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白呪記  作者: 楽都
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022 旅は道連れ、世は情け―1―

 ガウラ、灰色ネズミのハンス、そして猫の私は食料保存庫でもある彼のネグラを、音を立てずに出る事にした。

 昨日の魔族襲来で、家を失った者の為の貴重な食糧でもあるから兵士が目を光らせているらしい。ここで大きな音を立てると見つかりかねないからと、私達に教えてくれた。


 暗闇の中を、静かに動いて階段を駆け上がるなんて目が鮮明に見えないと出来ない動作だ。

 ハンスは自分のネグラだけあって慣れた動作で駆け上がり、私はと言うと、いつも通りガウラに抱き上げられて厨房の裏口を目指す。


「ニャアア、ニャア?(ねぇハンス、貴方が言う“絶魔の牢獄”は地下にあるって言ってたけど、そっちの地下にはどう行けばいいの?)」

「チュウ、チュウウ!!(フフンッ、よくぞ聞いてくれた!このとっておきの情報は、オイラしか知らないんだぞっ!!)」

「ハンス、お前しか知らないって、普段は目に見えない場所にでもあるのか?」

「チュウウウッ!(意表を突く場所にあるんだ。普通の人間には絶対分からないさ!)」


 裏口を抜け、王宮の中へ入る為に正面の建物に沿って歩き出す。ある程度歩くと、ハンスはガウラのズボンのポケットに隠れ出した。

 正面玄関に当たる重厚な扉に槍を持った二人の兵士が立っているのだが、勿論普通に通して貰った。彼等は私が居る事を認めると、間を開けて道を譲ってくれたのである。


「ニャア、ニャア!(見張り御苦労さまでっす!)」

 

 口を引き締め毛むくじゃらの右手を頭の上に、ビシッと勇ましく敬礼のポーズを取る。兵士の彼らにも敬わなければっ。


「「?」」

「見張り御苦労だと言っている」

「いえっ、それが私達の仕事ですから。あっ、そうだ、今から何処へ向かわれるのですか?」

「・・・謁見の間にでも行って、国王に会おうかと思っているが」


 ガウラは咄嗟に思い付いたらしい。

“絶魔の牢獄”へ行くと言えば、きっと怪しまれると思ったのだろう。


「今は国王陛下は居られません。この王宮からは出られてないですし、自室でお休みかと思うのですが・・・それと、エヴァディス宰相から言伝を伺っています。お休みになるのでしたら、客間を使ってくれて構わないと言っておられました」

「・・・そうか、わかった。有り難く使わせて貰う」


 客間の場所を聞き、一旦その場所を離れる。

 ランプで照らされた廊下を通り、兵士の彼らから見えない突き当たりの廊下に来るとハンスがポケットから顔を上げ出した。 


「・・・チュ、チュウ(うーーん・・・どうしよう。“絶魔の牢獄”へ行くには、謁見の間に行かなくちゃ駄目なんだよな)」


 あーでもこーでもナイと唸りながら喋り出すハンスに、私とガウラは眉間に皺を寄せて聞き返した。


「ニャ、ニャアア?(ハンス、どうして謁見の間なんかに牢獄があるの?)」

「チュ、チュウッ(言ったろ、誰の目にも触れられず、且つ意表を付く場所にあるって)」

「“牢獄”と名の付く場所にあるのだから、オレが元居た場所の近くに在るのかと思ったのだが」 


 小声で喋る私達は、一見すると怪しい人物に違いない。

 これ以上騒ぐと後で王様に何言われるか分かったもんじゃ無いと、諦めていたその時。


「アレ?こんな所でガウラは何をやってるの?」

「「「!!」」」


 そんな怪しい獣三匹に、声を掛ける能天気な声が聞こえた。

 近衛騎士のライウッドさんだ。腰に剣を括り付けたまま、欠伸をしながら近付いて来た。

 閃いた私達は後ろを向き、素早く顔を見合わせ頷いてから作戦を立てる。


「別に・・・あっと、そうだ。リオが“謁見の間”を見た事が無いと言っているので、今見たいと言っている。ぜひお前に案内して欲しいのだが?」

「ええっ、こんな夜更けにかい? 駄目だよ。もう陛下との謁見時間は過ぎちゃってるし、案内すると僕が怒られるじゃないか」

「ニャ、ニャアアッ(そこを何とか!!お願いライさん)」


 ガウラは手に持った私をライさんの顔にズイッと近付ける。


 猫である私の魅力溢れる姿をトクと見よ! 

 渋りまくるガウラからも了承を得た事だし、“悪女”のスキルをいかんなく発動!

 私は潤んだ瞳でお強請りし、頬ずりして最後の仕上げとばかりにペロリと鼻を舐め上げた。いつもよりかは二割増可愛く見える筈なんだけど、やっぱり効果があるのは守護獣ガウラだけかな? 固唾を呑んで待っていると・・・


「〜〜〜っ、分かったよ!その代わり、中を覗いたら絶対直ぐに出るんだよ。良いね?」

「ニャアアアッ(ありがとう、ライさん!)」 


“ザ・ライさん牢獄道連れ獣旅”スタート!!



 *****


 四人で来た道を戻り、玄関から見た正面通路の突き当りにある謁見の間まで辿り着く。

 閉じられた華美な両開きの扉の前に、屈強な兵士が二人立っていた。


「ちょっと謁見の間に入らせて貰っていいかな?」


 入ろうとするライさんに、槍を持った二人の兵士は咄嗟に交差させて道を塞ぐ。

 警備は万全みたいだ。何の計画も立てず、真っ直ぐこっちへ来なくて良かった。


「ライウッド殿の頼みでも、今この時間に通らせるのは如何なものかと・・・」

「ちょっと確認するだけで良いんだ。・・・エヴァディス宰相の許しも得てるし」

「うっ、」

「エヴァディス宰相の・・・?」


 それを聞いた兵士の二人は宰相さんの名前を聞き、たじろいでいた。

 案の定二人顔を見合わせ、それなら問題無いと私達を含めた4人を奥へ通らせてくれたのだ。彼からの了承を得たと言う証拠も無いのに信用するなんて、エヴァディスさんは部下にとって、きっと怖い存在なんだろう。


 ゴゴゴゴ・・・


 両開きの扉を開くと、少し照明を押さえたオレンジ色の光が百畳はある部屋の中を照らし出している。天井からシャラリとした綺麗な飾り具が左右垂らされ、床には赤い絨毯が玉座まで敷かれていて崇高さが表れている。


「で、ここで何があるんだい?」


 流石にライさんも疑い深くなって来た。謁見の間で何か事が起きれば、間違い無く自分に責が起こると解釈しだしたんだろう。能天気はそのままでいれば良いのに!!


「ハンス、いい加減出てきて説明しろ」

「チュ、チュウウッ(本当は入口に入った後出てくる予定だったんだけど、しょうがないか)」

 

 プハッと深く息を吐いて、ガウラのズボンのポケットから出て来た灰色ネズミのハンスに、ギョッっと驚き目を見開くライさん。


「な、な、何で鼠がいるんだ?」

「チュウウッ(まぁまぁ、固い事言いっこ無しで、これから道中宜しくっ♪)」

「名前はハンスだ。これから道中宜しく頼むと言っている。因みにオレとリオの友達だ」

「ニャアアアッ(そう言う事なんです。ライさん、猫共々宜しくね!)」


 ポケットに居るハンスと顔を見合わせ、「ネーッ♪」とそれぞれ一鳴き。

 気が遠くなりそうな顔をしたライさんは、「エヴァディス宰相の名を使ってしまったし、これがバレたら減給か降格される・・・」とブツブツ呟いていた。ゴメンネ、ライさん!!



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