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白呪記  作者: 楽都
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002 猫で始まる物語

やっと異世界来ました。

 おい、異世界の覇者とやらがやって来たぞ


 ん、本当だ。今度の覇者は小っこくて幼いし女だ。大丈夫かな


 力が強くなくては我らを導くのは無理無きこと。主に相応しくないのでは? 


 力とは我らを行使する力のことか?それとも心の強さか?

 一方だけが強くても、全てを備えていなければ我らを動かせぬ


 先だっての覇者は我ら全てを従える事が叶わなかった。

 あれだけ力が強くてもだ。こんな小娘にアレに勝る力があるとは思えぬが


 人間は脆い。だがしかし、生きる為に抗う力は我らを統べる力に変わる。信じてもいいのでは?

  

 ・・・エリシュマイルが選んだ覇者だ。この娘に賭けてみてもいいだろう


 ・・・俺もいいぜ。正し、俺達が認めればな。でなければ範疇外だ

 

(何?ウルサイ・・・)


 お、そろそろ意識が戻る頃だ。暫くは様子を見るとしようか――


 そうだな。では、またの機会に・・・




 





 

 







 

 誰かの喋り声で目が覚めた。でも、周りには誰も居ない。


 ・・・何だか随分と長い夢を見ていた気がする。

 今までのは夢だったのか? 不思議な女の人や、夢うつつの時に聴こえた複数の声は――? 考えても答えなんか出ない。落ち着かなきゃ。ところでここはどこだろう?


 暗いが一つの窓がある。

 そこから陽の光が微かに降り注いでいた。部屋の中が見えないこともないので目を凝らしてみる。

 

 色取り取りの怪しい薬が入っているビンやら、様々な形の頭骸骨が棚の所に整頓されている。剥製にされている猿やら鳥やら見た事が無い動物に、カエルに似た生物の内臓開き、リアルである人間の人体模型。

 

 何かの実験室を彷彿とさせる暗い部屋に背筋が凍る。

 目線を下げると、茶色い石畳の上に魔法陣らしき白い文字が描かれている。何だろう?と魔法陣の円を辿っていると、自分が円の内側に入っているのだ。

  

 サーーっと顔に縦線が入る。もしかして、自分は何かの宗教に巻き込まれたのでは?

 それでこんな怪しい部屋に閉じ込められてたりして。身代金を要求されても大層なお金なんか家には無い。そんなの御免だ。


 外に出ようと部屋を見回したら、隅に錆びついたドアがあった。近付いて背を伸ばしてガチャッと・・・


(ひ、捻れん!!しかも届かない・・・)

 

 おかしい。ドアノブに手が付けられない。自分はこんなに背は低くなかったのに。

 息切れしながらジャンプをしようかと迷った時フと気が付く。勢いよく自分の手を見て驚愕してしまった。


「ミ、ミ、ミギャアーーーー???!!!(は、は、はあーーーー???!!!)」 


 自分の手がニャンコの手だ。触り心地の良さげな肉球付きで。


「ニャ、ニャアア!!」


 な、何だコレ。新手のイタズラか。っていうか笑いの域を超えちゃってるよ。誰が笑うんだよ。笑った奴はコロス。


 悶々と一人ツッコミしながら物騒な事を考え始めた。笑えない冗談に涙目になりかけた時、ドアの外から複数の人の声が聞こえる。思わず後ずさって身構えると、体中の毛が逆立った。


「この召喚の間に覇者様が来たというのは真ですか?」 

「ええ、プロテカの巫女が覇者の気を感知しました。間違い無いようです」

「そうですか。では、覇者様を迎え入れなくては―――」

 

 ギィィィ、と錆びついたドアが開かれて三人入ってきた。

 一人は襟元がタートルネック風で、肩がふんわりと膨らみクリーム色のワンピースを着ている。シンプルだが腰に細いピンクのリボンを巻付けて、奥ゆかしさと、可愛らしさ両方を引き立てている。鷲色の髪をして、頭の上に小さい団子を作って残った毛を下ろしている。瞳は翡翠の色・・・が、外国人? 小顔な上に大きな宝石の様な瞳。お人形さんみたい。

 

「姫、お下がり下さい。ライ、頼む」

 

 女の子を守るように鞘から剣を抜いて出て来たのは銀髪の男の人?

着ているのは・・・服と言うより鎧って言えばしっくりくる。タートルネックの上に、鳥の絵を模した銀色の鎧を身に纏ってる。

 ・・・ブッ!!な、な、剣から雷が出てるっ!!

 バチバチッと放電して、西洋の剣版、スタンガンか何か??!


「・・・地を照らし出せ、アースホール!」


 後から部屋の中に入って言葉を放った人は、簡素な革の鎧を着た金髪の男の人。何かを呟くと手からパァッと光が溢れ、部屋の中全体が更に明るくなった。ナニアレ、手品?


「何処にも居ないけど・・・ん?」


 げっ、金髪の人と目が合った。

 ちょっ、ちょっと、こっち見ないでよ。私は関係無いよ?


「どうしたライウッド、覇者殿はいたか?」 

「・・・いや、多分違うと思うんだけど」 


 手にしたスタンガンみたいな剣を鞘に戻し入れ、コッチに近づいて来た。私は空気です。置物です。猫です・・・ダメ?

 

「猫が居ました」

「まあっ」

「なっ、何処から入った。此処は厳重にしてあるはずだぞ」


 手の平の上にある光を頭上近く上げると金髪の男の人、ライウッドさんに抱き上げられた。

 

「よしよし」と言われ大人しくされるがままになる。

 空色の瞳と目が合い、何かを見定められてるみたい。逸らす事も出来ずどうしたもんかとジーッと上から下まで見つめられる事10秒、私の首元に意識が移ったみたいだ。

 

「これは「ライウッド、そんな猫より覇者殿を探せ」・・・イールヴァ、この花を見てくれ」


 イールヴァという銀髪の騎士が私に近づいてくると、ライウッドさんは私の首をもぞもぞ触ってきた。く、くすぐったい。

 身じろぎしてニャアッと鳴く。

 ライウッドはさんは一瞬目を細めて笑ったがすぐに冷静な顔をしていた。

 

「こ、これは!女神にしか咲かせない奇跡の花ピリマウムか?本物?何故こんな猫が貴重な花を持ってるんだ?」 

「ニャ・・・(知らないよ)」


 顔をプイッと逸らすと銀髪の男の人にジロッと睨まれた。

 何だか悪い事をしたみたいで居心地悪い。ていうか、この世界では女神さまが普通に存在するのか。さっきの言い方はいかにもなんだけど・・・

 いきなりの責め口調に落ち込むと、ライさん(省略しちゃった)は私の頭を軽く撫でてくれた。私が落ち込んだ事が分かったんだろうか?


「イールヴァ、猫に当たってもしょうがないだろう。問題はこの猫が覇者殿かどうかじゃないのかい?僕としてはこの猫で間違いないと思うよ。それに猫が身につけてるピリマウムは本物で、この花にはありとあらゆる守護の魔法がかけられてるから・・・」


 ライさんは私の体を優しくさする。

 

「火であぶろうが鞭で打とうが、その力で弾かれると言うことか」


 銀髪の騎士が腕を組みフンと鼻で息をする。ライさんは呆れながら私に視線を移した。


「イル、白い猫に拷問は出来ない。それにこの猫は女神エリシュマイルの加護を得ている。30年ぶりに来た、異世界の覇者殿だ―――」

「こいつが??」

 

“異世界”  “女神”  “エリシュマイル”


 最後の“エリシュマイル”の単語は、さっき女の人が名乗った名前? うそ・・・あの人はホントに女神さまだったの??


 信じられない気持とは裏腹に、火あぶりに鞭打ちという拷問の話を思い出した。

 とりあえず沢山の疑問を置いといて、いい加減離せ!と、喋れないので眉間に皺寄せてウウゥゥ・・・と唸ってみる。私の反抗的な態度を目にした銀髪の騎士は(イルさんでいいや)鼻でフンとあしらい、額にデコピンかましやがった。

 

ピンッ


「フギャッ(イデェッ!)」

「何睨んでんだ、猫のくせに」

「ブッ!イル、頼むから猫に当たらないでくれ」


 ライさんは笑いながら私のおでこを優しく撫でた。

 クッ、私が何したってのよ。暴力反対!!

 

 その時、彼らの後ろに居たお譲さま風の女の子が倒れた音がした。この状況についていけなかったみたいで気絶しちゃったのかな。倒れたいのはコッチなんだけどな。

 ・・・しょうがないか。期待されてやって来たのは偉人でも鉄人でもない、唯の猫だもんね。 お母さん、お父さん、お兄ちゃんズ、私、猫になっちゃったよ―――



二人がお姫様に注意が向いてる時に、私はそろりと暗い部屋を飛び出した。






 

 



金髪の騎士:ライウッド・カーナリウム

銀髪の騎士:イールヴァ・ホンバーツ



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