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白呪記  作者: 楽都
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025 旅は道連れ、世は情け―4―

 牢獄の中は、新たな人物の登場により戸惑いを隠せない状況に陥っていた。

 ガウラを閉じ込めた商人が単身“絶魔の牢獄”まで乗り込み、手土産という人の体の一部分を持ち込んで、挙句に自らの顔の皮を剥いで変身まで遂げたからだ。


 紫の瞳と長く尖った耳、血でベッタリと付着した手と顔を除けば、どこにでも居る女の人だと疑う事は無い。いや、誰も彼女の“変装”を見破る事なんか出来なかった。イルさんの変装を見破るエヴァディスさんや、この国の王様さえ、彼女の奇行に目を見開き絶句している顔がそれを裏付ける証拠だ。


 先程商人スタイルだった、ストライプの柄模様の服を雑に脱ぎ捨てて言い捲る。


「はああっ・・・肩凝るわ、蒸せるわで、ホント散々っ!変装するにしても相手を選ばなきゃ駄目よねぇ。おっさんの服は臭いし汚いし、気が遠くなりそう・・・」


 次は可愛い女の子に変装したいと呟きながら、持参した布で両手の血液を拭く。

 自らの凝り固まった肩を拳で軽く叩く当たり、どうしても凄惨な凶行を行った女の人には見えない。

 見掛けはフリージアちゃんより少し上くらいかな?と思うんだけど。牢獄内が静まった事により、魔族のお姉さんは姿勢を正して私達に微笑んだ。


「あっ、商人の時は確か自己紹介してなかったよね。では、改めて・・・」

 

 コホンと咳払いして次に口を開きかけた時、プラチナの切っ先が音も無く彼女を捉える。エヴァディスさんの威嚇を物ともしない態度で、真っ直ぐ前を見て一言。


「私の名前はルビリアナ・レット・クロウと申します。そこの牢屋に入っている、ハーティス・レット・クロウ、長髪愚弟の姉で御座います。以後、お見知り置きを――」

「うげぇっ、ルビ姉が何でここに・・・!!」

「全く。・・・愚弟だなどと、姉上はっ!」


 うろたえるゼルさんと、手を顔に当て押し黙るハーティスさんを見て、口元に手を当てながらオホホと淑やかに笑いだす魔族のお姉さん。私は二人を見比べて、また一癖二癖ある人物が出て来たなと思わずにはいられなかった。



 ******


 商人改め、ルビリアナさんの登場で私達獣と三人の人間、二人の魔族は一斉に彼女に質問攻めしていた。それを予想していた彼女は沢山の質問を鬱陶しがる事もなく、丁寧に対処していく。


「まず、お前が商人に成り変わった人物はどうした?」

「ポネリーアに入る前に殺しちゃった」


 二人の魔族の内の一人、ハーティスさんのお姉さんと言う事で、休戦を宣告した王様が尋問する事に。

 勿論二人の魔族も同様に頷き、その休戦を受け入れたと見える。牢屋からは出ないままで、彼らも座って話を聞く事になった。

 ガウラとライさんは、恨みの籠った目で彼女を睨みつけ、渋々ながら大人しくする事をエヴァディスさんに約束させられた。それから彼女への質疑応答を始める。


「ファインシャートで“覇者の降臨”のお祭りがあるって聞いて、デルモントから遥々(はるばる)急いで異空間飛んで来たの! でもポネリーアには結界張ってあるでしょ? だから殺っても良さそうな人間に目星付けて、背後から襲っちゃった☆」


 てへへっ、と悪びれも無く王様の問いに答えるルビリアナさん。腰に括りつけた部分から、菱形の突起が特徴の重そうなメイスを取り出して、片手に持ち肩を軽快に叩いている。

 私が人間の時に重宝してたのは木製の孫の手だ。重量のある金属を軽々と扱う彼女はやっぱり人間じゃ無い。



「“魔石”を用いた催しもお前が企てた事なのか?」

「そうね。成り変ったのは港町に入る前だったしぃー、まぁ“カイナ”の彼には悪い事しちゃったわ。本当は催しなんてする必要も無かったんだものね。でも私が行わない事には、折角の変装も不審がられちゃうでしょ?」


 牢屋の中から王様が彼女に尋問して、一つ一つ答えを確かめている。冷たい床に座りながら、私達は彼女の話を聞いて行く。悪びれも無い彼女に対し、ガウラの地の底から這うような声が響いた。

 

「お前が“魔石”を作らなければ、オレは王宮に閉じ込められる事も無かったし、仲間をディッセント国に襲撃させる危険も無かったんだ」

「“魔石”の存在が在る無しに関わらず、遅かれ早かれ貴方は本物の商人によって王宮に閉じ込められてたわ。足を怪我したカイナを間近で見れるのは貴重だとね。――私はそれを利用しただけよ」


 ガウラの問いに素早く切り返した紫の瞳に、よどみが見える。

 腰まである黒い髪を耳の下で二つに括り、その色とは間逆の上下白い服を着た紫色の瞳のルビリアナさん。背にある黒い翼をはためかせ、太腿までのキュロットからスマートな脚を組み一言。


「私は元々人間は嫌いだし。貴方を連れ戻しにカイナ達がこの国を襲撃すれば、人間を無差別に殺戮出来るとも思ったわ。・・・もっとも、それは全て失敗に終わったけどね」


 チラリとこっちを見る魔族のお姉さんに、私は背筋が寒くなりガウラにしがみ付く。すると吐き気を抑えたライさんが口を開き、抑揚のない声で喋り出す。


「ウルド・・・牢番の兵士を殺さなくても良かったんじゃないか? あいつの体をバラしてお土産だなんて、あんたの神経を疑うね・・・」


 その言葉を聞き、ルビリアナさんの紫の瞳は一層澱みを深くして、ライさんを睨み返す。近付いて彼の顎を掴み上げ、間近で捲し立てた。


「そうかしら?戦死した敵国の兵士、王族の首や死体を曝し者にして、城壁に飾ったりする人間共の神経とは如何ほどかしら? 略奪や女を慰み物にする、人とも思わないその行為に私達魔族と人間の違いって奴を、ぜひ貴方の持論とやらで説明して欲しいのだけど?」

 

 ここでの世界でも、見せしめに曝す行為があると言う事を、お姉さんは淡々と喋る。

 反対に言葉で言い負かされたライさんは、それ以上何も云わずに黙り込む。話し終えたお姉さんは手を離して、満足気に壁にもたれた。

 心無い狂戦士によって国や領土を奪われた敗者の末路とは、彼女が言う通りなんだ。ぐうの音も出ないライさんは、悔しそうに床をただ見つめるだけだった・・・


 一通り話を終わらせ、タイミングを見計らったゼルさんが我慢出来ずに文句を垂れた。鉄の棒を握りしめ、今にも聞きたそうにうずうずしている。


「こっちに来るってのを、何で俺達にまで内緒にするんだよ? わざわざ変装までして、ルビ姉は何か目的でもあったのか?」

「ゼル、姉上を調子付けてはいけな「よくぞ聞いてくれたわねっ」・・・ブフッ!!」


 ルビリアナさんが持って来た、どす黒く変色した袋から片手で軽々掴み上げる。勢い良く投げられた斧の柄がハーティスさんの顔に直撃して、彼は会話を強制終了させられた。


「“パンナロット”を使役する事ができ、尚且つ獣達を屈服する事が出来る“異世界の覇者”を、是非デルモントへ連れて帰ろうと思ってね!うん、これが目的なのよ」

「ニャニャ!!(ええっ、ここで私かよ!!)」

「リオはオレのだ。リオが行くならオレも行く」


 それ迄、ガウラに優しく背を撫でられて少しウトウトしていた矢先、なんと矛先がこちらに向いて来た。ちょっと、何でこのお姉さんは無茶な事を言うのかな?


「さっきからもう我慢出来なかったのよっ。毛並みの良い白い毛、クリクリのつぶらな瞳、左右に動くシッポ、柔らかそうな体・・・おっと、言い出したら切りがないわね」


 ジュルリと涎を流すルビリアナさん。な、なんか獣の本能が逃げろと訴えてくるのはナゼ?ブルブル震えだすと、ガウラが一言。


「リオとの愛の巣を造る為の家を用意できるのか? それが第一条件だ」

「勿論あるわっ!こっちはデルモントのお城に住み込める許可を取ってあるもの!朝昼晩の三食付きに水浴び場でだってヤリタイ放題だし、それに“覇者限定、デルモント永久フリーパス”だって強奪したんだから、損はさせないわ!!」


“ヤリタイ放題”に過剰反応するガウラ。卑猥な意味は無い・・・と信じたい。

 強奪・・・一体誰が犠牲になったんだろう? お姉さんは凄いよ、ガウラと一緒になって打ち所のない会話で緻密に計算してるんだから。二人で暴走してどうすんの? フリーパスって・・・遊園地じゃないんだから。突っ込み所満載だよ。



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