゃうんじゃないかな?

 体中の血液が沸騰するんじゃないかと言う位熱く、体を駆け巡る感覚に吐き気を感じ、蹲る。

 目が掠れてきた。意識も朦朧としたんだけどガウラの、私の名を呼ぶ声に応えたい思いでこれを乗り切ろうと何故か不思議に思えた。

 

「ニャア、ニャア・・・(り、理緒の名に於いて命ずる。ガウラを・・・)」 


 友人でもある若き獅子に神様、女神様、仏様どうか力を貸して下さい!!


「!!ウオォン!(始まったか!)」

「カイナを取り巻く光の柱??覇者殿・・・その獅子を守護獣に!?」

「な、これが守護獣を任命する儀式!?は、初めて見た・・・」


 ハシュバット王の横で撫でられ気持ち良く眠っていた黒犬、ディルはすぐさま跳び起きる。2匹の獣の様子を見ていたハシュバット王と番兵は、いきなり上がった光の柱に目を剥いた。


 神聖な儀式を他者に妨害されないかのように、ガウラと理緒を光の柱が包み込む。

 部屋一杯に光が溢れ、7色の魔力がほとばしる。膨大な光の海と色にハシュバットは息を呑む。自らもディルを使役するのだ。勿論7色の粒子の意味を、この場の誰よりも知っている。


 赤は炎、橙は土、緑は風、水色は水


 黄は光、黒は闇、そして白は―――


 全ての属性を操る純白の猫は、間違い無く誰もが望んだ覇者だった。

 

 ――地上に生きる全ての人を守れるくらい。闇に打ち勝てるくらいの守護獣に!


「ニャオオオンン!!!(ガウラを覇者の守護獣に任命する!!)」


 ドンッッと建物を光が貫いた――――




ようやくリオが覇者だと認識する様になりました。

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