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白呪記  作者: 楽都
25/39

024 旅は道連れ、世は情け―3―

残酷な表現があります。苦手な人は読まないで下さい。


 体は至って無傷、全身黒色で統一した服だけがボロボロの状態の王様。

 唐突に提案した“殺り合い”について、随分と自分達に分が悪いと解釈した二人の魔族は顔を歪めて憤る。

 エヴァディスさんを含めた私達は牢屋の外で、彼ら三人の攻防を身動き出来ずに眺める事しか出来なかった。


「俺達をこんな所に閉じ込めて、何企んでんだっ」


 ギンッッ!


「企む? 考えた事など無いが、まず殺す前に聞かなくてはならない事があったな。私とした事が、すっかり失念していた」


 先手を取り、赤い瞳の魔族ゼルカナンダは手にした二本のナイフで斬り掛かる。

 軌道を視界に留めている王様は、やはり難なく剣で弾いている。手に持つブロードソードで大きく横に振り払い、後ろに引かせるとその隙を付いて、一気に壁際まで追い込んだ。 


 ギンギンギンッ!!


「クッ!」 


 ガキッ!!


「剣技に関しては私の方が一枚上手の様だな。もうお終いか?」

「確かにゼルは押されてますね、ですがここには私もいるのです。忘れて貰っては困りますね」


 壁に追い込み身動きできない状態まで追い込んだが、ゼルカナンダと対峙している王様の背後にハーティスが立ち、手に持つロッドを王様の肩越しに突き付けた。「バチッ」と音がするかと思うと、素早く二人の魔族から離れる。


「チッ、後少しだったのに・・・!」

「追い込まれていたのはどこのどなたです? ゼルはもうちょっと頭を使った攻撃を覚えてください。馬鹿の一つ覚えじゃあるまいし」

「ばっ、馬鹿じゃねーよっ!」


 ハーティスの嫌味にも取れる台詞せりふを吐き出した後、王様は喋り出す。


「世界共通語の“ハヌマ語”を話す事が出来る翻訳機能、あれはお前達魔族の持つ魔力を凝縮して詰め込んだ“魔石”だ。最近ファインシャートに持ち込んだか聞きたいのだが?」

「“魔石”ぃ?そんなん知るわけ「“魔石”は私達が作る事は確かに出来ますが、貴方の言う石については私達の存外知らぬ事です」・・・ハーティスッ!」


 紅い瞳のゼルカナンダの話を遮り、変わりに答えた黒髪の長髪ハーティスは何も知らないと豪語する。紫の瞳に真実を語るかを判断した王様は眉を顰め、質問を続けた。


「では、港町ポネリーアを襲った、同格の上級魔族はお前達だけなのか。何らかの方法で町に侵入し、魔術師を殺め結界を解除した魔族はお前達二人の内のどちらだ?」 

「・・・」

「どうした、何故答えない」


 この質問に対して、二人の魔族は答えを渋った。ハーティスは何かを考え、逆にゼルカナンダはその答えに戸惑いを持つ。


「ハーティス、お前は何かを知っているんじゃないのか? 俺達の他にも魔族が居るって・・・」


 紅い瞳を見開きながら、隣に居る白い貴族風のシャツを中に着て、黒いロングコートを纏った魔族を見る。ゼルカナンダの疑問に、ハーティスは忌々しげに口を開いた。


「私達の他にも、この国に潜入した魔族が居ると言う事ですね。しかも、独自で暗躍しているみたいですが・・・おかしいとは思ったんですよ。この国の結界をさあ壊そうと行動に移す時、既に魔術師は事切れ、結界は解除された後だったんですから」

「なっ、どこかオカシイとは思わなかったのかよ!」

「おかしいとは言いましたよ?でもゼルは微塵にも取らなかったじゃないですか。確か『ラッキーだったな!』で済ませましたよね?」

「ぐっ・・・!」


 気付いていたならもっと詳しく教えて欲しかったと、友でもあるハーティスに文句を述べて不貞腐れる。

 知らなかった事実を他人なんかに、しかも人間に教えられるなんて、自分の馬鹿さ加減に拍車を掛けたも同然だ。


「何であれ、国の結界を壊す手間が省け、楽に潜入出来たんです。この混乱に乗じて中に入ってしまえばいいかと思ったんですよ」

「・・・罠だったらどうすんだよっ」

 

 チッと舌打ちするゼルカナンダをなだめ、それにと続けるハーティスに、


「たとえ我らに歯向かう上級魔族だろうと、力でねじ伏せれば良いだけですからね」



「――そんな事無理ですよ?」


 ハーティスの“ねじ伏せる”宣言を、思い気り否定する声がここに居る全ての者の耳に届く。牢屋の外側、牢獄の入口方面から静かに、しかしハッキリと響き渡る声が聴こえる。 

 

 カツカツと、軽やかな足取りで近付いて来たのは・・・


「お前――!!」

「ニャ、ニャアアッ(あっ、貴方は!)」

「ガウラ殿、リオ殿、こ奴を知っておられるのか?」


 エヴァディスさん、ライさんが私達の前に来てそれぞれ剣を抜き、切っ先を人に向ける。剣を向けられた人物は、それでも足を進める事を止めない。


 ガウラの琥珀色の瞳が限界まで見開く。

 私を抱く力は何時もよりか力強い。

 手の平には汗が噴き出ていた。

 

「王族・貴族の皆様、ご機嫌麗しゅう御座います。今宵のパーティに私が参加できる事、大変に恐縮の思いです」


 笑顔を貼り付け、こちら側を視界に留めるその姿。

 道化を装い、媚びへつらう表情の人物に私とガウラ、ハンスは目を疑った。


「ニャ、ニャアア(あの時の、商人さん――?)」


 彼を、ガウラを傷付けるのはもう止めて。

  


 ********


 王様が居る牢屋の中では依然と緊迫した状態が続く中、鉄の棒で隔てたこちら側では、新たな直面に瀕していた。

 怪我したガウラを牢屋に閉じ込め、宴と言う場所で彼を笑い物にし、カイナの群れから離した事で、ディッセント国を危機に乏しめた張本人が今ここにいるからである。

 グルル・・・と唸るガウラは、琥珀の瞳に烈火を灯し、今にも跳びかからんばかりだ。


「ニャア、ニャアアッ(ガウラ、お願いだから心を静めて・・・)」

「!・・・リオ、済まない。お前が止めてくれなかったら、今頃奴に突っ掛かっていた」


 有難うと頬にキスされ、背を撫でられる。照れていると、エヴァディスさんとライさんがコホンと咳払い。・・・もう少しでいつものガウラの愛の告白が始まる所だった。周りに居る二人もその事を知って、KY<空気読めない>ガウラに釘を刺してくれたんだろう。示し合わされた行動にガウラも舌打ちしていた。


 すると異様な事態を察知した王様が、剣を手に握ったまま商人風の男の人に尋ねた。


「お前を警備していた牢番の兵士は如何どうした?」

「ええ、皆様にお土産をと思いまして、こんなの御用意させて頂きました。気に入ってくれると嬉しいです!」


 どうぞと袋の中から取り出したのは、生暖かい鮮血がポタポタ流れ落ちる、人間の腕だった―――


「ニャッ!(ヒャァッ!)」

「リオ、見るな!」

「お前、何て事を・・・!」

 

 ガウラの胸に抱き込まれるようにして視界を遮られる。

 ライさんは剣を持つ反対の手で吐き気を抑え、エヴァディスさんは更に警戒心を強める。金の瞳に映るヒトの腕。じゃあ、持ち主は――?


「あれ、気に入ってくれませんでした?じゃあこれなら如何いかがです?」

 

 白色の袋は完全にどす黒く変色し、入口から床に、紅い染みを点々と続かせている。

 気に入られなかったと判断した、“ヒトの腕”を悪ぶれも無く袋にポイッと戻す。 

 片手で持つにはいささか不便だと思ったのか、床にドスッと落とし、今度は両手で“ある物”をヨイショとすくい上げた。


「どうぞ、お気に召して頂けました?」

「・・・!!」 

「!!グゥッッ」

「ウルド・・・?貴様が殺したのか・・・」


 漂う臭気と悲惨な状態に、遂に耐え切れなくなったライさんは、隅に移動して吐き出した。

 エヴァディスさんは、“ウルド”という兵士の名前を出して、剣を持つ手に力を入れる。

 首から上を鋭利な刃物で、戸惑いも無く切り落とされた人間の生首――。少し時間が経っているのか、顔色は青白く変色している。それを覗き見た二人の魔族は、感心していた。


「ヒュウ〜、やるね。俺もあれくらい頑張んなきゃな!!」

「ゼル、我らがアレのどこを真似る必要があるのです? あれ位朝飯前じゃないですか」


 二人の会話を耳にした王様は、焦げ茶の瞳を険しくさせて黙らせる。この異様な事態に、牢屋の中では一時休戦したみたいだ。


「あれ・・・、これもお気に召さない? でも大丈夫です。私の“とっておき”は、まだありますからね!」


 すくっと立ち上がり、大量の血液の付いた両手で自分の顔をベリベリ剥がし出す。グチャッと精巧な作りの顔の皮が全部剥がれ落ちた時、目の前には知らない人物。


「どうです、お気に召して頂けましたか?これが今日一番の“とっておき”なんですよ!」


 黒い髪を二つに括り、可愛く首を傾ける紫の瞳のお姉さんが立っていた――




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