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白呪記  作者: 楽都
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029 ソルトス・アルガ・デルモント

 一日の終わりを告げる鐘の音が鳴っても、霧は晴れたがデルモントには朝陽が昇らない。

 それでも朝露はしっかりと土に染み込み、植物や森に栄養をもたらす。

 紺色の海は、剥き出した水色の群晶クラスターによって浅瀬を浄化し、魔物達の喉を潤す。

 鳥のさえずりの代わりに、コカトリスの鳴き声がデルモントと、紫鉱城ラドギールに響き渡った。


「ゴギャアッ、ゴギャアアアアッ(デルモントの朝が来た〜〜、希望の闇だ♪)」

「おい」 

 

 目覚まし時計よりもタチの悪い、騒音並みの歌だ。聴覚が優れた獣なんかだと、鬱になるかもしれない。

 丸い体をさらに丸くして、毛むくじゃらの手で両耳をペタリと塞ぐ。


「ゴギャア、アァァァ〜〜!!(喜〜びに胸を広げ、魔族を崇め〜♪)」

「いい加減起きろ」

 

 ゴゲッ、ゴゲッ、ゴゲゴッゴ〜〜♪


「ウニャア・・・(眠いし、うるさいぃ・・・)」


 誰かに鼻をつつかれ、頬を引っ張られ、眉間のしわをグリグリ弄られる。

 根負けして眠い瞼を開けると、見た事のない男の人がベッドに腰掛けていた。金髪に、尖った耳と紫色の瞳。全身青色の服と紺色のマントを着ている、見た目二十代の男の人だ。


「飯だ。床にお前のご飯、テーブルの上に男が食べれる朝食を置いておく。食べると良い」

「ニャ、ニャアア?(あの、貴方は?)」

「ソ「リオッ」」


 私の声を聞き、目を覚ましたガウラが勢い良く起き上がり腕を伸ばしてくる。腕の中に閉じ込められ、匂い付けとキスを何度もしてきた。それから真剣な瞳で問い質してくる。


「リオ、ベッドの上に知らない男を連れ込んで、浮気をしてるんじゃないよな?」

「ニャ、ニャアアッ(そんな訳ないでしょ! 朝から何トンチンカンな事言ってんの!! ガウラのバカッ)」


 ベッドの上にある枕を口で咥え、ガウラの顔に力を込めて投げてやった。当たった本人は、あまり痛がっていないくせに眉間にしわを寄せて唸っている。もしや何か別の事を考えてる?


「リオ、とんちんかんとは何だ・・・? 」 

「ニャアアアッ!(見当違いな物言いの事! つじつまが合わない事だよっ!)」


 ガウラは昨日、私と一緒にベッドで休んでいたじゃないか!

 いつ他の男を連れ込む時間があった!? 腹が立って背を向けても、長い腕に抱き上げられていつもの定位置に納められる。


「凄い執着だな。お前達を見てると、ユキハル達を思い出す」

「ニャ?(ユキハル?)」

「リオ、誰の名前か知らないが別の男の名前を呼ぶな。そしてお前、リオに馴れ馴れしく触るな」


 男の人は私に近づき、頬を餅のように伸ばす。それを見たガウラは、彼の腕を振り払って威嚇した。

 今日も朝から絶好調の、ガウラからの激しい求愛を他人に見られながら“ユキハル”について聞いてみる。


「お前と同じ、異世界から来た異質の存在だ。純白の色を纏った猫で、守護獣の狼と大鷲と蛇を引き連れ、紫鉱城ラドギールにやって来た事がある」

「この城に? デルモントがファインシャートにあった時の話をしているのか」

「そうだ」 


 それより先は沈黙を貫かれた。納得できなかったが、とりあえず彼の名前を教えて貰う事に。

 金髪に、紫色の瞳の彼が魔王さんの息子、ソルトス王子だった。カッコイイ顔と、魔王さんとは間逆の髪の色は、きっとお母さん譲りなんだろう。上下青色の服と紺色のマントは、海を連想する。――おおっ、もしかして。


「ニャア!(塩にちなんだ名前が付いてるんだね。・・・塩王子かぁ)」


 塩ラーメン♪と歌ったらガウラはまた聞いてきた。王子さまもこれには即反応する。

「・・・本当に、ユキハルに似てる」


 “ユキハル”についてあまり教えてくれない塩・・・ソルトス王子。

 私とガウラに用事があるみたいで、ご飯を食べるまで待ってもらった。籠の中を見ると、縦に割れたコッペパンの中に肉とコーン、魚の燻製を詰め込んである。取り外し可能なでかい貝柱の中には、トロリとしたクリームスープが注ぎ込まれ、木のスプーンで飲みやすい様になっている。私はというと・・・


「ニャアア(寝起きにコレを食べろと?)」


 マグロ並みの大きさの魚の活け造り。

 頭をぶつ切りにして、尻尾までの間に赤身を綺麗に並べてくれてある。せっかく用意してくれたので、少しだけ食べてミルクを飲ませて貰った。

 暫く窓の付近に立って、静かに外を眺めている王子さまは何を思い出しているんだろう。



 *****


 白い扉を出て、三人で二階から紫水晶の階段を下る。

 一番下の階層にある謁見の間に着くと、魔王さんが既に玉座に座って私達を待っていた。今日は黒を基調とした、銀色の肩当てとマントを付けている。その顔はニヤニヤして嫌な感じだ。


「おう! 二人とも良く寝てたの。お前達の部屋用に作ったピンク色の部屋の寝心地はどうだったかの?」

「最高だ。部屋に風呂場も付いてるし、共に背中の流しあいも出来たしな。二人で寝るベッドは広いし、激しく運動するには最適の広さと強度、弾力だった。後はリオがその気になってくれれば、言う事なしなんだが・・・」

「ニャ、ニャアアッ(ガ〜ウ〜ラ〜!!!)」


 下世話な話をする熊の魔王め!

 そういえば、昨日は柔らかいワタを使ったスポンジでガウラの背中を洗ってやった。いつも私ばっかり洗ってもらってばかりで、悪いと思ってたんだ。気合いを入れれば、私でも二本の足で立てるから洗えるもんね。


 私の健気な姿を見たガウラは、感動したとばかりに思ってたのに思い違いだった。何故なら、背中を洗い終わった後、前も洗って欲しいとお願いして来たからだ。・・・はっ、恥ずかしくてそのお願いは却下したんだけど。

 ベッドの上では、いつに無く密着してきて暑苦しいし。・・・おかしな夢まで見たしね。


 ―― ん、夢?


 ズキッ

(「エリ・・・エリしゅ・・・?」) 


 ズキッ

(「リオ、思い出したの?」)

 

 ―― 何の夢を見たっけ? 


 ズキンッ

(「エ、エリーちゃん・・・」)


(「帰りたくない・・・皆の事、忘れたくないよぉ・・・」)


(「リオちゃんの世界はここじゃない。大切な人が待ってる世界へ戻ってあげて・・・?」) 


「・・・」

「リオ?」


 ガウラの腕の中で暴れていた私が、いきなり動きを止めたから心配になって背中を擦ってくれた。

 断片的にしか出てこない映像は、もう私の脳裏には浮かんではこなかった。落ち込み沈んだ私の姿を見て、熊魔王さんは話を切り出す。


「おっと、この話はまた後ほどにしようかの。ソルトスはリオとガウラを何処へ連れて行こうとしたのかの?」 

「ルビリアナの屋敷へ連れて行こうかと思った。ファインシャートにはいつ頃行けばいいのか、その打ち合わせも兼ねてだ」


 ソルトス王子の話を聞き終わった熊魔王さんは、眉を顰め、顎ひげを触りながら喋りにくそうに顔を渋める。少し唸って喋り出した。


「今日はルビリアナの屋敷へは行かない方が良い。ソルトス、お前は分からないかの?」

「何故だ。ルビリアナは怪我など負ってはいなかった。それに早くファインシャートに行かないと、ハーティスとゼルの命が危ない」


 苛立ちながら話すソルトス王子を見て、大きく溜息を吐いた熊魔王さん。納得のいかない様子で、今にも熊魔王さんに突っかかりそうだ。ルビリアナさんの所へ行けない理由が分からない、私達三人に言いだす。 


「ソルトスが急かすと思って、飛竜の奴に偵察に行かせて正解だったわい。今はルビリアナとバフォメットは情事の真っ最中だ。無粋な事はしちゃいかんだろう。あれでもクロウ家の当主だ。体力も他の中級魔族よりはあるが、回復と睡眠の時間を見積もれば後一日はかかるがの。・・・それともソルトス、お前それを承知であいつの屋敷へ赴くのか?」 

「!」


 顔を引き締めた熊魔王さんに、ソルトス王子は顔を赤くして行かない事を告げる。

 ・・・バフォちゃんはルビリアナさんが好きだと思ってたけど、ルビリアナさんも好きだったの!? 信じられないという私とガウラの顔を見て、熊魔王さんの口の端が上がった。


「ルビリアナは既にバフォメットを自分の伴侶と認めておるぞ。将来は奴の子供を産みたいとまで言っておったわい」

「バフォメットを? 女の基準は分からない・・・」 

「ニャ、ニャアアッ(ヒャアアッ、ルビリアナさん大胆!)」

「オレも。リオを沢山愛して満足させて、オレの子供を五十匹以上は産ませたい」

「!!」


 ・・・ライオンにそっくりな、ミニサイズのガウラが五十匹?


「グワーーッハッハッ!!! カ、カイナの状態でなら、純白の猫と交わる事は出来るかもな!


 ぶ・・・っ、リオ殿、相当体力を付けといた方がいいぞ! グワッハッハッハッ!」 

 紫色の瞳から涙を出してまで激しく笑う様子に、空中に浮かんだ紫鉱城ラドギールも激しく全体が震動する。

 ガウラに抱き上げられたままの私は、覚束ない両手でわたわたと魔王さんに向って上下に振りだした。


「フギャ、アア、ア―――(ガウラに、余計な事、言わない、で―――!!)」

「リオ・・・今から寝室にまた行こうか。毎日の積み重ねが体力の増量に繋がると思うんだ。勿論リオは初めてだと思うし、優しくする」


 熊魔王さんの言葉に、目を見開き放心状態のソルトス王子。私はガウラからの愛の言葉と、産ませたいと思う子供の数に思いっきり目を剥いた。五十匹って、一つの村が出来そうだね。寝室に連れて行こうとするガウラのお腹に、猫パンチの連打を繰り出した。


(――あ、頭イタイ)


 女の子が人を好きになる基準・・・

 こればっかりは人それぞれ千差万別だし、一概には特にコレと胸を張って言えないし。

 女の子のハートを射止めるには、容姿はさることながら、中身も大切だ。現代の世界なら、お金や名声に目が眩む子もいるだろう。バフォちゃんを好きになるには、何か特別な理由があったハズ。今度ルビリアナさんに聞けたら良いなぁ。


リオが見たおかしな夢は、白呪記とは別の“ロマンシング獣記”の映像が流れています。最終話まで行っていないのに書いてしまった・・・少し無理があったかもしれませんね。これ以上は向こうの話を出さない様にはします。多分。


【補足の補足】

本編の続きを出せないのに、リオとガウラでR18を一つ作ってしまいました。番外編ですが勿論ここには載せれないので、ノクターンにあります; 表立って紹介は出来ませぬ。恥ずかしいので

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