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白呪記  作者: 楽都
20/39

019 ポネリーアを救え! ―6―

 

 ス〜リス〜リ


「・・・」


 ス〜リス〜リ


「ニャアアッ(ガ、ガウラァ・・・あの、皆困ってるよ)」


 ス〜リス〜リ


「(ダメだこりゃ・・・)」


 ティムと別れた後、二人の騎士の人に連れて来られてやっとガウラ達と再会できた。

 真昼を過ぎた中央広場には先程の大量の人の波は無く、穏やかなものだった。

 私を安全にここまで連れて来てくれたお礼を述べようと、二人の騎士に自己紹介をしたかったのだけど、真っ先に伸びて来た手がそれを遮ってしまった。ガウラ曰く「オスの匂いがこびり付いている」らしい・・・さっき迄メタボ猫と格闘してたもんね。


 体中の匂いを嗅がれて眉間に皺を寄せた後、胸に抱き込まれ今に至ると言う事だ。そういうわけで今、彼の匂いを私の体に擦り付けて至福の時を過ごしているガウラがいる。その惚けてニヤつく顔はお世辞にも端正な顔とは言い難い。


「二人とも忙しいのに時間を割いてくれて悪かった、この礼は後に返そう」 

「いえっ、構いません! 我らはあの通りを職務に則って警備していただけですから」 

「その通りです。気になさらないで下さい」


 姿勢を正しエヴァディスさんに報告する二人は、ここに着いた時に他の兵士に私が見つかった事を伝えて貰ったのだ。暫くしてこの場所に集まったフリージアちゃんと、イルさんライさんを見て驚いていた。


 でもガウラは勿論、エヴァディスさんを除いた変装したままの彼らを見破るなんて・・・侮れない。ライさんの友人のルートビッヒさんなんて、フリージアちゃんは兎も角、同僚のイルさんを見抜けなかったのに。彼らの変装はまだまだという事だろうか?


「ニャアアア(この人達は一体・・・?)」 


 食い入る様に見つめる私の仕草に、気付いたエヴァディスさんは彼らを紹介してくれた。


「リオ殿、この男は騎士団所属の隊長ケネルだ。そして横に居る女性は同じく騎士団所属の副隊長で紅一点でもあるノキア」

「よろしく、リオ殿」 

「同じく、これからもよろしくお願いする」

「ニャア、ニャア!(リオでっす!猫ですけどよろしくお願いします!!)」


 二人の騎士さんは友好的に挨拶してくれた。

 ガウラが通訳してくれないから、ケネルさんの服に跳び乗り、しがみ付いて猫語で挨拶したんだ。優しく抱き上げられて、私の好きにさせてくれる。

 ガウラよりも背が高い・・・? この中では身長が一番高いんじゃないだろうか。瞳に映る見事なブルネットの短髪・・・とは言っても、ツンツンしたその髪に触れようとしたらガウラに腕を引っ込まれた。


「リオは俺のなんだ。色目を使うな」 

「フニャ、フギャアアッ(ガウラッ、酷いよ! 通訳してくれないし喋らせてくれないし・・・誰も色目なんか使ってないもんっ!!)」

「違う、奴だ。ケネルと言う奴。きっとリオを救って安心させて、その後モノにするつもりなんだ」


 ・・・ねぇガウラ、私が居ない間何があったの? 誇大妄想に素晴らしく磨きが掛かってるじゃないか! ガウラを言葉巧みに操る王様はここに居ないし、手に負えないよっ。もう!!


「・・・ケネルとノキアが居る事だし、私は一旦王宮へ帰還する」 


 ガウラのKY<空気読めない>発言にシーンと場が静まるが、王様と違って突っ込みを入れないエヴァディスさんは、私とガウラのやり取りを無視して会話を再開。むむっ、そうか、エヴァディスさんは私達よりも一日早くこの町に来てたんだっけ。この人の事だから、不眠不休してそうだな。


「フリージア姫、貴女はどう致しますか?」

「・・・一旦私も帰ろうかと思います」

「ではイル、ライ、お前達も姫の護衛に付いて来い」

「「はいっ!!」」


 疲れ切った様子のフリージアちゃんと別れを惜しみ、また王宮で会おうねとライさんに手を振って別れた。イルさんはいつもと変わらぬ態度で、別れの挨拶もせずにポネリーアを後にする。




 ****

 

 ディッセント国の海にオレンジ色の夕陽が照り出される頃――残った私とガウラ、それと自己紹介したケネルさんとノキアさんは一緒に早速ルイ君の所へと向かう。

 南方面の救護テントは音も無く静かな状態だったけど、私が体を張って(ここ重要!)アニマルセラピーをした中央広場では元気ハツラツな民が多かった。


「ニャアアッ(ルイくーーん!!)」

「あっ、リオ!!」


 左目を怪我した少年、ルイ君。起き上がる事が困難だった彼は、なんと床に普通に座っていたのである。ちょっ、私が居ない間にどうしてこんなに元気になってるんだ? 

 隣を見ると全身包帯まみれの男性が屈伸運動をしている・・・とても死に間際だったとは思えない。包帯の隙間から不意に目が合うと、ニヤリと微笑まれたので「ニャッ!!」と跳び上がり、ルイ君にしがみ付く。


「ビックリしたでしょ?左目はまだ包帯が取れないけど、急に元気になったんだ。歩けるようにもなったんだよ」 

「ニャア!(へぇ、良かったね!)」

「皆も不思議に思ってるよ。ヤケドした所が痛くなくなったり、痒みが嘘のように消えたって!ボクはきっとリオのお陰だって思ってる。・・・本当にありがと、リオ」

「ニャ、ニャア(体を張った甲斐があって良かったよ・・・)」


 アニマルセラピーが効いたのかと、遠い目をして頷いた。

 疲れた体にムチ打った風景が、走馬灯のように眼に浮かぶ。けれど、痛みや痒みの不快感を拭ったのは私のカからでは無いような気がするのだが。


「リオ、ティムの事を伝えないのか」

「ニャ!(そうだった。ガウラ、通訳よろしくね!!)」 


 ガウラに促され、今まで黒ブチ猫のティムと一緒だった事を説明する。彼に守る存在が出来た事、今度は彼が親のいないチビ猫達に愛情を教えると意気込んでいた事等、一言も漏らさず喋り出す。


「あのティムがそんな事を言ったの? もう、ボクよりも大きくなったんだね・・・」


 右目から大粒の涙を流して呟いた。ルイ君にとってのティムは、弟であり友達でもあったはず。かけがえのない家族だったのだ。でも同じ猫仲間として、ティムを笑顔で応援してあげて欲しい。


「ニャアアッ!!(ティムはルイ君の傍に居るのが居心地が良いって言ってたよ。小さいけど、俺の誇れるご主人だって!!)」

 

 精一杯喋ってガウラに通訳してもらう。顔を上げたルイ君は泣きながら笑っていた。

 もう安心だ。黒ブチ猫ティムも、少年ルイ君も未来に向かって前進出来ると信じてる。擦り寄り慰めると、ギュッと抱き込まれ静かに涙を流していた―――










 テントから出た私達はルイ君とルートビッヒさんに別れを告げ、西方面、先程ウミネコのオネーサンと出会った波止場まで来ていた。薄紫の夕焼けが辺りを染め上げ幻想的にさせている。打ち上げる波の静かな音と、ウミドリの鳴く声が辺りに響き渡る。


「リオ殿、ディッセントの国民を代表して、心から礼を言わせて欲しい」 


 騎士団の隊長ケネルさん、副隊長ノキアさんは面と向かって私にありがとうと言ってくれた。ガウラに抱き上げられた状態の私としては、直ちに姿勢を正して受け入れたいのだが、ガッチリと抱き込まれた腕が抜け出すのを許さない。そのままの状態で喋る事にした。


「ニャア、ニャアアッ(良いんです。私にも出来る事と言ったら、皆を勇気付ける事しか出来ないですから)」

「・・・リオは勇気付ける事しか出来ないと言っている。そんな事無いのにな」


 ガウラが二人の騎士に通訳してくれる。でも、心なしか少し元気が無いみたいだ。


「貴方のお陰で国民の心は救われる事だと思う。我々騎士は住居や食糧の提供は出来ても、塞がらない心の隙間には何も埋める事等出来はしないからな」 

「今なら陛下のおっしゃった意味が分かる気がする。リオ殿、良ければこのままポネリーアに、いや、王宮に居られてはいかがか?」


 ――ニャンと!これは嬉しいお誘い?!


「ノキア、いきなりリオ殿に話しを持ち掛けても、彼女が困惑するだけだろう」

「ですが隊長、彼女を他の国へ移住させられると、今困るのはこのディッセント国です」

「―――だそうだ。リオはどうする? オレとしては、リオとの愛の巣が出来ればどこでも良いから、リオが決めてくれて構わない」


 ・・・当然猫である自分は野良確定だと思っていたのだ。

 根無し草な上にガウラと一緒に居れば、彼に負担を掛けてしまうかもしれない。だからこの申し出には喜んだ――が。


「ニャ、ニャアアッ(王様にも聞いていい?)」

「・・・国王に訊ねても良いかと聞いている」

「勿論です。陛下も喜ぶと思いますが、でも良いんですか?」

「ニャアッ、ニャアア(王様から良い返事を貰ったら、この国に住んでみたい! 良いよね?ガウラッ)」


 むくれたガウラに上目使いで訴える。

 王様とガウラ、あんまり仲がヨロシクナイからな。ガウラからの了承を得る為にオンナの武器を使って、攻めて攻めて攻めるべし! おねだり攻撃だ!!

 

 普段恥ずかしくて封印していたのだが、ここぞとばかりにガウラの頬や唇にキスをする。・・・ディルに“悪女”という聞こえが悪い称号まで頂いたのだ。こんな時に使わずしていつ使う!! と、惚けたガウラの口の中に舌をチョンッと入れると、巧みに絡みついて来た。(ギャーー!やり過ぎた!!) 

 

 たっぷり舌を絡めた後、泣きながらもう止めてと懇願したら止めてくれた。

 腰が砕けてフラフラだ・・・案の定、ガウラは上機嫌で王様の所へと行く事に賛成してくれたのだ。この必殺技は身を削る・・・滅多な事ではもう使わないと固く心に決めた。


 その濡れ場(?)を見た二人の騎士は一瞬ポカンとして、ノキアさんの顔が赤くなっていたのを、この場に居る皆は見逃さなかった。












ディッセント王国騎士団隊長  ケネル

ディッセント王国騎士団副隊長 ノキア


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


名前:リオ

称号:異世界の覇者 悪女

リオの必殺技:おねだり攻撃 効果 キスやら舌で異性を翻弄。喰らった相手は大ダメージ

リオの涙 効果 喰らった相手の動きを封じる

 

※注意※ この技は今の所守護獣ガウラにしか効きません。

使った後、自分の身がどうなるのか分からない諸刃の攻撃。

        

          



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